JP3910020B2 - 人工括約筋 - Google Patents

Description

【０００１】
【発明の属する技術分野】
本発明は、肛門の括約筋を摘出した場合や括約筋の機能が低下した場合などに使用する人工括約筋に関するものである。
【０００２】
【従来の技術】
従来、小児直腸肛門奇形で、肛門の括約筋の発達が不完全な場合や、成人での大腸癌などにより、括約筋を摘出した場合に、人工肛門が使用されている。
【０００３】
従来の人工肛門としては、生体の体表面に腸が開口するように縫い付けその腸開口部をパウチ（ｐｏｕｃｈ）と呼ばれる人工肛門で覆うように体表面に張るものが一般的である。
【０００４】
市販されているパウチは、いずれも排便に合わせてパウチの交換もしくはパウチの一部交換が必要であり、また臭いの漏れなどの問題のため、日常生活や社会生活を煩雑なものにしているという欠点がある。
【０００５】
パウチを交換する必要のない人工肛門としてストッパを備えたものが知られている。これは前記腸の開口部を覆うフランジにＴ字型の蓋を嵌め込むものであるが、やはり排便の都度、蓋を取り外し、再び取り付ける操作が必要で不便をきたしている。また、蓋と開口部の隙間から便やガスが漏れ出るおそれがある。
【０００６】
また、パウチ法の欠点を解決するために、特開平4-319349号公報では、生体の体表面に開口する腸開口部の周囲に、低温時にはこの腸開口部を閉じ、加熱時は腸開口部を開く腸開閉部として形状記憶合金（ＳＭＡ）リングを設けるとともに、この形状記憶合金（ＳＭＡ）リングを加熱する加熱用電源を設けたものである。加熱用電源はポリサルフォン等の生体親和性のよいケースによって覆われており、内部には小型電池と押しスイッチが設けられている。
【０００７】
このようにして、体内に埋め込んだ小型電池により通電加熱し、形状記憶合金を変形させて腸の開閉を行うものである。
【０００８】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、ここで使用されている形状記憶合金（ＳＭＡ）リングは局部的に歪みが大きく、繰り返し特性が劣化し、繰り返し形状変化することが難しい。また、体表面の腸の開口部という狭い範囲に形状記憶合金を埋め込んだ場合、腸に局所的に力がかかるため、その部分に損傷が与えられるおそれもある。
【０００９】
また、加熱用電源は皮膚と筋層の間に埋め込まれたものであり、小型電池が消耗した場合の交換等が面倒である。特に、加熱用電源である小型電池と押しスイッチはリード線を介して形状記憶合金（ＳＭＡ）リングに接続するものであり、その設置場所もある程度限定されてしまう。さらに、リード線はある程度の長さが必要とされ、この部分に沿っての感染のおそれもある。
【００１０】
そこで、体外の電源から導線を通して体内に電力を伝送することも考えられるが、体外に貫通した電極部からの感染症が懸念される。
【００１１】
本発明の目的は前記従来例の不都合を解消し、皮膚に導線を貫通させることなく電力供給を行い、そのため感染のおそれから免れることができる人工括約筋を提供することにある。
【００１２】
【課題を解決するための手段】
本発明は前記目的を達成するため、第１に、形状記憶合金による開閉部と、温度制御ヒーターとからなる人工括約筋であり、前記開閉部は二枚の形状記憶合金板と、二枚の形状記憶合金板の両端のそれぞれを相互に連結した蝶番とを有し、温度制御ヒーターには、電源に接続される側のコイルを一次コイルとし、温度制御ヒーターに接続される側のコイルを二次コイルとした経皮的電力伝送システムにより電力を供給することを要旨とするものである。
【００１３】
第２に、形状記憶合金による開閉部は、生体の肛門或いは体外に誘導した腸の一部を任意に開閉すること、第３に、生体内の尿道の一部を任意に開閉すること、第４に、二枚の形状記憶合金板は、内側または外側もしくは内側および外側に断熱緩衝部材を添設すること、第５に、二枚の形状記憶合金板は、生体適合性のある物質で包装することを要旨とするものである。
【００１４】
第６に、一次及び二次コイルは平面渦巻き構造であること、第７に、一次及び二次コイルはアモルファス磁性線を装着した平面渦巻き構造であること、第８に、一次コイルは予め建築物等に固定的に設置すること、第９に、一次コイルと二次コイルの両コイルを生体内に埋め込むこと、第１０に、蝶番はポリカーボネート、ハイドロキシアパタイトの内の一種、もしくは金属材からなる蝶番の表面にチタン、ハイドロキシアパタイトの内の一種がコーティングされているものであることを要旨とするものである。
【００１５】
請求項１記載の本発明によれば、低温時は開閉部が閉じて腸等を閉塞しているが、経皮的電力伝送システムにより開閉部に電力が供給されると、開閉部が加熱され開き、人工肛門より排便される。
【００１６】
さらに、請求項１記載の本発明によれば、前記作用に加えて、形状記憶合金による開閉部は、両端を蝶番により連結する二枚の形状記憶合金板からなることで、従来のＳＭＡアクチュエータにおいて不可欠であったバイアスばねの機構がなく、構造的に簡単である。
【００１７】
請求項２および請求項３記載の本発明によれば、本発明の人工括約筋の用途場所の可能性を示すものであり、生体の肛門或いは体外に誘導した腸の一部を任意に開閉することや、生体内の尿道の一部を任意に開閉することができる。
【００１８】
請求項４記載の本発明によれば、内側または外側もしくは内側および外側に断熱緩衝部材を添設することで、生体に対する断熱・緩衝を実現でき、請求項５記載の本発明によれば、生体適合性のある物質で包装することで、周囲の組織への影響を与えないように配慮することができる。
【００１９】
請求項６記載の本発明によれば、コイルは平面渦巻き構造であるので、偏平なものとして場所を取らないですみ、請求項７記載の本発明によれば、アモルファス磁性線を装着することで、強力な磁力が得られる。
【００２０】
請求項８記載の本発明によれば、一次コイルを携帯する煩わしさがなくなり、
万が一、一次コイルを無くしてしまい、すぐ、代わりのものが手に入らないような事態の場合でも対処できる。また、請求項９記載の本発明によれば、一次コイルに接続する電源は電池が好適であり、二次コイルや形状記憶合金による開閉部が全身麻酔の必要な部位に設置する場合でも、この一次コイルは局所麻酔で交換できる部位に埋め込むことが可能となる。また、請求項１０記載の発明によれば、前記蝶番は、ポリカーボネート、ハイドロキシアパタイトの内の一種を用いることで、加熱に強く変形しない性質で生体適合性の良いものとなり、さらに、金属材である蝶番の表面にチタン、ハイドロキシアパタイトの内の一種をコーティングすることにより、生体適合性を高めることが可能となる。
【００２１】
【発明の実施の形態】
以下、図面について本発明の実施の形態を詳細に説明する。図１は本発明の人工括約筋の１実施形態を示す説明図で、形状記憶合金による開閉部１と、温度制御ヒーター２とからなり、温度制御ヒーター２には電源に接続される側のコイルを一次コイル３とし、負荷に接続される側のコイルを二次コイル４とした経皮的電力伝送システム１１により電力を供給する。
【００２２】
先に、形状記憶合金による開閉部１から説明すると、図２〜図４に示すように、開閉部１は、温度変化によって可逆的に相対向する形状に変化する一対の形状記憶合金素子として二枚の形状記憶合金板５と、二枚の形状記憶合金板５の端部（両端）を、回転自由度を持たせて相互に連結する筒状の蝶番６とからなる。
【００２３】
これら形状記憶合金板５を構成する形状記憶合金（ＳＭＡ）としては、一般的には厚さ0.5 〜2.0 ｍｍ、長さ10〜120 ｍｍ、幅5 〜30ｍｍのTi-50.4at ％Ni合板の板材に２方向形状記憶特性を付与したものなどが用いられる。
【００２４】
ここで、２方向形状記憶板となる形状記憶合金には、TiNi合金に限定されず、
第３元素添加のTiNiX 合金（X=Cr、V 、Cu、Fe、Coなど）が考えられ、更に、Cu系、Fe系などの多種の形状記憶合金でも良い。
【００２５】
一例として、形状記憶合金板５は寸法は幅18.5ｍｍ、長さ70ｍｍ、板厚0.5 ｍｍの板材（Ti-51at%Ni合金板）であり、２方向性形状記憶特性を持たすため、を700 ℃で30分の溶体化熱処理を行い、R40 ｍｍの曲率で拘束を行い、400 ℃で100 時間時効処理を行った。これを40℃で加熱すると400 ℃×100 時間の時効熱処理時の形状に回復し、体温に冷却されると逆方向の反り返るように変形する。
【００２６】
このようにして得られた２方向形状記憶合金板５を二つ用意して、腸開口部付近において、２方向形状記憶板それぞれ、互いに内側が時効熱処理時の拘束方向になるように、蝶番６の部分で円筒状に連結することによって、人工括約筋としての開閉部１が構成される。
【００２７】
前記温度制御ヒーター２は、形状記憶合金板５の外側に貼り付けられている。温度制御ヒーター２の表面には、組織への断熱性と生体適合性を得るため、医療用フェルト（Bard PTFE Felt：（株）メディコン）を２枚重ね合わせ貼り付けた。
【００２８】
また、消化管である腸８との接触部である内側にはスポンジゴム７を配し、断熱および緩衝部材として機能させた。スポンジゴム７の表面には、医療用シリコーン（SILASTIC MDX4-4210：東レダウシリコーンアジア（株））を塗布し生体適合性と断熱性を高めた。
【００２９】
さらに、形状記憶合金板５は、周囲の組織へ影響を与えないために、生体適合性が良く断熱性の高い断熱物質１６で蓋うことができる。この断熱物質１６としてはコルク、フェルト、ポリウレタン、シリコーン膜、MPC ポリマー膜などが挙げられる。
【００３０】
蝶番６は、回転筒６ａとピン６ｂと止輪６ｃからなるが、この蝶番６の材質には、加熱に強く変形しない性質で生体適合性の良いものとして、ポリカーボネート、ハイドロキシアパタイトなどを用いることができる。また、金属材の蝶番６の表面にチタンやハイドロキシアパタイトなどをコーティングして生体適合性を高め、蝶番として用いても良い。
【００３１】
温度制御ヒーター２への加熱のための電力供給は、経皮的電力伝送システム１１を用いるが、電源に接続される一次コイル３や負荷（温度制御ヒーター２側）に接続される二次コイル４は、巻線部分が直径0.1 ｍｍの銅線を複数本束ねて拠り合わせたLitz線を平面渦巻き状に巻いた構造である。
【００３２】
さらに、一次コイル３や二次コイル４はこのような平面渦巻き構造に加えて、
磁性体部分として、直径数10μｍ程度のCo系零磁歪アモルファス磁性線を放射状に配置した構造であり、平面渦巻き状のコイル表面の片側にのみ装着される。
【００３３】
コイルの片側に装着された磁性線が、両コイルの巻き線部分をはさむようにして２つのコイル、一次コイル３や二次コイル４が配置され、両コイル間の電磁誘導作用により非接触的に電力が伝送される。
【００３４】
経皮的電力伝送の際には、一次コイル３が生体皮膚９上に、それとほぼ平行同軸的に二次コイル４が皮下に配置され、体外から体内へ電力が供給される。
【００３５】
なお、人工括約筋を作用させる対象を、腸８から尿道に替えることも可能である。この場合は形状記憶合板５の形状や時効処理条件および蝶番６の形状を適当に変えるとよい。
【００３６】
また、一次コイル３はこれを予めトイレ等の建築物等に固定的に設置することも考えられる。トイレとしては、自宅や会社、病院、学校などで、本発明の人工括約筋を埋め込んだ患者がよく使うものが選択できる。このように一次コイル３を固定的に設置することで、一次コイル３を携帯する煩わしさがなくなり、万が一、一次コイル３を無くしてしまい、すぐ、代わりのものが手に入らないような事態の場合でも対処できる。
【００３７】
さらに、他の実施形態として、一次コイル３と二次コイル４の両コイルを生体内に埋め込むことも可能である。この場合は、一次コイル３に接続する電源は電池が好適であり、二次コイル４や形状記憶合金による開閉部１が全身麻酔の必要な部位に設置する場合でも、この一次コイル３は局所麻酔で交換できる部位に埋め込むことが可能となる。
【００３８】
次に、本発明の効果を試すための実験結果について説明する。
【００３９】
〔実験例１〕
（１）経皮的電力伝送システムとして、アモルファス磁性線を装着した伝送コイルを作製した。巻線には直径0.1 ｍｍの銅線を束ねたLitz線を用いた。コイル形状は、放熱性に優れたドーナツ状の形状とし、直径20μｍのCo系零磁歪アモルファス磁性線をそれぞれのコイルに3000本ずつ、放射状に装着した。磁性線は、それぞれのコイルの片側のみ装着され、装着されていない方のコイル面を互いに向かい合わせて電力伝送が行われる。
【００４０】
（２）家兎（雄、体重3kg ）を用い、麻酔後、右胸部皮下に経皮的電力伝送システムの二次コイルを埋め込んだ。
【００４１】
〔実験例２〕
（１）体内埋め込み型人工括約筋として、二枚の形状記憶合金板５を重ね合わせて配置し、両端を結合したものを作製した。形状記憶合金板５は850 ℃で10分間熱処理を行ったあと、直径50ｍｍの円弧状で拘束を行い、400 ℃で100 時間時効処理を行ったTi-51at%Ni合金板であり、全方位形状記憶効果を有する。寸法は幅18.5ｍｍ、長さ70ｍｍ、板厚0.5 ｍｍであった。消化管はこの二枚の形状記憶合金板５の間に装着される。形状記憶合金板５と消化管との接触部にはスポンジゴムを配し、断熱および緩衝材として機能させた。スポンジゴム表面には、医療用シリコーン（SILASTIC MDX4-4210：東レダウシリコーンアジア（株））を塗布した。
【００４２】
（２）形状記憶合金板５の外側には、加熱のために温度制御ヒーター２を貼り付けた。温度制御ヒーター２の表面には、組織への断熱性と生体適合性を得るため、医療用フェルト（BardPTFE Felt：（株）メディコン）を２枚重ね合わせ貼り付けた。
【００４３】
（３）作製された人工括約筋の生体実験を行った。実験には、消化器系の機構が人のそれと類似しており、消化管の大きさが人体のものと同じである子豚１２を用いた。図５に示すように子豚１２には全身麻酔をした後、腹部を切開して直腸部を切断し、その直腸部の片側を、腹膜を経て腹壁に導き、縫い付け人工肛門１３を増設した。図中１７は温度測定装置である。
【００４４】
本発明の人工括約筋である形状記憶合による開閉部１は、この人工肛門３の直下の腹膜と腹壁間に装着した。最後に、切開部を完全に縫合した。
【００４５】
（４）電流は、電力供給装置１４で体外からコード１５を用いて人工括約筋である形状記憶合金による開閉部１の二枚の形状記憶合金板５のそれぞれに貼り付けられている温度制御ヒーター２へ供給した。一日３回、人工括約筋に電流を供給して人工括約筋を開放し、人工肛門１３からの排便を行った。
【００４６】
（５）子豚は人工括約筋装着から２週間後まで、通常の摂食および排便が見られた。
【００４７】
（６）２週間目に子豚の解剖を行い、観察を行った。人工括約筋に電流を供給するためのコード１５に沿って膿の付着が顕著に認められた。これは、コード１５に沿って体外から感染したものと考えられる。
【００４８】
【発明の効果】
以上述べたように本発明の人工括約筋は、チューブや刺激電極が皮膚を貫通するための感染のおそれがなく、心理的にも良好に人工肛門を使用することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【図１】 本発明の人工括約筋の１実施形態を示す説明図である。
【図２】 本発明の人工括約筋の形状記憶合金による開閉部の斜視図である。
【図３】 本発明の人工括約筋の形状記憶合金による開閉部の平面図である。
【図４】 本発明の人工括約筋の形状記憶合金による開閉部の側面図である。
【図５】作製された人工括約筋の生体実験を示す説明図である。
【符号の説明】
１…形状記憶合金による開閉部 ２…温度制御ヒーター
３…一次コイル ４…二次コイル
５…形状記憶合金板 ６…蝶番
６ａ…回転筒 ６ｂ…ピン
６ｃ…止輪 ７…スポンジゴム
８…腸 ９…生体皮膚
１１…経皮的電力伝送システム １２…子豚
１３…人工肛門 １４…電力供給装置
１５…コード １６…断熱物質
１７…温度測定装置

Claims (10)

1. 形状記憶合金による開閉部と、温度制御ヒーターとからなる人工括約筋であり、前記開閉部は二枚の形状記憶合金板と、二枚の前記形状記憶合金板の両端のそれぞれを相互に連結した蝶番とを有し、前記温度制御ヒーターには、電源に接続される側のコイルを一次コイルとし、前記温度制御ヒーターに接続される側のコイルを二次コイルとした経皮的電力伝送システムにより電力を供給することを特徴とした人工括約筋。
2. 形状記憶合金による前記開閉部は、生体の肛門或いは体外に誘導した腸の一部を任意に開閉する請求項１記載の人工括約筋。
3. 形状記憶合金による前記開閉部は、生体内の尿道の一部を任意に開閉する請求項１記載の人工括約筋。
4. 二枚の前記形状記憶合金板には、断熱緩衝部材が添設されている請求項１乃至請求項３のいずれかに記載の人工括約筋。
5. 二枚の前記形状記憶合金板は、生体適合性のある物質によって包装されている請求項１乃至請求項４のいずれかに記載の人工括約筋。
6. 前記一次及び二次コイルは平面渦巻き構造である請求項１乃至請求項５のいずれかに記載の人工括約筋。
7. 前記一次及び二次コイルはアモルファス磁性線を装着した平面渦巻き構造である請求項６記載の人工括約筋。
8. 前記一次コイルは予め建築物等に固定的に設置する請求項１乃至請求項７のいずれかに記載の人工括約筋。
9. 前記一次コイルと前記二次コイルの両コイルを生体内に埋め込む請求項１乃至請求項７のいずれかに記載の人工括約筋。
10. 前記蝶番はポリカーボネート、ハイドロキシアパタイトの内の一種、もしくは前記金属材からなる前記蝶番の表面にチタン、ハイドロキシアパタイトの内の一種がコーティングされているものであることを特徴とする請求項１乃至９のいずれかに記載の人工括約筋。

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