JP4225722B2 - 直腸開閉に使用する人工肛門括約筋 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、肛門の括約筋を摘出した場合や括約筋の機能が低下した場合などでの直腸開閉に使用する人工肛門括約筋に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
人体を構成する筋肉のうち、括約筋は尿道あるいは肛門等、特定の器官の出口を輪状にとりまいて走る筋肉で、収縮によって、その出口を閉鎖し、また反対に弛緩によって開口する。
【0003】
この筋肉あるいはこの筋肉を有する器官に多くの患者が存在し、これらの患者に、この筋肉あるいは器官を人工の筋肉もしくは器官によって置き換えることが試みられている。しかし、人工の筋肉または器官は未だ限られたものしか存在せず、また、満足なものがない。例えば、人工肛門は、肛門が何らかの原因で排泄口としての役割を果たさなくなったとき、大腸の一部を体外に出して設置されるものであるが、括約筋が存在しないため排便回数の多いことや、周囲の皮膚のただれ、においなど多くの問題が存在している。
【0004】
現在使用されている人工筋肉には、人工尿道括約筋として開発されたAMS800システムがある。これは、尿道の周囲に巻き付けるカフと体内の別の部分に埋め込まれたリザバーからなっており、カフとリザバー管を液体が移動することでカフの厚み(内径)と内圧を変化させて尿道を締めつけたり、緩めたりする仕組みである。このシステムのカフの部分を直腸肛門に巻き付けるようにして人工肛門括約筋の作用を行うよう改良されたものがある。
【0005】
AMS800システムに代表される人工括約筋は、カフ内の液体量を変化させることでカフ内の内径を変化させ、尿道や直腸を締めつけたり緩ませたりして尿や便の通過性をコントロールしようとするものである。
【0006】
カフと一定水圧の液体を供給するリザバー及び液体の流れる方向を調節するバルブ及びこれらの連結するチューブなど、容量の大きい装置を体内に長期間留置するため様々な合併症の原因となり、更に、生体の1個所に高圧をかけ続けることから同部位の血行障害や粘膜障害などが生じる等問題が多い。
【0007】
このような欠点を解決したものとして、温度変化により弾性率が急激に変化する高分子ゲルよりなる人工括約筋が提案されている(特開2000−245824号公報)。すなわち、器官の一部を温度変化により弾性率が変化する高分子ゲルよりなる人工括約筋で包囲する。具体的には肛門に適用する場合、円柱のチューブ状の人工括約筋として肛門に取付け、または、プレート状の場合は肛門の内腔中に挿入し、他の形状の場合はその外周を人工括約筋で包囲するように取付ける。
【0008】
高分子ゲルを直接加温するか、または高分子ゲルを収めた容器内の水を加温システム起動させてゲルの温度を上昇させ、温度が上昇し、弾性率が小となり伸縮性が増加すると、外力により内径が容易に増大する。外力が除かれると直ちにもとの形状に復元する。また、温度が低下したとき、高分子ゲルの弾性率が増加し、伸縮性が減少し変形しにくくなる。この高分子ゲルで包囲された器官は温度上昇により排泄が行われ、温度低下により貯留が行われる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかし特開2000−245824号公報の人工括約筋は、器官の一部を高分子ゲルで包囲するために器官を一度切断する必要があり、また、排泄の前後において体外から人工括約筋を加熱および冷却するための手段を別途必要とするなどの問題があった。
【0010】
本発明の目的は前記従来例の不都合を解消し、直腸周囲の組織を圧迫することなく直腸を閉鎖して便失禁を防止することができ、しかも、体内埋め込み部分が小型で操作が簡単な直腸開閉に使用する人工肛門括約筋を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は前記目的を達成するため、第1に、ヒトの括約筋機能障害を治療するための治療器具であって、形状記憶合金、形状記憶ポリマー、およびそれらの混合物から選択され、加熱によって形状を変化させることが可能な形状記憶物質を含有し、ヒトの括約筋機能障害を治療するための治療器具として、形状記憶物質が括約筋または括約筋に隣接する組織である恥骨直腸筋とともに直腸を包囲し、直腸をくの字状に屈曲せしめて直腸自身の屈曲により直腸を閉鎖し、また、記憶している直線形状を回復することにより直腸の屈曲を解除することを要旨とするものである。
【0012】
第2に、形状記憶物質は形状記憶合金、形状記憶ポリマーおよびそれらの混合物から選択されること、第3に、治療器具は、形状記憶物質と加熱材とを組合わせること、第4に、形状記憶物質と加熱材は、人体組織に対する適合性を有する柔軟な被覆材料により被覆されること、第5に、加熱材は、経皮的エネルギー伝送システムを利用して加熱すること、第6に、被覆材料が、シリコーン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリウレタン、MPCポリマーなどの高分子化合物から選択することを要旨とするものである。
【0013】
本発明によれば、常時は形状記憶物質の成形形状により直腸を屈曲せしめて直腸を閉鎖し便失禁を防止しているが、排便の際には形状記憶物質を加熱によって直線形状に復元することで直腸の屈曲が解除されて直腸が開かれる。
【0014】
直腸を閉鎖する動作において、直腸は形状記憶合金を恥骨直腸筋で包囲把持されているが圧迫されることはないから、長時間連続して直腸が閉鎖された状態に置かれても、周囲の組織の血流が悪化して壊死する危険性がない。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、図面について本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明の人工肛門括約筋の1実施形態を示す説明図で、図中1は加熱によって形状を変化させることが可能な形状記憶物質を含有する治療器具である。
【0016】
治療器具1の形状記憶物質は、形状記憶合金2または形状記憶ポリマーおよびそれらの混合物から選択されるものである。形状記憶合金2としてはTi−Ni系、銅系、ステンレス系のものが、形状記憶ポリマーとしてはポリノルボルネン、ポリイソプレン、スチレン・ブタジエン共重合体、ポリウレタンなどである。これらはいずれも、共に形状の回復は一方向にのみ起こる一方向性(不可逆性)であるが、特殊な熱処理あるいは加工条件を施すことにより、ある方向に変形(形状回復)したものを温度変化により逆の方向に変形(形状回復)する二方向性(可逆性)を付与することも可能である。
【0017】
形状記憶合金(SMA)としては、一般的にはTi-50.4at %Ni合板の板材に2方向形状記憶特性を付与したものなどが好適であるが、ここで、2方向形状記憶板となる形状記憶合金には、TiNi合金に限定されず、第3元素添加のTiNiX 合金(X=Cr、V 、Cu、Fe、Coなど)が考えられ、更に、Cu系、Fe系などの多種の形状記憶合金でも良い。
【0018】
一例として、図5に示すように形状記憶合金2は逆T字形の板材(Ti-51at%Ni合金板)であり、2方向性形状記憶特性を持たすため、700 ℃で30分の溶体化熱処理を行い、R40 mmの曲率で拘束を行い、400 ℃で100 時間時効処理を行った。これを40℃で加熱すると400 ℃×100 時間の時効熱処理時の形状に回復し、体温に冷却されると逆方向の反り返るように変形する。
【0019】
逆T字形の板材として形成し、その上端部に固定部3を設け、この固定部3をもって骨に固定できるようにした。実際的には、骨は、例えば尾てい骨であり、固定手段としてボルトで接合されるなどの手段が用いられる。
【0020】
他の実施形態として、図2に示すように骨は恥骨9であり、これに形状記憶合金2をボルトで接合するようにしてもよい。なお、形状記憶合金2の形状は前記第1実施形態での逆T字形以外の他の形状も採用し得る。
【0021】
前記治療器具1は、形状記憶物質と加熱材と組合わせるものであり、この加熱材は温度制御ヒーター4である。温度制御ヒーター4は、形状記憶合金2の外側に貼り付けるもので、温度制御ヒーター4の表面には、組織への断熱性と生体適合性を得るため、医療用フェルト(Bard PTFE Felt:(株)メディコン)を2枚重ね合わせ貼り付けた。
【0022】
さらに図示は省略するが、形状記憶物質である形状記憶合金2と加熱材である温度制御ヒーター4は、周囲の組織へ影響を与えないために、人体組織に対する適合性を有する柔軟な被覆材料により被覆される。この被覆材料は、生体適合性が良く断熱性の高い物質であり、シリコーン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリウレタン、MPCポリマーなどの高分子化合物から選択する。
【0023】
治療器具1は、直腸5に沿って配置され、恥骨直腸筋とともに直腸5を包囲することにより、図3に示すように直腸5をくの字状に屈曲せしめる。直腸5自身の屈曲により、簡単に直腸5を閉鎖し、便失禁が防止される。
【0024】
形状記憶合金2は、直線形状を記憶しており、排便しようとする場合は、形状記憶合金2の表面の温度制御ヒーター4に一時的に電流を流して、形状回復温度になるまで加熱する。その結果、形状記憶合金2は記憶している直線形状を回復するため、図4に示すように直腸5の屈曲を解除し、排便を可能にする。
【0025】
排便が終われば、形状記憶合金2は加熱がないことにより、図3に示す状態に復帰して直腸5を閉鎖し、便失禁が防止される。
【0026】
前記直腸5を閉鎖する動作において、直腸5は形状記憶合金2が恥骨直腸筋で包囲把持されているので、圧迫されることはないから、長時間連続して直腸5が閉鎖された状態に置かれても、周囲の組織の血流が悪化して壊死する危険性がない。
【0027】
前記温度制御ヒーター4に電力を供給し、形状記憶合金2を選択的に加熱するための手段として、図1に示すように経皮電力伝送システム用の2次コイル6が、治療器具1の設置場所に近い適切な位置に外科的に埋め込まれる。なお、前記経皮電力伝送システムには、体内へ電力を経皮的に伝送する1次コイル、体外からの電力を受信する2次コイル、動作電力を供給する電源の各手段が備えられている。
【0028】
温度制御ヒーター4への加熱のための電力供給は、経皮的電力伝送システムを用いるが、パワーサプライ8(電源側)に接続される1次コイル7や負荷(温度制御ヒーター4側)に接続される2次コイル6は、巻線部分が直径0.1 mmの銅線を複数本束ねて拠り合わせたLitz線を平面渦巻き状に巻いた構造である。
【0029】
さらに、前記1次コイル7や2次コイル6このような平面渦巻き構造に加えて、磁性体部分として、直径数10μm程度のCo系零磁歪アモルファス磁性線を放射状に配置した構造であり、平面渦巻き状のコイル表面の片側にのみ装着される。そして、コイルの片側に装着された磁性線が、両コイルの巻き線部分をはさむようにして2つのコイル、1次コイル7や2次コイル6が配置され、両コイル間の電磁誘導作用により非接触的に電力が伝送される。
【0030】
経皮的電力伝送の際には、1次コイル7が生体皮膚上に、それとほぼ平行同軸的に2次コイル6が皮下に配置され、体外から体内へ電力が供給される。
【0031】
このようにして、皮膚に導線を貫通させることなく電力供給を行い、そのため感染のおそれから免れることができ、コイルは平面渦巻き構造であるので、偏平なものとして場所を取らないですみ、アモルファス磁性線を装着することで、強力な磁力が得られる。
【0032】
なお、本発明は前記実施形態に限定されず、図7に示すように治療器具1が直腸5をくの字状に屈曲せしめるようにするものであれば、その形状等を問わないが、一例として図8に示すように、ワイヤー状の形状記憶合金2によるネットと加熱材が人体組織に対する適合性を有する被覆材料としてのシリコーンで被覆され、括約筋10と直腸5の間に設置する。この治療器具1は、肛門部からの手術のみで行うことができるため、開腹手術を必要とせず、設置される患者にとって体力的負担が少ない。このようにして、形状記憶合金2は直腸5に沿って配置され、本来の括約筋10とともに直腸を包囲することにより、作用の弱い括約筋の働きを補い直腸をくの字状に屈曲せしめる。直腸自身の屈曲により、簡単に直腸を閉鎖し、便失禁が防止される。
【0033】
形状記憶合金2は、直線形状を記憶しており、排便しようとする場合は、形状記憶合金2の表面の温度制御ヒーター4に一時的に電流を流して、形状回復温度になるまで加熱する(図9参照)。形状記憶合金2は記憶している直線形状を回復するため、直腸の屈曲を解除し、排便を可能にする。排便が終われば、形状記憶合金は加熱がないことにより、直腸を閉鎖し、便失禁が防止される。
【0034】
【発明の効果】
以上述べたように本発明の直腸開閉に使用する人工肛門括約筋は、直腸周囲の組織を圧迫することなく直腸を閉鎖して便失禁を防止することができ、しかも、体内埋め込み部分が小型で操作が簡単なものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の直腸開閉に使用する人工肛門括約筋の1実施形態を示す説明図である。
【図2】 本発明の直腸開閉に使用する人工肛門括約筋の他の実施形態を示す説明図である。
【図3】 本発明の直腸開閉に使用する人工肛門括約筋による直腸の屈曲状態を示す説明図である。
【図4】 本発明の直腸開閉に使用する人工肛門括約筋による直腸解除状態を示す説明図である。
【図5】 本発明の人工肛門括約の治療器具を示す正面図である。
【図6】 本発明の人工肛門括約の治療器具の形状変化を示す説明図である。
【図7】 本発明の直腸開閉に使用する人工肛門括約筋による直腸開閉方法の概念説明図である。
【図8】 本発明の人工肛門括約の治療器具の第2例の正面図である。
【図9】 本発明の人工肛門括約の治療器具の第2例の形状変化を示す説明図である。
【符号の説明】
1…治療器具 2…形状記憶合金
3…固定部 4…温度制御ヒーター
5…直腸 6…2次コイル
7…1次コイル 8…パワーサプライ
9…恥骨 10…括約筋

Claims (6)

  1. ヒトの括約筋機能障害を治療するための治療器具であって、形状記憶合金、形状記憶ポリマー、およびそれらの混合物から選択され、加熱によって形状を変化させることが可能な形状記憶物質を含有し、ヒトの括約筋機能障害を治療するための治療器具として、形状記憶物質が括約筋または括約筋に隣接する組織である恥骨直腸筋とともに直腸を包囲し、直腸をくの字状に屈曲せしめて直腸自身の屈曲により直腸を閉鎖し、また、記憶している直線形状を回復することにより直腸の屈曲を解除することを特徴とした直腸開閉に使用する人工肛門括約筋。
  2. 形状記憶物質は、2方向形状記憶特性を付与したものである請求項1記載の直腸開閉に使用する人工肛門括約筋。
  3. 治療器具は、形状記憶物質と加熱材とを組合わせる請求項1または請求項2記載の直腸開閉に使用する人工肛門括約筋。
  4. 形状記憶物質と加熱材は、人体組織に対する適合性を有する柔軟な被覆材料により被覆される請求項3記載の直腸開閉に使用する人工肛門括約筋。
  5. 加熱材は、経皮的エネルギー伝送システムを利用して加熱する請求項3または請求項4記載の直腸開閉に使用する人工肛門括約筋。
  6. 被覆材料は、シリコーン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリウレタン、MPCポリマーなどの高分子化合物から選択する請求項4記載の直腸開閉に使用する人工肛門括約筋
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