JP3904505B2 - マラリア感染診断剤及びマラリア原虫染色剤 - Google Patents

マラリア感染診断剤及びマラリア原虫染色剤 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ロダシアニン系色素化合物を有効成分として含有するマラリア原虫染色剤や、マラリア感染診断剤、これを用いたマラリア感染症の判定方法や、マラリア原虫の染色方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
マラリアはハマダラカを媒体として人体に注入されたマラリア原虫に感染して発病する感染症であり、ヒトに感染するマラリア原虫には熱帯熱マラリア原虫(P. falciparm)、三日熱マラリア原虫(P.vivax)、四日熱マラリア原虫(P. malariae)、卵形マラリア原虫(P.ovale)等があり、世界中で患者数2〜3億人、死者年間2〜3百万人と推定されている。近年、殺虫剤耐性の蚊や、マラリアの特効薬として多用されてきたクロロキン(式(V)(a))に耐性を有するマラリア原虫が出現し、対策が困難となっている。抗マラリア剤又は抗マラリア化合物としては、2個の複素環を含有するオルソ−縮合系の新規化合物(例えば、特許文献1参照。)や、ICAM−1発現抑制作用を有する化合物を有効成分として含有する抗マラリア剤(例えば、特許文献2参照。)や、5’−o−スルファモイル−2−クロロアデノシン等のヌクレオシド誘導体等を有効成分として含有する抗マラリア剤(例えば、特許文献3参照。)や、トリコテセン類等を有効成分として含有する抗マラリア剤(例えば、特許文献4参照。)や、シクロプロジギオシン等を有効成分とする抗マラリア剤(例えば、特許文献5参照。)や、リミノフェナジンを有効成分として含有するマラリア予防又は治療薬(例えば、特許文献6参照。)や、キノリン誘導体等を有効成分として含有する抗マラリア薬耐性克服剤(例えば、特許文献7参照。)や、5−フルオロオロチン酸及びスルファモノメトキシンを有効成分とする抗マラリア剤(例えば、特許文献8参照。)等が知られている。
【0003】
一方、クロロキンに耐性をもつマラリア原虫に対して、メフロキン(式(V)(b))、プリマキン等のクロロキン類似のキノリン環を持つアミン化合物が使用されており、最近では生薬である青嵩(和名:クソニンジン)から抽出されたアルテミシニン(式(V)(c))等のパーオキシ環状化合物や、マラリア原虫のミトコンドリアに存在するチトクロームbを阻害するアトバコン(式(V)(d))等、パーオキシドやキノンという酸化段階の高い化合物が有効な治療薬として使われていた。しかしながら、これらの薬剤に対しても耐性を示すマラリア原虫がすでに現れたことが報告されており、新規なマラリア剤に対して次々に耐性を有するマラリア原虫が出現し、これらの抗マラリア薬が使えなくなる日はそう遠くはないと考えられている。また、マラリア原虫に対して有効であるキニーネ(式(V)(e))は、腎不全を引き起こす可能性が高く、キニーネは最終治療としてのみ用いられているのが現状であり、感染の予防や、治療を保証することはできなかった。
【0004】
【化17】
【0005】
本発明者らは、各種抗マラリア剤に耐性を有するマラリア原虫に対して有効であり、副作用が少ない抗マラリア剤として、上記抗マラリア剤と全く違う構造を持つ新化学療法剤の開発のためランダムスクリーニングを行った結果、クロロキンに匹敵する抗マラリア活性を示すロダニン母核(4−オキソチアゾリジン環)を有するロダシアニン色素化合物(式(VI)(a))(EC50=70nM、selectivity=210)が有用であることを見い出し、既に報告している(例えば、特許文献9参照。)。更に、かかるロダシアニン色素化合物に種々の置換基を導入してロダシアニン系色素化合物を合成し、抗マラリア活性について検定したところ、ロダニン母核の特定位(N−3位)にアリル基が導入された化合物(式(VI)(b))(EC50=12nM、selectivity=1000)が非常に高い抗マラリア活性と優れた選択毒性を有することを確認して既に報告している(特願2001−220579号)。
【0006】
【化18】
【0007】
このようなマラリア感染症に対する治療の現況において、重篤症状を回避するため早期発見・早期治療が重要である。また、近年では流行地域からの渡航者や帰国者からのマラリアの流入が危惧されており、それらの該当者に対する感染の的確な診断剤や診断方法が必要である。従来からマラリア感染症の診断方法として、ギムザ染色やアクリジンオレンジ染色を用いた方法が使用されている。ギムザ染色法は血液をメタノール固定後、pH7.2〜7.4のバッファーを用いてギムザ染料により細胞核等を染色する方法であり、アクリジンオレンジ法はアクリジンオレンジ染料を用いて核等を染色する方法であり、その他、核のDNAと結合するDAPI(4,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール)により核の染色によるマラリア感染の診断方法等も知られている。
また、basic blue 41(Colour Index No.11154)によりマラリア原虫が染色されることが知られている(例えば、特許文献10参照。)。basic blue 41は式(VII)に示すモノアゾ化合物であり、赤血球中のマラリア原虫をギムザ染料より正確に迅速に染色することが明らかにされている。
【0008】
【化19】
【0009】
しかしながら、これら公知の診断方法に用いられる染料は、マラリア原虫のみならず、寄生する赤血球の細胞等を染色したり白血球の核も染色するため、感染したかどうか、また、完治したかどうか明快な診断が困難である。
【0010】
【特許文献1】
特開2000−7673号公報
【特許文献2】
特開平11−228446号公報
【特許文献3】
特開平11−228422号公報
【特許文献4】
特開平11−228408号公報
【特許文献5】
特開平10−265382号公報
【特許文献6】
特開平8−231401号公報
【特許文献7】
特開平8−73355号公報
【特許文献8】
特開平8−59471号公報
【特許文献9】
特開2000−191531号公報
【特許文献10】
国際公開第85/5446号パンフレット
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、血液中においてマラリア原虫を選択的に染色し、マラリア原虫を容易に、確実に検出することができるマラリア原虫染色剤や、マラリア感染診断剤を提供し、末梢血の赤血球中に寄生するマラリア原虫を容易に、確実に検出できるマラリア感染の検出方法や、マラリア感染症の診断方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上述のロダシアニン系色素化合物についての抗マラリア活性の研究の過程において、ロダシアニン系色素化合物が血液中のマラリア原虫の小器官(organelle)に選択的に集積し、赤血球組織には結合しないことを見い出し、ロダシアニン系色素化合物を末梢血に接触させることにより赤血球に寄生するマラリア原虫の有無を高精度に検出することができることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は
【0015】
式(II)〜式(IV)のいずれかで示されるロダシアニン系色素化合物を含有することを特徴とするマラリア感染診断剤に関し、好ましくは、ロダシアニン系色素化合物が、赤血球中のマラリア原虫の細胞小器官に集積し蛍光を発することによりマラリア感染の診断を可能とすることを特徴とする請求項1記載のマラリア感染診断剤(請求項2)に関する。
【0016】
【化21】
【0017】
【化22】
【0018】
【化23】
【0019】
また、本発明は、
【0021】
式(II)〜式(IV)のいずれかで示されるロダシアニン系色素化合物を含有することを特徴とするマラリア原虫染色剤(請求項)に関し、好ましくは、ロダシアニン系色素化合物が、赤血球中のマラリア原虫の細胞小器官に集積し蛍光を発することを特徴とする請求項記載のマラリア原虫染色剤(請求項4)に関する。
【0022】
【化25】
【0023】
【化26】
【0024】
【化27】
【0025】
本発明は、
【0027】
式(II)〜式(IV)のいずれかで示されるロダシアニン系色素化合物を含有するマラリア感染診断剤を用いて血液中のマラリア原虫を選択的に染色することを特徴とするマラリア感染症の判定方法(請求項)に関し、好ましくは、ロダシアニン系色素化合物が、赤血球中のマラリア原虫の細胞小器官に集積し蛍光を発することによりマラリア感染症を判定することを特徴とする請求項記載のマラリア感染症の判定方法(請求項6)に関する。
【0028】
【化29】
【0029】
【化30】
【0030】
【化31】
【0031】
本発明は、
【0033】
式(II)〜式(IV)のいずれかで示されるロダシアニン系色素化合物を含有するマラリア原虫染色剤を用いて血液中のマラリア原虫を選択的に染色することを特徴とするマラリア原虫の染色方法(請求項)に関し、好ましくは、ロダシアニン系色素化合物が、赤血球中のマラリア原虫の細胞小器官に集積し蛍光を発することを特徴とする請求項記載のマラリア原虫の染色方法(請求項8)に関する。
【0034】
【化33】
【0035】
【化34】
【0036】
【化35】
【0037】
【発明の実施の形態】
本発明のマラリア感染診断剤や、マラリア原虫染色剤は、一般式(I)で示されるロダシアニン系色素化合物を含有するものであれば特に制限されるものではない。一般式(I)中、R1及びR2は、独立して、水素原子、未置換若しくは置換基を有していてもよいC1〜C8のアルキル基、又は未置換若しくは置換基を有していてもよいC6〜C8のアリール基を表す。上記C1〜C8のアルキル基としては、直鎖のみならず分枝鎖を有するものであってもよく、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、s−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、2−メチル−n−ペンチル基、n−ヘプチル基、2−メチル−n−ヘキシル基、n−オクチル基等を例示することができ、上記C6〜C8のアリール基としては、フェニル基、p−トリル基、4−キシル基等を例示することができる。これらのC1〜C8のアルキル基又はC6〜C8のアリール基に結合される置換基としては、ハロゲン原子、水酸基、オキソ基、アルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アリール基、アラルキル基、アミノ基、アルケニル基等を例示することができる。
【0038】
また、一般式(I)中、R3は未置換若しくは置換基を有していてもよいC1〜C8のアルキル基、又は未置換若しくは置換基を有していてもよいC6〜C8のアリール基を表し、かかるC1〜C8のアルキル基やC6〜C8のアリール基としては、具体的には、一般式(I)中のR1及びR2におけるC1〜C8のアルキル基やC6〜C8のアリール基と同様のものを挙げることができ、特に、メチル基、アリル基、ベンジル基、(2−テトラヒドロフラニル)メチル基等が好ましい。
【0040】
また、一般式(I)中、Bで表される窒素含有複素環としては、nは0、1又は2のいずれかの整数を表す共役系であり、5員又は6員の窒素含有複素環であることが好ましい。かかる一般式(I)におけるBで表される窒素含有複素環としては、具体的にはピロリジン、ピロール、ピラゾール、イミダゾール等や、ピペリジン、ピリジン、ピペラジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン等の複素環から水素原子一つを除いたものなどを例示することができる。5員又は6員環の窒素含有複素環を構成する炭素原子に結合する置換基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基等のアルキル基や、フェニル基、p−トリル基、2,3−キシリル基、2,4−キシリル基等のアリール基や、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基や、カルボキシル基や、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基や、シアノ基、水酸基、アミノ基や、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子などを挙げることができ、かかる窒素含有複素環の置換基は窒素含有複素環とオルト縮合環を形成してもよい。かかる置換基が窒素含有複素環とオルト縮合環を形成した場合一般式(I)におけるBで表される窒素含有複素環としては、具体的には、インドリン、イソインドリン、インドール、イソインドール、インダゾール、2H−インダゾール、ベンゾイミダゾール、キノリン、イソキノリン、シンノリン、キナゾリン、キノキサリン、フタラジン、1,8−ナフチリジン等から一つの水素を除いたものなどを例示することができる。
【0041】
また、本発明の一般式(I)で示されるロダシアニン系色素化合物中、X-は薬学的に許容しうるアニオンを示し、ハロゲンイオン、スルホン酸イオン、スルファミン酸イオン、水酸化物イオン等を挙げることができ、具体的には、ハロゲンイオンとしては、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン等を例示することができ、スルホン酸イオンとしては、メタンスルホン酸イオン、エタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、ナフタレンスルホン酸イオン、2−ヒドロキシエタンスルホン酸イオン等の脂肪族及び芳香族スルホン酸イオン等を例示することができ、スルファミン酸イオンとしては、シクロヘキサンスルファミン酸イオンを例示することができ、その他、メチル硫酸イオン及びエチル硫酸イオン等の硫酸イオン、硫酸水素イオン、ホウ酸イオン、アルキル及びジアルキルりん酸イオン、カルボン酸イオン、炭酸イオン等を挙げることができる。薬学的に許容し得るアニオンの好ましい具体例としては塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、吉草酸イオン、クエン酸イオン、マレイン酸イオン、フマル酸イオン、乳酸イオン、コハク酸イオン、酒石酸イオン、安息香酸イオン、メタンスルホン酸イオン、エタンスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、水酸化物イオン等が挙げられ、これらのうち特に、p−トルエンスルホン酸イオン、塩素イオン、水酸化イオンのいずれかが好ましい。
【0042】
上記のような一般式(I)で表されるロダシアニン系色素化合物としては、式(II)〜式(IV)のいずれかで示されるロダシアニン系色素化合物を、好ましい具体例として挙げることができる。すなわち、一般式(I)で表されるロダシアニン系色素化合物として、2−[{5−(3−メチル−2(3H)−ベンゾチアゾリリデン)−4−オキソ−3−(2−プロペニル)−2−チアゾリジニリデン}メチル]−1−メチルピリジニウム=p−トルエンスルホナート(式(II))、2−[{5−(3−メチル−2(3H)−ベンゾチアゾリリデン)−4−オキソ−3−エチル−2−チアゾリジニリデン}メチル]−1−エチルピリジニウム=クロリド(式(III))、4−[{5−(3−メチル−2(3H)−ベンゾチアゾリリデン)−4−オキソ−3−エチル)−2−チアゾリジニリデン}メチル]−1−メチルキノリウム=p−トルエンスルホナート(式(IV))等を例示することができる。
【0043】
このような一般式(I)で表されるロダシアニン系色素化合物の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法によって製造することができる。例えば、式(VIII)に示すように5工程で行なわれ、一般式(I)中、Aで表される窒素含有複素環化合物にメチルチオ基等の脱離基が導入された誘導体、例えば、2−(メチルチオ)ベンゾチアゾリン(2-(methylthio)benzothiazole)(a)をアニソール溶媒下、p−トルエンスルホン酸メチルを用いてN−メチル化した誘導体(b)とした後に、トリエチルアミン等の存在下、ロダニン環化合物、例えば、3−エチルロダニン(c)と反応させロダニン環が導入されたメロシアニン化合物(d)に変換する。さらにメロシアニン化合物(d)をp−トルエンスルホン酸メチル等を用いてチオメチル化して誘導体(e)へと変換した後に、一般式(I)中、Bで表される共役化合物である窒素含有複素環、例えば、N−メチルピコリニウムp−トルエンスルホネート(N-methylpicolinium p-toluenesulfonate)(f)等と縮合させ、最後にイオン交換することでロダシアニン系化合物(g)を総収率38%で得ることができる。
【0044】
【化36】
【0045】
本発明のマラリア感染診断剤や、マラリア原虫染色剤は、上記一般式(I)で表されるロダシアニン系色素化合物を含有するものであれば、特に制限されるものではないが、上記一般式(I)で表されるロダシアニン系色素化合物を、水、DMSО、DMF、オリーブ油等の溶液に溶解した液剤や、使用時に適宜水等に溶解できる錠剤等とすることができる。また、製剤としては、通常、製薬的に許容される担体、その他公知の添加剤を添加して製造できる。
【0046】
本発明のマラリア感染症の判定方法は、本発明の一般式(I)で表されるロダシアニン系色素化合物を含有するマラリア感染診断剤を用いて判定をすることができる。本発明のマラリア感染症の判定方法は、採血した血液にロダシアニン系化合物が血液に対して、1.0×10-7〜1.0×10-5モル濃度、好ましくは2.0×10-6モル濃度程度となるようにマラリア感染診断剤を添加して、10分〜5時間、好ましくは1時間程度、培養(軽く振盪もしくは放置)して接触させた後、光学顕微鏡により、例えば、450〜480nmの偏光フィルタを通した観察により行なうことができる。ロダシアニン系色素化合物が血液、特に、赤血球に寄生するマラリア原虫の細胞核以外の細胞小器官(オルガネラ)(organelle)に特異的に集積し、橙色から赤色の蛍光を発する。特に、血液中のヒトマラリア原虫や、ネズミマラリア原虫(P.berghei)においては蛍光の発光を容易に検出することができる。しかも、ロダシアニン系色素化合物はマラリア原虫が寄生する赤血球や、末梢血中の白血球等他のものには集積しないため、赤血球中に寄生するマラリア原虫を容易に、確実に検出することができる。
【0047】
また、ロダシアニン系色素化合物による染色はマラリア原虫の細胞小器官を赤い蛍光に染色するため、細胞核を選択的に赤色以外の色に染色する染料、例えば、青色に染色するDAPI(4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール)等を、本発明のマラリア感染診断剤と混合して用いることにより、マラリア原虫の細胞核と、小器官とをそれぞれ異なる色で染色することもできる。
【0048】
また、本発明のマラリア原虫の染色方法は、本発明の一般式(I)で表されるロダシアニン系色素化合物を含有するマラリア原虫染色剤を用いて診断することができる。本発明のマラリア原虫の染色方法は、上記マラリア感染症の判別方法と同様にして、採血した血液に本発明のマラリア原虫染色剤を接触させることにより行なうことができる。
【0049】
【実施例】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
実施例1:化合物(II)の合成
4.0gの2−メチルチオベンゾチアゾールと、5.0mLのp−トルエンスルホン酸メチルのアニソール溶液5.5mLを130℃で1.5時間攪拌した。混合物を室温に冷却後、74mLのアセトニトリルを加え、さらに3.83gの3−(2−プロペニル)−2−チオキソ−4−チアゾリジノンを加えた。この混合物を0℃に冷却した後に4.9mLのトリエチルアミンを徐々に滴下し、0℃にて1時間攪拌した。得られた沈殿物を吸引濾別し、アセトニトリルで洗浄し粗結晶5.51gを得た。この粗結晶の2.1gと9.0mLのp−トルエンスルホン酸メチルの混合物に7.5mLのジメチルホルムアミドを加え懸濁液とし、120℃にて1.5時間撹拌した後、室温に冷却しアセトンを加え、沈殿物を吸引濾別し、アセトンで洗浄し乾燥した結果、8.64gの粗結晶を得た。この粗結晶の8.64gと、4.71gの1−メチル−4−メチルピリジニウム=p−トルエンスルホナートと85.0mLのアセトニトリルの混合物を攪拌した。その混合物に70℃で7.0mLのトリエチルアミンを滴下し、これを70℃にて1時間撹拌した。得られた混合物を室温に冷却した後に、酢酸エチルを加えた。沈殿物を吸引濾別し、冷酢酸エチルで洗浄した。この粗結晶をメタノール/酢酸エチル混合溶媒から再結晶し、3.94gの2−[{5−(3−メチル−2(3H)−ベンゾチアゾリリデン)−4−オキソ−3−(2−プロペニル)−2−チアゾリジニリデン}メチル]−1−メチルピリジニウム=p−トルエンスルホナートを得た。収率は32%であった。
m.p. 249-251℃; IR (KBr) cm-1: 1038, 1189, 1057, 1539, 1636, 3471; 1H-NMR (300 MHz, DMSO-d6 ) :δ 2.27 (3H, s), 4.04 (6H, s), 4.69 (2H, d, J = 4.9 Hz), 5.27-5.33 (2H, m), 5.81-5.92 (1H, m), 5.85 (1H, s), 7.09 (2H, d, J = 7.7 Hz), 7.28 (1H, dd, J = 7.4, 7.7 Hz), 7.40 (1H, dd, J = 6.5, 7.6 Hz), 7.45-7.49 (3H, m), 7.60 (1H, d, J = 8.2 Hz), 7.85 (1H, d, J = 7.7 Hz), 7.98 (1H, d, J = 8.2 Hz), 8.25 (1H, dd, J = 7.6, 8.2 Hz), 8.63 (1H, d, J = 6.5 Hz); Anal Calcd for C29H27N3O4S3: C, 59.45; H, 4.81; N, 7.43: Found: C, 59.25, H, 4.80; N, 7.29.
【0050】
実施例2:化合物(III)の合成
2.98gの2−メチルチオベンゾチアゾールと、3.74mLのp−トルエンスルホン酸メチルのアニソール溶液4.1mLを120℃で4時間攪拌した。室温に冷却後、混合物に60mLのアセトニトリルを加え、さらに2.67gの3−エチル−2−チオキソ−4−チアゾリジノンを加えた。この混合物を0℃に冷却した後に4.9mLのトリエチルアミンを徐々に滴下し、10℃にて4時間攪拌した。得られた沈殿物を吸引濾別し、アセトニトリルで洗浄し粗結晶4.52gを得た。この粗結晶1.02gと1.47mLのp−トルエンスルホン酸メチルの混合物に1.0mLのジメチルホルムアミドを加え懸濁液とした。これを130℃にて2.5時間撹拌した。得られた混合物を室温に冷却した後にアセトンを加え、沈殿物を吸引濾別した。沈殿をアセトンで洗浄し、乾燥した結果、1.47gの粗結晶を得た。
この粗結晶0.50gと、1.22gの1−エチル−4−メチルピリジニウム=p−トルエンスルホナートと20mLのアセトニトリルの混合物を攪拌した。その混合物に70℃で1.7mLのトリエチルアミンを滴下し、これを70℃にて1.5時間撹拌した。得られた混合物を室温に冷却した後に、酢酸エチルを加えた。沈殿物を吸引濾別し、冷酢酸エチルで洗浄した。この粗結晶をメタノール/酢酸エチル混合溶媒から再結晶し、0.28gのp−トルエンスルホナート塩を得た。
メタノールに浸潤した強塩基性陰イオン交換樹脂(アルドリッチ製アンバーライトIRA−400(Cl)を充填したイオン交換カラムに移した。40mgの上記化合物のメタノール/ジクロロメタン溶液をカラムに通し、溶出液を集めて減圧濃縮した。残渣をメタノールに加熱溶解したものに酢酸エチルを加えた。得られた沈殿を吸引濾別した後、酢酸エチルで洗浄し25mgの2−[{5−(3−メチル−2(3H)−ベンゾチアゾリリデン)−4−オキソ−3−エチル−2−チアゾリジニリデン}メチル]−1−エチルピリジニウム=クロライドを得た。全行程の収率は30%、m.p.253−257℃であった。
【0051】
実施例3:化合物(IV)の合成
1.0mlの4−メチルキノリンと1.8mLのp−トルエンスルホン酸メチルの混合物を70℃にて1.5時間攪拌した。得られた混合物を室温に冷却した後に、酢酸エチルを加えた。沈殿物を吸引濾別し、冷酢酸エチルで洗浄した後に乾燥することで2.3gの1−メチル−4−メチルキノリウム=p−トルエンスルホナートを得た。収率は91%であった。次に、この1−メチル−4−メチルキノリニウム=p−トルエンスルホナート0.17gと、3−エチル4,5−ジヒドロ−5−(3−メチル−2(3H)−ベンゾチアゾリリデン)−2−メチルチオ−4−オキソチアゾリウム=p−トルエンスルホンナート0.25gと、2.6mLのアセトニトリルの混合物を攪拌した後、70℃で0.21mLのトリエチルアミンを滴下し、これを70℃にて1時間撹拌した。得られた混合物を室温に冷却した後に、酢酸エチルを加えた。沈殿物を吸引濾別し、冷酢酸エチルで洗浄した後に乾燥することで0.29gの4−[{5−(3−メチル−2(3H)−ベンゾチアゾリリデン)−4−オキソ−3−エチル−2−チアゾリジニリデン}メチル]−1−メチルキノリウム=p−トルエンスルホナートを得た。収率は93%であった。
m.p.267-269℃;IR (KBr) cm-1:1208, 1507, 1616, 3396; 1H-NMR (300 MHz, DMSO-d6 ) δ: 1.29 (3H, t, J = 7.1 Hz), 2.27 (3H, s), 4.11 (3H, s), 4.25(3H, s), 4.25-4.29 (2H, q, J = 7.1 Hz), 6.85 (1H, s), 7.10 (2H, d, J = 8.2 Hz), 7.27 (1H, t, J = 7.7 Hz), 7.47 (1H, d, J = 8.2 Hz), 7.51−7.55 (1H, m), 7.64 (1H, d, J = 8.2 Hz), 7.76-7.85 (2H, m), 8.00 (1H, t,J = 7.8 Hz), 8.10 (1H, d, J = 8.8 Hz), 8.66 (1H, d, J = 6.9 Hz), 8.74 (1H, d, J = 8.5 Hz), ; Anal Calcd for C31H29N3O4S3・2H2O: C, 58.19; H, 5.20; N, 6.57. Found: C, 58.31; H, 4.99; N, 6.62.
【0052】
実施例4:ヒトマラリア感染標本の染色
供試マラリア原虫として、P.Falciparum FCR−3株(ATCC30932)を用いた。実験に用いた培地は、ろ過滅菌したRPMI 1640培地で、pHを7.4に合わせ、ヒト血清を10%となるように添加した。マラリア原虫の培養は、O2濃度5%、CO2濃度5%、N2濃度90%、温度36.5℃の条件下で行った。ヘマトクリット値(赤血球浮遊液中に占める赤血球の体積の割合)は5%にして用いた。培養開始時の熱帯熱マラリア原虫の初期感染率は0.1%とした。24穴培養プレートを用いて培養し、培地は毎日交換し、感染率4%で植継ぎを行った。供試サンプルにはマラリア感染率が30〜50%になった感染血液を使用した。なお、感染率は薄層塗抹標本を作成し、ギムザ染色あるいはDiff−Qick染色を行った後、顕微鏡(油浸、1,000×)下で計測し、マラリア原虫感染率を下記式から算出した。
マラリア原虫感染率(%)={(感染赤血球数)/(総赤血球数)}×100
得られたヒトマラリア感染血液サンプル99μLに、実施例1で得られた化合物の0.005重量%DMSО溶液を1μL添加して、37℃にて1時間振盪し、染色を行なった。その後、薄層塗抹標本をプレパラートに作製したものを光学顕微鏡(油浸、1,000×)(オリンパス社製)下で観察した。染色されたマラリア原虫を図1(参考写真1参照)に示し、マラリア原虫の拡大図を図2(参考写真2参照)に示す。図1中、マラリア原虫の組織(オルガネラ)が赤い蛍光の斑点(参考写真1)として確認でき、図2中、薄赤色で囲まれた円状のものは単細胞のマラリア原虫を示し、マラリア原虫の特定の組織(オルガネラ)が赤い蛍光(参考写真2)となって確認できた。
【0053】
比較例として、ヒトマラリア感染標本についてギムサ染色により染色を行なった。ヒトマラリア感染血液の薄層塗抹標本を作製し、Diff−Quik液(シグマ社製)に浸し乾燥させたものを、光学顕微鏡(油浸、1,000×)(オリンパス社製)下で観察した。染色されたマラリア原虫を図3(参考写真3参照)に示す。図3中、グレーで囲まれた円状のものは赤血球を示し、黒い斑点(参考写真3)がマラリア原虫の代謝物(ヘモゾイン)を示し、それを囲む白抜きの部分が単細胞マラリア原虫を示す。
結果からロダシアニン系色素化合物により赤血球中のP.Falciparumは赤色の蛍光を発し、容易に確実に染色され、マラリア感染の診断に適用できることがわかった。
【0054】
実施例5:ネズミマラリア感染標本の染色
供試マラリア原虫として、P.bergheiを用いた。P.bergheiマラリアに感染(感染率30〜60%)したICRマウスより心採血で得たネズミ血清1.0mLにヘパリン10μLを加え、軽く振盪する。得られた血液サンプル99μLに、実施例1で得られた化合物の0.005重量%DMSО溶液を1μL添加して、37℃にて30分間振盪し、染色を行った。その後、薄層塗抹標本をプレパラートに作製したものを光学顕微鏡(油浸 1,000×)(オリンパス社製)下で観察した。染色されたマラリア原虫を図4(参考写真4参照)に示す。図4中、濃い緑の円状のものは赤血球を示し、薄い緑の円状のものはマラリア原虫を示し、マラリア原虫中に赤い(黄色に呈色されている)蛍光の斑点(参考写真4)として色素が集積した組織が確認でき、細胞核が青色の点として確認できた。
【0055】
比較例として、ネズミマラリア感染標本についてギムザ染色により染色を行なった。ネズミマラリア感染血液の薄層塗抹標本を作製し、Diff−Quik液(シグマ社製)に浸し乾燥させたものを、光学顕微鏡(油浸 1,000×)(オリンパス社製)下で観察した。染色されたマラリア原虫を図5(参考写真5参照)に示す。図5中、薄黄色で囲まれた円状のものは赤血球を示し、赤血球中にマラリア原虫が褐色の斑点として確認された。
結果からロダシアニン系色素化合物により赤血球中のマラリア原虫は赤い蛍光を発し、容易に確実に染色され、マラリア感染の診断に適用できることがわかった。
【0056】
【発明の効果】
本発明によれば、ロダシアニン系色素化合物は血液中のマラリア原虫に特異的に集積し、赤い蛍光を発するため、マラリア原虫を容易に確実に検出することができ、マラリア感染の診断を容易に且つ確実に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のマラリア感染診断剤により染色されたヒトマラリア原虫を示す図である。
【図2】図1に示すヒトマラリア原虫の拡大図である。
【図3】従来例のマラリア感染診断剤により染色されたヒトマラリア原虫を示す図である。
【図4】本発明のマラリア感染診断剤により染色されたネズミマラリア原虫を示す図である。
【図5】従来例のマラリア感染診断剤により染色されたネズミマラリア原虫を示す図である。

Claims (8)

  1. 式(II)〜式(IV)のいずれかで示されるロダシアニン系色素化合物を含有することを特徴とするマラリア感染診断剤。
  2. ロダシアニン系色素化合物が、赤血球中のマラリア原虫の細胞小器官に集積し蛍光を発することによりマラリア感染の診断を可能とすることを特徴とする請求項1記載のマラリア感染診断剤。
  3. 式(II)〜式(IV)のいずれかで示されるロダシアニン系色素化合物を含有することを特徴とするマラリア原虫染色剤。
  4. ロダシアニン系色素化合物が、赤血球中のマラリア原虫の細胞小器官に集積し蛍光を発することを特徴とする請求項記載のマラリア原虫染色剤。
  5. 式(II)〜式(IV)のいずれかで示されるロダシアニン系色素化合物を含有するマラリア感染診断剤を用いて血液中のマラリア原虫を選択的に染色することを特徴とするマラリア感染症の判定方法。
  6. ロダシアニン系色素化合物が、赤血球中のマラリア原虫の細胞小器官に集積し蛍光を発することによりマラリア感染症を判定することを特徴とする請求項記載のマラリア感染症の判定方法。
  7. 式(II)〜式(IV)のいずれかで示されるロダシアニン系色素化合物を含有するマラリア原虫染色剤を用いて血液中のマラリア原虫を選択的に染色することを特徴とするマラリア原虫の染色方法。
  8. ロダシアニン系色素化合物が、赤血球中のマラリア原虫の細胞小器官に集積し蛍光を発することを特徴とする請求項記載のマラリア原虫の染色方法。
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