JP3902476B2 - ホタルの累代飼育システム及び方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ホタルを累代にわたり飼育できるようにすることでホタルの自然繁殖を可能としたホタルの累代飼育システム及び方法に関する技術である。
【0002】
【従来の技術】
近年、自然環境の破壊等によりホタルの自然生息地域も次第に少なくなってきており、自然界で天然のホタルに遭遇することは非常に困難な状況となってきている。
【0003】
このため、従来よりホタルを人工的に飼育する試みも行われてきており、例えば特開2001−258424公報に開示されている「水生昆虫の人工飼育システム及び蛍の人工飼育方法」等が提案されるに至っている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、これまでに提案されてきた従来手法は、そのいずれもがせいぜいのところ、その世代限りでの飼育ができる程度の内容のものであり、ホタルを累代にわたり自然繁殖できるようにした手法の提案が未だなされていない状況にあった。
【0005】
本発明は、従来手法にみられた上記課題に鑑み、ホタルを累代にわたり飼育できるホタルの累代飼育システム及び方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成すべくなされたものであり、そのうちの第1の発明(ホタルの累代飼育システム)は、年間を通じホタル生息地域の気候風土に合致する温熱環境と動植物相とを付与して仕切られる所要空間内をホタルの生態系領域とし、該生態系領域は、ホタルの幼虫が脱皮を繰り返しながら成長する水域部と、幼虫上陸後の土中での蛹化とその後の羽化とを経て成虫となったホタルの産卵と孵化とが行われる陸域部とで少なくとも構成され、前記水域部は、水流を付与して各種の微生物と水生動植物との生存を可能とすべく、カルシウムを中心に多様なミネラルを適度に含んだ弱アルカリ性の軟水であって、酸素を十分に含んで好気性微生物が繁殖する浄化能力の高い水質を保持させた適量の飼育水を湛えてなり、前記陸域部は、下から順に好気性バクテリア群を着床させる珪砂と砕石とを主とする層、生態系領域の骨格を形成してコケや水草の育成を図りつつ、水質の改善にも寄与させるゴロタ石を主とする層、前記水域部および前記陸域部のpH値を安定させ、カルシウムの補給と水性バクテリア群の生息ベースとしての役割を担い、好気性バクテリアが酸素を地中深く運んで前記水域部の端々へと酸素を巡らせることでホタル幼虫の上陸地から前記飼育水部分への酸素供給の橋渡し機能を発揮させる珪砂を主とする層、上層の重量を受ける下層のためのクッション機能と嫌気性バクテリアを吸着し好気性バクテリアを増繁殖させる機能とを有する珪砂を含む砂を主とする層、ホタル幼虫の上陸地の植物や水中植物に栄養の源を供給し、土壌細菌の着床場としての機能をも果たす骨炭を主とする層、保水性を保持させる黒土を主とする層、ホタル幼虫の上陸地のpH値を調整する赤玉土と砂とを主とする層、ホタル幼虫の上陸地の動植物共用の生育ベースとしての役割を果たす赤玉土と黒土とを混在させた層、保水や排水機能を果たすと同時に、好気性バクテリアを安定的に保持させて上陸したホタル幼虫が安定して蛹になれる蛹化域として供される砂と赤玉土と黒土とを混在させた層として積層形成されて、有機物を分解する土壌生物の生息と微生物活動の活性化とに有効な弱アルカリ性の維持を可能とした土質の土壌を備えてなり、これら水域部と陸域部との間は、前記飼育水が前記土壌内に浸透して水域部へと回帰する循環水路系を形成して有機的に一体化させたことに構成上の特徴がある。
【0007】
この場合、ホタルの前記生態系領域は、水槽又は建屋を介して外部と仕切られた前記所要空間内に形成することができ、このうち、水槽を介して外部と仕切られた前記所要空間内に形成されるホタルの前記生態系領域は、前記水域部の水底に配置した濾過器が濾過時に生成する水流により前記循環水路系を形成することができる。また、建屋を介して外部と仕切られた前記所要空間内に形成されるホタルの前記生態系領域は、前記飼育水に水流を付与して常時流下させる水路部を含んで形成される水域部と、前記水路部の周囲を囲繞するように配設された植栽帯を含んで形成された前記陸域部とを少なくとも備え、前記水路部の最下流に配設されている還流用貯水槽内に流れ込んだ飼育水を濾過ポンプを介して上流側の濾過槽に戻して流下させることで前記循環流路系を形成することができる。
【0008】
さらに、第2の発明(ホタルの累代飼育方法)は、請求項1ないし3のいずれかに記載のホタル累代飼育システムが用いられ、前記水域部と前記陸域部との間に前記飼育水が前記土壌内に浸透して水域部へと回帰する循環水路系を形成して有機的に一体化させた連鎖生態系のもとでホタルを累代飼育することに構成上の特徴がある。
【0009】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明のうちの第1の発明(飼育システム)を水槽内に構築して実現した際の概略構成例を模式的に示した説明図である。
【0010】
同図によれば、水槽12内には、年間を通じホタル生息地域の気候風土に合致する温熱環境と動植物相との付与が可能な所要空間13が確保されており、このように仕切られた所要空間13内に構築されるミニ生態系がホタルの生態系領域11として確保されることになる。なお、水槽12の上方の適宜位置には、動物育成用蛍光灯23と植物育成用蛍光灯24とが配設されている。
【0011】
すなわち、水槽12内に構築されるホタルのミニ生態系としての生態系領域11は、ホタルの幼虫が脱皮を繰り返しながら成長する水域部15と、幼虫上陸後の土中での蛹化とその後の羽化とを経て成虫となったホタルによる交尾後の産卵とその孵化とが行われる陸域部25とで少なくとも構成されている。
【0012】
ところで、ホタルが累代にわたって生息していくためには、最適な水と多様な生物と土壌とが有機的に連鎖していなければならず、例えばカワニナ20の餌となる苔などは、メダカ21等の糞尿や多様な微生物の存在が必要不可欠である。また、分解しきれない大きな有機物は、ヌマエビやトビゲラやカワゲラなどのような図示しない水生動物に処理してもらわなければならない。
【0013】
このような観点から、水域部15は、水流を付与して多様な微生物と水生動植物との生存が可能に弱アルカリ性の水質が保持された適量の飼育水16を湛えた状態のもとで水槽12内に形成されている。
【0014】
この場合、飼育水16は、使用する水が例えば水道水であれば、塩素を取り除くだけではなく、硝化細菌(好気性細菌)や脱窒素菌(通生嫌気性細菌)などの濾過細菌の温床となり得るほか、水質を弱アルカリ性に維持させる観点からも、骨炭を通過させて製造するのが望ましい。また、骨炭は、所要量を布袋に入れた袋入り骨炭17として水槽12内の濾過器18の周辺に常時置いておくことも有効である。なお、図中の符号45は、水底14に敷き込まれている那智石(那智黒)のような珪質小石を示す。
【0015】
また、飼育水16の濾過については、従来から知られている種々の方式のものを採用することができるが、水槽12内の環境破壊を極力抑えることができるほか、コスト的にも安価でメンテナンス性にも優れている水中濾過方式が採用されている。この場合、投げ込み式の濾過器18を水底14の所要位置に2個配置しておくならば、その濾過時に水域部15内の飼育水16に水流を形成することができるほか、気泡18aを介しての酸素の供給も同時に行うことができるので特に好ましい。なお、図中の符号19は、水流に好ましい変化を与えるために配置させた1個以上の流木などからなる変流用部材を示す。
【0016】
飼育水16の交換と水温・水質の管理とについては、ホタル幼虫の上陸期からホタル成虫の産卵期が終了するまでの期間は数日に一度の割合で飼育水16を略1/3〜2/3の割合で交換するのが望ましい。特に、初春と秋とは、一週間に一回、夏場は毎日から3日に一度の範囲内で、冬場は1週間〜10日に一度の割合で飼育水16を交換するのが望ましい。
【0017】
しかも、飼育水16を交換する際には、水温、pH値およびミネラル(カルシウム)濃度に特に注意する必要がある。飼育水を交換する際には、水温差を±1.0℃以内とし、pH値を±0.2以内としなければpHショックを特にカワニナ20が起こしてしまうおそれがあるので注意する必要がある。
【0018】
飼育水16の水温は、四季に合わせて調整する必要があり、ホタル幼虫の上陸期は17.0〜18.0℃を、羽化期は18.0〜19.0℃を、産卵から孵化までは19.0℃前後をそれぞれ保つ必要がある。秋口からは徐々に水温を下げ、冬場の最低水温は12.0℃前後とするのが望ましい。なお、水温を人為的に上下させる際には、生態バランスへの影響を考慮して1日当たり0.5℃の範囲内に止めておくのが好ましい。
【0019】
一方、飼育水16の水質検査は、毎日、一定時間に複数の項目に亘ってに実施するのが望ましい。表1は、本発明の完成に向けた研究途上である平成12年6月中の午前8時に行った検査結果を一例として示したものである。
【0020】
【表1】
【0021】
また、より詳細にわたる飼育水16の水質検査は、あらかじめ定めてある項目につきさらに月に一度実施するのが好ましい。表2は、平成12年6月1日に実施した検査項目とその結果とを例示したものである。
【0022】
【表2】
【0023】
さらに、表3は、平成12年6月1日時点での水槽12内における水域部15で繁殖している微生物を示したものである。
【0024】
【表3】
【0025】
飼育水16に対するこのような水質検査を適宜実施することにより、水槽12における水域部15内の微生物の有無を判断することができる。
【0026】
一方、カワニナ20に毎日最大限の稚貝を産み続けさせるためには、飼育水16に弱アルカリ性を保持させたまま溶存酸素量を常に飽和状態としておくことにより、アンモニアや亜硝酸濃度やCOD値などを可能な限り低く抑えておく必要がある。水槽12における水域部15内では、好気性バクテリアがその役割を担っている。
【0027】
一方、陸域部25は、有機物を分解する土壌生物の生息と微生物の活動の活性化とに有効な弱アルカリ性の維持を可能とした土質の土壌30からなり、飼育水16と接する側の法面には、土留めのためのごろた石29が水面上まで積み上げられている。しかも、陸域部25は、石菖やヨモギや木賊や各種の山野草などの陸上植物28が植栽されたホタルのための上陸羽化部26と、水辺の苔類27aにより形成される卵孵化部27とを備えている。
【0028】
この場合、通常、水域部15の飼育水16と陸域部25の土壌30とは、栄養分や微生物を常時相互に交換し合っていると考えられる。特に、ホタルの飼育においては、上陸後のホタル羽化率を低下させない観点からカビの発生を極力抑えることができる土壌創りが必要になる。
【0029】
このため、水槽12内で陸域部25を形成している土壌30には、表4に示すように様々な土質のもとで複数層(表4では10層)に積層させた複雑な構成のものが採用されている。なお、表4に示されてる各層の厚さ(mm)は、寸法が1800mm×600mm×600mmの水槽12に適用した場合を例としたものであり、実際には個々の水槽の容積に応じて適宜変化することになる。
【0030】
【表4】
【0031】
表4に示す土質構成を採用した理由は、つぎのとおりである。すなわち、陸域部25における地上25a部分に生息する動植物、あるいはそれらの死骸から発生する有機物は、総じて分解され、栄養素を水中へ供給すると同時に、そこで発生した二酸化炭素を含んだ水が土壌28のミネラル分を溶解して水中に無機や有機の栄養源をさらに補給する。また、この過程で発生した炭酸水素イオンは、水に緩衝性を持たせる働きがある。したがって、飼育の際には、このような一連の生物連鎖をも考慮して好適な土壌30とすべく表4に示す土質構成が採用されている。
【0032】
表4の土質構成についてさらに詳しく説明すれば、土壌30にあって最下層に位置する第一層31は、微生物の着床を目的とするものであり、那智石(那智黒)と珪砂とを等量混ぜ合わせて形成されている。第二層32は、水槽12内の生態系領域11全体の骨格をなすものとしてゴロタ石により形成されている。第三層33は、飼育水16と土壌30とのpH値の安定化のほか、カルシウムを補給したり、微生物の生息ベースとして利用されるものであり、陸域部25から水域部15内の飼育水16部分への酸素供給の橋渡し的な機能を発揮させるために、珪砂と珊瑚砂とを等量混ぜ合わせて形成されている。第四層34は、第五層35以上の上層の重量を受ける第三層33以下の下層のためのクッション機能と好気性バクテリアの濾過機能とを付与するために富士砂を用いて形成されている。第五層35と第六層36とは、微生物を増繁殖させる働きを担わせるものであり、そのうちの第五層35は骨炭で、第六層36は備長炭と骨炭とを等量混ぜ合わせることにより、それぞれが形成されている。第七層37は、陸域部25の陸上植物28や水中植物22への栄養源としてのほか、土壌微生物の着床場としても機能させるために黒土で形成されている。第八層38は、上陸地である陸域部25のpH値を調整する役割を担うものであり、富士砂と赤玉土と桐生砂とを5:3:2の割合で混ぜ合わせて形成されている。第九層39は、上陸地である陸域部25の動植物共用の生育ベースとなるものであり、赤玉土と黒土とを8:2の割合で混ぜ合わせて形成されている。第十層40は、上陸したホタル幼虫の蛹化域として供されるものであり、保水や排水機能を果たすと同時に、好気性バクテリアを安定的に保持させる役割をも担わせるべく、富士砂と赤玉土と黒土とを5:4:3の割合で混ぜ合わせて形成されている。なお、例えば第七層37以上の上層部の土壌30は、ホタルの幼虫が羽化できずに死亡した個体や成虫の死骸などがカビの発生原因となることから、原則として年2回の割合で交換するのが望ましい。
【0033】
さらに、ホタルの飼育過程でもう一つの重要な要素を占めているのが温熱環境の維持・管理である。本発明者らの調査・研究によると、陸域部25における水辺の苔類27aに産卵されたゲンジボタルの卵は、一般に6月下旬から7月中旬にかけた昼夜間の平均外気温23.0℃において約28日で孵化することが判明している。また、これが22.0℃では約26日と、1.0℃の低下で2日早まった。さらに、19.0℃にすると約35日を要し、逆に7日も孵化が遅くなるという結果を得た。このことから、ホタルの卵の孵化は、6月下旬から7月中旬にかけた昼夜間の平均外気温の高低により大きな影響を受けていることが判明した。
【0034】
また、水域部15内の温熱環境の変化が幼虫期ゲンジボタルに及ぼす影響については、孵化直後は気候的にも夏を迎えている関係上、水温は平均18.0〜19.0℃に保たれていることから、約30日後には2令幼虫に脱皮することができる。本発明者らの観察においても、平均水温がそれぞれ20.0℃で約28日、21.0℃で約26日、22.0℃で約25日、23.0℃で約23日で2令幼虫になることが判明した。しかし、平均水温が24.0℃を越えると活動はさらに活発になるものの、脱皮がうまくいかずに死亡する個体の増加することが判明した。逆に、平均水温を16.0℃にすると約50日、15.0℃で約60日、14.0℃で約70日を要しなければ2令幼虫にはなれないことが判明した。さらに、14.0℃以下では、死亡個体は少ないものの、ほとんどが2令幼虫になれないまま一年を過ごす結果となることが判明した。このことからも、幼虫期ゲンジボタルの2令幼虫への脱皮は、水温と深い関わりのあることが判明する。
【0035】
さらに、湿度については、上陸期、羽化期、産卵期、幼虫期のすべてにおいて異なった環境を設定してみた。すなわち、上陸期は午後8時の時点で95%、羽化期は約93%、産卵期は約91〜93%を湿度調節の目標とし、幼虫期は外気とほぼ同じ条件となるように調節して飼育した。
【0036】
さらにまた、本発明者らは、ゲンジボタルの蛹の成長に及ぼす土壌30の温熱環境の影響についても考察を試みた。蛹は、一般に平均土壌温度が21.0℃において約37日で羽化し、これを1.0℃上げると約35日、2.0℃上げると約33日でそれぞれ羽化した。逆に20.0℃に下げると約39日、19.0℃では約41日、18.0℃では約45日も要した。平均土壌温度が15.0℃以下では、羽化できずに死亡する個体が増加し、14.0℃に近づくとほとんどが死滅した。このことからも、ホタルの蛹は、その羽化が土壌30の温熱環境に大きく依存していることが判明する。なお、ホタルの幼虫は、気圧の変化にも敏感に反応することが知られており、したがって上陸に必要な降雨条件とも深く関係しているものと推測される。
【0037】
ホタルは、以上に述べたようにその一連の変態過程を季節毎の外気温、水温及び土壌温度の変化に大きな影響を受けながら累代にわたり代替わりしながら生息しているものであり、水槽12内のホタルも同様な温熱環境の維持と管理とが行われながら、累代飼育されることになる。
【0038】
また、ホタルの生息域における生物との関係に関しては、ホタルとカワニナのほか、微生物を含む様々な生物が一つの生態系のなかに共存し合ってこそ生態のバランスが保たれることになる。したがって、ホタルを累代飼育するに際しては、ホタルの生息域における生物相を参考にして、どのような生物がどれだけ、あるいはどのような生物の組合せが最適であるかをも見極める必要がある。このため、本発明者らは、ゲンジボタルやヘイケボタルが実際に自然発生している数カ所の地域について実地調査を行った。もとより、実際には、多種多様な生物群が自然の生態系のなかで様々な役割を担いながら生息しているものであるが、本発明においては、ホタルやカワニナとの共存ができるように、表5に示すような生物(微生物を除く)を水槽12内の水域部15に導入することとした。これらの生物以外では、プラナリアやプランクトンのほか、ホタルの飼育に被害を及ぼさない範囲であるならばヒル類でさえも生息させておくことができる。
【0039】
【表5】
【0040】
しかも、このようにして管理されている水槽12内のホタルの生態系領域11は、飼育水16が陸域部25の土壌30内に浸透して再び水域部15側へと回帰する循環水路系のもとで有機的に一体化された連鎖生態系を形成することが可能となる。動物生育用蛍光灯23と植物生育用蛍光灯24とは、四季の変化に応じた日出時間と日入時間とに略合致させて照明と消灯とが行われることになる。
【0041】
一方、図2は、第1の発明(飼育システム)を建屋内に構築した際の一例を示す平面図であり、図3は図1におけるA−A線矢視方向での縦断面図を、図4は同B−B線矢視方向での縦断面図を、図5は同C−C線矢視方向での縦断面図を、図6は同D−D線矢視方向での縦断面図をそれぞれ示す。
【0042】
これらの図によれば、年間を通じホタル生息地域の気候風土に合致する温熱環境と動植物相とを付与して仕切られた所要空間53が確保される建屋52としての温室内には、飼育水56に水流を付与して常時流下させるために、例えば全長が16mで幅が1.2mで最大深さが0.5mとなった縦断面が略V字形を呈する水路部57を含んで形成される水域部55と、水路部57の周囲を囲繞するように配設された植栽帯98を含んで形成された陸域部95とを少なくとも備え、その全体でホタルの生態系領域11が形成されている。
【0043】
このうち、水域部55における水路部57は、流路の途中で流れに変化を与えるために略S字形の蛇行部57aが形成されている。また、水路部57は、図3の断面構造からも明らかなように、客土層96を流路方向に沿わせて略V字形に掘り下げて形成された法面97の全面に敷き込まれた防水シート58と、該防水シート58上に配置されたラス59と、該ラス59上に適宜厚さのもとで形成されたモルタル層60と、該モルタル層60が固化する前にその全面にわたり埋め込まれた那智石(那智黒)61とを備えて形成されている。
【0044】
この場合、水路部57は、モルタル層60が固化する前に防水シート58に向けて無数のピアノ線を突き刺して形成された微細な透孔62を備えており、このような多数の透孔62を形成した後に那智石(那智黒)61が埋め込まれ、その流路面63に透水性が付与されることになる。
【0045】
しかも、水路部57における流路面63の水底部64には、珪砂と那智石(那智黒)とを等量混ぜ合わせてなる混合層65が50〜150mmの適宜範囲の厚さでその流路方向に沿わせて敷き詰められている。
【0046】
また、水域部55は、水路部57の上流側には図4に示すような湿地域75を備えている。該湿地域75から流入する飼育水56は、図5に示す第一落込み部67と既述の蛇行部57aと図6に示す第二落込み部70とを経ることにより複雑な水流を形成しながら止水板74により適宜水位を維持させた状態のもとで最下流部に配設されている還流用貯水槽81へと流れ込むようになっている。
【0047】
しかも、還流用貯水槽81内に流れ込んだ飼育水56は、濾過ポンプ82を介して湿地域75近傍に配設されている濾過槽83へと戻され、該濾過槽83経て濾過された後にパイプ84を介して湿地域75へと送り込まれ、該湿地域75を経て水路部57へと再度流れ込ませることによりその全体で循環水路系を形成している。
【0048】
図7は、上記した飼育水のための循環水路系の構成例を示す説明図であり、そのうちの(a)は平面図として、(b)は側断面としてそれぞれ示す説明図である。
【0049】
同図によれば、循環水路系は、湿地域75から飼育水56が水路部57に流入して還流用貯水槽81内に流れ込んだ後、ポンプ82で濾過槽83へと戻され、該濾過槽83が再度湿地域75へと流れ込み、これを繰り返す流路系のもとで形成されている。また、水路部57には、図3に示されているように透孔62が形成されており、該透孔62を介して客土層96側に透過した一部の飼育水56は、透水管85を介して一方の排水桝88へと導入された後、ポンプ91によりパイプ89を介して他方の排水桝90へと送られ、その一部は濾過槽83へと戻され、残りは排水パイプ92を介して外部へと排水される。なお、透水管85に関しては、図7に示す配設パターン以外にも、それぞれの現場状況との関係で最適な種々の配設パターンのものを採用することができる。例えば、水路部57と客土層96とを図7に示すようにコンクリート製の囲壁87で保持させるに際し、該囲壁87と客土層96の下面側との間に図示は省略してあるが砕石層を介在させ、該砕石層の下に位置する流路方向での中央部に透水管部を配設し、該透水管部の長さ方向に直交する配置関係で多数本の透水枝管部を各別に連結した格子状の透水管として配設することもできる。なお、この場合、囲壁87の底部側には、自然排水のための排水口が砕石を充填した構造のもとで多数箇所に形成されることになる。
【0050】
このようにして形成される飼育水56のための循環水路系のうち、湿地域75は、椀状の断面形状を呈して水路部57と同様の構造を備える保水部76と、該保水部76により確保される空間内を丹波石等の石材77で土留めして区画された例えば赤玉土からなる湿地部78と、パイプ84から供給される濾過後の飼育水56を貯留する貯水部79とで形成されており、湿地部78には各種の湿性植物80が植栽されている。
【0051】
また、水路部57に形成される第一落込み部67は、粘土質で粘着力に冨む例えば荒木田のような土を袋詰めした土嚢68をごろた石67で安定させながら所要の高さまで積み上げ、その上に丹波石などの石材69を乗せることにより、流下する飼育水56の水位に落差を生じさせるようにして形成されている。なお、土嚢68は、水生植物の種入れとしても利用されている。
【0052】
さらに、第二落込み部71は、第一落込み部67と同様に土嚢7をごろた石72で安定させながら所要の高さまで積み上げ、その上に丹波石などの石材73を乗せることにより、流下する飼育水56の水位にさらに落差を生じさせるようにして形成されている。なお、この場合における土嚢71も水生植物の種入れとして利用されることになる。
【0053】
濾過槽83は、ウールマットを最下層に、小石のような形状で多数の孔を有する濾過材(例えばテトラ社製の商品名「エーハイサブストラット」等)を中間層に、骨炭を最上層に配置した濾過構造で形成されている。この場合、下から上昇してくる飼育水56に対しては、最下層を通過する際に物理濾過が行われ、中間層の濾過材で生物濾過バクテリアを付着させ、最上層で好気性バクテリアを着床させることにより濾過されるほか、同時に脱臭と脱色とが行われることになる。
【0054】
その結果、濾過槽83を経た飼育水56は、表6に示す値となり、水中のアンモニアや亜硝酸などは限りなくゼロに近い値となり、pH値も弱アルカリ性を示すに至る。
【0055】
【表6】
【0056】
この場合、飼育水56が好ましい水質を維持しているもう一つの要因は、表7に示すような微生物群の存在に帰するものと思われる。微生物は、本来、自然界では単独で生活することなく、環境に特有のミクロフローラ(微生物相)を構成している。自然の生態系では、これらの微生物群は、上位の生物群が出す排出物をエネルギー源として、発酵過程を経て環境を浄化し、かつ、生物に有用な物質を合成して、環境を保全している。このミクロフローラ(微生物相)には、細菌が圧倒的に多く(75%)、次いで放線菌(17%)、カビ(5%)、酵母(1%以下)、藻類(約0.1%)の順で集団生活を営んでいる。ここで利用しているミクロフローラ(微生物相)は、集積培養法により悪臭除去と土壌浄化とを行っている。
【0057】
【表7】
【0058】
一方、水路部57の周囲を囲繞する植栽帯98を含んで形成される陸域部95は、建屋52としての温室内の水路部57の下方を含む全領域を表8に示す客土層96のもとで形成することにより確保される。
【0059】
【表8】
【0060】
まず、客土層96については、図1に示す例における土壌30を表4に示した土質構成とした理由とほぼ同じ理由で、最下層に位置する第一層をごろた石と砂利で、第二層を珪砂で、第三層を富士砂で、第四層を那智石(那智黒)で、第五層を備長炭と骨炭とで、第六層を黒土で、第七層を富士砂と赤玉土と桐生砂とで、第八層を赤玉土と黒土とで、最上層に位置する第九層を富士砂と赤玉土と黒土とでそれぞれを形成した土質構造が採用されている。なお、表8において最下欄に表示されている「砕石等」は、図7に示すように水路部57の下方に配設されている透水管85の上に配置されることになる。
【0061】
また、陸域部95の全体は、図2に示されているように水路部57の両岸に沿って生えている水苔や山苔からなるホタルのための卵孵化部99と、該卵孵化部99の外側に生えているヨモギや松やその他の植物相とで形成されたホタルのための上陸羽化部100とからなる植栽帯86を含んで形成されている。
【0062】
そして、植栽帯98の周囲には、観察者により植栽帯98が踏み荒らされることのないように木道100が配設されている。なお、図中の88は、透水管85からの排水を受けるための一方の排水桝を、89は、一方の排水桝88からパイプ90を介して排水を引き込むためのポンプ91を有する他方の排水桝90をそれぞれ示す。
【0063】
以上は、本発明における第1の発明を水槽12内と建屋52である温室内とに構築した場合を例に説明したものである。しかし、第1の発明は、上述した諸環境を屋外にて実現し、さらに地域的な各種の特性に対応させる環境的な配慮を行った上で生態系領域11を構築するにより実現することもできる。
【0064】
次に、水槽12内で実現した図1に示す第1の発明に基づいて第2の発明であるホタルの累代飼育方法の一例を説明すれば、まず、年間を通じホタル生息地域の気候風土に合致する温熱環境と動植物相とが付与されている所要空間13内を仕切ることによりホタルの生態系領域11が水槽12内に構築される。
【0065】
この場合、生態系領域12は、ホタルの幼虫が脱皮を繰り返しながら成長する水域部15と、幼虫上陸後の土中での蛹化とその後の羽化とを経て成虫となったホタルの産卵と孵化とが行われる苔類27aからなる卵孵化部27を備える陸域部25とで構成される。
【0066】
この場合、水域部15は、水流を付与して各種の微生物と水生動植物との生存が可能に弱アルカリ性の水質を保持させた適量の飼育水16を湛えて形成されているので、ホタルの幼虫は、上陸期を迎えるまでカワニナ20を捕食しながら生息することができる。
【0067】
また、陸域部25は、有機物を分解する土壌生物の生息と微生物活動の活性化とに有効な弱アルカリ性の維持を可能とした土質の土壌30を備えて形成されているので、上陸後のホタルの幼虫は、その蛹化と羽化とを容易に行うことができる。
【0068】
羽化後のホタルは、水槽12内を飛び交いながら交尾を行い、水辺の苔類27aにより形成される卵孵化部27に産卵し、孵化したホタルの幼虫は水域部15の飼育水16中に入って脱皮を繰り返しながら翌年の上陸を待つことになる。
【0069】
しかも、水槽12中で実現されるホタルのこのようなライフサイクルは、水域部15と陸域部25との間に、飼育水16が土壌30内に浸透して水域部15へと回帰する循環水路系を形成して有機的に一体化させることにより可能となり、このような連鎖生態系を形成してホタルの累代にわたる飼育が行われることになる。
【0070】
最後に、以上に述べた本発明を集約するならば、飼育水16,56に共通する特徴点は、次のとおりである。(1)弱アルカリ性の軟水であること、(2)カルシウムを中心に多様なミネラルを適度に含んだ軟水であること、(3)生命維持のための必須栄養源を豊富に有する水であること、(4)酸素を十分に含み、好気性微生物が繁殖する浄化能力の高い水であること、
【0071】
また、ホタルの生態系を成立させることができるための重要な実践課題の一つには、飼育水16,56におけるアンモニウムイオンの動向把握とその管理・維持がある。表9は、塩素を除去した水道水2リットルのそれぞれに、各種の珪砂、サンゴ砂、骨炭を各200ミリリットルを加えて7種類の様々な水環境を作り、アンモニア試薬を0.05ミリリットル添加しながらアンモニウムイオンの経時変化を簡易テスト試薬(テトラテスト)により調査した結果を示すものである。この間、いずれの水環境にもエアーポンプで酸素供給を続けている。
【0072】
【表9】
【0073】
その結果、表9中の1番目と3番目とのあらかじめ硝化細菌を保有していない水槽を除き、実験開始後24時間付近からアンモニウムイオンが急減し始め、その後は検出されなくなった。このことは、アンモニウムイオンが適当な条件下において安定して分解される可能性のあることを示唆している。この現象からは、溶存窒素系化合物を分解する硝化細菌の存在に加え、特に珪砂の使用が効果的であることを窺い知ることができる。また、骨炭は微生物の吸着を行い、珪砂とサンゴ砂とは微生物が着床し易い環境を提供しているものと推測される。なお、表9中に記載されている「せせらぎ」の語は、図2に示す建屋52内の生態系領域11を示している。
【0074】
さらに、ホタルの生態系を成立させることができるための重要なもう一つの実践課題には、アンモニウムイオンの分解過程で生成される亜硝酸イオンの動向把握とその管理・維持がある。表10は、各種濾過素材を利用した亜硝酸イオンの経時分解過程を記録したものであり、水替えをしないなど、モデル生態系と大きく異なる4種類の条件下での実験を示すものである。
【0075】
【表10】
【0076】
表10によれば、亜硝酸分解の特徴として次の諸点が明らかとなった。すなわち、「せせらぎ」で使用されている濾過材では、活性化している硝化細菌が直ちに亜硝酸イオンの分解を始める。ここでも、珪砂は、重要な役割を担っている。亜硝酸イオンは、増減を繰り返す不安定な側面を有している。安定した分解状態が成立するには、1〜3カ月を要する。水替えや濾過材の交換などは、分解過程に大きな役割を果たす。安定的な分解状態になる以前に水替えや過多動物移入などを行って飼育状態を誤ってしまうと、真菌のミズカビ等の発生を招き、水を腐敗させてしまう恐れがある。飼育が順調であれば、たとえカワニナ等が死んでも亜硝酸イオンが順調に分解され、水を腐敗させることはない。
【0077】
さらに、これまでの実験的な研究から得られた知見に基づいて窒素系化合物の処理動向の解明を試みた結果、次のような結論が得られた。
▲1▼生態系の回復のためには、窒素循環系がバランスよく成立する環境とすることが重要である。
▲2▼ホタルやカワニナ、さらには清流の水生動物が生息する自然の生態系下では、 常時緩やかな増減を伴いながらもほぼ一定量のアンモニウムイオンや亜硝酸 イオンが発生しており、それにバランスよく対応して各種硝化細菌が生存し ている。
▲3▼本発明の飼育水16,56においては、アンモニウムイオンや亜硝酸が常時ほとんど0(mg/l)の状態を維持している。このような環境系を自然界でも維持するためには、河川改修、農薬散布、化学肥料添加および排水等に際し、微生物の十分な繁殖活動が阻害されることのないように配慮する必要がある。
▲4▼現況の自然環境下の小川(ホタル復活に向けて一定の環境保全をしている水辺に限定)にあっても、ホタルを中心とした生態系の回復には、岩石や砂等の配置に際して硝化活動が有効に機能するような配慮が必要である。
【0078】
本発明は、以上に述べた知見に基づいて生態系領域11を構築したものであり、このような生態系領域11内でホタルを飼育することにより、ホタルを累代にわたり飼育できることが実証された。
【0079】
【発明の効果】
以上述べたように本発明によれば、水槽や建屋などの仕切られた所要空間内に水域部と陸域部とを形成した上で、これら水域部と陸域部との間に飼育水が土壌内に浸透して水域部へと回帰する循環水路系を形成して有機的に一体化させた連鎖生態系を形成した生態系領域を構築することにより、ホタルを累代にわたり飼育することができる。
【0080】
したがって、本発明によれば、構築された生態系領域が人工的な環境ではあるとしても、年間を通じホタル生息地域の気候風土に合致する温熱環境と動植物相とのもとでホタルを飼育することによりその繁殖を図って、ホタルが乱舞する姿を人々が身近に見ることができる環境を創り出すことができる。
【0081】
また、本発明によれば、生態系領域を一度構築した後は、自然の摂理に任せてホタルに最適な連鎖生態系を維持させることができるので、飼育する際の環境整備に要する保守コストを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1の発明(飼育システム)を水槽に適用して実現した際の概略構成例を模式的に示した説明図。
【図2】第1の発明(飼育システム)を建屋内に構築した際の一例を示す平面図。
【図3】図2におけるA−A線矢視方向での縦断面図。
【図4】同B−B線矢視方向での縦断面図。
【図5】同C−C線矢視方向での縦断面図。
【図6】同D−D線矢視方向での縦断面図。
【図7】第1の発明(飼育システム)を建屋に適用して実現した際の水路部の概略構成例を示す説明図であり、そのうちの(a)は平面図を、(b)は側断面図をそれぞれ示す。
【符号の説明】
11 生態系領域
12 水槽
13 所要空間
14 水底
15 水域部
16 飼育水
17 袋入り骨炭
18 濾過器
18a 気泡
19 変流用部材
20 カワニナ
21 メダカ
22 水中植物
23 動物育成用蛍光灯
24 植物育成用蛍光灯
25 陸域部
25a 地上
26 上陸羽化部
27 卵孵化部
27a 苔類
28 陸上植物
29 ごろた石
30 土壌
31 第一層
32 第二層
33 第三層
34 第四層
35 第五層
36 第六層
37 第七層
38 第八層
39 第九層
40 第十層
45 珪質小石
52 建屋
53 所要空間
55 水域部
56 飼育水
57 水路部
58 防水シート
59 ラス
60 モルタル層
61 那智石(那智黒)
62 透孔
63 流路面
64 水底部
65 混合層
66 第一落込み部
67 土嚢
68 ごろた石
69 石材
70 第二落込み部
71 土嚢
72 ごろた石
73 石材
74 止水板
75 湿地域
76 保水部
77 石材
78 湿地部
79 貯水部
80 湿性植物
81 還流用貯水槽
82 濾過ポンプ
83 濾過槽
84 パイプ
85 透水管
87 囲壁
88 排水桝
89 パイプ
90 排水桝
91 ポンプ
92 排水パイプ
95 陸域部
96 客土層
97 法面
98 植栽帯
99 卵孵化部
100 陸上羽化部
101 木道
Claims (4)
- 年間を通じホタル生息地域の気候風土に合致する温熱環境と動植物相とを付与して仕切られる所要空間内をホタルの生態系領域とし、
該生態系領域は、ホタルの幼虫が脱皮を繰り返しながら成長する水域部と、幼虫上陸後の土中での蛹化とその後の羽化とを経て成虫となったホタルの産卵と孵化とが行われる陸域部とで少なくとも構成され、
前記水域部は、水流を付与して各種の微生物と水生動植物との生存を可能とすべく、カルシウムを中心に多様なミネラルを適度に含んだ弱アルカリ性の軟水であって、酸素を十分に含んで好気性微生物が繁殖する浄化能力の高い水質を保持させた適量の飼育水を湛えてなり、
前記陸域部は、下から順に好気性バクテリア群を着床させる珪砂と砕石とを主とする層、生態系領域の骨格を形成してコケや水草の育成を図りつつ、水質の改善にも寄与させるゴロタ石を主とする層、前記水域部および前記陸域部のpH値を安定させ、カルシウムの補給と水性バクテリア群の生息ベースとしての役割を担い、好気性バクテリアが酸素を地中深く運んで前記水域部の端々へと酸素を巡らせることでホタル幼虫の上陸地から前記飼育水部分への酸素供給の橋渡し機能を発揮させる珪砂を主とする層、上層の重量を受ける下層のためのクッション機能と嫌気性バクテリアを吸着し好気性バクテリアを増繁殖させる機能とを有する珪砂を含む砂を主とする層、ホタル幼虫の上陸地の植物や水中植物に栄養の源を供給し、土壌細菌の着床場としての機能をも果たす骨炭を主とする層、保水性を保持させる黒土を主とする層、ホタル幼虫の上陸地のpH値を調整する赤玉土と砂とを主とする層、ホタル幼虫の上陸地の動植物共用の生育ベースとしての役割を果たす赤玉土と黒土とを混在させた層、保水や排水機能を果たすと同時に、好気性バクテリアを安定的に保持させて上陸したホタル幼虫が安定して蛹になれる蛹化域として供される砂と赤玉土と黒土とを混在させた層として積層形成されて、有機物を分解する土壌生物の生息と微生物活動の活性化とに有効な弱アルカリ性の維持を可能とした土質の土壌を備えてなり、
これら水域部と陸域部との間は、前記飼育水が前記土壌内に浸透して水域部へと回帰する循環水路系を形成して有機的に一体化させたことを特徴とするホタルの累代飼育システム。 - 水槽を介して外部と仕切られた前記所要空間内に形成されるホタルの前記生態系領域は、前記水域部の水底に配置した濾過器が濾過時に生成する水流により前記循環水路系を形成した請求項1に記載のホタル累代飼育システム。
- 建屋を介して外部と仕切られた前記所要空間内に形成されるホタルの前記生態系領域は、前記飼育水に水流を付与して常時流下させる水路部を含んで形成される水域部と、前記水路部の周囲を囲繞するように配設された植栽帯を含んで形成された前記陸域部とを少なくとも備え、前記水路部の最下流に配設されている還流用貯水槽内に流れ込んだ飼育水を濾過ポンプを介して上流側の濾過槽に戻して流下させることで前記循環流路系を形成した請求項1に記載のホタル累代飼育システム。
- 請求項1ないし3のいずれかに記載のホタル累代飼育システムが用いられ、前記水域部と前記陸域部との間に前記飼育水が前記土壌内に浸透して水域部へと回帰する循環水路系を形成して有機的に一体化させた連鎖生態系のもとでホタルを累代飼育することを特徴とするホタルの累代飼育方法。
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