JP3901801B2 - 耐熱鋳鋼および耐熱鋳鋼部品 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高温で長期間使用される部品、例えば蒸気タービン車室等の蒸気タービン部品に適用される耐熱鋳鋼および耐熱鋳鋼部品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、火力発電設備の高温部品材料として、低合金耐熱鋳鋼が使用されていた。低合金耐熱鋳鋼には、Crを重量%で1〜2%含有させて、特に高温強度を高めた2.25Cr−1Mo鋳鋼や1Cr−1Mo−0.25V鋳鋼などがある。
【0003】
しかし、近年の火力発電設備においては、蒸気タービンの熱効率を向上させるため、蒸気温度の高温化が急速に進められている。そのため、蒸気タービン部品やそれに関連する周辺部品は、従来以上高温環境下に曝される。また、発電用の蒸気タービンなどでは、重油系の不純物の多い燃料を使うために、それだけ腐食環境が厳しい。さらに、連続運転期間が格段に長く、点検の間隔が非常に長いために、コーティングが剥離した場合の腐食進行速度が特に重要となる。そこで、高強度で耐環境特性等に優れた9〜12Cr系耐熱鋳鋼が使用されている。9〜12Cr系耐熱鋳鋼は、Crを重量%で9〜12%程度含有させることにより耐酸化性を高めているが、高温強度は小さい。そのため、9〜12Cr系耐熱鋳鋼においては、Mo、V、Nbなどを添加することにより、高温強度を大きくしている。9〜12Cr系耐熱鋳鋼などの高強度鋳鋼は、部材の肉厚増を抑制することができ、タービンの起動停止にともなう熱応力の低減も可能になるため、タービンの運用性向上にも貢献している。
【0004】
現在、火力発電プラントにおいては、前記した特性とともに優れた経済性が要求される傾向にある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した9〜12Cr系耐熱鋳鋼などの高強度鋳鋼は、部材の肉厚増を抑制することができ、またタービンの起動停止に伴う熱応力の低減をすることができるなど、タービンの運用性の向上にも貢献しているが、高温強度や衝撃抵抗などの機械的性質、溶接性などの製造性および経済性を同時に満足させることができなかった。
【0006】
本発明はこのような課題に対処するためになされたものであり、従来の9〜12Cr系耐熱鋳鋼などの高強度鋳鋼に匹敵する高温強度などの機械的性質を有し、高温の蒸気環境中で安定な運用ができる耐熱鋳鋼および耐熱鋳鋼部品を提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明の化学組成範囲の耐熱鋳鋼を用いることにより、蒸気タービン車室および蒸気タービン弁箱などの耐熱鋳鋼部品を製造する際に、溶接性などの製造性を向上させた耐熱鋳鋼および耐熱鋳鋼部品を提供することを目的とする。
【0008】
さらに、本発明の化学組成範囲の耐熱鋳鋼を用いることにより、経済性に優れた耐熱鋳鋼および耐熱鋳鋼部品を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、9〜12Cr系耐熱鋳鋼などの高強度鋳鋼に匹敵する高温強度を有する耐熱鋳鋼および耐熱鋳鋼部品を開発すべく研究を行った結果、本発明に至ったものである。
【0010】
即ち、請求項1記載の耐熱鋳鋼は、重量%で、C:0.04〜0.15%、Si:0.1〜0.4%、Mn:0.1〜0.5%、Ni:0.01〜0.5%、Cr:2.0〜4.0%、V:0.15〜0.3%、W:3.0〜5.0%、Nb:0.04〜0.15%、N:0.005〜0.03%、O:0.01%未満、Al:0.002〜0.02%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする。
【0011】
請求項2記載の耐熱鋳鋼は、重量%で、C:0.05〜0.12%、Si:0.1〜0.3%、Mn:0.1〜0.3%、Ni:0.01〜0.3%、Cr:2.0〜4.0%、V:0.15〜0.3%、W:3.0〜4.0%、Nb:0.04〜0.1%、N:0.005〜0.03%、O:0.01%未満、Al:0.002〜0.01%、B:0.0005〜0.005%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする。
【0012】
請求項3記載の耐熱鋳鋼は、重量%で、C:0.04〜0.15%、Si:0.1〜0.4%、Mn:0.1〜0.5%、Ni:0.01〜0.5%、Cr:2.0〜4.0%、Mo:0.4〜1.0%、V:0.15〜0.3%、W:3.0〜5.0%、Nb:0.04〜0.15%、N:0.005〜0.03%、O:0.01%未満、Al:0.002〜0.02%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする。
【0013】
請求項4記載の耐熱鋳鋼は、重量%で、C:0.05〜0.12%、Si:0.1〜0.3%、Mn:0.1〜0.3%、Ni:0.01〜0.3%、Cr:2.0〜4.0%、Mo:0.4〜1.0%、V:0.15〜0.3%、W:3.0〜4.0%、Nb:0.04〜0.1%、N:0.005〜0.03%、O:0.01%未満、Al:0.002〜0.01%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする。
【0014】
請求項5記載の耐熱鋳鋼は、重量%で、C:0.04〜0.15%、Si:0.1〜0.4%、Mn:0.1〜0.5%、Ni:0.01〜0.5%、Cr:2.0〜4.0%、Mo:0.4〜1.0%、V:0.15〜0.3%、W:3.0〜5.0%、Nb:0.04〜0.15%、B:0.0005〜0.008%、N:0.005〜0.03%、O:0.01%未満、Al:0.002〜0.02%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする。
【0015】
請求項6記載の耐熱鋳鋼は、重量%で、C:0.05〜0.12%、Si:0.1〜0.3%、Mn:0.1〜0.3%、Ni:0.01〜0.3%、Cr:2.0〜4.0%、Mo:0.4〜1.0%、V:0.15〜0.3%、W:3.0〜4.0%、Nb:0.04〜0.1%、B:0.0005〜0.005%、N:0.005〜0.03%、O:0.01%未満、Al:0.002〜0.01%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする。
【0016】
請求項7記載の耐熱鋳鋼は、請求項1〜6記載の耐熱鋳鋼において、重量%で、Pを0.01%未満、Sを0.01%未満とすることを特徴とする。
【0017】
請求項8記載の耐熱鋳鋼は、請求項1〜7記載の耐熱鋳鋼において、重量%で、Coを0.01〜0.4%含有することを特徴とする。
【0018】
請求項9記載の耐熱鋳鋼部品は、請求項1〜8記載のいずれかの耐熱鋳鋼によって、蒸気タービン車室および蒸気タービン弁箱等の蒸気タービン部品を構成したことを特徴とする。
【0019】
本発明において、上記のように成分を限定した理由について説明する。
【0020】
C(炭素)は、Fe(鉄)、Cr(クロム)、Nb(ニオブ)およびV(バナジウム)等と結合して炭化物を形成して、析出強化に寄与する。また、Cは焼入れ性を確保するために必要な元素である。Cの含有量を0.04〜0.15%と規定したが、0.15%を超えると溶接性が低下し、また炭化物の粗大化が促進してクリープ破断強度が低下する。含有量が0.04%未満においては、十分なクリープ破断強度が得られず、また焼入れ性を確保することができない。さらに、Cの含有量を0.05〜0.12%と規定することにより、析出強化と焼き入れ効果を向上させることができる。
【0021】
Si(ケイ素)は脱酸剤として有用であり、また良好な鋳造性を確保するために不可欠な元素である。Siの含有量を0.1〜0.4%と規定したが、含有量が0.4%を超えると、著しく介在物量が増加して組織清浄度が低下し、著しい靭性の低下と脆化が起こる。一方、含有量が0.1%未満においては十分な脱酸効果と鋳造性が得られない。さらに、Siの含有量を0.1〜0.3%と規定したが、その上限を0.3%に制限することにより、十分な脱酸効果と鋳造性を得ることができる。
【0022】
Mn(マンガン)は、脱硫剤として有用な元素である。Mnの含有量を0.1〜0.5%と規定したが、含有量が0.5%を超えると、クリープ抵抗が低下し、含有量が0.1%未満においては十分な脱硫効果が得られない。さらに、Mnの含有量を0.1〜0.3%と規定したが、その上限を0.3%に制限することにより、十分な脱硫効果を得ることができる。
【0023】
Ni(ニッケル)には、焼入れ性と靭性を向上させる作用がある。Niの含有量を0.01〜0.5%と規定したが、含有量が0.5%を超えると、クリープ抵抗が著しく低下してしまい、含有量が0.01%未満においては、焼入れ性と靭性を向上させる効果が得られない。さらに、Niの含有量を0.01〜0.3%と規定したが、その上限を0.3%に制限することにより、焼入れ性と靭性を向上させることができる。
【0024】
Cr(クロム)は、耐酸化性と耐食性を向上させ、また析出強化に寄与する析出物の構成元素として必要不可欠である。Crの含有量を2.0〜4.0%と規定した理由は、含有量が4.0%を超えると、靭性と溶接性が悪化し、含有量が2.0%未満においては、耐酸化性と耐食性が得られないためである。
【0025】
V(バナジウム)は固溶強化を行い、また微細炭窒化物を形成する元素である。Vの含有量を0.15〜0.3%と規定したが、含有量が0.3%を超えると、靭性とクリープ破断強度が低下し、含有量が0.15%未満においては微細析出物が粒内に析出し、回復を抑制してしまう。
【0026】
W(タングステン)は固溶強化を行い、また炭化物中へ置換して析出強化を行う元素である。Wの含有量を2.0〜5.0%と規定したのは、含有量が5.0%を超えると靭性と加熱脆化特性が著しく低下し、含有量が2.0%未満においては固溶量を長時間にわたり高く維持することができない。さらに、Wの含有量を2.0〜4.0%と規定して、その上限を4.0%に制限することにより、より固溶強化と析出強化の効果を得ることができる。
【0027】
Nb(ニオブ)は、CとN等と結合して微細な炭窒化物Nb(C、N)を形成し、析出分散強化を行う元素である。Nbの含有量が0.15%を超えると偏析が起きたり、また未固溶である粗大な炭窒化物Nb(C、N)の体積率が急激に増加し、また微細なNb(C、N)の凝集粗大化が加速する。これらにより、含有量が0.15%を超えると介在物量が増えて組織清浄度が低下し、著しく靭性が低下し脆化が促進してしまう。一方、含有量が0.04%未満の場合には炭窒化物Nb(C、N)の析出密度が低いために、析出分散強化の効果を得られず、クリープ強度が低下してしまう。従って、Nbの含有量を0.04〜0.15%と規定した。
【0028】
N(窒素)は、窒化物と炭窒化物を形成して析出強化を行う元素であり、また、母相中に残存するNは固溶強化に寄与する元素である。Nの含有量を0.005〜0.03%と規定したが、含有量が0.03%を超えると、窒化物と炭窒化物の粗大化が促進され、クリープ強度が低下し粗大生成物の生成を促進してしまう。一方、含有量が0.005%未満においては析出強化と固溶強化の効果が得られない。
【0029】
O(酸素)は、鋳鋼を製造する際の鋳込み時に不可避的に混入する元素であり、Oの含有量を0%とすることは極めて難しい。Oの含有量を0.01%未満と規定したが、含有量が0.01%を超えると、Oが他の金属元素との間で酸化物を形成する傾向が著しいためである。
【0030】
Al(アルミニウム)は、脱酸剤として有用な元素である。含有量を0.002〜0.02%と規定したが、含有量が0.02%を超えると、粗大生成物の形成を促進して、加熱後の脆化を促進してしまう。含有量が0.002%未満においては、脱酸効果が得られない。
【0031】
B(ホウ素)は微量の添加で焼入れ性を高め、また炭窒化物の高温長時間安定化を可能にする元素である。しかし、Bの含有量が0.008%を超えると、溶接性が著しく低下し、粗大生成物の形成が促進する。Bの含有量を0.0005〜0.005%と規定したのは、Bの含有量を0.005%に制限することで溶接性をさらに高め、粗大生成物の形成を抑制するためである。また、含有量が0.0005%未満においては、結晶粒界とその近傍に析出する炭化物の粗大化抑制効果が発揮されない。
【0032】
Mo(モリブデン)は固溶強化元素および炭化物の構成元素として有用な元素である。そして、Wとの複合添加により固溶強化の効果が大きくなる。Moの含有量を0.4〜1.0%と規定したが、含有量が1.0%を超えると、靭性が著しく低下し、含有量が0.4%未満においては固溶強化の効果が得られないためである。さらに、Moの含有量を0.4〜1.0%と規定した理由は、含有量が1.0%を超えると靭性が著しく低下して、含有量が0.4%においては固溶強化の効果が得られない。
【0033】
P(リン)とS(硫黄)は、鋳鋼を製造する際に不純物元素として不可避的に混入する元素である。Pの含有量を0.01%未満に規定したが、これは脆化の程度を小さく抑制するためである。
【0034】
またSについても、Sの含有量を0.01%未満に規定したが、これは脆化の程度を小さく抑制し、介在物の形成を抑制するためである。
【0035】
Co(コバルト)は微量添加で高温延性の向上に寄与する元素である。Coの含有量を0.01〜0.4%と規定したが、含有量が0.4%を超えると靭性が低下し、含有量が0.01%未満においては上記効果が得られない。
【0036】
なお、請求項1〜8までの耐熱鋳鋼において、上記成分ならびに主成分であるFeを添加する際に付随的に混入する不純物は極力低減することが望ましい。
【0037】
以上のことから、本発明で得られる耐熱鋳鋼を蒸気タービン車室および蒸気タービン弁箱等に用いることにより、高温下においても高強度を有し、さらに脆化しにくい耐熱鋳鋼部品を得ることができる。
【0038】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る耐熱鋳鋼および耐熱鋳鋼部品の実施形態について、実施例と比較例とともに説明する。
【0039】
第1実施形態(表1〜4、図1〜4)
第1実施形態では、本発明の組成範囲にある耐熱鋳鋼が優れたクリープ破断強度を有することの確認を行った。即ち、クリープ破断強度に影響を与える成分としては、C、Mn、Ni、V、Nb、N、Cr等が挙げられるが、本実施形態では、表1〜4に示すように、C、Ni、Cr、Vについての化学組成範囲を変化させた耐熱鋳鋼の試料を作成して、強度試験を行った。
【0040】
表1は、Cの含有量を重量%で0〜0.19%の範囲で変化させた耐熱鋳鋼の成分組成を示している。
【0041】
なお、他の成分組成については、重量%で、Si:0.18〜0.19%、Mn:0.2%、P:0.006〜0.008%、S:0.004〜0.005%、Ni:0.02%、Cr:2.4〜2.6%、V:0.25%、Mo:0.5%、W:2.8〜3.0%、Nb:0.08%、N:0.01〜0.015%、O:0.005%、Al:0.003〜0.005%、B:0.006〜0.007%の範囲で略同一とした。
【0042】
【表1】
【0043】
このような化学組成範囲にある耐熱鋳鋼材料を電気炉で溶解後、炉外精錬にて不純物を低減させた。その後、砂型に鋳込んだ鋳塊を焼鈍後徐冷し、続いて焼ならしを行って組織を標準化させた。その後、Ms点以下まで強制冷却による焼入れを行い、さらに焼戻しを行った後、いずれも750〜800MPaの引張強さに調整した。
【0044】
得られた耐熱鋳鋼の試料についてクリープ破断試験を行い、クリープ破断試験結果より内挿で求めた580℃における10万時間破断強度を調査した。その結果を図1に示す。なお図中においては、本発明の実施例を○、比較例を●、本発明の化学組成範囲を破線で表した。
【0045】
図1に示すように、Cの含有量が本発明の化学組成範囲である0.04〜0.15%にある耐熱鋳鋼は、炭化物の粗大化が抑制され、いずれの実施例試料も100MPa以上の優れた破断強度を示した。特にCの含有量が0.05〜0.12%の場合には、破断強度が向上することが認められた。これに対し、Cの含有量が0.04%未満または0.15%を超える比較例試料では破断強度が低かった。
【0046】
表2は、Niの含有量を重量%で0.015〜0.7%の範囲で変化させた耐熱鋳鋼の成分組成を示している。
【0047】
なお他の成分組成については、重量%で、C:0.07〜0.09%、Si:0.18〜0.21%、Mn:0.19〜0.2%、P:0.007〜0.008%、S:0.004〜0.005%、Cr:2.4〜2.6%、V:0.25%、Mo:0.5%、W:2.8〜3.0%、Nb:0.08%、N:0.01〜0.015%、O:0.005%、Al:0.003〜0.005%、B:0.006〜0.007%の範囲で略同一とした。
【0048】
【表2】
【0049】
このような化学組成範囲にある耐熱鋳鋼材料を上記した方法と同様の処理を施した試料を作成した。
【0050】
得られた耐熱鋳鋼の試料についてクリープ破断試験を行い、クリープ破断試験結果より内挿で求めた580℃における10万時間破断強度を調査した。その結果を図2に示す。なお図中においては、本発明の実施例を○、比較例を●、本発明の化学組成範囲を破線で表した。
【0051】
図2に示すように、Niの含有量が本発明の化学組成範囲である0.01〜0.5%にある耐熱鋳鋼は、焼入れ性と靭性が向上するため、いずれの実施例試料も100MPaを超え、優れた破断強度を示した。特にNiの含有量が0.01〜0.3%の場合には、破断強度が向上することが認められた。これに対し、Niの含有量が0.01%未満または0.3%を超える比較例試料では破断強度が低かった。
【0052】
表3は、Crの含有量を重量%で1.0〜5.1%の範囲で変化させた耐熱鋳鋼の成分組成を示している。
【0053】
なお、他の成分組成については、重量%で、C:0.07〜0.1%、Si:0.18〜0.21%、Mn:0.19〜0.2%、P:0.006〜0.008%、S:0.004〜0.005%、Ni:0.02%、V:0.25%、Mo:0.5%、W:2.8〜3.0%、Nb:0.08%、N:0.01〜0.015%、O:0.005%、Al:0.003〜0.005%、B:0.006〜0.007%の範囲で略同一とした。
【0054】
【表3】
【0055】
このような化学組成範囲にある耐熱鋳鋼材料を上記した方法と同様の処理を施した試料を作成した。
【0056】
得られた耐熱鋳鋼の試料についてクリープ破断試験を行い、クリープ破断試験結果より内挿で求めた580℃における10万時間破断強度を調査した。その結果を図3に示す。なお図中においては、本発明の実施例を○、比較例を●、本発明の化学組成範囲を破線で表した。
【0057】
図3に示すように、Crの含有量が本発明の化学組成範囲である2.0〜4.0%にある耐熱鋳鋼は、析出強化に寄与するために、いずれの実施例試料も110MPaを超え、優れた破断強度を示した。これに対し、Crの含有量が2.0%未満または4.0%を超える比較例試料では破断強度が低かった。
【0058】
表4は、Vの含有量を重量%で0.08〜0.39%の範囲で変化させた耐熱鋳鋼の成分組成を示している。
【0059】
なお、他の成分組成については、重量%で、C:0.07〜0.09%、Si:0.18〜0.21%、Mn:0.19〜0.2%、P:0.006〜0.008%、S:0.004〜0.005%、Ni:0.02%、Cr:2.4〜2.6%、Mo:0.5%、W:2.8〜3.0%、Nb:0.08%、N:0.01〜0.015%、O:0.005%、Al:0.003〜0.005%、B:0.006〜0.007%の範囲で略同一とした。
【0060】
【表4】
【0061】
図4に示すように、Vの含有量が本発明の化学組成範囲である0.15〜0.3%にある耐熱鋳鋼は、固溶強化され、また析出強化にも寄与するために、いずれの実施例試料も110MPaを超え、優れた破断強度を示した。これに対し、Vの含有量が0.15%未満または0.3%を超える比較例試料では破断強度が低かった。
【0062】
第2実施形態(表5〜6、図5〜6)
第2実施形態では、本発明の組成範囲にある耐熱鋳鋼が高い組織清浄度を有することの確認を行った。即ち、組織清浄度に影響を与える成分としては、B、N、O、Al、Mn、Nb等が挙げられるが、本実施形態では、表5〜10に示すように、B、Nについての化学組成範囲を変化させた耐熱鋳鋼の試料を作成して組織清浄度試験を行った。
【0063】
表5は、Bの含有量を重量%で0〜0.011%の範囲で変化させた耐熱鋳鋼の成分組成を示している。
【0064】
なお、他の成分組成については、重量%で、C:0.05〜0.07%、Si:0.1%、Mn:0.19〜0.22%、P:0.007〜0.008%、S:0.004〜0.005%、Ni:0.02%、Cr:2.9〜3.2%、V:0.2%、W:2.9〜3.0%、Nb:0.07%、N:0.019〜0.022%、O:0.008%、Al:0.005〜0.008%の範囲で略同一とした。
【0065】
【表5】
【0066】
なお、鋳鋼の製造方法および引張強さの設定は第1実施形態と同様である。
【0067】
得られた耐熱鋳鋼について、耐熱鋳鋼中に生成する介在物の量をJIS G 0555に従って測定した。その結果を図5に示す。
【0068】
また、図5には、表5の化学組成を有する耐熱鋳鋼について、クリープ破断試験を行い、クリープ破断試験結果より内挿で求めた580℃における10万時間破断強度を調査した結果を介在物の量とともに示す。
【0069】
図5に示すように、Bの含有量が本発明の化学組成範囲である0.0005〜0.005%にある耐熱鋳鋼は、介在物量がいずれの実施例試料においても0.025%以下であり、高い組織清浄度を示した。これに対し、Bの含有量が0.0005%未満の比較例試料は破断強度が低下した。また、含有量が0.008%を超える比較例試料は著しく介在物量が増加し、組織清浄度が低下した。
【0070】
表6は、Nの含有量を重量%で、0.002〜0.04%の範囲で変化させた耐熱鋳鋼の成分組成を示している。
【0071】
なお、他の成分組成については、重量%で、C:0.12〜0.14%、Si:0.18〜0.21%、Mn:0.19〜0.2%、P:0.006〜0.008%、S:0.004〜0.006%、Ni:0.3〜0.32%、Cr:3.5〜3.7%、V:0.25%、W:3.7〜3.9%、Nb:0.1%、O:0.006%、Al:0.01%、B:0.001〜0.002%の範囲で略同一とした。
【0072】
【表6】
【0073】
なお、鋳鋼の製造方法および引張強さの設定は第1実施形態と同様である。
【0074】
得られた耐熱鋳鋼について、耐熱鋳鋼中に生成する介在物の量をJIS G 0555に従って測定した。その結果を図6に示す。
【0075】
また、図6には、表6の化学組成を有する耐熱鋳鋼について、クリープ破断試験を行い、クリープ破断試験結果より内挿で求めた580℃における10万時間破断強度を調査した結果を介在物の量とともに示す。
【0076】
図6に示すように、Nの含有量が本発明の化学組成範囲である0.002〜0.04%にある耐熱鋳鋼は、介在物量がいずれの実施例試料も0.02%以下であり、高い組織清浄度を示した。これに対し、Nの含有量が0.005%未満の比較例試料は、破断強度が低下した。また、含有量が0.03%を超える比較例試料は著しく介在物量が増加し、組織清浄度が低下した。
【0077】
第3実施形態(表7、図7)
第3実施形態では、本発明の組成範囲にある耐熱鋳鋼が優れた耐脆化性を有することの確認を行った。即ち、耐脆化性に影響を与える成分としては、Si、P、S、W、Fe、Mo、Co等が挙げられるが、表7に示すように、Wについての化学組成範囲を変化させた耐熱鋳鋼の試料を作成して、耐脆化性試験を行った。
【0078】
表7は、Wの含有量を重量%で、1.09〜5.51%の範囲に変化させた耐熱鋳鋼の成分組成を示している。
【0079】
なお、他の成分組成については、重量%で、C:0.1〜0.12%、Si:0.18〜0.2%、Mn:0.02〜0.03%、P:0.006〜0.008%、S:0.004〜0.005%、Ni:0.05%、Cr:2.3〜2.5%、V:0.2〜0.23%、Mo:0.5〜0.7%、Nb:0.08〜0.1%、N:0.02〜0.03%、O:0.007%、Al:0.003〜0.005%の範囲で略同一とした。
【0080】
【表7】
【0081】
なお、鋳鋼の製造方法および引張強さの設定は第1実施形態と同様である。
【0082】
得られた耐熱鋳鋼について、焼戻し後の状態における20℃衝撃値と600℃で10、000h時効後の衝撃値の比を測定した。その結果を図7に示す。
【0083】
さらに、図7には、表14の化学組成を有する耐熱鋳鋼について、クリープ破断試験を行い、クリープ破断試験結果より内挿で求めた580℃における10万時間破断強度を調査した結果を20℃衝撃値の比とともに示す。
【0084】
図7に示すように、Wの含有量が本発明の化学組成範囲である2.0〜4.0%にある耐熱鋳鋼は、20℃衝撃値の比がいずれの実施例試料も0.7%以上であり、脆化が抑制された。これに対し、Wの含有量が2.0%未満の比較例試料では、クリープ強度が低下した。
【0085】
第4実施形態(表8、図8)
第4実施形態では、本発明の組成範囲にある耐熱鋳鋼が優れた溶接性を有することの確認を行った。即ち、溶接性に影響を与える成分としては、B等が挙げられるが、本実施形態では、表8に示すようにBについての化学組成範囲を変化させた耐熱鋳鋼の試料を作成して、溶接性試験を行った。
【0086】
表8は、Bの含有量を重量%で、0〜0.015%の範囲で変化させた耐熱鋳鋼の成分組成を示している。
【0087】
なお、他の成分組成については、重量%で、C:0.05〜0.07%、Si:0.1%、Mn:0.19〜0.22%、P:0.006〜0.008%、S:0.004〜0.017%、Ni:0.2%、Cr:2.9〜3.2%、V:0.2%、W:2.9〜3.0%、Nb:0.07%、N:0.019〜0.022%、O:0.008%、Al:0.005〜0.008%の範囲で略同一とした。
【0088】
【表8】
【0089】
なお、鋳鋼の製造方法および引張強さの設定は第1実施形態と同様である。
【0090】
得られた耐熱鋳鋼について、各鋳鋼について5つのサンプルを用いて、ビードオンプレート法による割れ発生頻度を測定した。その結果を図8に示す。
【0091】
図8に示すように、Bの含有量が本発明の化学組成範囲である0.0005〜0.005%にある耐熱鋳鋼は、いずれの実施例試料においても溶接割れが認められなかった。これと反対に、Bを含有させない比較例試料は、破断強度が低かった。
【0092】
【発明の効果】
以上で説明したように、本発明による耐熱鋳鋼および耐熱鋳鋼部品によれば、蒸気タービン車室や蒸気タービン弁箱等のように過酷な蒸気条件下に曝される部品においても、高温強度などの機械的性質、溶接性などの製造性および経済性を確保することができ、長時間にわたり高い信頼性を発揮する蒸気タービンを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1実施形態を説明する図で、Cの含有量を変化させて耐熱鋳鋼のクリープ試験結果について示すグラフ。
【図2】 本発明の第1実施形態を説明する図で、Niの含有量を変化させて耐熱鋳鋼のクリープ試験結果について示すグラフ。
【図3】 本発明の第1実施形態を説明する図で、Crの含有量を変化させて耐熱鋳鋼のクリープ試験結果について示すグラフ。
【図4】 本発明の第1実施形態を説明する図で、Vの含有量を変化させて耐熱鋳鋼のクリープ試験結果について示すグラフ。
【図5】 本発明の第2実施形態を説明する図で、Bの含有量を変化させて耐熱鋳鋼内に生成する介在物量とクリープ試験結果について示すグラフ。
【図6】 本発明の第2実施形態を説明する図で、Nの含有量を変化させて耐熱鋳鋼内に生成する介在物量とクリープ試験結果について示すグラフ。
【図7】 本発明の第3実施形態を説明する図で、Wの含有量を変化させて耐熱鋳鋼の時効前後の衝撃値の比とクリープ試験結果について示すグラフ。
【図8】 本発明の第4実施形態を説明する図で、Bの含有量を変化させて耐熱鋳鋼の溶接割れ発生頻度について示すグラフ。
Claims (9)
- 重量%で、C:0.04〜0.15%、Si:0.1〜0.4%、Mn:0.1〜0.5%、Ni:0.01〜0.5%、Cr:2.0〜4.0%、V:0.15〜0.3%、W:3.0〜5.0%、Nb:0.04〜0.15%、N:0.005〜0.03%、O:0.01%未満、Al:0.002〜0.02%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする耐熱鋳鋼。
- 重量%で、C:0.05〜0.12%、Si:0.1〜0.3%、Mn:0.1〜0.3%、Ni:0.01〜0.3%、Cr:2.0〜4.0%、V:0.15〜0.3%、W:3.0〜4.0%、Nb:0.04〜0.1%、N:0.005〜0.03%、O:0.01%未満、Al:0.002〜0.01%、B:0.0005〜0.005%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする耐熱鋳鋼。
- 重量%で、C:0.04〜0.15%、Si:0.1〜0.4%、Mn:0.1〜0.5%、Ni:0.01〜0.5%、Cr:2.0〜4.0%、Mo:0.4〜1.0%、V:0.15〜0.3%、W:3.0〜5.0%、Nb:0.04〜0.15%、N:0.005〜0.03%、O:0.01%未満、Al:0.002〜0.02%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする耐熱鋳鋼。
- 重量%で、C:0.05〜0.12%、Si:0.1〜0.3%、Mn:0.1〜0.3%、Ni:0.01〜0.3%、Cr:2.0〜4.0%、Mo:0.4〜1.0%、V:0.15〜0.3%、W:3.0〜4.0%、Nb:0.04〜0.1%、N:0.005〜0.03%、O:0.01%未満、Al:0.002〜0.01%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする耐熱鋳鋼
- 重量%で、C:0.04〜0.15%、Si:0.1〜0.4%、Mn:0.1〜0.5%、Ni:0.01〜0.5%、Cr:2.0〜4.0%、Mo:0.4〜1.0%、V:0.15〜0.3%、W:3.0〜5.0%、Nb:0.04〜0.15%、B:0.0005〜0.008%、N:0.005〜0.03%、O:0.01%未満、Al:0.002〜0.02%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする耐熱鋳鋼。
- 重量%で、C:0.05〜0.12%、Si:0.1〜0.3%、Mn:0.1〜0.3%、Ni:0.01〜0.3%、Cr:2.0〜4.0%、Mo:0.4〜1.0%、V:0.15〜0.3%、W:3.0〜4.0%、Nb:0.04〜0.1%、B:0.0005〜0.005%、N:0.005〜0.03%、O:0.01%未満、Al:0.002〜0.01%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする耐熱鋳鋼。
- 請求項1〜6記載の耐熱鋳鋼において、重量%で、Pを0.01%未満、Sを0.01%未満とすることを特徴とする耐熱鋳鋼。
- 請求項1〜7記載の耐熱鋳鋼において、重量%で、Coを0.01〜0.4%含有することを特徴とする耐熱鋳鋼。
- 請求項1〜8記載のいずれかの耐熱鋳鋼によって、蒸気タービン車室および蒸気タービン弁箱などの蒸気タービン部品を構成したことを特徴とする耐熱鋳鋼部品。
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