JP3897661B2 - D−マンノースの測定方法及び測定用試薬 - Google Patents
D−マンノースの測定方法及び測定用試薬 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、酵素法による安価で正確かつ簡便なD−マンノースの測定方法及び測定用試薬に関する。
【0002】
【従来の技術】
ヘキソースの1種であるD−マンノースは、生体内では、主に糖タンパク質や糖脂質などの糖鎖合成に利用されており、糖タンパク質の生合成や分泌、さらには、糖タンパク質の機能発現に重要な役割を果たしている。また、D−マンノースは、ヒト血中にも微量に存在しており、その供給経路は食物由来からの吸収はなく、主にグルコース代謝系(即ち、グルコース→グルコース−6−リン酸→フルクトース−6−リン酸→マンノース−6−リン酸)から供給されている。また、マンノース−6−リン酸から合成されるGDP−マンノース(マンノース−6−リン酸→マンノース−1−リン酸→GDP−マンノース)は、マンノース糖鎖合成のドナーとして、重要な役割を果たしていることが知られている。
【0003】
D−マンノースの血中濃度は、多くの報告があるが、平均値で16〜81μM、SDの範囲では11〜142μMとされている(「日本臨牀」, 1995年, 第53巻(増刊号), p.579-581)。血中のD−マンノース濃度は、血糖コントロール不良の糖尿病(「クリニカ・クリミカ・アクタ(Clin. Clim. Acta)」, 1996年, 第251巻, p.91-103)や真菌感染症(「ジャーナル・オブ・クリニカル・マイクロバイオロジー(J. Clin. Microbiol.)」, 1985年, 第21巻(6), p.972-979)の患者で上昇することが知られており、これら疾患の診断に有用であることが示唆されている。
【0004】
糖尿病患者では、空腹時の血清マンノースが健常者の3〜5倍に上昇し、グルコースとよく相関することが知られている(「防衛医科大学校雑誌」, 1990年, 第15巻(4), p.217-223;「クリニカ・クリミカ・アクタ(Clin. Chim. Acta)」, 1996年, 第251巻, p.91-103)。特に、ケトアシドーシスの症例においては、約670μM(健常者平均値の50倍)に達し、治療で約50μMにまで改善した(「防衛医科大学校雑誌」, 1990年, 第15巻(4), p.217-223)。糖尿病の合併症では、網膜症の発症群で、血清マンノースが有意に高値だった(「糖尿病」, 1990年, 第33巻(Sup.), p.144;「糖尿病」, 1991年, 第34巻(Sup.), p.277)。白内障患者のレンズ中の糖鎖に含まれるマンノースの割合は、糖尿病群では非糖尿病群より高かった(「防衛医科大学校雑誌」, 1993年, 第18巻(4), p.308-315)。妊娠糖尿病では、妊娠の初期、中期、後期を通じ、糖尿病群の血清マンノースは正常群より高く、妊娠初期のマンノース高値群で自然流産の頻度が高かった(「糖尿病」, 1990年, 第33巻(9), p.719-725)などの報告がある。また、免疫力の低下した患者で問題になる真菌症、特に、カンジダ症においては、血清マンノースが110〜1,315μM(健常者平均値の63倍)と、著しく上昇していたとの報告がある(「日本臨牀」, 1995年, 第53巻(増刊号), p.579-581;「日本医事新報」, 1987年, No.3286, p.46-48)。
【0005】
生化学検査のほとんどの項目は、汎用の自動分析装置で測定されている。また、近年の医療費の高騰により、汎用の自動分析装置に対応できない、即ち、特殊な分析装置を必要とし、人手が必要で人件費のかかる検査項目は、事実上、臨床応用が困難な状況にある。これまで、D−マンノースの測定法として数多くの報告はあるが、何れも煩雑な操作を必要とするため、自動分析装置での測定は困難であった(「クリニカル・ケミストリー(Clin. Chem.)」, 1997年, 第43巻(3), p.533-538)。
【0006】
最も信頼できるD−マンノースの測定法として、キャピラリー・ガスクロマトグラフィー(GC)法(防衛医科大学校雑誌 15(4) p217-223(1990))やガスクロマトグラフィー・マススペクトロメトリー(GC−MS)法(「クリニカ・キミカ・アクタ(Clin. Chim. Acta)」, 1996年, 第251巻, p.91-103)などの分離分析法が報告されているが、何れも、煩雑な前処理と高度なメンテナンス技術を要する特殊な装置を必要としていた。
【0007】
また、酵素を用いたD−マンノースの測定法も幾つか報告されている。ひとつは、マンノースをヘキソキナーゼ(EC2.7.1.1)でリン酸化してマンノース−6−リン酸を生成させ、生成したマンノース−6−リン酸をマンノースリン酸イソメラーゼ(EC5.3.1.8)でフルクトース−6−リン酸へ異性化し、さらに、フルクトース−6−リン酸をグルコースリン酸イソメラーゼ(EC5.3.1.9)でグルコース−6−リン酸に異性化後、検体中のマンノース量に応じて生成したグルコース−6−リン酸を、補酵素の存在下にグルコース−6−リン酸脱水素酵素(EC1.1.1.49)を用いて酸化し、この反応によって生じた補酵素の還元体を分光光度計で測定するものである(「クリニカル・ケミストリー(Clin. Chem.), 1984年, 第30巻(2), p.293-294)。この酵素系でD−マンノースを測定する場合、ヘキソキナーゼはグルコースもリン酸化するため、多量のグルコース−6−リン酸を生じ、これがグルコース−6−リン酸脱水素酵素と反応することになる。特に、ヒト血清中においては、グルコース量はマンノース量の100倍ぐらいに達するため、測定前に、効率的に除去しておく必要がある。
【0008】
ソヤマ(Soyama)ら(「クリニカル・ケミストリー(Clin. Chem.), 1984年, 第30巻(2), p.293-294)及びアカザワ(Akazawa)ら(「ジャーナル・オブ・クリニカル・エンドクリノロジー・アンド・メタボリズム(J. Clin. Endocrinol. Metab.)」, 1986年, 第62巻(5), p.984-989)は、グルコースオキシダーゼを用いてグルコースを除去する方法を報告している。具体的には、グルコースオキシダーゼとカタラーゼを用いて予め試料中のグルコースを除去し、アデノシン三リン酸の存在下、マンノースにヘキソキナーゼを作用させてマンノース−6−リン酸に変換し、続いてマンノース−6−リン酸イソメラーゼを作用させてフルクトース−6−リン酸に変換した後、更にグルコース−6−リン酸イソメラーゼを作用させてグルコース−6−リン酸とし、最後に、補酵素ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(以下、NADと示す)の存在下、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼを作用させて生じた還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(以下、NADHと示す)の吸光度(340nm)を分光光度計で測定することにより、マンノースを定量している。しかしながら、本測定法では、グルコースの除去が不完全であったり、長時間に反応すると、マンノースまで反応してしまうという問題があった(「クリニカル・ケミストリー(Clin. Chem.)」, 1997年, 第43巻(3), p.533-538)。
【0009】
上記酵素法の改良として、ピトカネン(Pitkanen)らにより、グルコースやフルクトースが共存する試料に、アデノシン三リン酸及びニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(以下、NADPと示す)存在下、ヘキソキナーゼ、グルコース−6−リン酸イソメラーゼを作用させて、グルコースやフルクトースをグルコース−6−リン酸に変換し、更にグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼを添加してグルコース−6−リン酸をグルコン酸−6−リン酸に変換し、このときに生じる還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(以下、NADPHと示す)を塩酸酸性下で分解することにより、グルコース等による影響を除去した後、上記方法と同様にして、マンノースにヘキソキナーゼ、マンノース−6−リン酸イソメラーゼ、グルコース−6−リン酸イソメラーゼ、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼを作用させて生じたNADPHの吸光度(340nm)を測定するマンノースの定量方法が報告されている(「ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・クリニカル・ケミストリー・アンド・クリニカル・バイオケミストリー(Eur. J. Clin. Chem. Clin. Biochem.)」, 1997年, 第35巻(10), p.761-766)。
【0010】
また、ジェームズ(James)らは、グルコキナーゼ(EC2.7.1.2)を用いてグルコースを選択的にリン酸化し、生じたグルコース−6−リン酸をアニオン交換樹脂を充填した遠心型のミニカラムで吸着除去後、吸着されずに通過液中に回収されたマンノースを、前記の酵素を用いたマンノース測定法で検出している(「クリニカル・ケミストリー(Clin. Chem.)」, 1997年, 第43巻(3), p.533-538)。しかしながら、上述した酵素法は、数種の酵素反応を組み合わせた複雑な酵素共役系を介することから、すべての酵素の至適化を行なうことが困難であり、また、高価な酵素を多数組み合わせて用いるためコスト面でも問題があった。更に、生体試料由来の成分や夾雑物の影響を受け易い欠点があった。
【0011】
また、特開平11−266896号公報には、あらかじめ検体をピラノースオキシダーゼ又はL−ソルボースオキシダーゼ等のグルコースの2位酸化酵素、或いはピラノースオキシダーゼ又はL−ソルボースオキシダーゼ等のグルコースの2位酸化酵素とグルコースオキシダーゼ等のグルコースの1位酸化酵素を組み合わせて処理し、検体中に存在するグルコースを完全に除去してからマンノースを測定する方法が記載されている。更に、特開2001−197900号公報には、NADP依存性アルドヘキソースデヒドロゲナーゼを用いたマンノースの定量方法が記載されている。しかしながら、NADPはNADより試薬として数倍高価であり、コスト面で優れる測定方法及び測定試薬の開発が望まれていた。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、安価であり、正確かつ簡便で多数の検体処理が可能なD−マンノースの測定方法及び測定用試薬を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明者らは、試料中のD−マンノースに、D−マンノースに対して酸化能を有するNAD依存性脱水素酵素をNADの存在下において作用させ、生成されたNADHを定量することを特徴とするD−マンノースの測定方法を開発した。本発明により、試料中のD−マンノースを、安価で、正確かつ簡便に測定することが可能となった。また、本発明を用いることにより、D−マンノース測定において多数の検体処理が可能となった。
【0014】
すなわち、本発明は以下のような構成からなる。
(1)試料中のD−マンノースに、D−マンノースに対して酸化能を有するNAD依存性脱水素酵素をNADの存在下において作用させ、生成されたNADHを定量することを特徴とするD−マンノースの測定方法。
(2)NAD依存性脱水素酵素が、アーキア由来のアルドヘキソースデヒドロゲナーゼである上記(1)のD−マンノースの測定方法。
(3)D−マンノースに対して酸化能を有するNAD依存性脱水素酵素とNADとを含むことを特徴とするD−マンノースの測定用試薬。
(4)NAD依存性脱水素酵素が、アーキア由来のアルドヘキソースデヒドロゲナーゼである上記(3)のD−マンノースの測定用試薬。
【0015】
本発明の測定方法において、試料がD−マンノースの他にD−グルコースを含有するものである場合には、試料中のD−グルコースをグルコキナーゼ及びアデノシン三リン酸などのグルコース消去剤によってNAD依存性脱水素酵素と反応しない構造に変化させた後、NAD依存性脱水素酵素を作用させることが好ましい。また、本発明の測定方法において、NAD依存性脱水素酵素はアーキア由来のアルドヘキソースデヒドロゲナーゼであることが好ましい。また、試料としては、特に限定されないが、生体試料、例えば、血液、血清、血漿、髄液及び尿などから調製された試料であることが好ましい。
【0016】
本発明のD−マンノース測定用試薬は、更にグルコキナーゼ及びアデノシン三リン酸などのグルコース消去剤を含んでもよい。また、本発明の測定用試薬に用いられる酵素は、NAD依存性脱水素酵素がアーキア由来のアルドヘキソースデヒドロゲナーゼであることが好ましい。
【0017】
本発明によれば、主反応に関与する酵素はD−マンノースに対して酸化能を有するNAD依存性脱水素酵素のみであり、複雑な酵素共役系を介することなく、簡便にかつ正確にD−マンノースを定量できる。また、補酵素としてNADを用いるため、安価な測定系となる。更に、汎用の自動分析装置を用いて多数の検体処理が可能である。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明において、試料(検体)としては、D−マンノースの濃度を測定したいものであれば特に制限はないが、血液、血清、血漿、髄液、尿等の生体試料、又はこれらの生体試料から調製された試料、例えば、D−マンノースを測定しやすいように各種の方法で前処理した試料等が好ましく使用される。このような前処理としては、例えば、D−グルコースが共存する試料において、グルコースを予め除去するなどの処理が挙げられる。
【0019】
本発明に用いられる酵素としては、D−マンノースに対して酸化能を有するNAD依存性脱水素酵素であればよく、特に制限はないが、好ましくは、アーキア由来のNAD依存性アルドヘキソースデヒドロゲナーゼが挙げられる。具体的には、例えば、サーモプラズマ・アシッドフィラム(Thermoplasma acidophilum)から得られるNAD依存性アルドヘキソースデヒドロゲナーゼが挙げられる。更に具体的には、本発明者らが単離したサーモプラズマ・アシッドフィラム(Thermoplasma acidophilum)ATCC25905株から得られるNAD依存性アルドヘキソースデヒドロゲナーゼが挙げられる。本発明に用いられる酵素は、該酵素を生産する微生物を培養して菌体を回収し、この菌体を超音波処理等により破砕して得られる破砕液を、必要に応じて、硫安分画、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトゲル、ゲル濾過等のカラムクロマトグラフィを組み合わせて精製することにより得ることができる。
【0020】
なお、NAD依存性脱水素酵素の使用濃度は、特に限定されないが、0.001〜5単位/ml、特に0.1〜2単位/mlの範囲とすることが好ましい。
【0021】
本発明においては、補酵素(電子受容体)としてNADを用いる。NADの使用濃度は、0.01〜10mmol/ml、特に0.5〜2mmol/mlの範囲が好ましい。
【0022】
また、補酵素の還元体を定量するために、還元されることによって発色する発色剤を併用してもよい。かかる発色剤は、使用する補酵素に応じて適宜選択すればよいが、例えば、NADの還元体であるNADHを定量するために、電子キャリアーとして、フェナジンメトサルフェートやジアホラーゼとテトラゾリウム塩を共存させ、生成されるホルマザン色素を比色定量する方法が挙げられる。
【0023】
更に、本発明に用いるD−マンノースに対して酸化能を有するNAD依存性脱水素酵素がD−マンノース以外にD−グルコースにも作用を示す場合、生体試料によっては、グルコースの影響を受けることがある。したがって、生体試料に対する測定精度をより高めるためには、グルコース消去剤を併用することがより好ましい。このグルコース消去剤としては、グルコース6位リン酸化酵素とアデノシン三リン酸とを含有するものが好ましく用いられ、具体的には、グルコキナーゼ、ヘキソキナーゼ等が挙げられ、市販のものを使用できるが、さらに好ましくはグルコースに特異性の高いグルコキナーゼが用いられる。それらの使用量は、試料中のグルコース量により異なるが、概ね0.1〜50単位/mlである。また、グルコースのリン酸化に必要なアデノシン三リン酸の量は、試料中のグルコース量により異なるが、概ね1〜20mMである。更に、グルコースリン酸化反応を促進するものとして通常、マグネシウムイオンを5〜50mM程度含有させる。グルコース消去のためのグルコースリン酸化反応は、pH6〜10の緩衝液中、20〜50℃、望ましくは25〜37℃で、添加直後から10分程度行なわれる。
【0024】
本発明において使用できる緩衝液としては、pH6〜10のリン酸緩衝液、グリシン緩衝液、トリス塩酸緩衝液、グッド緩衝液、ホウ酸緩衝液等、通常使用されるものであれば、いずれも使用可能である。
【0025】
本発明のD−マンノース測定用試薬は、グルコース消去剤と測定用酵素とを別々に組合せてもよい。より具体的には、NADとグルコース消去剤とを含む第1試薬と、D−マンノースに対して酸化能を有するNAD依存性脱水素酵素を含む第2試薬との2試薬で構成するのが好ましい。
【0026】
本発明のD−マンノース測定用試薬を生体試料に添加して反応を行わせた後、反応液中で還元された補酵素の測定は、例えば、補酵素NADの還元体に特有な吸収波長における吸光度を測定したり、補酵素NADの還元体によって発色する発色剤の発色強度を測定することなどによって行うことができる。
【0027】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0028】
酵素製造例(NAD依存性アルドヘキソースデヒドロゲナーゼの製造)
(1)染色体DNAの分離
サーモプラズマ・アシッドフィラム(Thermoplasma acidophilum)ATCC25905株の染色体DNAを次の方法で分離した。
同菌株を、酵母エキス(ディフコ社製)1g/l、グルコース10g/l、(NH4)2SO4 1.32g/l、KH2PO4 0.372g/l、MgSO4・7H2O 0.247g/l、CaCl2・2H2O 0.074g/l、10ml/lの微量元素溶液(FeCl3・6H2O 1.93g/l、MnCl2・4H2O 0.18g/l、Na2B4O7・10H2O 0.45g/l、ZnSO4・7H2O 22mg/l、CuCl2・2H2O 5mg/l、NaMoO4・2H2O 3mg/l、VOSO4・2H2O 3mg/l、CoSO4・7H2O 1mg/l)を加え、硫酸でpHを1.3に調節した培地で、58℃、二晩振とう培養した後、遠心分離(4,000rpm、15分間)により集菌した。遠心チューブ内に残存する培養液をキムワイプで拭き取った後、細胞1gあたり20%シュークロース、100mMトリス−塩酸(pH8.0)、50mM EDTA、0.1% SDSを含んだ溶液15mlに懸濁し、150μlのプロテアーゼK溶液(10mg/ml)と150μlのRNAseA(10mg/ml)を加え、37℃、12時間保温した。これを等量のクロロホルム/フェノール溶液で処理後、遠心分離により水層を分取する操作を3回繰り返した。得られた水層に600μlの5M NaClを加え混合した後、0.8倍量のイソプロピルアルコールを加え、転倒混和後に出現するDNAを硝子棒に巻き付け、精製DNA標品とした。この精製DNAを5mlの1mM EDTAを含んだ10mMトリス塩酸(pH8.0)溶液(以下、TEと略記する)に再溶解し、200μlの5M NaClを加え混合した後、0.8倍量のイソプロピルアルコールを加え、再抽出したDNAを70%エタノール溶液で洗浄後、風乾してから、1mlのTEで溶解した。
【0029】
(2)NAD依存性アルドヘキソースデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を含有するDNA断片及び該DNA断片を有する組換えベクターの調製
PCR用プライマーTa0754s(配列表の配列番号3)、Ta0754as(配列表の配列番号4)を作製し、(1)のDNAを鋳型とし、Pfuturbo DNAポリメラーゼを用い、以下のサイクルでPCRを行った。
ステップ1:94℃、1分
ステップ2:58℃、1分
ステップ3:72℃、2.5分(30サイクル)
得られたPCR産物を1%アガロースゲルにて泳動すると、0.78kbの大きさの特異的バンドが認められたので、これを常法にて単離し、制限酵素NcoIとXhoIで消化し、同じくNcoIとXhoIで消化して得られたpET28開環物とライゲーション後、エシェリヒア・コリXL1/Blueを形質転換し、pET/Ta0754を作製した。
【0030】
(3)塩基配列の決定
pET/Ta0754の約0.8kbpの挿入DNAについて、BigDye Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kit(アプライドバイオシステムズ社)とABI3100(アプライドバイオシステムズ社)を用いて塩基配列を決定した。決定した塩基配列及びアミノ酸配列をそれぞれ配列表の配列番号2及び1に示した。アミノ酸配列から求められるタンパク質の分子量は約28,900であった。
【0031】
(4)形質質転換体の作製
エシェリヒア・コリBL21(DE3)RILのコンピテントセルをpET/Ta0754で形質転換し、形質転換体エシェリヒア・コリBL21(DE3)RIL(pET/Ta0754)を得た。
【0032】
(5)エシェリヒア・コリBL21(DE3)RIL(pET/Ta0754)からのNAD依存性アルドヘキソースデヒドロゲナーゼの製造
LB培地100mlを500mLフラスコに分注し、121℃、20分間オートクレーブを行い、放冷後、別途無菌濾過した10mg/mlカナマイシン、33mg/mlクロラムフェニコール(ナカライテスク製)0.1mlを添加した。この培地に、LB培地で予め30℃、17時間振とう培養したエシェリヒア・コリBL21(DE3)RIL(pET/Ta0754)の培養液1mlを接種し、37℃で9時間通気攪拌培養した。LB培地900mlを2Lフラスコに分注し、121℃、20分間オートクレーブを行い、放冷後、別途無菌濾過した10mg/mlカナマイシン、33mg/mlクロラムフェニコール(ナカライテスク製)0.9mlを添加した。この培地に、先程の9時間培養したエシェリヒア・コリBL21(DE3)RIL(pET/Ta0754)の培養液100mlを接種し、37℃で17時間通気攪拌培養した。培養終了時のNAD依存性アルドヘキソースデヒドロゲナーゼ活性は約4U/mlであった。
上記菌体を遠心分離にて集菌し、50mMリン酸カリウム緩衝液(pH8.0)に懸濁した。上記菌体懸濁液を超音波で破砕し、遠心分離を行い、上清液を得た。得られた粗酵素液を60℃、60分間熱処理し、遠心分離を行い、上清液を得た。ポリエチレンイミンによる除核酸処理及び硫安分画を行った後、セファデックス(Sephadex)G−25(ファルマシアバイオテク製)によるゲル濾過により脱塩し、DEAEセファロースCL−6B(アマーシャム・ファルマシア・バイオテク製)カラムクロマトグラフィー、Superdex-200(アマーシャム・ファルマシア・バイオテク製)カラムクロマトグラフィーにより分離、精製を行い、精製酵素標品を得た。本方法により得られたNAD依存性アルドヘキソースデヒドロゲナーゼ標品は、電気泳動(SDS−PAGE)的にほぼ単一なバンドを示し、この時の比活性は38U/mg−s−タンパク質であった。これをNAD依存性アルドヘキソースデヒドロゲナーゼの精製酵素液とし、以下の実施例に用いた。
【0033】
実施例
上記酵素製造例で得られたNAD依存性アルドヘキソースデヒドロゲナーゼと、電子受容体として補酵素NAD(オリエンタル酵母製)を用いて、以下に示すD−マンノース定量用試薬を作成した。
・試薬組成:
50mM トリス塩酸緩衝液(pH8.5)
1.2mM NAD
2U/ml NAD依存性アルドヘキソースデヒドロゲナーゼ
そして、この試薬を用いて、以下に示すようにして、各種濃度(1〜10mM)のD−マンノース溶液を測定した。
各濃度のD−マンノース溶液各10μlに対し、試薬290μlを添加して37℃で5分反応させ、波長340nmの吸光度の1分間当りの変化をレイトアッセイにて測定した。これらの操作は、日立7060形自動分析装置により行った。この結果を図1に示す。
図1から、D−マンノース濃度0〜10mMまで、直線的な吸光度変化の上昇が得られ、正確なD−マンノースの定量が可能であることが分かる。
【0034】
【発明の効果】
このように、本発明によれば、D−マンノースを含む試料にNAD依存性アルドヘキソースデヒドロゲナーゼ及び電子受容体としてNADを添加し作用させることにより、NAD依存性アルドヘキソースデヒドロゲナーゼがD−マンノースに直接作用して、生成されたNADの還元体を測定することにより、正確なD−マンノースの定量が可能となる。本発明により、安価であり、正確かつ簡便なD−マンノースの測定方法及び測定用試薬が提供される。また、本発明は、反応系が簡単であるため、各種自動分析装置への適用も容易であり、多数の検体処理にも適している。
【0035】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明によるD−マンノース測定の結果を示す。
Claims (2)
- 試料中のD−マンノースに、D−マンノースに対して酸化能を有するニコチンアミドアデニンジヌクレオチド依存性脱水素酵素を酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの存在下において作用させ、生成された還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを定量することを特徴とするD−マンノースの測定方法であって、D−マンノースに対して酸化能を有するニコチンアミドアデニンジヌクレオチド依存性脱水素酵素が、配列番号1のアミノ酸配列または配列番号1のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつニコチンアミドアデニンジヌクレオチド依存性アルドヘキソースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質である、測定方法。
- D−マンノースに対して酸化能を有するニコチンアミドアデニンジヌクレオチド依存性脱水素酵素と酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドとを含むことを特徴とするD−マンノースの測定用試薬であって、D−マンノースに対して酸化能を有するニコチンアミドアデニンジヌクレオチド依存性脱水素酵素が、配列番号1のアミノ酸配列または配列番号1のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつニコチンアミドアデニンジヌクレオチド依存性アルドヘキソースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質である、測定用試薬。
Priority Applications (1)
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