JP3887271B2 - 破断分離可能な高強度非調質鋼及びその中間製品 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、鍛造後に2個以上の部品に破断分離して製造されるコンロッド等の素材として好適な高強度非調質鋼及びこれを用いた中間製品に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
例えば図4に示す内燃往復エンジンのコネクティングロッド(以下コンロッド)200は、従来、図4に示しているようにその全体を鍛造で一体に成形加工し、そして仕上げの機械加工を施した後に分離部Pで機械加工により切断分離し、これにより小端部202とロッド部204と大端部206の半体206Aとを一体に有する本体側の第1部品と、大端部206の半体206Bからなる第2部品とに分離し、製造していた。
【0003】
しかしながらこの製造方法の場合、切断部分に切代として余分な材料を要するとともに、切断後に分離面を切削加工または研磨加工等によって仕上げる必要があり、多大な時間の浪費と価格の上昇をもたらしていた。
更に接合面の平面度や強度を確保するために、ある程度の表面積が必要となり、重量が増える問題があった。
更にこのような方法ではいくらクランクシャフト組付前に精度良く加工を施したとしても、加工後に分解してクランクシャフトに組付けるときに接合面で横滑りが生じ、精度即ち真円度が悪化する問題があった。
【0004】
このためノックピンを入れたり案内パイプを使用したりして横滑りを防止しているが、それでも十分な真円度が確保できているわけではない。
またノックピンや案内パイプを設けることは価格の上昇をもたらすので好ましい方法とは言えない。
【0005】
そこで欧州ではノックピン等の廃止を目的とし、コンロッドを最終形状に一体に鍛造加工した後、破断分離によって上記の第1部品と第2部品とに分割する手法が用いられている。
このようにして得られたコンロッドの分割面即ち組付接合面は、機械加工面とは異なってランダムな凹凸を有する破断面であるので接合面での横滑りが生じず、従って精度良くこれを組付けることができる。
【0006】
現在欧州ではこのような破断分離加工によってコンロッドを製造するための材料としてXC70Sが用いられている。
しかしながらこの鋼種は専ら破断分離のし易さを主眼として開発された鋼種であり、従って上記のような破断分離加工には適しているものの、コンロッドとして必要な疲労強度や耐力が低く、更に被削性も悪いといった問題がある。
このため疲労強度,耐力に優れ、また被削性も良好で破断分離に適した鋼種の開発が求められている。
【0007】
これまでも破断分離が可能な非調質鋼は開発されており、特許第3235442号では高強度で破断分離が可能なコンロッド用非調質鋼が提案されている。
しかしながらこれらの求めるところは、機械加工で付与した切欠きを起点に破断分離してフラットな破面を得ることであり、破断面が適度な凹凸を有していないために、エンジンへの組付時やエンジン回転中に接合面での横滑りが生じ、真円度が劣化する恐れがある問題がある。
【0008】
一方、欧州では近年破断による分離加工が適用される場合、機械加工による切欠きではなく、レーザー加工によって切欠きが付与されることが多い。
レーザー加工による切欠きは機械的な切欠きより鋭く、更に先端部に熱影響層を有するため、一般に機械加工による切欠きよりも割れ易い。
このため近年一般的に用いられるレーザー切欠きによる破断分離加工では、横滑りによる真円度劣化の可能性は更に高くなる。
【0009】
以上コンロッドを例として説明したが、かかるコンロッドのように鍛造後に2個以上の個別部品に分離してクランクシャフトに連接する部品或いは鍛造後に破断分離して製造されるその他の部品においても事情はほぼ同様である。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明はこのような事情を背景としてなされたもので、破断分離加工が適用可能で分割による加工コストを低減でき、また欧州で用いられているXC70Sに比べて高強度で加工性に優れ、更に破断分離によって生じた破面に適度な凹凸を有して、再組付後も精度が悪化しない特性を具備した非調質鋼及びこれを用いた中間製品を提供することを目的とする。
【0011】
而して本発明の請求項1は高強度非調質鋼に関するもので、重量%で、C :0.15〜0.25%,Si:0.1〜1.5%,Mn:0.5〜1.8%,S :0.03〜0.15%,P :0.03〜0.15%,Cu:0.01〜0.5%,Ni:0.01〜0.5%,Cr:0.01〜1%,V :0.1〜0.4%,s-Al:0.001〜0.01%,N :0.005〜0.035%,Ca:0.0001〜0.01%,O :0.001〜0.01%残部Fe及び不可避的不純物からなることを特徴とする。
【0012】
請求項2は高強度非調質鋼に関するもので、請求項1において、MnSを主体とした硫化物のうちアスペクト比3以下で短軸方向の厚さが2μm以上のものが面積率で15%以上存在し、パーライトの面積率が40%以下であることを特徴とする。
【0013】
請求項3は高強度非調質鋼に関するもので、請求項1,2の何れかにおいて、以下の式1,式2(但し式1,式2中の元素記号は各元素の重量%を示す)を満たすことを特徴とする。
式1・・・0.7≦Ceq≦1.3
但しCeq=C+0.07×Si+0.16×Mn+0.61×P+0.19×Cu+0.17×Ni+0.2×Cr+V
式2・・・1.28×C-0.021×Si+0.24×Mn+0.05×Cu+0.06×Ni+0.3×Cr≦0.65
【0014】
請求項4は高強度非調質鋼に関するもので、請求項1〜3の何れかにおいて、Ti:≦0.02%,Zr:≦0.02%,Nb:≦0.02%,Mg:≦0.01%の1種または2種以上を更に含有することを特徴とする。
【0015】
請求項5は高強度非調質鋼に関するもので、請求項1〜4の何れかにおいて、Pb:≦0.3%,Bi:≦0.3%の1種または2種以上を更に含有することを特徴とする。
【0016】
請求項6は中間製品に関するもので、請求項1〜5の何れかの組成の鋼を鍛造して得られた製品であって、2個以上の部品が連続した形状を有し、分離すべき部分にレーザーの熱源を用いた加工による切欠きを施し、荷重を加えることにより該切欠きを起点にして破断分離されることを特徴とする。
【0017】
請求項7は中間製品に関するもので、請求項6において、破断分離後の破面の粗さRaが10μm以上となることを特徴とする。
【0018】
請求項8は中間製品に関するもので、請求項6,7の何れかにおいて、前記中間製品が内燃往復エンジンの、大端部で破断分離されるコネクティングロッドであることを特徴とする。
【0019】
【作用及び発明の効果】
本発明の非調質鋼は、鍛造後において鋼中に比較的丸くて太い硫化物を分散状態で存在させ、分離位置で破断分離したときにその丸く太い硫化物で亀裂の進行方向を変化(偏向)させること、またパーライトとフェライトの相境界で亀裂の進行方向を変化させることで破面をランダムな凹凸にし、併せて疲労強度,耐力,被削性を高めることを図ったもので、鋼の組成を請求項1に規定する組成とすることでこれを実現することが可能となったものである。
【0020】
具体的には請求項1の非調質鋼は、Vを高めに添加する一方、C量を低めとし、またSを高めに添加するとともにPを積極的添加成分として添加し、更にMnS形成のためのMnに加えてCa,OをSとともに添加したもので、かかる本発明によれば、高強度で被削性も良く、また破断分離加工を適正に行い得て破面も良好にランダムな凹凸面となる非調質鋼を得ることができる。
【0021】
次に、請求項2は硫化物の形態及びパーライト面積率を特定の形態,面積率に規定するものである。
具体的には、MnSを主体とした硫化物のうちアスペクト比3以下で短軸方向の厚さが2μm以上のものが面積率で15%以上存在し、またパーライトの面積率が40%以下となるようにする。
【0022】
例えば図1(A)に示すコンロッド10を、インゴットから圧延加工,鍛造加工によって成形加工したとき、それら圧延加工,鍛造加工を経ることによってMnSは図1(B)(イ)の模式図に示しているようにコンロッド10の分離位置Pでの分割面と直角方向に細長く延びた状態で鋼中に存在する。
この場合分離位置Pでコンロッド10を破断分離したとき、細長いMnSは分割面と直角方向に配向しているために、亀裂はMnSを容易に短軸方向に分断しながら進行する。そしてこの場合には、得られた破面は比較的フラットな面となる。
【0023】
これに対して請求項1に従いMn及びSとともにCa及びOを添加することで、CaOを核とした複合硫化物を生成させることができ、而してこの複合硫化物は圧延加工,鍛造加工によっても変形し難く、鍛造後においてもその一部は図1(B)(ア)の模式図に示しているように鋼中に丸い太った形で存在する。
この場合(ア)の模式図中破線で示しているように亀裂の進行方向は、その丸く太い複合硫化物に当るごとに変化を余儀なくされ、その結果として破面は凹凸の大きな破面となる。
【0024】
そして本発明者等は、上記請求項2に従いアスペクト比が3以下で短軸方向の厚さが2μm以上の複合硫化物をMnS全体に対する面積率で15%以上存在させることでランダム且つ凹凸の大きな破面を得られる知見を得た。
この請求項2では、複合硫化物の形態制御の外、パーライトの面積率を40%以下とすることでも破面をランダムな凹凸面とするようにしている。
【0025】
鍛造ままで用いる非調質鋼の場合フェライト・パーライト組織をなしており、この場合亀裂の進行はパーライトとフェライトの相境界で変化する。
通常の非調質鋼の場合比較的パーライトの面積率が高いが、この場合亀裂進行する際に亀裂の方向変化が少なくなって比較的フラットに近い面を形成してしまう。
ここにおいて請求項2ではパーライトの面積率を40%以下に抑制することによって、相境界での亀裂の進行方向の変化を助長し、硫化物の形態制御と相俟って破面を良好にランダム且つ凹凸の大きい破面とすることができるのである。
【0026】
本発明ではまた請求項3に従い、請求項1の合金成分を更に所定の式に従って規制するようになすことができ、また請求項4に従ってTi,Zr,Nb,Mgの何れか1種または2種以上を含有させることができる。
また請求項5に従い、快削成分としてのPb,Biを必要に応じて所定量添加することができる。
【0027】
上記請求項1〜5に規定する非調質鋼は、レーザーの熱源を用いて切欠きを施し、これを起点として破断分離される鍛造製品のための材料として好適に適用することができる(請求項6)。
【0028】
またその際の破断分離後の破面は粗さRaが10μm以上であることが望ましい(請求項7)。
これによって、組付時に精度高く組付けることができるとともに、その接合面での滑りを良好に抑制することができる。
【0029】
本発明はまた、その中間製品として内燃往復エンジンのコンロッドに適用することができる(請求項8)。
【0030】
次に、本発明の各化学成分等の限定理由を以下に詳述する。
C:0.15〜0.25%
Cは強度を確保するために必要な元素であるとともに、本発明の骨子である適度に凹凸を有する破面を得るために必要な元素である。
前述のように鍛造ままで調質処理を行わずに使用される鋼はフェライト・パーライト組織を有しており、このような複合組織鋼で脆性的な破壊を生じる場合にはフェライトとパーライトの組織境界で亀裂が偏向する。
従ってフェライトとパーライトの分布状態を適当にコントロールすることで、破断分離後の破面の凹凸を調整することが可能である。
【0031】
良く知られるようにパーライトの量はCの含有量の影響を大きく受けることから、適度な凹凸を得るためにも0.15%以上の添加が必要である。
また、0.25%を超えて添加するとパーライト面積率が多くなりすぎ、フェライトとパーライトの界面が減少して破面の凹凸が小さくなるため0.25%以下にする必要がある。
【0032】
Si:0.1〜1.5%
Siは鋼溶製時において脱酸作用を有しているとともに、フェライト中に固溶し、破断分離時の塑性変形の主な原因である軟質相であるフェライトの強度を向上させて、耐力や疲労強度を向上させるとともに、破断分離時の変形(真円度変化)を抑制し、破断面の密着性を向上させる。
このような効果を得るためには0.1%以上含有させることが必要である。
しかし含有量が多過ぎると不必要に硬さを増加させ、被削性を劣化させるので、1.5%以下とすることが必要である。
【0033】
Mn:0.5〜1.8%,Cr:0.01〜1%
Mn,Crは鍛造材の強度を高めるとともに焼入性を向上させ、炭素含有量が高い場合にはレーザー加工した切欠き底に脆い熱影響層を生成させ、破断分離を容易にする。
しかしながら多量に添加すると鍛造後にベイナイトが生成し、硬さが著しく増加して被削性を低下させるとともに、ベイナイトは可動転位を多く含むため、コンロッドに重要な特性である耐力が低下するため、それぞれの範囲をMn:0.5〜1.8%,Cr:0.01〜1%とした。
【0034】
P:0.03〜0.15%
Pは粒界への偏析により靭性を低下させる元素で不可避な不純物としてできるだけ低く抑えられるのが一般的である。
しかしながら破断分離を行う本発明においては、破断時の変形を抑制し、破断面の密着性を向上させる元素として非常に有効に作用するため積極的な添加を行っている。
【0035】
またPはSiと同様にフェライト中に固溶し、フェライトの強度を向上させるため、耐力や疲労強度の向上に有効である。
しかし多量に添加してもその効果が飽和したり、熱間加工性を阻害するために0.03〜0.15%とした。
【0036】
S:0.03〜0.15%
一般にSはMnと硫化物を生成し、被削性を改善するために添加される。
本発明では前述の効果のみではなく、破断分離後の破面に適度な凹凸を付与するために重要な添加元素である。
【0037】
破断分離時に切欠き底から発生した亀裂は、フェライト・パーライト組織境界と同様に、形態制御されたMnSによっても偏向する。
このような効果を得るために0.03%以上の添加が必要である。
また必要以上に添加しても熱間加工性を劣化させるので、上限を0.15%とする。
【0038】
Cu:0.01〜0.5%,Ni:0.01〜0.5%
Cu,NiはMn,Crと同様に強度を高めるために有効な元素であるが、多量に添加すると経済的に不利となるためその上限を0.5%とする。
一方においてCu,Niは不可避に鋼中に含まれる元素であり、その含有量を0.01%未満にすることは多大な努力を必要とし経済的に不利であるため0.01%以上とする。
【0039】
V:0.1〜0.4%
VはCやNと微細な炭窒化物を生成し、鍛造後の強度を高める元素である。特に耐力,疲労強度の向上には有効である。
このような効果を得るためにも0.1%以上の添加が必要である。
しかしながら0.4%を超えて添加しても高強度化の効果は飽和し、更に被削性を低下させるので上限を0.4%にした。
【0040】
s-Al:0.001〜0.01%
鋼溶解時に脱酸作用を有するとともに微細な窒化物を生成し、熱間鍛造時の結晶粒粗大化を抑制することにより強度を向上させる。
しかし多量に添加してもその効果が飽和するとともに、過度の結晶粒微細化作用により、材料の延性が向上して破断分離後の破面の密着性を低下させるため、0.01%以下にする必要がある。
【0041】
N:0.005〜0.035%
Nは不可避に鋼中に含有される元素であり、Alと微細な窒化物を形成して鋼中に分散することにより熱間鍛造時の結晶粒粗大化を抑制する。
N含有量を0.005%未満とすることは経済的に不利であり、また一方多量に添加すると鋳造欠陥の原因になるため、その範囲を0.005〜0.035%とする。
【0042】
Ca:0.0001〜0.01%
Caは本発明の骨子であるMnSによる亀裂の偏向作用が得られる形状に形態制御するために必要な元素である。
通常MnSは圧延によって長く伸長し、破断分離時の亀裂進行方向の厚さは非常に薄くなる。
このように伸長してアスペクト比の大きいMnSは亀裂偏向効果が小さい。
【0043】
一方、製鋼時にCaは溶鋼中のOと酸化物を形成し、これを核として晶出したMnSは通常のMnSに比べて大きく、更にわずかにCaがMnS中に固溶しているため、通常のMnSより圧延時に伸長され難い。
このようにCa添加により形態制御されたMnSは、破断分離時の亀裂進行方向に対して十分な厚さを有しており、亀裂を偏向させる効果を有する。
【0044】
またこのように形態制御されたMnSは工具の磨耗を抑制し、被削性改善の効果もある。
このような効果を得るためにもCaは0.0001%以上の添加が必要である。
しかしながら多量に添加してもその効果が飽和するためその上限を0.01%とした。
【0045】
O:0.001〜0.01%
前述したように本発明では形態制御されたMnSにより破断分離後の破面に適当な凹凸を付与させている。
そして本発明ではMnSを形態制御するために、溶製時に晶出するCaの酸化物を利用する。このためOを適正範囲含有する必要がある。
MnSを形態制御し、適度な凹凸を有する破面を得るためにもOの含有量は0.001%以上必要である。
しかしながら多量の添加は過剰の酸化物を生成し、強度を低下させるため0.01%以下にする必要がある。
【0046】
Ti:≦0.02%,Zr:≦0.02%,Nb:≦0.02%,Mg:≦0.01%
Ti,Zr,Nb,Mgは炭窒化物又は酸化物を形成し、鍛造後の結晶粒を微細化して強度を向上させるとともに、破断分離時の亀裂を偏向させるMnSの分布状態を均一にする効果を有する。
これにより耐力や疲労強度が向上すると同時に、適度な凹凸を有する破面を安定して得ることが可能になる。
しかしながら多量に添加してもその効果が飽和するので、それぞれTi:≦0.02%,Zr:≦0.02%,Nb:≦0.02%,Mg:≦0.01%とした。
これら元素は何れも0.001%以上添加することが好ましい。
【0047】
Pb:≦0.3%,Bi:≦0.3%
Pb,Biは何れも被削性を向上させるのに有効な元素であるので、鍛造品において被削性が更に良好であることが要求される場合には、必要に応じてこれらのうちから選ばれる1種または2種以上を適量添加するのが良い。
しかしながら添加量が多過ぎると強度や熱間加工性を低下させるので、添加するとしてもPb:≦0.3%,Bi:≦0.3%とする。
【0048】
MnSを主体とした硫化物のうちアスペクト比3以下で短軸方向の厚さが2μm以上のものが面積率で15%以上存在:
前述したように鍛造素材を製造する際の圧延時に伸長せず、アスペクト比が小さいMnSは、破断分離時における亀裂の進行方向の幅が厚いため、亀裂を偏向させて適度な凹凸を有する破面を形成させる。
このような効果を十分に得るためには、形態制御されたMnSの亀裂進行方向の厚さ、即ち短軸方向の厚さは2μm以上あることが望ましく、また形態制御されたMnSがMnS全体に対して面積率で15%以上存在することが望ましい。
【0049】
パーライトの面積率が40%以下:
鍛造ままで使用する非調質鋼の組織はフェライト・パーライト組織である。
フェライト・パーライト組織で脆性的に破壊が進行する場合には、フェライトとパーライトの組織境界で亀裂が偏向する。従ってフェライトの基地組織中にパーライトを適当に分布させることにより、適度な凹凸を有する破面を得ることが可能である。
【0050】
また一般にパーライトはフェライトより脆い組織であり、パーライト面積率が多過ぎると破面の凹凸が小さくフラットになる。
これを防止するため、パーライト面積率を40%以下にすることが望ましい。
また個々パーライトブロックサイズが大き過ぎると、フェライトとパーライトの組織境界が減少するため、亀裂の偏向箇所が減少して破面の凹凸が小さくなる。従ってパーライトのブロックサイズは500μm以下にすることが好ましい。
【0051】
式1・・・0.7≦Ceq≦1.3
但しCeq=C+0.07×Si+0.16×Mn+0.61×P+0.19×Cu+0.17×Ni+0.2×Cr+V(式1中の元素記号は各元素の重量%を示す):
上記式1はコンロッドとして適切な強度を得るために必要な炭素当量(Ceq)を規定している。
【0052】
一般に自動車エンジンに用いられるコンロッドの硬さはHRC20〜35であり、HRC20未満では十分な強度が得られないとともに、破断分離時の変形が大きく、破断分離工程を適用できない。
一方、HRC35を超えると被削性が低下するため、コンロッドの加工に多大なコストを要する。
このためHRC20〜35に硬さを調整する必要がある。
このような硬さを得るために炭素当量(Ceq)を0.7〜1.3に調整することが望ましい。
【0053】
式2・・・1.28×C-0.021×Si+0.24×Mn+0.05×Cu+0.06×Ni+0.3×Cr≦0.65(式2中の元素記号は各元素の重量%を示す):
前述したようにフェライトの基地組織中に適当な分布状態でパーライトを分散させて、破断分離時の亀裂を偏向させることが本発明の骨子である。
この効果を十分に発揮させる上で、パーライト面積率を40%以下にすることが望ましいが、パーライト面積率はCだけではなくSi,Mn,Cu,Ni,Cr含有量の影響を受けて変化する。
そこでパーライト面積率を40%以下にするため、式2を満足するように成分調整することが望ましい。
【0054】
破断分離後の破面の粗さRaが10μm以上:
前述したように破断分離後の破面粗さRaが小さ過ぎると、組付時に横滑りを生じ易く、精度良く組付けることができない。
従って破断分離後に精度良く組付けるためには、破断分離によって得られた破面の粗さRaを10μm以上とすることが望ましい。
【0055】
【実施例】
次に本発明の実施例を以下に詳述する。
表1に示す組成の本発明例及び比較例の鋼を溶製した後造塊し、熱間鍛造を行って50mm角の鍛造素材とし、これを1200℃で60分加熱保持した後90×90×20mmの板に熱間鍛造を行い、適当な間隔をおいて床に放置し室温まで放冷した。
この板材より図1に示すコンロッド10の大端部を模擬した試験片12(図2参照)を切出し、試験に供した。
ここで試験片12は、図2に示しているように一対の挿通孔14と、大径の中心穴部16とを有している。
【0056】
表2に示す硬さは、各鍛造品の中心部の硬さをロックウェル硬度計で測定した結果を示している。
またパーライト面積率(Vfθ)は、100倍で撮影した光学顕微鏡組織写真を用い、画像解析装置で求めた。
また400倍で撮影した光学顕微鏡写真を用いて画像解析を行い、MnSのうちアスペクト比が3以下で短軸径が2μm以上のものの面積率(VfMnS)を測定した。
【0057】
破断分離特性は、大端部を模した試験片12にレーザーにより深さ0.5mmの切欠き(ノッチ)を施した後、室温で破断分離を行い、その時の真円度変化で評価した。
また破断後の破面を粗さ計で測定し、粗さRaを求めて破面の凹凸度合いを定量化した。
【0058】
ここで破断分離は、図3に示すように図2の試験片12の中心穴部16に一対の割型18を挿入し、その割型18の押込孔20に楔22を油圧プレスで押込むことによって実施した。
工具寿命は、破断分離特性調査に用いた素材と同じ履歴を有する90×90×20mmの板材を用いて、以下に示す条件によりドリル加工を行って測定した。
工具:SKH51
送り:0.1mm/rev
速度:10〜50m/min
穴深さ:20mm(貫通穴)
切削油:なし
工具寿命測定:切削不能
そしてこれらの結果を、発明例No.1を100とした場合の相対的な値で表2のドリル加工能率の欄に示している。
【0059】
疲労強度も同様に破断分離特性調査に用いた素材と同じ履歴を有する90×90×20mmの板材より平行部径φ8mmの小野式平滑回転曲げ疲労試験片を作成し、回転数3500rpmで試験に供した。
また、比較のため従来例として国内で一般的に用いられているコンロッド用非調質鋼S40VCと、欧州で破断分離加工が適用されているコンロッド用非調質鋼XC70Sの試験結果も併せて示した。
尚、今回の試験では何れの発明鋼も、そのパーライトブロックサイズは500μm以下であった。
【0060】
【表1】
【表2】
【0061】
表1,表2において、従来例のXC70SはC含有量が0.70%と本発明の上限値である0.25%より高く、このため疲れ限度が420であって非常に低い値となっている。
また硬さも高く、被削性(ドリル加工能率)も42と悪い値となっている。
【0062】
従来例のS40VCは、現在一般的にコンロッド用材料として使われているものであるが、このものは破断分離させたときに非常に変形が大きく、そのため真円度変化が82.1μmと高い値を示している。
【0063】
一方比較例のA鋼の場合、C含有量が本発明の下限値である0.15%よりも少ない0.12%であり、このため強度が低く、破断分離時に大きく変形し、真円度変化が大きくなっている。
【0064】
一方比較例のB鋼の場合、C含有量が0.28%と本発明の上限値である0.25%よりも多く、このためパーライト面積率が44%と多過ぎ、破面粗さRaが6.7μmと低くなっている。
また硬さも高く、被削性も悪くなっている。
【0065】
次に比較例のC鋼の場合、Si含有量が1.80%と本発明の上限値である1.5%よりも高く、このために硬さが高く、被削性が悪くなっている。
【0066】
次に比較例のD鋼は、S含有量が0.015%と本発明の下限値である0.03%よりも低く、このため形態制御されたMnSの絶対量が少なく、従って破面粗さRaが8.2μmと小さくなっている。
【0067】
次に比較例のE鋼の場合、逆にS含有量が0.180%と本発明の上限値である0.15%よりも高く、このため鍛造時に割れが発生した。
【0068】
次に比較例のF鋼は、Mn含有量が0.40%と本発明の下限値である0.5%よりも低く、このため鍛造時に割れが発生した。
本発明において、S添加を行うと熱間加工性が悪くなり、そこでMnを添加することでMnSを形成させ、熱間加工性を確保することができるが、そのMnが低いことによって熱間加工性が悪くなり、鍛造割れを発生させてしまうのである。
【0069】
次に比較例のG鋼は、Mn含有量が1.87%と本発明の上限値である1.8%よりも高く、このため焼入性が高くなって鍛造後にベイナイトが発生し、硬さが非常に高くなって被削性が悪くなっている。
【0070】
次に比較例のH鋼は、P含有量が0.015%と本発明の下限値である0.03%よりも低く、このため破断分離後の真円度変化が大きくなっている。
本発明においてPは鋼を割れ易くする働きがあるが、H鋼の場合Pが低過ぎるため割れ難くなって、真円度変化が大きくなっている。
【0071】
次に比較例のI鋼は、逆にP含有量が0.181%で本発明の上限値である0.15%よりも多く、このため熱間での加工性が悪くなって鍛造割れが発生している。
【0072】
比較例のJ鋼は、Cr含有量が1.20%と本発明の上限値である1%よりも多く、このため焼入性が高くなり過ぎて鍛造後にベイナイトが発生し、硬さが非常に高くなって被削性が悪くなっている。
【0073】
次に比較例のK鋼はVが無添加であるため硬さが低く、強度不足となっている。また真円度変化も大きくなっている。
【0074】
比較例のL鋼は逆にV含有量が0.45%と本発明の上限値である0.4%よりも多く、このため硬さが高くなって被削性が悪くなっている。
【0075】
比較例のM鋼はAl無添加であり、このため脱酸不足で鋳造欠陥が発生している。
【0076】
他方比較例のN鋼は、Al含有量が0.0200%と本発明の上限値である0.01%よりも多くなっている。
このようにAlの含有量が多過ぎると脱酸をし過ぎてしまい、丸く太ったMnSを形成するために必要なCaOが十分生成されないため、形態制御されたMnS、即ち丸く太いMnSの量が不足して破面粗さRaが小さくなっている。
【0077】
他方比較例のO鋼は、N含有量が0.041%で本発明の上限値である0.035%よりも多く、このため凝固時にブロー欠陥による鋳造欠陥が発生してしまう。
【0078】
比較例のP鋼はCaが無添加であり、このため形態制御されたMnS量が少なく、破面粗さRaが小さくなっている。
【0079】
比較例のQ鋼はO含有量が0.0005%と本発明の下限値である0.001%よりも少なく、このためCaOによるMnSの形態制御が不十分となって破面粗さRaが小さくなっている。
【0080】
比較例のR鋼は、逆にO含有量が0.0120%と本発明の上限値である0.01%よりも多く、このためCaO以外の酸化物が多量に生成して疲労強度が低下している。
【0081】
これらの従来例や比較例に比べて、本発明例の場合には真円度変化が小さいにも拘わらず、破面の凹凸が大きく、また優れた疲労強度と被削性とを有していることが分る。
【0082】
以上本発明の実施例を詳述したがこれはあくまで一例示であり、本発明はその主旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた態様で実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の非調質鋼の特徴説明図である。
【図2】本発明の実施例において作成した試験片の形状を示す図である。
【図3】図2の試験片の破断分離方法の説明図である。
【図4】従来のコンロッドの製造方法の説明図である。
【符号の説明】
10 コンロッド(コネクティングロッド)
P 分離位置
Claims (8)
- 重量%で
C :0.15〜0.25%
Si:0.1〜1.5%
Mn:0.5〜1.8%
S :0.03〜0.15%
P :0.03〜0.15%
Cu:0.01〜0.5%
Ni:0.01〜0.5%
Cr:0.01〜1%
V :0.1〜0.4%
s-Al:0.001〜0.01%
N :0.005〜0.035%
Ca:0.0001〜0.01%
O :0.001〜0.01%
残部Fe及び不可避的不純物からなることを特徴とする機械部品製造のための破断分離可能な高強度非調質鋼。 - 請求項1において、MnSを主体とした硫化物のうちアスペクト比3以下で短軸方向の厚さが2μm以上のものが面積率で15%以上存在し、パーライトの面積率が40%以下であることを特徴とする破断分離可能な高強度非調質鋼。
- 請求項1,2の何れかにおいて、以下の式1,式2(但し式1,式2中の元素記号は各元素の重量%を示す)を満たすことを特徴とする破断分離可能な高強度非調質鋼。
式1・・・0.7≦Ceq≦1.3
但しCeq=C+0.07×Si+0.16×Mn+0.61×P+0.19×Cu+0.17×Ni+0.2×Cr+V
式2・・・1.28×C-0.021×Si+0.24×Mn+0.05×Cu+0.06×Ni+0.3×Cr≦0.65 - 請求項1〜3の何れかにおいて、
Ti:≦0.02%
Zr:≦0.02%
Nb:≦0.02%
Mg:≦0.01%
の1種または2種以上を更に含有することを特徴とする破断分離可能な高強度非調質鋼。 - 請求項1〜4の何れかにおいて、
Pb:≦0.3%
Bi:≦0.3%
の1種または2種以上を更に含有することを特徴とする破断分離可能な高強度非調質鋼。 - 請求項1〜5の何れかの組成の鋼を鍛造して得られた製品であって、2個以上の部品が連続した形状を有し、分離すべき部分にレーザーの熱源を用いた加工による切欠きを施し、荷重を加えることにより該切欠きを起点にして破断分離される高強度非調質鋼の中間製品。
- 請求項6において、破断分離後の破面の粗さRaが10μm以上となることを特徴とする高強度非調質鋼の中間製品。
- 請求項6,7の何れかにおいて、前記中間製品が内燃往復エンジンの、大端部で破断分離されるコネクティングロッドであることを特徴とする高強度非調質鋼の中間製品。
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