JP3887244B2 - 湿式摩擦係合装置用摩擦部材 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は湿式摩擦係合装置用摩擦部材、特に、心金と、その心金に接着された摩擦材とを有するものの改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、前記摩擦材としては炭素繊維よりなる縦糸および横糸を用いて得られた織布を構成材料とするものが公知である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら従来の摩擦材の摩擦面は、縦糸および横糸の外周面、つまり炭素繊維外周面の集合により形成されていることから、その結晶構造に起因して剥離等が生じ易く、耐摩耗性について難点があった。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、高い耐摩耗性を有する摩擦材を備えた前記摩擦部材を提供することを目的とする。
【0005】
前記目的を達成するため本発明によれば、心金と、その心金に接着された摩擦材とを有し、その摩擦材は炭素繊維よりなる縦糸および横糸を用いて得られた織布を構成材料とする湿式摩擦係合装置用摩擦部材において、前記摩擦材の摩擦面は、前記織布表面に研削加工を施して形成されたものであって、前記炭素繊維の、繊維長さ方向と交差する断面の集合部を複数備えており、前記縦糸の炭素繊維の前記集合部は、その縦糸の繊維長手方向に沿った完全な分断により形成され、また前記横糸の炭素繊維の前記集合部は、その横糸の繊維長手方向に沿った完全な分断により形成される湿式摩擦係合装置用摩擦部材が提供される。
【0006】
前記のように、摩擦面が炭素繊維の前記断面の集合部を複数備えていると、それら断面の耐剥離性を得て摩擦材の耐摩耗性を向上させることが可能である。
【0007】
【発明の実施の形態】
図1において、エンジン(図示せず)のクランクシャフト1とトランスミッション(図示せず)のメインシャフト2との間に、モータ・ジェネレータMGと、ダンパDと、湿式摩擦係合装置としての湿式多板クラッチCとが直列に配置される。
【0008】
湿式多板クラッチCにおいて、そのクラッチ入力軸3はモータ・ジェネレータMGのロータ4にボールベアリング5を介して支持される。クラッチケース6は、クラッチ入力軸3に溶接された第1ケース半体7と、第1ケース半体7の外周部に重ね合わされて溶接された第2ケース半体8とよりなり、クラッチガイド9が第1ケース半体7の内周部に固定される。第2ケース半体8の内周部は、オイルポンプ(図示せず)を駆動するオイルポンプハブ10に溶接される。オイルポンプハブ10はミッションケース11にボールベアリング12を介して支持され、オイルポンプハブ10とミッションケース11との間にオイルシール13が配置される。
【0009】
トランスミッションのメインシャフト2の小径端部は、クラッチ入力軸3の支持孔に軸受メタル14を介して支持される。メインシャフト2の外周部にスプライン結合されたクラッチハブ15は、その一端部がスラストベアリング16を介してクラッチ入力軸3の端面に対向し、他端部がスラストベアリング17を介して第2ケース半体8の内面に対向する。クラッチハブ15の外周部に摩擦部材としての5つのクラッチディスク18の内周部がスプライン嵌合し、またクラッチガイド9の内周部に5つのクラッチプレート19および1つのエンドプレート20の外周部がスプライン嵌合している。1つのクラッチディスク18がクラッチプレート19およびエンドプレート20間に配置され、他のクラッチディスク18は各2つのクラッチプレート19間にそれぞれ配置されている。
【0010】
クラッチガイド9内周面とクラッチ入力軸3外周面との間にクラッチピストン22が配置され、そのクラッチピストン22の外周部はOリング211 を介してクラッチガイド9内周面に摺動自在に嵌合され、またその内周部はOリング212 を介してクラッチ入力軸3外周面に摺動自在に嵌合されている。これによりクラッチピストン22と第1ケース半体7との間にクラッチ油室23が区画される。クラッチピストン22の、クラッチ油室23区画側と反対側の面は最外側のクラッチプレート19に当接可能に対向する。その面が存する側において、クラッチピストン22およびクラッチ入力軸3上のスプリングシート25間にクラッチスプリング26が圧縮状態で挿入され、このクラッチスプリング26の弾発力でクラッチピストン22が係合解除方向に付勢される。スプリングシート25はクリップ24によってクラッチ入力軸3に抜止め支持されている。
【0011】
メインシャフト2の内部に在って軸方向に延びるオイル通路27aは、クラッチ入力軸3のオイル通路27bを介してクラッチ油室23に連通する。メインシャフト2外周面とオイルポンプハブ10内周面との間に筒状のオイルセパレータ28が配置されており、オイルセパレータ28の端部外周面とクラッチハブ15の端部内周面との間にシールリング29が配置される。クラッチハブ15の外周部に環状の仕切り部材30が固定されており、この仕切り部材30外周部とエンドプレート20内周部との間にシールリング31が配置される。
【0012】
皿状の第2ケース半体8内面には、エンドプレート20と密着し得る平坦な複数の受圧面32が形成されており、相隣る両受圧面32間には放射方向に延びるオイル溝33が存する。メインシャフト2外周面およびオイルセパレータ28内周面間に形成されたオイル通路34は、クラッチハブ15を貫通する複数のオイル通路35を介してクラッチディスク18、クラッチプレート19およびエンドプレート20の摺動領域に連通し、その摺動領域は第2ケース半体8の各オイル溝33、クラッチハブ15およびオイルポンプハブ10間に形成されたオイル通路36を介して、オイルポンプハブ10内周面およびオイルセパレータ28外周面間に形成されたオイル通路37に連通する。
【0013】
図2、3に示すように、クラッチディスク18は、内周部にスプライン38を有する環状板形の心金39と、その心金39の両側面に接着された環状摩擦材40とよりなる。心金39は鋼板より構成され、また摩擦材40は炭素繊維よりなる縦糸および横糸を用いて得られた織布を構成材料とし、さらに接着剤としてはエポキシ樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性合成樹脂接着剤が用いられている。
【0014】
織布41は図4、5に示されており、その織布41は次のように形成されている。即ち、直径7〜8μmの炭素繊維5000本を束ねて直径0.3〜0.5mmの繊維束42を作製し、この繊維束42の2本を1本の縦糸43および1本の横糸44として平織を行ったものである。織目aの大きさは約0.8mmである。
【0015】
図6、7に示すように、摩擦材40の摩擦面bは、心金39に接着された織布41表面に研削加工を施して形成されたものであって、炭素繊維の、繊維長さ方向と交差する断面の集合部dを複数備えている。図6には、それら集合部dが、横糸44の繊維長手方向に沿った不完全分断により形成されたものが示され、図7には、縦糸43の繊維長手方向に沿った不完全分断により形成されたものが示されるが、本発明では、横糸44の炭素繊維の集合部dが、横糸44の繊維長手方向に沿った完全な分断により形成され、また縦糸43の炭素繊維の集合部dが、縦糸43の繊維長手方向に沿った完全な分断により形成される。
【0016】
前記のように、摩擦面bが炭素繊維の前記断面の集合部dを複数備えているとそれら断面の耐剥離性を得て摩擦材40の耐摩耗性を向上させることが可能である。
【0017】
耐摩耗性を評価すべく、前記実施例に係る1つのクラッチディスク18を2つのクラッチプレート19により挟んで、それらをSAE No. 2試験機に組込み、面圧:1.55MPa;回転速度:3000rpm ;イナーシャ:0.54kg・m2 ;試験油量:700cc;試験油温:100℃;試験サイクル数:3000サイクルの条件で湿式摩耗評価試験(耐久試験)を行った。その後、摩擦材40の摩耗量を調べたところ、その摩耗量は62μmであった。
【0018】
比較例として、前記織布41を心金39に接着したものについて前記と同一条件で湿式摩耗試験を行ってその織布41、したがって摩擦材の摩耗量を調べたところ、その摩耗量は350μmであって、実施例の約5.6倍であった。図8は実施例および比較例の摩耗量をグラフ化したものである。
【0019】
次に、摩擦特性を評価すべく、前記実施例に係る1つのクラッチディスク18を2つのクラッチプレート19により挟んで、それらをSAE No. 2試験機に組込み、面圧:0.85MPa;回転速度:2940rpm ;イナーシャ:0.12kg・m2 ;試験油量:700cc;試験油温:100℃;試験サイクル数:500サイクルの条件で湿式摩擦評価試験を行って、摩擦係数μi、μd、μoを測定した。それらμi等は、図9のSAE No. 2試験のトルク波形に示されており、μiはトルクの立上がり部分の摩擦係数、μdは回転数1200rpm 時の摩擦係数、μoはトルクが急激に減少する直前の摩擦係数である。これら3つの摩擦係数は回転マスを止めるブレーキングテストによる。摩擦係数μsは、2つのクラッチプレート19を1つのクラッチディスク18に押付けてから軸を0.7rpm で回転させたときの、最大トルク発生時の摩擦係数である。前記同様の比較例について前記と同一条件で湿式摩擦試験を行って、前記同様に摩擦係数μi等を測定した。
【0020】
表1は実施例および比較例の摩擦係数μi、μd、μsおよびμo/μdを示す。
【0021】
【表1】
Figure 0003887244
【0022】
図10は、表1に基づいて実施例と比較例の摩擦係数μi、μdおよびμsをグラフ化したものであり、また図11は、表1に基づいて実施例と比較例の両摩擦係数μoとμdの比μo/μdをグラフ化したものである。図10、11から明らかなように、実施例1は、比較例に比べて、摩擦係数μi、μdおよびμsが大であると共にμo/μdが小であることから、ジャダ防止上優れた摩擦特性を有するものである。
【0023】
本発明は湿式摩擦ブレーキ装置にも適用される。
【0024】
【発明の効果】
本発明によれば、前記のように構成することによって、優れた耐摩耗性を有する摩擦材を備えた湿式摩擦係合装置用摩擦部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 湿式多板クラッチの要部縦断側面図である。
【図2】 クラッチディスクの正面図である。
【図3】 図2の3−3線断面図である。
【図4】 織布の要部平面図である。
【図5】 図4の5−5線断面図である。
【図6】 クラッチディスクの断面図で、図5に対応する。
【図7】 図6の7−7線断面図で、図4の7−7線断面図に対応する。
【図8】 摩耗量のグラフである。
【図9】 SAE No. 2試験のトルク波形図である。
【図10】 摩擦係数のグラフである。
【図11】 摩擦係数の比μo/μdのグラフである。
【符号の説明】
18………クラッチディスク(摩擦部材)
39………心金
40………摩擦材
41………織布
43………縦糸
44………横糸
b…………摩擦面
d…………集合部
C…………湿式多板クラッチ(湿式摩擦係合装置)

Claims (1)

  1. 心金(39)と、その心金(39)に接着された摩擦材(40)とを有し、その摩擦材(40)は炭素繊維よりなる縦糸(43)および横糸(44)を用いて得られた織布(41)を構成材料とする湿式摩擦係合装置用摩擦部材において、
    前記摩擦材(40)の摩擦面(b)は、前記織布(41)表面に研削加工を施して形成されたものであって、前記炭素繊維の、繊維長さ方向と交差する断面の集合部(d)を複数備えており、
    前記縦糸(43)の炭素繊維の前記集合部(d)は、その縦糸(43)の繊維長手方向に沿った完全な分断により形成され、また前記横糸(44)の炭素繊維の前記集合部(d)は、その横糸(44)の繊維長手方向に沿った完全な分断により形成されることを特徴とする、湿式摩擦係合装置用摩擦部材。
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