JP3886983B2 - リンパ球遊走に不可欠なdock2の機能ドメイン及び会合分子 - Google Patents
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実施例1(DOCK2のN末端の領域とELMO1との結合)
線虫において最近CED−5と会合し、細胞骨格を制御する分子としてCED−12が同定され、その哺乳類ホモログとしてELMO1が報告された(非特許文献15)。そこで、DOCK2とELMO1とが結合するか否かを検討するために、PcDNA/His maxベクター(Invitrogen社製)を用いてC末端にHAタグ(YPYDVPDYA:配列番号7)を挿入した完全長DOCK2あるいは種々のDOCK2欠失変異体をコードする遺伝子コンストラクト(PcDNA DOCK2−HA、PcDNA DOCK2 N−HA、PcDNA DOCK2ΔC−HA、PcDNA DOCK2ΔN−HA)を構築し、PcDNA V5-Hisベクター(Invitrogen社)にELMO1 cDNAを挿入した遺伝子(PcDNA ELMO1−V5)と共に293T細胞(九州大学畠山鎮次博士より分与)に遺伝子導入した。DOCK2コンストラクトは本発明者らが単離した遺伝子(非特許文献14)より、ELMO1コンストラクトはマウス組織cDNAよりPCR法を用いて常法により作製した。使用したDOCK2欠失変異体をコードする遺伝子は以下の通りであり、これを図1Aに模式的に示す。
1)PcDNA DOCK2 N−HA;DOCK2の1位から502位のアミノ酸残基をコードする遺伝子
2)PcDNA DOCK2ΔC−HA;DOCK2の1位から1311位のアミノ酸残基をコードする遺伝子
3)PcDNA DOCK2ΔN−HA;DOCK2の505位から1828位のアミノ酸残基をコードする遺伝子
遺伝子導入後48時間で細胞を回収し、Lysis buffer(Cell signaling社製)で溶解した後、total cell lysate及び抗HA抗体(Roche社製)による免疫沈降物を対象に抗V5抗体(Invistorgen社製)を用いたウェスタンブロット法にて解析した。total cell lysateではいずれも抗V5抗体でELMO1に相当する約100KDのバンドが検出された(図1B;上段)。しかしながら、免疫沈降物においては、完全長DOCK2、DOCK2ΔC、DOCK2 Nをコードする遺伝子を導入した場合ELMO1に相当するバンドが認められたが、DOCK2のN末端504位までのアミノ酸残基を欠くDOCK2ΔNを発現させた場合は検出できなかった(図1B;中段下段)。このことから、DOCK2はそのN末端の502個のアミノ酸残基の領域でELMO1と会合することが明らかとなった。
ELMO1との会合がDOCK2の機能にどのような影響を及ぼすかを検討するため、PBJ1ベクターを用いて完全長DOCK2及びDOCK2のN末端504アミノ酸残基を欠失した変異体(DOCK2ΔN)をコードする遺伝子コンストラクトを構築し、これらをDOCK2遺伝子の発現を欠くT細胞株BEα16−3(National Jewish CenterのPhilippa Marrack博士より分与)に導入した安定遺伝子導入細胞株を樹立した。N3−5はDOCK2を発現する野生型T細胞株であり、17−11(非特許文献14)及び84−3は本発明者らが樹立した、それぞれ完全長DOCK2あるいはDOCK2ΔNを発現する遺伝子導入細胞株である。本発明者らが作製した抗DOCK2ポリクロナール抗体を用いたウェスタンブロット解析において、17−11と84−3におけるDOCK2及びDOCK2ΔNの発現はほぼ同程度であった(図2A、参考写真1参照。)。そこで17−11と84−3を対象に、これらの細胞株におけるRac活性化をPAK1 Rac結合ドメインのGST融合タンパク質を用いたプルダウン法にて比較解析した。完全長DOCK2を発現する17−11においてはGTP結合型の活性型Racが容易に検出できたが、ELMO1との結合部位を欠くDOCK2ΔNを発現する84−3ではRac活性化能が顕著に低下していた(図2B、参考写真1参照。)。17−11と84−3をPI(propidium iodide)で核染色したところ、親株であるBEα16−3と異なり、いずれにおいても核が偏在する−すなわち細胞の極性化が起こっているという所見が得られた(図2C;上段、参考写真1参照。)。しかしながら、これらの細胞をF−アクチンのプローブであるファロイジンで染色した場合、アクチン重合は17−11においてのみ認められ、84−3ではDOCK2の発現を欠くBEα16−3と同様全く検出されなかった(図2C;下段、参考写真1参照。)。このことから、DOCK2とELMO1との会合はRacのfull activationにも、それに伴う細胞骨格の再構築にも極めて重要であることが示唆された。以上のことから、ELMO1との結合に重要なN末端領域を欠失したDOCK2ΔNではRac活性化能が顕著に低下し、アクチン重合を誘導できないことがわかった。
DOCK2はN末端にはタンパク質−タンパク質相互作用に関与することが知られているSH(Src-homology)3ドメインがコードされている。DOCK2のN末端の502個のアミノ酸残基がELMO1との会合に重要であることを見い出したので、これがSH3ドメインを介したものであるのかどうかにつき検討を加えた。SH3ドメインには共通して保存されたアミノ酸残基が存在している。そこで、PcDNA/His max ベクターを用いてC末端にHAタグを挿入した種々のDOCK2 SH3変異体をコードする遺伝子コンストラクトを構築し、PcDNA ELMO1−V5と共に293T細胞に遺伝子導入することで図1Bと同様に解析した。DOCK2 SH3変異体をコードする遺伝子は以下のとおりである。
1)PcDNA L27E−HA;DOCK2の27位のロイシンをグルタミン酸に置換した変異体をコードする遺伝子
2)PcDNA G32E−HA;DOCK2の32位のグリシンをグルタミン酸に置換した変異体をコードする遺伝子
3)PcDNA P60E−HA;DOCK2の60位のプロリンをグルタミン酸に置換した変異体をコードする遺伝子
4)PcDNA F63E−HA;DOCK2の63位のフェニルアラニンをグルタミン酸に置換した変異体をコードする遺伝子
DOCK2 SH3ドメインを含む10位から89位までのアミノ酸配列を図3Aに示す。total cell lysateにおいてはいずれも抗V5抗体でELMO1に相当する約100KDのバンドが検出された(図3B;上段)。しかしながら抗HA抗体を用いた免疫沈降物を対象とした場合、ELMO1に相当するバンドはPcDNA DOCK2−HA及びPcDNA L27E−HAを導入した以外では検出できなかった(図3B;中段)。一方、いずれの遺伝子を導入した場合でもDOCK2及びDOCK2 SH3変異体の発現は同程度であった(図3B;下段)。以上の結果は、SH3ドメインの1アミノ酸置換でDOCK2とELMO1との会合が完全に阻害されることを示すものであり、これらのことから、DOCK2はそのSH3ドメインを介してELMO1に結合していることが明らかとなった。
次にDOCK2と結合するELMO1の機能ドメインを同定するため、PcDNAV5Hisベクターを用いて、種々のELMO1欠失変異体をコードする遺伝子コンストラクトを構築し、PcDNA DOCK2−HAと共に293T細胞に遺伝子導入することで解析した。ここで使用したELMO1欠失変異体をコードする遺伝子は以下の通りであり、これを図4Aに模式的に示す。
1)PcDNA ELMO1−del1−V5;ELMO1の147位から727位までのアミノ酸残基をコードする遺伝子
2)PcDNA ELMO1−del8−V5;ELMO1の345位から727位までのアミノ酸残基をコードする遺伝子
3)PcDNA ELMO1−del10−V5;ELMO1の1位から613位までのアミノ酸残基をコードする遺伝子
total cell lysate においてはいずれも抗V5抗体でELMO1もしくはその欠失変異体に相当するバンドが検出された(図4B;上段)。しかしながら、抗HA抗体による免疫沈降物においては、抗V5抗体に反応するバンドは完全長ELMO1、ELMO1−del1及びELMO1−del8をコードする遺伝子を導入した場合には認められるものの、ELMO1の614位から727位までのアミノ酸残基を欠くPcDNA ELMO1−del10を発現させた場合は検出できなかった(図4B;中段、下段)。このことから、ELMO1の614位から727位までのアミノ酸残基を含むC末端の領域がDOCK2 SH3ドメインとの会合に重要であることが示された。これらのことから、ELMO1はそのC末端の領域でDOCK2に結合していることがわかった。
Tiam1は胸腺腫細胞株の浸潤を規定する分子として同定されたものであり、Rac特異的なGDP/GTP交換因子(GEF)として機能することが知られている(Cell 77, 537-549, 1994、Nature375, 338-340, 1995)。DOCK2とELMO1との会合がRacのfull activationに必要であることから、DOCK2はELMO1を介してTiam1をリクルートしているという可能性が考えられた。この仮説を検証するために、マウス組織cDNAよりPCR法を用いて増幅したTiam1遺伝子を基に、PCIベクター(Promega社製)を用いて、C末端にHAタグを挿入したTiam1をコードするコンストラクト(PCI Tiam1−HA)を構築し、完全長ELMOあるいは種々のELMO1欠失変異体をコードする遺伝子(PcDNA ELMO1−V5、PcDNA ELMO1−delPH−V5、PcgDNA ELMO1−del8−V5、PcDNA ELMO1−del1)と共に293T細胞に遺伝子導入し解析した。PcDNA
ELMO1−delPH−V5はELMO1の1位から565位までと695位から727位までのアミノ酸残基をコードする遺伝子であり、ここで使用したELMO1欠失変異体を図5Aに模式的に示す。total cell lysateにおいてはいずれも抗V5抗体でELMO1もしくはその欠失変異体に相当するバンドが検出された(図5B;上段)。抗HA抗体による免疫沈降物においてもPcDNA
ELMO1−V5及びPcDNA ELMO1−delPH−V5を導入した場合、抗V5抗体に反応するバンドが検出された(図5B;中段、下段)。このことは、Tiam1とELMO1とが結合するということを示している。しかしながら、ELMO1のN末端の146位まであるいは344位までのアミノ酸残基を欠失させた変異体ではこのような結合は認められず(図5B;中段、下段)、これらのことから、ELMO1はそのN末端でTiam1と会合していることが示された。
Claims (23)
- ELMOとGDP/GTP交換因子と被検物質とを接触させ、次いでELMOとGDP/GTP交換因子との会合形成の程度を評価することを特徴とするELMOとGDP/GTP交換因子との会合に干渉する物質のスクリーニング方法。
- ELMOのN末端領域とGDP/GTP交換因子と被検物質とを接触させ、次いでELMOのN末端領域とGDP/GTP交換因子との会合形成の程度を評価することを特徴とするELMOとGDP/GTP交換因子との会合に干渉する物質のスクリーニング方法。
- ELMO若しくはそのN末端領域及び/又はGDP/GTP交換因子が、他のペプチドと融合していることを特徴とする請求項1又は2記載のELMOとGDP/GTP交換因子との会合に干渉する物質のスクリーニング方法。
- GDP/GTP交換因子に対する抗体又はGDP/GTP交換因子と融合した他のペプチドに対する抗体により分画されたGDP/GTP交換因子に、ELMO若しくはそのN末端領域に対する抗体を作用させ、会合形成の程度を評価することを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載のELMOとGDP/GTP交換因子との会合に干渉する物質のスクリーニング方法。
- GTP結合型の活性型Racを検出することにより、会合形成の程度を評価することを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載のELMOとGDP/GTP交換因子との会合に干渉する物質のスクリーニング方法。
- ELMOとGDP/GTP交換因子との会合に干渉する物質が、リンパ球遊走制御機能の促進物質又は抑制物質であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載のELMOとGDP/GTP交換因子との会合に干渉する物質のスクリーニング方法。
- ELMOとGDP/GTP交換因子との会合に干渉する物質が、ELMOとGDP/GTP交換因子との結合を阻害する物質であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載のELMOとGDP/GTP交換因子との会合に干渉する物質のスクリーニング方法。
- ELMOが、DOCK2と結合したELMOであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか記載のELMOとGDP/GTP交換因子との会合に干渉する物質のスクリーニング方法。
- ELMOが、ELMO1であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか記載のELMOとGDP/GTP交換因子との会合に干渉する物質のスクリーニング方法。
- GDP/GTP交換因子が、Rac特異的なGDP/GTP交換因子であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか記載のELMOとGDP/GTP交換因子との会合に干渉する物質のスクリーニング方法。
- Rac特異的なGDP/GTP交換因子がTiam1であることを特徴とする請求項10記載のELMOとGDP/GTP交換因子との会合に干渉する物質のスクリーニング方法。
- 請求項1〜11のいずれか記載のELMOとGDP/GTP交換因子との会合に干渉する物質のスクリーニング方法を利用することを特徴とする、アレルギー、自己免疫疾患、GvH及び移植片拒絶からなる群から選ばれる免疫関連疾患に対する治療薬の探索方法。
- 請求項1〜11のいずれか記載のELMOとGDP/GTP交換因子との会合に干渉する物質のスクリーニング方法を利用することを特徴とするRacを活性化して細胞骨格の再構築を促進する、リンパ球遊走抑制に起因する疾病に対する治療薬の探索方法。
- DOCK2とELMOとGDP/GTP交換因子と被検物質とを接触させ、次いでDOCK2とELMOとの会合形成の程度、あるいは、ELMOとGDP/GTP交換因子との会合形成の程度を評価することを特徴とするRac活性化促進物質又は抑制物質のスクリーニング方法。
- DOCK2のSH3ドメインとELMOとGDP/GTP交換因子と被検物質とを接触させ、次いでDOCK2のSH3ドメインとELMOとの会合形成の程度、あるいは、ELMOとGDP/GTP交換因子との会合形成の程度を評価することを特徴とするRac活性化促進物質又は抑制物質のスクリーニング方法。
- GTP結合型の活性型Racを検出することにより、会合形成の程度を評価することを特徴とする請求項14又は15記載のRac活性化促進物質又は抑制物質のスクリーニング方法。
- ELMOが、DOCK2と結合したELMOであることを特徴とする請求項14〜16のいずれか記載のRac活性化促進物質又は抑制物質のスクリーニング方法。
- ELMOが、ELMO1であることを特徴とする請求項14〜17のいずれか記載のRac活性化促進物質又は抑制物質のスクリーニング方法。
- GDP/GTP交換因子が、Rac特異的なGDP/GTP交換因子であることを特徴とする請求項14〜18のいずれか記載のRac活性化促進物質又は抑制物質のスクリーニング方法。
- Rac特異的なGDP/GTP交換因子がTiam1であることを特徴とする請求項19記載のRac活性化促進物質又は抑制物質のスクリーニング方法。
- 請求項14〜20のいずれか記載のRac活性化促進物質又は抑制物質のスクリーニング方法を利用することを特徴とするリンパ球遊走制御機能の促進物質又は抑制物質の探索方法。
- 請求項14〜21のいずれか記載のRac活性化促進物質又は抑制物質のスクリーニング方法を利用することを特徴とすることを特徴とするアレルギー、自己免疫疾患、GvH、移植片拒絶等の免疫関連疾患に対する治療薬の探索方法。
- 請求項14〜22のいずれか記載のRac活性化促進物質又は抑制物質のスクリーニング方法を利用することを特徴とするRacを活性化して細胞骨格の再構築を促進する、リンパ球遊走抑制に起因する疾病に対する治療薬の探索方法。
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