JP4843595B2 - 生体内のアポトーシス細胞の除去促進剤及び除去阻害剤 - Google Patents

生体内のアポトーシス細胞の除去促進剤及び除去阻害剤 Download PDF

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Description

本発明は、マクロファージによる生体内でアポトーシスを起こした細胞(以下「アポトーシス細胞」という)の除去促進剤や、マクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去阻害剤に関する。
生理的な条件下で細胞自らが積極的に惹起するようにプログラムされた細胞死、すなわちアポトーシスは、免疫系において老化した細胞や病態細胞などの生体にとって好ましくない細胞を排除するために生体に備わった機構であることが知られている。このアポトーシスは細胞サイズの急速な縮小と細胞核の変化を特徴とし、アポトーシス細胞は通常アポトーシス小体となり、最終的にはマクロファージ等の食細胞により貪食される。すなわち、まず細胞が縮小して隣接細胞から離れ、核のDNAとタンパク質との複合体であるクロマチンが核膜周辺に凝縮し、核の濃縮が生じると共に細胞表面の微絨毛が消失して平滑化し、大小の突起が出現し、やがてそれらがくびれてちぎれ、膜に包まれた大小の球状のアポトーシス小体に断片化し、これらの小体がマクロファージや隣接する食細胞により貪食除去されることはよく知られている。
ところで、ガン細胞や悪性腫瘍細胞のような病態細胞の増殖を阻害して、これらの細胞に起因する疾病を治療するものとしては、これまで、アミノプテリン、メトトレキセート、8−アザグアニン、6−メルカプトプリン、5−フルオロウラシル、1−(2−テトラヒドロフリル)−5−フルオロウラシルなどの合成物質、マイトマイシンC、クロモマイシン、ブレオマイシンなどの抗生物質、インターフェロン、CSF抑制物質、CBFなどが知られているが、これらはいずれも所定の細胞に作用して、それを壊死すなわちネクローシスを起こさせて病態細胞を排除するものである。ネクローシスは病理的要因によって起こるが、アポトーシスはネクローシスと異なり、病理的要因のみならず多様な生理的要因によっても生じるといわれている。
アポトーシスは、その初期過程において、細胞を構成する細胞膜リン脂質の配列変化を伴い、結果として負電荷のリン脂質であるホスファチジルセリン(phosphatidylserine)の細胞表面へ露出することが報告されている(非特許文献1,2参照)。この細胞表面の変化がマクロファージや隣接する細胞に認識され、貪食過程が進行すると考えられている。ホスファチジルセリンと選択的に結合するアネキシンVにより前記貪食過程が阻害されることから、アポトーシス細胞の細胞表面にホスファチジルセリンが露出することが貪食機構に重要な役割を果たしているものと考えられている(非特許文献3,4参照)。また、アネキシンVの標識体を用いて、アポトーシスの初期過程の検出がフローサイトメトリーにより行われている。
他方、脂肪球被膜糖蛋白質(MFG−E8;milk fat globule-EGF factor8)は、母乳中に多く含まれる乳腺上皮由来の分泌蛋白質としてクローニングされ(非特許文献5参照)、その後、他の多くの正常組織やいくつかの腫瘍細胞で強く発現する分泌型糖タンパク質として知られている。MFG−E8は、N末端側から2つのEGF(上皮増殖因子)ドメインと血液凝固因子V,VIIIのC1,C2ドメインとホモロジーのあるドメインで構成されている。MFG−E8はヒト(BA46,lactadherin)、マウス(MFG−E8)、ラット(rAGS)、ブタ(P47)、ウシ(PAS−6,PAS−7)を含め幾つかの哺乳類でそのホモログが報告されており、さらに、MFG−E8とドメイン構造の類似性がある内皮細胞特異的細胞接着分子DEL1がクローニングされており、MFG−E8及びDEL1は2番目のEGFドメイン内にはインテグリンと結合するRGD配列を含んでいる。一方、C末側のC1,C2ドメインは細胞膜のリン脂質に結合することが知られている。しかし、このMFG−E8は、酵素活性との関連やその生理機能について不明な点が多く、この点を明らかにするために、マウス脂肪球被膜糖蛋白質MFG−E8のゲノム遺伝子と染色体マッピング、発生過程における遺伝子発現の動態、細胞内局在などについて検討されており、生殖原基がMFG−E8の発生初期の主要発現部位であり、発生の後期になると神経細胞や軟骨原基に特徴的な非常に強い発現があるとされている。また、生体内におけるMFG−E8の機能を探るために、MFG−E8遺伝子欠損マウス作製の試みがなされている。
Immunol. Today, 14: 131-136, 1993 Cirk. Res., 77: 1136-1142, 1995 Biochem. Biophys. Res. Commun., 205: 1488-1493,1994 Proc. Natl. Acad.Sci. USA, 93: 1624-1629,1996 Biochem. Biophys. Res. Commun. 254 (3), 522-528, 1999
アポトーシスは生体の恒常性維持に重要な役割を果たしている。アポトーシスを起こしている細胞(アポトーシス細胞)が分泌する有害な物質から正常細胞を保護するためにも、アポトーシス細胞は速やかにマクロファージによって除去する必要がある。例えば、ガン細胞にアポトーシスを積極的に誘導し、ガンの治療を行うこともできるが、かかる場合であってもアポトーシス細胞を速やかに除去する必要がある。本発明の課題は、マクロファージによって生体内のアポトーシス細胞を速やかに除去することができるアポトーシス細胞の除去促進剤や、マクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去を阻害する除去阻害剤を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究し、脂肪球被膜糖蛋白質(MFG−E8−L)が、細胞がアポトーシスへ向かいはじめると細胞表面に露出するホスファチジルセリン(PS)などのアミノリン脂質を認識することで、アポトーシス細胞に特異的に結合し、MFG−E8−Lがマクロファージによるアポトーシス細胞の貪食作用を促進することや、MFG−E8−Lの点変異誘導体であるD89E変異体がマクロファージによるアポトーシス細胞の貪食作用を阻害することを見い出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、(1)1つの高プロリン/スレオニン含有ドメイン及び2つの因子VIII相同ドメイン(C1及びC2)を有するMFG−E8において、RGDモチーフに点変異をもち、かつマクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去阻害作用を有するMFG−E8変異体を有効成分とすることを特徴とするマクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去阻害剤に関する。
また本発明は、(2)FG−E8変異体が、組換えMFG−E8変異体であることを特徴とする上記(1)記載のマクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去阻害剤や、(3)組換えMFG−E8変異体が、組換えヒトMFG−E8変異体又は組換えマウスMFG−E8変異体であることを特徴とする上記(2)記載のマクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去阻害剤や、(4)組換えMFG−E8変異体が、ヒト細胞中での翻訳産物であることを特徴とする上記(2)又は(3)記載のマクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去阻害剤に関する。
また本発明は、(FG−E8変異体が、RGDモチーフの89位のアスパルギン酸をグルタミン酸に置換した変異体であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか記載のマクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去阻害剤に関する。
また本発明は、(6)MFG−E8変異体が、リポソームに封入又は包埋されていることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれか記載のマクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去阻害剤や、(7)上記(1)〜(5)のいずれかに記載されたMFG−E8変異体をコードするDNAを含む組換えベクターを有効成分とすることを特徴とするマクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去阻害剤に関する。
さらに本発明は、(8)上記(1)〜(5)のいずれかに記載されたMFG−E8変異体を発現することができる発現系を含んでなる宿主細胞を有効成分とすることを特徴とするマクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去阻害剤に関する。
本発明のマクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去促進剤としては、脂肪球被膜糖蛋白質(MFG−E8−L)や、MFG−E8−Lを構成するアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつマクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去促進作用を有するMFG−E8−L変異体を有効成分とするものであれば特に制限されるものではなく、ここでMFG−E8−Lとは長鎖MFG−E8(MFG−E8のロングフォーム)を意味し、例えばマウスMFG−E8−Lとしては配列表の配列番号1に示されるように463アミノ酸残基からなるMFG−E8−Lを挙げることができ、また、マウスMFG−E8−L変異体としては、配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつマクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去促進作用を有するMFG−E8−L変異体を挙げることができる。また、上記MFG−E8−LやMFG−E8−L変異体の由来はマウスに限定されるものでなく、ヒト(別名;BA46,lactadherin)、ラット(別名;rAGS)、ブタ(別名;P47)、ウシ(別名;PAS−6,PAS−7)等に由来するMFG−E8−LやMFG−E8−L変異体も用いることができるが、マクロファージによるヒト生体内のアポトーシス細胞の除去促進には、ヒトMFG−E8−Lを特に有利に用いることができる。
また、MFG−E8−Lやマクロファージによるアポトーシス細胞の除去促進作用を有するMFG−E8−L変異体としては、組換えMFG−E8−L又は組換えMFG−E8−L変異体、好ましくは、組換えヒトMFG−E8−L若しくは組換えマウスMFG−E8−Lや、組換えヒトMFG−E8−L変異体若しくは組換えマウスMFG−E8−L変異体を有利に用いることができる。これら組換えMFG−E8−Lや組換えMFG−E8−L変異体は、公知の方法により調製することができるが、宿主細胞としてヒト細胞を用いたヒト細胞中での翻訳産物であることが好ましい。MFG−E8−Lの構造の中には、1つのシグナル配列、2つのEGFドメイン(EGF−1及びRGDモチーフを有するEGF−2)、1つの高プロリン/スレオニン含有ドメイン(高P/T含有ドメイン)、2つの因子VIII相同ドメイン(C1及びC2)が存在するが、組換えMFG−E8−L又はマクロファージによるアポトーシス細胞の除去促進作用を有する組換えMFG−E8−L変異体として、RGDモチーフを有するEGF−2ドメイン、高プロリン/スレオニン含有ドメイン、2つの因子VIII相同ドメイン(C1及びC2)を有するものが好ましい。
また、本発明のマクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去促進剤としては、上述のMFG−E8−Lやマクロファージによるアポトーシス細胞の除去促進作用を有するMFG−E8−L変異体が、リポソームに封入又は包埋されている生体内アポトーシス細胞除去促進剤を挙げることができ、リポソーム膜を構成する脂質としては、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDAB)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)等のカチオン性リポソーム膜を好適に例示することができる。また、上記MFG−E8−LやMFG−E8−L変異体を含むリポソーム膜に、アポトーシス細胞に選択的に反応するモノクローナル抗体、例えば後述する抗MFG−E8−Lモノクローナル抗体を結合させ、イムノリポソームとすることもできる。
さらに、本発明のマクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去促進剤として、上述のMFG−E8−L又はマクロファージによるアポトーシス細胞の除去促進作用を有するMFG−E8−L変異体をコードするDNAを含む組換えベクターを有効成分とする生体内アポトーシス細胞除去促進剤を挙げることができる。上記組換えベクターとしては、MFG−E8−LをコードするDNA、例えば配列番号2に示される塩基配列からなるマウスMFG−E8遺伝子や、MFG−E8−L変異体をコードするDNAを含むベクターであれば特に制限されないが、MFG−E8−L又はMFG−E8−L変異体を宿主細胞内で発現させることができる発現系を含むものが好ましく、例えば、染色体、エピソーム及びウイルスに由来する発現系、より具体的には、細菌プラスミド由来、酵母プラスミド由来、SV40のようなパポバウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、鶏痘ウイルス、仮性狂犬病ウイルス、レトロウイルス由来のベクター、バクテリオファージ由来、トランスポゾン由来及びこれらの組合せに由来するベクター、例えば、コスミドやファージミドのようなプラスミドとバクテリオファージの遺伝的要素に由来するものを挙げることができる。この発現系は発現を起こさせるだけでなく発現を調節する制御配列を含んでいてもよい。
本発明のマクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去促進剤として、上述のMFG−E8−L又はマクロファージによるアポトーシス細胞の除去促進作用を有するMFG−E8−L変異体を発現することができる発現系を含んでなる宿主細胞を有効成分とする生体内アポトーシス細胞除去促進剤を挙げることができる。MFG−E8−L又はMFG−E8−L変異体をコードするDNAやかかるDNAを含むベクターなどの上記発現系の宿主細胞への導入は、Davisら(BASIC METHODS IN MOLECULAR BIOLOGY, 1986)及びSambrookら(MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1989)などの多くの標準的な実験室マニュアルに記載される方法、例えば、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE−デキストラン媒介トランスフェクション、トランスベクション(transvection)、マイクロインジェクション、カチオン性脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、スクレープローディング (scrape loading)、弾丸導入(ballistic introduction)、感染等により行うことができる。そして、宿主細胞としては、大腸菌、ストレプトミセス、枯草菌、ストレプトコッカス、スタフィロコッカス等の細菌原核細胞や、酵母、アスペルギルス等の真菌細胞や、ドロソフィラS2、スポドプテラSf9等の昆虫細胞や、L細胞、CHO細胞、COS細胞、HeLa細胞、C127細胞、BALB/c3T3細胞(ジヒドロ葉酸レダクターゼやチミジンキナーゼなどを欠損した変異株を含む)、BHK21細胞、HEK293細胞、Bowes悪性黒色腫細胞等の動物細胞や、植物細胞等を挙げることができるが、ヒト細胞が好ましい。
さらにまた、本発明のマクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去促進剤として、MFG−E8−Lやマクロファージによるアポトーシス細胞の除去促進作用を有するMFG−E8−L変異体に対する抗体を挙げることができる。かかる抗体としては、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、ヒト化抗体等の免疫特異的な抗体を具体的に挙げることができ、これらの抗体は、慣用のプロトコールを用いて、動物(好ましくはヒト以外)に、上記MFG−E8−L若しくはMFG−E8−L変異体又はその一部、あるいは実施例に述べられているようにチオグリコレート刺激腹腔マクロファージを抗原として用いて作製することができるが、その中でも抗MFG−E8−Lモノクローナル抗体又は抗MFG−E8−L変異体モノクローナル抗体がマクロファージによるアポトーシス細胞の優れた除去促進作用の点でより好ましい。例えばモノクローナル抗体の調製には、連続細胞系の培養物により産生される抗体をもたらす、ハイブリドーマ法(Nature 256, 495-497, 1975)、トリオーマ法、ヒトB細胞ハイブリドーマ法(Immunology Today 4, 72, 1983)及びEBV−ハイブリドーマ法(MONOCLONAL ANTIBODIES AND CANCER THERAPY, pp.77-96, Alan R.Liss, Inc., 1985)など任意の方法を用いることができる。さらに、一本鎖抗体をつくるために、一本鎖抗体の調製法(米国特許第4,946,778号)を適用することや、また、ヒト化抗体を発現させるために、トランスジェニックマウス又は他の哺乳動物等を利用することもできる。
本発明の生体内のアポトーシス細胞の除去方法としては、上述のマクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去促進剤を用いる方法であれば特に制限されるものではない。また、本発明のマクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去不全に起因する疾病の治療薬や生体防御機能増強剤としては、上述のマクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去促進剤を含有するものであれば特に制限されるものではなく、かかるマクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去不全に起因する疾病としては、アポトーシス減少に起因する疾患、例えば、各種癌、各種自己免疫疾患、各種ウイルス疾患等を挙げることができる。上記生体内アポトーシス細胞除去促進剤を治療薬や生体防御機能増強剤として用いる場合は、薬学的に許容される通常の担体、結合剤、安定化剤、賦形剤、希釈剤、pH緩衝剤、崩壊剤、可溶化剤、溶解補助剤、等張剤などの各種調剤用配合成分を添加することができる。またこれら治療薬や生体防御機能増強剤は、経口的又は非経口的に投与することができる。すなわち通常用いられる投与形態、例えば溶液、乳剤、懸濁液等の剤型にしたものを注射の型で非経口投与することができ、あるいは、例えば粉末、顆粒、カプセル剤、シロップ剤、懸濁液等の剤型で経口的に投与することができるが、経口投与の場合は生体内アポトーシス細胞除去促進剤を前述のリポソーム封入・包埋タイプとしておくことが好ましい。そしてまた、本発明のマクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去不全に起因する疾病の治療方法としては、上記治療薬や生体防御機能増強剤を用いる治療方法であれば特に制限されるものではない。
本発明のマクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去阻害剤としては、MFG−E8−Lを構成するアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつマクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去阻害作用を有するMFG−E8−L変異体を有効成分とするものであればどのようなものでもよいが、これらアポトーシス細胞除去阻害作用を有するMFG−E8−L変異体としては、組換えMFG−E8−L変異体、好ましくは組換えヒトMFG−E8−L変異体若しくは組換えマウスMFG−E8−L変異体を有利に用いることができる。これら組換えMFG−E8−L変異体は、公知の方法により調製することができるが、宿主細胞としてヒト細胞を用いたヒト細胞中での翻訳産物であることが好ましい。前記のように、MFG−E8−Lの構造の中には、1つのシグナル配列、2つのEGFドメイン(EGF−1及びRGDモチーフを有するEGF−2)、1つの高プロリン/スレオニン含有ドメイン(高P/T含有ドメイン)、2つの因子VIII相同ドメイン(C1及びC2)が存在するが、アポトーシス細胞除去阻害作用を有するMFG−E8−L変異体として、1つの高プロリン/スレオニン含有ドメイン及び2つの因子VIII相同ドメイン(C1及びC2)を有しRGDモチーフに点変異をもつMFG−E8−L変異体、例えばマウスMFG−E8−Lの89番目のアミノ酸D(アスパラギン酸)がE(グルタミン酸)に置換されたD89E変異体を好適に例示することができる。
また、本発明のマクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去阻害剤としては、前記の生体内アポトーシス細胞除去促進剤の場合におけると同様に、上記MFG−E8−L変異体がリポソームに封入又は包埋されている生体内アポトーシス細胞除去阻害剤や、上記MFG−E8−L変異体をコードするDNAを含む組換えベクターを有効成分とする生体内アポトーシス細胞除去阻害剤や、上記MFG−E8−L変異体を発現することができる発現系を含んでなる宿主細胞を有効成分とする生体内アポトーシス細胞除去阻害剤を挙げることができる。
本発明の生体内のアポトーシス細胞の除去阻害方法としては、上述のマクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去阻害剤を用いる方法であれば特に制限されるものでなく、また、本発明のマクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去阻害不全に起因する疾病の治療薬や治療方法も、マクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去阻害剤を利用するものであれば特に制限されるものではない。
本発明の生体内のアポトーシス細胞の検出剤としては、前述のMFG−E8−Lや、マクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去促進作用を有するMFG−E8−L変異体や、又はこれらに対する抗体や、あるいはマクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去阻害作用を有するMFG−E8−L変異体の標識体、すなわち標識化MFG−E8−L、標識化生体内アポトーシス細胞除去促進作用MFG−E8−L変異体、標識化抗MFG−E8−L抗体、標識化抗生体内アポトーシス細胞除去促進作用MFG−E8−L変異体抗体、標識化生体内アポトーシス細胞除去阻害作用MFG−E8−L変異体を有効成分とするものであればどのようなものでもよく、上記標識体としては、上記MFG−E8−L、MFG−E8−L変異体等に、例えば、FITC(フルオレセインイソシアネート)又はテトラメチルローダミンイソシアネート等の蛍光物質や、125I、32P、14C、35S又は3H等のラジオアイソトープや、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ又はフィコエリトリン等の酵素で標識したものや、Mycタグ、Hisタグ、FLAGタグ、GSTタグなどの従来知られているペプチドタグを結合させたものや、グリーン蛍光タンパク質(GFP)等の蛍光発光タンパク質などを融合させた融合タンパク質を具体的に例示することができる。これら標識体は常法により作製することができ、これら標識体を用いることによって、生体内でアポトーシスを起こしている細胞や組織を検出することができる。また、上記標識体は、アポトーシス細胞・組織の検出剤のほか、例えば、Ni−NTAとHisタグの親和性を利用したMFG−E8−L等の精製や、MFG−E8−Lと相互作用するタンパク質の検出や、当該分野の研究用試薬としても有用である。
本発明のマクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去促進誘導物質又は除去促進抑制物質のスクリーニング方法としては、MFG−E8−L若しくはマクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去促進作用を有するMFG−E8−L変異体、又はこれらに対する抗体と、被検物質を接触させ、生体内におけるアポトーシス細胞の除去の程度を評価するスクリーニング方法であれば特に制限されるものではなく、また、本発明のマクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去阻害誘導物質又は除去阻害抑制物質のスクリーニング方法としては、マクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去阻害作用を有するMFG−E8−L変異体と、被検物質を接触させ、生体内におけるアポトーシス細胞の除去阻害の程度を評価するスクリーニング方法であれば特に制限されるものではなく、上記MFG−E8−LやMFG−E8−L変異体等として、それらを発現している細胞も使用することができる。
また、上記生体内におけるアポトーシス細胞の除去又は除去阻害の程度を評価する方法としては、例えば、インビボやインビトロで、被検物質とMFG−E8−L等の存在下、マクロファージによるアポトーシス細胞の貪食作用を測定・観察し、被検物質が非存在下の対照の場合と比較・評価する方法を具体的に例示することができる。これらスクリーニング方法により得られる、生体内のアポトーシス細胞の除去促進誘導物質や除去阻害抑制物質は、マクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去不全に起因する疾病の治療薬や生体防御機能増強剤として用いうる可能性があり、他方、除去促進抑制物質や除去阻害誘導物質は、マクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去阻害不全に起因する疾病の治療薬として用いうる可能性がある。そして、生体内のアポトーシス細胞の除去促進誘導物質としては、インテグリンαVβ3をコードするDNAの発現系やチオグリコール酸塩を、生体内のアポトーシス細胞の除去促進抑制物質としては、MFG−E8−LをコードするDNA又はRNAのアンチセンス鎖の全部又は一部を含む発現系を挙げることができる。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
実施例A[材料と方法]
実施例A−1(インテグリンαVβ3発現マウスNIH3T3形質転換体の樹立)
pMXベクター(Exp. Hematol. 24, 324-329, 1996)中にマウスインテグリンαV及びβ3 cDNAをもつレトロウィルス(J. Cell. Biol. 132, 1161-1176, 1996、J. Cell Biochem. 81, 320-332, 2001)をマウス繊維芽細胞であるNIH3T3細胞株(ATCC CRL1658)に感染させ、インテグリンαV及びβ3を発現するマウスNIH3T3形質転換体を樹立した。
実施例A−2(抗体の調製)
モノクローナル抗体を作製するため、1.5×107のチオグリコレート刺激腹腔マクロファージを、4週間間隔でアルメニアンハムスター(Oriental Yeast社製)に皮下注射した。フットパッドに細胞を注入し、最終ブースターとした。膝窩部リンパ節及び鼠径部リンパ節から得られた細胞とマウス骨髄腫細胞P3X63Ag8U1(ATCC CRL1597)とを常法により融合させ、HAT培地中でハイブリドーマを選択した。ハイブリドーマの培養上澄液に対して貪食作用分析(phagocytosis assay)を行い、陽性ハイブリドーマをGIT培地(Nihon Seiyaku社製)で培養し、プロテインAセファロース(Amersham-Pharmacia社製)で精製し、2422モノクローナル抗体を得た。
また、マウスMFG−E8に対するウサギ抗体をペプチド研究所(大阪府箕面市)で調製した。すなわち、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(Pierce社製)と共にスカシガイヘモシアニンと結合したペプチド(CNSHKKNIFEKPFMAR;配列番号3)を用いてウサギを免疫した。かかるペプチドを結合させたAF−アミノ−トヨパール(Toyopearl)(Tosoh社製)を使用して、ウサギ血清から抗体をアフィニティー精製した。
実施例A−3(組換えMFG−E8の作製)
組換えMFG−E8の作製には、配列番号2に示されるマウスMFG−E8遺伝子を用いた。pEF-BOS-EXベクター(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95, 3461-3466, 1998)を用いて、C末端にマーカーペプチドであるFLAGを結合させたMFG−E8を、常法によりヒト293T細胞(ATCC CRL1573)中で発現させた。抗FLAG M2アフィニティーゲル(Sigma社製)を用いて、培地中に分泌されたMFG−E8を精製した。MFG−E8−Lの構造の中には、1つのシグナル配列、2つのEGFドメイン(EGF−1及びRGDモチーフを有するEGF−2)、1つの高プロリン/スレオニン含有ドメイン(高P/T含有ドメイン)、2つの因子VIII相同ドメイン(C1及びC2)が存在する(図3上図参照)。そこで、組換えPCRを利用して、以下のMFG−E8−L変異体をコードするDNAを常法により作製し、上記pEF-BOS-EXベクターを用いて発現プラスミドを構築した。これら発現プラスミドをヒト293T細胞中で発現させ、高P/T含有ドメインを欠失したスプライスバリアントである“MFG−E8−S”や、シグナル配列がインフレームでC2ドメインと融合した“C2変異体”や、シグナル配列がインフレームでC1−C2ドメインと融合した“C1C2変異体”や、C1及びC2ドメインを欠失した不完全な形態である“E1E2PT”や、RGDモチーフの89位のアスパルギン酸をグルタミン酸に置換した“D89E変異体”を作製した。
実施例A−4(貪食作用分析)
12週齢のC57BL/6マウスの腹腔内に3%(w/v)のチオグリコール酸塩(Sigma社製)を注入した。チオグリコール酸塩で刺激された腹腔マクロファージを4日後に回収し、10%のFCSを含んだDMEMで培養した。貪食作用分析のために、4週齢から8週齢のICAD−Sdmマウス(Genes Dev. 14,549-558, 2000)の胸腺細胞を、10%のFCSを含んだDMEMにおいて、10μMのデキサメタゾンとともに37℃で4時間インキュベーションした。48ウェルの細胞培養プレート上で成長した2.5×105のマクロファージに、胸腺細胞(1×106)を添加し、1.5時間貪食させた。かかるプレートからマクロファージを分離し、2.5μg/mlのラット抗マウスFcγIII/II受容体(BD PharMingen社製)の存在下で、4μg/mlのフィコエリトリン結合ラット抗マウスMac−1抗体(BD PharMingen社製)を含むFACS染色緩衝液(2%のFCS及び0.02%のNaN3を含むPBS)を用いて氷上で30分間のインキュベーションを行った。かかる細胞を1%のパラホルムアルデヒドで固定し、0.1%のトリトンX−100で処理して、1mMのCoCl2及び0.01%のBSAを含む100mMのカコジル酸塩緩衝液(pH7.2)100μl中に懸濁した。100単位/mlの末端デオキシヌクレオチジル転移酵素(Takara Shuzo社製)及び2.5μMのFITC標識dUTP(Roche Diagnostics社製)を用いて、TUNEL反応を37℃で45分間行い、FACSキャリバー(Becton-Dickinson社製)を使用したフローサイトメトリーで分析した。
また、顕微鏡下での細胞観察によっても、貪食作用を評価した。すなわち、腹腔マクロファージ(1×105個)又はNIH3T3細胞(2×104個)を、0.1%のゼラチンでコーティングした8ウェルのLab−TekIIチャンバースライド(Nalge Nunc社製)中で培養し、アポトーシス下の胸腺細胞への貪食作用を上記のとおり進行させた。固定後、Apoptag kit(Intergen社製)を用いて、かかる細胞をTUNEL反応させ、光学顕微鏡で観察した。
実施例A−5(MFG−E8の同定)
ジメチルピメリミデート(dimethyl pimelimidate)(DMP、Pierce社製)を用いて、2422モノクローナル抗体をプロテインAセファロース(蛋白質2mg/mlベッド容積)に共有結合させた。2422モノクローナル抗体が認識した分子を、マウスP388D1細胞から免疫沈降法で精製した。すなわち、2.4×109の細胞を、RIPA緩衝液(1%のトリトンX−100、0.1%のSDS、0.5%のデオキシコール酸ナトリウム、150mMのNaCl、1.5mMのMgCl2、1mMのEGTA、10%のグリセロール、1mMの[p−アミジノフェニル]メタンスルホニルフルオライドハイドロクロライド([p-amidinophenyl] methanesulfonylfluoride hydrochloride)、1μg/mlのロイペプチン及び1μg/mlのペプスタチンを含む50mMのHepes−NaOH緩衝液[pH7.6])に溶解した。3mlのヒトIgGセファロースでかかる溶解物をあらかじめ処理し、150μlの2422モノクローナル抗体−プロテインAセファロースとともに2時間インキュベーションした。0.5MのNaClを含んだRIPA緩衝液で洗浄した後、0.1%のトリトンX−100を含んだ100mMのトリエチルアミン(pH11.5)で、ビーズに結合した蛋白質を溶出し、10%のポリアクリルアミドゲル上での電気泳動により分離し、PVDF膜にブロットした。かかる固定化した蛋白質を還元し、S−カルボキシメチル化し(S-carboxymethylated)、文献(J. Biochem. (Tokyo) 120, 29-34, 1996)記載のとおり、アクロモバクタープロテアーゼIで分解した。かかる膜から解離したペプチドに、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型(MALDI−TOF)質量分析を行った。
実施例A−6(固相ELISA及び細胞接着分析)
文献(Biochemistry 36, 5441-5446, 1997)記載のとおり、リン脂質と結合したMFG−E8に対して固相ELISAを行った。すなわち、リン脂質のメタノール溶液(3μg/mlで100μl)を96ウェルのマイクロタイタープレートに添加し、風乾した。10mg/mlのBSAを含むPBSでかかるウェルを処理した。MFG−E8をウェルに添加し、室温で1時間インキュベーションした。0.05%のツイーン20を含むPBSで洗浄した後、ビオチン化抗FLAG抗体及びペルオキシダーゼ結合ストレプトアビジンを用いて、ウェルに結合したMFG−E8をELISAで定量した。ペルオキシダーゼ検出キット(Sumitomo Bakelite社製)で、ペルオキシダーゼ活性を検出した。
細胞をリン脂質に結合させるMFG−E8の能力を分析するため、前述のとおり、リン脂質でコーティングしたマイクロタイタープレートにMFG−E8を結合させた。細胞(4×104)を含むタイロード緩衝液(5mMのHepes−NaOH緩衝液[pH7.4]、135mMのNaCl、5.4mMのKCl、1.0mMのMgCl2、10mMのグルコース、及び10mg/mlのBSA)を各ウェルに添加し、室温で1時間インキュベーションした。励起波長485nm及び発光(emission)波長520nmに設定した蛍光マイクロプレートリーダー(fluorescent microplate reader)(BioLumin 960、Molecular Dynamics社製)を用いたCyQUANT Cell Proliferation Assay kit(Molecular Probes社製)により、プレートに付着した細胞を定量した。
実施例B[結果]
実施例B−1(アポトーシス細胞への貪食作用を増大させるモノクローナル抗体の樹立)
カスパーゼ活性化DNアーゼ(CAD)の阻害たんぱく質であるICADのカスパーゼ抵抗変異体を発現している細胞はアポトーシスによってDNAが断片化することはないが、マクロファージに貪食されるとDNAが切断される(GenesDev. 14, 549-558, 2000)。このシステムを利用して、マクロファージによるアポトーシス細胞の貪食作用について調べた。ICAD−Sdm(短鎖カスパーゼ抵抗性ICAD)マウス由来の胸腺細胞をデキサメタゾンで4時間処理して、又は無処理のままで、フィコエリトリン結合アネキシンV(BD PharMingen社製)又はFITC結合dUTPを用いたTUNELで染色した。図1aに示される結果からわかるように、ICAD−Sdmマウスの胸腺細胞をデキサメタゾンで処理したところ、およそ50%の細胞が4時間以内にアネキシンV陽性となったが、TUNELによる染色はされなかった。
次に、チオグリコレート刺激マウス腹腔マクロファージを、調製したばかりのICAD−Sdmマウス由来の胸腺細胞又はデキサメタゾンで処理したICAD−Sdmマウス由来の胸腺細胞とともにインキュベーションした。かかる細胞を、フィコエリトリン結合抗Mac−1抗体で染色し、ついでFITC−dUTPでTUNEL染色した。マクロファージを、調製したばかりの胸腺細胞ではなく、アポトーシス下のICAD−Sdm胸腺細胞と共培養すると、およそ40%のMac−1+細胞(マクロファージ様細胞株の細胞表面抗原Mac−1発現細胞)がTUNEL陽性となった(図1b下)。デキサメタゾン処理した胸腺細胞とインキュベーションする30分前に、バフィロマイシン(100nM)をマクロファージに添加した。このように、リソソームの酸化を妨げるバフィロマイシン(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85, 7972-7976, 1988)でマクロファージを処理すると、TUNEL陽性マクロファージの出現が阻害された。なお、図1b上は、Mac−1+群におけるTUNEL染色のプロフィールを示す。これらの結果より、かかるマクロファージはアポトーシス細胞を特異的に取り込み、その染色体DNAを分解することがわかった。
このプロセスを仲介する物質を同定するため、チオグリコレート刺激マウス腹腔マクロファージを用いて、アルメニアンハムスターを免疫し、ハイブリドーマを調製した。特定の抗体(2422モノクローナル抗体)が、貪食作用を促進することがわかった。すなわち、12μg/mlの正常ハムスターIgG、又は2422モノクローナル抗体の存在下又は非存在下で貪食作用を分析した。Mac−1+群におけるTUNEL染色のFACSのプロフィールを図1cに示す。数字は、Mac−1+群におけるTUNEL陽性細胞の比率を示す。これらの結果から、2422モノクローナル抗体の存在下で、アポトーシス細胞を取り込むマクロファージの比率が44%から57%に上昇することがわかった。また、光学顕微鏡(×400)で観察したところ、図1dに示されるように、2422モノクローナル抗体の存在下では、アポトーシス細胞を取り込むマクロファージの数だけではなく、1つのマクロファージが取り込むアポトーシス細胞の数も増大することがわかった。
実施例B−2(2422モノクローナル抗体認識蛋白質の同定)
2422モノクローナル抗体により認識される蛋白質を同定するため、チオグリコレート刺激腹腔マクロファージ及びマクロファージ細胞株P388D1をビオチンで表面標識し、2422モノクローナル抗体により認識される蛋白質の免疫沈降を行った。ストレプトアビジン−ペルオキシダーゼを用いて免疫沈降物のウェスタンブロットを行ったところ、図2aに示されるように、72kDa及び56kDaのバンドが現れた。図2aからわかるように、P388D1細胞株は腹腔マクロファージよりも豊富にかかる蛋白質を発現するため、P388D1細胞の大規模な培養を行い、2422モノクローナル抗体を用いて細胞溶解物からかかる抗体が認識する蛋白質をアフィニティー精製し、ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離し、PVDF膜に移してPonceau-Sで染色した。結果を図2bに示す。図2b中の矢印は、蛋白質配列分析にかけた蛋白質及びプロテインAセファロースから解離したIgGを示す。72kDa及び56kDaの蛋白質から作製したペプチドの質量分析を行ったところ、それらがマウスMFG−E8であることがわかった(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87, 8417-8421, 1990、Biochem.Biophys. Res. Commun. 254. 522-528, 1999)。
マウスMFG−E8配列を有するプライマーを用いて、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)により、マウス腹腔マクロファージからcDNAの2つのクラス(MFG−E8−L及びMFG−E8−S)を単離した。次に、チオグリコレート刺激腹腔マクロファージ及びP388D1細胞由来の全RNA(7.5μg)を、1.5%のアガロースゲル上での電気泳動で分離し、32P標識マウスMFG−E8 cDNAを使用したノーザンハイブリダイゼーションで分析した(図2c上図;図2c下図では、フィルターを0.05%(w/v)のメチレンブルーで染色している。)ノーザンブロット分析によって、チオグリコレート刺激腹腔マクロファージ及びP388D1においてMFG−E8 mRNAが豊富に発現していることがわかった。これに対し、休止期の腹腔マクロファージ及び胸腺細胞では、MFG−E8 mRNAがほとんど検出されなかった。J774A.1及びBAM3など他のマクロファージ細胞株、並びに繊維芽細胞系NIH3T3は、MFG−E8 mRNAをほとんど発現していなかった(図2c)。
チオグリコレート刺激腹腔マクロファージ及びP388D1由来の全RNA(0.3μg)をRT−PCRで分析した。図2d右図は、MFG−E8 mRNAの一部分を示す概略図である。矢印は、使用したプライマーの位置を示す:センスプライマーはATGCAGGTCTCCCGTGTGCT(配列番号4:P1)、アンチセンスプライマーはGCGGAAATCTGTGAATCAGC(配列番号5:P2)である。アガロースゲル電気泳動により、PCR産物を分離した。RT−PCR分析により、チオグリコレート刺激腹腔マクロファージ中のMFG−E8 mRNAが主に長鎖(MFG−E8−L)をコードするのに対し、P388D1細胞が発現するのは圧倒的に短鎖(MFG−E8−S)であることがわかった。そこで、チオグリコレート刺激腹腔マクロファージ及びP388D1を48時間培養した。細胞溶解物と培養上澄液を2422モノクローナル抗体で免疫沈降し、ウサギ抗MFG−E8抗体を用いてウェスタンブロットを行った。結果を図2eに示す。図2e中右側矢印は、MFG−E8蛋白質を示す。MFG−E8は、N−末端にシグナル配列を有しているが、推定膜貫通領域は有していないことから、分泌蛋白質であると示唆されている。これら結果に示されているように、チオグリコレート刺激腹腔マクロファージの培養上澄液には、実際、74kDaのMFG−E8が大量に含まれている。一方、P388D1細胞は、その細胞溶解物中にはかなりの量のMFG−E8が含まれているにもかかわらず、無視できる程度のMFG−E8しか分泌していなかった。このことは、P388D1中で発現したMFG−E8が充分に分泌されていないことを示唆している。なお、図2e中*で示したバンドは、MFG−E8の分解生成物と思われる。
実施例B−3(アポトーシス細胞上に露出したアミノリン脂質へのMFG−E8の結合)
MFG−E8がアポトーシス細胞に結合するかどうかを調べるため、FLAG結合組換えMFG−E8−L(図3a)をヒト293T細胞中で作製し、精製して均一化した。調製したばかりの野生型胸腺細胞(5×105個)又はデキサメタゾンで4時間処理した胸腺細胞を、0.25μg/mlのFLAG結合MFG−E8−Lとともに4℃で30分間インキュベーションし、ついでビオチン化抗FLAG抗体及びフィコエリトリン結合ストレプトアビジンで二重染色した。固定した後、FITC−dUTPを用いて細胞をTUNEL染色し、FACSで分析した。結果を図3bに示す。図3bからもわかるように、MFG−E8−Lは単離したばかりの胸腺細胞には結合しないが、デキサメタゾンで処理した胸腺細胞にはしっかりと結合した。かかるデキサメタゾンで処理した胸腺細胞を、MFG−E8−LとTUNELで二重染色すると、MFG−E8−LがTUNEL陽性のアポトーシス細胞に特異的に結合していることがわかる。
前記のように、MFG−E8−Lには、1つのシグナル配列、2つのEGFドメイン、1つの高プロリン/スレオニン含有ドメイン(高P/T含有ドメイン)、及び2つの因子VIII相同ドメイン(C1及びC2)がある。MFG−E8−Sは、異なる形でスプライシングされたMFG−E8 mRNAにコードされており、高P/T含有ドメインを欠失している。MFG−E8−Lのどのドメインがアポトーシス細胞への結合に関与しているのかを調べるために、MFG−E8−S及び一連のMFG−E8−L変異体を用いて調べてみた。胸腺細胞をデキサメタゾンで6時間処理し、種々のMFG−E8誘導体0.25μg/mlとともにインキュベーションした。胸腺細胞に結合したMFG−E8に対し、FITC標識抗FLAG抗体を用いたFACS分析を行った。結果を図3cに示す。なお、図3c中の点線はMFG−E8非存在下での染色のプロフィールを示す。図3cに示すように、MFG−E8−Lだけではなく、MFG−E8−S、RGDモチーフに点変異をもつD89E、C1ドメインとC2ドメインのみを含むC1C2も、アポトーシス下の胸腺細胞に結合した。
ところで、アネキシンVは、ホスファチジルセリン(PS)を認識することによってアポトーシス細胞に結合することが知られている(Blood 84, 1415-1420,1994)。そこで、デキサメタゾンで6時間処理した胸腺細胞を、1.25μg/mlのMFG−E8−L又は種々の変異体とともにインキュベーションし、フィコエリトリン結合アネキシンVで染色した。結果を図3d示す。図3d中の点線は、MFG−E8非存在下でのアネキシンV染色のプロフィールを示す。図3dからわかるように、アポトーシス下の胸腺細胞をMFG−E8−L又はD89Eで前処理すると、アネキシンVのアポトーシス細胞への結合が大きく阻害された。また、アネキシンVの結合に対するMFG−E8−Lの阻害効果は投与量依存的であり、0.25μg/mlのMFG−E8−Lで処理すると、アネキシンVの結合が50%阻害された。一方、MFG−E8−S又はC1C2の存在によってアネキシンVのアポトーシス細胞への結合が阻害されることはなかった。このことから、アポトーシス細胞に対するMFG−E8−Sの親和性は、MFG−E8−Lの親和性と比較してかなり低いことがわかる。
アネキシンVのアポトーシス細胞への結合に対するMFG−E8−Lの拮抗的作用から、MFG−E8−LがPSに結合することが示唆された。そこで、MFG−E8−Lの各種リン脂質への結合について調べてみた。ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルコリン(PC)又はホスファチジルイノシトール(PI)でコーティングしたマイクロタイタープレートを、段階的に濃度を上昇させたMFG−E8−Lとともにインキュベーションし、ウェルに結合したMFG−E8−Lを、抗FLAG抗体を用いたELISAで定量した。結果を図3eに示す。図3eからわかるように、MFG−E8−Lは、PS又はPEでコーティングしたプレートに飽和状態で結合したが、PC又はPIでコーティングしたプレートにはMFG−E8−Lは有意とされるほど結合しなかった。
次に、MFG−E8−Lと同様にアネキシンVのアポトーシス細胞への結合に対して拮抗作用を有する、MFG−E8−Lの点変異誘導体であるD89E変異体についても、ホスファチジルセリンへの結合性について調べてみた。PSでコーティングしたマイクロタイタープレートを、段階的に濃度を上昇させたD89Eの他、MFG−E8−L、MFG−E8−S又はC1C2変異体とともにインキュベーションし、ウェルに結合したMFG−E8を、ELISAで定量した。結果を図3fに示す。図3fからもわかるように、MFG−E8−LのD89E変異体は、野生型MFG−E8−Lと同程度の効率で、PSでコーティングしたプレートに結合したが、PSでコーティングしたプレートに対するMFG−E8−S及びC1C2変異体の親和性は、MFG−E8−Lの親和性の8分の1であった。これらの結果から、MFG−E8−LがそのC1C2ドメインを介してアミノリン脂質を認識できること、及びMFG−E8−Lに存在する高P/T含有ドメインが、これらのリン脂質に対するMFG−E8−Lの親和性に関与していることがわかった。
実施例B−4(MFG−E8を介したNIH3T3細胞のアミノリン脂質への結合)
MFG−E8の第2EGFドメインには、細胞接着に関与する細胞膜貫通受容体であるインテグリンファミリーのいくつかのメンバーが認識可能なRGDモチーフが存在する(Cell 69, 11-25, 1992)。そのため、MFG−E8−Lがアミノリン脂質を発現するアポトーシス細胞とインテグリンを発現する貪食細胞との掛け橋の役割を果たすとの可能性について考察した。マウスαVβ3インテグリンを発現するNIH3T3形質転換体を、フィコエリトリン結合ハムスター抗マウスインテグリンαV抗体又はフィコエリトリン結合ハムスター抗マウスインテグリンβ3抗体を使用してFACSで分析した。結果を図4aに示す。図4a中の点線は、NIH3T3親細胞に対するFACS染色のプロフィールを示す。図4aからわかるように、マウスNIH3T3親細胞は、αVインテグリンやβ3インテグリンを低レベルで発現するが、αV及びβ3インテグリン発現ベクターでこの親細胞株を形質転換したところ、αVインテグリン及びβ3インテグリンの両方を豊富に発現した。
FLAG結合MFG−E8を用いたFACS分析では、MFG−E8−LとNIH3T3又はそのαVβ3インテグリン形質転換体との間に特異的な結合は見られなかった。そこで、MFG−E8−Lがインテグリン発現細胞に結合するのは、かかる細胞がリン脂質に結合された後なのではないかとの可能性について調べてみた。PS又はPEでコーティングしたマイクロタイターウェルについて、三種類の濃度(0.1μg/ml、1.0μg/ml及び2.0μg/ml)のMFG−E8−L又はD89Eを用いて、及び、NIH3T3(3T3/WT)又はαVβ3インテグリン発現形質転換体(3T3/αVβ3)を用いて、連続してインキュベーションし、細胞接着アッセイを行った。ウェルに付着した細胞の数を、実施例A−6記載の方法で定量した。結果を図4bに示す。図4bに示すように、NIH3T3親細胞(3T3/WT)は、MFG−E8−Lの非存在下ではPSでコーティングしたプレートに接着しなかった。一方、PSでコーティングしたプレートをMFG−E8−L存在下でプレインキュベーションしていた場合は、かなりの数のNIH3T3細胞がウェルに接着した。D89E変異体はPSでコーティングしたウェルへのNIH3T3細胞の接着を仲介することができなかった。これは、このMFG−E8−Lの効果がそのRGDモチーフによるものであることを示している。αVβ3インテグリンを発現するNIH3T3細胞(3T3/αVβ3)を標的として使用すると、PSでコーティングしたウェルへの細胞の接着に対するMFG−E8−Lの作用は、さらに劇的なものになった。すなわち、無処理のウェル又はD89Eで処理したウェルには20個の細胞が接着したに過ぎないのに対し、1.0μg/mlのMFG−E8−Lで前処理したウェルには約7000個の細胞が接着していた。PEに対するMFG−E8−Lの結合能力に関しては、PSでコーティングしたウェルの場合と同様の効率で、PEでコーティングしたウェルについても、NIH3T3細胞形質転換体の接着を助けた。
実施例B−5(MFG−E8−Lによるアポトーシス細胞の取り込み)
次に、NIH3T3細胞を刺激してアポトーシス細胞を取り込ませることが、MFG−E8−Lに可能かどうかを調べてみた。NIH3T3(3T3/WT)又はαVβ3インテグリンを発現するその形質転換体(3T3/αVβ3)を、0.1μg/mlのMFG−E8−L、MFG−E8−S又はD89Eの存在下又は非存在下(-)で、ICAD−Sdmマウスから調製したばかりの胸腺細胞(Dex(-))とともに、又はデキサメタゾンで4時間処理した胸腺細胞(Dex(+))とともにインキュベーションした。胸腺細胞を4個以上取り込んだNIH3T3細胞を計数し、NIH3T3細胞総数(150個)に対するこうした細胞の比率を求めた。3つ一組の実験を少なくとも2回行った。その平均値をSD(バー)として図5aに示す。図5aからわかるように、ICAD−Sdmマウスから調製したばかりの胸腺細胞をNIH3T3細胞と2時間共培養したところ、MFG−E8−Lの存在下又は非存在下で、NIH3T3細胞に付着されたり取り込まれたりする胸腺細胞は皆無であったが、デキサメタゾンで処理した胸腺細胞とNIH3T3細胞とを共培養した場合は、およそ6%のNIH3T3細胞が、それぞれ4個以上の胸腺細胞を取り込んでいた。また、MFG−E8−Lの存在により、4個以上の胸腺細胞を内部に取り込んだNIH3T3細胞の比率は23%に上昇した。
次に、αVβ3インテグリンを発現するNIH3T3細胞形質転換体を、MFG−E8−L又はD89Eの存在下又は非存在下(コントロール)で、アポトーシス下の胸腺細胞とともにインキュベーションし、光学顕微鏡(×200)で観察した。結果を図5bに示す。図5に示されるように、貪食作用に対するMFG−E8−Lの影響は、αVβ3インテグリンを発現するNIH3T3形質転換体を貪食細胞として使用する場合にはさらに明白なものとなった。この場合、4個以上の胸腺細胞を取り込んだNIH3T3形質転換体の比率は、MFG−E8−Lを分析混合系に添加すると9%から46%に上昇し、およそ20%の細胞が7個以上の胸腺細胞を内部に取り込んでいた。NIH3T3細胞の貪食活動に対するMFG−E8−SやD89Eの影響は、ほとんどなかった。
αVβ3インテグリンを発現するNIH3T3細胞形質転換体を、段階的に濃度を上昇させたMFG−E8−L又はD89Eの存在下で、アポトーシス下の胸腺細胞と共培養し、4個以上の胸腺細胞を取り込んだ細胞の比率を測定した。3つで一組とした2回の実験で得られた平均数値をSD(バー)でプロットした結果を図5cに示す。各種濃度のMFG−E8−Lを用いた図5cに示される結果より、貪食作用を増大させるためのMFG−E8−Lの至適濃度が存在することがわかった。0.1μg/ml以下では、MFG−E8−Lは投与量依存的に貪食作用を増大させるが、その濃度を超えると、阻害的な影響が現れる。この阻害作用は、2422モノクローナル抗体の添加によって消滅する。
他方、野生型MFG−E8−Lとは異なり、D89E変異体はNIH3T3及びその形質転換体の貪食活動を、広い濃度範囲で阻害する(図5a及び5c)。D89Eのこの特性を使って、腹腔マクロファージによるアポトーシス細胞の貪食に対するMFG−E8−Lの関与について評価した。ICAD−Sdmマウス由来の胸腺細胞をデキサメタゾンで4時間処理し、図5dに示す濃度のD89Eの存在下で、チオグリコレート刺激腹腔マクロファージと共培養した。反応終了後、フィコエリトリン結合抗Mac−1抗体でかかる細胞を染色し、FITC−dUTPでTUNELを行った。Mac−1+細胞群におけるTUNEL陽性細胞のFACSのプロフィールを図5dに示す。図5d中の数字は、2つの別個の実験で得られたTUNEL陽性マクロファージの比率を示す。図5dに示すように、チオグリコレート刺激腹腔マクロファージを、デキサメタゾンで処理したICAD−Sdmマウス由来の胸腺細胞と共培養すると、およそ42%のマクロファージがTUNEL陽性となる。TUNEL陽性細胞の出現及びマクロファージによる胸腺細胞の貪食は、D89Eによって投与量依存的に大きく阻害された。これにより、マクロファージ中に発現したMFG−E8−Lがアポトーシス細胞の貪食に重要な役割を果たしたことがわかる。
実施例C[まとめ]
貪食細胞中に発現する多くの蛋白質が、アポトーシス細胞の取り込みに関与する受容体として報告されている(Trends Cell Biol. 8, 365-372, 1998、Cell Death Differ. 5, 551-562, 1998、 Nature 407, 784-788, 2000)。しかし、こうした受容体が直接アポトーシス細胞に結合するかどうかは、はっきりとしていなかった。本発明者らはここに、MFG−E8−LがPSやPEなどのアミノリン脂質を認識することで、アポトーシス細胞に特異的に結合することを示した。増殖期又は休止期の細胞の原形質膜内部小葉(inner leaflet)に局在するアミノリン脂質は、細胞がアポトーシスへ向かいはじめると、細胞表面に露出する(J. Immunol. 149, 4029-4035, 1992, Exp. Cell Res. 232, 430-434, 1997, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95, 6349-6354, 1998)。リポソームトランスファー法を用いてPSを発現させた細胞は、貪食細胞により認識され取り込まれる(J.Biol. Chem. 270, 1071-1077, 2001)。これらのことから、露出状態のPSは、「食べろ」シグナルとしての基準を満たしていることがわかる。アポトーシス細胞の受容体として挙げられている分子の多くは、PSだけではなくPIにも結合する(Cell Death Differ. 5, 551-562, 1998、J. Biol. Chem. 276, 16221-16224, 1995)。一方、MFG−E8−Lが結合するのはPSとPEだけであり、MFG−E8−Lがアポトーシス細胞を特異的に認識するとの考えを裏付けている。
インテグリンは、いくつかのシステムにおけるアポトーシス細胞に対する受容体であると示唆されている(Nature 343, 170-173, 1990、Nature 392, 86-89,1998)。しかし、αVβ3インテグリンもαVβ5インテグリンもPSとは結合できないため、こうしたインテグリンがアポトーシス細胞を認識する方法は不明である。MFG−E8−Lによってこのジレンマが解消し、チオグリコレート刺激腹腔マクロファージ中のアポトーシス細胞に対する受容体としてインテグリンが認められるものと思われる。他の貪食細胞がこのシステムを使用しているのか、それともPSR(Nature 405, 85-90, 2000)やMER(Nature 411, 207-211, 2001)といった他のシステムを使用しているのかについては、さらなる研究を待つ必要がある。
MFG−E8は本来、乳脂肪小球体(milk fat globules)の膜中にもっとも豊富に存在する蛋白質の1つとして同定されたものである(Proc. Natl. Acad.Sci. USA 87, 8417-8421, 1990)。授乳や搾乳をしなくなると、乳腺はかなり退縮する(J. Mammary Gland Biol. Neoplasia 4, 129-136, 1999)。この過程で、大量の上皮細胞がアポトーシスにより死滅する。そして、浸潤したマクロファージや生存上皮細胞により、そうしたアポトーシス細胞を除去して、次回の乳汁分泌に向けて乳腺を再構築できるようにする必要がある(J. Mammary Gland Biol. Neoplasia 4, 203-211, 1999)。アポトーシス細胞を認識する分子としてMFG−E8−Lを同定することは、乳汁分泌終了時の乳腺の退縮と再構築の背後にある分子的機構を解明するのに有用である。
本発明によると、マクロファージによって生体内のアポトーシス細胞を速やかに除去することができるアポトーシス細胞の除去促進剤や、マクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去を阻害する除去阻害剤を提供することができる。
アポトーシス細胞への貪食作用を増大させるモノクローナル抗体の樹立に関する実験結果を示す図である。 MFG−E8の同定及びその発現に関する実験結果を示す図である。 アポトーシス細胞上に露出したアミノリン脂質へのMFG−E8の結合に関する実験結果を示す図である。 MFG−E8を介したNIH3T3細胞のアミノリン脂質への結合に関する実験結果を示す図である。 MFG−E8−Lによるアポトーシス細胞の取り込みに関する実験結果を示す図である。

Claims (8)

  1. 1つの高プロリン/スレオニン含有ドメイン及び2つの因子VIII相同ドメイン(C1及びC2)を有するMFG−E8において、RGDモチーフに点変異をもち、かつマクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去阻害作用を有するMFG−E8変異体を有効成分とすることを特徴とするマクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去阻害剤。
  2. MFG−E8変異体が、組換えMFG−E8変異体であることを特徴とする請求項1記載のマクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去阻害剤。
  3. 組換えMFG−E8変異体が、組換えヒトMFG−E8変異体又は組換えマウスMFG−E8変異体であることを特徴とする請求項2記載のマクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去阻害剤。
  4. 組換えMFG−E8変異体が、ヒト細胞中での翻訳産物であることを特徴とする請求項2又は3記載のマクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去阻害剤。
  5. MFG−E8変異体が、RGDモチーフの89位のアスパルギン酸をグルタミン酸に置換した変異体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載のマクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去阻害剤。
  6. MFG−E8変異体が、リポソームに封入又は包埋されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載のマクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去阻害剤。
  7. 請求項1〜5のいずれかに記載されたMFG−E8変異体をコードするDNAを含む組換えベクターを有効成分とすることを特徴とするマクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去阻害剤。
  8. 請求項1〜5のいずれかに記載されたMFG−E8変異体を発現することができる発現系を含んでなる宿主細胞を有効成分とすることを特徴とするマクロファージによる生体内のアポトーシス細胞の除去阻害剤。
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