JP3886463B2 - フライホイール装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、エンジンの出力軸に作用するフライホイールの慣性モーメントを可変とするフライホイール装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
エンジンのフライホイールは、回転変動やトルク変動を小さく抑える上からは、質量が大きいほど効果があるが、そうすると加速時における負荷の増大により燃費性能の悪化を招いてしまう。そのため、エンジンの出力軸に作用するフライホイールの慣性モーメントを可変とするものが開示される(特許文献1、参照)。
【0003】
その一例を図6に基づいて説明する。エンジン10のシリンダブロック11から突出する出力軸12(クランクシャフト)にフライホイール20が装備され、その後方にエンジン10の出力軸12と変速機の入力軸13との間を断続するクラッチ(図示せず)が配置される。
【0004】
フライホイール20は、エンジン10の出力軸12の端部12aに複数のボルト14を介して締結される主ホイール21と、その外側の段部に軸受22を介して回転自在に支持される付加ホイール23と、同じく内側の段部に軸受24を介して回転自在に支持される可変ホイール25と、を備える。
【0005】
付加ホイール23の内周にギヤ23aが形成され、付加ホイール23の内側に位置する可変ホイール25の外周にギヤ25aが形成され、これらギヤ23a,25aに噛み合う複数のピニオン26が主ホイール21にピニオンシャフト27を介して回転自在に支持される。これにより、付加ホイール23がリングギヤ、可変ホイール25がサンギヤ、主ホイール21がピニオンキャリヤ、に相当する遊星歯車機構が構成されるのである。
【0006】
シリンダブロック11に可変ホイール25と略同径のブレーキリング31が軸方向へのみ移動可能に支持され、ブレーキリング31の内周に形成の円錐面31aと、可変ホイール25の内周に形成の円錐面25bと、が互いに対向するように配置される。ブレーキリング31を可変ホイール25側へ付勢するスプリング32が設けられ、シリンダブロック11に油圧シリンダ33およびレバー34が備えられる。油圧シリンダ33は、油圧の供給を受けると、ピストンロッド33aの伸張によりレバー34を介してブレーキリング31をスプリング32の圧縮方向へ後退し、円錐面31aを円錐面25bから離間させる一方、油圧が開放されると、スプリング32の付勢力によりブレーキリング31がレバー34を介してピストンロッド33aを収縮させながら前進し、円錐面31aを円錐面25bに押し付けるようになっている。
【0007】
油圧シリンダ33の伸張により、円錐面31a,25bが互いに離れる状態においては、主ホイール21がエンジン10の出力軸12と一体に回転するだけのようになり、付加ホイール21および可変ホイール25は、エンジン10の出力軸12からの回転伝達を受けないため、フライホイール20の慣性モーメントは、主ホイール21の慣性モーメントを主とする比較的に小さいものとなる。
【0008】
油圧シリンダ33の収縮により、円錐面31aが円錐面25bに押し付けられる状態においては、サンギヤに相当する可変ホイール25の回転が停止されるので、リングギヤに相当する付加ホイール23は、ピニオンキャリヤに相当する主ホイール21の回転により、ピニオンの自転分だけ増速されて回転することになり、フライホイール20の慣性モーメントは、付加ホイール23の回転により大きなものとなる。35は油圧シリンダ33の油道である。
【0009】
油圧シリンダ33の伸縮は、図7のように定常走行ラインを基準にアイドル状態を含む低速低負荷域において、フライホイール20の慣性モーメントが大きくなるように制御される。この運転領域(可変ホイール25の回転が停止される)については、変速機のシフト段が高段側になる程、広くなるように設定される。これにより、低速低負荷域においては、変速機が高速段になる程、フライホイール20の慣性モーメントが大きくなる領域が広くなり、エンジン出力の回転変動やトルク変動の抑制効果が持続されるのである。
【0010】
【特許文献1】
特開平5−263874号
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
車両の変速を伴う加速時において、エンジンは、図8のように回転速度と負荷の平面のなかで大きく右回りする軌跡を描いて運転される。クラッチが切断の間は無負荷となり、変速機のギヤシフトの完了後、回転が合うとクラッチの接続により、負荷が高められるようになるのである。
【0012】
図7の制御マップによると、各段で高速回転域までエンジンを加速する場合、変速操作の開始により、クラッチが切断されると、エンジンは無負荷状態となるが、所定の低速低負荷域に入るまでの間、フライホイール20の慣性モーメントは、主ホイール21の慣性モーメントを主とする比較的に小さいものに保たれるため、エンジン回転の低下が遅く変速操作に長時間を要する、という不具合が考えられる。路面の勾配や車両の積載量など負荷の高い走行状況においては、エンジン回転(車速)が低下しても、アクセル(エンジン負荷)が所定値以上に操作されると、所定の低速低負荷域に入らないため、回転変動やトルク変動の抑制が効かず、アイドル振動の発生する可能性が高くなるのである。
【0013】
この発明は、このような課題の有効な解決手段の提供を目的とする。
【0014】
第1の発明は、フライホイール装置において、エンジンの出力軸に連結する第1フライホイールと、エンジンの出力軸に回転自在な第2フライホイールと、第2フライホイールと同軸に一体回転する円筒を形成する太陽体と、太陽体の回りにこれと同軸の円環を形成するリング体と、リング体と太陽体との間を回転伝達可能に介装される遊星体と、第遊星体を第1フライホイールに軸支する手段と、リング体の回転を規制するための制動装置と、エンジン回転速度を検出する手段と、エンジン負荷を検出する手段と、これらの検出信号に基づいて、エンジン回転速度Nが所定値N1以上かつエンジン負荷Lが所定値L1以上の領域に入るとその間は第2フライホイールを非増速状態に保持するべくリング体の回転を許容する一方、エンジン回転速度Nが所定値N0以下の領域またはエンジン負荷Lが所定値L0以下の領域に入るとその間は第2フライホイールを増速状態に保持するべくリング体の回転を規制する、ように制動装置を制御する手段と、を備えてなり、第1のフライホイールは、その一部または全部がアルミニウム合金など軽量な材料により形成されることを特徴とする。
【0017】
第1の発明においては、太陽体と一体回転する第2フライホイールは遊星歯車機構のサンギヤ、リング体は同じくリングギヤ、遊星体を軸支する第1フライホイールは同じくピニオンキャリヤ、に相当するものである。エンジン回転速度Nが所定値N1以上かつエンジン負荷Lが所定値L1以上の領域に入ると、制動装置がリング体の回転を許容するように制御され、第2フライホイールは非増速状態に切り替えられる。リング体は空転状態となり、第2フライホイールは第1フライホイールから切り離され、第1フライホイールより低速で空転する。そのため、フライホイールの慣性モーメントは、比較的に小さいものとなり、良好な加速応答性および燃費性能の向上が得られる。その一方、エンジン回転速度Nが所定値N0以下の領域またはエンジン負荷Lが所定値L0以下の領域に入ると、制動装置がリング体の回転を規制するように制御され、第2フライホイールは増速状態に切り替えられる。第1フライホイールの回転は、遊星体および太陽体を介して増速され、第2フライホイールへ伝達されるので、フライホイールの慣性モーメントは、大きなものとなり、エンジンの回転変動やトルク変動の抑制が効くようになる。変速を伴う加速時においては、クラッチが切断(エンジンは無負荷状態)の間、フライホイールの慣性モーメントは、大きなものとなるため、エンジン回転の低下が早くなり、変速時間の短縮が図れる。また、第1フライホイールの軽量化により、エンジンの加速性能および燃費性能の向上を大いに促進できる。制動装置の規制対象は、遊星歯車機構のリングギヤに相当するリング体の回転であり、同じくピニオンキャリヤに相当する第1フライホイール(エンジンの出力軸に連結する)の回転により同じくサンギヤに相当する第2フライホイールを増速する構成のため、フライホイールの慣性モーメントを従来よりも効率よく増大できる。つまり、フライホイールにおいては、慣性モーメントの可変幅が大きく取れることになる
【0020】
【発明の実施の形態】
図1,図2において、エンジン40のシリンダブロック41から突出する出力軸42(クランクシャフト)にフライホイール50が装備され、その後方にエンジン40の出力軸42と変速機の入力軸との間を断続するクラッチ(図示せず)が配置される。
【0021】
フライホイール50は、エンジン40の出力軸42の端部に複数のボルト43を介して締結される第1フライホイール51と、その中央のボス部に軸受52を介して回転自在に支持される第2フライホイール53と、を備える。
【0022】
第1フライホイール51に複数の遊星体54(ローラ)がそれぞれピン54a(クランクシャフト52が中心の同一円周上を等間隔に配置される)を介して回転自在に支持され、遊星体54に連動する太陽体55が第2フライホイール53と同軸の円筒に一体形成される。第1フライホイール51と略同径のリング体56(円環体)が設けられ、その内周に摺接する遊星体54を介して回転自在に支持される。
【0023】
太陽体55と一体回転する第2フライホイール53は遊星歯車機構のサンギヤ、リング体56は同じくリングギヤ、遊星体54を軸支する第1フライホイール51は同じくピニオンキャリヤ、に相当するものである。
【0024】
リング体56の回転を規制するための制動装置57がフライホイールハウジング58に配置される。制動装置57は、リング体56の外周に対向するブレーキシュー57aと、リンク57bおよびアクチュエータ57cと、を備える。リンク57bの一端にブレーキシュー57aが連結され、その他端にアクチュエータ57cが連結される。リンク57bは、中間の支点にブレーキシュー57aの開き方向へ付勢するバネ57dが設けられ、アクチュエータ57cの伸張により、バネ57dを撓めながら、ブレーキシュー57aをリング体56の外周に押し付けるのである。なお、制動装置57は、互い対称の位置関係に2つ配置される。
【0025】
第2フライホイール53の外周にリングギヤ59が形成され、リングギヤ59に噛み合うスタータピニオン60が配置される。第1フライホイール51は、エンジン40の加速性能および燃費性能の向上を促進しえるよう、その一部または全部がアルミニウムなど軽量な材料から形成される。この例においては、アルミ合金の主部51aと鋳鉄または鋼板の基板51bとの接合構造に製作される。
【0026】
バネ57dの付勢力により、アクチュエータ57cが初期状態に収縮され、ブレーキシュー57aがリング体56の外周に押し付けられないときは、リング体56を空転させる。そのため、太陽体55と一体回転する第2フライホイール53は、遊星体54を軸支する第1フライホイール51から切り離され、非増速状態となり、第1フライホイール51より低速で空転する。
【0027】
アクチュエータ57cの伸張により、ブレーキシュー57aがリング体56の外周に押し付けられると、リング体56の回転が規制される。第2フライホイール53は、第1フライホイール51に接続され、増速状態となる。第1フライホイール51の回転は、遊星体54および太陽体55を介して増速され、第2フライホイール53へ伝達されるのである。
【0028】
図3において、iはリング体56、cは第1フライホイール51、sは第2フライホイール53、を表す。また、矢印は周速ベクトル、ω0〜ω2は角速度を示す。c(第1フライホイール51)がω0で回転中にi(リング体56)の回転が規制されると、cの回転により、s(第2フライホイール53)の周速ベクトルは点線矢印に増速され、sの角速度はω0からω1へ大きく加速される。図6(特許文献1)の場合、c(主ホイール21)がω0で回転中にs(可変ホイール25)の回転が規制されると、cの回転により、i(付加ホイール23)の周速ベクトルは実線矢印に増速され、iの角速度はω0からω2へ加速されるが、太線s(第2フライホイール53)の角速度ω1に対し、ω2ω1、になるのである。
【0029】
図示しないが、制動装置57を制御するコントローラが備えられる。コントローラに図4のような制御マップが格納され、エンジンの運転状態を代表する、回転速度を検出するエンジン回転センサと、負荷を検出するアクセル開度センサと、が設けられる。
【0030】
コントロールユニットは、エンジン回転速度N(検出値)とエンジン負荷L(検出値)とから、図4の制御マップに基づいて、エンジン回転速度Nが所定値N1以上かつエンジン負荷Lが所定値L1以上の領域に入ると、その間は第2フライホイール53を非増速状態に保持するべくリング体56を回転自由に解放する一方、エンジン回転速度Nが所定値N0以下の領域またはエンジン負荷Lが所定値L0以下の領域に入ると、その間は第2フライホイール53を増速状態に保持するべくリング体56の回転を規制する、ように制動装置57を制御するのである。
【0031】
このような制御により、エンジン回転速度Nが所定値N1以上かつエンジン負荷Lが所定値L1以上のときは、第2フライホイール53が非増速状態に切り替えられ、フライホイール50の慣性モーメントは、比較的に小さいものとなり、良好な加速応答性および燃費性能の向上が得られる。その一方、エンジン回転速度Nが所定値N0以下の領域またはエンジン負荷Lが所定値L0以下のときは、第2フライホイール53が増速状態に切り替えられ、フライホイール50の慣性モーメントが効率よく増大され、エンジンの回転変動やトルク変動の抑制が効くようになる。
【0032】
図7の制御マップにおいて、エンジン回転速度Nが所定値N0以下の増速領域と、エンジン負荷Lが所定値L0以下の増速領域と、の設定により、エンジン回転速度Nか、エンジン負荷Lか、少なくとも何れか一方が所定値(N0またはL0)以下になると、フライホイール50の慣性モーメントは、第2フライホイール53の増速により増大されることになる。このため、変速を伴う加速時においては、クラッチが切断(エンジン40は無負荷状態)の間、第2フライホイール53の慣性モーメントによる負荷が加わるため、エンジン回転の低下が早くなり、変速時間の短縮が図れる(図8、参照)。路面の勾配や車両の積載量など負荷の高い走行状況においては、フライホイール50の慣性モーメントは、エンジン回転速度Nが所定値N0以下になると、第2フライホイール53が増速状態に切り替えられ、エンジン負荷Lが所定値L1以上に操作されても、その状態に維持されるので、エンジン出力の回転変動やトルク変動の抑制が効くようになる。
【0033】
既述(図3の説明)のように制動装置57の規制対象が遊星歯車機構のリングギヤに相当するリング体56の回転であり、同じくピニオンキャリヤに相当する第1フライホイール51(エンジン40の出力軸41に連結する)の回転により同じくサンギヤに相当する第2フライホイール53を増速する構成のため、フライホイール50の慣性モーメントを従来よりも効率よく増大できる。つまり、フライホイール50においては、慣性モーメントの可変幅が大きく取れることになる。
【0034】
図5は、コントロールユニットの制御内容を説明する流れ図であり、S1においては、キースイッチのONにより、制動装置57を作動させる(アクチュエータ57cの伸張によりリング体56の回転を規制する)。S2においては、エンジン回転速度N>N1かどうかを判定する。S3においては、エンジン負荷L>L1かどうかを判定する。S2の判定がyesかつS3の判定がyesのときは、S4において、制動装置57の作動を解除する(アクチュエータ57cの収縮によりリング体56を回転自由に解放する)。
【0035】
S2の判定がnoのときは、S5において、エンジン回転速度N<N0かどうかを判定する。S5の判定がyesのときは、▲1▼へ戻る一方、S5の判定がnoのときは、S7へ飛ぶ。S3の判定がnoのときは、S6において、エンジン負荷L<L0かどうかを判定する。S6の判定がyesのときは、▲1▼へ戻る一方、S6の判定がnoのときは、S7へ飛ぶ。
【0036】
S7においては、キースイッチがOFFかどうかを判定する。S7の判定がyesのときは、S8において、制動装置57を初期(作動解除)状態にセット後、制御を終了する。その一方、S7の判定がnoのときは、S2へ戻るのである。
【0037】
このような制御については、図示の可変機構を備えるフライホール装置に限定されるものでなく、エンジンの出力軸に連結する第1フライホイールと共にエンジンの出力軸に回転自在な第2フライホイールを設け、第2フライホイールの慣性モーメントがエンジンの出力軸に加わらない負荷の小さな第1状態と、第2フライホイールの慣性モーメントがエンジンの出力軸に加わる負荷の大きな第2状態と、に切り替わる慣性モーメントの可変手段を備える、フライホイール装置に広く適用可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施形態に係る装置の断面構成図である。
【図2】同じくX-X断面図である。
【図3】同じく作用を説明するベクトル線図である。
【図4】同じく制御マップを説明する特性図である。
【図5】同じく制御内容を説明する流れ図である。
【図6】従来装置の断面図である。
【図7】同じく制御マップを説明する特性図である。
【図8】変速中のエンジン回転−エンジン負荷の軌跡を説明する特性図である。
【符号の説明】
50 フライホイール
51 第1フライホイール
51a 主部
51b 基板
53 第2フライホイール
54 遊星体(ローラ)
54a ピン
55 太陽体
56 リング体
57 制動装置
57a ブレーキシュー
57b リンク
57c アクチュエータ
57d バネ

Claims (1)

  1. エンジンの出力軸に連結する第1フライホイールと、エンジンの出力軸に回転自在な第2フライホイールと、第2フライホイールと同軸に一体回転する円筒を形成する太陽体と、太陽体の回りにこれと同軸の円環を形成するリング体と、リング体と太陽体との間を回転伝達可能に介装される遊星体と、第遊星体を第1フライホイールに軸支する手段と、リング体の回転を規制するための制動装置と、エンジン回転速度を検出する手段と、エンジン負荷を検出する手段と、これらの検出信号に基づいて、エンジン回転速度Nが所定値N1以上かつエンジン負荷Lが所定値L1以上の領域に入るとその間は第2フライホイールを非増速状態に保持するべくリング体の回転を許容する一方、エンジン回転速度Nが所定値N0以下の領域またはエンジン負荷Lが所定値L0以下の領域に入るとその間は第2フライホイールを増速状態に保持するべくリング体の回転を規制する、ように制動装置を制御する手段と、を備えてなり、第1のフライホイールは、その一部または全部がアルミニウム合金など軽量な材料により形成されることを特徴とするフライホイール装置。
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