JP3885801B2 - 機能性多孔質層の形成方法、燃料電池の製造方法、電子機器および自動車 - Google Patents

機能性多孔質層の形成方法、燃料電池の製造方法、電子機器および自動車 Download PDF

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Description

本発明は、多孔質層の深さ方向に機能性材料の存在量が変化するように機能性材料が担持されてなる機能性多孔質層の形成方法、この形成方法を反応層の形成に適用した燃料電池の製造方法、並びにこの製造方法により得られる燃料電池を電力供給源として備える電子機器及び自動車に関する。
従来、電解質膜とこの電解質膜の一面に配置された電極(アノード)、及び電解質膜の他面に配置された電極(カソード)等から構成される燃料電池が存在する。例えば、電解質膜が固体高分子電解質膜である固体高分子電解質型燃料電池では、アノード側では水素を水素イオンと電子にする反応が行われ、電子がカソード側に流れ、水素イオンはカソード側に電解質膜中を移動し、カソード側では、酸素ガス、水素イオン及び電子から水を生成する反応が行われる。
このような固体電解質型燃料電池においては、各電極は、通常、反応ガスの反応触媒である金属微粒子からなる反応層と、反応層の基板側に炭素微粒子からなるガス拡散層と、及びガス拡散層の基板側に導電性物質からなる集電層とから形成されてなる。一方の基板において、ガス拡散層を構成する炭素微粒子の隙間を通過して均一に拡散された水素ガスは、反応層において反応して電子と水素イオンとなる。発生した電子は集電層に集められ、他方の基板の集電層に電子が流れる。水素イオンは高分子電解質膜を介して第2の基板の反応層へ移動し、集電層から流れてきた電子及び酸素ガスとから水を生成する反応が行われる。
このような燃料電池において、反応層を形成する方法としては、例えば、(a)触媒担持カーボンを高分子電解質溶液と有機溶媒に混合して調製した電極触媒層形成用ペーストを転写基材(ポリテトラフルオロエチレン製シート)に塗布、乾燥し、それを電解質膜に熱圧着し、次いで、転写基材を剥がすことにより電解質膜に触媒層(反応層)を転写する方法(特許文献1)、(b)電極として用いるカーボン層の上に固体触媒を担持したカーボン粒子の電解質溶液をスプレーを用いて塗布し、その後溶媒を揮発させることにより作製する方法が知られている(特許文献2)。
しかしながら、これらの方法は工程数が多く煩雑であり、その上、均一に触媒を塗布することや、所定の位置に所定量の触媒を正確に塗布することが困難であるため、得られる燃料電池の特性(出力密度)が低下したり、白金等の高価な触媒の使用量の増加により製造コストが高くなるという問題があった。
特開平8−88008号公報 特開2002−298860号公報
本発明は、機能性材料の存在量が深さ方向に対して所望の濃度分布を有するように、機能性材料が多孔質物質に担持されてなる機能性多孔質層を効率よく形成する方法、この方法を反応層の形成に適用した燃料電池の製造方法、並びにこの製造方法により得られる燃料電池を電力供給源として備える電子機器及び自動車を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、多孔質層に表面張力が異なる複数種の機能性材料の溶液又は分散液を塗布し、前記表面張力の違いにより、前記機能性材料の溶液又は分散液の、前記多孔質層の深さ方向への浸透を制御できること、及びこの方法を燃料電池の反応層の形成に適用することにより、金属微粒子の存在量が炭素系物質粒子からなる多孔質層の深さ方向に変化するように、金属微粒子が炭素系物質粒子に担持されてなる反応層を効率よく形成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
かくして本発明の第1によれば、機能性材料が多孔質物質に担持されてなる機能性多孔質層の形成方法であって、表面張力が異なる複数種の、機能性材料の溶液又は分散液を多孔質層に塗布し、前記表面張力の違いにより、前記機能性材料の前記多孔質層の深さ方向への浸透を制御することを特徴とする機能性多孔質層の形成方法が提供される。
本発明の機能性多孔質層の形成方法においては、前記機能性多孔質層を、表面張力が異なる複数種の、機能性材料の溶液又は分散液を多孔質層に塗布し、前記溶液又は分散液に含まれる溶媒を除去することにより形成するのが好ましい。
本発明の機能性多孔質層の形成方法においては、多孔質層の深さ方向に機能性材料の存在量が変化するように、機能性材料が多孔質物質に担持されてなる機能性多孔質層を形成するものであるのが好ましい。
本発明の機能性多孔質層の形成方法においては、機能性材料の溶液又は分散液を多孔質層に塗布し、該多孔質層に機能性材料の溶液又は分散液を含浸させる工程を、表面張力が異なる前記機能性材料の溶液又は分散液を用いて複数回繰り返すのが好ましく、前記機能性材料の溶液又は分散液の濃度を各回毎に変えるのがより好ましい。
本発明の機能性多孔質層の形成方法においては、第1の機能性材料の溶液又は分散液を多孔質層に塗布し、前記第1の機能性材料の溶液又は分散液を多孔質層に含浸させた後、前記第1の機能性材料の溶液又は分散液より大きい表面張力を有する、第2の機能性材料の溶液又は分散液を前記多孔質層に塗布し、第2の機能性材料の溶液又は分散液を含浸させるのがより好ましい。
本発明の機能性多孔質層の形成方法においては、前記表面張力が異なる機能性材料の溶液又は分散液として、機能性材料を種類の異なる溶媒に溶解又は分散させて調製したものを用いるのが好ましく、前記機能性材料の溶液又は分散液として、白金、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、パラジウム、オスミウム及びこれらの2種以上からなる合金からなる群から選ばれる1種若しくは2種以上の金属の微粒子若しくは該金属の化合物の溶液又は分散液を用いるのが好ましい。
本発明の機能性多孔質層の形成方法においては、前記多孔質層が、炭素系物質粒子からなる多孔質層であるのが好ましい。また、前記機能性多孔質層が、白金、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、パラジウム、オスミウム及びこれらの2種以上からなる合金からなる群から選ばれる1種若しくは2種以上の金属の微粒子が炭素系物質粒子に担持されてなるものであるのが好ましく、第1の集電層、第1の反応層、電解質膜、第2の反応層、第2の集電層がこの順序で形成されてなる燃料電池の、第1の反応層又は第2の反応層の少なくとも一方であるのがより好ましい。
また、本発明の機能性多孔質層の形成方法においては、前記機能性材料の溶液又は分散液の塗布を、吐出装置を用いて行うのが好ましい。
本発明の第2によれば、第1の集電層、第1の反応層、電解質膜、第2の反応層、第2の集電層を形成する燃料電池の製造方法であって、前記第1の反応層及び第2の反応層の少なくとも一方を、表面張力が異なる複数種の、反応層形成用材料の溶液又は分散液を炭素系物質粒子からなる多孔質層に塗布し、前記溶液又は分散液に含まれる溶媒を除去することにより形成することを特徴とする燃料電池の製造方法が提供される。
本発明の燃料電池の製造方法においては、前記第1の反応層及び第2の反応層の少なくとも一方を、炭素系物質粒子からなる多孔質層の深さ方向に反応層形成用材料の存在量が変化するように、反応層形成用材料が炭素系物質粒子に担持されてなる反応層を形成するものであるのが好ましい。
本発明の燃料電池の製造方法においては、前記第1の反応層及び第2の反応層の少なくとも一方を、反応層形成用材料の溶液又は分散液を炭素系物質粒子からなる多孔質層に塗布し、該多孔質層に反応層形成用材料の溶液又は分散液を含浸させる工程を、表面張力が異なる反応層形成用材料の溶液又は分散液を用いて複数回繰り返すことにより形成するのが好ましい。
本発明の燃料電池の製造方法においては、前記第1の反応層及び第2の反応層の少なくとも一方を、第1の反応層形成用材料の溶液又は分散液を炭素系物質粒子からなる多孔質層に塗布し、前記第1の反応層形成用材料の溶液又は分散液を炭素系物質粒子からなる多孔質層に含浸させた後、前記第1の反応層形成用材料の溶液又は分散液より大きい表面張力を有する、第2の反応層形成用材料の溶液又は分散液を前記炭素系物質粒子からなる多孔質層に塗布し、第2の反応層形成用材料の溶液又は分散液を含浸させることにより形成するのがより好ましい。
本発明の燃料電池の製造方法においては、前記表面張力が異なる反応層形成用材料の溶液又は分散液として、反応層形成用用材料を種類の異なる溶媒に溶解又は分散させて調製したものを用いるのが好ましい。
本発明の燃料電池の製造方法においては、前記第1の反応層及び第2の反応層の少なくとも一方を、第1の集電層上又は第2の集電層上に炭素系物質粒子を塗布することにより炭素系物質粒子からなる多孔質層を形成し、次いで、表面張力が異なる複数種の、反応層形成用材料の溶液又は分散液を前記炭素系物質粒子からなる多孔質層に塗布し、前記溶液又は分散液に含まれる溶媒を除去することにより形成するのが好ましい。
また、本発明の燃料電池の製造方法においては、前記反応層形成用材料の溶液又は分散液の塗布を、吐出装置を用いて行うのが好ましい。
本発明の燃料電池の製造方法においては、前記第1の反応層及び第2の反応層の少なくとも一方を、金属微粒子が炭素系物質粒子に担持されてなり、該金属微粒子の存在量が、前記反応層の集電層側よりも電解質膜側の方が高くなるように形成するのが好ましい。
本発明の第3によれば、本発明の製造方法により製造される燃料電池を電力供給源として備えることを特徴とする電子機器が提供される。
また本発明の第4によれば、本発明の製造方法により製造される燃料電池を電力供給源として備えることを特徴とする自動車が提供される。
本発明の機能性多孔質層の形成方法によれば、表面張力が異なる、複数種の機能性材料を含む溶液又は分散液を多孔質層に塗布することにより、表面張力の違いにより、前記機能性材料の前記多孔質層への深さ方向への浸透を容易に制御することができるので、機能性材料が深さ方向に変化するように分布している機能性多孔質層を容易に形成することができる。
本発明の機能性多孔質層の形成方法において、表面張力が相対的に小さい機能性材料の溶液又は分散液を塗布した後、表面張力が相対的に大きい機能性材料の溶液又は分散液を塗布する場合には、機能性材料が深さ方向に連続的に小さくなるように分布している機能性多孔質層を容易に形成することができる。
本発明の機能性多孔質層の形成方法において、表面張力が異なる機能性材料の溶液又は分散液として、同一の機能性材料を種類の異なる溶媒に溶解又は分散させて調製したものを用いる場合には、同じ機能性材料が、深さ方向に変化するように、好ましくは深さ方向に連続的に小さくなるように分布してなる機能性多孔質層を容易に形成することができる。
本発明の機能性多孔質層の形成方法において、表面張力が異なる機能性材料の溶液又は分散液を多孔質層に塗布し、機能性材料を多孔質層に含浸させる工程を繰り返すこと、すなわち、用いる機能性材料の溶液又は分散液の表面張力を任意の値に設定し、表面張力が異なる機能性材料の溶液又は分散液を任意に組み合わせ、あるいは機能性材料の溶液又は分散液の塗布量を任意に設定することによって、深さ方向に対して所望の機能性材料の濃度分布(存在分布)を有する機能性多孔質層を容易に形成することができる。
本発明の機能性多孔質層の形成方法において、前記多孔質層が炭素系物質粒子からなる多孔質層であり、前記機能性多孔質層が、白金、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、パラジウム、オスミウム及びこれらの2種以上からなる合金からなる群がら選ばれる1種若しくは2種以上の金属の微粒子からなる場合には、炭素系物質粒子からなる多孔質層に、金属微粒子が深さ方向に変化するように、好ましくは深さ方向に連続的に小さくなるように分布してなる、金属微粒子が多孔質炭素系物質粒子に担持されてなる機能性多孔質層を容易に形成することができる。
本発明の機能性多孔質層の形成方法は、第1の集電層、第1の反応層、電解質膜、第2の反応層、第2の集電層がこの順序で形成されてなる燃料電池の、前記第1の反応層又は第2の反応層を形成する方法として好ましく適用することができる。
また、本発明の機能性多孔質層の形成方法において、機能性材料の溶液又は分散液の塗布を吐出装置を用いて行う場合には、機能性材料を所定位置に正確に塗布することができるので、設計通りのプロファイルを有する機能性多孔質層を容易に形成することができる。また、機能性材料の溶液又は分散液を所定位置に必要なだけ塗布することができるので、余分な機能性材料を塗布することがなくなり、機能性材料の使用量を節減することができる。
本発明の燃料電池の製造方法によれば、反応層形成用材料が深さ方向に対して変化するように分布してなる反応層を有する燃料電池を、容易かつ効率よく製造することができる。
本発明の燃料電池の製造方法において、表面張力が相対的に小さい、反応層形成用材料の溶液又は分散液を塗布した後、表面張力が相対的に大きい、反応層形成用材料の溶液又は分散液を塗布する場合には、反応層形成用材料が深さ方向に連続的に小さくなるように分布してなる反応層を有する燃料電池を、容易かつ効率よく製造することができる。
本発明の燃料電池の製造方法において、反応層形成用材料の塗布を吐出装置を用いて行う場合には、均一で、深さ方向に対して所望の反応層形成用材料の濃度分布(存在分布)を有する反応層を効率よく形成することができる。また。従来の反応層形成用材料をベタ塗りして反応層を形成する場合に比して、高価な反応層形成用材料の使用量が少なくなる。従って、低コストで、出力の高い燃料電池を製造することができる。
また、本発明の燃料電池の製造方法によれば、第1の反応層及び第2の反応層の少なくとも1つを、金属微粒子が炭素物質粒子に担持されてなり、前記金属微粒子の存在量が、前記反応層の集電層側よりも電解質膜側の方が高くなるように、効率よく形成することができる。
本発明の製造方法により製造される燃料電池は、均一で、所望量の金属微粒子を有する反応層が効率よく形成されてなるため、低コストで、出力密度が高く、特性のよい燃料電池となっている。
本発明の製造方法により得られる燃料電池は、電子機器及び自動車などの電力供給源として有用である。
本発明の電子機器は、本発明の製造方法により製造された燃料電池を電力供給源として備えることを特徴とする。本発明の電子機器によれば、地球環境に適切に配慮したクリーンエネルギーを電力供給源として備えることができる。
また、本発明の自動車は、本発明の製造方法により製造された燃料電池を電力供給源として備えることを特徴とする。本発明の自動車によれば、地球環境に適切に配慮したクリーンエネルギーを電力供給源として備えることができる。
以下、本発明の機能性多孔質層の形成方法、燃料電池の製造方法、並びにこの燃料電池を備える電子機器及び自動車について詳細に説明する。
1)機能性多孔質層の形成方法
本発明の機能性多孔質層の形成方法は、機能性材料が多孔質物質に担持されてなる機能性多孔質層の形成方法であって、表面張力が異なる複数種の、機能性材料の溶液又は分散液を多孔質層に塗布し、前記表面張力の違いにより、前記機能性材料の前記多孔質層の深さ方向への浸透を制御することを特徴とする。
本発明において、機能性多孔質層とは、多孔質層中の孔質物質に機能性材料が担持(又は吸着)されてなる多孔質層のことをいう。また、本発明の機能性多孔質層の形成方法は、機能性材料が多孔質層中に、深さ方向に所定の濃度分布で存在する多孔質層を形成する方法であるが、同時に、多孔質層表面に機能性材料からなる層が形成される場合も含む。
本発明に用いる多孔質層の孔径は特に制限されないが、通常、数十nmから数百nmである。
本発明に用いる多孔質層としては、多孔質物質からなる層であって、機能性材料を担持可能なものであれば特に制限されない。多孔質物質の好ましい具体例としては、炭素粒子、カーボンナノチューブ、カーボンナノフォーン、フラーレン等の炭素系物質粒子が挙げられる。多孔質層は多孔質物質の1種からなる層であっても、2種以上の多孔質物質からなる層であってもよい。また多孔質層は、他の層の上に形成されたものであっても、多孔質層自体からなるものであってもよい。
本発明の機能性多孔質層の形成方法は、多孔質層に機能性材料を含む溶液又は分散液を塗布し、機能性材料の溶液又は分散液(以下、「機能性材料の液」という)を多孔質層に含浸させる工程(以下、「工程(1)」という)と、前記溶媒又は溶液に含まれる溶媒を除去する工程(以下、「工程(II)」という)に分けることができる。
工程(1)は、表面張力が異なる複数種の機能性材料の液を前記多孔質層に塗布し、前記多孔質層の深さ方向に前記機能性材料の存在量が変化するように、好ましくは連続的に変化するように、より好ましくは表面側から層内部に向かうにつれ、機能性材料の存在量が連続的に少なくなるように機能性材料を前記多孔質層に含浸させる。
一般的に、多孔質層にある物質を含浸させる場合においては、含浸させる物質(溶液又は分散液)の表面張力が大きいほど、深さ方向に対し含浸される範囲が狭くなり、表面張力が小さいほど深さ方向に対し広範囲に含浸する。本発明はこの現象を利用するものである。すなわち、本発明は表面張力が異なる複数種の機能性物質の液を多孔質層に塗布、含浸させることで、多孔質層の深さ方向に対する所望の位置に、所望の濃度の機能性物質が存在するようにした機能性多孔質層を形成するものである。
本発明においては、表面張力が相対的に小さい機能性材料の液を多孔質層に塗布し、多孔質層に含浸させた後、次いで、表面張力が相対的に大きい機能性材料の液を多孔質層に塗布し、該機能性材料の液を多孔質層に含浸させるのが好ましい。その理由は次のとおりである。
表面張力がAlmN/mである機能性物質の液を多孔質層上に塗布し、多孔質層に含浸させ、次いで、表面張力がA1よりも大きいA2mN/mである機能性材料の液を多孔質層上に塗布し、多孔質層に含浸させる場合には、表面張力がA1の機能性材料の液を用いた場合には、機能性材料は多孔質層の表面から深さd1までの間に均一に拡散される。また、表面張力がA2である機能性材料の液を用いた場合には、多孔質層の表面から深さd2(d1>d2)までの間に均一に拡散される。すなわち、表面張力がA1である場合にも、表面張力がA2である場合にも同じ機能性材料を使用するとすれば、相対的に多孔質層の表面付近から深さ方向(d1)にわたって、存在量が連続的に低くなるように機能性材料が分布した状態を得ることができる。
また、多孔質層に機能性材料の溶液又は分散液を塗布した場合、着弾した液は横方向に拡がることなく、多孔質層の深さ方向に浸透する。従って、たとえ、表面張力が高い材料を塗布したとしても、溶媒を後から塗布することにより、機能性材料の深さ方向への浸透深さを制御することができる。
この方法は具体的には次のようにして行うことができる。
第1の濃度を有する第1の機能性材料の溶液又は分散液の所定量を多孔質層に塗布する。次に、前記第1の機能性材料の溶液又は分散液を塗布した位置と同じ位置に溶媒の所定量を塗布する(第1工程)。これにより、機能性材料の多孔質層の深さ方向への浸透を制御することができる。
次いで、第2の濃度を有する第2の機能性材料の溶液又は分散液を多孔質層に塗布する。さらに、第2の機能性材料の溶液又は分散液を塗布した位置と同じ位置に溶媒の所定量を塗布する(第2工程)。この工程を繰り返すことにより、機能性材料の多孔質層の深さ方向に濃度分布を持たせることができる。この場合、第1工程と第2工程との間に、溶媒を除去する工程(乾燥工程)を設けることも好ましい。
なお、本実施形態では、表面張力が異なる2種類の機能性材料の液を例にとって説明したが、機能性材料の液の表面張力の値を多段階に変化させ、表面張力が異なる3種類以上の機能性材料の液を使用することもできる。
本発明で用いる機能性材料としては、多孔質物質に担持されることによって、化学反応性、電気伝導性、光応答性などの機能を発揮する物質であれば特に制限されない。好ましい具体例としては、白金、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、パラジウム、オスミウム及びこれらの2種以上からなる合金からなる群から選ばれる1種若しくは2種以上の金属の微粒子等が挙げられる。
機能性材料を溶解又は分散させる溶媒としては特に制限されないが、例えば、水、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、炭化水素類、芳香族炭化水素類及びこれらの2種以上の組み合わせ等が挙げられる。
表面張力が異なる機能性材料の液を調製する方法は特に制限されない。例えば、機能性材料として白金微粒子を用いる場合には、水に、アルコール類、グリセリン、エチレングリコールなどの有機溶媒を所定割合で添加したり、水に界面活性剤等を所定割合で添加することにより、表面張力が水の値から20mN/mまでの広範囲な表面張力を有する白金微粒子の分散液を調製することができる。また、機能性材料の溶液又は分散液の濃度を変えることにより、所定の表面張力を有する溶液又は分散液を調製することもできる。
本発明においては、機能性材料の液の塗布を吐出装置を用いて行うのが好ましい。吐出装置としては、後述する吐出装置20aと同様のものを使用することができる。吐出装置を用いて機能性材料の塗布を行う場合には、所望の塗布位置に、必要量の機能性材料の液を正確に塗布することができる。従って、所望量の機能性材料の液を正確に塗布することができるのみならず、機能性材料を塗布・含浸させたい位置のみに正確に塗布することも可能となるため、設計どおりの機能性材料の濃度分布(深さ方向及び水平方向)を有する機能性多孔質層を、容易に形成することができる。
また、用いる吐出装置として、複数の吐出ノズルを有するものを使用することもできる。このような吐出装置を用いる場合には、例えば、機能性材料の液を塗布する領域全体に所定の塗布間隔で機能性材料の液を塗布した後、その塗布間隔の間にさらに機能性材料の液を塗布する場合に、異なる吐出ノズルから機能性材料の液を吐出することができる。この吐出装置によれば、吐出ノズル間に生じる1回の塗布量の誤差を全体として少なくすることができる。
機能性材料の液の塗布は間隔を十分にあけて(例えば、1mm程度)、少量ずつ(例えば10ピコリットルずつ)塗布するのが好ましい。溶媒を留去した後、機能性材料の析出段階が変わるため、機能性材料が均一に分散された機能性多孔質層を得る上では、塗布間隔は常に同じであることが好ましい。
次いで、工程(II)において、機能性材料を溶解又は分散している溶媒を除去することにより、多孔質層中に機能性材料が担持(又は吸着)されてなる多孔質層を形成することができる。
機能性材料を溶解又は分散している溶媒を除去する方法としては、加熱して蒸発除去する方法が一般的である。本発明においては、長時間、高温の熱処理は、工程(I)で形成した機能性材料の分散状態を破壊するおそれがあるため、なるべく短時間、かつ低温で溶媒の除去を行うのが好ましい。具体的には、減圧下で、低温で、好ましくは100℃以下で溶媒を除去する方法が好ましい。
本発明の機能性多孔質層の形成方法によれば、機能性材料が深さ方向に変化するように分布している機能性多孔質層を容易に形成することができる。本発明の機能性多孔質層の形成方法は、以下に述べる燃料電池の反応層を形成に好適に適用することができる。
2)燃料電池の製造方法
本発明の燃料電池の製造方法は、第1の集電層、第1の反応層、電解質膜、第2の反応層、第2の集電層を形成する燃料電池の製造方法であって、前記第1の反応層及び第2の反応層の少なくとも一方を、表面張力が異なる複数種の、反応層形成用材料の溶液又は分散液を炭素系物質粒子からなる多孔質層に塗布し、前記溶液又は分散液に含まれる溶媒を除去することにより形成することを特徴とする。
本発明の燃料電池の製造方法は、図1に示す燃料電池の製造装置(燃料電池製造ライン)を使用して実施することができる。図1に示す燃料電池製造ラインにおいては、各工程においてそれぞれ用いられる吐出装置20a〜20m、吐出装置20a〜20kを接続するベルトコンベアBC1、吐出装置201、20mを接続するベルトコンベアBC2、ベルトコンベアBC1、BC2を駆動させる駆動装置58、燃料電池の組み立てを行なう組立装置60及び燃料電池製造ライン全体の制御を行なう制御装置56により構成されている。
吐出装置20a〜20kは、ベルトコンベアBC1に沿って所定の間隔で一列に配置されており、吐出装置201、20mはベルトコンベアBC2に沿って所定の間隔で一列に配置されている。また、制御装置56は、吐出装置20a〜20k、駆動装置58及び組立装置60と接続されている。
この燃料電池製造ラインにおいては、駆動装置58により駆動されたベルトコンベアBC1を駆動させ、燃料電池の基板(以下、単に「基板」という。)を各吐出装置20a〜20kに搬送して各吐出装置20a〜20kにおける処理が行なわれる。同様に、制御装置56からの制御信号に基づいてベルトコンベアBC2を駆動させ、基板を吐出装置201、20mに搬送して、吐出装置201、20mにおける処理が行なわれる。また、組立装置60においては、制御装置56からの制御信号に基づいてベルトコンベアBC1及びBC2によって搬送されてきた基板を用いて燃料電池の組み立て作業が行なわれる。
吐出装置20a〜20mとしては、インクジェット方式の吐出装置であれば特に制約されない。例えば、加熱発泡により気泡を発生し、液滴の吐出を行なうサーマル方式の吐出装置、ピエゾ素子を利用する圧縮により、液滴の吐出を行なうピエゾ方式の吐出装置等が挙げられる。
本実施形態では、吐出装置20aとして、図2に示すものを用いる。吐出装置20aは、吐出物34を収容するタンク30と、タンク30と吐出物搬送管32を介して接続されたインクジェットヘッド22、被吐出物を搭載、搬送するテーブル28、インクジェットヘッド22内に滞留する余剰の吐出物34を吸引して、インクジェットヘッド22内から過剰の吐出物を除去する吸引キャップ40、及び吸引キャップ40で吸引された余剰の吐出物を収容する廃液タンク48から構成されている。
タンク30は、レジスト溶液等の吐出物34を収容するものであり、タンク30内に収容されている吐出物の液面34aの高さを制御するための液面制御センサ36を備える液面制御センサ36は、インクジェットヘッド22が備えるノズル形成面26の先端部26aと、タンク30内の液面34aとの高さの差h(以下、「水頭値」という)を所定の範囲内に保つ制御を行う。例えば、この水頭値が25mm±0.5mm内となるように液面34aの高さを制御することで、タンク30内の吐出物34が所定の範囲内の圧力でインクジェットヘッド22に送ることができる。所定の範囲内の圧力で吐出物34を送ることで、インクジェットヘッド22から必要量の吐出物34を安定して吐出することができる。
吐出物搬送管32は、吐出物搬送管32の流路内の帯電を防止するための吐出物流路部アース継手32aとヘッド部気泡排気弁32bとを備える。ヘッド部気泡排除弁32bは、後述する吸引キャップ40により、インクジェットヘッド22内の吐出物を吸引する場合に用いられる。
インクジェットヘッド22は、ヘッド体24及び吐出物を吐出する多数のノズルが形成されているノズル形成面26を備え、ノズル形成面26のノズルから吐出物、例えば、反応ガスを供するためのガス流路を基板上に形成する際に基板に塗布されるレジスト溶液等が吐出される。テーブル28は、所定の方向に移動可能に設置されている。テーブル28は、図中矢印で示す方向に移動することにより、ベルトコンベアBC1により搬送される基板を載置して、吐出装置20a内に取り込む。
吸引キャップ40は、図2に示す矢印方向に移動可能となっており、ノズル形成面26に形成された複数のノズルを囲むようにノズル形成面26に密着し、ノズル形成面26との間に密閉空間を形成してノズルを外気から遮断できる構成となっている。即ち、吸引キャップ40によりインクジェットヘッド22内の物を吸引するときは、このヘッド部気泡排除弁32bを閉状態にして、タンク30側から吐出物が流入しない状態とし、吸引キャップ40で吸引することにより、吸引される吐出物の流速を上昇させ、インクジェットヘッド22内の気泡を速やかに排出することができる。
吸引キャップ40の下方には流路が設けられており、この流路には、吸引バルブ42が配置されている。吸引バルブ42は、吸引バルブ42の下方の吸引側と、上方のインクジェットヘッド22側との圧力バランス(大気圧)を取るための時間を短縮する目的で流路を閉状態にする役割を果す。この流路には、吸引異常を検出する吸引圧検出センサ44やチューブポンプ等からなる吸引ポンプ46が配置されている。また、吸引ポンプ46で吸引、搬送された吐出物34は、廃液タンク48内に一時的に収容される。
本実施形態においては、吐出装置20b〜20mは、吐出物34の種類が異なることを除き、吐出装置20aと同様の構成のものである。したがって、以下においては、各吐出装置の同一構成については同一の符号を用いる。
次に、図1に示す燃料電池製造ラインを用いて、燃料電池を製造する各工程を説明する。図1に示す燃料電池製造ラインを用いる燃料電池の製造方法のフローチャートを図3に示す。
図3に示すように、本実施形態に係る燃料電池は、第1の基板にガス流路を形成する工程(S10,第1のガス流路形成工程)、ガス流路内に第1の支持部材を塗布する工程(S11,第1の支持部材塗布工程)、第1の集電層を形成する工程(S12,第1の集電層形成工程)、第1のガス拡散層を形成する工程(S13,第1のガス拡散層形成工程)、第1の反応層形成工程(S14,第1の反応層形成工程)、電解質膜を形成する工程(S15,電解質膜形成工程)、第2の反応層を形成する工程(S16,第2の反応層形成工程)、第2のガス拡散層を形成する工程(S17,第2のガス拡散層形成工程)、第2の集電層を形成する工程(S18,第2の集電層形成工程)、第2の支持部材を第2のガス流路内に塗布する工程(S19,第2の支持部材塗布工程)、及び第2のガス流路が形成された第2の基板を積層する工程(S20,組立工程)により製造される。
(1)第1のガス流路形成工程(S10)
まず、図4(a)に示すように、矩形状の第1の基板2を用意し、基板2をベルトコンベアBC1により吐出装置20aまで搬送する。基板2としては特に制限されず、シリコン基板等の通常の燃料電池に用いられるものを使用できる。本実施形態では、シリコン基板を用いている。
ベルトコンベアBC1により搬送された基板2は、吐出装置20aのテーブル28上に載置され、吐出装置20a内に取り込まれる。吐出装置20a内においては、吐出装置20aのタンク30内に収容されているレジスト液が、ノズル形成面26のノズルを介してテーブル28に搭載された基板2上の所定位置に塗布され、基板2の表面にレジストパターン(図中、斜線部分)が形成される。レジストパターンは、図4(b)に示すように、基板2表面の第1の反応ガスを供給するための第1のガス流路を形成する部分以外の部分に形成される。
所定の位置にレジストパターンが形成された基板2は、ベルトコンベアBC1により吐出装置20bに搬送され、吐出装置20bのテーブル28上に載置され、吐出装置20b内に取り込まれる。吐出装置20b内においては、タンク30内に収容されているフッ化水素酸水溶液等のエッチング液が、ノズル形成面26のノズルを介して基板2表面に塗布される。エッチング液により、レジストパターンが形成されている部分以外の基板2表面部がエッチングされて、図5(a)に示すように、基板2の一方の側面から他方の側面に延びる断面コ字形状の第1のガス流路が形成される。また、図5(b)に示すように、ガス流路が形成された基板2は、図示しない洗浄装置によって表面が洗浄され、レジストパターンが除去される。次いで、ガス流路が形成された基板2は、テーブル28からベルトコンベアBC1へ移され、ベルトコンベアBC1により吐出装置20cまで搬送される。
(2)第1の支持部材塗布工程(S11)
次に、第1のガス流路が形成された基板2上に、第1の集電層を支持するための第1の支持部材をガス流路内に塗布する。第1の支持部材の塗布は、基板2をテーブル28に載置して吐出装置20c内に取り込み、次いで、吐出装置20cにより、タンク30内に収容されている第1の支持部材4をノズル形成面26のノズルを介して、基板2に形成されている第1のガス流路内に吐出することにより行われる。
用いる第1の支持部材としては、第1の反応ガスに対して不活性であり、第1の集電層が第1のガス流路に落下するのを防止し、かつ、第1の反応層へ第1の反応ガスが拡散するのを妨げないものであれば特に制限されない。例えば、炭素粒子、ガラス粒子等が挙げられる。本実施形態では、直径1〜5ミクロン程度の粒子径の多孔質カーボンを使用している。所定の粒径をもつ多孔質カーボンを支持部材として使用することにより、ガス流路を介して供給される反応ガスが多孔質カーボンの隙間から上へ拡散するため、反応ガスの流れが妨げられることがなくなる。
第1の支持部材4が塗布された基板2の端面図を図6に示す。第1の支持部材4が塗布された基板2は、テーブル28からベルトコンベアBC1へ移され、ベルトコンベアBC1により吐出装置20dまで搬送される。
(3)第1の集電層形成工程(S12)
次に、基板2上に、第1の反応ガスが反応することにより発生した電子を集めるための第1の集電層を形成する。まず、ベルトコンベアBC1により吐出装置20dまで搬送された基板2を、テーブル28上に載置して吐出装置20d内に取り込む。吐出装置20dにおいては、タンク30内に収容されている集電層形成用材料の一定量を、ノズルの形成面26のノズルを介して基板2上に吐出することにより、所定のパターンを有する第1の集電層が形成される。
用いる集電層形成用材料としては、導電性物質を含む材料であれば特に制限されない。導電性物質としては、例えば、銅、銀、金、白金、アルミニウム等が挙げられる。これらは1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。集電層形成用材料は、これらの導電性物質の少なくとも1種を適当な溶媒に分散させ、所望により分散剤を添加して調製することができる。
本実施形態では、集電層形成用材料の塗布を吐出装置20dを用いて行っているので、簡便な操作により、所定量を所定の位置に正確に塗布することができる。したがって、集電層形成用材料の使用量を大幅に節約でき、所望のパターン(形状)の集電層を効率よく形成することができ、集電層形成用材料の塗布間隔を場所により変化させることにより、反応ガスの通気性を制御することも容易にでき、用いる集電層形成用材料の種類を塗布位置により変更することも自由に行うことができる。
第1の集電層6が形成された基板2の端面図を図7に示す。図7に示すように、第1の集電層6は、基板2に形成されている第1のガス流路内の第1の支持部材4により支持され、第1のガス流路内に落下しないようになっている。第1の集電層6が形成された基板2は、テーブル28からベルトコンベアBC1へ移され、ベルトコンベアBC1により吐出装置20eまで搬送される。
(4)第1のガス拡散層形成工程(S13)
次に、基板2の集電層上に第1のガス拡散層を形成する。先ず、ベルトコンベアBC1により吐出装置20eまで搬送された基板2をテーブル28上に載置して、吐出装置20e内に取り込む。吐出装置20e内においては、吐出装置20eのタンク30内に収容されているガス拡散層形成用材料を、ノズル形成面26のノズルを介してテーブル28に載置されている基板2表面の所定位置に吐出して、第1のガス拡散層が形成される。
用いるガス拡散層形成用材料としては、炭素粒子が搬的であるが、カーボンナノチューブ、カーボンナノフォーン、フラーレン等も使用できる。本実施形態では、ガス拡散層を塗布装置20eを用いて形成するため、例えば、集電層側には塗布間隔を大きく(数+μm)し、表面側には塗布間隔を小さく(数十nm)することで、基板付近は流路幅を大きくして反応ガスの拡散抵抗をできるだけ小さくしつつ、反応層付近(ガス拡散層の表面側)においては、均一で細かい流路となっているガス拡散層を容易に形成できる。また、ガス拡散層の基板側は炭素微粒子を用い、表面側は、ガス拡散能力は低いが触媒担持能力に優れる材料を用いることもできる。
第1のガス拡散層8が形成された基板2の端面図を図8に示す。図8に示すように、第1のガス拡散層8は、基板に形成されている第1の集電層を覆うように基板2の全面に形成されている。このガス拡散層8は多孔質層であり、次の工程で説明するように、ガス拡散層8の一部又は反応層形成用材料を担持する役割を果す。第1のガス拡散層8が形成された基板2は、テーブル28からベルトコンベアBC1へ移され、ベルトコンベアBC1により吐出装置20fまで搬送される。
(5)第1の反応層形成工程(S14)
次に、基板2上に第1の反応層を形成する。第1の反応層は、第1の集電層とガス拡散層8を介して電気的に接続されるように形成する。まず、ベルトコンベアBC1により吐出装置20fまで搬送された基板2をテーブル28上に載置して、吐出装置20f内に取り込む。
次に、吐出装置20fのタンク30内に収容されている、表面張力が異なる反応層形成用材料の溶液又は分散液の所定量が、ガス拡散層8上の第1の反応層形成部位に吐出され、ガス拡散層8上に吐出された反応層形成用材料の溶液又は分散液がガス拡散層8に含浸される。この操作を繰り返すことにより、ガス拡散層8上に反応層形成用材料の塗膜が形成されると同時に、ガス拡散層8の表面部内に、表面部から基板方向に対して反応層形成材料の存在量が連続的に変化する状態を得ることができる。
用いる反応層形成用材料の溶液又は分散液としては、例えば、(a)金属化合物(金属錯体、金属塩)の溶液、(b)金属水酸化物をカーボン担体に吸着させた金属担持カーボンの分散液や、(c)金属微粒子の分散液等が挙げられる。
前記(a)〜(c)の溶液及び分散液に用いる金属化合物、金属水酸化物、金属微粒子の金属としては、例えば、白金、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、パラジウム、オスミウム及びこれらの2種以上からなる合金からなる群から選ばれる1種若しくは2種以上の金属が挙げられ、白金が特に好ましい。
表面張力が異なる反応層形成用材料の溶液又は分散液を、吐出装置を用いて吐出させる場合には、同じ吐出装置20fから、表面張力が異なる反応層形成用材料の溶液又は分散液を吐出させてもよいし、表面張力が異なる反応層形成用材料の溶液又は分散液毎に異なる吐出装置から吐出させてもよい。例えば、吐出装置20fにより、表面張力が相対的に小さい、反応層形成用材料の溶液又は分散液を吐出させた後、吐出装置20f’(図示を省略)により、表面張力が相対的に大きい、反応層形成用材料の溶液又は分散液を吐出させるようにしてもよい。
本発明によれば、反応層形成用材料の溶液又は分散液を、その表面張力を段階的に(又は連続的に)変化させながらガス拡散層8上に塗布・含浸させることにより、ガス拡散層8中に表面部から基板側に向けて、反応層形成用材料の存在量が連続的に変化した構造の反応層を形成することができる。また、用いる反応層形成用材料の溶液又は分散液の表面張力、塗布量を適宜設定することで、深さ方向に対する反応層形成用材料が任意の分布パターンで存在している反応層を容易に形成することができる。
また本発明においては、表面張力が異なる反応層形成用材料の溶液又は分散液を塗布し、含浸させる方法として、表面張力の小さいものから順次塗布し、含浸させる方法を用いるのが好ましい。この方法によれば、ガス拡散層8の表面側から第1の集電層に向かうにしたがって、反応層形成用材料の存在量が連続的に小さくなるような反応層を容易に形成することができる。
さらに本発明においては、反応層形成材料の溶液又は分散液を所定間隔をおいて塗布するのが、微粒子状の反応層形成用材料の凝集を防止し、反応層形成用材料が均一に分散された反応層を形成することができるので好ましい。反応層形成用材料の溶液又は分散液を塗布する間隔は、反応層形成用材料の溶液又は分散液の液滴が着弾時に互いに接触しない程度の間隔であれば特に制限されないが、均一で、所望量の反応層形成用材料を有する反応層を効率よく形成する観点から、液滴の大きさを小さくし(例えば、10ピコリットル以下)、塗布間隔を十分にあける(例えば、0.1〜1mm程度)のが好ましい。
吐出装置20fにより、反応層形成用材料の溶液又は分散液を塗布し、ガス拡散層8に含浸することを繰り返した後は、反応層形成用材料を溶解又は分散している溶媒の除去を行うことにより、炭素粒子に反応層形成用材料が担持された構造を得ることができる。
反応層形成用材料を溶解又は分散している溶媒を除去する方法としては、不活性ガス雰囲気下、常圧で加熱することにより溶媒を除去する方法、減圧下で加熱することにより溶媒を除去する方法等が挙げられるが、後者の方法が好ましい。
加熱温度は低い程好ましく、より好ましくは100℃以下、さらに好ましくは50℃以下である。また、溶媒を除去する処理はなるべく短い時間で行うのが好ましい。長時間、高温で溶媒を除去する場合には、吐出装置により作製した反応層形成用材料の均一な分散状態が破壊され、微粒子状の反応層形成用材料が均一に分散した反応層を得ることができなくなるおそれがある。
以上のようにして、第1のガス拡散層8上に第1の反応層10が形成された状態概念図を図9に示す。図9に示すように、第1のガス拡散層8の表面部から基板側に向けて、粒子状の反応層形成用材料10aの存在量が連続的に小さくなるような構造の第1の反応層10が形成されている。また、図9に示す概念図においては、第1のガス拡散層8の一部が第1の反応層10を兼ねている。
以上のようにして第1の反応層10が形成された基板2の端面図を図10に示す。第1の反応層10が形成された基板2は、テーブル28からベルトコンベアBC1へ移され、ベルトコンベアBC1により吐出装置20gまで搬送される。
(6)電解質膜形成工程(S15)
次に、第1の反応層10が形成された基板2上に電解質膜を形成する。まず、ベルトコンベアBC1により吐出装置20gまで搬送された基板2を、テーブル28上に載置して吐出装置20g内に取り込む。吐出装置20gにおいては、タンク30内に収容されている電解質膜の形成材料をノズル形成面26のノズルを介して第1の反応層10上に吐出して電解質膜12が形成される。
用いる電解質膜の形成材料としては、例えば、ナフィオン(デュポン社製)等のパーフルオロスルホン酸を、水とメタノールの重量比が1:1の混合溶液中でミセル化して得られる高分子電解質材料や、タングスト燐酸、モリブド燐酸等のセラミックス系固体電解質を所定の粘度(例えば、20mPa・s以下)に調整した材料等が挙げられる。
電解質膜が形成された基板2の端面図を図11に示す。図11に示すように、第1の反応層10上に所定の厚さを有する電解質膜12が形成されている。電解質膜12が形成された基板2は、テーブル28からベルトコンベアBC1へ移され、ベルトコンベアBC1により吐出装置20hまで搬送される。
(7)第2の反応層形成工程(S16)
次に、電解質膜12が形成された基板2上に第2の反応層を形成する。第2の反応層は、ガス流路及びガス拡散層が形成された基板上に、不活性ガスを前記ガス流路中を流しながら、反応層形成用材料を塗布して形成する。
まず、ベルトコンベアBC1により吐出装置20hまで搬送された基板2を、テーブル28上に載置して吐出装置20h内に取り込む。吐出装置20hにおいては、吐出装置20fにおいて行われた処理と同様の処理により、第2の反応層10’が形成される。第2の反応層10’を形成する材料としては、第1の反応層と同様のものを使用することができる。
電解質膜12上に第2の反応層10’が形成された基板2の端面図を図12に示す。図12に示すように、電解質膜12上に第2の反応層10’が形成されている。第2の反応層10’においては、第2の反応ガスの反応が行われる。第2の反応層10’が形成された基板2は、テーブル28からベルトコンベアBC1へ移され、ベルトコンベアBC1により吐出装置20iまで搬送される。
(8)第2のガス拡散層形成工程(S17)
次に、第2の反応層10’が形成された基板2上に第2のガス拡散層を形成する。まず、ベルトコンベアBC1により吐出装置20iまで搬送された基板2を、テーブル28上に載置して吐出装置20i内に取り込む。吐出装置20iにおいては、吐出装置20eにおいて行われた処理と同様の処理により、第2のガス拡散層8’が形成される。第2のガス拡散層形成用材料としては、第1のガス拡散層8と同様のものが使用できる。
第2のガス拡散層8’が形成された基板2の端面図を図13に示す。第2のガス拡散層8’が形成された基板2は、テーブル28からベルトコンベアBC1へ移され、ベルトコンベアBC1により吐出装置20jまで搬送される。
(9)第2の集電層形成工程(S18)
次に、第2のガス拡散層8’が形成された基板2上に第2の集電層を形成する。まず、ベルトコンベアBC1により吐出装置20jまで搬送された基板2を、テーブル28上に載置して吐出装置20j内に取り込み、吐出装置20dにおいて行われた処理と同様の処理により、第2の集電層6’が第2のガス拡散層8’上に形成される。第2の集電層形成用材料としては、第1の集電層形成用材料と同様のものが使用できる。第2の集電層6’が形成された基板2は、テーブル28からベルトコンベアBC1へ移され、ベルトコンベアBC1により吐出装置20kまで搬送される。
(10)第2の支持部材塗布工程(S19)
次に、ベルトコンベアBC1により吐出装置20kまで搬送された基板2を、テーブル28上に載置して吐出装置20k内に取り込み、吐出装置20cにおいて行われた処理と同様の処理により、第2の支持部材が塗布される。第2の支持部材としては、第1の支持部材と同様のものが使用できる。
第2の集電層6’及び第2の支持部材4’が塗布された基板2の端面図を図14に示す。第2の支持部材4’は、第2の集電層6’上に形成され、基板2上に積層する第2の基板に形成されている第2のガス流路内に収容される位置に塗布されている。
(11)第2の基板組立工程(S20)
次に、第2の支持部材4’が塗布された基板2と、別途用意した第2のガス流路が形成された第2の基板2’とを積層する。第1の基板と第2の基板との積層は、基板2上に形成された第2の支持部材4’が、第2の基板に形成された第2のガス流路内に収容されるように接合することにより行われる。ここで、第2の基板としては、第1の基板と同じものを使用できる。また、第2のガス流路形成は、吐出装置201及び20mにおいて、吐出装置20a及び20bにより行なわれる処理と同様の処理により行なわれる。
以上のようにして、図15に示す構造の燃料電池を製造することができる。図15に示す燃料電池は、図中、下側から、第1の基板2と、第1の基板2に形成された第1のガス流路3と、第1のガス流路3内に収容された第1の支持部材4と、第1の基板2及び第1の支持部材4上に形成された第1の集電層6と、第1のガス拡散層8と、第1のガス拡散層8上に形成された第1の反応層10と、電解質膜12と、第2の反応層10’と、第2のガス拡散層8’と、第2の集電層6’と、第2のガス流路3’と、第2のガス流路3’内に収容された第2の支持部材4’と、第2の基板2’とから構成されている。
図15に示す燃料電池の第1の反応層10及び第2の反応層10’は、反応層形成用材料が炭素粒子に担持されてなり、前記反応層形成用材料の存在量が、前記反応層の集電層側よりも電解質膜側の方が高くなるように形成されている。従って、均一な所望量の金属微粒子を有する反応層が効率よく形成されており、低コストで、出力密度が高く、特性のよい燃料電池となっている。
また、図15に示す燃料電池においては、基板2に形成されている一方の側面から他方の側面へと延びるコ字状の第1のガス流路と基板2’に形成されている第2のガス流路とが平行になるように基板2’が配置されている。
本実施形態に係る燃料電池の種類は特に制約されない。例えば、高分子電解質型燃料電池、リン酸型燃料電池、ダイレクトメタノールタイプの燃料電池等が挙げられる。
図15に示す燃料電池は、次のように動作する。すなわち、第1の基板2の第1のガス流路3から第1の反応ガスが導入され、ガス拡散層8により均一に拡散され、拡散された第1の反応ガスが第1の反応層10で反応してイオンと電子が生じ、生じた電子は集電層6で集められ、第2の基板2’の第2の集電層6’に流れ、第1の反応ガスにより生じたイオンは電解質膜12の中を第2の反応層10’へ移動する。一方、第2の基板2’のガス流路3’から第2の反応ガスが導入され、第2のガス拡散層8’により均一に拡散され、拡散された第2の反応ガスが第2の反応層10’において、電解質膜12中を移動してきたイオン及び第2の集電層6’から送り込まれた電子と反応する。例えば、第1の反応ガスが水素ガスであり、第2の反応ガスが酸素ガスである場合には、第1の反応層10においては、H→2H+2eの反応が進行し、第2の反応層10’においては、1/20+2H+2e→H0の反応が進行する。
上述した実施形態に係る燃料電池の製造方法においては、全ての工程において吐出装置を用いているが、燃料電池を製造する何れかの工程において吐出装置を用いて燃料電池を製造することもできる。例えば、吐出装置を用いて反応層形成用材料を塗布して、第1の反応層及び/又は第2の反応層を形成し、その他の工程においては従来と同様の工程により燃料電池を製造するようにしてもよい。この場合であっても、MEMS(MicroElectroMechanicalSystem)を用いることなく反応層を形成できるため、燃料電池の製造コストを低く抑えることができる。
上述の実施形態の製造方法においては、基板上にレジストパターンを形成し、フッ化水素酸水溶液を塗布してエッチングを行うことによりガス流路を形成しているが、レジストパターンを形成することなくガス流路を形成することもできる。また、フッ素ガス雰囲気中に基板を載置し、基板上の所定の位置に水を吐出することによりガス流路を形成するようにしてもよい。また、基板上にガス流路形成用材料を吐出装置を用いて塗布してガス流路を形成してもよい。
上述の実施形態の製造方法においては、第1の反応ガスが供給される第1の基板側から燃料電池の構成部分を形成し、最後に第2の基板を積層することで燃料電池の製造を行っているが、第2の反応ガスが供給される側の基板から燃料電池の製造を開始するようにしてもよい。
上述の実施形態の製造方法においては、第2の支持部材を第1の基板に形成されている第1のガス流路に沿って塗布しているが、第1のガス流路と交差するような方向に塗布してもよい。即ち、第2の支持部材を、例えば、第1の基板に形成されているガス流路と直角に交差するように、例えば、図5(b)において図中右側面から左側面へと延びる方向に塗布するようにしてもよい。この場合には、第2の基板に形成されている第2のガス流路と、第1の基板に形成されている第1のガス流路とが、直角に交差するように第2の基板が配置された構造の燃料電池が得られる。
上述の実施形態の製造方法においては、第1のガス流路が形成された第1の基板上に、第1の集電層、第1の反応層、電解質膜、第2の反応層及び第2の集電層を順次形成しているが、第1の基板と第2の基板のそれぞれに集電層、反応層及び電解質膜を形成し、最後に第1の基板と第2の基板とを接合することにより、燃料電池を製造することもできる。
本実施形態の燃料電池製造ラインにおいては、第1の基板に処理を施す第1製造ラインと第2の基板に処理を施す第2製造ラインとを設け、それぞれの製造ラインにおける処理を平行して行う製造ラインを用いている。従って、第1の基板への処理と第2の基板への処理を平行して行うことができるため、迅速に燃料電池を製造することができる。
3)電子機器及び自動車
本発明の電子機器は、上述した燃料電池を電力供給源として備えることを特徴とする。電子機器としては、携帯電話機、PHS、モバイル、ノート型パソコン、PDA(携帯情報端末)、携帯テレビ電話機などが挙げられる。また、本発明の電子機器は、例えば、ゲーム機能、データ通信機能、録音再生機能、辞書機能などの他の機能を有していてもよい。本発明の電子機器によれば、地球環境に適切に配慮したクリーンエネルギーを電力供給源として備えることができる。
本発明の自動車は、上述した燃料電池を電力供給源として備えることを特徴とする。本発明の製造方法によれば、複数の燃料電池を積層することによって大型の燃料電池を製造することもできる。すなわち、図16に示すように、製造した燃料電池の基板2’の裏面に更にガス流路を形成し、ガス流路が形成された基板2’の裏面上に、上述の燃料電池の製造方法における製造工程と同様にしてガス拡散層、反応層、電解質膜などを形成して燃料電池を積層することによって大型の燃料電池を製造することができる。本発明の自動車によれば、地球環境に適切に配慮したクリーンエネルギーを電力供給源として備えることができる。
実施の形態に係る燃料電池の製造ラインの一例を示す図である。 実施の形態に係るインクジェット式吐出装置の概略図である。 実施の形態に係る燃料電池の製造方法のフローチャートである。 実施の形態に係る燃料電池の製造過程の基板の端面図である。 実施の形態に係るガス流路を形成する処理を説明する図である。 実施の形態に係る燃料電池の製造過程の基板の端面図である。 実施の形態に係る燃料電池の製造過程の基板の端面図である。 実施の形態に係る燃料電池の製造過程の基板の端面図である。 実施の形態に係る反応層の概念図である。 実施の形態に係る燃料電池の製造過程の基板の端面図である。 実施の形態に係る燃料電池の製造過程の基板の端面図である。 実施の形態に係る燃料電池の製造過程の基板の端面図である。 実施の形態に係る燃料電池の製造過程の基板の端面図である。 実施の形態に係る燃料電池の製造過程の基板の端面図である。 実施の形態に係る燃料電池の端面図である。 実施の形態に係る燃料電池を積層した大型燃料電池の図である。
符号の説明
2…第1の基板、2’…第2の基板、3…第1のガス流路、3’…第2のガス流路、4…第1の支持部材、4’…第2の支持部材、6…第1の集電層、6’…第2の集電層、8…第1のガス拡散層、8’…第2のガス拡散層、10a…反応層形成用材料、10…第1の反応層、10’…第2の反応層、12…電解質膜、20a〜20m…吐出装置、BC1,BC2…ベルトコンベア。

Claims (5)

  1. 機能性材料が多孔質物質に担持されてなる機能性多孔質層の形成方法であって、
    第1の機能性材料の溶液又は分散液を多孔質層に塗布し、前記第1の機能性材料の溶液又は分散液を前記多孔質層に含浸させた後、前記第1の機能性材料の溶液又は分散液より大きい表面張力を有する、第2の機能性材料の溶液又は分散液を前記多孔質層に塗布し、第2の機能性材料の溶液又は分散液を含浸させることを特徴とする機能性多孔質層の形成方法。
  2. 第1の集電層と、第1の反応層と、電解質膜と、第2の反応層と、第2の集電層を形成する燃料電池の製造方法であって、
    前記第1の反応層及び前記第2の反応層の少なくとも一方を、第1の反応層形成用材料の溶液又は分散液を炭素系物質粒子からなる多孔質層に塗布し、前記第1の反応層形成用材料の溶液又は分散液を含浸させた後、前記第1の反応層形成用材料の溶液又は分散液より大きい表面張力を有する、第2の反応層形成用材料の溶液又は分散液を前記多孔質層に塗布し、前記第2の反応層形成用材料の溶液又は分散液を含浸させることにより形成することを特徴とする燃料電池の製造方法。
  3. 前記第1の反応層及び前記第2の反応層の少なくとも一方が、金属微粒子が炭素系物質粒子に担持されてなり、該金属微粒子の存在量が、前記反応層の集電層側よりも電解質膜側の方が高くなるように形成することを特徴とする、請求項2に記載の燃料電池の製造方法。
  4. 請求項2または3に記載の製造方法により製造された燃料電池を電力供給源として備えることを特徴とする電子機器。
  5. 請求項2または3に記載の製造方法により製造された燃料電池を電力供給源として備えることを特徴とする自動車。
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