JP3885020B2 - 化合物構造解析システム,質量分析データ解析方法,質量分析データ解析装置及び質量分析データ解析プログラム - Google Patents

化合物構造解析システム,質量分析データ解析方法,質量分析データ解析装置及び質量分析データ解析プログラム Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、質量分析データを解析処理する方法及び装置並びに化合物の構造を推定する装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
質量分析装置により得られた質量分析データから、物質の同定精度を向上させるため、物質(親イオン)を解離させ、その解離イオンを更に質量分析するタンデム型質量分析機能を持つ質量分析装置が増加している。親イオンの質量分析データ(MSデータ)、更に、解離イオンの質量分析データ(MS/MSデータ)により、親イオンの同定や、親イオンの推定構造の導出を行う方法は、主に以下に分類される。
(1)親イオンの質量分析データ(MSデータ)のデータベース検索法
(2)親イオン及び解離イオンの質量分析データ(MSデータ及びMS/MSデータ)のデータベース検索法
(3)親イオン及び解離イオンの質量分析データ(MSデータ及びMS/MSデータ)に基づいて、データベースに依存しない方法
(2)の従来技術の一例として、特開平8−124519号では、質量分析データである質量スペクトルの各ピークについて、ピークデータベースを参照して、ピーク質量に対応するイオン種の候補を抽出し、脱離基データベースを参照して、脱離質量に対応する脱離基の候補を抽出し、さらに、解離イオン及び脱離基から親イオンを構築する際の規則を格納した構造構築データベースを参照して、親イオンの候補を決定している。
【0003】
また、(3)の従来技術の一例として、大阪大学で開発されたアミノ酸配列解析支援ソフトウェア“SeqMS”では、10個程度のアミノ酸配列により構成されているペプチドに対し、データベース検索に依らず、ペプチドのアミノ酸配列の同定を行っている。このソフトウェアでは、ペプチドイオンと、その解離イオンの質量分析データから、経験的(実験的)に求めた解離確率の重み付け値を用いた、グラフ理論に基づいた統計処理によって、アミノ酸配列候補を導出している。
【0004】
【特許文献1】
特開平8−124519号公報
【非特許文献1】
ポストゲノム時代の実験講座 2 プロテオーム解析法(p.137−139、大須賀、里美、高尾 著、羊土社、2000年7月発行)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
親イオンの質量分析データ(MSデータ)、更に、解離イオンの質量分析データ(MS/MSデータ,MS/MS/MSデータ)により、親イオンの同定や、親イオンの推定構造の導出を行う方法として、従来の技術の(1),(2)に示したデータベース検索によると、未知構造を持つ物質に対しては、データベースにデータが存在しない為、親イオンの同定や、推定構造の導出が困難となる。
【0006】
また、従来の技術の(3)に示したデータベース検索によらない方法として、グラフ理論に基づいた統計処理や数合わせ的な情報処理による方法では、親イオンの同定精度が半分以下と非常に低いというのが現状である。
【0007】
そこで、本発明の第一の目的は、未知構造物質にも対応可能で、高精度に、親イオンの同定、或いは、親イオンの構造を推定する事にある。
【0008】
MSn 多回解離イオン計測データ分析に関しても、親イオンの推測はユーザー依存となっており、ユーザー依存度が高い。このため、本発明の第2の目的は
MSn のデータから自動的に親イオン構造を推定する事にある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の一つの特徴は、質量分析装置を、解析対象イオンに関する質量分析データの計測値を入力する入力手段と、前記解析対象イオンに関する解離イオンの質量分析データの計測値を入力する入力手段と、解析対象イオンに対する複数のイオン構造候補に関する質量分析データを保存するデータ保存手段と、イオン構造候補に対する解離イオンに関する質量分析データの計算値を計算により導出する計算手段と、解析対象イオンに関する質量分析データの計測値及び前記解析対象イオンに関する解離イオンの質量分析データの計測値と、前記データ保存手段により保存されたイオン構造候補に関する質量分析データ及び前記計算手段により導出された解離イオンに関する質量分析データの計算値とを照合することによりイオン構造候補を評価する構造候補評価手段とを備えるものとすることにある。
【0010】
また、本発明のその他の特徴は、解析対象イオンに関する質量分析データの計測値又は解析対象イオンに関する解離イオンに関する質量分析データの計測値を入力する入力手段と、解析対象イオンに関する質量分析データの計測値とインターネットにより公開されたイオン構造候補に関する質量分析データとを照合し、又は解析対象イオンに関する解離イオンの質量分析データの計測値とインターネットにより公開されたイオン構造候補に対する解離イオンに関する質量分析データする質量分析データとを照合することによりイオン構造候補を評価するものとすることにある。
【0011】
また、本発明のその他の特徴は、質量分析データ解析方法を、解析対象イオンに関する質量分析データを計測する手順と、解析対象イオンに対する解離イオンの質量分析データを計測する手順と、解析対象イオンのイオン構造候補に対する解離イオンに関する質量分析データの計算値を計算により導出する手順と、解析対象イオンに関する質量分析データの計測値及び解析対象イオンに関する解離イオンの質量分析データの計測値と、データベースに保存されたイオン構造候補に関する質量分析データ及び前記計算手段により導出された解離イオンに関する質量分析データの計算値とを照合することにより解析対象イオンの構造を推定する手順とを備えるものとすることにある。
【0012】
また、本発明のその他の特徴は、質量分析データ解析プログラムを、解析対象イオンに関する質量分析データの計測値が入力され、解析対象イオンに関する解離イオンの質量分析データの計測値が入力され、イオン構造候補に対する解離イオンに関する質量分析データの計算値を計算により導出し、解析対象イオンに関する質量分析データの計測値及び前記解析対象イオンに関する解離イオンの質量分析データの計測値と、データベースに保存されたイオン構造候補に関する質量分析データ及び前記導出された解離イオンに関する質量分析データの計算値とを照合することにより解析対象イオンの構造を推定するものとしたことにある。
【0013】
なお、本発明のその他の特徴は、本願特許請求の範囲に記載の通りである。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照し、本発明の実施例について説明する。
【0015】
まず、第一の実施例に関わる化合物構造解析システムについて説明する。図1は、本発明の第一の実施例である質量分析データ解析の流れの概略図である。質量分析データ1とは、図2に示す質量分析装置24から計測されたデータである。質量分析装置24では、分析対象の試料は、液体クロマトグラフなどの前処理系8で前処理後、イオン化部9でイオン化され、質量分析部10で、質量に応じて分離される。分離されたイオンは、イオン検出部11で検出され、データ処理部12でデータ整理・処理され、その分析結果である質量分析データ1は表示部13にて表示される。この一連の質量分析過程−試料のイオン化,試料イオンビームの質量分析部10への輸送及び入射,質量分離過程、及び、イオン検出,データ処理−の全体を制御部14で制御している。
【0016】
質量分析方法には、試料をイオン化してそのまま分析する方法(MS分析法)と、特定の試料イオンを質量選択し、それをヘリウムなどのバッファーガスと衝突させ、その際生成された解離イオンを質量分析するタンデム質量分析法(MS/MS分析法)がある。
【0017】
MS/MS分析では、特定の試料イオン(親イオン)を衝突解離(collision induced dissociation)させて、その解離イオンを質量分析するため、親イオンの構成分子の情報が得られ、親イオンの構造推定に非常に有効である。このとき、衝突解離するためのコリジョンセル(collision cell)10Aとして、質量分析部とは別に設けている場合もある。このような、中性ガスなどのバッファーガスとの衝突エネルギーは、装置構造及び条件と、電界・イオン軌道計算と衝突データに基づくモンテカルロ計算により評価できる、図3のレセルピンでは、イオンとバッファーガス間の衝突エネルギーは約1eVと見積もられる。親イオンが、ヘリウムガスなどの中性ガスとの衝突解離する場合、図3に示すように、活性化状態に遷移し、解離イオンの安定状態になると考える。図3のレセルピンの場合、各々の解離イオンの安定状態に落ち着く前の状態の、活性化状態へ遷移する為の活性化エネルギーが解離イオン種によって異なることが、分子軌道解析3によってわかった。つまり、活性化エネルギーが小さい、解離イオンのほうが解離し易いと判定できる。レセルピンの結果の場合、質量対電荷比m/z=397amu,m/z=448amuの各解離イオンの活性化エネルギーは各々約4eV,6eVである。このときの解離反応速度はそれぞれexp(−4eV/1eV),exp(−6eV/1eV)に比例し、解離反応速度はm/z=397amu,m/z=448amuの各解離イオンに対してそれぞれ1:0.14となった。
【0018】
レセルピンm/z=609amuのMSデータ及びその解離イオンのMS/MSの計測データにおいても上記結果と同じく、質量対電荷比m/z=397amuの解離イオンの方が、質量対電荷比m/z=448amuの解離イオンより質量スペクトルの信号強度が高い、つまり、解離し易いという結果となり、分子軌道解析3の結果が実験結果と対応する結果となっていることがわかる。従って、分子軌道解析3で、活性化エネルギーを計算導出することによっても、解離イオンの高精度予測は可能となる。したがってこのような低エネルギーでの衝突解離現象は、熱解離現象、つまり熱化学反応と捉えることができると考える。
【0019】
次に、本発明の第2の実施例について図4,図5を用いて説明する。ここでは、本発明の質量分析データ解析法における、推測される親イオン2から分子軌道解析3により、熱的,化学的,エネルギー的特性を計算導出する前に、親イオンに対して、分子動力学計算15により、立体構造を導出する事を特徴とする。図4には、アンジオテンシンという7つのアミノ酸配列から構成されているペプチドの例を示す。分子軌道計算によるHOMO(最高占有軌道)の電子密度が高いところから、プロトンの付着位置を予測する。その結果、図5にあるように、アミノ酸Argの窒素原子にプロトンが付着することが分かった。
【0020】
さらに、ペプチドのような高分子が親イオンである場合、その解離イオンを分子軌道解析3によって導出する際、温度を考慮した立体構造が非常に重要となる。図5に示すように、分子動力学計算しない前のアンジオテンシンの構造は、大きく広がった構造をしているが、質量分析装置内の温度(300K)を考慮した分子動力学計算を行った後の3次元構造は、丸まったような構造に大きく変化していることがわかる。従って、分子軌道解析3によって、解離イオンを導出する為の計算を行う前に、推測される親イオンの立体構造を質量分析装置内の温度を考慮した分子動力学計算15によって導出することは非常に重要であることがわかる。したがって、本実施例によれば、温度等を考慮して分子動力学計算を行うことにより、推測される親イオンの立体構造が高精度に導出され、特に親イオンが高分子の場合、それに基づいて導出される解離イオン推定の信頼度を向上させることが可能となる。
【0021】
さらに、分子動力学法で安定化した構造での分子軌道計算から、分子軌道計算による最高占有軌道の電子密度が大きい部分が、アミノ酸His側のアミノ酸Pro内の窒素原子である。
【0022】
最高占有軌道の密度が高い部分で解離反応速度が大きいと考えられるので、本ペプチドイオン解離イオンはHisとPrの間で解離して、Arg−Val−Tyr−Ile−His型の解離イオンが生じやすいことが分かる。実際の質量分析測定でも、Arg−Val−Tyr−Ile−His型の解離イオンピークが最大となり、本発明によるペプチドの構造解析が有効であることが判明した。
【0023】
続いて、本発明の第3の実施例について図6,図7,図8を用いて説明する。ここではLacto−N−DifucoHexaose(ラクトジフコヘキサオースI)という6つの糖から構成されている糖鎖の例を示す(図6)。本実施例では本糖鎖に、Naイオンを付着してイオン化させている。まず、Naイオンの付着構造を、Naイオンが付着した時の分子軌道/分子動力学計算による全エネルギー計算結果が最小となるように求め、表示する(図7)さらに、分子軌道計算による最高占有軌道の電子密度が大きい部分が、図9で示す領域で高いことから、本糖鎖は、図6,図8で示す部分で解離することを予測した。実際の質量分析測定でも、予測した解離イオンピークが最大となり、本発明による糖鎖の立体/分岐構造解析が有効であることが判明した。
【0024】
続いて第四の実施例について図9を用いて説明する。イオントラップ型の質量分析装置では図10の様に、MSでは親イオンの質量を同定する。MS2 (又はMS/MS)では、親イオンを分解して、その解離パターンを評価できる。さらにMS3 ではMS2 で生じる解離イオンをバッファーガスに衝突させてさらに分解させる。これを続け、MSn ではMSn-1 で生じる解離イオンをバッファーガスに衝突させてさらに分解させる。
【0025】
本実施例ではMS/MSにて親イオンの解離パターンを、数合わせ/データベース検索で得られた候補構造の分子軌道解析により評価する。これにより、親イオンの構造が決定できる場合は終了する。決定できない場合はMS/MSで生じた解離イオンの中から、一つ選びさらに解離させる。これにより、親イオンの構造が決定出来る場合は終了する。決定出来ない場合、さらに解離を進める。最終的に決定できた場合に解離を自動的に終了させ、ユーザーの負担及び無駄な解離工程を軽減させる。本実施例によれば、親イオン候補に関する解離イオンのデータをデータベースに保有しない場合でも、その親イオンの解離イオンを分子軌道解析によって推定できるので高精度に親イオンの構造を推定できる。また、本実施例によれば、イオン解離を行い質量分析データを測定し、データベースのデータ又は分子軌道解析による推定結果と照合する、という手順を複数回繰り返すことによってより高精度に親イオンの分子構造を推定することができる。
【0026】
第五の実施例を図10を用いて説明する。予め与えられた質量の親イオン構造に関して、質量分析装置の運転条件に加え、数合わせ、データベース検索に加え、分子軌道計算で得られた解離パターンの結果をデータベースとして蓄えておく。この計算データベースを元に構造を同定する。本実施例によれば、親イオン構造の推定の際、以前に行った計算結果を保存したデータベースを利用することにより、一度行った計算を繰り返す必要がなくなるため、分子構造推定時間が短縮される。
【0027】
次に、本発明の第六の実施例について図11,図12,図13を用いて説明する。ここでは、本発明の質量分析データ解析法における、親イオンの構造推測2に対して、図12に示すように、データベース検索法や、統計処理法や、数合せなどの情報処理的な処理法などにより、推定列挙された、単数あるいは複数の親イオン構造の候補を対象としても良い。このときの、質量分析装置の構成を図12に示す。18は非公開のデータベース、20はインターネット19により公開されているデータベースであり、データ内容の具体例としては、親イオン、または親イオンに対応する解離イオンの質量対電荷比等、解離イオンのイオン強度等のデータが挙げられる。データ処理部12により、整理された質量分析データ1に基づいて、非公開のデータベース18、あるいは公開データベース20によって、データ検索し、親イオンの構造を推測列挙した結果を、分子軌道解析3の解析対象としても良い。図13には、一例として、従来法により、アミノ酸配列が列挙されているようすを示すが、このように、親イオン候補として、非常にたくさんの候補がリストアップされる。このとき、通常、その信頼度をスコア表示されるが、それらのスコアは経験則などに基づいていることが多く、経験則から外れる場合などは、最終的にユーザーが専門知識に基づいて、多くの候補の中から、最も確からしいものを選出している。しかし、本実施例によれば、そのように多くの候補が列挙された場合でも、全ての親イオン候補、或いは、上位の親イオン候補に対して、網羅的に分子軌道解析3によって解離イオン導出5を行うことが可能である為、その結果と、実際に計測された解離イオンの質量分析データの比較により、両者の一致性、あるいは類似性を導出でき、さらに高精度に親イオン構造を評価できる。つまり、分子軌道解析の結果に基づいて、改めて列挙された親イオン候補に対して、順位をつけることが可能となる。従って、本実施例によれば、更に高精度に、親イオン構造を推定でき、あるいは分子軌道解析的見地からの、親イオン構造の信頼度ランキングを提供することができる。また、本実施例によれば、インターネットにより公開された公開データベース20を利用することにより、大規模なデータベースを保有しない場合でも高精度に親イオンを推定することができる。また、分子軌道解析によって、上位ランキングした親イオン構造に対しては、図13に示すように、3次元構造を表示17するような機能を持たせても良い。このような機能があれば、質量分析結果から、3次元構造解析結果を視覚的に認識でき、合成物質などの3次元構造を確認する場合など、非常に有効である。特に、薬剤などは、その3次元構造が非常に重要である為、3次元構造を質量分析結果から導出されることは、非常に安価,高速に導出され、薬剤の開発を効率的に行うことができる。
【0028】
次に、本発明の第七の実施例について図14を用いて説明する。ここでは、本発明の質量分析データ解析法を適用する質量分析装置24における質量分析部として、イオントラップ型質量分析部21を採用することを特徴とする。本実施例のように、イオントラップ型質量分析部21は、図2に示したコリジョンセル10Aと質量分析部10の両方の役目を果たす。つまり、イオントラップ21内で、質量選択された親イオンのみをトラップし、親イオンが共鳴する周波数を持つCID(Collision Induced Dissociation)電界をイオントラップ電界に重畳印加することにより、親イオンはイオントラップ21内に充填されている中性ガスとの衝突を繰り返し、解離される。解離イオンは、イオントラップ21で質量分離され、親イオン及び解離イオンの質量分析データ1が得られえる。つまり、本実施例によれば、イオントラップ型質量分析部21で、コリジョンセル10Aと質量分析部10の両方の役目を果たすため、質量分析装置として、装置サイズのダウンサイジングが可能となる。
【0029】
次に、本発明の第八の実施例について図15を用いて説明する。ここでは、本発明の質量分析データ解析法を適用する質量分析装置24において、イオントラップ22をコリジョンセルとし、飛行時間型質量分析部(Time Of Flight)23を質量分析部として、採用することを特徴とする。あるいは、図16に示すように、コリジョンセルとして、4本ロッド電極からなるQポール25を採用しても良い。質量分析部としてイオントラップを採用すると、計測可能な高分子の質量数m/zの上限値が限られる。生体高分子などを分析ターゲットとする場合、高分子の分析を得意とするTOF型質量分析部23の方が、高精度に分析可能となる。蛋白質,ペプチド,糖鎖などを分析ターゲットとする質量分析装置に対しても、本発明による質量分析データ解析法は適用できる。
【0030】
次に、本発明の第九の実施例について図17を用いて説明する。ここでは、本発明の質量分析データ解析法を適用するビジネス形態として、親イオンの構造解析ソリューションサービスを提供するビジネスとするものである。図16に示すように、顧客から物質の構造解析の依頼を受け、その物質の質量分析データ1(親イオン及び解離イオンの質量分析データ)に対し、本発明の質量分析データ解析方法によって、分子軌道解析的に、親イオン構造を評価し、最終的に導出された親イオン構造を顧客に提供する。このとき、顧客が、親イオン及び解離イオンの質量分析データ1を持っている場合はそのデータを受け取り、最終的に導出された親イオン構造を顧客に提供する。あるいは、顧客が質量分析データ1を持参していない場合は、質量分析する機関に依頼し、そこで得られたデータに基づき、本発明の質量分析データ解析方法によって、分子軌道解析的に、親イオン構造を評価し、最終的に導出された親イオン構造を顧客に提供する。本実施例に依れば、親イオン構造の評価・導出を、分子軌道解析・分子動力学計算の専門家に依頼できる為、より高精度で信頼性の高い結果が期待できる。
【0031】
上記の説明では、本発明の化合物構造解析システム,質量分析データ解析装置及び質量分析データ解析方法の実施例を説明したが、上記のような処理を実行するコンピュータプログラムをコンピュータにインストールして使用しても同様な効果が得られる。
【0032】
【発明の効果】
本発明によれば、親イオン候補に関する解離イオンのデータをデータベースに保有しない場合でも、その親イオン候補の解離イオンを分子軌道解析によって推定できるので高精度に親イオンの構造を推定できる。
【0033】
また、温度等を考慮して分子動力学計算を行うことにより、推測される親イオンの立体構造が高精度に導出され、特に親イオンが高分子の場合、それに基づいて導出される解離イオン推定の信頼度を向上させることが可能となる。
【0034】
また、イオン解離を行い質量分析データを測定し、データベースのデータ又は分子軌道解析による推定結果と照合する、という手順を複数回繰り返すことによってより高精度に親イオンの分子構造を推定することができる。
【0035】
また、推定した親イオンの3次元構造を表示することにより、親イオンの3次元構造を視覚から直感的に認識することができ、薬剤等の開発を効率的に行うことができる。
【0036】
また、インターネットにより公開された公開データベース20を利用することにより、大規模なデータベースを保有しない場合でも高精度に親イオンを推定することができる。
【0037】
また、親イオン構造の推定の際、以前に行った計算結果を保存したデータベースを利用することにより、一度行った計算を繰り返す必要がなくなるため、分子構造推定時間が短縮される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第一実施例による質量分析データ解析法の流れの概略図である。
【図2】本発明の第一実施例による質量分析データを計測する質量分析装置の概略図である。
【図3】本発明の第一実施例による分子軌道解析によって求めた特性値の表示方法として色分け表示した場合のイメージ図である。
【図4】本発明の第二実施例による質量分析データ解析法の流れの概略図である。
【図5】本発明の第二実施例による、アンジオテンシンペプチドの分子動力学計算による3次元構造解析結果を示す図である。
【図6】本発明の第三実施例による、ラクトジフコヘキサオースIの分子構造図である。
【図7】本発明の第三実施例によるラクトジフコヘキサオースIイオンの3次元構造解析結果を示す図である。
【図8】本発明の第三実施例によるラクトジフコヘキサオースIイオンの分子軌道計算結果を示す図である。
【図9】本発明の第四実施例によるMSN 質量分析データ解析法の流れの概略図である。
【図10】本発明の第五実施例による質量分析データ解析法の流れの概略図である。
【図11】本発明の第六実施例による、質量分析データ解析法の流れの概略図。
【図12】本発明の第六実施例による、質量分析装置の概略図。
【図13】本発明の第六実施例による、処理内容・表示のイメージ図。
【図14】本発明の第七実施例による、質量分析装置の概略図である。
【図15】本発明の第八実施例による、質量分析装置の概略図である。
【図16】本発明の第八実施例による、質量分析装置の概略図である。
【図17】本発明の第九実施例による、ソリューションビジネス形態の概念図である。
【符号の説明】
1…質量分析データ、2…親イオン構造推測、3…分子軌道解析、4…親イオンの推測構造における切れ易い部位の導出・表示、5…解離イオンの導出・表示、6…解析により導出された解離イオンと計測された解離イオン質量分析データとの比較・対応、7…親イオンの推測構造の妥当性評価、8…前処理系、9…イオン化部、10…質量分析部、10A…コリジョンセル、11…イオン検出部、12…データ処理部、13…表示部、14…制御部、15…分子動力学計算、16…データベース検索/統計処理/数合せ処理、17…親イオンの3次元構造導出・表示、18…非公開データベース、19…インターネット、20…公開データベース、21…イオントラップ型質量分析部、22…イオントラップ、23…飛行時間型質量分析部、24…質量分析装置、25…Qポール、26…分子構造ソリューションサービス提供期間、27…顧客。

Claims (2)

  1. 解析対象イオンに関する質量分析データの計測値を入力する質量分析データ計測値入力手段と、
    前記解析対象イオンに対する解離イオンの質量分析データの計測値を入力する解離イオン質量分析データ計測値入力手段と、
    前記解析対象イオンに対する複数のイオン構造候補に関する、活性化エネルギーと、試料イオンとバッファーガス間の衝突エネルギーと、に基づく解離反応速度を算出することにより前記イオン構造候補の解離イオンの解離パターンを算出する算出手段と、
    前記解離イオン質量分析データ入力手段により入力された解離イオンの質量分析データの計測値と、
    前記算出手段が算出したイオン構造候補の解離イオンパターンとを照合することにより前記イオン構造候補の妥当性を評価する評価手段と、
    を備えることを特徴とする質量分析データ解析装置。
  2. 解析対象イオンに関する質量分析データの計測値を入力する質量分析データ計測値入力手順と、
    前記解析対象イオンに対する解離イオンの質量分析データの計測値を入力する解離イオン質量分析データ計測値入力手順と、
    前記解析対象イオンに対する複数のイオン構造候補に関する、活性化エネルギーと、試料イオンとバッファーガス間の衝突エネルギーと、に基づく解離反応速度を算出することにより前記イオン構造候補の解離イオンの解離パターンを算出する算出手順と、
    前記解離イオン質量分析データ入力手段により入力された解離イオンの質量分析データの計測値と、
    前記算出手段が算出したイオン構造候補の解離イオンパターンとを照合することにより前記イオン構造候補の妥当性を評価する評価手順と、
    を備えることを特徴とする質量分析データ解析方法。
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