JP5239535B2 - 糖鎖構造解析方法 - Google Patents
糖鎖構造解析方法 Download PDFInfo
- Publication number
- JP5239535B2 JP5239535B2 JP2008157947A JP2008157947A JP5239535B2 JP 5239535 B2 JP5239535 B2 JP 5239535B2 JP 2008157947 A JP2008157947 A JP 2008157947A JP 2008157947 A JP2008157947 A JP 2008157947A JP 5239535 B2 JP5239535 B2 JP 5239535B2
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- ion amount
- percentage
- sugar chain
- precursor
- ion
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Expired - Fee Related
Links
Description
以下の説明において、「CID−MSn測定」とは、CID(Collision induced dissociation:衝突誘起解離)による多段マススペクトロメトリーの取得を行うことを示し、「フラグメントイオン」とは、上記CID−MSn測定や物理化学的分解等により得られる各m/zを有するイオンを示し、「m/z」とは、質量数(m)と電荷(z)の比を示し、「プロダクトイオン」とは、フラグメントイオンを上記CID−MSn測定することにより得られる各m/zを有するフラグメントイオンを示し、「総イオンカウント数」とは、各m/zを有するすべてのフラグメントイオンのイオン強度の総和を示し、また、「CIDエネルギー」とは、CIDを起こすときに加えるエネルギーを一般的に示し、実際にはイオンを振動させるためのある周波数の電場の電圧を示す。さらに、「構造解析方法」とは、構造決定方法および/または構造推定方法を意味する。
本明は、構造未知の糖鎖(本明細書中では、これを「目的糖鎖」と称することがある)を特定のm/zのフラグメントイオン(以下、これを「プレカーサーイオン」又は「プレカーサーフラグメントイオン」と称することがある)が得られるまでCID−MSn測定を行い、得られたプレカーサーフラグメントイオンについてさらにCID−MS/MS測定を行う。これにより得られる、プレカーサーイオン量の総イオン量に対する百分率と、特定のm/zのプロダクトイオン量の総イオン量に対する百分率との相関を求める。この際、プレカーサーイオン量の総イオン量に対する百分率と、特定のm/zのプロダクトイオン量の総イオン量に対する百分率とをプロットしてグラフを作成してもよい。また、上記で作成したグラフは直線で近似してもよい。
本発明に用いられる目的糖鎖は、以下に説明する方法により分解するなどしてCID−MSn測定を行い得るものであればいかなるものであってもよい。また、構造解析を目的として本発明の方法に供するものであるので、その全部または一部の構造が未知のものが好ましい。目的糖鎖は、生体組織又は細胞等から得られたものでもよいし、合成されたタンパク質に結合したものから得られたものでもよく、またそれを酸加水分解又は酵素分解したり、さらにHPLC等で分離精製したもの等を用いることができる。また、化学合成された糖鎖を用いることもできる。
上記で得られた目的プレカーサーフラグメントイオンは、これをCID−MSn測定する(CID−MSn測定により得られた目的プレカーサーフラグメントの場合は、これをCID−MS/MS測定する)。
<標準品の分解エネルギーの測定>
マルトオリゴ糖([Glc]n:n= 3-12)などの標準品を用いERMSを行いプレカーサーイオンの半分が分解するエネルギー(V50)を各々のプレカーサーについて取得し、これを質量に対する分解エネルギー(V50)の“ものさし”と位置づける。
<ERMS測定するコリジョンエネルギーの中心の決定>
MSn測定を行い当該するイオンが得られた段階でERMS測定を行う。このとき、当該イオンのm/zを上述の“ものさし”に参照して該当するV50(コリジョンエネルギーの中心)を求める。
上記の様にして求めたコリジョンエネルギーの中心、および、コリジョンエネルギーの中心から±0.1, 0.2, 0.3Vのコリジョンエネルギーを選択し、これら7つの設定条件からMS/MSを最低1回、好ましくは、7回おこない、得られるフラグメントイオンの強度を上述の算式により標準化(相対値化)し、プレカーサーイオンをX軸としプロダクトイオンをY軸としてプロットする。その後、直線近似を行ってY切片(通常ERMSのプラトー値)を求める。
ERMS相関において使用したデータポイント(各々のコリジョンエネルギーを表す)から求めた近似曲線上へ垂線をひく。この点を理想のデータとし、スプライン補完をおこなって理想データを求める。求めた理想データは元々の実験データに対応するコリジョンエネルギーからスプライン補間法により与えられているので、各々の理想データポイントはコリジョンエネルギーの項目を有している。求まった一連の理想データ群をコリジョンエネルギーに対するプレカーサーイオン、及び、各フラグメントイオンの相対強度としてプロットし直すと理想化された通常のERMSを与える。このグラフからV50などのプレカーサーイオンの分解に要するエネルギー該当項目を正確に導くことができる。
参照データを取得する目的で、参照糖鎖について上記と同様にプレカーサーフラグメントイオンを調製する。参照糖鎖は、目的糖鎖の全部または一部の構造を本発明の方法を用いて決定し得るものであればいかなるものであってもよい。具体的には、目的糖鎖またはその一部と構造が一致する可能性があり、構造が明らかであるものが用いられる。このような参照糖鎖は、天然のものでも合成されたものでもよく、また置換基がついていてもよい。糖鎖の長さは、1〜13個の糖が連結したものが用いられる。
上記(4)で取得された参照プレカーサーフラグメントイオンは、これを目的プレカーサーフラグメントイオンと同様にCID−MSn測定する(CID−MSn測定により取得された参照プレカーサーフラグメントの場合は、これをCID−MS/MS測定する)。イオン化法、溶媒、糖鎖の調製、測定装置などは全て目的糖鎖およびプレカーサーフラグメントイオンと同様のものを用いることができる。
目的プレカーサーフラグメントイオンから得られたプレカーサーイオンとプロダクトイオンとの比率と、これに対応する参照データが一致した場合、参照データが誘導されたもとの参照プレカーサーフラグメントイオンの構造と目的プレカーサーフラグメントイオンの構造が同じであると決定することができる。ここで、それぞれのデータが一致するとは、プレカーサーイオンの百分率が0%の場合における、特定のm/zのプロダクトイオンの百分率値の差が±2%以内であることを示す。また、目的プレカーサーフラグメントイオンに置換基が結合していた場合には、置換基が結合した参照プレカーサーフラグメントイオンから得られた参照データと比較して、一致した場合には、同一の置換基を有していると判断することができる。このとき、Z検定を判断基準とすることもできる。
(a)合成
実施例で使用した化合物は、以下のスキーム(化合物S6−S8の合成)に従って合成した。
薄層クロマトグラフィ(TLC)は、Kieselgel 60 F254 (E. Merck) プレートで行い、1% Ce(SO4)2-1.5% (NH4)6MoO24・4H2O-10% H2SO4 で焦がすことによって検出した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーは、Wakogel C-300 (Wako Pure Chemical Industries, Ltd.)で行った。 Sep-Pak C18 はWaters Corpから得た。UDP-Gal+2Na 及び pNP-β-Gal はSigma-Aldrich Corpから購入した。アルカリホスファターゼはNacalai Tesque, Incから購入した。β1,4-GalT'ase はCalbiochem Corpから購入した。β1,3-Gal'aseはKatsumi Ajisaka 教授(Niigata University of Pharmacy and Applied Life Sciences)から供与された。1H NMR (500 MHz)スペクトルは、参照としての溶媒ピーク(residual CHD2OD; 3.31 ppm)とともにAVANCE 500スペクトロメーター (Bruker Biospin Inc.)で記録した。1H NMRスペクトルのアノマー領域は図5に示す。
DCE (2.0 mL)中のフェニル2-アジド-3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-デオキシ-1-チオ-β-D-グルコピラノシド(S1, 120 mg, 0.12 mmol), 4-(N-Boc-アミノ)ブタノール(S2,81 mg, 0.43 mmol) 及びAW-300 (ca. 0.5 g) の混合物を窒素雰囲気下25℃で1時間攪拌した。この混合物に、NIS (72 mg, 0.32 mmol)及びTfOH (2.0μL, 0.21 mmol) を0℃で添加し、1時間攪拌した。反応を飽和NaHCO3 で停止し、混合物をDCMで希釈し、セライトパッドでろ過した。ろ液をNa2S2O4を含む飽和NaHCO3に注ぎ、DCMで抽出し、水で洗浄し、MgSO4上で乾燥し、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン: EtOAc = 5:1-2:1)に供し、4-(N-Boc-アミノ)ブチル2-アジド-3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-デオキシ-D-グルコピラノシドS3 (80 mg, 58%, α/β = 4/6)を得た。S3 (80 mg, 0.12 mmol, α/β = 4/6)のEtOAc (1 mL)溶液にPd(OH)2/C (20%, ca. 10 mg), Ac2O (1.0 mL) 及びMeOH (1.0 mL)を添加した。混合物を水素雰囲気下で47時間攪拌し、ろ過し、減圧濃縮して4-(N-Boc-アミノ)ブチルGlcNAc 誘導体S4 (β-グリコシド) 及びS5 (α-グリコシド) (23 mg, 47%, S4/S5 = 1.5)を得た。これらのアノマー異性体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(DCM : MeOH = 19:1-8.5:1)によって分離した。
S5: 1H NMR (CD3OD): δ4.78 (d, 1H, J1,2 3.5, Hz, H-1), 3.88 (dd, 1H, J2,3 10.7 Hz, H-2), 3.82 (dd, 1H, J5,6a 2.2 Hz, J6a,6b 11.9 Hz, H-6a), 3.76-3.71 (m, 1H, OCH2(CH2)2CH2N), 3.68 (dd, 1H, J5,6b 6.0 Hz, H-6b), 3.67 (t, 1H, J3,4 10.6 Hz, H-3), 3.58 (ddd, 1H, J4,5 9.8 Hz, H-5), 3.42-3.37 (m, 1H, OCH2(CH2)2CH2N), 3.34 (t, 1H, H-4), 3.07 (t, 2H, J 6.6 Hz, OCH2(CH2)2CH2N), 1.99 (s, 3H, NHAc), 1.66-1.53 (m, 4H, OCH2(CH2)2CH2N), 1.43 (s, 9H, tBu).
化合物S4 (3.1 mg, 7.9μmol), UDP-Gal+2Na (7.2 mg, 12μmol) 及びアルカリホスファターゼ(20-300 U/mg, 1.0 mg) をHEPES緩衝液(0.5μL, 0.10 M, pH 7.0, 40 mM MnCl2を含有)に溶解した。この混合物に、HEPES緩衝液(0.5μL, 0.10 M, pH 7.0, 40 mM MnCl2を含有)中のβ1,4-GalT'ase (1U, 牛乳由来)を添加し、37℃で20時間インキュベートした。反応混合物をろ過し、Sep-Pak C18に供し、水で洗浄した。4-(N-Boc-アミノ)ブチルグリコシド及びS4を含有する生成物をMeOHで溶出した。混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(DCM : MeOH = 9:1-6:4)で精製して、4-(N-Boc-アミノ)ブチルβ-ラクトサミニドS6 (2.1 mg, 36%) を得て、S4 (1.6 mg, 52%)を回収した。
化合物S4 (5.0 mg, 13 μmol), pNP-β-Gal (3.8 mg, 13 μmol), リン酸緩衝液 (0.16 μL, 0.10 M, pH 6.0, 0.15 M NaClを含有)、DMF (40 μL)及びβ1,3-Gal'ase (20 μL, 13U/mL)の混合物を37℃で3時間インキュベートした。溶液を蒸発させ、残渣をSep-Pak C18に供し、水で洗浄した。4-(N-Boc-アミノ)ブチルグリコシド及びS4を含む生成物をMeOHで溶出した。混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(EtOAc : MeOH = 9:1-2:1 then EtOAc : MeOH : H2O = 12:3:1)で精製して、化合物S7 (0.8 mg, 11%) 及びS4 (3.5 mg, 70%)を得た。
S7: 1H NMR (CD3OD): δ 4.46 (d, 1H, J1,2 8.3, Hz, H-1), 4.27 (d, 1H, J1',2' 7.6 Hz, H-1'), 3.93-3.88 (m, 1H, OCH2(CH2)2CH2N), 3.89 (dd, 1H, J5,6a 1.9 Hz, J6a,6b 11.7 Hz, H-6'a), 3.80 (d, 1H, J3',4' 3.0 Hz, H-4'), 3.76 (dd, 1H, J5,6a 7.7 Hz, J6a'6b 11.5 Hz, H-6a), 3.77-3.65 (m, 4H, H-2,3,6b,6'b), 3.57-3.44 (m, 4H, H-2',3',5', OCH2(CH2)2CH2N), 3.29-3.35 (m, 1H, H-5), 3.04 (t, 2H, J 6.9 Hz, OCH2(CH2)2CH2N), 1.97 (s, 3H, NHAc), 1.59-1.48 (m, 4H, OCH2(CH2)2CH2N), 1.43 (s, 9H, tBu).
化合物S5 (6.5 mg, 17μmol), pNP-β-Gal (5.0 mg, 17μmol), リン酸緩衝液(0.16 mL, 0.10 M, pH 6.0, 0.15 M NaClを含有), DMF (40μL) 及びβ1,3-Gal'ase (20μL, 13 U/mL)の混合物を37℃で3時間インキュベートした。溶液を蒸発させ、残渣をSep-Pak C18に供し、水で洗浄した。4-(N-Boc-アミノ)ブチルグリコシド及びS5 を含む生成物をMeOHで溶出した。混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(DCM : MeOH = 9:1-7:3)で精製して、化合物S8 (2.8 mg, 30%) 及びS5 (3.6 mg, 55%)を得た。
S8: 1H NMR (CD3OD):δ4.78 (d, 1H, J1,2 3.3 Hz, H-1), 4.37 (d, 1H, J1',2' 7.6 Hz, H-1'), 4.06 (dd, 1H, J2,3 10.6 Hz, H-2), 3.85-3.67 (m, 7H, H-3,4',6a,6'a,6b,6'b, OCH2(CH2)2CH2N), 3.62 (ddd, 1H, J4,5 9.8 Hz, J5,6a 1.9 Hz, J5,6b 5.4 Hz, H-5), 3.56 (dd, 1H, J5',6'a 4.5 Hz, J5',6'b 7.5 Hz, 7.5 Hz, H-5'), 3.53 (dd, 1H, J2',3' 9.5 Hz, H-2'), 3.48-3.41 (m, 3H, H-3',4, OCH2(CH2)2CH2N), 3.07 (t, 2H, J 6.5 Hz, OCH2(CH2)2CH2N), 1.98 (s, 3H, NHAc), 1.68-1.53 (m, 4H, OCH2(CH2)2CH2N), 1.44 (s, 9H, tBu).
(b−1)材料
GD1a 及びGD1bはSeikagaku Biobusiness Corp(東京)から購入した。α-enrichedラクトン及びβ-enriched ラクトンの試料は、SIGMA, St. Louis, MOから得た。質量分析計を用いた解析のために、HPLCグレードの溶媒を使用した。MeOH及び無水ジメチルスルホキシド (Wako Pure Chemical Industries, Ltd, Osaka, Japan)。重水素化したメチルスルホキシド-d6 (NMRグレード) (Acros Organics, Geel, Belgium) をNMR実験に使用した。
試料は、エレクトロスプレーインターフェースを連結した四重極イオントラップ質量分析計(Esquire 3000 plus, Bruker Daltonics GmbH, Bremen, Germany)で解析した。無水DMSO (1 pmol/μL)に溶解した試料を、注入(流速120μL/h)によってイオン源に導入した。分析のパラメーターは以下の通りである。(1) "乾燥温度", 250 °C; (2) 噴霧ガス(N2), 10 psi; (3) 乾燥ガス(N2), 4.0 L/min; (4) "スマートフラグ", オフ (5) 走査範囲, m/z 50-600 (ラクトース、合成)及びm/z 50-400 (ラクトース, 市販品); (6) 化合物安定性, 300%; (7) ICC ターゲット, 8000; (8) 最大捕捉時間, 200 ms; (9) 平均, 10 スペクトル; 及び(10) "カットオフ", 対応するプレカーサーイオンの27.6% (合成ラクトース) 27.1% (市販のラクトース)
ERMSのグラフを得るために、以下の等式を用いた。イオン"IP"が一連のプロダクトイオンI1, I2, I3,... Iiを生成する場合、各々のイオンについての相対イオン電流を、以下の式で定義した。
質量分析機の複数のrf振幅(端部キャップ)で得たMSnデータのセットを、Excelを用いて分析した。一定のm/z 値を有するピークのセットを一連のデータとして扱った。個々のシグナルについて全イオン電流について相対強度を各振幅において取得した(式S1)。データをPrism 4ソフトウエア(GraphPad Software, Inc.)を用いて分析した。個々のデータを非線形回帰分析によるボルツマン・シグモイド関数を用いてフィッティングした[式S2 (growth) 及びS3 (decay)].
本実験で使用した一連のデータにおいて、シグモイド曲線及びパラメータは、上記エクセルプログラムから得た全データを処理し、回帰曲線をプロットすることによって得た。
(c−1)試料の調製
α-及びβ-enrichedラクトースの水溶液(10 mg/mL, 25 ℃)を全実験のために調製し、4時間までの指定時間に0.1 mLずつ分画した。分画は液体窒素を用いて直ちに凍結し、凍結乾燥した。各試料を無水DMSO 及びDMSO-d6 に溶解し、MS 及びNMRで解析した。DMSO を実験のための溶媒として使用した。非プロトン性溶媒はアノマー化を妨げるからである (B. Casu, M. Reggiani, Tetrahedron Lett. 39, 2839-2843 (1964))。
DMSO (1 pmol/μL) 中のα- 及びβ-enrichedラクトースの溶液を、MSに基づいた分析のために使用した。12.3μLを注入条件下で使用した(120μL/h, 6 min)。全量123 pmolの各化合物を実験で消費した。
1H NMR (500 MHz)スペクトルを、AVANCE 500分光測定器を用いて記録した。DMSO-d6中のα-ラクトースのβ-ラクトースに対する比率を、各1H NMRスペクトルにおけるアノマー部位(グルコース成分)におけるヒドロキシル部の積分により測定した(図6)。
α- 及びβ-enrichedラクトースの水溶液(10 mg/mL) を迅速に10 cmのセルに注入し、旋光度を示した時間で25℃でSEPA-200旋光度計 (HORIBA, Ltd. Kyoto, Japan)を用いて測定した。
(d−1)試薬
ウシ・ラクトシルセラミドをCALBIOCHEM : EMD Biosciences, Inc., La Jolla, CAから購入した。Rhodococcus sp.から組み換えエンドグリコセラミダーゼII [EC 3. 2. 1. 123]をTakara Shuzo Co., Ltd., Shiga, Japanから購入した。
ラクトシルセラミド(50 nmol)を、0.3%のコール酸ナトリウム及び BSA (10μg)を含む50μLの50 mM 酢酸アンモニウム溶液(pH 6.0) に溶解し、2mUの酵素とともに37℃で15又は60分間インキュベートした。試料溶液を、示した反応時間の直後にSep-Pak C18カトリッジカラムで処理し、水で溶出させた画分(4 mL) を回収した。各画分を直ちに凍結乾燥し、DMSO (1mL)に溶解し、ERMSで分析した。
ナトリウム付加したヘミアセタールはCID条件下でアノマー化しないという事実は、本実験の重要な基礎である。この現象の一般性を確認するために、β-Gal-(1→4)-β-GlcNAc-O(CH2)4NHBoc (S6), β-Gal-(1→3)-β-GlcNAc-O(CH2)4NHBoc (S7), 及びβ-Gal-(1→3)-α-GlcNAc-O(CH2)4NHBoc (S8)などの一連のBoc-保護されたアミノブチルグリコシドを用いて、上記と同様の実験を行った。これらの化合物は全て、ナトリウムを付加したヘミアセタールイオン種をMS3 段階で与え、これをMS4 及びMS5でERMS分析に供した(図7)。図7に示す通り、[β-Gal-(1→3)-α-GlcNAc-OH+Na]+ (図7A)及び[β-Gal-(1→3)- β-GlcNAc-OH+Na]+ (図7C) のERMSは異なっていたが、MS4 (図7A, C, E) 及びMS5 (図73 C, D, F)について得たERMSは区別できなかった。
(B−1)ERMS相関法
本発明者らはナトリウム付加分子とフラグメントの様々なフラグメント化過程について、四重極イオントラップ質量分析計(QIT-MS)を使用して観測してきた。この結果、フラグメント化過程はほとんどの場合S字形のプロフィールであることが判明した。GD1aとGD1bの開裂を例にとると、ERMSは、フラグメント化過程に関する定量的情報のみならず、CIDのエネルギー依存性をも提供する。したがって、開裂に必要な活性化エネルギーは、GD1bについてより小さいことが分かる(図1 C,D)。この情報は、ERMSによってのみ入手可能である。ここで、生成イオンはそれらの前駆体から、互いに独立の関係で、直接生成したように見える。これは、各々の生成物イオンの前駆体イオンに対するERMS相関において強い直線相関が観察されたことから明らかとなった(図1 E,F)。この結果は、印加されるCIDエネルギーとは無関係に、個々のフラグメントイオンがそれぞれにそれらの共通前駆体に由来することを初めて示すものである。これにより2つの重要な点が明らかとなった。すなわち、1)個々のフラグメントイオンの比率は、CIDエネルギーに無関係に一定である、2)個々のフラグメントイオンの比率に関する定量的データ、あるいは、ERMSにおけるプラトー値を一般的なCID実験において使用するサンプル量による実験(データポイント)からERMS相関図におけるy切片から推定できる。
両方のイオンについて、前駆体の約25%が消費される[0.86V(α)と0.92V(β)] CIDエネルギーでMS5の段数でERMS実験をおこなった。それぞれ、MS4で得られたスペクトルとMS5のそれらは各々のα-とβ-アノマーのそれとよく一致し、(図2 E,F)MS5の際、残留した前駆体イオンは初期段階(MS4)のものと同じ構造であったことが判明した。(図2 G,H)もし平衡が存在するならば、MSnとMSn+1で観測されるα-とβ-アノマーのスペクトルは異なり、平衡化混合物のスペクトルに収束する方向に変化すると考えられる。実験では、しかしながら、MS4とMS5で得られたスペクトルは、α-、および、β-ラクトース共に見分けがつかなかった。これはアノマー(少なくともナトリウム付加体)の平衡が気相において起こらない、あるいは、検出不可能なレベルであったことを示唆する。ここで、様々なフラグメントイオンが生じている点に留意する必要がある。このことは、異性化のために必要な充分なエネルギー(もし可能であれば)が前駆体に印加されていたことを示す。このようにして、ヘミアセタール(ナトリウム付加体)はCID条件下において気相ではアノマー化しないことが初めて示された。
以上の結果から、ラクトースのナトリウム付加体のアノマー異性に関する議論が可能となり、また、ヘミアセタールのα-とβ-両アノマーが識別可能であることを証明した。結果に基づいて、水溶液(3A図)で起こっているラクトースの変旋光を検討した。それぞれα-体とβ-体の比率を高めたラクトース[α:β=約98:2、および、約30:70]の水溶液を25度でインキュベートし、各々の溶液の一定量をERMSに基づいて分析した。観察されたフラグメントとイオンについてERMS相関図から推定されたy切片は、質量分析法が変旋光の測定に用いることができることを示した。(図3 B)これは、旋光計によって確認された(3C図)。質量分析法によれば、平衡状態の3つのフラグメントの個々のシグナル強度は、16%(m/z 203)、56%(m/z 305)、28%(m/z 347)である。アノマーの比率(α/β)は、核磁気共鳴(NMR)を使用することで42:58であると推定された。このようにしてERMS相関法が変旋光を測定することに非常に役立つということを証明した(3C図)。
本方法の有用性を拡大するために酵素反応メカニズムを明らかにする実験をおこなった。グリコシダーゼの機序の研究は、グリコシド交換反応により医学的に重要な化合物を合成しうるため重要である。エンドグリコセラミダーゼは、ガングリオシド等の糖脂質を基質とし、アノマー中心の立体化学の保持でグリカンとセラミドを切断する加水分解酵素の1つである。グリコシダーゼの反応機構の研究は、通常、NMRやX線結晶解析により達成される。本法を用いてRhodococcus sp.由来のエンドグリコセラミダーゼIIの反応機構を分析した。ラクトシルセラミドの酵素反応を15、60分間おこなった(4A図)。反応混合物の一部を取り出し生成したラクトースを回収、ERMS相関によって分析、平衡状態にあるラクトースのデータと比較した。(SI)ここで初期生成物は経時的にアノマー化するため、α-、β-ラクトースで観察される共通イオン(m/z 203、305と347によるイオン)のy切片の微妙な違いを観察することとなる。予想通り、15分(丸数字1)後に得られる混合物と60分(丸数字2)は、異なる値を与えた。特に、反応の初期段階(15分)においては平衡状態にあるラクトースの値(丸数字4)から離れて値を持つことが判明した。また、これらの値は、β-アノマー(丸数字3)によって示される平均値)のそれらに近いことがわかった(図3B)。このことは、初めに形成されたラクトースがβ-配置を有し、アノマー化したことを示している。このように、エンドグリコセラミダーゼIIがβ-保持メカニズムであることが本法により確認された。この質量分析法に基づく方法がグリコシダーゼのメカニズム研究に有効であることを初めて示した。
Claims (5)
- (a)目的糖鎖について特定のm/zのフラグメントイオンが得られるまでCID−MSn測定を行い、(b)該フラグメントイオンについてさらにCID−MS/MS測定を行い、プレカーサーイオン量の総イオン量に対する百分率と、特定のm/zのプロダクトイオン量の総イオン量に対する百分率とをプロットしてグラフを作成し、作成したグラフを直線で近似し、(c)該グラフと、構造既知の参照糖鎖のプレカーサーイオン量の総イオン量に対する百分率と特定のm/zのプロダクトイオン量の総イオン量に対する百分率をプロットして得られたグラフとを比較することを特徴とする糖鎖構造解析方法。
- 工程(b)において、少なくとも1回以上のCID−MS/MS測定を行い、プレカーサーイオン量の総イオン量に対する百分率と、特定のm/zのプロダクトイオン量の総イオン量に対する百分率とを少なくとも1点以上プロットする、請求項1に記載の糖鎖構造解析方法。
- 工程(b)において、少なくとも2以上の異なるCIDエネルギーを用いてCID−MS/MS測定を行い、プレカーサーイオン量の総イオン量に対する百分率と、特定のm/zのプロダクトイオン量の総イオン量に対する百分率とを少なくとも2点以上プロットする、請求項1又は2に記載の糖鎖構造解析方法。
- 工程(b)において作成したグラフを直線で近似し、プレカーサーイオン量の総イオン量に対する百分率が0%の場合における特定のm/zのプロダクトイオン量の総イオン量に対する百分率を算出し;工程(c)において構造既知の参照糖鎖について得られたグラフも直線で近似し、プレカーサーイオン量の総イオン量に対する百分率が0%の場合における特定のm/zのプロダクトイオン量の総イオン量に対する百分率を算出し;上記工程(b)及び工程(c)において算出した百分率を比較することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の糖鎖構造解析方法。
- 工程(b)において作成したグラフを直線で近似し、プレカーサーイオン量の総イオン量に対する百分率が0%の場合における特定のm/zのプロダクトイオン量の総イオン量に対する百分率と、上記の直線の傾きを算出し;工程(c)において構造既知の参照糖鎖について得られたグラフも直線で近似し、プレカーサーイオン量の総イオン量に対する百分率が0%の場合における特定のm/zのプロダクトイオン量の総イオン量に対する百分率と、上記直線の傾きを算出し;上記工程(b)及び工程(c)において算出した百分率及び傾きを比較することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の糖鎖構造解析方法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2008157947A JP5239535B2 (ja) | 2008-06-17 | 2008-06-17 | 糖鎖構造解析方法 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2008157947A JP5239535B2 (ja) | 2008-06-17 | 2008-06-17 | 糖鎖構造解析方法 |
Publications (2)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2010133707A JP2010133707A (ja) | 2010-06-17 |
JP5239535B2 true JP5239535B2 (ja) | 2013-07-17 |
Family
ID=42345150
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2008157947A Expired - Fee Related JP5239535B2 (ja) | 2008-06-17 | 2008-06-17 | 糖鎖構造解析方法 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP5239535B2 (ja) |
Families Citing this family (3)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP5441064B2 (ja) * | 2010-09-07 | 2014-03-12 | 独立行政法人科学技術振興機構 | 物質の構造解析方法 |
US8653448B1 (en) * | 2012-09-07 | 2014-02-18 | Riken | Method for analyzing glycan structure |
JP6065652B2 (ja) | 2013-03-01 | 2017-01-25 | 株式会社島津製作所 | 糖鎖構造解析方法及び装置 |
Family Cites Families (5)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP3885020B2 (ja) * | 2002-12-09 | 2007-02-21 | 株式会社日立製作所 | 化合物構造解析システム,質量分析データ解析方法,質量分析データ解析装置及び質量分析データ解析プログラム |
JP3817523B2 (ja) * | 2003-02-14 | 2006-09-06 | 株式会社日立製作所 | 質量分析データ解析システム |
JP2006145519A (ja) * | 2004-10-18 | 2006-06-08 | Mitsubishi Chemicals Corp | 糖鎖構造解析方法 |
WO2006112343A1 (ja) * | 2005-04-13 | 2006-10-26 | National Institute Of Advanced Industrial Science And Technology | 糖鎖構造を予測する方法 |
JP4843250B2 (ja) * | 2005-05-13 | 2011-12-21 | 株式会社日立ハイテクノロジーズ | 質量分析を用いた物質の同定方法 |
-
2008
- 2008-06-17 JP JP2008157947A patent/JP5239535B2/ja not_active Expired - Fee Related
Also Published As
Publication number | Publication date |
---|---|
JP2010133707A (ja) | 2010-06-17 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
Zaia | Mass spectrometry of oligosaccharides | |
Han et al. | Mass spectrometry of glycans | |
Harvey | Matrix‐assisted laser desorption/ionization mass spectrometry of carbohydrates | |
EP2981541B1 (en) | Synthesis and use of isotopically-labelled glycans | |
Lattova et al. | Labelling saccharides with phenylhydrazine for electrospray and matrix-assisted laser desorption–ionization mass spectrometry | |
Mulloy et al. | Structural analysis of glycans | |
Cao et al. | Sialidase substrate specificity studies using chemoenzymatically synthesized sialosides containing C5-modified sialic acids | |
JP5239535B2 (ja) | 糖鎖構造解析方法 | |
Li et al. | In‐source fragmentation and analysis of polysaccharides by capillary electrophoresis/mass spectrometry | |
Sassaki et al. | Mass spectrometry strategies for structural analysis of carbohydrates and glycoconjugates | |
Suzuki et al. | Computationally and experimentally derived general rules for fragmentation of various glycosyl bonds in sodium adduct oligosaccharides | |
Wolucka et al. | An electrospray-ionization tandem mass spectrometry method for determination of the anomeric configuration of glycosyl 1-phosphate derivatives | |
Richter et al. | [33] Tandem mass spectrometry in structural characterization of oligosaccharide residues in glycoconjugates | |
JP4808542B2 (ja) | 糖鎖異性体を分離同定する質量分析法 | |
US6319680B1 (en) | Method for analyzing monosaccharide in a sugar composition | |
Kanie et al. | Addressing the glycan complexity by using mass spectrometry: In the pursuit of decoding glycologic | |
Kanie et al. | Analysis of behavior of sodiated sugar hemiacetals under low-energy collision-induced dissociation conditions and application to investigating mutarotation and mechanism of a glycosidase | |
JP5181524B2 (ja) | 糖鎖構造解析方法に適したアグリコンを有するグリコシド化合物 | |
TW202208844A (zh) | 供碳水化合物分析之流動化學系統及方法 | |
Kurono* et al. | Characterization of the sulfated fucose‐containing trisaccharides by fast atom bombardment tandem mass spectrometry in the study of the acrosome reaction‐inducing substance of the starfish, Asterias amurensis | |
Furuike et al. | An efficient synthesis of a biantennary sialooligosaccharide analog using a 1, 6-anhydro-β-lactose derivative as a key synthetic block | |
Cameron et al. | Synthesis of 13C‐labelled sulfated N‐acetyl‐d‐lactosamines to aid in the diagnosis of mucopolysaccharidosis diseases | |
Gagarinov | Modern approaches to the synthesis of diverse classes of oligosaccharides | |
Both et al. | Supplementary Information Discrimination of epimeric glycopeptides using ion-mobility mass spectrometry: Towards a comprehensive carbohydrate sequencing strategy | |
Chizhov | Carbohydrate Analysis by Mass Spectrometry |
Legal Events
Date | Code | Title | Description |
---|---|---|---|
A621 | Written request for application examination |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621 Effective date: 20110509 |
|
A977 | Report on retrieval |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007 Effective date: 20120809 |
|
A131 | Notification of reasons for refusal |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131 Effective date: 20120821 |
|
A521 | Written amendment |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523 Effective date: 20121011 |
|
TRDD | Decision of grant or rejection written | ||
A01 | Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01 Effective date: 20130305 |
|
A61 | First payment of annual fees (during grant procedure) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61 Effective date: 20130318 |
|
FPAY | Renewal fee payment (event date is renewal date of database) |
Free format text: PAYMENT UNTIL: 20160412 Year of fee payment: 3 |
|
R150 | Certificate of patent or registration of utility model |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150 Ref document number: 5239535 Country of ref document: JP Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150 |
|
S111 | Request for change of ownership or part of ownership |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R313111 |
|
R350 | Written notification of registration of transfer |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R350 |
|
LAPS | Cancellation because of no payment of annual fees |