JP3884114B2 - アルジネート印象材 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はアルジネート印象材に関する。更に詳しくは保湿性に優れたアルジネート印象材に関する。アルジネート印象材は主に歯牙の治療修復の際の型取りやその他の型取りに好適に使用されるものである。
【0002】
【従来の技術】
アルジネート印象材はアルギン酸塩を基に、これに硫酸カルシウムなどのゲル化反応剤等を組み合わせることによりゲル状硬化体が得られることを利用して、歯牙等様々な型取りに利用されている。
アルジネート印象材はその商品形態から粉末タイプとペーストタイプの2種類に分類される。粉末タイプは使用直前に水と練和して均一なペースト状として、ペーストタイプはアルギン酸塩と不活性粉体等をあらかじめ水で均質なペースト化した主剤と、ゲル化反応剤を主体とした硬化剤とを混合して印象採得に用いられる。
【0003】
粉末タイプ、ペーストタイプのいずれも採得された印象は大量の水を含む。その為、採得後の印象は外気中に放置すると水分が蒸発、徐々に変形してくる。このことを防止する為、印象採得後直ちに型材用石膏を注入することを薦めているが、通常の歯科医院では100%湿度に保った湿箱に入れるか、水中に浸漬するかにより水分の蒸発を防止している。
更に石膏注入後も外部の印象材からは水分が蒸発、印象材の弾性は失われてくる。この結果石膏を印象から外す際、細心の注意を払っても石膏型の最も重要な細部を破損してしまう恐れがある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、水との練和性に優れ、印象材からの水分の蒸発を防止し、経時的な弾性の低下を防止したアルジネート印象材を提供しようとするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記目的のため鋭意検討した結果、印象材にショ糖脂肪酸エステルを含有させることにより印象採得後の印象体に保湿性を付与し、その結果水分の蒸発を防止し、経時的な弾性の低下を防止できることを見出し本発明に到達した。即ち、本発明の要旨は、アルギン酸塩及びショ糖脂肪酸エステルを含有し、該ショ糖脂肪酸エステルがショ糖とC 8 〜C 22 の脂肪酸エステルであって、そのモノエステル体含有量が40%以上であり、且つHLB値が7以上のものであることを特徴とするアルジネート印象材に存する。以下、本発明を詳細に説明する。
【0006】
本発明に使用されるショ糖脂肪酸エステルは、ショ糖とC8〜C22の脂肪酸とのエステルである。脂肪酸の具体例としては、オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ベヘン酸、リノール酸、リノレン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸等が挙げられる。そのうち、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ラウリン酸等が好ましい。
【0007】
ショ糖は1分子中に8個のヒドロキシル基を持ち、エステル化反応によりモノエステル、ジエステル、トリエステル、それ以上のポリエステルを作るが、本発明に特に好ましく用いられるのはモノエステルを40%以上含有するものである。ジエステル以上のポリエステルの合計量が60%以上となると親水基である非結合型のヒドロキシル基が少なくなる為、ショ糖脂肪酸エステルの水との親和性が低下する。このことは、印象材粉末と水を混合する際の印象材の撥水性の低減効果が少なくなることを意味し、均一なペーストを得る作業が困難となる。
【0008】
また、ショ糖脂肪酸エステルは、そのHLB値が7以上である。ここでHLB値とは、親水性と親油性のバランスを表した値であり、すなわち平均エステル化率を意味する。HLB値は、日本油化学協会制定の基準油脂分析試験法(1971)に準拠して測定される。HLB値が7未満であると撥水感が生じ均一なペーストを得る作業が困難となる。アルジネート印象材におけるショ糖脂肪酸エステルの含有量は、好ましくは0.3〜10wt%、更に好ましくは0.5〜5wt%である。含有量がこの範囲より少なすぎる場合は保湿性の効果が少なく、高すぎる場合は印象材の混水比が異なってくるため印象材の他の性質、例えば永久歪が大きくなりすぎる等の悪影響が生じてくる。
【0009】
本発明のアルジネート印象材には上記ショ糖脂肪酸エステル以外にはアルギン酸塩、ゲル化反応剤、ゲル化調節剤、充填剤などを含有するものである。これら各成分は特に限定されるものではなく公知のものを適宜選択することができる。例えば、アルギン酸塩としては特に限定されるものではないが、アルギン酸のナトリウム、カリウム、アンモニウムまたはトリエタノールアミン等の水溶性の塩が挙げられる。使用量としては印象材の粉末換算として5〜25重量%が好ましい。
ゲル化反応剤としては例えば硫酸カルシウム2水塩、硫酸カルシウム半水塩、硫酸カルシウム無水塩等の硫酸カルシウムが挙げられる。使用量としては印象材粉末換算として5〜30重量%が好ましい。
【0010】
ゲル化調節剤としてはナトリウム、カリウム等のアルカリ金属の第3リン酸塩、ピロリン酸塩、トリポリリン酸塩、ヘキサメタリン酸塩等の燐酸塩、珪酸塩、炭酸塩、シュウ酸塩等が挙げられる。使用量としては印象材粉末換算として0.2〜4重量%が好ましい。
充填剤としては珪藻土、タルク、シリカ、炭酸カルシウム、マイカ等が挙げられるが、好ましくは珪藻土であり、更に好ましくは円盤状と桿状の珪藻土を組み合わせたものある。充填剤の使用量は印象材粉末換算として30〜85重量%であることが好ましい。また、充填剤として、珪藻土とその他の充填剤とを併用する場合には、珪藻土以外の充填剤の使用量を、充填剤全量の30重量%以下とするのが好ましい。
【0011】
更に本発明の印象材には上記成分以外にも、例えば模型石膏との相性を改良するためにヘキサフルオロチタン酸ナトリウム、ヘキサフルオロジルコン酸カリウム等のフッ化物やケイフッ化物を配合することもできるし、界面活性剤、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、流動パラフィン等の粉塵防止剤、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム等の金属酸化物、金属水酸化物、着色剤、香料等の添加剤を配合することができる。
【0012】
特に、粉末タイプの印象材は近年、粉塵防止処理がなされているものが多いが、経時的にも安定に粉塵防止効果を得るために、通常は疎水性の粉塵防止剤が添加されている。そのため、印象材粉末と水とを混合し始める時に撥水性を示しやすい。ショ糖脂肪酸エステルは親水基である非結合型のヒドロキシル基を持つ為、これを印象材中に充分分散することにより、水との親和性が向上し印象材の練和性、特には粉末印象材と水とのなじみ性が向上する。この問題は練和初期に粉末と水とのなじみが悪く、一度だま等を生じてしまうと以降の練り込み操作でだまを解消することは難しいので、印象材の練和性に於いて重要なことがらである。だまを含んだ印象材ペーストは細部の印象採得に不都合を生じたり、本来の印象材の性能を生かしきれなくなってしまうこともある。
【0013】
本発明の印象材の製造方法については特に限定されずに公知の方法から適宜選択して使用することができる。例えば、全原料を同時に混合機に投入、混合しても良いし、目的に応じて分割混合を実施することもできる。
【0014】
【実施例】
以下実施例によって本発明を更に詳しく記述するが、以下実施例は本発明を制限するものでは無く、本趣旨を逸脱しない範囲で変更するところはすべて本発明の技術範囲に包含される。
(実施例1〜3)
表1に示す配合比率(重量部数)に従い、ブレンダーで混合した。
実施例1〜3において使用したショ糖脂肪酸エステルはそれぞれ、リョートーシュガーエステル(三菱化学フーズ(株)製)S−1570、S−1170、S−270である。また、使用したショ糖脂肪酸エステルの脂肪酸の種類及びその割合は全てステアリン酸が約70%、パルミチン酸が約30%である。
【0015】
得られた印象材を翌日、23℃、相対湿度50%の室温条件にて評価した。この評価は印象材粉末8gを水20gの比率にて練和して用いた。
ゲル化時間はJIS T−6505(歯科用アルギン酸塩印象材)に準拠した。練和した印象材をガラス板上に27×20×10mmに盛り付け、印象材練和開始より1分後にガラス板を鉛直に立て、ゲル化後に印象材の長さを鉛直方向に測定、もとの印象材の長さ20mmを減じた長さをたれとした。
印象材を直径13mm高さ20mmの円柱型に詰め、印象材練和開始より5分後に脱型し直後にその印象材重量測定した。このゲル体を23℃、相対湿度50%の室内に放置し30分後及び60分後に再度秤量、初期重量に対する重量比率で示した。
【0016】
また、採得した印象の保管法として通常推奨されている相対湿度100%の湿箱中(温度23℃)にも同様に放置、60分後と120分後に重量測定し重量変化率で示した。
弾性歪はJIS T−6505に準拠した。採得直後の弾性歪及び2時間後の弾性歪みはJISに従い作成した試験片を23℃、50%の恒温室に放置、所定時間後にJISに準拠した測定を実施した。
評価結果を表1に示す。
【0017】
(比較例1)実施例1における配合よりショ糖脂肪酸エステルを除いた他は実施例1と同様に印象材を得て、実施例1と同様に評価した。その結果を表1に示す。
【表1】
Figure 0003884114
【0018】
表1より、実施例のショ糖脂肪酸エステルを配合した印象材は、比較例1のショ糖脂肪酸エステルを配合しない印象材に比べて23℃、相対湿度50%の条件下の放置での重量減少が約半分であり、すなわち、水分の蒸発が押さえられていることがわかる。また実施例の印象材は、湿箱中に保管することにより、2時間経過後でも重量変化は1%未満であった。更に実施例の印象材の弾性歪は2時間後でも12%以上あり、通常作業に於いて硬化した石膏模型を脱型する時点に於いても充分な柔らかさを保っており、一方比較例1の印象材の2時間後の弾性歪は12%を下回り、硬化した石膏模型を脱型する時には細部の破損を起こさないように充分な配慮が必要であった。ただし、参考例においては実施例1及び2に比べて、印象材粉末に水を添加したときに撥水感があり、練り難かった。

【0019】
【本発明の効果】
本発明の印象材は印象材ゲル体内の水分の減少を押さえることが可能となった。これに伴い弾性歪の経時的な低下を抑制することが可能となったので、石膏模型を脱型する時点でも適度な柔らかさを保っているので模型細部の破損の恐れが減少し、大変扱い易かった。
また、採得した印象の保管方法として推奨されている湿箱での保管では、長時間の放置によっても印象材の乾燥変形を押さえられるので、石膏を時間がたってから注入することが可能となり、作業効率が向上した。
また、特にモノエステル含有率が40%以上,HLB値が7以上のショ糖脂肪酸エステルを含有したものは、印象材粉末に水を添加したときの撥水感がほとんどなく、練和が容易であった。

Claims (3)

  1. アルギン酸塩及びショ糖脂肪酸エステルを含有し、該ショ糖脂肪酸エステルがショ糖とC 8 〜C 22 の脂肪酸エステルであって、そのモノエステル体含有量が40%以上であり、且つHLB値が7以上のものであることを特徴とするアルジネート印象材。
  2. ショ糖脂肪酸エステルの含有量が、アルジネート印象材に対して0.3〜10重量%であることを特徴とする請求項記載のアルジネート印象材。
  3. アルジネート印象材が、更にゲル化反応剤、ゲル化調節剤及び充填剤を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のアルジネート印象材。
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