JP3883772B2 - フルオロアルキルケトン類の製造法 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、フルオロアルキルケトン類の新規な製法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
有機化合物の一部にフッ素を導入すると特異な生理活性や材料特性がしばしば発現することがあり、有機フッ素化合物は医薬、農薬や液晶などの機能性材料の設計に頻繁に使用される化合物群である。
例えば、トリフルオロメチルケトンは、セリンカルボキシペプチダーゼ類縁体の酵素阻害剤として作用することが知られている。また、液晶などの機能性材料の基本骨格を持つα−トリフルオロメチルカルビノールの重要な出発原料であり、フッ素の導入されたモノマーやポリマーの材料ともなり得る化合物である。
その代表的な製法として、有機金属試薬とフルオロカルボン酸エステルとの反応による方法(L.S.Chen, G.J.Chen, C,Tamborski, J.Fluorine Chem., 18, 117(1981))や、2級フルオロアルキルアルコールを酸化する方法(R.J.Linderman, and D.M.Graves, Tetrahedron Lett., 28,4259(1987))を挙げることができる。しかし、有機金属試薬とフルオロカルボン酸エステルとの反応による方法では、低温下で反応を行う必要がある上、副生物として2級および3級アルコールが容易に生成するため、目的物であるフルオロアルキルケトンの収率が一般的に低くなるという問題点がある。また、2級フルオロアルキルアルコールを酸化する方法では、出発原料となるフッ素の導入された2級アルコールを先ず合成する必要があり、さらに、一般的に2級アルコールからケトンを合成する際に酸化剤としてよく用いられる過マンガン酸塩などでは対応するフルオロアルキルケトンを合成することができないため、工業的に有利な方法とは言えない。
【0003】
その他のフルオロアルキルケトンの合成法としては、ルパート(Ruppert's)試薬(Me3Si−CF3)を用いる製法(J.Wiedemann, T.Heiner, G.Mloston, G.K.S.Prakash, and G.A.Olah, Angew.Chem.,Int.Ed.Engl., 37, 820(1998))が挙げられる。しかし、この製法では、原料となるルパート(Ruppert's)試薬(Me3Si−CF3)の合成が難しく、さらに系中にH2Oが存在すると容易に分解反応が進行することから取り扱いに注意が必要であるため、大規模スケールでの合成には適さない。
一方、フルオロアルキル(アリール)ケトンの簡便な製法としては、フリーデル−クラフトアシル化反応がある(T.Keumi, M.Shimada, M.Takahashi, and H.Katajima, Chem.Lett., 1990, 783)が配向性の問題があり、必ずしも目的とするケトンが合成できるとは限らないという問題点がある。
そこで、近年パラジウム触媒を用いて加熱条件下有機スズ試薬をアルキル化剤として利用することにより、トリフルオロ酢酸無水物をトリフルオロメチルケトンへと変換するプロセスが見出された(J.W.Guiles, Synlett, 1995,165)。しかし、この触媒プロセスでは、工業的に取り扱いにくい有機スズ化合物を原料に対して化学量論量必要とするため、廃液処理のことまで考慮すると工業的に有利な方法とは言えない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記した如き従来法の有する種々の問題点を有さず、簡便且つ容易に種々のフルオロアルキルケトンを好収率で製造しうる、工業的に有利なフルオロアルキルケトン類の製造法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記した如き現状をふまえ、フルオロアルキルケトン誘導体の優れた製法を開発することを目的とし、0価パラジウム錯体とカルボン酸エステルまたはカルボン酸無水物との反応を錯体化学的に研究し(Chem.Lett., 1995, 365; Bull.Chem.Soc.Jpn., 72, 573(1999))、そこで得られた知見に基づき、パラジウム触媒存在下にフルオロカルボン酸エステルまたはフルオロカルボン酸無水物などのフルオロカルボン酸の反応性誘導体と有機金属試薬を反応させることで、対応するフルオロアルキルケトンを合成するプロセスの開発に成功し、本発明を完成するに到った。
【0006】
即ち、本発明は、フルオロカルボン酸エステルまたはフルオロカルボン酸無水物などのフルオロカルボン酸の反応性誘導体と有機金属試薬とを、パラジウム触媒存在下に反応させることを特徴とする、フルオロアルキルケトンの製造法の発明である。
【0007】
本発明で用いられるフルオロカルボン酸エステルとしては、例えば、炭素数2〜6の脂肪族フルオロカルボン酸のアルキルエステル、アルケニルエステル、アルキニルエステル、アリールエステル等が挙げられ、また、フルオロカルボン酸無水物としては、例えば、炭素数2〜6の脂肪族フルオロカルボン酸の酸無水物が挙げられる。
炭素数2〜6の脂肪族フルオロカルボン酸の具体例としては、例えば、トリフルオロ酢酸、ペンタフルオロプロピオン酸、ヘプタフルオロ酪酸等が挙げられる。
これら炭素数2〜6の脂肪族フルオロカルボン酸のアルキルエステルとしては、例えば、炭素数1〜10、好ましくは1〜6の直鎖状または分岐状のアルキルエステルが挙げられ、具体例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル等のアルキルエステルが挙げられる。また、アルケニルエステルとしては、例えば、ビニルエステル、アリルエステル等が挙げられ、アルキニルエステルとしては、例えば、エチニルエステル等が挙げられる。更に、アリールエステルとしては、炭素数6〜15のアリールエステルが挙げられ、具体例としては、例えば、フェニル、トリル、キシリル、ナフチル、メチルナフチル、ビフェニル等のアリールエステルが挙げられる。
また、炭素数2〜6の脂肪族フルオロカルボン酸の酸無水物の具体例としては、例えば、トリフルオロ酢酸、ペンタフルオロプロピオン酸、ヘプタフルオロ酪酸等の酸無水物が挙げられる。
【0008】
本発明で用いられる有機金属試薬としては、有機ホウ素化合物が特に好ましいものとして挙げられる。本発明で用いられる有機ホウ素化合物としては、例えば、置換または無置換のアリールボロン酸、アルケニルボロン酸、テトラフェニルホウ酸塩等が挙げられ、具体例としては、例えば、フェニルボロン酸、o−トリルボロン酸、m−トリルボロン酸、p−トリルボロン酸、2−メトキシフェニルボロン酸、3−メトキシフェニルボロン酸、4−メトキシフェニルボロン酸、4−トリフルオロメチルフェニルボロン酸、ビニルボロン酸、アリルボロン酸、テトラフェニルホウ酸ナトリウム等が挙げられる。
【0009】
本発明で用いられるパラジウム触媒としては、種々の構造のものを用いることが出来るが、好適なものは低原子価の錯体触媒であり、特に単座または二座のホスフィンまたはホスファイトを配位子とするゼロ価錯体が好ましい。また、単座または二座のホスフィンまたはホスファイトを配位子として含まない錯体と、単座または二座のホスフィンまたは/およびホスファイトとを併用し、反応系中で単座または/および二座のホスフィンまたはホスファイトを配位子とするゼロ価錯体を形成させても良い。
好適に用いることが出来る配位子を例示すると、例えば、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、ジフェニルメチルホスフィン、フェニルジメチルホスフィン、トリメチルホスファイト、トリ−n−ブチルホスファイト、トリフェニルホスファイト等が挙げられる。また、これに組み合わせて用いられる単座または二座のホスフィンまたはホスファイトを配位子として含まない錯体としては、例えば、酢酸パラジウム、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム等が挙げられる。
【0010】
これらパラジウム触媒の使用量は所謂触媒量でよく、通常、フルオロカルボン酸エステルまたはフルオロカルボン酸無水物に対して、20モル%以下で充分である。フルオロカルボン酸エステルまたはフルオロカルボン酸無水物と有機金属試薬の使用割合は、通常、前者1当量に対して、後者は1乃至1.5当量用いられるが、これより多少多くても少なくても特に反応に支障はない。
反応は、通常、溶媒中で行われ、使用される溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)等のアミド系極性溶媒、、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、例えば、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、アセトニトリル等が挙げられるが、アミド系極性溶媒を用いた場合が特に高収率で対応するケトンが生成し好ましい。
反応温度は、通常30℃以上、好ましくは30〜100℃、より好ましくは60〜90℃である。反応時間は反応温度その他の条件により自ずから異なり、一概には言えないが、通常、数時間乃至数十時間程度行われる。反応は通常窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で行われる。反応後の後処理等は常法に従って行えばよく、単離、精製法も例えば、カラムクロマトグラフィー等この分野で通常行われている方法により行うことで足りる。
本発明の方法によれば、芳香族あるいは脂肪族の非対称なケトンを簡便且つ容易に合成することが出来る。
【0011】
【実施例】
次に実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0012】
実施例1
25mLのガラス製シュレンク反応管内をアルゴンガスで置換した後、NMP(5mL)、トリフルオロ酢酸フェニルエステル(1mmol)、フェニルボロン酸(1.2mmol)及びパラジウム触媒[酢酸パラジウム(0.05mmol)+トリ−n−ブチルホスフィン(0.15mmol)]を入れ、80℃で4時間攪拌した。その後、反応容器を室温まで冷却し、反応溶液を活性炭濾過後ブラインで洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、エバポレーターで濃縮した。残留物をカラムクロマトグラフィーで分離、精製し、トリフルオロメチルフェニルケトンを80%の収率で得た。
【0013】
実施例2
実施例1において、フェニルボロン酸の代わりにテトラフェニルホウ酸ナトリウムを用い、それ以外は実施例1と全く同様にして反応及び後処理を行い、トリフルオロメチルフェニルケトンを59%の収率で得た。
【0014】
実施例3
実施例1において、反応時間4時間を24時間に変えた以外は実施例1と全く同様にして反応及び後処理を行い、トリフルオロメチルフェニルケトンを82%の収率で得た。
【0015】
実施例4
実施例1において、反応時間を24時間にし、NMPの代わりにDMFを溶媒として用いた以外は実施例1と全く同様にして反応及び後処理を行い、トリフルオロメチルフェニルケトンを63%の収率で得た。
【0016】
実施例5
実施例1において、反応時間を24時間にし、反応温度80℃を60℃に変えた以外は実施例1と全く同様にして反応及び後処理を行い、トリフルオロメチルフェニルケトンを33%の収率で得た。
【0017】
実施例6
実施例1において、反応時間を24時間にし、反応温度80℃を100℃に変えた以外は実施例1と全く同様にして反応及び後処理を行い、トリフルオロメチルフェニルケトンを73%の収率で得た。
【0018】
実施例7
実施例1において、反応時間を24時間にし、パラジウム触媒[酢酸パラジウム(0.05mmol)+トリ−n−ブチルホスフィン(0.15mmol)]をパラジウム触媒[酢酸パラジウム(0.05mmol)+トリ−n−ブチルホスフィン(0.10mmol)]に変えた以外は実施例1と全く同様にして反応及び後処理を行い、トリフルオロメチルフェニルケトンを61%の収率で得た。
【0019】
実施例8
実施例1において、反応時間を24時間にし、パラジウム触媒[酢酸パラジウム(0.05mmol)+トリ−n−ブチルホスフィン(0.15mmol)]をパラジウム触媒[ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0.05mmol)+トリ−n−ブチルホスフィン(0.10mmol)]に変えた以外は実施例1と全く同様にして反応及び後処理を行い、トリフルオロメチルフェニルケトンを53%の収率で得た。
【0020】
実施例9
実施例1において、反応時間を24時間にし、パラジウム触媒[酢酸パラジウム(0.05mmol)+トリ−n−ブチルホスフィン(0.15mmol)]をパラジウム触媒[酢酸パラジウム(0.05mmol)+トリ−n−ブチルホスファイト(0.15mmol)]に変えた以外は実施例1と全く同様にして反応及び後処理を行い、トリフルオロメチルフェニルケトンを76%の収率で得た。
【0021】
実施例10〜12
実施例1において、フェニルボロン酸を2−メトキシフェニルボロン酸、3−メトキシフェニルボロン酸及び4−メトキシフェニルボロン酸にそれぞれ変えた以外は実施例1と全く同様にして反応及び後処理を行い、トリフルオロメチル2−メトキシフェニルケトン、トリフルオロメチル3−メトキシフェニルケトン及びトリフルオロメチル4−メトキシフェニルケトンをそれぞれ53%、51%及び83%の収率で得た。
【0022】
実施例13
25mLのガラス製シュレンク反応管内をアルゴンガスで置換した後、NMP(5mL)、トリフルオロ酢酸無水物(1mmol)、フェニルボロン酸(2.5mmol)及びテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム触媒0.1mmol)]を入れ、80℃で19時間攪拌した。その後、反応容器を室温まで冷却し、反応溶液を活性炭濾過後ブラインで洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、エパポレーターで濃縮した。残留物をカラムクロマトグラフィーで分離、精製し、トリフルオロメチルフェニルケトンを8%の収率で得た。
【0023】
【発明の効果】
本発明は、簡便且つ容易に種々のフルオロアルキルケトン類を好収率で製造しうる、工業的に有利なフルオロアルキルケトン類の製造法を提供するものであり、本発明の方法によれば、芳香族あるいは脂肪族の非対称なケトンを簡便且つ容易に合成することが出来る点に顕著な効果を奏する。
【発明の属する技術分野】
本発明は、フルオロアルキルケトン類の新規な製法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
有機化合物の一部にフッ素を導入すると特異な生理活性や材料特性がしばしば発現することがあり、有機フッ素化合物は医薬、農薬や液晶などの機能性材料の設計に頻繁に使用される化合物群である。
例えば、トリフルオロメチルケトンは、セリンカルボキシペプチダーゼ類縁体の酵素阻害剤として作用することが知られている。また、液晶などの機能性材料の基本骨格を持つα−トリフルオロメチルカルビノールの重要な出発原料であり、フッ素の導入されたモノマーやポリマーの材料ともなり得る化合物である。
その代表的な製法として、有機金属試薬とフルオロカルボン酸エステルとの反応による方法(L.S.Chen, G.J.Chen, C,Tamborski, J.Fluorine Chem., 18, 117(1981))や、2級フルオロアルキルアルコールを酸化する方法(R.J.Linderman, and D.M.Graves, Tetrahedron Lett., 28,4259(1987))を挙げることができる。しかし、有機金属試薬とフルオロカルボン酸エステルとの反応による方法では、低温下で反応を行う必要がある上、副生物として2級および3級アルコールが容易に生成するため、目的物であるフルオロアルキルケトンの収率が一般的に低くなるという問題点がある。また、2級フルオロアルキルアルコールを酸化する方法では、出発原料となるフッ素の導入された2級アルコールを先ず合成する必要があり、さらに、一般的に2級アルコールからケトンを合成する際に酸化剤としてよく用いられる過マンガン酸塩などでは対応するフルオロアルキルケトンを合成することができないため、工業的に有利な方法とは言えない。
【0003】
その他のフルオロアルキルケトンの合成法としては、ルパート(Ruppert's)試薬(Me3Si−CF3)を用いる製法(J.Wiedemann, T.Heiner, G.Mloston, G.K.S.Prakash, and G.A.Olah, Angew.Chem.,Int.Ed.Engl., 37, 820(1998))が挙げられる。しかし、この製法では、原料となるルパート(Ruppert's)試薬(Me3Si−CF3)の合成が難しく、さらに系中にH2Oが存在すると容易に分解反応が進行することから取り扱いに注意が必要であるため、大規模スケールでの合成には適さない。
一方、フルオロアルキル(アリール)ケトンの簡便な製法としては、フリーデル−クラフトアシル化反応がある(T.Keumi, M.Shimada, M.Takahashi, and H.Katajima, Chem.Lett., 1990, 783)が配向性の問題があり、必ずしも目的とするケトンが合成できるとは限らないという問題点がある。
そこで、近年パラジウム触媒を用いて加熱条件下有機スズ試薬をアルキル化剤として利用することにより、トリフルオロ酢酸無水物をトリフルオロメチルケトンへと変換するプロセスが見出された(J.W.Guiles, Synlett, 1995,165)。しかし、この触媒プロセスでは、工業的に取り扱いにくい有機スズ化合物を原料に対して化学量論量必要とするため、廃液処理のことまで考慮すると工業的に有利な方法とは言えない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記した如き従来法の有する種々の問題点を有さず、簡便且つ容易に種々のフルオロアルキルケトンを好収率で製造しうる、工業的に有利なフルオロアルキルケトン類の製造法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記した如き現状をふまえ、フルオロアルキルケトン誘導体の優れた製法を開発することを目的とし、0価パラジウム錯体とカルボン酸エステルまたはカルボン酸無水物との反応を錯体化学的に研究し(Chem.Lett., 1995, 365; Bull.Chem.Soc.Jpn., 72, 573(1999))、そこで得られた知見に基づき、パラジウム触媒存在下にフルオロカルボン酸エステルまたはフルオロカルボン酸無水物などのフルオロカルボン酸の反応性誘導体と有機金属試薬を反応させることで、対応するフルオロアルキルケトンを合成するプロセスの開発に成功し、本発明を完成するに到った。
【0006】
即ち、本発明は、フルオロカルボン酸エステルまたはフルオロカルボン酸無水物などのフルオロカルボン酸の反応性誘導体と有機金属試薬とを、パラジウム触媒存在下に反応させることを特徴とする、フルオロアルキルケトンの製造法の発明である。
【0007】
本発明で用いられるフルオロカルボン酸エステルとしては、例えば、炭素数2〜6の脂肪族フルオロカルボン酸のアルキルエステル、アルケニルエステル、アルキニルエステル、アリールエステル等が挙げられ、また、フルオロカルボン酸無水物としては、例えば、炭素数2〜6の脂肪族フルオロカルボン酸の酸無水物が挙げられる。
炭素数2〜6の脂肪族フルオロカルボン酸の具体例としては、例えば、トリフルオロ酢酸、ペンタフルオロプロピオン酸、ヘプタフルオロ酪酸等が挙げられる。
これら炭素数2〜6の脂肪族フルオロカルボン酸のアルキルエステルとしては、例えば、炭素数1〜10、好ましくは1〜6の直鎖状または分岐状のアルキルエステルが挙げられ、具体例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル等のアルキルエステルが挙げられる。また、アルケニルエステルとしては、例えば、ビニルエステル、アリルエステル等が挙げられ、アルキニルエステルとしては、例えば、エチニルエステル等が挙げられる。更に、アリールエステルとしては、炭素数6〜15のアリールエステルが挙げられ、具体例としては、例えば、フェニル、トリル、キシリル、ナフチル、メチルナフチル、ビフェニル等のアリールエステルが挙げられる。
また、炭素数2〜6の脂肪族フルオロカルボン酸の酸無水物の具体例としては、例えば、トリフルオロ酢酸、ペンタフルオロプロピオン酸、ヘプタフルオロ酪酸等の酸無水物が挙げられる。
【0008】
本発明で用いられる有機金属試薬としては、有機ホウ素化合物が特に好ましいものとして挙げられる。本発明で用いられる有機ホウ素化合物としては、例えば、置換または無置換のアリールボロン酸、アルケニルボロン酸、テトラフェニルホウ酸塩等が挙げられ、具体例としては、例えば、フェニルボロン酸、o−トリルボロン酸、m−トリルボロン酸、p−トリルボロン酸、2−メトキシフェニルボロン酸、3−メトキシフェニルボロン酸、4−メトキシフェニルボロン酸、4−トリフルオロメチルフェニルボロン酸、ビニルボロン酸、アリルボロン酸、テトラフェニルホウ酸ナトリウム等が挙げられる。
【0009】
本発明で用いられるパラジウム触媒としては、種々の構造のものを用いることが出来るが、好適なものは低原子価の錯体触媒であり、特に単座または二座のホスフィンまたはホスファイトを配位子とするゼロ価錯体が好ましい。また、単座または二座のホスフィンまたはホスファイトを配位子として含まない錯体と、単座または二座のホスフィンまたは/およびホスファイトとを併用し、反応系中で単座または/および二座のホスフィンまたはホスファイトを配位子とするゼロ価錯体を形成させても良い。
好適に用いることが出来る配位子を例示すると、例えば、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、ジフェニルメチルホスフィン、フェニルジメチルホスフィン、トリメチルホスファイト、トリ−n−ブチルホスファイト、トリフェニルホスファイト等が挙げられる。また、これに組み合わせて用いられる単座または二座のホスフィンまたはホスファイトを配位子として含まない錯体としては、例えば、酢酸パラジウム、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム等が挙げられる。
【0010】
これらパラジウム触媒の使用量は所謂触媒量でよく、通常、フルオロカルボン酸エステルまたはフルオロカルボン酸無水物に対して、20モル%以下で充分である。フルオロカルボン酸エステルまたはフルオロカルボン酸無水物と有機金属試薬の使用割合は、通常、前者1当量に対して、後者は1乃至1.5当量用いられるが、これより多少多くても少なくても特に反応に支障はない。
反応は、通常、溶媒中で行われ、使用される溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)等のアミド系極性溶媒、、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、例えば、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、アセトニトリル等が挙げられるが、アミド系極性溶媒を用いた場合が特に高収率で対応するケトンが生成し好ましい。
反応温度は、通常30℃以上、好ましくは30〜100℃、より好ましくは60〜90℃である。反応時間は反応温度その他の条件により自ずから異なり、一概には言えないが、通常、数時間乃至数十時間程度行われる。反応は通常窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で行われる。反応後の後処理等は常法に従って行えばよく、単離、精製法も例えば、カラムクロマトグラフィー等この分野で通常行われている方法により行うことで足りる。
本発明の方法によれば、芳香族あるいは脂肪族の非対称なケトンを簡便且つ容易に合成することが出来る。
【0011】
【実施例】
次に実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0012】
実施例1
25mLのガラス製シュレンク反応管内をアルゴンガスで置換した後、NMP(5mL)、トリフルオロ酢酸フェニルエステル(1mmol)、フェニルボロン酸(1.2mmol)及びパラジウム触媒[酢酸パラジウム(0.05mmol)+トリ−n−ブチルホスフィン(0.15mmol)]を入れ、80℃で4時間攪拌した。その後、反応容器を室温まで冷却し、反応溶液を活性炭濾過後ブラインで洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、エバポレーターで濃縮した。残留物をカラムクロマトグラフィーで分離、精製し、トリフルオロメチルフェニルケトンを80%の収率で得た。
【0013】
実施例2
実施例1において、フェニルボロン酸の代わりにテトラフェニルホウ酸ナトリウムを用い、それ以外は実施例1と全く同様にして反応及び後処理を行い、トリフルオロメチルフェニルケトンを59%の収率で得た。
【0014】
実施例3
実施例1において、反応時間4時間を24時間に変えた以外は実施例1と全く同様にして反応及び後処理を行い、トリフルオロメチルフェニルケトンを82%の収率で得た。
【0015】
実施例4
実施例1において、反応時間を24時間にし、NMPの代わりにDMFを溶媒として用いた以外は実施例1と全く同様にして反応及び後処理を行い、トリフルオロメチルフェニルケトンを63%の収率で得た。
【0016】
実施例5
実施例1において、反応時間を24時間にし、反応温度80℃を60℃に変えた以外は実施例1と全く同様にして反応及び後処理を行い、トリフルオロメチルフェニルケトンを33%の収率で得た。
【0017】
実施例6
実施例1において、反応時間を24時間にし、反応温度80℃を100℃に変えた以外は実施例1と全く同様にして反応及び後処理を行い、トリフルオロメチルフェニルケトンを73%の収率で得た。
【0018】
実施例7
実施例1において、反応時間を24時間にし、パラジウム触媒[酢酸パラジウム(0.05mmol)+トリ−n−ブチルホスフィン(0.15mmol)]をパラジウム触媒[酢酸パラジウム(0.05mmol)+トリ−n−ブチルホスフィン(0.10mmol)]に変えた以外は実施例1と全く同様にして反応及び後処理を行い、トリフルオロメチルフェニルケトンを61%の収率で得た。
【0019】
実施例8
実施例1において、反応時間を24時間にし、パラジウム触媒[酢酸パラジウム(0.05mmol)+トリ−n−ブチルホスフィン(0.15mmol)]をパラジウム触媒[ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0.05mmol)+トリ−n−ブチルホスフィン(0.10mmol)]に変えた以外は実施例1と全く同様にして反応及び後処理を行い、トリフルオロメチルフェニルケトンを53%の収率で得た。
【0020】
実施例9
実施例1において、反応時間を24時間にし、パラジウム触媒[酢酸パラジウム(0.05mmol)+トリ−n−ブチルホスフィン(0.15mmol)]をパラジウム触媒[酢酸パラジウム(0.05mmol)+トリ−n−ブチルホスファイト(0.15mmol)]に変えた以外は実施例1と全く同様にして反応及び後処理を行い、トリフルオロメチルフェニルケトンを76%の収率で得た。
【0021】
実施例10〜12
実施例1において、フェニルボロン酸を2−メトキシフェニルボロン酸、3−メトキシフェニルボロン酸及び4−メトキシフェニルボロン酸にそれぞれ変えた以外は実施例1と全く同様にして反応及び後処理を行い、トリフルオロメチル2−メトキシフェニルケトン、トリフルオロメチル3−メトキシフェニルケトン及びトリフルオロメチル4−メトキシフェニルケトンをそれぞれ53%、51%及び83%の収率で得た。
【0022】
実施例13
25mLのガラス製シュレンク反応管内をアルゴンガスで置換した後、NMP(5mL)、トリフルオロ酢酸無水物(1mmol)、フェニルボロン酸(2.5mmol)及びテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム触媒0.1mmol)]を入れ、80℃で19時間攪拌した。その後、反応容器を室温まで冷却し、反応溶液を活性炭濾過後ブラインで洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、エパポレーターで濃縮した。残留物をカラムクロマトグラフィーで分離、精製し、トリフルオロメチルフェニルケトンを8%の収率で得た。
【0023】
【発明の効果】
本発明は、簡便且つ容易に種々のフルオロアルキルケトン類を好収率で製造しうる、工業的に有利なフルオロアルキルケトン類の製造法を提供するものであり、本発明の方法によれば、芳香族あるいは脂肪族の非対称なケトンを簡便且つ容易に合成することが出来る点に顕著な効果を奏する。
Claims (8)
- フルオロカルボン酸の反応性誘導体と有機金属試薬とを、パラジウム触媒存在下に反応させることを特徴とする、フルオロアルキルケトンの製造法。
- フルオロカルボン酸の反応性誘導体がフルオロカルボン酸エステルまたはフルオロカルボン酸無水物である請求項1に記載の製造法。
- 有機金属試薬が有機ホウ素化合物である請求項1または2に記載の製造法。
- パラジウム触媒が低原子価の錯体触媒である請求項1〜3の何れかに記載の製造法。
- パラジウム触媒が単座または二座のホスフィンまたはホスファイトを配位子とするゼロ価錯体である請求項1〜3の何れかに記載の製造法。
- パラジウム触媒が、単座または二座のホスフィンまたはホスファイトを配位子として含まないパラジウム錯体と、単座または二座のホスフィンまたは/およびホスファイトとを併用し、反応系中で形成させた単座または二座のホスフィンまたは/およびホスファイトを配位子とするゼロ価錯体である請求項1〜3の何れかに記載の製造法。
- アミド系の極性溶媒中で反応させる請求項1〜6の何れかに記載の製造法。
- 30〜100℃の温度で反応させる請求項1〜7の何れかに記載の製造法。
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