JP3881417B2 - 長期耐久性に優れた海洋鋼構造物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、港湾鋼構造物、海洋鋼構造物、船舶、浮体構造体など海水と接する部位において長期耐久性が必要とされる鋼構造物に関する。
【0002】
【従来の技術】
我が国は島国であると同時に、小資源国家であり、工業原料の輸入、製品の輸出、食料の輸入などは多くの割合が船舶に頼っている。また、国土も決して広くはなく今後の飛行場建設などにおいても海洋空間を利用することが考えられている。このような事情により、港湾設備や、海上空港、さらには橋梁を支えるポンツーンなどの建設、維持・管理は国家としても非常に重要な項目の一つである。
【0003】
さらには、近年の低成長経済の定着、人件費の高騰、ライフサイクルアセスメントなる言葉が象徴する資源の有効利用の価値観、小子化・高齢化・技能を持った人材の減少、などにより長期耐久性のある構造体の必要性がクローズアップしている。このような背景のなか、海洋環境に建設される鋼構造体の寿命延長のために、耐久性の高い材料や工法、防食技術開発などが行われてきている。その中で近年チタンクラッドを用いた長期防食技術が開発され、一部の橋脚等に実使用されている。この技術は特開平5ー239817号公報、特開平7−279191号公報などに開示されている通り、スプラッシュゾーン、干満帯、およびそれ以下1〜数mの範囲をチタンクラッド鋼で工夫を施した溶接法により鋼構造体を被覆し、海中部を電気防食をかけることでメンテナンスの不要化に一応の成功を見ている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、チタンは海水中で強度の電気防食がかけられると水素化により脆くなるという現象があり、流電陽極の配置をチタンクラッド被覆部から離すなど、電位分布上の特別な工夫を施す必要があり、構造物の形状的制約により上記手法を広く適用するにはいたっていない。
【0005】
電気防食技術は、海水中に没する鋼構造体を、鉄の活性溶解が起こらない卑な電位域になるようアルミ、亜鉛、マグネシウム、またはそれらの合金を陽極としてとりつけるか、外部電源方式によって鉄面をカソード状態に保持する技術である。通常、鉄面での電位は、清浄海域において飽和カロメル電極基準−770mV、汚染海域では−900mV、高潮流海域では−770mVより卑な値を示すよう電極の種類や配置が設計される。また、長期の防食が必要な場合、電極の損耗を防ぐ意味から塗装を併用した複合電気防食が適用されるが、その場合の電位範囲としては−770mVから−1100mVの範囲に入るよう設計される。
【0006】
従来より、海水中は上述の手法により信頼性の高い防食が可能であり、また海上の上部については重防食と塗覆装により防食がなされてきた。また、最も腐食環境として厳しく長期にわたり十分な信頼性のある防食法が確立していなかった干満帯やスプラッシュゾーンの防食も、近年になって種々の工夫がなされ実使用にいたっている。その中でチタンの海水中や大気中での耐食性能に着眼し、鉄とチタンの溶接の困難さを克服するチタンクラッドの海面近傍領域への貼り付け技術は、飛沫帯における最も信頼性の高い防食技術として位置づけられている。
【0007】
この方法は、チタンと鉄が直接電気的につながってしまうため、その組み合わせだけなら異種金属接触腐食が気になるところである。この問題を回避するためには、海水中に鉄・チタン接触境界を浸漬し、上述の電気防食法によりその領域も鉄が腐食しない十分卑な電位域に保持することが必要となる。
【0008】
この場合注意しなくてはならないのは、鉄は電位が卑になればなるほど腐食は起こらない方向になるので良いが、チタンはその表面で水の分解により発生する水素を吸収し、その金属組織内にプレート状もしくは層状のチタン水素化物が生成し、その結果として被覆チタンが脆化する可能性がある。この現象が防食機能的に問題になるのは、チタンの電位が−900mVより卑な電位域にある場合で、それより卑になると水素化の進行は電位に対し指数関数的に増大する。この結果、建設物の構造によってはメンテナンス上の問題を呈する場合もある。現状では、このことを回避するために陽極の配置を鉄・チタン境界線から十分に離し、この領域の鉄の防食も行えかつチタンの水素化も十分に遅くなる電位域である−770mVから−900mVになるように設計を行うのが方針である。
【0009】
この条件で設計が可能となるのは、上述の鉄面の防食基準と照らし合わせるといわゆる清浄海域と高潮流海域における海洋構造物のみである。つまり、汚染海域への適用は不可能であることと同時に、複合防食を行った場合の海中部の塗膜が健全である初期においては、チタンの水素化進行を甘受しなくてはならない。また、清浄海域や高潮流海域においても、この条件を満足させるためには構造体が比較的シンプルであること、および陽極配置を工夫できるだけの構造体海中部の大きさがあること、などが必要となり複雑形状の構造物や小型の構造物への適用は困難な状況にある。
【0010】
上記事情により、流電陽極や外部電源方式の陽極(アノード電極)の配置に気を遣うことなく長期耐久性が確保できる海洋構造物が望まれている。本発明は、チタンの優れた耐食性を生かしつつ水素化によるチタン部分の劣化を起こさせない長期耐久性にすぐれた海洋構造物を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するための本発明は、海水のスプラッシュゾーンおよびその周辺部をチタンクラッド鋼で被覆し、海中部を電気防食する海洋構造物において、被覆したチタンクラッド鋼板の、チタンが水素化し得る部位である下端部と構造物との段差部近傍が樹脂で覆われ、その外周にスタッドボルトを用いてステンレス鋼板が取り付けられたことを特徴とする長期耐久性に優れた海洋鋼構造物である。スタッドボルトはチタンクラッド鋼板部分への取り付け用スタッドボルトがチタンまたはチタン合金からなり、構造物部分への取り付け用スタッドボルトがステンレス鋼からなることが好ましい。また、本発明は、海水のスプラッシュゾーンおよびその周辺部をチタンクラッド鋼で被覆し、海中部を電気防食する海洋構造物において、被覆したチタンクラッド鋼板の、チタンが水素化し得る部位である下端部と構造物との段差部近傍が重防食塗装されたことを特徴とする、長期耐久性に優れた海洋鋼構造物である。なお、ここでいう重防食塗装とは、長期耐久性を有する樹脂皮膜を付与することをさし、下塗りから上塗りまでの多層皮膜が厚さ総計で200ミクロン以上となる塗装のことを言う。
【0012】
【発明の実施の形態】
ステンレス鋼は不働態皮膜の形成により耐食性を発揮する鋼材であるが、その腐食は不働態皮膜の局所的崩壊により発生する。最も知られている現象はいわゆる孔食や隙間腐食であり、無防食の状態で海洋環境でこの材料を使用すると、これらの現象により腐食が進行することがある。しかしながら、この材料はいわゆる再不働態化電位より卑な電位域で使用すれば腐食の発生はない。その電位は、材料と環境によって偏差があるが、海水環境の場合約−350mV前後であり、非常に軽い電気防食で十分な防食効果が得られる。また、ステンレス鋼の内オーステナイト系ステンレス鋼を用いれば、強加工によるマルテンサイト変態があまり起こさない様十分配慮しさえすれば、強電気防食下においても水素化による割れ発生が起こることは無い。このような材料特性を鑑み、上述のチタン・鉄境界における種々の防食上の問題を解決することを次により工夫した。
【0013】
つまり、図1に示すとおり、電気防食が効かないスプラッシュゾーンにおいては、チタンクラッド鋼による従来技術をもちいる防食法が超長期にわたり最も信頼性が高いのでこれを適用する。海中部については、長期に渡り十分な防食効果を発揮するため複合電気防食を実施する。その場合、チタンクラッド鋼下端部分近傍においてはチタンの水素化が懸念されるのでその領域を樹脂で被覆し、その外周にステンレス鋼板製カバーをスタッドボルト付けするのである。防食樹脂としてはペトロラタムやブチルゴムなどがその例であり、ステンレス鋼としてはSUS304やSUS316などがその例である。またチタンクラッドの表面には、溶接性から純チタンまたはチタンをベースとした合金をスタッドボルトとして用い、鉄面へはステンレス鋼を用いる。これにより、日射による防食樹脂の劣化をステンレスカバーで防止すると同時に、チタンクラッド鋼被覆部下端のチタンの水素化を完全に防止できる。また、事実上絶縁体である防食樹脂で覆われることにより、この部位での異種金属接触腐食も防止できる。さらには、鉄面に十分な電気防食がかかる条件で電極配置を行っても、ステンレスカバーは水素化されることもなく、また海中部から干満帯および飛沫帯最下部までをカバーするステンレス鋼は、常時もしくは潮の干満や波浪を受けることで時間平均すると、中程度の電気防食を受けることとなり、孔食や隙間腐食が発生することも無い。
【0014】
この発明を実際に適用するに当って、次に記す2つの場合がある。つまり固定式海洋構造物の場合、潮の干満で大気露出と海水没水を繰り返す干満帯が存在するが、この時適用されるのが図1(a)の方式であり、干満帯を樹脂およびステンレス鋼で覆う。また、浮体式海洋構造物の場合は(b)の方式となり、喫水線近傍が樹脂とステンレス鋼で覆われる。
【0015】
非常に長期の耐久性とまでは要求されない場合、より簡易で低コストな方法も求められる。この場合には浮体構造を例として図2に示したとおり、チタンクラッド鋼被覆下端部を単に重防食塗装するだけでも効果を発揮する。この方式の考え方は、将来重防食塗装部分の劣化が起こりうる事を想定しており、ある程度電気防食用電極の配置に工夫をすることが前提となる。つまり、海中部の塗膜の劣化を重防食塗装のそれに先行させることで、電流分布の経時変化上避けられない初期におけるチタンの過防食と、それによる水素化を回避するのである。
以上のような構成とすることにより、これまで述べてきた海洋構造物の長期耐久性が要求されるすべての条件下で満足すべき海洋構造物が提供できることになった。
【0016】
【実施例】
本発明を実施するにあたり、以下の3種類の構造体を試作し、干満をシミュレートできる実海水浸漬試験槽に暴露することとした。
まず、固定式海洋構造物を想定し、上端および下端を鋼製円盤で溶接閉鎖した直径400mm、厚さ5mmの鋼管5に、干満帯上端から1mにわたりチタンクラッド鋼(3+4)を溶接法で貼り付けた(図1(a)参照)。海中部は底部から1.5mの範囲をタールエポキシ塗料で塗布した。干満シミュレート領域である0.5mの範囲とその直下0.3mの領域およびチタンクラッド貼り付け部下端から0.15m上方の範囲を、本発明の方法により防食するにあたり、チタンクラッド鋼表面にはその下端から上方0.10mの位置の直交する4方向に直径10mm、長さ15mmの純チタン製スタッド6を接合した。また鋼面に対しては、SUS304製の同じサイズのスタッド7を、クラッド被覆下端部より0.05m、0.4m、および0.75m下方に上述と同様の方法で接合した。
【0017】
また、チタンクラッド鋼被覆部下端近傍および干満帯とその直下に当たる面領域には、まずブチルゴムシート2を密着させた後、その上をチタンクラッド鋼の全厚5mmによる段差にも密着できるようあらかじめ加工を加えた厚さ1mmのSUS304鋼板1を用いて巻き付けた。巻き付けに際しては、ステンレス鋼板1とブチルゴムシート2がよく粘着するよう全面に渡り押さえつけ作業をおこなった。その後ステンレス鋼板が脱落しないようにスタッド6,7を用いてボルト止めを行い、最後にカバーステンレスの巻き合わせ端部をシーム溶接により接合した。海中部には底部管端より上方0.5mを中心にしてアルミ陽極を溶接により取り付けた。鋼管上端部分の円盤閉鎖部分は、プライマー75ミクロン、エポキシ樹脂120ミクロン、ウレタン中塗り30ミクロン、耐候性ウレタン25ミクロンからなる重防食塗装によりコーティングした。
【0018】
次に、浮体構造を想定し、一片1mの上面開口した鋼製立方体を作成した。側面となる4面を高さ方向で0.5mの位置を境に上方を固定式と同様な方法でチタンクラッド鋼(3+4)で被覆した(図1(b)参照)。チタンクラッド鋼下端部から下方0.15mを残し、その下方および底板、さらには立方体内面をタールエポキシ塗料で塗装した。底板中心部にアルミ合金陽極を溶接で取り付けた。側面の両端から0.05m、および0.35mの位置に、チタン・鉄境界線の上下0.10mの高さに固定式と同様の材料選択をしてスタッド6,7を打った。チタンクラッド鋼下端部の上下0.15mの領域をブチルゴムシート2で被覆した後、段差を考慮したSUS304鋼板1でカバーした。ステンレス1とブチルゴム2とがよく密着するように押さえつけ作業を行った後、固定のためのボルト締めをおこなった。ステンレスカバー板同士の合わせ部をシーム溶接により接合した。この立方体を実海水試験槽に浮かべ、砂を内部に導入することで喫水線をステンレスカバー中心線にあわせた。雨が内部に溜り喫水線が変動するのを防ぐため、上部開口部に塩化ビニル製の蓋をした。
【0019】
このようにして試作した試験体を実海水試験槽に設置し、暴露実験を行った。試験体の電位はどちらも約−1050mV(SCE)であり、対策を怠ればチタンに水素化の問題を生ずる条件にあることを確認した。5年経過後解体調査したところ、水中部の塗膜にわずかな剥離が認められていた以外、鋼面、ステンレス面、チタン面ともに腐食や水素化で問題となる部位は見当たらなかった。この事は、本発明がさらなる長期にわたって十分な防食効果を発揮することを意味する。
【0020】
さらには浮体構造を想定し、一片1mの上面開口した鋼製立方体を作成した。側面となる4面を上端から0.7mの位置を境に、上方を溶接法でチタンクラッド鋼(3+4)で被覆した(図2参照)。チタンクラッド鋼下端線の下方0.1m上方0.3mの範囲をプライマー75ミクロン、エポキシ樹脂120ミクロン、ウレタン中塗り30ミクロン、耐候性ウレタン25ミクロンからなる重防食塗装10を施し、さらにその下方および底板と立方体内面をタールエポキシ塗料で塗装した。遠方に設置した流電陽極を模擬するため、試験槽底部に配置したアルミ陽極にリード線を付け、可変抵抗器を介して試験体に接続した。この立方体を実海水試験槽に浮かべ、砂を内部に導入することで喫水線を重防食塗装帯中心線にあわせた。雨が内部に溜り喫水線が変動するのを防ぐため、上部開口部に塩化ビニル製の蓋をした。
【0021】
このようにして試作した試験体を実海水試験槽に設置し、暴露実験を行った。試験体の電位は−950mV(SCE)となるよう可変抵抗器を設定した。この電位は、対策を怠ればチタンの水素化問題を生じかねない値であるが、実構造体において電極配置を工夫して得られる一般的な初期電位でもある。5年経過後解体詳細調査したところ水中部の塗膜にわずかな剥離が認められていた以外は、重防食塗装部は健全であり、鋼面・チタン面ともに腐食や水素化で問題となる部位は見当たらなかった。この事は、本発明がさらなる長期にわたって十分な防食果を発揮することを意味する。
【0022】
【発明の効果】
本発明により、長期耐久性が要求される海洋鋼構造物の設計が、海域や構造体の形状を問わずに可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の海洋構造物における防食部位の概念図。(a)は固定式、(b)は浮体式である。
【図2】本発明の浮体式海洋構造物における簡易式防食部位の概念図。
【符号の説明】
1 ステンレス鋼製カバー
2 防食樹脂
3 クラッド鋼のチタン部
4 クラッド鋼の鋼部
5 構造の本体を構成する鋼
6 スタッドボルト(チタンまたはチタン合金)
7 スタッドボルト(ステンレス鋼)
8 電気防食がかけられた塗装表面
9 溶接部
10 重防食塗装
H.W.L 干満帯最高潮位線
L.W.L 干満帯最低潮位線
W.L 喫水線
Claims (3)
- 海水のスプラッシュゾーンおよびその周辺部をチタンクラッド鋼で被覆し、海中部を電気防食する海洋構造物において、被覆したチタンクラッド鋼板の、チタンが水素化し得る部位である下端部と構造物との段差部近傍が樹脂で覆われ、その外周にスタッドボルトを用いてステンレス鋼板が取り付けられたことを特徴とする、長期耐久性に優れた海洋鋼構造物。
- チタンクラッド鋼板部分への取り付け用スタッドボルトがチタンまたはチタン合金からなり、構造物部分への取り付け用スタッドボルトがステンレス鋼からなることを特徴とする、請求項1記載の長期耐久性に優れた海洋鋼構造物。
- 海水のスプラッシュゾーンおよびその周辺部をチタンクラッド鋼で被覆し、海中部を電気防食する海洋構造物において、被覆したチタンクラッド鋼板の、チタンが水素化し得る部位である下端部と構造物との段差部近傍が重防食塗装されたことを特徴とする、長期耐久性に優れた海洋鋼構造物。
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