JP3881269B2 - 金属材料の塑性加工用表面処理方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は金属材料の表面に塑性加工用皮膜を形成させるための方法に関する。本発明が有用な技術分野は、塑性加工、特に冷間塑性加工の分野である。より詳しく述べるならば、本発明は鍛造、伸線、伸管、プレス、圧延のような塑性加工を際に、鉄鋼、ステンレス、チタン、アルミニウム等の金属材料の表面に化成処理、水系潤滑処理、油系潤滑処理等を施すことなく優れた潤滑性を有する皮膜を形成させる金属材料の塑性加工用表面処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に鉄鋼、ステンレス等の金属材料を塑性加工する際には、被加工材と工具との金属接触により生ずる焼き付きやかじりを防止する目的で、金属表面に潤滑皮膜を生成させる。金属表面に生成させる皮膜としては、潤滑剤を金属表面に物理的に付着させるタイプのものと、化学反応により金属表面に化成処理皮膜を生成させた後、潤滑剤を使用するタイプのものがある。金属表面に物理的に付着させる潤滑剤は金属表面に化成処理皮膜を生成させて使用するものに比べ、密着性が劣るため一般に軽加工用として使用される。化成処理皮膜を使用するタイプのものは表面に担体(キャリアー)としての役割を有するリン酸塩皮膜やシュウ酸塩皮膜を生成させた後、滑り性のある潤滑剤を使用する。このタイプはキャリア皮膜としての化成皮膜と潤滑剤との二層構造を有しており、非常に高い耐焼き付き性を示す。そのため伸線、伸管、鍛造などの塑性加工分野において非常に広い範囲で使用されてきた。特に塑性加工の中でも加工が厳しい分野には、リン酸塩皮膜やシュウ酸塩皮膜を下地にし、その上に潤滑剤を使用する方法が多用されている。
【0003】
化成処理皮膜上に使用される潤滑剤は使用方法で大きく2つに分けることができる。1つは、化成処理皮膜に潤滑剤を物理的に付着させるタイプのもの、もう1つは、化成処理皮膜に潤滑剤を反応させて付着させるタイプのものである。前者の潤滑剤としては、鉱油、植物油又は合成油を基油として、その中に極圧剤を添加したもの、又は黒鉛、二硫化モリブデン等の固体潤滑剤をバインダー成分とともに水に加えたものであり、このものは金属材料表面に付着、乾燥させて使用する。これらの潤滑剤はスプレー塗布や浸漬塗布により簡便に使用できるので、液管理も殆ど必要が無いなどの利点があるが、潤滑性が低いため比較的軽い潤滑の場合に使用されることが多い。一方後者では、潤滑剤としてステアリン酸ナトリウムのような反応型石けんを用いる処理が行われる。特に高い潤滑性が必要な場合は潤滑剤として反応型石けんを使用する。反応型石けんは、化成処理皮膜と反応することで金属材料表面に高い潤滑性を与えることができる。
【0004】
しかしながら反応型石けんによる処理は化学反応であるため、処理液の管理、化学反応を制御するための温度管理、処理液の劣化による廃棄更新が必要となる。近年の地球環境保全を目的に、産業廃棄物の低減は大きな課題となっている。このために、廃棄物が生じない潤滑剤や処理方法が望まれている。また、従来技術は、工程や処理液の管理が複雑であるために簡便な処理が望まれている。
【0005】
このような問題点を解決するため、「水溶性高分子またはその水性エマルションを基材とし、固体潤滑剤と化成皮膜形成剤とを配合した潤滑剤組成物(特開昭52−20967号公報)」等が示されているが、化成皮膜処理に匹敵するような皮膜は得られていない。
【0006】
また、これら問題点を解決する手段として、例えば、本出願人が係わる特開平10−8085号の発明が挙げられる。これは、(A)水溶性無機塩、(B)固体潤滑剤、(C)鉱油、動植物油脂および合成油から選ばれる少なくとも1種の油成分、(D)界面活性剤および(E)水からなる、固体潤滑剤および油が均一にそれぞれ分散および乳化した、金属の冷間塑性加工用水系潤滑剤に関するものである。しかし、この発明においても塗布後に乾燥する工程が必要となる。例えば、線材を処理する場合には、線を束ねたコイル状(質量としては数トンに達する)にて処理する場合が多いが、前記、特開平10−8085号の発明を適用した場合には、浸漬処理した後にこのコイルの乾燥が必要となる。コイルの場合には質量、容量とも大きいため、この乾燥工程をも省く処理方法が望まれている。
【0007】
一方、二硫化モリブデンなどの潤滑物質を付着させる方法としては、それらを有機溶剤に希釈し塗布する方法が用いられてきた。しかし、近年の環境問題を考慮して、溶剤を全く使用しない方法が強く望まれている。
【0008】
「鍛造用被膜潤滑処理方法及び被膜潤滑処理手段を有する鍛造装置」(特開平4−55030号公報)には、鍛造加工を施される加工面に直流高電圧にて帯電させた粒子状の潤滑剤を被覆させる処理方法が開示されている。しかし、この方法では潤滑粒子が特定されていない。実施例では、リン酸カルシウム皮膜に金属石けん皮膜を施したもの又は単にシュウ酸塩皮膜を施した線材を切断し、その端面に帯電したリン酸を主成分とする酸化物パウダーを帯電させて50μmの厚さで塗布し、得られる皮膜上に補助潤滑剤として油を塗布したものが記載されている。その後行われている加工は、一般的にヘッダー加工と呼ばれる比較的軽度の加工である。しかし、この公報は、化成−石けん処理皮膜の代替となることができ、油を併用することがなく、優れた潤滑性を有する複合皮膜に関する情報を与えていない。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は前記従来技術の抱える問題点を解決するためのものであり、地球環境保全を考慮した形での、安価な、金属材料の塑性加工用表面処理方法を提供することを目的とする。本発明は、また、従来の化成−石けん処理皮膜に匹敵する高い潤滑性を有する皮膜を与えることができる、金属材料の塑性加工用表面処理方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、加工時の摩擦を低減する滑り成分とこの滑り成分の担体(キャリアー)となり耐焼付き性を付与するベース成分とを複合して有する皮膜を塗布させる新規な処理方法を見出し本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、下記(1)(2)又は(3)の粉末粒子を金属材料の表面に付着させて、該表面に担体成分と滑り成分からなる0.02〜50g/m2の付着量の複合皮膜を形成させることを特徴とする金属材料の塑性加工用表面処理方法:
(1)無機化合物粉末粒子と、石けん、二硫化モリブデン、ポリテトラフルオロエチレン、ワックス及び樹脂から選ばれる少なくとも1種の粉末粒子、
(2)水に難溶性もしくは不溶性であって、脂肪酸のアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩又は水溶性エステル(以下、「脂肪酸の………水溶性エステル」を「アルカリ石けん等」という)との反応性を有する無機多価金属化合物を核としてその表面を該多価金属の金属石けんの皮膜が被覆してなる粉末粒子(以下、2層粉末粒子という場合がある)又はこの粉末粒子の表面をさらに該アルカリ石けん等の皮膜が被覆してなる粉末粒子(以下、3層粉末粒子という場合がある)、又は
(3)(2)の粉末粒子(すなわち2層粉末粒子又は3層粉末粒子)と、石けん、ワックス及び樹脂から選ばれる少なくとも1種の粉末粒子
に関する。
【0011】
また、本発明は、下記(1)(2)又は(3)の粉末粒子を金属材料の表面に付着させ、ついで該金属材料を外部加熱するか塑性変形させて全体としての粉末粒子の一部を溶融もしくは溶融圧着させて、該表面に担体成分と滑り成分からなる0.02〜50g/m2の付着量の複合皮膜を形成させることを特徴とする金属材料の塑性加工用表面処理方法:
(1)無機化合物粉末粒子と、石けん、二硫化モリブデン、ポリテトラフルオロエチレン、ワックス及び樹脂から選ばれる少なくとも1種の粉末粒子、
(2)水に難溶性もしくは不溶性であって、脂肪酸のアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩又は水溶性エステル(以下、「脂肪酸の………水溶性エステル」を「アルカリ石けん等」という)との反応性を有する無機多価金属化合物を核としてその表面を該多価金属の金属石けんの皮膜が被覆してなる粉末粒子(以下、2層粉末粒子という場合がある)又はこの粉末粒子の表面をさらに該アルカリ石けん等の皮膜が被覆してなる粉末粒子(以下、3層粉末粒子という場合がある)、又は
(3)(2)の粉末粒子(すなわち2層粉末粒子又は3層粉末粒子)と、石けん、ワックス及び樹脂から選ばれる少なくとも1種の粉末粒子
に関する。なお、以下、2層粉末粒子及び/又は3層粉末粒子を被覆粉末粒子という場合がある。
上記2番目の方法では溶融もしくは溶融圧着により皮膜の付着性を高めることができる。また、上記いずれの方法においても付着は静電粉体付着方法によって行うのが好ましい。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の内容をより詳細に説明する。
まず、前記(1)の担体成分及び滑り成分について説明する。
本発明で使用する無機化合物粉末粒子は、複合皮膜の担体(キャリアー)となり耐焼付き性を付与するベース成分として作用する。該無機化合物は、金属のリン酸塩、ホウ酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩、硝酸塩から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。金属としては、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛等が挙げられる。該無機化合物の好適な具体的として、リン酸亜鉛、リン酸カルシウム、ホウ酸ナトリウム、酸化カルシウム、ホウ酸カリウム、リン酸亜鉛カルシウム、硫酸カリウム等が挙げられる。ベース成分は潤滑性能とコストにより適宜選択される。
【0013】
本発明で使用する石けんは、加工時の摩擦を低減する滑り成分として作用するものである。石けんとしては飽和脂肪酸あるいは不飽和脂肪酸とカルシウム、カリウム、ナトリウム、リチウム又は亜鉛、特にナトリウム又はカリウムとの塩であることが好ましい。飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸としては炭素数8〜22、特に炭素数16〜20のものが好ましく、例えばオクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イコサン酸、オレイン酸等が挙げられる。石けんの好適な具体的として、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛等が挙げられる。石けんの選択も潤滑性能とコストにより適宜選択されるものである。
【0014】
本発明で使用する二硫化モリブデン、ポリテトラフルオロエチレン、ワックス及び樹脂も摩擦を低減する滑り成分として作用するものである。ポリテトラフルオロエチレンとしては分子量が50,000〜1,000,000程度のものが好ましく使用される。ワックスとしては、特に制限はなく、例えばマイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、カルナウバワックス等が挙げられる。樹脂は特に制限されず、例えばアクリル系樹脂、アミド系樹脂、エステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂およびフェノール系樹脂等が挙げられる。これらは、要求される潤滑性能およびコストを勘案し適宜、選定される。
【0015】
石けん、ワックス及び樹脂は摩擦を低減する滑り成分として作用するのものであるが、前述の複合皮膜を連続膜として固定化する働きも有している。石けん、ワックス又は樹脂を使用することにより、外部加熱やスキンパス時の加工熱や圧力を利用し皮膜を固定化できるようになる。この効果はワックスがもっとも顕著であり、さらに、融点60℃以上の合成ワックスであることが好ましい。同じ観点から樹脂もガラス転移点40℃以上の合成樹脂であることが好ましい。
【0016】
前記(1)において、滑り成分/担体成分の質量比率は1/9〜9/1であるのが好ましく、4/6〜8/2であるのがより好ましい。質量比率が1/9未満では滑り成分が少なく摩擦係数の低減効果が充分でない。また、9/1を超えると担体の量が少なく充分なキャリアー効果が得られない。
【0017】
次に、前記(2)の担体成分及び滑り成分について説明する。
前記「水に難溶性もしくは不溶性であって、アルカリ石けん等、すなわち脂肪酸のアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩又は水溶性エステルとの反応性を有する無機多価金属化合物を核としてその表面を該多価金属の金属石けんの皮膜が被覆してなる粉末粒子」でいう脂肪酸としては、前記石けんについて記載したのと同様な脂肪酸を用いることができる。すなわち、脂肪酸は飽和脂肪酸でも不飽和脂肪酸でもよく、炭素数8〜22、特に炭素数16〜20のものが好ましく、例えばオクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イコサン酸、オレイン酸等が挙げられる。アルカリ金属としてはナトリウム、カリウム、リチウム等が挙げられ、特にナトリウム及びカリウムが好ましい。水溶性エステルとしては上記脂肪酸のカルボキシル基にエチレンオキシドが開環重合して得られるエステルなどが挙げられる。アルカリ石けん等の好ましい具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸又はイコサン酸のナトリウム塩又はカリウム塩が挙げられ、中でもステアリン酸ナトリウムがもっとも好ましい。
本発明においてアルカリ石けん等は2層粉末粒子を製造するために必要とされるのみならず、それ自体が3層粉末粒子の最外層を構成する。
【0018】
上記にいう無機多価金属化合物は本発明にいう複合皮膜において担体成分として働く。かかる無機多価金属化合物は、通常、粉体もしくは水に分散化した状態で供給される粒状物質である。かかる無機多価金属化合物としては、特に限定するものではないが、多価金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、シユウ酸塩などが挙げられ、前記多価金属としては亜鉛、鉄、マンガン、ニッケル、コバルト、カルシウム、アルミニウム及びスズが工業的なコスト面でも好適である。該無機多価金属化合物の好適な具体例として、リン酸亜鉛、酸化亜鉛、リン酸鉄、シユウ酸鉄、リン酸マンガン、リン酸ニッケル、リン酸コバルト、リン酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム等が挙げられ、中でもリン酸亜鉛及び酸化亜鉛が特に好適に用いられる。
【0019】
前記無機多価金属化合物を被覆する金属石けんは本発明にいう複合皮膜において滑り成分として働く。該無機多価金属化合物とアルカリ石けん等との反応によって生成する該多価金属とアルカリ石けん等を構成する脂肪酸との塩である。前記金属石けんとしては、好ましくは炭素数8〜22、より好ましくは炭素数16〜20の飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸(例えば、パルミチン酸、ステアリン酸、イコサン酸、オレイン酸等)の亜鉛、鉄、マンガン、ニッケル、コバルト、カルシウム、アルミニウム、スズ等の多価金属との塩が挙げられ、代表的にはステアリン酸亜鉛が挙げられる。
【0020】
核表面を十分に被覆するという観点から、該被覆粉末粒子(2層粉末粒子又は3層粉末粒子)全体に対する金属石けん皮膜の質量比は1〜30質量%であるのが好ましく、2〜15質量%であるのがより好ましい。
【0021】
本発明の被覆粉末粒子は上記無機多価金属化合物とそれを被覆する該多価金属の金属石けんの2層からなる粉末粒子のみならず、この2層粉末粒子の表面をアルカリ石けん等の皮膜が被覆してなる粉末粒子をも包含する。ここでこの3層からなる粉末粒子における、上記無機多価金属化合物とそれを被覆する該多価金属の金属石けんからなる粉末粒子はすでに記述したものと同様で良い。この3層粉末粒子において、粉末粒子全体に対するアルカリ石けん等の皮膜の質量比は、粒子の耐熱性を高め安定な潤滑性能を維持する目的で、水溶性分を少なくする観点から、0.1〜5質量%であるのが好ましく、0.1〜3質量%であるのがより好ましい。
【0022】
本発明の前記被覆粉末粒子は、アルカリ石けん等の水溶液中に前記無機多価金属化合物の粒子を懸濁させ、加熱下に撹拌して該無機多価金属化合物粒子の表面に金属石けん膜を生成させ、ついで該懸濁液を乾燥することにより得ることができる。
【0023】
前記無機多価金属化合物に対するアルカリ石けん等の使用量については、前記したような被覆粉末粒子に対する金属石けんの質量比になるように、アルカリ石けん等を用いればよいが、具体的には、前記無機多価金属化合物:アルカリ石けん等のモル比として100:0.25〜100:15の範囲であることが好ましい。アルカリ石けん等の量が100:0.25未満では潤滑性に十分な性能が得られにくい傾向となり、100:15を超えると未反応アルカリ石けん等が多く存在するために懸濁液の発泡性が高くなるなどの問題が発生する傾向となる。
【0024】
該粉末の製造に伴う反応を促すためには懸濁液の温度を60℃以上、特に70〜100℃とし、pHを9以上、特に10〜12に調整しておくことが好ましい。この反応機構としては、無機多価金属化合物粒子の表面で該無機多価金属化合物とアルカリ石けんとの複分解反応が起こり、該無機多価金属化合物粒子を核として金属石けん層が被覆するものと推測される。pHを上記アルカリ側にするためにアルカリ金属の水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)、炭酸塩(炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等)、重炭酸塩(重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム等)、アンモニア水などを用いることができるが、中でも水酸化ナトリウムが好ましい。好ましい量の金属石けん皮膜を被覆させた後、該懸濁液を乾燥して粉末にするが、乾燥の方法は常法によればよい。例えば、該懸濁液を濾過後、固形分を乾燥する、該懸濁液を噴霧乾燥するなどの方法を用いることができる。
【0025】
得られる被覆粉末粒子は通常表面にアルカリ石けん等の層を有している。この層は、必要に応じ、該被覆粉末粒子を熱水、アルコール水溶液などにより洗浄することにより除去することができる。
【0026】
なお、前記した被覆粉末粒子(2層粉末粒子又は3層粉末粒子)全体に対する金属石けん皮膜の質量比、及び3層粉末粒子全体に対するアルカリ石けん等の皮膜の質量比は以下に示す方法によって求められる金属石けん皮膜の質量及びアルカリ石けん等の皮膜の質量を基にして算出することができる。
すなわち、2層粉末粒子の場合は、1gの粉末粒子を1N塩酸中で加熱して金属石けん分を脂肪酸に分解する。この脂肪酸をジエチルエーテルで抽出して脂肪酸量を求め、これを基に金属石けん量を計算する。3層粉末粒子の場合は、1gの粉末粒子を50%エタノール水溶液中で4時間攪拌し、ついで濾紙により濾過する。残渣と濾液とをそれぞれ別個に1N塩酸中で加熱して金属石けん又はアルカリ石けん等を脂肪酸に分解する。この脂肪酸をジエチルエーテルで抽出して脂肪酸量を求め、これを基に金属石けん又はアルカリ石けん等の量を計算する。
【0027】
前記(3)の担体成分及び滑り成分について説明する。
ここでは、上記(2)の被覆粉末粒子と、石けん、ワックス及び樹脂から選ばれる少なくとも1種の粉末粒子とが複合皮膜成分として用いられる。ここでいう石けん、ワックス及び樹脂は前記(1)で説明した石けん、ワックス及び樹脂と同様でよい。
前述のごとく、石けん、ワックス及び樹脂は摩擦を低減する滑り成分として作用するのものであるが、複合皮膜を連続膜として固定化する働きも有している。上記(2)の被覆粉末粒子に加え、石けん、ワックス又は樹脂を使用するのは特にこの固定化作用を期待するものである。
【0028】
上記(2)の被覆粉末粒子(2層粉末粒子又は3層粉末粒子)と石けん、ワックス及び樹脂から選ばれる少なくとも1種の粉末粒子との質量比率は、1:9〜9:1であるのが好ましく、6:4〜2:8であるのがより好ましい。
上記比率において、被覆粉末粒子の割合が1:9より少ないと耐焼付き性が劣り、9:1より多いと溶融もしくは溶融圧着させる場合の密着性が十分でなくなる。
【0029】
前記(1)〜(3)の場合におけるいずれの粉末粒子も、粒子径が大きくなると成膜後の凹凸が大きくなって潤滑性を下げることになり、粒子径が小さくても潤滑性には全く問題ないが、粒子径が小さい粉末粒子は一般にコストが高くなる。したがって、粉末粒子の平均粒子径は0.5〜100μmであることが好ましく、1〜40μmであることがより好ましい。
【0030】
本発明で対象とする金属材料は、材質面から特に限定されるものではないが、例えば、鉄、鋼、ステンレス鋼、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金、マグネシウム、マグネシウム合金等の金属よりなる金属材料が挙げられる。また、形状面からは、本発明で対象とする金属材料は特に限定されるものではなく、例えば、線材、管材、棒材、ブロック材等の素材だけでなく、形状物(ギヤやシャフト等)をも包含する。
【0031】
本発明で使用する金属材料は前記粉末粒子を付着させるのに先立って、アルカリ洗浄、酸洗浄、サンドブラストおよびショットブラストから選ばれる少なくとも1種以上の方法により清浄化するのが好ましい。これは表面が汚れていると、その後の潤滑性に悪影響を与えるからである。近年、環境保全の面より廃液を生じないことが望まれているが、これに対してはブラスト処理を適用すれば廃水を生じることなくこと金属表面を清浄化することができる。
【0032】
清浄化した金属材料表面に前記粉末粒子を付着させる方法については特に制限はない。例えば、線材等の場合には加工前のダイスに前記粉末粒子をセットする方法、いわゆるダイスボックスを用いた方法にて表面に付着させることができる。また、前記粉末粒子を流動させている流動槽に加熱した金属材料を導入し付着させる方法を用いることもできる。均一に付着(特に形状物など)させるには、前記粉末粒子を帯電させ付着させる静電粉体付着法(静電粉体塗装法)により付着させることが好ましい。前記粉末粒子を帯電させる方法は特に限定されるものではないが、コロナ放電を利用する方法が工業的には望ましい。具体的には、例えば、市販の静電粉体装置(例えば、GX300:日本パーカライジング株式会社製)を用いて、好ましくは、電圧40〜80kVにて帯電させる。また、金属表面への粉末の静電粉体塗装による付着は、例えば、市販の静電塗装ガン(例えば、GX116:日本パーカライジング株式会社製)を用いて行う。この際の粉体供給のエアー圧力はメイン:10〜600kPa、サブ:10〜600kPaが好ましい。
【0033】
付着させる粉末粒子が前記(1)や(3)の場合のように2種以上ある場合には、混合して付着させてもそれぞれ別々に付着させても又はそれらをミックスした方法で付着させてもよい。しかしながら、比重等が異なる粉末粒子を混合物として均一に付着させることは工業的には一般に困難であり、また担体成分を滑り成分が被覆している形態が潤滑性能からもっとも好ましいので、担体成分をまず付着させ、ついで滑り成分を付着させる方が好ましい。混合物として均一に付着させることは工業的には一般に困難である理由は、粉末粒子の混合物が保存や輸送、付着装置への供給装置内等で分離する可能性が強いためである。
前記(2)の場合には、担体成分と滑り成分とが一体化されているので、付着は一度ですませることができる利点がある。
【0034】
上記付着によって形成される複合皮膜の付着量は0.02〜50g/m2であることが必要であり、0.1〜30g/m2であることが好ましく、1〜25g/m2であることがより好ましい。0.02g/m2未満では、潤滑性が不充分であり塑性加工に対して充分な性能を発揮できない。50g/m2を超えると余剰分が多くなり金型へのカス詰まり等の問題を引き起こし、また、コストも高くなり好ましくない。
【0035】
表面に上述した複合皮膜を形成させた金属材料はそのまま塑性加工に供してもよいが、複合皮膜の金属材料への付着性を高めるための処理を行うほうが好ましい。この処理は複合皮膜を形成させた金属材料を外部加熱するか塑性変形させて複合皮膜の一部を溶融もしくは溶融圧着させることにより行われる。
【0036】
外部加熱の方法には特に制限はなく、例えば、複合皮膜を形成させた金属材料の表面に熱風又は温風を与えるか、電磁誘導加熱方式で複合皮膜を形成させた金属材料を加熱する方法を用いることができる。外部加熱によって複合皮膜の温度を到達温度として、50〜150℃に1〜100秒間加熱することにより、ワックス等の固定化作用を有する成分が溶融し、複合皮膜の付着性が向上する。
また、複合皮膜を形成させた金属材料に減面率1〜15%程度のスキンパスなどの金属の緩やかな塑性変形を伴う加工を施すことにより、複合皮膜に圧力と温度上昇(摩擦熱と変形熱)が加わり、ワックス等の固定化作用を有する成分が溶融し、複合皮膜の付着性が向上する。
【0037】
複合皮膜形成後の前記付着性向上処理は、線材等を連続加工する場合に特に有用である。例えば、線材からボルトを作る加工を挙げると、線材は複合皮膜形成後にスキンパスと称される引抜き加工を施される。この目的は、線材の線径精度(真円度)を高めるためのもので、通常、断面減少率が5〜10%程度のものである。この後、線材は移送されて、ヘッダーマシンと称される加工機にて、切断されついで多段加工にてボルトの形状に成形される。このため潤滑性が必要な工程はスキンパスとヘッダーと2カ所にわたる。例えば、静電付着法にて付着した粒子はクーロン力で付着しているにすぎないので、工業的な移送(搬送)には耐えられるない場合が起こり得る。本発明では、外部加熱又はスキンパス時の熱及び圧力を利用し皮膜の一部を溶融させて連続膜状に固定化し、この1回の処理にて、スキンパス及びヘッダーの2回の加工に必要な付着性ひいては潤滑性を付与できるようにするのである。
【0038】
前記付着性向上処理を施した後の複合皮膜の付着量も0.02〜50g/m2であることが必要であり、0.1〜30g/m2であることが好ましく、1〜25g/m2であることがより好ましい。0.02g/m2未満では、潤滑性が不充分であり塑性加工に対して充分な性能を発揮できない。50g/m2を超えると余剰分が多くなり金型へのカス詰まり等の問題を引き起こし、また、コストも高くなり好ましくない。
【0039】
【実施例】
以下に本発明に関し、いくつかの実施例を挙げ、その有用性を比較例と対比して示す。
【0040】
『素材』
<後方せん孔試験片>
後方せん孔試験に供した材料は市販のS45C球状化焼鈍材で、試験片の形状は直径30mmφの円柱で高さが16〜40mmまで2mm単位で変えたものである
<スパイク試験片>
スパイク試験に供した材料は市販のS45C球状化焼鈍材で、試験片の形状は直径25mmφの円柱で高さが30mmである。
<引抜き試験片>
引抜き試験に供した材料は市販のSCr440材で、試験片の形状は直径9.5mmφの円柱で長さが1mのものである。
【0041】
『工程と条件』
<後方せん孔試験>
▲1▼清浄化:アルカリ脱脂
市販のアルカリ脱脂剤(登録商標 ファインクリーナー4360,日本パーカライジング(株)製)濃度20g/L、温度60℃、浸漬10分にて行った。
▲2▼水洗
水道水、常温、浸漬1分にて行った。
【0042】
▲3▼表面処理:静電付着法
市販の静電粉体装置(GX300:日本パーカライジング株式会社製)を用いて、電圧60kVにて粉末粒子を帯電させた。また、金属表面への粉末の静電粉体塗装による付着は、市販の静電塗装ガン(GX116:日本パーカライジング株式会社製)を用いて行った。この際の粉体供給のエアー圧力はメイン:98kPa、サブ:196kPaとして行った。塗布時間は1秒とした。なお、粉末粒子が2種以上ある場合には、上記処理は担体成分(2種以上の場合は混合物)と滑り成分(2種以上の場合は混合物)に分け、担体成分→滑り成分の順に行った。
【0043】
▲4▼加工:後方せん孔試験
後方せん孔試験は、200トンクランクプレスを用い、金型をセットし外周部を拘束した円柱状試験片の上に、50%の減面率になるような直径のパンチにて上方から打ち付け、カップ状の成型物を得る方法で行った。この時プレスの下死点は試験片底部の残し代が10mmとなるよう調整した。後方せん孔試験は試験片を高さの低いものから順番に加工を行い、加工面に傷が入るまで試験した。評価は内面に傷が入らなかった試験片のカップ内高さを良好せん穿孔深さ(mm)とした。なお、金型:SKD11、パンチ :HAP40、ランド径21.21mmφ、加工速度:30ストローク/分の条件で加工を行った。
【0044】
<スパイク試験>
▲1▼清浄化:酸洗
塩酸(15%)、常温、浸漬5分にて行った。
▲2▼水洗
水道水、常温、浸漬1分にて行った。
【0045】
▲3▼表面処理:静電付着法
市販の静電粉体装置(GX300:日本パーカライジング株式会社製)を用いて、電圧60kVにて粉末粒子を帯電させた。また、金属表面への粉末の静電粉体塗装による付着は、市販の静電塗装ガン(GX116:日本パーカライジング株式会社製)を用いて行った。この際の粉体供給のエアー圧力はメイン:98kPa、サブ:196kPaとして行った。塗布時間は1秒とした。なお、粉末粒子が2種以上ある場合には、上記処理は担体成分(2種以上の場合は混合物)と滑り成分(2種以上の場合は混合物)に分け、担体成分→滑り成分の順に行った。
【0046】
▲4▼加工:スパイク試験
スパイク試験は特開平5−7969号に記載された方法に準じて行った。試験後のスパイク高さと成形荷重にて潤滑性を評価した。スパイク高さが高い程、潤滑性に優れる。
【0047】
<引抜き試験:多段加工性>
▲1▼清浄化:ショットブラスト
市販のショットブラスト機を用い、アルミナ粉、200メッシュ、5分処理した。
▲2▼表面処理:ダイス前ボックス法
1段目の引抜き加工前にダイス前ボックスを設け、粉末粒子をセットした。
【0048】
▲3▼加工:引抜き試験(1段目)
▲4▼加工:引抜き試験(2段目)
▲5▼加工:引抜き試験(3段目)
引抜き試験は、市販のドローベンチを用い行った。引抜き速度は20m/分である。1段目加工後に表面状態をチェックし、加工面にキズ等が入っていないか確認の上に2段目の加工に供試した。同様に2段目の加工後に表面をチェックし3段目の加工に供試した。なお、2段目、3段目の加工前にはダイス前ボックスを撤去し表面処理は行っていない。
1段目 ダイス:φ9.00 φ9.50→φ9.00 減面率10.3%(スキンパス)
2段目 ダイス:φ8.20 φ9.00→φ8.20 減面率17.0%
3段目 ダイス:φ7.45 φ8.20→φ7.45 減面率17.5%
総括減面率38.5%
【0049】
実施例1
以下に示す粉末粒子を用い、上述した処理及び試験を行った。
潤滑剤1
担体成分:ホウ酸ナトリウム
滑り成分:ポリエチレンワックス(融点85℃)
平均粒子径:担体成分、滑り成分共に10μm
滑り成分/担体成分:5/5(質量比、以下同様)
付着量:10g/m2
【0050】
実施例2
以下に示す粉末粒子を用い、上述した処理及び試験を行った。
上記2層粉末粒子は下記に示す製造方法によって製造した。すなわち、平均粒子径10μmのリン酸亜鉛粒子1kgを水10Lに分散させ、ステアリン酸ナトリウム100g及び水酸化ナトリウム10gを添加し、95℃の液温で30分間攪拌混合した。この処理液を5Aの市販濾紙を用いて濾過し、濾過残留物を50%エタノール水溶液中で1時間攪拌し、5Aの市販濾紙を用いて濾過した。濾過残留物をオーブン中120℃で4時間乾燥させて2層粉末粒子を得た。
【0051】
実施例3
以下に示す粉末粒子を用い、上述した処理及び試験を行った。
上記2層粉末粒子は下記に示す製造方法によって製造した。すなわち、平均粒子径5μmの酸化亜鉛粒子1kgを水10Lに分散させ、ステアリン酸ナトリウム100g及び水酸化ナトリウム10gを添加し、90℃の液温で30分間攪拌混合した。この処理液を5Aの市販濾紙を用いて濾過し、濾過残留物を50%エタノール水溶液中で1時間攪拌し、5Aの市販濾紙を用いて濾過した。濾過残留物をオーブン中120℃で4時間乾燥させて2層粉末粒子を得た。
【0052】
実施例4
以下に示す粉末粒子を用い、上述した処理及び試験を行った。
潤滑剤4
担体成分:リン酸亜鉛
滑り成分:ステアリン酸亜鉛、二硫化モリブデン(質量比1:1)
平均粒子径:担体成分、滑り成分共に20μm
滑り成分/担体成分質量比率:7/3
付着量:20g/m2
【0053】
実施例5
以下に示す粉末粒子を用い、上述した処理及び試験を行った。
【0054】
実施例6
以下に示す粉末粒子を用い、上述した処理及び試験を行った。
上記2層粉末粒子は下記に示す製造方法によって製造した。すなわち、平均粒子径1μmの酸化亜鉛粒子1kgを水10Lに分散させ、ステアリン酸ナトリウム200g及び水酸化ナトリウム15gを添加し、95℃の液温で30分間攪拌混合した。この処理液を5Aの市販濾紙を用いて濾過し、濾過残留物を50%エタノール水溶液中で1時間攪拌し、5Aの市販濾紙を用いて濾過した。濾過残留物をオーブン中120℃で4時間乾燥させて2層粉末粒子を得た。
【0055】
実施例7
以下に示す粉末粒子を用い、上述した処理及び試験を行った。
潤滑剤7
担体成分:リン酸亜鉛、リン酸カルシウム(質量比1:1)
滑り成分:二硫化モリブデン、ポリテトラフルオロエチレン(質量比1:1)
平均粒子径:担体成分、滑り成分共に30μm
滑り成分/担体成分質量比:6/4
付着量:20g/m2
【0056】
実施例8
以下に示す粉末粒子を用い、上述した処理及び試験を行った。
上記3層粉末粒子は下記に示す製造方法によって製造した。すなわち、平均粒子径2μmのリン酸カルシウム粒子1kgを水10Lに分散させ、ステアリン酸ナトリウム300g及び水酸化ナトリウム30gを添加し、97℃の液温で60分間攪拌混合した。この処理液を5Aの市販濾紙を用いて濾過し、濾過残留物を2Lの脱イオン水を用いて常温下洗浄し、ついでオーブン中120℃で4時間乾燥させて3層粉末粒子を得た。
【0057】
実施例9
以下に示す粉末粒子を用い、上述した処理及び試験を行った。ただし、本実施例では表面処理(帯電処理)・静電付着処理と各試験との間で、試験片に熱風をあてて皮膜の温度(試験片表面の温度)を120℃に10秒間保持した(溶融処理)。
潤滑剤1
担体成分:ホウ酸ナトリウム
滑り成分:ポリエチレンワックス(融点85℃)
平均粒子径:担体成分、滑り成分共に10μm
滑り成分/担体成分質量比:5/5
付着量:8g/m2(溶融処理後)
【0058】
実施例10
以下に示す粉末粒子を用い、上述した処理及び試験を行った。ただし、本実施例では表面処理(帯電処理)・静電付着処理と各試験との間で、試験片に熱風をあてて皮膜の温度(試験片表面の温度)を100℃に15秒間保持した(溶融処理)。
上記3層粉末粒子は下記に示す製造方法によって製造した。すなわち、平均粒子径20μmのリン酸亜鉛粒子1kgを水10Lに分散させ、ステアリン酸ナトリウム100g及び水酸化ナトリウム10gを添加し、90℃の液温で20分間攪拌混合した。この処理液を5Aの市販濾紙を用いて濾過し、オーブン中120℃で4時間乾燥させて3層粉末粒子を得た。
【0059】
比較例1
以下に示す粉末粒子を用い、上述した処理及び試験を行った。
潤滑剤10
担体成分:ホウ酸ナトリウム
滑り成分:なし
担体成分の平均粒子径:5μm
滑り成分/担体成分:0/10
付着量:2g/m2
【0060】
比較例2
以下に示す粉末粒子を用い、上述した処理及び試験を行った。
潤滑剤11
担体成分:なし
滑り成分:ポリテトラフルオロエチレン
滑り成分の平均粒子径:1μm
滑り成分/担体成分:10/0
付着量:1g/m2
【0061】
比較例3
以下に示す粉末粒子を用い、上述した処理及び試験を行った。潤滑剤12 担体成分:リン酸亜鉛と酸化亜鉛の混合物(質量比7:3) 滑り成分:なし 担体成分の平均粒子径:10μm
滑り成分/担体成分:0/10
付着量:5g/m2
【0062】
比較例4
以下の処理工程にて処理を行った。
<処理工程>
▲1▼脱脂:アルカリ脱脂
市販の脱脂剤(登録商標 ファインクリーナー4360,日本パーカライジング(株)製)濃度20g/L、温度60℃、浸漬10分にて脱脂した。
▲2▼水洗
水道水、室温、浸漬1分にて水洗した。
▲3▼化成処理
市販のリン酸亜鉛化成処理剤(登録商標 パルボンド181X 日本パーカライジング(株)製)濃度90g/L,温度80℃、浸漬10分にて処理した。
【0063】
▲4▼水洗
水道水、室温、浸漬1分にて水洗した。
▲5▼石けん処理
市販の反応石けん潤滑剤(登録商標 パルーブ235 日本パーカライジング(株)製)濃度70g/L、80℃、浸漬5分にて石けん処理を行った。
▲6▼乾燥
80℃、5分の条件にてオーブンを用い乾燥した。
【0064】
以上の試験の結果を表1に示す。表1から明らかなように、本発明の塑性加工用金属材料の表面処理方法を用いた実施例1〜8は簡便な工程により優れた潤滑性を発揮することが分かる。滑り成分(B)/担体成分(A)の比率が本発明の範囲外である比較例1および比較例2は潤滑性が極端に劣っていた。また、特開平4−55030合の発明に対応する比較例3においても潤滑性が極端に劣っていた。比較例4のリン酸塩皮膜に反応石けん処理を行ったものは、本発明と同等の潤滑性を示すが、廃水処理や液管理が必要で簡便な設備では使用できず、反応に伴う廃棄物を生じるために環境負荷が大きい。
【0065】
【表1】
【0066】
【発明の効果】
以上説明してきたように、本発明の塑性加工用金属材料の表面処理方法を用いることにより、極めて優れた潤滑特性を有する複合皮膜を短い簡易的な工程、低コストで、かつ、低環境汚染負荷で形成することができるという優れた効果を奏する。
Claims (14)
- 下記(1)又は(2)の粉末粒子を金属材料の表面に付着させて、該表面に担体成分と滑り成分からなる0.02〜50g/m2の付着量の複合皮膜を形成させることを特徴とする金属材料の塑性加工用表面処理方法:
(1)水に難溶性もしくは不溶性であって、脂肪酸のアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩又は水溶性エステル(以下、「脂肪酸の………水溶性エステル」を「アルカリ石けん等」という)との反応性を有するリン酸多価金属塩を核として、その表面を該リン酸多価金属塩とアルカリ石けん等との反応によって生じた該多価金属の金属石けんの皮膜が被覆してなる粉末粒子(以下、2層粉末粒子という場合がある)又はこの粉末粒子の表面をさらに該アルカリ石けん等の皮膜が被覆してなる粉末粒子(以下、3層粉末粒子という場合がある)、又は(2)(1)の粉末粒子(すなわち2層粉末粒子又は3層粉末粒子)と、石けん、ワックス及び樹脂から選ばれる少なくとも1種の粉末粒子。 - 下記(1)又は(2)の粉末粒子を金属材料の表面に付着させ、ついで該金属材料を外部加熱するか塑性変形させて全体としての粉末粒子の一部を溶融もしくは溶融圧着させて、該表面に担体成分と滑り成分からなる0.02〜50g/m2の付着量の複合皮膜を形成させることを特徴とする金属材料の塑性加工用表面処理方法:
(1)水に難溶性もしくは不溶性であって、脂肪酸のアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩又は水溶性エステル(以下、「脂肪酸の………水溶性エステル」を「アルカリ石けん等」という)との反応性を有するリン酸多価金属塩を核として、その表面を該リン酸多価金属塩とアルカリ石けん等との反応によって生じた該多価金属の金属石けんの皮膜が被覆してなる粉末粒子(以下、2層粉末粒子という場合がある)又はこの粉末粒子の表面をさらに該アルカリ石けん等の皮膜が被覆してなる粉末粒子(以下、3層粉末粒子という場合がある)、又は(2)(1)の粉末粒子(すなわち2層粉末粒子又は3層粉末粒子)と、石けん、ワックス及び樹脂から選ばれる少なくとも1種の粉末粒子。 - 前記粉末粒子の付着を静電粉体付着方法によって行う請求項1又は2記載の方法。
- 前記粉末粒子の付着に先立って、前記金属材料表面をアルカリ洗浄、酸洗浄、サンドブラスト及びショットブラストから選ばれる少なくとも1種の方法により清浄化する請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
- 前記(1)又は(2)の場合であって、前記リン酸多価金属塩中の多価金属が亜鉛、鉄、マンガン、ニッケル、コバルト、カルシウム、アルミニウム及びスズから選ばれる少なくとも1種である請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
- 前記(1)又は(2)の場合であって、前記リン酸多価金属塩がリン酸亜鉛である請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
- 前記(1)又は(2)の場合であって、前記2層粉末粒子又は3層粉末粒子全体に対する金属石けん皮膜の質量比率が1〜30質量%である請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
- 前記(1)又は(2)の場合であって、前記3層粉末粒子全体に対するアルカリ石けん等の皮膜の質量比率が0.1〜5質量%である請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
- 前記(2)の場合であって、前記石けんが脂肪酸のカルシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩及び亜鉛塩から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
- 前記(2)の場合であって、前記ワックスが融点60℃以上の合成ワックスである請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
- 前記(2)の場合であって、前記樹脂がガラス転移点40℃以上の合成樹脂である請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
- 前記(2)の場合であって、前記2層粉末粒子又は3層粉末粒子と石けん、ワックス及び樹脂から選ばれる少なくとも1種との質量比率が1:9〜9:1である請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
- 前記(2)の場合であって、各粉末粒子ごとに付着を行い、その順序が1番目が前記2層粉末粒子又は3層粉末粒子で2番目が石けん、ワックス及び樹脂から選ばれる少なくとも1種の粉末粒子である請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
- 前記各粉末粒子の平均粒子径が0.5〜100μmである請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
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