JP3879591B2 - 圧電アクチュエータ及びその駆動方法 - Google Patents
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Description
【技術分野】
本発明は,高い電界,高い圧縮応力及び広い温度域において使用する圧電アクチュエータおよびその駆動方法に関する。
【0002】
【従来技術】
圧電体を駆動源とした圧電アクチュエータは,正確な変位量を有するので,例えばインジェクタ等の液体噴射装置の弁体を駆動する駆動源などに利用することが検討されている。
従来の圧電体としては,例えば特開平9−55549号公報に示されているように,ABO3型ペロブスカイト構造をしたPZT(ジルコン酸チタン酸鉛)系酸化物が知られている。
【0003】
上記のような圧電体には,組成によって正方晶と菱面体晶とがあり,また,これらの結晶相境界(MPB(モロフォトロピック・フェイズ・バウンダリー))も存在することがわかっている。MPB上においては,誘電率,圧電歪定数等の圧電特性が最大となることも知られている。
【0004】
そして,上記特開平9−55549号公報には,低温では正方晶と菱面体晶の結晶相境界(MPB)近傍で,これより高温では正方晶となるような材料を選定することにより,温度に対する変位や誘電率の温度依存性を小さくすることができるとの記載がある。これによれば,低電界,低圧縮応力下においては,温度特性を改善することができる。
【0005】
【解決しようとする課題】
しかし,近年のアクチュエータには,高い電界,高い圧縮応力及び広い温度域において,変位の変化が小さいことが求められており,上記従来技術のみでは,ニーズを満足することが出来ない。
【0006】
本発明はかかる従来の問題点に鑑みてなされたもので,温度,電界,圧縮応力という使用条件の範囲が広い場合においても,変位の変化が小さい圧電アクチュエータ及びその駆動方法を提供しようとするものである。
【0007】
【課題の解決手段】
第1の発明は,電圧の印加により変位を生ずる圧電体を駆動源として用いる圧電アクチュエータであって,
上記圧電体は,使用する際の最低温度,最低電界,最大圧縮応力という条件下において,結晶構造が,正方晶と菱面体晶との結晶相境界(MPB)よりも実質的に正方晶側にあり,
インジェクタの駆動源として用いるよう構成してあることを特徴とする圧電アクチュエータにある(請求項1)。
【0008】
本発明の圧電アクチュエータにおいては,上記特定の条件において特定の結晶構造を有する圧電体を駆動源として用いる。すなわち,圧電アクチュエータを使用する温度範囲における最低温度,使用する電界範囲における最低電界,使用する圧縮応力範囲における最大圧縮応力という,3つの特定の条件を備えた状態において,上記圧電体の結晶構造を規定する。
【0009】
規定する圧電体の結晶構造としては,上記のごとく,正方晶と菱面体晶との結晶相境界(MPB)よりも実質的に正方晶側にある結晶構造とする。これにより,上記圧電アクチュエータは,その使用温度,電界,圧縮応力が変化しても,常に圧電体の結晶構造が菱面体晶へ変化することがなく,常に正方晶の状態が維持される。また,上記圧電体においては,正方晶の方が菱面体晶よりも信頼性に優れている。
【0010】
そのため,上記圧電体は,圧電アクチュエータの温度,電界,圧縮応力という使用条件が変化しても,結晶構造が変化することがなく正方晶のままであり,比較的安定した特性を維持することができる。
また,本発明では,上記3つの特定の条件を備えた状態において,上記圧電体の結晶構造を正方晶と菱面体晶との結晶相境界(MPB)に近く,しかもMPBよりも実質的に正方晶側にあるように設定する。これにより,使用条件が変化しても,比較的MPBに近い状態の正方晶が維持され,圧電体の特性を良好な状態に維持することができる。
【0011】
したがって,本発明によれば,温度,電界,圧縮応力という使用条件の範囲が広い場合においても,変位の変化が小さい圧電アクチュエータを得ることができる。
【0012】
次に,第2の発明は,電圧の印加により変位を生ずる圧電体を駆動源として利用する圧電アクチュエータを駆動する方法であって,
該圧電アクチュエータは,インジェクタの駆動源として用いるよう構成してあり,
上記圧電体は,使用する際の最低温度,最低電界,最大圧縮応力という条件下において,結晶構造が,正方晶と菱面体晶との結晶相境界(MPB)よりも実質的に正方晶側にあるよう構成しておき,
上記圧電体を,上記最低温度以上,上記最低電界以上,上記最大圧縮応力以下という条件下において駆動させることを特徴とする圧電アクチュエータの駆動方法にある(請求項9)。
【0013】
本発明の圧電アクチュエータの駆動方法においては,上記のごとく,圧電アクチュエータを使用する際の3つの特定の条件を備えた状態において,上記特定の結晶構造を有する圧電体を使用する。そして,上記圧電体を,上記最低温度以上,上記最低電界以上,上記最大圧縮応力以下という条件下において駆動させることにより,圧電体は常に正方晶の結晶構造を維持することができる。
【0014】
また,使用条件が変化しても,比較的MPBに近い状態の正方晶が維持され,圧電体の特性を良好な状態に維持することができる。そのため,この駆動方法によれば,温度,電界,圧縮応力という使用条件の範囲が広い場合においても,駆動する圧電体の変位の変化を小さくすることができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
上記第1の発明(請求項1)において,上記圧電体は,ABO3型ペロブスカイト構造を有するPZT系酸化物であることが好ましい(請求項2)。
上記PZT(PbZrxTiyO3,x+y=1,x>0,y>0)系材料においては,MPBにて,誘電率その他の特性が最大の値を示すことが知られている。PZT材料の結晶構造はABO3型のペロブスカイト型構造をしており,A,Bサイトの構成元素の種類及ぴ量,比率によりMPB近傍の材料とすることができるが,Bサイトを構成するZrとTiのモル比率(Zr/Ti比)を調整することが最も一般的である。
【0016】
通常,MPB近傍組成という場合,室温,低電界,無応力下で正方晶と菱面体晶とが共存する組成のことをいい,変位等のZr/Ti比依存性をグラフ化した場合に,極大値となるZr/Ti比のプラスマイナス1割以内を意味する。すなわち,変位等が極大値となるZr/Ti比よりも,Zr/Ti比が小さい組成を実質的に正方晶側という。
室温,低電界,無応力下でMPB近傍となるように材料組成を決定しても,電界や圧縮応力によりMPB近傍となるZr/Ti比が変化することが実験により見出された。
【0017】
本発明では,上記のごとく,使用条件としての温度,電界,圧縮応力を全て考慮に入れ,PZTの材料組成を決定することで,使用環境条件内で,変位の変化が極めて小さい圧電体が得られ,それを用いた優れた圧電アクチュエータを得ることができる。
【0018】
また,上記圧電アクチュエータを使用する温度範囲が−40〜200℃であることが好ましい(請求項3)。この温度範囲をカバーできれば,圧電アクチュエータの使用範囲を殆ど網羅することができる。−40℃以上が一般的な圧電アクチュエータの使用温度である。一方,200℃を超える場合には,PZT系酸化物のキュリー温度に近づいてしまい,変位が低下するという問題がある。
【0019】
また,上記圧電アクチュエータを使用する圧縮応力範囲が0より大きく40MPa以下であることが好ましい(請求項4)。圧縮応力範囲の最大値は,一般的な使用においては40MPaで十分である。
【0020】
また,上記圧電アクチュエータを使用する電界範囲は,使用する温度における負の抗電界から4kV/mmの範囲であることが好ましい(請求項5)。
ここで,抗電界について簡単に説明すると,分極した圧電体に,分極時とは逆の方向に電界Eを印加すると,減極が生じる。そして,分極=0となるときの負の電界Eを負の抗電界Ecと呼ぶ。
【0021】
そして,このようにして求められる負の抗電界を用いて圧電アクチュエータを使用する電界範囲を示すと,上記のごとく,使用する温度における負の抗電界から4kV/mmの範囲であることが好ましい。電界範囲が使用する温度における負の抗電界よりも低い場合には,減極により圧電アクチュエータの変位が低下するという問題がある。一方,4kV/mmを超える場合には,材料の歪みにより発生する応力が大きくなり,例えば一体焼成型圧電アクチュエータの場合には破壊に至る場合もある。
【0022】
また,上記圧電アクチュエータを使用する温度範囲は,−40℃〜PZT系酸化物のキュリー温度であることが好ましい(請求項6)。上記のごとく,使用する温度の下限値は−40℃が一般的である。一方,キュリー温度を超える場合には結晶構造が立方晶となり,変位が激減するという問題がある。
【0023】
また,上記圧電アクチュエータを使用する圧縮応力範囲が0より大きく40MPa以下であることが好ましい(請求項7)。圧縮応力範囲の最大値は,一般的な使用においては40MPaで十分である。
【0024】
また,上記圧電アクチュエータを使用する電界範囲は,0〜4kV/mmの範囲とすることもできる(請求項8)。この場合,電界範囲が0kV/mm以上の条件で使用することにより,減極されることがなくなり,また,駆動中に絶えず分極されるため,PZT系酸化物のキュリー温度付近まで使用することができる。一方,4kV/mmを超える場合には,上記と同様に,材料の歪みにより発生する応力が大きくなり,例えば一体焼成型圧電アクチュエータの場合には破壊に至る場合もある。
【0025】
また,上記第2の発明(請求項9)においても,上記圧電体は,ABO3型ペロブスカイト構造を有するPZT系酸化物であることが好ましい(請求項10)。
そして上記と同様の理由により,上記圧電アクチュエータを使用する温度範囲は,−40〜200℃であることが好ましい(請求項11)。
【0026】
また,上記圧電アクチュエータを使用する圧縮応力範囲は,上記圧電アクチュエータを使用する圧縮応力範囲が0より大きく40MPa以下であることが好ましい(請求項12)。
また,上記圧電アクチュエータを使用する電界範囲は,上記と同様の理由により,使用する温度における負の抗電界から4kV/mmの範囲であることが好ましい(請求項13)。
【0027】
また,上記圧電アクチュエータを使用する温度範囲は,上記と同様の理由により,−40℃〜PZT系酸化物のキュリー温度であることが好ましい(請求項14)。上記のごとく,使用する温度の下限値は−40℃が一般的である。一方,キュリー温度を超える場合には結晶構造が立方晶となり,変位が激減するという問題がある。
【0028】
また,上記圧電アクチュエータを使用する圧縮応力範囲が0より大きく40MPa以下であることが好ましい(請求項15)。
圧縮応力範囲の最大値は,一般的な使用においては40MPaで十分である。
【0029】
また,上記圧電アクチュエータを使用する電界範囲が,0〜4kV/mmの範囲とすることもできる(請求項16)。この場合,電界範囲が0kV/mm以上の条件で使用することにより,減極されることがなくなり,また,駆動中に絶えず分極されるため,PZT系酸化物のキュリー温度付近まで使用することができる。一方,4kV/mmを超える場合には,上記と同様に,材料の歪みにより発生する応力が大きくなり,例えば一体焼成型圧電アクチュエータの場合には破壊に至る場合もある。
【0030】
【実施例】
(実施例1)
本例では,上記圧電体としてPZT系のABO3型ペロブスカイト化合物を用いた場合に,使用する際の最低温度,最低電界,最大圧縮応力という条件下において,結晶構造が,正方晶と菱面体晶との結晶相境界(MPB)よりも実質的に正方晶側にある状態となる組成を求めた。
【0031】
まず,ABO3型ペロブスカイト構造のPZT結晶において,AサイトのPb位置をSr=9mol%置換し,Bサイトの(Zr,Ti)位置を(Y:1/2,Nb:1/2)=1モル%置換し,Zr/Ti(モル比)を変更したPZTを作製する。
【0032】
Zr/Ti(モル比)は,48/52,49/51,50/50,51/49,52/48,53/47,54/46,55/45,56/44,57/43の10種類とする。
そして,これらのペロブスカイト組成物にMnをMn2O3換算で0.2wt%添加してなる材料となるように,原料粉末であるPbO,SrCO3,ZrO2,TiO2,Y2O3,Nb2O5,Mn2O3を秤量した。そしてこれらの原料を湿式ボールミル等により混合した後,この混合物を700〜900℃で1〜5時間,仮焼成を行なった。
【0033】
得られた仮焼成物をボールミル等で粉砕し,その後,水,ポリビニルアルコール等の粘着剤を加えてさらに混合し,スプレードライヤ等の装置により造粒した。得られた造粒粉を300〜1000kgf/cm2の圧力で加圧成形した後,1000〜1200℃で0.5〜4時間,本焼成を行なって圧電体としての焼成体を得た。
【0034】
得られた各焼成体を,直径10mm,厚さ0.2mmの円板に加工し,両端面に,周知の方法で銀等の導電性物質よりなる電極を形成した。
さらにこの円板に20〜150℃の温度で2〜4kV/mmの電圧を10〜60分間印加して分極処理を行なった。
【0035】
その後,24時間放置し,0〜40MPaの圧縮応力,0〜200V(1kV/mm)のバイアス電圧,0〜200℃の温度を印加した状態で静電容量を測定した。
ここで,静電容量はインピーダンスアナライザにより周波数1kHz(sin波),振幅±1Vにて測定した。
測定結果を図1,図2に示す。
【0036】
図1は,横軸に温度(℃),縦軸にZr(mol%)をとり,圧縮応力は0MPa一定にしておき,各温度にて,3種類のバイアス電圧を印加した場合に静電容量が極大値となるZrのモル%をプロットしたものである。
図2は,横軸に温度(℃),縦軸にZr(mol%)をとり,電圧は0V一定にしておき,各温度にて,3種類の圧縮応力を負荷した場合に静電容量が極大値となるZrのモル%をプロットしたものである。
【0037】
図1より知られるごとく,バイアス電界を高くすると,MPBとなるZr量は多い方にシフトする。
また,図2より知られるごとく,圧縮応力が高くなると,MPBとなるZr量は少ない方にシフトすることがわかった。
【0038】
また,図1,図2より知られるごとく,圧縮応力,バイアス電界の値に関わらず,温度が高くなると,正方晶と菱面体晶との結晶相境界(MPB)となるZr量は多い方にシフトすることがわかった。
以上のことから,使用条件下で常にMPBより正方晶側(MPBよりもZrモル量が少ない領域)の結晶構造をとるためには,使用する最低温度,最低電圧,最大圧縮応力という条件下でMPB近傍となる組成にすれば良いことが分かる。
【0039】
ここで,MPBよりも正方晶側が良い理由を簡単に説明する。
PZT系酸化物よりなる圧電アクチュエータ(以下,適宜PZTアクチュエータという)を駆動する場合,自己発熱が問題となる。PZTアクチュエータが変位するのは,逆圧電効果と分域回転効果のためであり,自己発熱の原因となるのは後者である。この分域回転効果が出現し始める電界は上述した抗電界近傍であり,自己発熱抑制のためには,この抗電界がゼロから離れている程好ましい。PZTが圧電効果を発現するのは,その結晶構造が正方晶か菱面体晶のいずれかである場合であり,一般に正方晶は菱面体晶の約2倍のEcを示す。そのため,PZTの結晶構造としては,常に菱面体晶であるよりも常に正方晶である方が望ましいのである。
【0040】
(実施例2)
本例では,使用温度が−40〜200℃の範囲,圧縮応力範囲が0〜40MPaの範囲,電界範囲が使用最低温度における0〜4kV/mmの範囲であることを想定し,これに最適な圧電アクチュエータを作製した。
すなわち,本例の圧電アクチュエータ1は,図3に示すごとく,電圧の印加により変位を生ずる圧電体11を駆動源として用いる圧電アクチュエータである。上記圧電体11は,使用する際の最低温度,最低電界,最大圧縮応力という条件下において,結晶構造が,正方晶と菱面体晶との結晶相境界(MPB)よりも実質的に正方晶側にある。
【0041】
上記圧電体11としては,使用最低温度−40℃で,使用最低のパイアス電界0kV/mmを,最大圧縮応力40MPa下で印加した状態でMPB近傍となる組成のPZTを作製して適用した。
上記PZTは,AサイトのPb位置をSr=9mol%置換し,Bサイトの(Zr,Ti)位置を(Y:1/2,Nb:1/2)=1モル%置換し,Zr/Ti(モル比)=53/47としたものである。そして,さらに,これらのペロブスカイト組成物にMnをMn2O3換算で0.2wt%添加した。
【0042】
この組成のPZTを,実施例1と同様の工程により,直径10mm,厚さ0.2mmの板状に加工した。
そして,図3に示すごとく,このPZTよりなる圧電体11と,内部電極層21,22とを交互に積層してなるセラミック積層体10と,その側面に配設された側面電極3および外部電極4とよりなる圧電アクチュエータ1を作製した。具体的な作製方法は種々の方法を取ることができる。そして,本例では,圧電体11の形状が樽形形状となる構造を採用した。これを試料E2とする。
【0043】
本例では,比較のために,温度20℃,低電界,無応力下でMPB近傍となる組成のPZT及びこれを用いて上記と同様に組み上げた積層型の圧電アクチュエータを準備した(試料C1とする)。試料C1におけるPZTの具体的組成は,Pbの位置をSr=9mo1%置換し,Bサイトの(Zr,Ti)位置を(Y:1/2,Nb1/2)=1モル%置換し,Zr/Ti(モル比)=51.5/48.5とし,さらに,これらのペロブスカイト組成物にMnをMn2O3換算で0.2wt%添加下ものである。
【0044】
次に,本例では,上記試料E2,試料C1について,−40℃〜165℃の温度値囲,圧縮応力:40MPa,電界:0〜2kV/mm,周波数:0.1Hzにおける変位を測定した。
その結果を図4に示す。同図は,横軸に温度(℃),縦軸に変位(μm)を取ったものである。
【0045】
同図より知られるごとく,本発明の実施例である試料E2は,比較例である試料C1の場合に比べて,温度変化があっても変位の変化が少なく,温度特性が平坦化して良好となることがわかった。
【0046】
(実施例3)
本例は,実施例2における圧電アクチュエータ1を適用可能なインジェクタについて説明する。
本例で示すインジェクタ5は,図5に示すごとく,ディーゼルエンジンのコモンレール噴射システムに適用したものである。
このインジェクタ5は,同図に示すごとく,駆動部としての上記圧電アクチュエータ1が収容される上部ハウジング52と,その下端に固定され,内部に噴射ノズル部54が形成される下部ハウジング53を有している。
【0047】
上部ハウジング52は略円柱状で,中心軸に対し偏心する縦穴521内に,圧電アクチュエータ1が挿通固定されている。
縦穴521の側方には,高圧燃料通路522が平行に設けられ,その上端部は,上部ハウジング52上側部に突出する燃料導入管523内を経て外部のコモンレール(図略)に連通している。
【0048】
上部ハウジング52上側部には,また,ドレーン通路524に連通する燃料導出管525が突設し,燃料導出管525から流出する燃料は,燃料タンク(図略)へ戻される。
ドレーン通路524は,縦穴521と圧電アクチュエータ1との間の隙間50を経由し,さらに,この隙間50から上下ハウジング52,53内を下方に延びる図示しない通路によって後述する3方弁551に連通してしる。
【0049】
噴射ノズル部54は,ピストンボデー531内を上下方向に摺動するノズルニードル541と,ノズルニードル541によって開閉されて燃料溜まり542から供給される高圧燃料をエンジンの各気筒に噴射する噴孔543を備えている。燃料溜まり542は,ノズルニードル541の中間部周りに設けられ,上記高圧燃料通路522の下端部がここに開口している。ノズルニードル541は,燃料溜まり542から開弁方向の燃料圧を受けるとともに,上端面に面して設けた背圧室544から閉弁方向の燃料圧を受けており,背圧室544の圧力が降下すると,ノズルニードル541がリフトして,噴孔543が開放され,燃料噴射がなされる。
【0050】
背圧室544の圧力は3方弁551によって増減される。3方弁551は,背圧室544と高圧燃料通路522,またはドレーン通路524と選択的に連通させる構成である。ここでは,高圧燃料通路522またはドレーン通路524へ連通するポートを開閉するボール状の弁体を有している。この弁体は,上記駆動部1により,その下方に配設される大径ピストン552,油圧室553,小径ピストン554を介して,駆動される。
【0051】
このような構造のインジェクタ5は,ディーゼルエンジンを備えた自動車等に配設され,広い温度域において使用される。また,このインジェクタ5における圧電アクチュエータ1の変位精度はディーゼルエンジンの性能に大きく影響するので,どの温度域においても正確であることが望まれている。
これに対し,上記実施例2の圧電アクチュエータ1は,インジェクタ用として最適であり,優れた特性を発揮し,インジェクタ5の性能向上に大きく貢献することができる。
【0052】
なお,実施例2,3においては,断面が樽形の圧電アクチュエータを示したが,図6に示すごとく,断面形状を八角形とすることももちろん可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1における,温度とバイアス電圧を変化させた場合のMPBにおけるZr量を示す説明図。
【図2】実施例1における,温度と圧縮応力を変化させた場合のMPBにおけるZr量を示す説明図。
【図3】実施例2における,圧電アクチュエータの構造を示す説明図。
【図4】実施例2における,温度に対する変位の変化を示す説明図。
【図5】実施例3における,インジェクタの構造を示す説明図。
【図6】実施例2,3における圧電アクチュエータの形状を変更した例を示す説明図。
【符号の説明】
1...圧電アクチュエータ,
11...圧電体,
21,22...内部電極層,
3...側面電極,
Claims (16)
- 電圧の印加により変位を生ずる圧電体を駆動源として用いる圧電アクチュエータであって,
上記圧電体は,使用する際の最低温度,最低電界,最大圧縮応力という条件下において,結晶構造が,正方晶と菱面体晶との結晶相境界(MPB)よりも実質的に正方晶側にあり,
インジェクタの駆動源として用いるよう構成してあることを特徴とする圧電アクチュエータ。 - 請求項1において,上記圧電体は,ABO3型ペロブスカイト構造を有するPZT系酸化物であることを特徴とする圧電アクチュエータ。
- 請求項2において,上記圧電アクチュエータを使用する温度範囲が−40〜200℃であることを特徴とする圧電アクチュエータ。
- 請求項2又は3において,上記圧電アクチュエータを使用する圧縮応力範囲が0より大きく40MPa以下であることを特徴とする圧電アクチュエータ。
- 請求項2〜4のいずれか1項において,上記圧電アクチュエータを使用する電界範囲が,使用する温度における負の抗電界から4kV/mmの範囲であることを特徴とする圧電アクチュエータ。
- 請求項2において,上記圧電アクチュエータを使用する温度範囲が,−40℃〜PZT系酸化物のキュリー温度であることを特徴とする圧電アクチュエータ。
- 請求項2又は6において,上記圧電アクチュエータを使用する圧縮応力範囲が0より大きく40MPa以下であることを特徴とする圧電アクチュエータ。
- 請求項2,6,7のいずれか1項において,上記圧電アクチュエータを使用する電界範囲が0〜4kV/mmの範囲であることを特徴とする圧電アクチュエータ。
- 電圧の印加により変位を生ずる圧電体を駆動源として利用する圧電アクチュエータを駆動する方法であって,
該圧電アクチュエータは,インジェクタの駆動源として用いるよう構成してあり,
上記圧電体は,使用する際の最低温度,最低電界,最大圧縮応力という条件下において,結晶構造が,正方晶と菱面体晶との結晶相境界(MPB)よりも実質的に正方晶側にあるよう構成しておき,
上記圧電体を,上記最低温度以上,上記最低電界以上,上記最大圧縮応力以下という条件下において駆動させることを特徴とする圧電アクチュエータの駆動方法。 - 請求項9において,上記圧電体は,ABO3型ペロブスカイト構造を有するPZT系酸化物であることを特徴とする圧電アクチュエータの駆動方法。
- 請求項10において,上記圧電アクチュエータを使用する温度範囲が−40〜200℃であることを特徴とする圧電アクチュエータの駆動方法。
- 請求項10又は11において,上記圧電アクチュエータを使用する圧縮応力範囲が0より大きく40MPa以下であることを特徴とする圧電アクチュエータの駆動方法。
- 請求項10〜12のいずれか1項において,上記圧電アクチュエータを使用する電界範囲が,使用する温度における負の抗電界から4kV/mmの範囲であることを特徴とする圧電アクチュエータの駆動方法。
- 請求項10において,上記圧電アクチュエータを使用する温度範囲が,−40℃〜PZT系酸化物のキュリー温度の範囲であることを特徴とする圧電アクチュエータの駆動方法。
- 請求項10又は14において,上記圧電アクチュエータを使用する圧縮応力範囲が0より大きく40MPa以下であることを特徴とする圧電アクチュエータの駆動方法。
- 請求項10,14,15のいずれか1項において,上記圧電アクチュエータを使用する電界範囲が,0〜4kV/mmの範囲であることを特徴とする圧電アクチュエータの駆動方法。
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