JP3878303B2 - 耐久性に優れたダイヤモンドソー用基板及びダイヤモンドソーの製造方法 - Google Patents

耐久性に優れたダイヤモンドソー用基板及びダイヤモンドソーの製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、耐久性に優れたダイヤモンドソー用基板及びダイヤモンドソーの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
道路工事、建材等として使用される石材、コンクリート、アスファルト、レンガ、ガラス、鋳鉄管の切断や、半導体、磁性材料、セラミックス等の精密部材の切断にダイヤモンドソーが使用されている。ダイヤモンドソーは、金属基板に砥粒層を接合することにより製造される。
金属基板としては、JISに規定されているSK5等の炭素工具鋼、SKS5等の合金工具鋼、SCM435等の機械構造用合金鋼が多用されており、また特殊用途や高級品用途にはステンレス鋼が一部用いられている。砥粒層は、ダイヤモンド砥粒とCu、Ni、Co等の非鉄金属系粉末結合剤を混合した圧粉成形体を焼結することにより製造される。砥粒層と金属基板との接合には、ろう付けやレーザ溶接による方法、金属基板と砥粒層とを同時に加熱(焼結)して拡散接合する方法等が採用されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ろう付け、レーザ溶接等で金属基板に砥粒層を接合するとき、金属基板に焼入れ・焼戻し等の熱処理を施して硬さを上げることにより、金属基板の強度を確保している。しかし、金属基板と砥粒層との接合界面近傍では、ろう付けレーザ溶接時の熱影響で金属基板が軟質化又は脆化するため、ダイヤモンドソーの耐久性が劣化する傾向がある。
他方、金属基板に砥粒層を拡散接合する方法では、砥粒層を含めてダイヤモンドソー全体が焼結炉内で加熱されるため、金属基板の全体が熱影響を受ける。たとえば、焼結時の加熱温度がAC1変態点に近くなると金属基板の軟質化が促進され、硬さレベルが大幅に低下する。また、 AC1変態点を超える温度に金属基板が加熱されると、加熱状態から冷却される段階で冷却速度によっては焼結前の金属基板よりも硬さレベルが低下し、或いは組織変化によって硬さレベルが部分的に増加することがある。
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、 鋼基板と砥粒層とを同時に焼結して拡散接合するダイヤモンドソーの製造において、鋼基板のAC1変態点以下の昇温による硬さの低下が小さくなる成分設計及び金属組織を採用することにより、強度、靱性、耐久性等が高レベルに安定維持されるダイヤモンドソーを提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、その目的を達成するため、ダイヤモンド砥粒層が接合されるダイヤモンドソーの基板として使用される鋼基板であって、C:0.4〜0.8重量%、Si:0.1〜1.5重量%、Mn:0.5重量%以下、Ni:0.5重量%以下、Cr:1.0〜3.0重量%、Mo:0.1〜1.5重量%、V:0.01〜1.0重量%、P:0.015重量%以下、S:0.010重量%以下、N:0.002〜0.010重量%、O:0.010重量%以下、酸可溶Al:0.01〜0.10重量%、残部が実質的にFeの組成をもち、 AC1変態点が740℃以上であり、金属組織が焼戻しマルテンサイト組織であり、ビッカース硬さが280〜400HVであることを特長とする。
鋼基板は、更にCu:0.05〜0.3重量%、Nb:0.01〜0.3重量%、Ti:0.01〜0.3重量%の1種又は2種以上を含むことができる。
鋼基板にダイヤモンド砥粒層を配置した後、650℃〜鋼基板のAC1変態点の温度域に3〜180分保持することによりダイヤモンド砥粒層を焼結すると共にダイヤモンド砥粒層を鋼基板に拡散接合し、室温まで放冷することによりダイヤモンドソーが製造される。使用される鋼基板としては、焼結前の反り量が300mm長さ当り1.0mm以下のものが好ましい。
【0005】
【発明の実施の形態】
本発明で使用される鋼基板は、焼結時の加熱温度が鋼基板のAC1変態点以下の場合に加熱による硬さの低下が少ない成分設計及び金属組織を採用している。すなわち、 AC1変態点を従来の鋼基板より上昇させて焼結温度範囲を広く設定できるようにし、鋼基板の金属組織を特殊炭化物を析出させた焼戻しマルテンサイト組織として焼結時の焼戻し軟化を抑制するように、各合金成分を定量的に定めている。
以下、本発明に従った鋼基板に含まれる合金成分、含有量、金属組織等を説明する。
【0006】
C:0.4〜0.8重量%
硬さを確保する上で有効な合金成分であり、焼結時に加熱される鋼基板の強度を確保する。このような作用は、0.4重量%以上のC含有量で顕著になる。 しかし、0.8重量%を超える多量のCが含まれると、靱性が劣化し易い。
Si:0.1〜1.5重量%
焼結時に加熱される鋼基板の強度を確保する作用を呈し、鋼基板のAC1変態点を上昇させて焼結温度範囲を広く設定できるように0.1重量%以上添加する。Siは、脱酸剤としても有効な成分である。しかし、1.5重量%を超える多量のSiが含まれると、鋼基板の内部酸化や脱炭が生じ易くなり、熱間圧延、熱処理等の基板製造過程で黒鉛化の問題が生じる。
【0007】
Mn:0.5重量%以下
鋼の焼入れ性を向上させる合金成分であり、焼結に供する鋼基板の熱処理を容易にする。しかし、鋼基板のAC1変態点を下げて焼結温度範囲を狭くし、MnS等の非金属介在物や縞状組織を形成して鋼基板の靱性を低下させるので上限を0.5重量%とする。
Ni:0.5重量%以下
フェライトに固溶して鋼の靱性を高める働きがある。しかし、
C1変態点を下げて焼結温度範囲を狭くするので上限を0.5重量%とする。
Cr:1.0〜3.0重量%
Si添加に起因する黒鉛化や内部酸化を抑制すると共に、Mnと同様に鋼基板の焼入れ性を向上させる。また、焼結時に加熱される鋼基板の強度を確保する作用を呈し、鋼基板のAC1変態点を上昇させて焼結温度範囲を広く設定できるように1.0重量%以上添加する。しかし、3.0重量%を超える多量のCrを含ませてもこのような効果は飽和し、鋼基板の靱性が低下する。
(以下余白)
【0008】
Mo:0.1〜1.5重量%
Mn,Cr等の添加により焼入れ性は向上するものの、靱性が劣化し易い。そこで、本発明にあっては、0.1重量%以上のMoを添加することにより靱性の劣化を抑制している。しかし、1.5重量%を超える多量のMoが含まれると、却って靱性が低下する。
V:0.01〜1.0%
炭化物を形成しオーステナイト結晶粒を微細化することで鋼基板の強度、靱性を向上させるために0.01%以上添加する。1.0重量%を超えて添加してもこのような効果は飽和し、却って強度、靱性が劣化し易くなる。
【0009】
P:0.015重量%以下
鋼基板の結晶粒界に偏析して靱性が劣化し易いので、できるだけ少ない方が望ましいが、製造コストを上昇させる原因となるので上限を0.015重量%とした。
S:0.010%以下
MnS等の非金属介在物を形成して鋼基板の強度、靱性、打抜き加工性が劣化し易くなる。また、MnSは基板用の熱延鋼板圧延中に圧延方向に展伸するため鋼基板の強度や靱性に異方性が生じ易くなる。以上のことから上限を0.010重量%とした。
【0010】
N:0.002〜0.010重量%
V,Al,Ti,Nb等と窒化物や炭窒化物を形成しオーステナイト結晶を微細化させ鋼基板の強度、靱性を向上させるために0.002重量%以上添加する。0.010重量%を超えて添加してもこのような効果は飽和し、却って強度、靱性が劣化し易くなる。
O:0.010重量%以下
酸化物系の非金属介在物を形成し鋼基板の靱性を低下させるので上限を0.010重量%とする。
酸可溶Al:0.01〜0.10重量%
鋼の脱酸剤として添加される成分であり、鋼中のNと結合してAlNを形成する。AlNは、鋼基板の熱処理時にオーステナイト結晶粒の粗大化を抑制する作用を呈し、鋼基板の靱性劣化を防止する。このような効果は0.01重量%以上のAl添加で顕著になる。しかし、0.10重量%を超える多量のAlを添加すると、製造コストが上昇するばかりでなく、圧延時、加工時等に表面疵が発生し易くなる。
【0011】
Cu:0.05〜0.3重量%
Si,Mn,Cr,Mo等と同様に鋼基板の焼入れ性を向上させるために0. 05重量%以上添加するが、0.3重量%を超えるとこのような効果は飽和し、 製造コストも上昇する。
Nb:0.01〜0.3重量%、Ti:0.01〜0.3重量%
Nb,Tiは炭化物を形成しオーステナイト結晶粒を微細化することで鋼基板の強度、靱性を向上させるために0.01%以上添加する。0.3重量%を超えて添加してもこのような効果は飽和し、却って強度、靱性が劣化し易くなる。
【0012】
鋼基板のAC1変態点:740℃以上
従来使用されている鋼基板のAC1変態点720〜730℃に対し、740℃以上になるように成分設計するので焼結時の加熱温度範囲が広くなり適正な焼結条件を設定することができる。
鋼基板の金属組織:焼戻しマルテンサイト組織
焼結時の鋼基板の軟化を抑制して強度と靱性を確保するのに有効な組織であり、フェライト、パーライト、ベイナイト等の組織を含むと強度が低下したり、 靱性が劣化し易くなる。
鋼基板の硬さ:ビッカース硬さで280〜400HV
従来使用されている鋼基板の硬さ水準は、ビッカース硬さで250HV程度である。 AC1変態点以下の焼結で強度、靱性を確保するために加熱温度に応 じてビッカース硬さを280〜400HVに設定する。しかし、鋼基板の硬さ が400HVを超えると靱性が劣化し易くなる。
【0013】
このように成分設計された鋼は、鋳片を熱間圧延した後、酸洗、冷間圧延、焼鈍工程を経て、打抜き等の加工により所定寸法をもつ鋼基板に製造される。鋼基板に砥粒層を接合するに際しては、鋼基板に対する砥粒層の接合強度を高めるため、予め鋼基板の外周部に機械加工を施し、或いはCuめっき等を施すことができる。
【0014】
焼結条件:650℃〜鋼基板のAC1変態点で3〜180分
本発明に従ったダイヤモンドソーは、鋼基板と砥粒層とを拡散接合することにより製造される。砥粒には、ダイヤモンドの他にCBN(立方晶窒化硼素)等を使用することもできる。結合剤には、青銅,Co,Fe,W等の金属を主成分としたメタルボンドやフェノール,ポリイミド等の樹脂を主成分としたレジンボンドがある。これらの砥粒と結合剤との混合粉末は圧粉されると共に、鋼基板の外周部に接触した状態で治具により固定される。
砥粒層が設けられた鋼基板は、AC1変態点以下の温度域で加熱されても十分 な強度、靱性をもつダイヤモンドソーとなるように成分及び組織設計がされているので、拡散接合で十分な接合強度が得られるように焼結温度を650℃〜AC1変態点の範囲に設定できる。焼結時の加熱温度が650℃に達しないと、或いは3分に満たない短時間加熱では、鋼基板と砥粒層との間の接合強度が十分でない。また、AC1変態点を超える加熱では、鋼基板の焼戻しマルテンサイト組織に軟質なフェライト組織やパーライト組織が生成して強度、靱性が低下し、180分を超える長時間加熱では、接合強度の上昇が飽和する。
焼結前の鋼基板の反り量:300mm長さ当り1.0mm以下
焼結前の基板反り量は、砥粒層との接合強度に影響を及ぼし、300mm長さ当り1.0mm以下(好ましくは300mm長さ当り0.6mm以下)の反り量にすると鋼基板と砥粒層との接合強度が上昇し、ダイヤモンドソーの耐久性が更に向上する。反り量が大きくなると砥粒層を接合できないこともあり、300mm長さ当り1.0mmを超える反り量があると接合強度の低下が顕著になる。
【0015】
【実施例】
実施例1:
表1に示した成分・組成の鋼鋳片を熱間圧延して板厚3.5mmの熱延板にした後、冷間圧延、焼鈍工程を経て板厚1.0mmの焼きなまし鋼板を製造した。各焼きなまし鋼板を打抜き加工し、ダイヤモンドソー用の鋼基板を用意し、900℃に加熱し、油中へ焼入れした後、400℃で焼戻しを行った。熱処理を施した鋼基板には、ダイヤモンド砥粒層と鋼基板との接合強度を高めるために、基板外周部を機械加工してCuめっきを施した。ダイヤモンド砥粒としては粒径40μm以下の人造ダイヤモンドを、結合剤にはメタルボンドを用いた。
【0016】
【表1】
Figure 0003878303
【0017】
鋼基板の外周部にダイヤモンド砥粒層を配置した状態で、基板のAC1変態点以下の温度である700℃に加熱して20分間保持した後、室温まで放冷した。冷却された鋼基板の硬さをビッカース硬さ試験(荷重10kg)で測定し、ダイヤモンドソーの強度を調査した。また、JIS Z2202の4号サブサイズ試験片(Vノッチ)を用いてシャルピー衝撃試験で衝撃値を測定した。
表2の測定結果にみられるように、試験鋼種Gでは、C、Si量が本発明で規程した範囲より低いため、本発明例に従った鋼基板A〜Fと同等以上の衝撃値(靱性)が得られているが、硬さ(強度)が低い値を示した。
【0018】
試験鋼種Hでは、Cr、Mo、V量が本発明で規程した範囲より低いため、本発明例に従った鋼基板A〜Fと同等以上の衝撃値が得られているが、硬さが低い値を示した。
試験鋼種Iでは、C、Si量が本発明で規程した範囲内にあるが、Cr、Mo、V量が本発明で規程した範囲を超えるため、本発明例に従った鋼基板A〜Fと同等以上の硬さが得られるが、P、S、O量が本発明で規程した範囲を超えるため、衝撃値が低下していた。
試験鋼種Jでは、 Si、Cr量が本発明で規程した範囲より低く、Mn、Niが本発明で規程した範囲を超えるため、鋼基板のAC1変態点が加熱温度700℃より低い683℃となり、フェライトやパーライトを含む金属組織となったために本発明例に従った鋼基板A〜Fに比較して硬さ及び衝撃値が低下していた。
【0019】
試験鋼種Kでは、Mn、Cr、Mo、V量は本発明で規程した範囲内であるが、C、Si量が本発明で規程した範囲を超えるため、本発明例に従った鋼基板A〜Fと同等以上の硬さが得られているが、衝撃値が低い値を示した。
試験鋼種Lでは、成分は本発明で規程した範囲内であるが、鋼基板の金属組織がフェライトと球状化炭化物からなる焼きなまし組織であるために本発明例に従った鋼基板A〜Fに比較して硬さ及び衝撃値が低下していた。
これに対し、各合金成分の含有量、変態点、金属組織が本発明で規程した条件を満足する鋼基板A〜Fでは、鋼基板の硬さは300HV以上に確保されており、衝撃値も47J/cm2以上で耐久性に優れることが判る。
【0020】
【表2】
Figure 0003878303
【0021】
実施例2:
表1の試験鋼種Eを鋼基板とし、反り量がそれぞれ異なった基板の外周部にダイヤモンド砥粒層を配置して焼結した。焼結後、鋼基板と砥粒層との接合部に曲げ応力を加え、破断に至ったときのトルクの値で鋼基板に対する砥粒層の接合強度を測定した。
表3の測定結果にみられるように、焼結前の鋼基板の反り量を300mm長さ当り1.0mm以下にした本発明例1〜3では、何れもトルク値が1.8kN・cm以上と高い接合強度を示した。接合強度は、反り量が0.6mm以下の本発明例2,3にみられるように、反り量の低下に応じて大きくなっていることが判る。
これに対し、焼結前に鋼基板に300mm長さ当りあたり1.58mmの反りがある比較例4では低いトルク値を示し、反り量3.21mmの比較例5では更に低いトルク値0.5kN・cmを示した。また、4mmを超える大きな反り量の比較例6では、砥粒層が鋼基板に密着せず、焼結による接合ができなかった。
【0022】
【表3】
Figure 0003878303
【0023】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明で使用されるダイヤモンドソー用鋼基板は、 AC1変態点以下の温度域で硬さの低下が小さくなる成分設計及び金属組織を採用している。そのため、砥粒層を焼結して鋼基板に拡散接合する際に、強度及び靱性に優れたダイヤモンドソーが得られる。

Claims (4)

  1. ダイヤモンド砥粒層が接合されるダイヤモンドソーの基板として使用される鋼基板であって、C:0.4〜0.8重量%、Si:0.1〜1.5重量%、Mn:0.5重量%以下、Ni:0.5重量%以下、Cr:1.0〜3.0重量%、Mo:0.1〜1.5重量%、V:0.01〜1.0重量%、P:0.015重量%以下、S:0.010重量%以下、N:0.002〜0.010重量%、O:0.010重量%以下、酸可溶Al:0.01〜0.10重量%、残部Feおよび不可避的不純物の組成をもち、AC1変態点が740℃以上であり、金属組織が焼戻しマルテンサイト組織であり、ビッカース硬さが280〜400HVである耐久性に優れたダイヤモンドソー用基板。
  2. 鋼基板が更にCu:0.05〜0.3重量%、Nb:0.01〜0.3重量%、Ti:0.01〜0.3重量%の1種又は2種以上を含む請求項1記載の耐久性に優れたダイヤモンドソー用基板。
  3. 請求項1又は2記載の鋼基板にダイヤモンド砥粒層を配置した後、650℃〜鋼基板のAC1変態点の温度域に3〜180分保持することによりダイヤモンド砥粒層を焼結すると共にダイヤモンド砥粒層を鋼基板に拡散接合し、室温まで放冷することを特徴とするダイヤモンドソーの製造方法。
  4. 焼結前の反り量が300mm長さ当り1.0mm以下である鋼基板を使用する請求項3記載のダイヤモンドソーの製造方法。
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