JP3875860B2 - 環境調和性と加工部耐食性及び加工部密着性に優れたプレコート鋼板 - Google Patents
環境調和性と加工部耐食性及び加工部密着性に優れたプレコート鋼板 Download PDFInfo
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Description
【発明が属する技術分野】
本発明は、環境調和性と加工部耐食性及び加工部密着性に優れたプレコート鋼板に関するものである。本発明のプレコート鋼板は、例えば家電製品や建材用途などに好適であり、また自動車用としても使用することができる。
【0002】
【従来の技術】
従来広く使用されているプレコート鋼板は、耐食性を確保するためにクロムを含有する化成処理を施すとともに、下塗り塗膜中にクロム系の防錆顔料を含有させている(例えば、特開平7−316497号)。しかし、昨今では環境保護の観点から毒性の強いクロムを含有しないクロムフリーのプレコート鋼板の開発が要望されている。
【0003】
このような要望に対し、例えば特開平8−319437号公報では、塩基性亜リン酸塩系防錆顔料を下塗り塗膜中に含有させることにより、クロムフリーで且つ耐食性に優れたプレコート鋼板が得られるとしている。また、特開平8−11257号公報では、イソシアネート化合物及びリン酸系防錆顔料を下塗り塗膜中に含有させることにより、耐食性に優れたクロムフリーのプレコート鋼板が得られるとしている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、これら従来のクロムフリープレコート鋼板において高耐食性クロム系プレコート鋼板並みの耐食性を得るためには下塗り塗膜中に多量の防錆添加剤を含有させる必要があり、また、これにより加工を受けない平面部や端面の耐食性は確保されたとしても、加工部の耐食性や塗膜密着性が逆に低下してしまうという問題がある。プレコート鋼板は、加工を受けた後に製品として使用されるため、加工を受けた部分の耐食性や塗膜密着性は非常に重要な特性であると言える。
【0005】
したがって本発明の目的は、このような従来技術の課題を解決し、塗膜中にクロム系防錆顔料を添加しなくても、高耐食性クロム系プレコート鋼板並みの優れた加工部耐食性及び加工密着性が得られる環境調和型のプレコート鋼板を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記の課題を解決し、優れた性能を示すプレコート鋼板を得るために検討を重ねた結果、シリカ微粒子とその結合剤とを含む化成処理皮膜が形成された亜鉛系めっき鋼板の表面に下塗り塗膜を形成し、その上層に特定の防錆添加成分を含有する上塗り塗膜を形成することにより、環境調和性と加工部耐食性及び加工密着性に優れたプレコート鋼板が得られることを見い出した。
【0007】
本発明はこのような知見に基づきなされたもので、その特徴は以下の通りである。
[1]シリカ微粒子とその結合剤とを含む化成処理皮膜が形成された亜鉛系めっき鋼板の表面に、下塗り塗膜が形成され、さらにその上層に上塗り塗膜が形成されたプレコート鋼板であって、
前記上塗り塗膜が、下記 (a) からなる防錆添加成分又は下記 (a) と下記 (b) 〜 (d) の中から選ばれる1種又は2種以上とからなる防錆添加成分を、樹脂固形分100重量部に対して1〜20重量部含有することを特徴とする環境調和性と加工部耐食性及び加工部密着性に優れたプレコート鋼板。
(a)Caイオン交換シリカ
(b)カルシウム化合物
(c)リン酸塩
(d)酸化ケイ素
【0008】
[2]シリカ微粒子とその結合剤とを含む化成処理皮膜が形成された亜鉛系めっき鋼板の表面に、下塗り塗膜が形成され、さらにその上層に上塗り塗膜が形成されたプレコート鋼板であって、
前記上塗り塗膜が、下記 (a) からなる防錆添加成分又は下記 (a) と下記 (b) 〜 (d) の中から選ばれる1種又は2種以上とからなる防錆添加成分と、モリブデン酸塩を、樹脂固形分100重量部に対して合計で1〜20重量部含有することを特徴とする環境調和性と加工部耐食性及び加工部密着性に優れたプレコート鋼板。
(a)Caイオン交換シリカ
(b)カルシウム化合物
(c)リン酸塩
(d)酸化ケイ素
【0009】
[3]上記[1]又は[2]のプレコート鋼板において、下塗り塗膜が、下記 (a) からなる防錆添加成分又は下記 (a) と下記 (b) 〜 (d) の中から選ばれる1種又は2種以上とからなる防錆添加成分を、樹脂固形分100重量部に対して5〜50重量部含有することを特徴とする環境調和性と加工部耐食性及び加工部密着性に優れたプレコート鋼板。
(a)Caイオン交換シリカ
(b)カルシウム化合物
(c)リン酸塩
(d)酸化ケイ素
【0010】
[4]上記[1]又は[2]のプレコート鋼板において、下塗り塗膜が、下記 (a) からなる防錆添加成分又は下記 (a) と下記 (b) 〜 (d) の中から選ばれる1種又は2種以上とからなる防錆添加成分と、モリブデン酸塩を、樹脂固形分100重量部に対して合計で5〜50重量部含有することを特徴とする環境調和性と加工部耐食性及び加工部密着性に優れたプレコート鋼板。
(a)Caイオン交換シリカ
(b)カルシウム化合物
(c)リン酸塩
(d)酸化ケイ素
【0011】
[5]上記[1]〜[4]のいずれかのプレコート鋼板において、上塗り塗膜が、下記イ)及びロ)を含有する塗料組成物を塗布して形成した塗膜であることを特徴とする環境調和性と加工部耐食性及び加工部密着性に優れたプレコート鋼板。イ)ポリエステル樹脂及び/又はアクリル樹脂:樹脂固形分中での割合で40〜90質量%
ロ)硬化剤であるイソシアネート化合物及び/又はアミノ樹脂:樹脂固形分中での割合で9〜50質量%
【0012】
[6]上記[1]〜[5]のいずれかのプレコート鋼板において、下塗り塗膜を形成すべき塗料組成物中の主剤樹脂成分が、ポリエステル樹脂及び/又はエポキシ変性ポリエステル樹脂であることを特徴とする環境調和性と加工部耐食性及び加工部密着性に優れたプレコート鋼板。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の詳細とその限定理由を説明する。
本発明のプレコート鋼板は、特定の成分を含む化成処理皮膜が形成された亜鉛系めっき鋼板の表面に下塗り塗膜を形成し、その上層に特定の防錆添加成分を含む上塗り塗膜を形成した塗装鋼板である。
下地鋼板となる亜鉛系めっき鋼板としては、溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、溶融Zn−Al合金めっき鋼板などの各種亜鉛系めっき鋼板を用いることができる。
【0014】
また、亜鉛系めっき鋼板としては化成処理皮膜との密着性を高めるために、亜鉛系めっきの後に表面調整処理を施したものを用いることができる。この表面調整処理は、酸性処理液、アルカリ性処理液のいずれを使用してもよい。処理方法は、浸漬やスプレーなどにより行うことができる。
【0015】
上記亜鉛系めっき鋼板の表面に形成される化成処理皮膜は、シリカ微粒子(微粉末)とその結合剤とを含む化成処理皮膜である。
上記シリカ微粒子としては、例えば、一次粒径が約1〜100nmの湿式シリカ(コロイダルシリカ)、乾式シリカ(ヒュームドシリカ)の中から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。このようなシリカ微粒子を化成処理皮膜中に配合することにより、化成処理皮膜上層の樹脂皮膜(下塗り塗膜)との密着性、耐スクラッチ性、耐食性を高めることができる。
【0016】
また、上記結合剤としては、例えば水溶性又は水分散性有機高分子、酸素酸塩(但し、クロム酸塩は除く)の中から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。上記水溶性又は水分散性有機高分子としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリビニルアルコールなどを例示できる。また、上記酸素酸塩としては、例えば、リン酸塩、モリブデン酸塩、タングステン酸塩、バナジン酸塩などを例示できる。このような結合剤を化成処理皮膜中に配合することにより、シリカ微粒子同士の結合性(皮膜の耐凝集破壊性)、シリカ微粒子の素地金属との密着性を高めることができる。
【0017】
また、化成処理液には、Zr化合物、Ti化合物、Hf化合物(例えば、フルオロ錯塩など)の1種又は2種以上を添加剤として添加し、それらを化成処理皮膜中に含有させることができる。
シリカ微粒子と結合剤の配合割合は固形分重量比でシリカ微粒子/結合剤=1/0.01〜1/10の範囲とすることが望ましい。シリカ微粒子の配合量:1に対する結合剤の配合割合が0.01未満であると、シリカ微粒子同士の結合性(皮膜の耐凝集破壊性)、シリカ微粒子の素地金属との密着性が劣る。また、シリカ微粒子の配合量:1に対する結合剤の配合割合が10超であると、化成処理皮膜上層の樹脂皮膜(下塗り塗膜)との密着性、耐スクラッチ性、耐食性が劣る。
【0018】
化成処理皮膜の付着量は、成分として含まれるシリカ微粒子のSi換算量で5〜200mg/m2の範囲とすることが好ましい。この付着量が5mg/m2未満では、素地金属との密着性、耐食性が劣り、一方、200mg/m2超では化成処理皮膜上層の樹脂皮膜(下塗り塗膜)との密着性が劣る。
化成処理皮膜を形成するための処理方法に特に制約はないが、一般に化成処理液をロールコーター塗装し、その後乾燥させる。この乾燥では、熱風加熱、赤外線加熱、誘導加熱などの加熱手段により、通常、50〜150℃程度の到達板温で皮膜を乾燥させる。
【0019】
次に、上記化成処理皮膜の上層に形成される下塗り塗膜の好ましい条件について説明する。
下塗り塗膜を形成するための塗料組成物の主剤樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ビスフェノールA付加ポリエステル樹脂などのようなエポキシ変成ポリエステル樹脂などの1種又は2種以上を用いることができるが、加工性の観点からはポリエステル樹脂及び/又はエポキシ変性ポリエステル樹脂が特に好ましい。
【0020】
ポリエステル樹脂のエポキシ変性に用いる樹脂としては、例えば、ビスフェノールA又はビスフェノールF型エポキシ樹脂が挙げられ、またこれ以外に、塩基触媒(例えば、水酸化カリウム)の存在下に、エピハロヒドリン(例えば、エピクロロヒドリン)をアルデヒド(例えば、ホルムアルデヒド)と1価のフェノール又は多価ポリフェノールとの縮合物と反応させることにより得られるフェノール誘導体エポキシ樹脂(例えば、ノボラック型エポキシ樹脂)なども用いることができる。
【0021】
通常、下塗り塗膜の物性は塗料組成物の主剤として使用する樹脂のTgにより変化するが、一般に樹脂の分子構造からして、エポキシ系下塗り塗料による塗膜は破断強度は大きいが破断伸びは小さく、一方、ポリエステル系下塗り塗料やウレタン系下塗り塗料による塗膜は破断伸びは大きいが破断強度は小さい。これに対して、ビスフェノールA付加ポリエステル樹脂などのエポキシ変性ポリエステル樹脂を主剤樹脂とする塗料組成物により形成される下塗り塗膜は上記両方の樹脂の分子構造を兼ね備えているため、破断強度と破断伸びがバランスよく得られ、本発明が目的とする高加工性の観点からして特に好ましい。
【0022】
下塗り塗膜をポリエステル系樹脂(ビスフェノールA付加ポリエステル樹脂などのエポキシ変性ポリエステル樹脂を含む。以下同様)を主剤樹脂とする塗料組成物により形成する場合、下塗り塗膜が上記物性を有するようにするためには、ポリエステル樹脂として数平均分子量が1000〜50000、より好ましくは3000〜40000、特に好ましくは5000〜30000の範囲のものを用いることが望ましい。ポリエステル樹脂の数平均分子量が1000未満では、塗膜の伸びが不十分であるため上記の物性が得られず、塗膜性能の向上が十分でない。一方、数平均分子量が50000を超えると塗料組成物が高粘度になるため過剰の希釈溶剤が必要となり、塗料中に占める樹脂の割合が減少するため適正な塗膜を得ることができなくなる。さらに、他の配合成分との相溶性も著しく低下する。
【0023】
また、塗料組成物の主剤としてビスフェノールA付加ポリエステル樹脂を使用する場合、このビスフェノールA付加ポリエステル樹脂中のビスフェノールAの含有量は樹脂固形分の割合で1〜70質量%、より好ましくは3〜60質量%、特に好ましくは5〜50質量%とするのが望ましい。ビスフェノールA付加ポリエステル樹脂中のビスフェノールAの含有量が1質量%未満では塗膜強度の向上効果が十分に得られず、塗膜性能の向上効果が顕著ではない。一方、ビスフェノールAの含有量が70質量%を超えると塗膜の伸びが十分に得られない。
【0024】
上記ポリエステル樹脂を得るための多価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリカプロラクトンポリオール、グリセリン、ソルビトール、アンニトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなどが挙げられ、また、これらの多価アルコールを2種類以上組合せて用いることもできる。
【0025】
また、ポリエステル樹脂を得るための多価塩基酸成分としては、フタル酸、無水フタル酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水ハイミック酸、トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、コハク酸、無水コハク酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などが挙げられ、これらの多価塩基酸成分を2種類以上組合せて用いることもできる。
【0026】
下塗り塗膜用の塗料組成物に用いられる硬化剤としては、ポリイソシアネート化合物、アミノ樹脂などが使用できる。また、これらの2種以上を混合して用いてもよい。
硬化剤として用いられるポリイソシアネート化合物としては、例えば、キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネートなどの脂環族ジイソシアネート;又はこれらジイソシアネートの多量体若しくは多価アルコールとの付加物などが挙げられ、これらをブロック剤(例えば、フェノール系、ラクタム系、アルコール系、メルカプタン系、イミン系、アミン系、イミダゾール系又はオキシム系ブロック剤)などを用いてブロック化した化合物として使用することが好ましい。また、これらブロック化ポリイソシアネート化合物の解離触媒としては、オクトエ酸錫、ジブチル錫ジラウレート、2−エチルヘキソエート鉛などを用いることができる。
【0027】
硬化剤として用いられるアミノ樹脂としては、例えば、低級アルコールでアルキルエーテル化されたホルムアルデヒド又はパラホルムアルデヒドなどと尿素、ジシアンジアミド、アミノトリアジンなどとの縮合物があり、具体的には、メトキシ化メチロール尿素、メトキシ化メチロールジシアンジアミド、メトキシ化メチロールメラミン、メトキシ化メチロールベンゾグアナミン、ブトキシ化メチロールメラミン、ブトキシ化メチロールベンゾグアナミンなどが挙げられる。また、硬化触媒としては、塩酸、リン酸モノアルキルエステル、P−トルエンスルホン酸などの酸又はこれら酸と3級アミン若しくは2級アミン化合物との塩が使用できる。
【0028】
下塗り塗膜中には、下記 (a) からなる防錆添加成分又は下記 (a) と下記 (b) 〜 (d) の中から選ばれる1種又は2種以上とからなる防錆添加成分を含有させることが好ましい。これらの防錆添加成分は沈殿作用によって保護皮膜を形成し、防食性能を発現する。
(a)Caイオン交換シリカ
(b)カルシウム化合物
(c)リン酸塩
(d)酸化ケイ素
【0029】
(a) Caイオン交換シリカは、カルシウムイオンを多孔質シリカゲル粉末の表面に固定したもので、腐食環境下でCaイオンが放出されて沈殿膜を形成することにより、防食性能の向上に寄与する。Caイオン交換シリカとしては任意のものを用いることができるが、平均粒子径が6μm以下、望ましくは4μm以下のものが好ましく、例えば、平均粒子径が2〜4μmのものを用いることができる。Caイオン交換シリカの平均粒子径が6μmを超えると耐食性が低下するとともに、塗料組成物中での分散安定性が低下する。
【0030】
Caイオン交換シリカ中のCa濃度は1質量%以上、望ましくは2〜8質量%であることが好ましい。Ca濃度が1質量%未満ではCa放出による防錆効果が十分に得られない。なお、Caイオン交換シリカの表面積、pH、吸油量については特に制限はない。以上のようなCaイオン交換シリカとしては、商品名でW.R.Grace&Co.製のSHIELDEX C303(平均粒子径2.5〜3.5μm、Ca濃度6質量%)、SHIELDEX AC3(平均粒子径2.3〜3.1μm、Ca濃度6質量%)、SHIELDEX AC5(平均粒子径3.8〜5.2μm、Ca濃度6質量%)、富士シリシア化学(株)製のSHIELDEX(平均粒子径3μm、Ca濃度6〜8質量%)、SHIELDEX SY710(平均粒子径2.2〜2.5μm、Ca濃度6.6〜7.5質量%)などを用いることができる。
【0031】
(b) カルシウム化合物は、腐食の起こりやすい環境においてCaを溶出することで早期に保護膜(沈殿膜)を形成し、それ以上腐食が進行するのを抑制することにより防食性能の向上に寄与する。カルシウム化合物は、カルシウム酸化物、カルシウム水酸化物、カルシウム塩のいずれでもよく、これらの1種又は2種以上を使用できる。また、カルシウム塩の種類にも特に制限はなく、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウムなどのようなカチオンとしてカルシウムのみを含む単塩のほか、リン酸カルシウム・亜鉛、リン酸カルシウム・マグネシウムなどのようなカルシウムとカルシウム以外のカチオンを含む複塩を使用してももよい。
【0032】
(c) リン酸塩は、溶出金属(例えば、めっき成分である亜鉛)との間で保護膜(沈殿膜)を形成することにより、防食性能の向上に寄与する。リン酸塩は、単塩、複塩などの全ての種類の塩を含む。また、それを構成する金属カチオンに限定はなく、リン酸亜鉛、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸アルミニウムなどのいずれの金属カチオンでもよい。また、リン酸イオンの骨格や縮合度などにも制限はなく、正塩、二水素塩、一水素塩又は亜リン酸塩のいずれでもよく、さらに、正塩はオルトリン酸塩の他、ポリリン酸塩などの全ての縮合リン酸塩を含む。
【0033】
(d) 酸化ケイ素は、腐食環境下でケイ酸イオンが放出されて溶出金属(例えば、めっき成分である亜鉛)との間で保護膜(沈殿膜)を形成することにより、防食性能の向上に寄与する。酸化ケイ素としては、コロイダルシリカ、乾式シリカのいずれでもよい。コロイダルシリカとしては、水系皮膜形成樹脂をベースとする場合には、例えば、商品名で日産化学工業(株)製のスノーテックスO、スノーテックスN、スノーテックス20、スノーテックス30、スノーテックス40、スノーテックスC、スノーテックスS、触媒化成工業(株)製のカタロイドS、カタロイドSI−350、カタロイドSI−40、カタロイドSA、カタロイドSN、旭電化工業(株)製のアデライトAT−20〜50、アデライトAT−20N、アデライトAT−300、アデライトAT−300S、アデライトAT20Qなどを用いることができる。
【0034】
また、溶剤系皮膜形成樹脂をベースとする場合には、例えば、商品名で日産化学工業(株)製のオルガノシリカゾルMA−ST−M、オルガノシリカゾルIPA−ST、オルガノシリカゾルEG−ST、オルガノシリカゾルE−ST−ZL、オルガノシリカゾルNPC−ST、オルガノシリカゾルDMAC−ST、オルガノシリカゾルDMAC−ST−ZL、オルガノシリカゾルXBA−ST、オルガノシリカゾルMIBK−ST、触媒化成工業(株)製のOSCAL−1132、OSCAL−1232、OSCAL−1332、OSCAL−1432、OSCAL−1532、OSCAL−1632、OSCAL−1722などを用いることができる。
【0035】
特に、有機溶剤分散型シリカゾルは、分散性に優れ、ヒュームドシリカよりも耐食性に優れている。
また、ヒュームドシリカとしては、例えば、商品名で日本アエロジル(株)製のAEROSIL R971、AEROSIL R812、AEROSIL R811、AEROSIL R974、AEROSIL R202、AEROSIL R805、AEROSIL 130、AEROSIL 200、AEROSIL 300、AEROSIL 300CFなどを用いることができる。
【0036】
微粒子シリカは、腐食環境下において緻密で安定な亜鉛の腐食生成物の生成に寄与し、この腐食生成物がめっき表面に緻密に形成されることによって、腐食の促進を抑制することができると考えられている。
耐食性の観点からは、微粒子シリカは粒子径が5〜50nm、望ましくは5〜20nm、さらに好ましくは5〜15nmのものを用いるのが好ましい。
【0037】
防錆添加成分(a)〜(d)は、(a) と (b) 〜 (d) の中から選ばれる1種又は2種以上を複合添加することにより、異なる防食効果を複合化させることができるため、耐食性を高めるのに有利である。ここで、例えば成分(a),(b)を複合添加する場合の配合比は、固形分の重量比で(a)/(b)=1/99〜99/1、より好ましくは10/90〜90/10、さらに好ましくは20/80〜80/20とするのが適当である。また、成分(a),(c),(d)を複合添加する場合の配合比は、固形分の重量比で(a)/(c)+(d)=1/99〜99/1、より好ましくは10/90〜90/10、さらに好ましくは20/80〜80/20とするのが適当である。
【0038】
また、上記(a)〜(d)の防錆添加成分に加えて、防錆添加成分としてモリブデン酸塩を複合添加することにより、特に優れた耐食性が得られる。上記(a)〜(d)の防錆添加成分が沈殿作用によって防食性能(自己補修性能)を発現するのに対して、モリブデン酸塩は不働態化作用により防食性能(自己補修性能)を発現するものであり、したがって、モリブデン酸塩を上記(a)〜(d)の防錆添加成分に対して複合添加することにより、それぞれの防錆添加成分の防食作用が複合化することになり、この結果、さらに高度な防食性能が得られることになる。
【0039】
モリブデン酸塩の不働態化作用による防食機構は、腐食環境下で溶存酸素とともにめっき皮膜表面に緻密な酸化物を形成し、これが腐食起点を封鎖することによって腐食反応を抑制するものである。モリブデン酸塩は、その骨格、縮合度等に制限はなく、例えばオルトモリブデン酸塩、パラモリブデン酸塩、メタモリブデン酸塩などが挙げられる。また、単塩、複塩などの全ての塩を含み、複塩としてはリンモリブデン酸塩などが挙げられる。
ここで、上記 (a) からなる防錆添加成分 (x) 又は上記 (a) と上記 (b) 〜 (d) の中から選ばれる1種又は2種以上とからなる防錆添加成分(x)とモリブデン酸塩(y)の配合割合は、固形分の重量比で (x)/(y)=1/99〜99/1、より好ましくは10/90〜90/10、さらに好ましくは20/80〜80/20とするのが適当である。このような配合比とすることにより、異なる防食効果を効果的に複合化させることができる。
【0040】
以上のような下塗り塗膜に配合される防錆添加成分は、有害な物質を含まず且つ塗膜の耐食性を高める作用がある。
下塗り塗膜中での上記防錆添加成分の配合量(合計配合量)は、樹脂固形分100重量部に対して5〜50重量部とする。樹脂固形分100重量部に対する防錆添加成分の配合量が5重量部未満では防錆添加成分を添加することによる加工部耐食性の向上効果が十分に得られず、一方、50重量部を超えると加工性に問題を生じる。
【0041】
また、下塗り塗膜用の塗料組成物には目的や用途に応じて、p−トルエンスルホン酸、オクトエ酸錫、ジブチル錫ジラウレート、2−エチルヘキソエート鉛などの硬化触媒;炭酸カルシウム、カオリン、クレー、酸化チタン、タルク、硫酸バリウム、マイカ、弁柄、マンガンブルー、カーボンブラック、アルミニウム粉、パールマイカなどの顔料;その他、消泡剤、流れ止め剤などの各種添加剤を適宜配合することができる。
【0042】
下塗り塗膜の膜厚は2〜20μmの範囲とすることが好ましい。膜厚が2μm未満では十分な耐食性が得られず、一方、20μm超では加工性が不十分である。
下塗り塗膜を形成するための塗料組成物を実際に使用するに当っては、これらを有機溶剤及び/又は水に溶解して使用する。使用する有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ソルベッソ100(商品名,エクソン化学社製)、ソルベッソ150(商品名,エクソン化学社製)、ソルベッソ200(商品名,エクソン化学社製)、トルエン、キシレン、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、酢酸エチル、酢酸ブチル、石油エーテル、石油ナフサなどが挙げられる。
【0043】
下塗り塗膜用の塗料組成物を調整するに当っては、サンドグラインドミル、ボールミル、ブレンダーなどの通常の分散機や混練機を選択して使用し、各成分を配合することができる。
下塗り塗膜の塗装方法に特に制約はないが、好ましくは塗料組成物をロールコーター塗装、カーテンフロー塗装などの方法で塗布するのがよい。上記した化成処理皮膜が形成された亜鉛系めっき鋼板の表面に下塗り塗膜用の塗料組成物を塗装後、熱風加熱、赤外線加熱、誘導加熱などの加熱手段により、通常、180〜260℃程度の到達板温で約30秒〜1分の焼付処理を行う。
【0044】
次に、上記下塗り塗膜の上層に形成される上塗り塗膜について説明する。
上塗り塗膜の主剤樹脂としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂などの1種又は2種以上を用いることができるが、特に優れた性能を得るためには、上塗り塗膜を、樹脂成分として、イ)特定のポリオールと、ロ)特定の硬化剤とを含有する(好ましくは、これらを主成分樹脂として含有する)塗料組成物を塗布し、焼付処理して形成される塗膜とすることが好ましい。このような特定の上塗り塗膜を形成することにより、上述した下塗り塗膜との複合的な効果によって特に優れた加工部耐食性が得られる。
【0045】
以下、この特定の上塗り塗膜について説明する。
まず、上記イ)のポリオールとしては、アクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂を用いることができる。
上記イ)のポリオールであるアクリル樹脂は、1分子中に少なくとも2個の水酸基を有し、且つ数平均分子量が1500〜12000の化合物であれば特に限定されるものではないが、その数平均分子量の好ましい範囲は1700〜10000である。アクリル樹脂の分子中にある水酸基はアクリル樹脂主鎖に無秩序に配列されており、数平均分子量が1500未満では加工性が著しく低下する。一方、数平均分子量が12000を超えると高粘度になるため過剰の稀釈溶剤が必要となり、塗料中に占める樹脂の割合が減少するため適切な塗膜を得ることができなくなる。さらに、他の配合成分との相溶性も著しく低下する。なお、アクリル樹脂の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCという)により測定したポリエステル換算分子量である。
【0046】
アクリル樹脂は、水酸基を持つアクリル単量体又はメタクリル単量体とアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルなどを周知の方法で加熱反応させて得られる共重合体である。水酸基を持つアクリル単量体、メタクリル単量体としては、例えば、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸ヒドロキシプロピルなどを用いることができる。また、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸−2−エチルヘキシルなどを用いることができる。市販されているアクリル樹脂としては、“アルマテックス”(商品名,三井東圧化学(株)製)、“デスモフェン”(商品名,住友バイエルウレタン(株)製)、“ダイヤナール”(商品名,三菱レイヨン(株)製)などがある。
【0047】
上記イ)のポリオールであるポリエステル樹脂は、1分子中に少なくとも2個の水酸基を有し、且つ数平均分子量が1000〜8000の化合物であれば特に限定されるものではないが、その好ましい数平均分子量の範囲は1200〜7000、より好ましくは1500〜6000である。ポリエステル樹脂の分子中にある水酸基は、分子中の末端または側鎖のいずれにあってもよい。ポリエステル樹脂の数平均分子量が1000未満では加工性が著しく低下する。一方、数平均分子量が8000を超えると高粘度になるため過剰の稀釈溶剤が必要となり、塗料中に占める樹脂の割合が減少するため適切な塗膜を得ることができなくなる。さらに、他の配合成分との相溶性も著しく低下する。なお、ポリエステル樹脂の数平均分子量は、GPCにより測定したポリスチレン換算分子量である。
【0048】
ポリエステル樹脂は、多塩基酸成分と多価アルコールを周知の方法で加熱反応させて得られる共重合体である。多塩基酸成分としては、例えば、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、無水トリメリット酸、マレイン酸、アジピン酸、フマル酸などを用いることができる。また、多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどを用いることができる。市販されているポリエステル樹脂としては、“アルマテックス”(商品名,三井東圧化学(株)製)、“アルキノール”(商品名,住友バイエルウレタン(株)製)、“デスモフェン”(商品名,住友バイエルウレタン(株)製)、“バイロン”(商品名,東洋紡績(株)製)などがある。
【0049】
上塗り塗膜中での上記イ)のポリオールの配合量は、樹脂固形分中での割合で40〜90質量%とすることが好ましい。このポリオールの配合量が40質量%未満では塗膜の加工性が十分に確保できず、一方、90質量%を超えると塗膜硬度が不十分となる。
【0050】
上記ロ)の硬化剤としては、イソシアネート化合物及び/又はアミノ樹脂を用いることができる。
イソシアネート化合物としては、一般的製法で得られるポリイソシアネート化合物を用いることができるが、その中でも特に、1液型塗料としての使用が可能である、フェノール、クレゾール、芳香族第二アミン、第三級アルコール、ラクタム、オキシムなどのブロック剤でブロック化されたポリイソシアネート化合物が好ましい。このブロック化ポリイソシアネート化合物を用いることにより1液での保存が可能となり、プレコート鋼板用塗料としての使用が容易となる。
【0051】
また、さらに好ましいポリイソシアネート化合物としては、非黄変性のヘキサメチレンジイソシアネート(以下、HDIと略す)及びその誘導体、トリレンジイソシアネート(以下、TDIと略す)及びその誘導体、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIと略す)及びその誘導体、キシリレンジイソシアネート(以下、XDIと略す)及びその誘導体、イソホロンジイソシアネート(以下、IPDIと略す)及びその誘導体、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(以下、TMDIと略す)及びその誘導体、水添TDI及びその誘導体、水添MDI及びその誘導体、水添XDI及びその誘導体などを挙げることができる。
さらに、“スミジュール”(商品名,住友バイエルウレタン(株)製)、“デスモジュール”(商品名,住友バイエルウレタン(株)製)、“コロネート”(商品名,日本ポリウレタン(株)製)などの市販のイソシアネート化合物も使用できる。
【0052】
硬化剤としてポリイソシアネート化合物を用いる場合、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基と上記イ)のポリオールの水酸基との配合比[NCO/OH]はモル比で0.8〜1.2、より好ましくは0.90〜1.10の範囲とすることが望ましい。[NCO/OH]のモル比が0.8未満では塗膜の硬化が不十分であり、所望の塗膜硬度及び強度が得られない。一方、[NCO/OH]のモル比が1.2を超えると、過剰のイソシアネート基同士の或いはイソシアネート基とウレタン配合との副反応が生じて、塗膜の加工性が低下する。
【0053】
硬化剤であるアミノ樹脂としては、尿素、ベンゾグアナミン、メラミンなどとホルムアルデヒドとの反応で得られる樹脂、及びこれらをメタノール、ブタノールなどのアルコールによりアルキルエーテル化したものが使用できる。具体的には、メチル化尿素樹脂、n−ブチル化ベンゾグアナミン樹脂、メチル化メラミン樹脂、n−ブチル化メラミン樹脂、iso−ブチル化メラミン樹脂などを挙げることができる。
さらに、“サイメル”(商品名,三井サイアナミッド(株)製)、“ユーバン”(商品名,三井東圧化学(株)製)、“スミマール”(商品名,住友化学工業(株)製)、“メラン”(商品名,日立化成工業(株)製)などの市販のアミノ樹脂も使用できる。
【0054】
硬化剤としてアミノ樹脂を用いる場合、アミノ樹脂と上記イ)のポリオールとの配合比(固形分の重量比)は[ポリオール]/[アミノ樹脂]:95/5〜65/35、望ましくは90/10〜75/25の割合とするのが好ましい。
上記ロ)の硬化剤の配合量は、樹脂固形分中での割合で9〜50質量%とすることが好ましい。この硬化剤の配合量が9質量%未満では塗膜硬度が不十分であり、一方、50質量%を超えると加工性が不十分となる。
【0055】
本発明では、上塗り塗膜中に下記 (a) からなる防錆添加成分又は下記 (a) と下記 (b) 〜 (d) の中から選ばれる1種又は2種以上とからなる防錆添加成分を含有させる。
(a)Caイオン交換シリカ
(b)カルシウム化合物
(c)リン酸塩
(d)酸化ケイ素
これら防錆添加成分の詳細や防食機構は、先に下塗り塗膜に関して述べたと同様であり、これらの防錆添加成分は沈殿作用によって保護皮膜を形成し防食性能を発現する。
【0056】
防錆添加成分(a)〜(d)は、(a) と (b) 〜 (d) の中から選ばれる1種又は2種以上を複合添加することにより、異なる防食効果を複合化させることができるため、耐食性を高めるのに有利である。ここで、例えば成分(a),(b)を複合添加する場合の配合比は、固形分の重量比で(a)/(b)=1/99〜99/1、より好ましくは10/90〜90/10、さらに好ましくは20/80〜80/20とするのが適当である。また、成分(a),(c),(d)を複合添加する場合の配合比は、固形分の重量比で(a)/(c)+(d)=1/99〜99/1、より好ましくは10/90〜90/10、さらに好ましくは20/80〜80/20とするのが適当である。
【0057】
また、上記(a)〜(d)の防錆添加成分に加えて、防錆添加成分としてモリブデン酸塩を複合添加することにより、特に優れた耐食性が得られる。このモリブデン酸塩の詳細や防食機構は先に下塗り塗膜に関して述べたと同様であり、上記(a)〜(d)の防錆添加成分が沈殿作用によって防食性能(自己補修性能)を発現するのに対して、モリブデン酸塩は不働態化作用により防食性能(自己補修性能)を発現する。したがって、モリブデン酸塩を上記(a)〜(d)の防錆添加成分に対して複合添加することにより、それぞれの防錆添加成分の防食作用が複合化することになり、その結果さらに高度な防食性能が得られることになる。
【0058】
上記 (a) からなる防錆添加成分 (x) 又は上記 (a) と上記 (b) 〜 (d) の中から選ばれる1種又は2種以上とからなる防錆添加成分(x)とモリブデン酸塩(y)の配合割合は、固形分の重量比で (x)/(y)=1/99〜99/1、より好ましくは10/90〜90/10、さらに好ましくは20/80〜80/20とするのが適当である。このような配合比とすることにより、異なる防食効果を効果的に複合化させることができる。
以上のような上塗り塗膜に配合される防錆添加成分は、有害な物質を含まず且つ塗膜の耐食性を高める作用がある。
【0059】
上塗り塗膜中での防錆添加成分の配合量(合計配合量)は、樹脂固形分100重量部に対して1〜20重量部とする。樹脂固形分100重量部に対する防錆添加成分の配合量が1重量部未満では十分な加工部耐食性が得られず、一方、20重量部を超えると加工性に問題を生じる。
また、上塗り塗膜には目的や用途に応じてワックスを適量配合することができる。このワックスとしては、天然ワックス又は合成ワックスを用いることができる。
【0060】
また、上塗り塗膜用の塗料組成物には目的や用途に応じて、p−トルエンスルホン酸、オクトエ酸錫、ジブチル錫ジラウレート、2−エチルヘキソエート鉛などの硬化触媒、;炭酸カルシウム、カオリン、クレー、酸化チタン、タルク、硫酸バリウム、マイカ、弁柄、マンガンブルー、カーボンブラック、アルミニウム粉、パールマイカなどの顔料;その他、消泡剤、流れ止め剤などの各種添加剤を適宜配合することができる。
この上塗り塗膜の膜厚は10〜20μmとすることが好ましい。膜厚が10μm未満では上塗り塗膜としての総合的な塗膜性能が十分に得られない恐れがあり、一方、膜厚が20μmを超えると塗膜硬度が低下する。
【0061】
上塗り塗膜を形成するための塗料組成物を実際に使用するに当っては、これらを有機溶剤及び/又は水に溶解して使用する。使用する有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ソルベッソ100(商品名,エクソン化学社製)、ソルベッソ150(商品名,エクソン化学社製)、ソルベッソ200(商品名,エクソン化学社製)、トルエン、キシレン、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、酢酸エチル、酢酸ブチル、石油エーテル、石油ナフサなどが挙げられる。
上塗り塗膜用の塗料組成物を調整するに当っては、サンドグラインドミル、ボールミル、ブレンダーなどの通常の分散機や混練機を選択して使用し、各成分を配合することができる。
【0062】
上塗り塗膜の塗装方法に特に制約はないが、好ましくは塗料組成物をロールコーター塗装、カーテンフロー塗装などの方法で塗布するのがよい。上記した下塗り塗膜の上に上塗り塗膜用の塗料組成物を塗装後、熱風加熱、赤外線加熱、誘導加熱などの加熱手段により塗膜を焼き付け、樹脂を架橋させて硬化塗膜を得る。上塗り塗膜を加熱硬化させる際の焼付処理は、通常、最高到達板温を180〜260℃程度とし、この温度範囲で約30秒〜3分の焼付を行う。
なお、本発明のプレコート鋼板は、上塗り塗膜の上にさらに塗膜(例えば、クリアー塗膜)を形成し、3コート・3ベークで使用してもよい。
【0063】
【実施例】
[実施例1]
下地鋼板である板厚0.5mmの溶融亜鉛めっき鋼板(片面当りのめっき付着量:30g/m2)を脱脂後、表1に示す組成の化成処理液を乾燥皮膜付着量がSi換算で65mg/m2になるように塗布した後、到達板温80℃の乾燥処理を行なって化成処理皮膜(クロムフリー系皮膜)を形成した。また、比較例の一部については、クロム系化成処理として、日本ペイント(株)製の塗布型クロメート“サーフコート
NRC300”をCr換算で50mg/m2になるように塗布した後、同様の乾燥処理を行い、クロム系化成処理皮膜を形成した。以上のようにして形成した化成処理皮膜の上に、表2に示す組成のポリエステル樹脂を用いて表3に示す組成に調整し、これに必要に応じて表4に示す防錆添加成分を配合した下塗り塗膜用の塗料組成物を乾燥膜厚が5μmになるように塗布した後、焼付温度(到達板温)215℃、焼付時間60秒の焼付処理を行なって下塗り塗膜を形成し、さらにその上に、表5に示す組成に調整され、これに表4に示す防錆添加成分を配合した上塗り塗膜用の塗料組成物を乾燥膜厚が15μmになるように塗布した後、焼付温度(到達板温)230℃、焼付時間60秒の焼付処理を行なって上塗り塗膜を形成し、本発明例及び比較例のプレコート鋼板を得た。これらプレコート鋼板の性能をその皮膜構成とともに表6及び表7に示す。
【0064】
表3に示す下塗り塗膜用の塗料組成物は、以下のようにして調整した。
(1)ポリエステル樹脂の調製
加熱装置、撹拌機、精留塔、減圧装置および温度計を備えた反応容器に、表2に示すような配合でテレフタル酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール及び酢酸マンガン触媒を仕込み、窒素雰囲気中において160〜220℃の温度で、約4時間かけて段階的に昇温させエステル交換反応を行い、メタノールを留出させた。さらに、0.5〜5.0mmHgの減圧下、260℃で約2時間重縮合反応させ、ポリエステル樹脂を得た。得られたポリエステル樹脂は、シクロヘキサノン/ソルベッソ150の混合溶剤(重量比50/50)に溶解し、不揮発分40%に調製した。また、ポリエステル樹脂の分子量は重縮合反応時間により調節した。分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用い、ポリスチレン換算の数平均分子量を測定した。
(2)下塗り塗膜用の塗料組成物の製造
上記(1)で得られたポリエステル樹脂を用いて、表3に示すような配合割合で塗料組成物を製造した。これら塗料組成物のうち防錆添加成分を添加したものについては、防錆添加成分の粒度が5μm以下になるまでサンドミルで分散させた。
【0065】
表5に示す上塗り塗膜用の塗料組成物は、以下のようにして調整した。
ポリエステルポリオールに表5に示すような配合割合で硬化剤、顔料、硬化触媒、添加剤、さらに防錆添加成分を配合した後、直径約1mmのガラスビーズを入れたサンドミルを用いて約30分間分散させた。さらに、シクロヘキサノンを加えて不揮発分が60%になるように調整し、塗料組成物を製造した。
【0066】
以下に、プレコート鋼板の性能試験の試験方法と評価方法について示す。
(1)外観
塗装後の外観を目視で観察し、下記により評価した。
○:異常なし
×:平滑で均一な外観が得られない。
【0067】
(2)クロスカット部耐食性
下地に達するクロスカットを入れた試験片に対して塩水噴霧試験(SST試験)を480時間実施した後、クロスカット部の最大フクレ幅を測定し、下記により評価した。
○:最大フクレ幅が3mm未満
△:最大フクレ幅が3〜5mm
×:最大フクレ幅が5mm超
【0068】
(3)加工部耐食性
2T折り曲げ試験片に対して塩水噴霧試験(SST試験)を480時間実施した後、2T折り曲げ部に粘着テープを貼着・剥離し、2T折り曲げ部の塗膜の剥離率(面積率:%)を測定し、下記により評価した。
◎:塗膜剥離率5%以下
○:塗膜剥離率5%超、10%以下
△:塗膜剥離率10%超、50%以下
×:塗膜剥離率50%超
【0069】
(4)加工部密着性
2T折り曲げの試験片の2T折り曲げ部に粘着テープを粘着・剥離し、2T折り曲げ部の塗膜の剥離率(面積率:%)を測定し、下記により評価した。
○:塗膜剥離率10%以下
△:塗膜剥離率10%超、50%以下
×:塗膜剥離率50%超
(5)環境調和性
○:塗膜にクロム系化合物を含まない
×:塗膜にクロム系化合物を含む
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
【表3】
【0073】
【表4】
【0074】
【表5】
【0075】
【表6】
【0077】
【表7】
【0078】
[実施例2]
下塗り塗膜及び上塗り塗膜に配合する防錆添加成分として表8に示すものを用いた点を除き、[実施例1]と同様の条件で本発明例及び比較例のプレコート鋼板を製造し、それぞれの性能を評価した。その結果を、各プレコート鋼板の皮膜構成とともに表9及び表10に示す。
【0079】
以下に、プレコート鋼板の性能試験の試験方法と評価方法について示す。
(1)外観:[実施例1]と同じ
(2)クロスカット部耐食性
下地に達するクロスカットを入れた試験片に対して塩水噴霧試験(SST試験)を750時間実施した後、クロスカット部の最大フクレ幅を測定し、下記により評価した。
○:最大フクレ幅が3mm未満
△:最大フクレ幅が3〜5mm
×:最大フクレ幅が5mm超
【0080】
(3)加工部耐食性
2T折り曲げ試験片に対して塩水噴霧試験(SST試験)を750時間実施した後、2T折り曲げ部に粘着テープを貼着・剥離し、2T折り曲げ部の塗膜の剥離率(面積率:%)を測定し、下記により評価した。
◎:塗膜剥離率5%以下
○:塗膜剥離率5%超、10%以下
△:塗膜剥離率10%超、50%以下
×:塗膜剥離率50%超
(4)加工部密着性:[実施例1]と同じ
(5)環境調和性:[実施例1]と同じ
【0081】
【表8】
【0082】
【表9】
【0084】
【表10】
【0085】
【発明の効果】
以上述べたように本発明のプレコート鋼板は、クロムフリーでありながら高耐食性クロム系プレコート鋼板並みの優れた加工部耐食性と加工部密着性を有しており、このため家電製品、建材、自動車などの用途において高度の加工部耐食性や加工部密着性が求められる部位に用いられるクロムフリープレコート鋼板として極めて有用である。
Claims (6)
- シリカ微粒子とその結合剤とを含む化成処理皮膜が形成された亜鉛系めっき鋼板の表面に、下塗り塗膜が形成され、さらにその上層に上塗り塗膜が形成されたプレコート鋼板であって、
前記上塗り塗膜が、下記 (a) からなる防錆添加成分又は下記 (a) と下記 (b) 〜 (d) の中から選ばれる1種又は2種以上とからなる防錆添加成分を、樹脂固形分100重量部に対して1〜20重量部含有することを特徴とする環境調和性と加工部耐食性及び加工部密着性に優れたプレコート鋼板。
(a)Caイオン交換シリカ
(b)カルシウム化合物
(c)リン酸塩
(d)酸化ケイ素 - シリカ微粒子とその結合剤とを含む化成処理皮膜が形成された亜鉛系めっき鋼板の表面に、下塗り塗膜が形成され、さらにその上層に上塗り塗膜が形成されたプレコート鋼板であって、
前記上塗り塗膜が、下記 (a) からなる防錆添加成分又は下記 (a) と下記 (b) 〜 (d) の中から選ばれる1種又は2種以上とからなる防錆添加成分と、モリブデン酸塩を、樹脂固形分100重量部に対して合計で1〜20重量部含有することを特徴とする環境調和性と加工部耐食性及び加工部密着性に優れたプレコート鋼板。
(a)Caイオン交換シリカ
(b)カルシウム化合物
(c)リン酸塩
(d)酸化ケイ素 - 下塗り塗膜が、下記 (a) からなる防錆添加成分又は下記 (a) と下記 (b) 〜 (d) の中から選ばれる1種又は2種以上とからなる防錆添加成分を、樹脂固形分100重量部に対して5〜50重量部含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の環境調和性と加工部耐食性及び加工部密着性に優れたプレコート鋼板。
(a)Caイオン交換シリカ
(b)カルシウム化合物
(c)リン酸塩
(d)酸化ケイ素 - 下塗り塗膜が、下記 (a) からなる防錆添加成分又は下記 (a) と下記 (b) 〜 (d) の中から選ばれる1種又は2種以上とからなる防錆添加成分と、モリブデン酸塩を、樹脂固形分100重量部に対して合計で5〜50重量部含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の環境調和性と加工部耐食性及び加工部密着性に優れたプレコート鋼板。
(a)Caイオン交換シリカ
(b)カルシウム化合物
(c)リン酸塩
(d)酸化ケイ素 - 上塗り塗膜が、下記イ)及びロ)を含有する塗料組成物を塗布して形成した塗膜であることを特徴とする請求項1、2、3又は4に記載の環境調和性と加工部耐食性及び加工部密着性に優れたプレコート鋼板。
イ)ポリエステル樹脂及び/又はアクリル樹脂:樹脂固形分中での割合で40〜90質量%
ロ)硬化剤であるイソシアネート化合物及び/又はアミノ樹脂:樹脂固形分中での割合で9〜50質量% - 下塗り塗膜を形成すべき塗料組成物中の主剤樹脂成分が、ポリエステル樹脂及び/又はエポキシ変性ポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5に記載の環境調和性と加工部耐食性及び加工部密着性に優れたプレコート鋼板。
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