JP3875785B2 - 金属フッ化物および該金属フッ化物を含む歯科用組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、特に歯科医療の用途で、歯質の強化による齲蝕の予防を目的とする歯科材料に好適に使用されるフッ化物並びに該フッ化物を配合した歯科用組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
歯科の医療において、フッ素イオンが歯質に作用して歯質を強化することはすでによく知られており、歯の齲蝕予防および/または抑制を目的として、歯質をフッ素イオンで処置することは、現在、頻繁に行われている。
近年、歯科用修復材として、レジン系修復材が多用されているが、不幸にして歯質と修復材料の間に間隙ができ辺縁漏洩が生じた場合、その歯質と修復物の間隙に虫歯菌が侵入し二次齲蝕を生ずる場合がある。
そこでかかる修復物にフッ化物を配合し、それから溶出するフッ素イオンにより窩洞歯質壁をフッ素化し、歯質強化により二次齲蝕の防止を図る歯科用窩洞修復材が提案されている。(特開昭48−80151号、50−49358号)
【0003】
従来、フッ素イオンを放出するフッ素化合物としては、フッ化ナトリウム等に代表される金属フッ化物、フッ化アンモニウムに代表されるアンモニウム塩フッ化物、フルオロアルミノシリケートガラス等に代表されるフッ素含有ガラスが知られている。しかし、金属フッ化物およびアンモニウム塩フッ化物は、フッ素イオンの放出量は高く、周囲歯質へフッ素イオンを放出して歯質のフッ素化を図ることはできるが、フッ素イオンの溶出に伴いレジン系修復材自体の機械的性質や接着性能等の理工学的性質が著しく低下し、破折や脱落等の問題が生じてしまうという問題点がある。一方、フッ素含有ガラスには、これを配合した歯科用修復物の機械的性質や接着性能の低下はもたらさないものの、フッ素イオンの放出量が少ないという問題点があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
耐久性の優れた実用価値の高いフッ素イオン放出性歯科用組成物を提供するためには、フッ素イオンを多量に溶出し、かつ、修復材自身の機械的性質や接着性能の低下を生じせしめないフッ素イオン放出物の開発が必要である。
本発明者等は歯科用修復材料にフッ化物を配合し、フッ素イオンの供給により歯質を強化して、二次齲蝕の防止を図ることを目的とした場合、フッ化物としてはフッ素イオン放出量が多いことが望ましいと考え、この観点から、本発明者らは、数あるフッ化物の中から特に金属フッ化物を選択し、これを歯科用修復材料に配合するための検討を行った。
【0005】
金属フッ化物を配合した歯科用修復材料について、フッ素放出量と機械的性質や接着性能などの理工学的性質の低下との関係を調べると、金属フッ化物の配合量が多いほどフッ素放出量は多くなるものの、一方で理工学的性質の低下が大きくなるという関係が見られることより、金属フッ化物の溶解速度を調整することで、これを配合した歯科用修復材料の理工学的性質の低下の抑制の可能性が考えられる。
【0006】
ここで金属フッ化物を配合した歯科用修復材料からの溶解速度の調整だけを目的とするだけならば、これは従来公知のマイクロカプセル化の技術で達成し得る。従来公知のマイクロカプセル化とは、「高分子大辞典」(平成6年、丸善株式会社)および「新版高分子辞典」(1988年、朝倉書店)に説明されるように、小さな固体粒子、液滴、気泡等の芯物質の表面を被膜でコートして封入したものであり、その特性は芯物質の外部環境からの保護、また芯物質を外部に放出する速度を調節する点にある。金属フッ化物を芯物質とし、この表面を被膜でコートすることで、金属フッ化物の溶出速度は調節することができるようにはなり得る。 フッ化物をマイクロカプセル化する技術としては、特公平2−31049号に開示されているが、これはフッ化物と同一系内の他の成分との反応を抑制するためにフッ化物からのフッ素イオンの溶出を阻止することを目的としており、先述のマイクロカプセル化の説明の中の「芯物質の保護」として用いており、これはフッ素イオンを積極的に溶出させることを必要とする本発明の目的に全くそぐわないものである。
さらに、フッ化物を含むアルミノシリケートガラス粉末を可溶性のポリマーで表面を被覆した粉体が特開昭58−99409号に開示されているが、可溶性ポリマーで被覆された粉末を歯科用修復材料に用いた場合、口腔内という湿潤条件下においては可溶性ポリマーが唾液あるいは飲食される水分により流出してしまい、粉末に対する長期的な被覆機能を維持することができず、本発明が目的とする理工学的な性質の保持を達し得ない。
【0007】
また、金属フッ化物は歯科用組成物中に溶解して使用するよりも、歯科用組成物中に粉末の形状で配合する場合が多い(特開昭48−80151号、50−49358号)。一方、歯科用組成物中に配合する粉末は、シランカップリング処理等の表面処理を施して使用することが多い。当然、金属フッ化物をシランカップリング剤で処理することは容易に考えられ、金属フッ化物のシランカップリング剤処理による金属フッ化物の溶出の制御が期待されるが、金属フッ化物を従来のシランカップリング処理等の表面処理を施すだけでは、本発明が目的とする効果は得られない。
かかる本発明者等の検討により、フッ素イオンの供給により二次齲蝕の防止を図ることを目的として歯科修復材料に金属フッ化物を配合する場合はフッ素イオンを積極的に放出させることが望ましいが、一方でフッ素イオンの溶出に伴う歯科修復材料の理工学的性質の低下は避けるべきであるという課題に対し、従来の技術から得られるフッ化物では両者を満足することはできず、従来技術をそのまま歯科修復材料に用いることには不都合があることが判明した。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、フッ素イオンの溶出速度を阻害することなく、かつこれを配合した歯科用修復材料の理工学的性質の低下を抑制するという、従来技術では二律背反する現象を両立し得るフッ化物を追究した結果、金属フッ化物をポリシロキサンで被覆して得られるフッ化物により目的を達成することができることを見い出した。
本発明者らは研究の当初、従来のマイクロカプセルの技術と同じく、金属フッ化物をポリシロキサンで被覆することにより金属フッ化物の溶出が抑制され、そのために理工学的性質の低下も小さくなっているものと予想された。しかしながら、本発明者らの詳細な検討によれば、予想に反して、金属フッ化物をポリシロキサン化合物で被覆してもフッ素イオン溶出量は低下しないばかりか、むしろポリシロキサンで被覆することによりフッ素イオン放出量が増大することが明らかになった。
【0009】
金属フッ化物をポリシロキサン化合物でマイクロカプセル化することにより、これを配合した歯科用修復材料の理工学的性質の低下の抑制が可能となったばかりではなく、フッ素イオンの放出量をより増大できるという本発明の目的にとってまさに好ましい現象は、従来の知見からは全く予想し得ないことである。
なお、無機粉体の表面をポリシロキサンでコーティングする技術に関しては、特開平7−331112号、同8−3473号で開示されているものの、これらには無機粉体として金属フッ化物に関しては何ら言及されていないばかりでなく、これらから得られる知見は無機粉体と樹脂とを混合して使用する際に無機粉体と樹脂との結合力、無機粉体同士の密着性の向上を意図するものであり、本発明の目的を類推できるものではない。
このように、金属フッ化物の表面をポリシロキサンで被覆して得られるフッ化物により、前記課題を解決できることを見い出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち本発明は、表面にポリシロキサン被覆層を有することを特徴とする、歯科用組成物に配合される金属フッ化物である。また本発明は、(a)表面にポリシロキサン被覆層を有する金属フッ化物、(b)重合性単量体および(c)重合開始剤を含有してなるフッ素イオン放出性歯科用組成物を提供する。
【0011】
本発明の最大の特徴は、金属フッ化物の表面をポリシロキサンで被覆する点にある。この金属フッ化物の表面をポリシロキサンで被覆することにより、フッ素イオンの溶出速度は抑制されることはなく、かつこれを歯科用修復材に配合した場合、歯科用修復材料からフッ素イオンが溶出しても、実質的に修復物の理工学的性質の低下を生じせしめることはなく、修復物の破折や脱落等の問題を解決することができる。
【0012】
本発明で用いられる金属フッ化物としては、水に溶解し、フッ素イオンを放出し得る金属フッ化物であれば使用可能であり、具体的にはフッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化ルビジウム、フッ化セシウム、フッ化ベリリウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、フッ化アルミニウム、フッ化マンガン(II)、フッ化鉄(II)、フッ化鉄(III )、フッ化コバルト(II)、フッ化銅(II)、フッ化亜鉛、フッ化アンチモン(III )、フッ化鉛(II)、フッ化銀(I)、フッ化カドミウム、フッ化スズ(II)、フッ化スズ(IV)、フッ化ジアンミン銀、フッ化アンモニウム、フッ化水素ナトリウム、フッ化水素アンモニウム、フッ化水素カリウム、フルオロリン酸ナトリウム、ヘキサフルオロチタン酸カリウム、ヘキサフルオロ珪酸ナトリウム、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム、ヘキサフルオロスズ(IV)ナトリウム、ヘキサフルオロスズ酸(IV)アラニン、ペンタフルオロ二スズ酸(II)ナトリウム、ヘキサフルオロジルコニウム酸カリウム等を用いることができる。
【0013】
この中でも周期律表第1族と第2族の金属のフッ化物であるフッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化ルビジウム、フッ化セシウム、フッ化ベリリウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウムが好ましく、これらの中でも特にフッ化ナトリウムが好ましく用いられる。これらの金属フッ化物は単独もしくは数種を組み合わせて使用することができる。
【0014】
金属フッ化物の形状は本発明の効果に影響を及ぼすものではなく、粒状、針状、繊維状あるいは板状等、いずれの形状のものでも使用できる。大きさも本発明の効果に影響を及ぼすものではなく特に制限は無いが、本発明のフッ化物は該粒子にポリシロキサンを被覆して得られることより、本発明のフッ化物は原料の金属フッ化物より大きくなることを考慮しておく必要がある。本発明のフッ化物を特に歯科修復材料に配合することを目的とする場合は、歯科修復材料の使用性の観点から金属フッ化物の大きさを0.5mm以下、特に0.05mm以下とすることが望ましい。
【0015】
これらの金属フッ化物をポリシロキサンで被覆することにより本発明のフッ化物を得ることができるが、本発明で用いられるポリシロキサンとは、−Si−O−結合が網状に連鎖した分子構造を有する化合物を意味し、さらに本発明で言うところのポリシロキサンの用語は、ケイ素原子の一結合手が酸素原子の代わりに有機基と結合したオルガノポリシロキサンをも包含するものとして用いる。該ポリシロキサンは、シラノール基を有するシラン化合物を脱水縮合した化合物が用いられ、更に詳しく説明すると、該ポリシロキサンは加水分解によりシラノール基を生成するシラン化合物を加水分解、あるいは部分加水分解することによって得られるシラノール化合物のシラノール基を分子間で脱水縮合することで得られるものである。
【0016】
金属フッ化物の表面をポリシロキサンで被覆するには次の方法が可能であるが、ここで挙げるシラン化合物を加水分解して、さらに脱水縮合して高分子量化する方法自体は公知の方法によることができる。
【0017】
(1)シラン化合物の加水分解性基を加水分解して得られたシラノール化合物を金属フッ化物に被覆し、その後、シロキサン化合物の分子間のシラノール基を脱水縮合する方法。
具体的には、例えば次の方法が例示される。すなわち、水と混和する有機溶剤、例えばメタノール、エタノール、t−ブタノールにシラン化合物、およびシラン化合物を加水分解あるいは部分加水分解するのに必要な水を加えて酸触媒の存在下に加水分解し、加水分解生成物を含有する有機溶剤溶液を作製する。その後この溶液を金属フッ化物に加え、有機溶剤を加熱もしくは減圧操作により除去することにより、表面に加水分解生成物が付着した金属フッ化物粉体が得られる。これに必要に応じて酸または塩基を加え加熱処理し、シラノールの脱水縮合反応を進めることによりポリシロキサンにより被覆された金属フッ化物を得ることができる。ここでシラノール基が脱水縮合し、ポリシロキサンを形成している分子構造は、金属フッ化物の被覆層の赤外線吸収スペクトルにて確認することができる。
【0018】
あるいは、シラン化合物に過剰の水を加えて酸触媒の存在下に加水分解し、その後、水層から加水分解生成物を水と混和しない有機溶剤、例えば酢酸エチル、エチルエーテル、クロロホルム、塩化メチレン等により抽出する。この加水分解生成物を含有する有機溶剤溶液を金属フッ化物に加え、有機溶剤を加熱もしくは減圧操作により除去することにより、表面に加水分解生成物が付着した金属フッ化物粉体が得られる。これに必要に応じて酸または塩基を加え加熱処理し、シラノールの脱水縮合反応を進めることによりポリシロキサンにより被覆された金属フッ化物を得ることができる。
【0019】
(2)シラン化合物を加水分解し、あらかじめ分子間でシラノール基を脱水縮合して高分子量化しておき、これを金属フッ化物に被覆する方法。
具体的には、例えば次の方法が挙げられる。すなわち、シラン化合物に所定量の水を加えて酸触媒の存在下に加水分解し、副生するアルコールを留去していくとシラン化合物は縮合し、該シラン化合物のオリゴマーが生成する。これを金属フッ化物に加え、金属フッ化物表面に付着させ、必要に応じて酸または塩基を加えて加熱処理し、オリゴマーのシラノールの脱水縮合反応を進めることによりポリシロキサンにより被覆された金属フッ化物を得ることができる。
【0020】
本発明のポリシロキサンの原料となるシラン化合物としては、加水分解によりシラノール基を生成し、しかる後に該シラノール化合物のシラノール基を分子間で脱水縮合することでポリシロキサンを生成し得るものならば使用できるが、中でも一般式
【0021】
【化2】
[(R1 O)l (X)m ]4-n −Si−R2 n (I)
【0022】
(R1 は炭素数8以下の有機基、Xはハロゲン、R2 は炭素数6以下の有機基、lおよびmは0または1でかつl+m=1を満たす整数、nは0または1の整数を表す。)で表されるシラン化合物が好ましく用いられる。
【0023】
I式化合物において、R1 O基およびX基は加水分解によりシラノール基を生成し得る官能基または原子であり、具体的にはR1 は、メチル、エチル、2−クロロエチル、アリル、アミノエチル、プロピル、イソペンチル、ヘキシル、2−メトキシエチル、フェニル、m−ニトロフェニル、2,4−ジクロロフェニルが挙げられ、Xは塩素、臭素が挙げらる。中でも、R1 はメチルおよびエチル、Xは塩素が好ましい。
【0024】
R2 は本発明の目的により適したポリシロキサン被膜を形成するためには炭素数6以下の有機基であることが好ましく、具体的にはRとしてメチル、クロロメチル、ブロモエチル、エチル、ビニル、1,2−ジブロモビニル、1,2−ジクロロエチル、2−シアノエチル、ジエチルアミノエチル、2−アミノエチルアミノエチル、2−(2−アミノエチルチオエチル)、プロピル、イソプロピル、3−ヒドロキシプロピル、3−メルカプトプロピル、3−アミノプロピル、3,3,3−トリフルオロプロピル、3−グリシドキシプロピル、3−(2−アミノエチルアミノプロピル)、アリル、n−ブチル、イソブチル、ヘキシル、シクロヘキシル、フェニル等が挙げられ、特にメチル、エチル、プロピル、ビニル、フェニルが好ましい。
【0025】
I式化合物のn=0のシラン化合物の例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラアリロキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラキス(2−エチルヘキシロキシ)シラン、ジエトキシジクロロシラン、テトラフェノキシシラン、テトラクロロシラン等が挙げられ、特にテトラメトキシシラン、テトラエトキシシランが挙げられる。
【0026】
I式化合物のn=1の化合物の例としては、メチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、メトキシトリプロピルシラン、プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン等が挙げられ、特にメチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリクロロシランが挙げられる。これらの化合物は単独もしくは組み合わせて使用することができる。
【0027】
金属フッ化物をポリシロキサンで被覆することで本発明が目的とする効果を得るためには、金属フッ化物100重量部に対し、ポリシロキサンを20重量部以上、より好ましくは50重量部以上の量を被覆することが望ましい。それ以下では所期の目的を達せられないことがある。一方、被覆量の上限に対しては特に制限はないものの、金属フッ化物100重量部に対し、ポリシロキサンが500重量部を越えると効果は飽和してさらなる効果の増大がないこと、およびポリシロキサンの比率が高くなると、相対的に金属フッ化物量の比率が低下し、もともとの目的であるフッ素の放出量が実質的に低くなってしまうことより、500重量部を上限として考えることが望ましい。
【0028】
本発明の金属フッ化物の構造は、金属フッ化物粒子の表面全体をポリシロキサンが被覆した状態であればよく、一個の金属フッ化物粒子を核としその表面をポリシロキサンでコートした単一核型の構造、および、単一核型が凝集した構造、すなわちポリシロキサンの凝集体中に金属フッ化物粒子が分散した構造等いずれの構造でも構わない。金属フッ化物粒子を被覆するポリシロキサン層の厚さは0.1〜100μmであることが望ましく、特に1〜50μmがより好ましい。
【0029】
本発明の金属フッ化物の形状は、粒状、針状、繊維状あるいは板状等、いずれの形状のものでも使用できる。大きさ及び粒度分布は本発明の効果に影響を及ぼすものではなく、特に制限は無いが、本発明の金属フッ化物を特に歯科修復材料に配合することを目的とする場合は、1mm以下、特に0.1mm以下であることが望ましい。
好ましい大きさは使用用途によって異なり、例えば歯科用充填剤に使用される場合は、該フッ化物を配合した組成物の使用性(扱いやすさ)や強度に及ぼす影響を考慮して、0.1mm以下であることが望ましい。歯科用接着剤、とりわけセメントに使用される場合は、皮膜厚さや強度への影響を考慮して、0.05mm以下が好ましい。また、小窩裂溝封鎖剤に使用される場合は、使用性の点から0.02mm以下が好ましい。なお、粒径の小さい粒子は大きい比表面積を持ち、溶出速度が大となるが、反面、溶出期間が短くなる傾向があるので、フッ化物の大きさはこれらの要素も考慮して選択すべきである。
【0030】
本発明の金属フッ化物はレジン系歯科用組成物に通常配合されるフィラー、あるいは増粘剤等の無機粉体と同様の形態を有しているため、通常のフィラー、増粘剤と同様の方法で、重合性単量体と重合開始剤からなる歯科用組成物に配合することができ、得られた歯科用組成物は従来公知の歯科用レジン系組成物、例えば、歯科用接着剤、歯科用充填剤、小窩裂溝封鎖剤等と同様に使用することができる。本発明の金属フッ化物は、その表面に従来公知の表面処理を施されてもかまわない。
ここで、該金属フッ化物は重合性単量体に対し0.01〜95重量%の範囲で用いられるが、特に好ましいのは0.1〜90重量%の範囲である。
【0031】
重合性単量体は目的・用途に応じて適宜選択されるが、通常α−シアノアクリル酸、(メタ)アクリル酸、α−ハロゲン化アクリル酸、クロトン酸、桂皮酸、ソルビン酸、マレイン酸、イタコン酸等のエステル類、(メタ)アクリルアミド、および(メタ)アクリルアミド誘導体、ビニルエステル類、ビニルエ−テル類、モノ−N−ビニル誘導体、スチレン誘導体、等が挙げられ、中でも(メタ)アクリル酸エステルが好適に用いられる。
【0032】
かかる重合性単量体の具体例を以下に示す。なお本発明においては(メタ)アクリルをもってメタクリルとアクリルの両者を包括的に表記する。
(イ)一官能性
メチル(メタ)アクリレ−ト、iso−ブチル(メタ)アクリレ−ト、ベンジル(メタ)アクリレ−ト、ラウリル(メタ)アクリレ−ト、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレ−ト、2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレ−ト、2,3−ジブロモプロピル(メタ)アクリレ−ト、オキシラニルメチル(メタ)アクリレ−ト、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン。
【0033】
(ロ)二官能性
エチレングリコ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、トリエチレングリコ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、プロピレングリコ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、ネオペンチルグリコ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、1,6−ヘキサンジオ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、1,10−デカンジオ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、ビスフェノ−ル−A−ジ(メタ)アクリレ−ト、2,2−ビス〔(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル〕プロパン、2,2−ビス〔(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル〕プロパン、2,2−ビス[4−〔3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン、1,2−ビス〔3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ〕エタンなど。
【0034】
(ハ)三官能性以上
トリメチロ−ルプロパントリ(メタ)アクリレ−ト、トリメチロ−ルエタントリ(メタ)アクリレ−ト、テトラメチロ−ルメタントリ(メタ)アクリレ−ト、ペンタエリスリト−ルテトラ(メタ)アクリレ−トなど。
これらの重合性単量体は1種または数種組み合わせて用いられる。
【0035】
重合開始剤としては、重合性単量体を重合硬化させることのできるものであればいずれのものも用いることができる。例えば、ベンゾイルパーオキサイド−芳香族第3級アミン系重合開始剤、クメンハイドロパーオキサイド等の過酸化物、トリブチルボラン、芳香族スルフィン酸(またはその塩)−芳香族第2級または第3級アミン−アシルパーオキサイド系重合開始剤などが挙げられる。さらにカンファーキノン、カンファーキノン−第3級アミン系重合開始剤、カンファーキノン−アルデヒド系重合開始剤、カンファーキノン−メルカプタン系重合開始剤などの光重合開始剤を挙げることができる。
【0036】
本発明のフッ素放出性組成物には、歯質および修復物に対する接着性を確保することを目的として、酸性基を有する重合性単量体を配合してもよい。本発明において酸性基はリン酸残基、ピロリン酸残基、チオリン酸残基またはカルボン酸残基であり、該化合物の具体例として、以下のものが挙げられる。
リン酸残基を有する重合性単量体として、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、20−(メタ)アクリロイルオキシエイコシルジハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピル−2−ジハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル フェニルリン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル 2’−ブロモエチルリン酸、(メタ)アクリロイルオキシエチル フェニルホスホネート等、およびこれらの酸塩化物。
【0037】
ピロリン酸残基を有する重合性単量体として、ピロリン酸ジ(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)等、およびこれらの酸塩化物。
チオリン酸残基を有する重合性単量体として、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンジチオホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンチオホスフェート等、およびこれらの酸塩化物。
【0038】
カルボン酸残基を有する重合性単量体として、4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸無水物、5−(メタ)アクリロイルアミノペンチルカルボン酸、11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸等およびこれらの酸塩化物。
【0039】
また、本発明のフッ素放出性組成物にはさらに他のフィラーを加えても良い。フィラーとして、石英、ガラス、ヒドロキシアパタイト、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、セラミックス類、珪藻土、カオリン、モンモリロナイト等の粘土鉱物、活性白土、合成ゼオライト、マイカ、リン酸カルシウム、フルオロアルミノシリケート、超微粒子シリカ、超微粒子アルミナ等の無機フィラー、ポリメチルメタクリレート、多官能メタクリレートの重合体、ポリアミド、ポリエステル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、スチレン−ブタジエンゴム等の有機フィラー、上記した無機フィラーを上記有機フィラーでコートしたもの、あるいは、上記有機フィラー中に上記無機フィラーを分散したものなどの無機/有機複合フィラーなどが挙げられる。これらは、必要に応じて、シランカップリング剤で表面処理して用いてもよい。これらは、単独または混合物として用いられる。
【0040】
本発明の組成物には以上に述べた各成分の他、実用上必要に応じて、有機溶剤、重合禁止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、染料等を添加することができる。
本発明のフッ化物を配合した歯科用組成物は歯牙窩洞を充填するためのコンポジットレジン、窩洞を被覆するためのライニング剤、インレー・アンレー・クラウン等を窩洞または支台歯に接着するための接着剤、歯列矯正用接着剤、ブリッジ・ポスト等を保持するための接着剤、フィシャーシーラントに用いられ、フッ素イオンの積極的な放出により歯質を強化する一方で、歯科用組成物の理工学的物性の低下は生じず歯科用修復材料としての機能は維持される。
【0041】
次に実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
実施例1
テトラエトキシシラン34.7gにテトラエトキシシランのエトキシ基と等モル量の水12g、エタノール10gおよび塩酸0.02gを加え、2時間撹拌しながら加熱還流を行いテトラエトキシシランを加水分解した。
この溶液にフッ化ナトリウム粉末10gを加え、撹拌した後、エタノールを減圧溜去し、引き続いて、120℃の加熱処理を30分間行い、白色の粉体19gを得た。
該粉体を酢酸エチルで洗浄しても洗浄液中にシラン化合物の溶出は無く、テトラエトキシシランは加水分解後にフッ化ナトリウム表面で縮合重合し、不溶化していることが確認された。
【0043】
さらに、テトラエトキシシランと該フッ化物の赤外吸収スペクトルを比較したところ、該フッ化物では960、1170cm-1のテトラエトキシシランのエトキシ基の吸収が消失し、一方、1000〜1200cm-1付近にSiO 2 のブロードな吸収が出現し、テトラエトキシシランは加水分解の後、脱水縮合されポリシロキサン構造を形成し、ポリシロキサンで被覆されたフッ化ナトリウムが生成していることが確認された。
【0044】
実施例2〜4
表1に示すシラン化合物および金属フッ化物を用い、実施例1と同様の方法にてアルコキシシランを加水分解した後、金属フッ化物表面に被覆し、脱水縮合を行い、金属フッ化物をポリシロキサンで被覆したフッ化物を得た。
【0045】
実施例5
ビニルトリエトキシシラン100gおよび水100gの混合液に酢酸0.2gを加え、系が均一になるまで室温下で撹拌した。この水溶液に飽和食塩水を加えた後、酢酸エチルで抽出した。酢酸エチル溶液を、炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、酢酸を除去した後、酢酸エチル溶液を無水硫酸ナトリウム、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥剤を濾過して除去し、酢酸エチルを減圧溜去したところ、加水分解されたビニルトリエトキシシラン23gが得られた。
加水分解されたビニルトリエトキシシラン10gをトルエン10gに溶解し、さらに硬化触媒として3−アミノプロピルトリエトキシシラン0.5gを加えた。
【0046】
この溶液をフッ化ナトリウム粉末10gに加え、撹拌した後、トルエンを減圧溜去し、引き続いて、120℃の加熱処理を30分間行い、白色の粉体19gを得た。該粉体をトルエンで洗浄しても洗浄液中にシラン化合物の溶出は無く、ビニルトリエトキシシランは加水分解後にフッ化ナトリウム表面で縮合重合し、不溶化していることが確認された。さらに、ビニルトリエトキシシランと該フッ化物の赤外吸収スペクトルを比較したところ、該フッ化物では950、1170cm-1のビニルトリエトキシシランのエトキシ基の吸収が消失し、一方、1000〜1200cm-1付近にSiO 2 のブロードな吸収が出現し、ビニルトリエトキシシランは加水分解の後、脱水縮合されポリシロキサン構造を形成し、ポリシロキサンで被覆されたフッ化ナトリウムが生成していることが確認された。
【0047】
実施例6
表1に示すシラン化合物および金属フッ化物を用い、実施例1と同様の方法にてアルコキシシランを加水分解した後、金属フッ化物表面に被覆、脱水縮合を行い、ポリシロキサンで被覆した金属フッ化物を得た。
【0048】
実施例7〜10
表1に示すシラン化合物および金属フッ化物を用い、実施例5と同様の方法にてアルコキシシランを加水分解した後、金属フッ化物表面に被覆、脱水縮合を行い、ポリシロキサンで被覆した金属フッ化物を得た。
【0049】
実施例11
表1に示すシラン化合物および金属フッ化物を用い、実施例1と同様の方法にてアルコキシシランを加水分解した後、金属フッ化物表面に被覆、脱水縮合を行い、ポリシロキサンで被覆した金属フッ化物を得た。
【0050】
実施例12
表1に示すシラン化合物および金属フッ化物を用い、実施例5と同様の方法にてアルコキシシランを加水分解した後、金属フッ化物表面に被覆、脱水縮合を行い、ポリシロキサンで被覆した金属フッ化物を得た。
【0051】
実施例13
シロキサンオリゴマー(商品名MSAC、三菱化学(株)製)10gをトルエン10gに溶解し、さらに硬化触媒として硝酸を0.1gを加えた。
この溶液をフッ化ナトリウム粉末10gに加え、撹拌した後、トルエンを減圧溜去し、引き続いて、120℃の加熱処理を行い、白色の粉体18gを得た。
該フッ化物をトルエンで洗浄しても洗浄液中にシラン化合物の溶出は無く、シロキサンオリゴマーが架橋してポリシロキサンで被覆されたフッ化ナトリウムが生成していることを確認した。
【0052】
実施例14
表1に示すシラン化合物および金属フッ化物を用い、実施例15と同様の方法にてシロキサンオリゴマーを金属フッ化物表面に被覆、脱水縮合を行い、ポリシロキサンで被覆した金属フッ化物を得た。
【0053】
参考例1
3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン10gをトルエン10gに溶解し、この溶液をフッ化ナトリウム粉末10gに加え撹拌した後、トルエンを減圧溜去し、引き続いて、120℃の加熱処理を行い、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで表面処理されたフッ化ナトリウム18gを得た。
【0054】
参考例2
2,2−ビス[4−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]プロパン(Bis−GMA)50重量部と1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート50重量部および過酸化ベンゾイル1重量部からなる混合物10gをトルエン10gに溶解し、この溶液をフッ化ナトリウム粉末10gに加え撹拌した後、トルエンを減圧溜去し、引き続いて、120℃の加熱処理を3時間行い、メタクリル系樹脂で被覆されたフッ化ナトリウム18gを得た。
参考例3
ポリエチレングリコール(PEG:分子量15000〜25000)10gをメタノールに溶解し、これにフッ化ナトリウム粉末10gを加え攪拌した後、メタノールを減圧留去し、PEGで被覆されたフッ化ナトリウム18gを得た。
【0055】
実施例15〜28および比較例1〜6
下記の組成物AおよびBを調合し、さらに組成物A 100重量部に対し、実施例1〜14で製造した金属フッ化物をそれぞれ純金属フッ化物(被覆層を含まない)の配合量が5重量部となるように配合した組成物A−1、A−2、A−3、A−4、A−5、A−6、A−7、A−8、A−9、A−10、A−11、A−12、A−13及びA−14を調合し、これらを用い金属に対する接着耐久性を測定した。
【0056】
【0057】
【0058】
ニッケル−クロム合金「ナウクロム(I)」(トーワ技研製)を#1000シリコン・カ−バイト紙で平滑に研磨した後、この面に5mmφの穴を開けた粘着テ−プを貼り付けて被着面とした。一方7mmφ×25mmのSUS304製丸棒を準備し、棒端面を粒径50μm のアルミナ砥粒でサンドブラストを行った。次いで組成物A−1、A−2、A−3、A−4、A−5、A−6、A−7、A−8、A−9、A−10、A−11、A−12、A−13またはA−14と組成物Bとを等量ずつ練和し、これを丸棒サンドブラスト面に盛り上げ、これを合金被着面に押し付けて接着を行った。1時間後に接着試験片を37℃水中に浸漬した。8個の試験片については37℃水中24時間浸漬後に接着強度を測定し、8個の試験片に対しては37℃水中24時間浸漬後さらに70℃水中に1ヶ月間浸漬した後に接着強度を測定した。接着強度の測定は、万能試験機(インストロン製)を用い、クロス・ヘッドスピード2mm/minの条件で引張接着強度を測定した。各々の測定値を平均し、表2に測定結果を示した。
【0059】
フッ化物を配合してない組成物Aを用いた場合、組成物A 100重量部に対しポリシロキサンで被覆していないフッ化ナトリウムを5重量部配合した組成物A−15、ポリシロキサンで被覆していないフッ化カルシウムを5重量部配合した組成物A−16について、実施例15〜28と同様の方法で金属接着耐久性を測定し、それぞれ比較例1、2および3とし、結果を表2に併記した。
また、表面をポリシロキサンで被覆されておらずシランカップリング剤で表面処理されただけのフッ化物として参考例1のフッ化物、表面をポリシロキサンではなくポリメタクリレートで被覆されたフッ化物として参考例2のフッ化物および表面をPEGで被覆された参考例3によるフッ化物を、それぞれ金属フッ化物の配合量が5重量部となるように組成物Aに配合した組成物A−17およびA−18及びA−19を調合し、実施例15〜28と同様の方法で金属接着耐久性を測定し、それぞれ比較例4、5および6とし、結果を表2に併記した。
【0060】
ポリシロキサンで被覆されていない金属フッ化物を配合した組成物、参考例のシランカップリング剤で表面処理しただけのフッ化物を配合した組成物、及びPEGで被覆したフッ化物を配合した組成物は、耐久性試験により接着強度が著しく低下するのに対し、ポリシロキサンで金属フッ化物の表面を被覆したフッ化物を配合した組成物は、接着強度の低下が小さかった。
【0061】
実施例29〜32および比較例7〜9
下記の組成物Cを調合し、さらに組成物C 100重量部に対し、実施例1、2、5および13で得られた各金属フッ化物を配合量が10重量部となるように配合した組成物C−1、C−2、C−3およびC−4を調合し、これらの硬化物の曲げ強度の耐久性を測定した。
【0062】
【0063】
上記組成物C−1、C−2、C−3またはC−4を長さ30mm、高さ2mm、幅2mmの金型に填入し、歯科用可視光線照射機ライテルII(群馬牛尾電気(株)製)で光照射を行い、硬化物を作製した。この試験片を37℃水中に浸漬し、8個の試験片については37℃水中24時間浸漬後に曲げ強度を測定し、8個の試験片に対しては37℃水中24時間浸漬後、さらに70℃水中に1ヶ月間浸漬した後に曲げ強度を測定した。曲げ強度の測定は、万能試験機(インストロン製)を用い、クロス・ヘッドスピード1mm/minの条件で測定した。各々の測定値を平均し、表3に測定結果を示した。
フッ化物を配合してない組成物C、フッ化ナトリウムを配合した組成物C−5、、表面をポリシロキサンで被覆せずシランカップリング剤で表面処理した参考例1のフッ化物を配合した組成物C−6について、実施例29〜32と同様の方法で測定し、それぞれ比較例7〜9とし、結果を表3に併記した。
【0064】
ポリシロキサンで被覆されていない金属フッ化物を配合した組成物、および参考例のフッ化物を配合した組成物は、耐久性試験により曲げ強度が著しく低下するのに対し、ポリシロキサン化合物で被覆した金属フッ化物を配合した組成物は、曲げ強度の低下は小さかった。
【0065】
実施例33〜37および比較例10〜12
下記の組成物Dを調合し、さらに組成物D 100重量部に対し、実施例1、2、5、12および13で得られた各フッ化物を純金属フッ化物の配合量が5重量部となるように配合した組成物D−1、D−2、D−3、D−4およびD−5を調合し、これらの歯質に対する接着強度の耐久性を測定した。
【0066】
【0067】
人歯大臼歯を#1000シリコン・カ−バイト紙で研磨して、平滑な象牙質面を形成し、この面に3mmφの穴を開けた粘着テ−プを貼り付けて被着面とした。
被着面の部分に歯科用歯面処理剤「クリアフィルLBプライマー」((株)クラレ製)を塗布し、30秒放置後にエアーシリンジで乾燥させた。その上に、組成物D−1、D−2、D−3、D−4またはD−5を小筆で約100μmの厚さに塗布し、歯科用光照射器「ライテルII」(群馬牛尾電気(株)製)にて20秒間光照射を行い硬化させた。さらに、その上に市販の光重合型歯科用コンポジットレジン「フォトクリアフィルA」((株)クラレ製)を置き、上記光照射器にて40秒間光照射を行い硬化させた。
【0068】
この硬化物に対して、市販の歯科用レジンセメント「パナビア21」((株)クラレ製)を用いて7mmφ×25mmのSUS304製丸棒を接着した。1時間後に全接着試験片16個を37℃水中に浸漬した。そのうち8個の試験片については、37℃水中24時間浸漬後に接着強度を測定した。また、残りの8個の試験片に対しては、4℃の冷水中と60℃の温水中に各々1分間ずつ浸漬する熱サイクルを4000回負荷した後に接着強度を測定した。接着強度の測定には万能試験機(インストロン製)を用い、クロス・ヘッドスピ−ド2mm/分の条件で引っ張り接着強度を測定した。各々の測定値を平均し、表4に測定結果を示した。
【0069】
フッ化物を配合してない組成物Dを用いた場合、フッ化ナトリウムを用いた組成物D−6、表面をポリシロキサンで被覆せずシランカップリング剤で表面処理した参考例2のフッ化物を配合した組成物D−7について実施例33〜37と同様の方法で測定し、それぞれ比較例10〜12とし、結果を表4に併記した。
ポリシロキサンで被覆されていない金属フッ化物を配合した場合、および参考例のフッ化物を配合した場合は、熱サイクル負荷により接着強度が著しく低下するのに対し、ポリシロキサン化合物で被覆した金属フッ化物を配合した場合は、接着強度の低下は小さかった。
【0070】
実施例38〜41および比較例13〜15
実施例15、19、20および27で用いた組成物A−1、A−5、A−6およびA−13と組成物Bとを等量練り合わせ、金型を用いて、直径2cm、厚さ1mmの円盤状硬化物を作製した。これらを37℃のリン酸緩衝液(pH7)4mlに浸漬し、円盤状硬化物からのフッ素イオンの溶出量を定量した。定量はフッ素イオン電極(オリオンリサーチ社製)を用いて行った。放出されたフッ素イオン量の測定結果を図1に示した。
比較例1で用いたフッ化物を配合してない組成物Aを用いた場合、比較例2で用いたフッ化ナトリウムを5重量部配合した組成物A−15、およびフッ化ナトリウムの表面をポリメタクリレートで被覆した参考例2のフッ化物を配合した組成物A−18について実施例38〜41と同様の方法で測定し、それぞれ比較例13〜15とし、図1に併記した。
【0071】
金属フッ化物をポリシロキサン化合物で被覆することにより、フッ素イオンの放出量は低下することはなく、むしろ増加することが認められた。一方、被覆剤をポリシロキサンではなくポリメタクリレートを用いた場合は、金属フッ化物を被覆することによりフッ素イオンの溶出量は減少した。
【0072】
実施例42〜45
本発明の金属フッ化物の粒度と効果の関係を明らかにするため以下の試験を行った。実施例13で調製したポリシロキサンで被覆した金属フッ化物に対し#150メッシュの篩い掛けを行い、微粒子部と粗粒子部に分級した。
実施例27で実施例13の金属フッ化物を用いる代わりに、上記の分級した微粒子と粗粒子部それぞれの金属フッ化物を用い、他は全て実施例27と同様の試験を行った結果、70℃、30日後において、微粒子部で30.8MPa、粗粒子部で32.4MPaの接着試験結果を得た(実施例42および43)。
また、実施例41で実施例13の金属フッ化物を用いる代わりに、上記微粒子部と粗粒子部それぞれの金属フッ化物を用い、他は全て実施例41と同様の を行った結果、いずれも実施例41と同様のフッ素イオン放出挙動を示し(実施例44および45)、本発明の金属フッ化物の効果は粒度に因るものではなかった。
【0073】
【発明の効果】
フッ素イオン放出性歯科用組成物において、金属フッ化物をポリシロキサン化合物で被覆して得られるフッ化物を配合すると、フッ素イオンの溶出に伴う理工学的性質の低下を実質的に解消することができる。
このことにより、本発明の組成物では従来のものと比べ、理工学的性質の耐久性の大幅な向上が達成され、実用上の効果は極めて大きい。
本発明によるフッ素イオン放出性歯科用組成物は、例えば、歯科用接着材、歯科用充填材、歯科用支台築盛用レジン、小窩裂溝封鎖材等として使用できる。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
【表3】
【0077】
【表4】
【図面の簡単な説明】
【図1】硬化物から放出されるフッ素イオン量を示すグラフである。
Claims (5)
- 表面にポリシロキサン被覆層を有することを特徴とする、歯科用組成物に配合される金属フッ化物。
- 該金属フッ化物が、周期律表第1族および第2族から選ばれる金属のフッ化物である請求項1の金属フッ化物。
- 該金属フッ化物が、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化リチウム、フッ化ストロンチウムおよびフッ化カルシウムからなる群から選ばれる金属フッ化物である請求項2の金属フッ化物。
- (a)表面にポリシロキサン被覆層を有する金属フッ化物、(b)重合性単量体および(c)重合開始剤を含有してなることを特徴とするフッ素イオン放出性歯科用組成物。
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