JP3875760B2 - 塩素化芳香族化合物の製造方法 - Google Patents

塩素化芳香族化合物の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、特定の芳香族アルコールから、該芳香族アルコールの水酸基が塩素原子に置換された構造の塩素化芳香族化合物を、簡便に、かつ効率よく製造することのできる方法に関する。
本発明の製造方法によって得られる、p−ジクミルクロリド(すなわち、1,4−ビス(1−クロロ−1−メチルエチル)ベンゼン;以下「DCC」と記する場合がある)のような、1,1−ジヒドロカルビル−1−クロロメチル基が芳香環に結合した構造を有する塩素化芳香族化合物は、ポリイソブチレン等を製造する際のカチオン重合開始剤として用いることができる(米国特許第4276394号明細書など参照)。
【0002】
【従来の技術】
DCCの製造方法の1種として、以下の(1)および(2)に示すような、p−ジクミルアルコール(すなわち、α,α,α’,α’−テトラメチル−1,4−ベンゼンジメタノール;以下「DIOL」と記する場合がある)を原料として使用する方法が知られている。
【0003】
(1)ガス状の塩化水素を、氷冷下において、溶液中のDIOLに作用させることによって反応を行うことからなるDCCの製造方法(V.S.C.Changand J.P.Kennedy,Polym.Bull.(Berlin),4(9),513−520(1981))
【0004】
(2)DIOLを、有機溶媒の存在下または不存在下に塩酸と接触させることによって反応を行うことからなるDCCの製造方法(特開平8−291090号公報)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記(1)の方法は、取り扱い性に劣り、かつ装置上の制約を伴う塩化水素ガスを使用するため、工業的製法としては不利である。
【0006】
上記(2)の方法では、特開平8−291090号公報の記載によれば、目的とするDCCを効率よく得る上で、塩酸をDIOL中の水酸基に対して2倍モル以上の塩化水素量となるような割合で使用することが推奨されており、該公報に実施例として記載された具体的製造例でも、塩酸がDIOL中の水酸基に対して約3〜6倍モルの塩化水素量となるような割合で使用されている。このように塩酸を大過剰量に使用すると、反応後に大量に残存する塩酸の廃液処理が極めて非効率的なものとなる。また、上記(2)の方法では、塩酸の使用およびDCCの生成と同時の水の副生によって必然的に反応系中に水が存在するため、反応後の水相と有機相との分液、分離した有機相の乾燥などの煩雑な後処理が必要となる。したがって、上記(2)の方法も、工業的に有利な製造方法とは言い難い。
【0007】
本発明の目的は、DCCのような、1,1−ジヒドロカルビル−1−クロロメチル基が芳香環に結合した構造を有する塩素化芳香族化合物を、DIOLのような、1,1−ジヒドロカルビル−1−ヒドロキシメチル基が芳香環に結合した構造を有する芳香族アルコールから、簡便に、かつ効率よく製造することのできる、工業的に有利な製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記の目的は、一般式(1):
【0009】
【化3】
Ar[−C(−R1)(−R2)(−OH)]n (1)
【0010】
[式中、Arは芳香環を構成する原子のうちのn個の炭素原子に遊離原子価を持つn価の芳香族基を表し、R1およびR2はそれぞれ置換基を有していてもよい1価の炭化水素基を表し(ただし、nが2以上の整数である場合、分子中に含まれるn個の基R1はそれぞれ相違していてもよく、また分子中に含まれるn個の基R2はそれぞれ相違していてもよい)、nは1以上の整数を表す]
【0011】
で示される芳香族アルコールを、該芳香族アルコールに対し0.00002〜0.0001倍モルのN,N−ジメチル−4−アミノピリジンの共存下でスルホン酸クロリドと反応させることを特徴とする一般式(2):
【0012】
【化4】
Ar[−C(−R1)(−R2)(−Cl)]n (2)
【0013】
(式中、Ar、R1、R2およびnは前記定義のとおりである)
【0014】
で示される塩素化芳香族化合物の製造方法を提供することによって達成される。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明で使用する一般式(1)で示される芳香族アルコールにおいて、Arで表されるn価の芳香族基としては、例えば、フェニル基、トシル基等の1価の芳香族炭化水素基;フェニレン基(p−、m−またはo−)、メチルフェニレン基、t−ブチルフェニレン基等の2価の芳香族炭化水素基;1,3,5−ベンゼントリイル基等の3価の芳香族炭化水素基などが挙げられる。R1およびR2でそれぞれ表される置換基を有していてもよい1価の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基などの低級アルキル基;該低級アルキル基の一部の水素原子が塩素原子などで置換された形の置換された低級アルキル基などが挙げられる。nは芳香族アルコール分子が含有する式−C(−R1)(−R2)(−OH)で示される基の個数を表し、1以上の整数であれば特に制限はないが、一般式(2)で示される塩素化芳香族化合物として、カチオン重合開始剤として好適な化合物を得る目的であれば、通常、1〜6の範囲内の整数である。
本発明で使用する一般式(1)で示される芳香族アルコールの代表例としては、α,α−ジメチルベンゼンメタノール、α,α,α’,α’−テトラメチル−1,4−ベンゼンジメタノール(DIOL)、α,α,α’,α’−テトラメチル−1,3−ベンゼンジメタノール、α,α,α’,α’−テトラメチル−5−(1,1−ジメチルエチル)−1,3−ベンゼンジメタノール、α,α,α’,α’,α”,α”−ヘキサメチル−1,3,5−ベンゼントリメタノール等が挙げられる。
【0016】
本発明で使用するスルホン酸クロリドは、メタンスルホン酸クロリド、トリフルオロメタンスルホン酸クロリド、p−トルエンスルホン酸クロリド等のスルホン酸クロリドを使用することが好ましい。本発明では、スルホン酸クロリドを、使用する芳香族アルコール中に含まれる塩素原子に変換すべき水酸基に対して0.8倍モル以上の割合となるような量で使用することが望ましい。スルホン酸クロリドを、例えば、芳香族アルコール中に含まれる塩素原子に変換すべき水酸基に対して2倍モル以上のような大過剰量で使用しても、反応自体に支障はないが、大過剰量の使用は無意味であるだけでなく、処理操作の効率を低下させることがあるので、通常、スルホン酸クロリドを芳香族アルコール中に含まれる塩素原子に変換すべき水酸基に対して0.8〜1.5倍モルの範囲内の割合となるような量で使用することが好ましい。
【0017】
本発明に従う芳香族アルコールと有機酸クロリドとの反応は、必ずしも限られるものではないが、有機溶媒の存在下において行うのが好ましく、反応を高い速度で安定な状態の下に行うことができる点において、反応系に存在する原料化合物(芳香族アルコールおよび有機酸クロリド)が有機溶媒に実質的に完全に溶解する条件下に行うことがより好ましい。
芳香族アルコールと有機酸クロリドとの反応において使用可能な有機溶媒としては、例えば、ペンタン、シクロペンタン、ネオペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、ノルボルナン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の飽和炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、クロロエタン、ジクロロエタン、プロピルクロリド、ブチルクロリド等のハロゲン化炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン系溶媒;ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒などが挙げられる。これらのうち、ハロゲン化炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒などが、原料である芳香族アルコールおよび有機酸クロリドに対する溶解性の高さの点から好ましい。有機溶媒の使用量について特段の制限はないが、反応を高い速度で安定な状態の下に行うことができる点においては、原料である芳香族アルコールおよび有機酸クロリドを実質的に完全に溶解し得る量であることが好ましいが、必要以上に多量に使用することは装置の大型化、操作効率の低下等の不利益を招くので、これらの点を考慮しながら適宜、使用量を定めるのがよい。
【0018】
本発明に従う芳香族アルコールと有機酸クロリドとの反応の操作については、芳香族アルコールと有機酸クロリドを接触させることができるものであれば、特に限定されない。例えば、有機溶媒存在下で反応を行う方法としては、芳香族アルコールおよび有機酸クロリドを含む有機溶媒溶液を調製し、これを撹拌しながら反応させる方法、撹拌下の芳香族アルコールの有機溶媒溶液に、有機酸クロリドまたはその有機溶媒溶液を添加しながら反応させる方法などを挙げることができる。
【0019】
本発明に従う芳香族アルコールと有機酸クロリドとの有機溶媒の存在下または不存在下における反応においては、必要に応じて、反応系にさらに他の添加剤を配合してもよい。例えば、塩基性物質、無機塩化物などを配合すると反応速度が向上する場合がある。
上記塩基性物質としては、例えば、アミン類、ピリジン類などが挙げられるが、有機溶媒を使用する場合には該有機溶媒に溶解し得るものがよい。該ピリジン類としては、例えば、ピリジン、2,6−ルチジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン(以下「DMAP」と記する場合がある)などの1種または2種以上を使用することができる。塩基性物質を使用する場合、通常、その使用量は使用する芳香族アルコール中の塩素原子に変換すべき水酸基に対して1.5倍モル以下となる量で充分である。
また、上記無機塩化物としては、例えば、塩化リチウム等の金属塩化物、塩化水素などを使用することができる。無機塩化物を使用する場合、通常、その使用量は使用する芳香族アルコール中の塩素原子に変換すべき水酸基に対して1.5倍モル以下となる量で充分である。
【0020】
本発明に従う芳香族アルコールと有機酸クロリドとの反応は、これらの原料化合物および目的とする塩素化芳香族化合物が分解反応などの副反応を受けないような温度で行うことが好ましい。したがって、原料化合物および目的化合物に応じて最適な反応温度は異なるが、通常は、室温程度またはそれ以下の温度において適宜、温度条件を設定することができ、−10℃程度ないし+10℃程度の範囲内の温度を採用するのがよい。
【0021】
本発明に従う反応は、必ずしも限定されるものではないが、乾燥した不活性ガスの雰囲気下で行うことが好ましく、例えば、該不活性ガスの気流下、該不活性ガスによる加圧下などで行うことができる。該不活性ガスとしては、窒素、アルゴンなどを例示することができる。
【0022】
本発明に従う反応を有機溶媒の存在下に行う場合、たとえ反応初期は均一溶液状であっても、反応の進行に伴って、生成した塩素化芳香族化合物の過飽和分などの不溶物が析出し、反応系が不均一化することがあるが、撹拌を充分に行うなどして、原料化合物(芳香族アルコールおよび有機酸クロリド)の間の接触が充分に行われる状態が維持される限り特に支障はない。
【0023】
本発明に従う反応に要する時間は、反応温度、芳香族アルコールの種類、有機酸クロリドの種類、有機溶媒の種類、その他の添加剤の種類、量などの条件によって必ずしも一様ではないが、通常、0.1〜20時間の範囲内である。
【0024】
本発明に従う反応によって、使用した芳香族アルコールにおける水酸基が塩素原子に置換された構造を有する塩素化芳香族化合物が生成する。該塩素化芳香族化合物の代表例としては、(1−クロロ−1−メチルエチル)ベンゼン、1,4−ビス(1−クロロ−1−メチルエチル)ベンゼン(DCC)、1,3−ビス(1−クロロ−1−メチルエチル)ベンゼン、1,3−ビス(1−クロロ−1−メチルエチル)−5−(1,1−ジメチルエチル)ベンゼン、1,3,5−トリス(1−クロロ−1−メチルエチル)ベンゼン等が挙げられる。
【0025】
上記のようにして生成した塩素化芳香族化合物は、多くの場合、結晶性が高いため、得られた反応混合物から、必要に応じて濾過等の操作を施した後、再結晶等の操作によって簡便に分離・精製することが可能である。また、結晶性が高くない場合であっても、反応混合物を、必要に応じて水洗した後、蒸留、カラムクロマトグラフィーなどの操作に付することによって、目的の塩素化芳香族化合物を分離・精製することが可能である。なお、上記のような分離操作において未反応の芳香族アルコールを回収してもよく、回収された芳香族アルコールは有機酸クロリドとの反応に再使用することができる。
【0026】
【実施例】
以下に、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0027】
実施例1
窒素気流下、0℃で攪拌中のテトラヒドロフラン300mlとDIOL97.1g(0.50モル)とからなる混合液中に、ピリジン89.0ml(1.10モル)、DMAP(0.05ミリモル)、p−トルエンスルホン酸クロリド227.3g(1.10モル)およびテトラヒドロフラン300mlからなる混合液を添加し、そのまま0℃で5時間攪拌を行った。
得られた反応混合物を濾過し、濾液を−20℃で12時間静置することによって、DCCを析出させた。このようにして取得されたDCCは101.7g(0.44モル、収率88%)であった。なお、取得されたDCCを1H−NMR(400MHz、日本電子製ラムダ400)で分析した結果、純度は99%以上であることが判明した。
【0028】
実施例2
窒素気流下、0℃で攪拌中のテトラヒドロフラン1リットルとDIOL97.1g(0.50モル)とからなる混合液中に、ピリジン89.0ml(1.10モル)、DMAP(0.01ミリモル)、メタンスルホン酸クロリド126.0g(1.10モル)および塩化リチウム46.6g(1.1ミリモル)からなる混合液を添加し、そのまま0℃で10時間攪拌を行った。
得られた反応混合物を濾過し、濾液を減圧下、30℃前後の温度で約500mlになるまで濃縮した。濃縮液を−20℃で12時間静置することによって、DCCを析出させた。このようにして取得されたDCCは80.7g(0.35モル、収率70%)であった。このDCCについて、実施例1と同様にして分析した結果、純度は99%以上であることが判明した。
【0029】
実施例3
窒素気流下、0℃で攪拌中の塩化メチレン1リットルとDIOL97.1g(0.50モル)とからなる混合液中に、ピリジン89.0ml(1.10モル)、DMAP(0.01ミリモル)およびp−トルエンスルホン酸クロリド227.3g(1.10モル)からなる混合液を添加し、そのまま0℃で10時間攪拌を行った。
得られた反応混合物を濾過し、濾液を減圧下、30℃前後の温度で約100mlになるまで濃縮した。濃縮液を2リットルのヘキサンで処理することによって、DCCを析出させた。このようにして取得されたDCCは87.8g(0.38モル、収率76%)であった。このDCCについて、実施例1と同様にして分析した結果、純度は99%以上であることが判明した。
【0030】
比較例1
窒素気流下、0℃で攪拌中のテトラヒドロフラン300mlとDIOL97.1g(0.50モル)とからなる混合液中に、p−トルエンスルホン酸クロリド227.3g(1.10モル)とテトラヒドロフラン300mlとからなる混合液を添加し、そのまま0℃で5時間攪拌を行った。
得られた反応混合物を減圧下に約300mlになるまで濃縮した。濃縮液を−20℃で12時間静置することによって、DCCを析出させた。このようにして取得されたDCCは62.4g(0.27モル、収率54%)であった。
上記濃縮液から析出したDCCを除去した後の溶液をさらに濃縮し、ヘキサン/テトラヒドロフラン混合溶媒を用いて処理することによって、未反応のDIOLを析出させ、これを回収した。回収されたDIOLは36.9g(0.19モル、回収率38%)であった。
なお、上記のDCCおよび回収されたDIOLについて、それぞれ実施例1と同様にして分析した結果、いずれも純度は99%以上であることが判明した。
【0031】
【発明の効果】
本発明に従う反応によれば、1,1−ジヒドロカルビル−1−ヒドロキシメチル基が芳香環に結合した構造を有する芳香族アルコールから1,1−ジヒドロカルビル−1−クロロメチル基が芳香環に結合した構造を有する塩素化芳香族化合物を、取り扱い性に劣り、かつ装置上の制約を伴う塩化水素ガスを使用することなく、塩酸のような非効率的な処理を要する廃液を発生させることなく、また分液、乾燥等の煩雑な後処理を要することなく、合成することができる。したがって、本発明によって、該塩素化芳香族化合物を、該芳香族アルコールから簡便にかつ効率よく製造することのできる、工業的に有利な製造方法が提供される。

Claims (1)

  1. 一般式(1):
    Figure 0003875760
    [式中、Arは芳香環を構成する原子のうちのn個の炭素原子に遊離原子価を持つn価の芳香族基を表し、RおよびRはそれぞれ置換基を有していてもよい1価の炭化水素基を表し(ただし、nが2以上の整数である場合、分子中に含まれるn個の基Rはそれぞれ相違していてもよく、また分子中に含まれるn個の基Rはそれぞれ相違していてもよい)、nは1以上の整数を表す]
    で示される芳香族アルコールを、該芳香族アルコールに対し0.00002〜0.0001倍モルのN,N−ジメチル−4−アミノピリジンの共存下でスルホン酸クロリドと反応させることを特徴とする一般式(2):
    Figure 0003875760
    (式中、Ar、R、Rおよびnは前記定義のとおりである)
    で示される塩素化芳香族化合物の製造方法。
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