JP3875011B2 - アクリロニトリルの製法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、プロピレンのアンモ酸化反応によるアクリロニトリルの製造に関する。
【0002】
【従来の技術】
プロピレンのアンモ酸化によるアクリロニトリルの製造に関しては、これに適する種々の触媒が開示されている。特公昭38-17967号公報にはモリブデン、ビスマス及び鉄を含む酸化物触媒が、特公昭38-19111号公報には鉄及びアンチモンを含む酸化物触媒が示されている。その後これらの触媒の改良が精力的に続けられ、例えば特公昭51-33888号公報、特公昭55-56839号公報、特公昭58-2232号公報、特公昭61-26419号公報、特開平7-47272号公報、特開平10-43595号公報、特開平4-118051号公報等に、モリブデン、ビスマス、鉄に加え、その他成分の添加による改良、鉄、アンチモンに加え、その他成分の添加による改良が、開示されている。
【0003】
また、これら触媒のアンモ酸化反応使用において、モリブデン含有物を反応中に添加しながら反応を行うことによって触媒性能を維持する方法も提案されており、例えば、特公昭58-57422号公報には、モリブデン、ビスマス、鉄、コバルト等を含有する流動層触媒を使用する際、モリブデン成分をシリカに坦持した粒子を加えることによって性能を回復する方法が、DE3,311,521 C2号公報、WO97/33,863号公報には、同様の触媒に三酸化モリブデンまたはそれに変換し得るモリブデン化合物を特定量加える方法が開示されている。鉄及びアンチモンを含有する触媒に対しても同様の提案が有り、特公平2-56938号公報、特公平2-56939号公報等が知られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
これら従来技術による触媒は、それなりにアクリロニトリル収率の改善には効果があったが、なお一層の改良が求められており、特に、触媒製造における再現性、構造安定性、あるいは長期間にわたる安定的なアンモ酸化反応等の点で未だ十分とは言えないものである。鉄並びにアンチモンを含む触媒、特にモリブデン成分の多い特開平4-118051号公報記載のアンチモン酸鉄の結晶相を含む触媒においてもこれらの改善はなお工業的に極めて重要であり、さらなる検討を必要としていた。また、モリブデン含有物を添加して性能維持を図る方法にしても、常に有効という訳には行かない。触媒構造がかなり損傷を受けている場合には効果が認められないし、モリブデンの損失があまりなくても、触媒構造の変化が性能低下の主因である場合には効果がない。適用すべき触媒自体が安定的なものであり、触媒構造上著しい損傷を受けていないものでなければならない。
【0005】
目的とするアクリロニトリル収率の更なる向上、アンモ酸化反応使用においての経時安定性、モリブデン添加による性能維持が長期可能などの要件を満たした触媒が求められていた。本発明は、これら課題を解決しようとするものであり、特に特開平4-118051号公報に開示された触媒組成物を流動層アンモ酸化反応によるアクリロニトリル製造に更に適する触媒として改良を加えたものである。また特公平2-56938号公報、特公平2-56939号公報に開示された反応方法の改良を目的とするものでもある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、鉄、アンチモン、モリブデン、ビスマス、カリウム等の元素からなり、アンチモン酸鉄を含有し、かつ限定された組成領域の触媒が良好な性能を有すること、またモリブデン含有物をこれに適宜添加しつつアンモ酸化反応することにより長期間その性能を維持できることを見出した。
【0007】
この触媒組成物は、高いアクリロニトリル収率を与えると共に、触媒構造として安定なものである。ただし、この触媒もアンモ酸化反応を続けていると、主としてモリブデン成分の逃散によると思われるアクリロニトリル収率の低下が観察される。アンモ酸化反応の反応温度は400℃を越えるものであり、この種のモリブデン含有量の大きい触媒においては避けがたいものと考えられる。これにはモリブデン含有物を添加補給しつつ反応することにより、高位のアクリロニトリル収率を長期間維持することが可能となった。本発明の触媒は、構造的に安定であり、アンモ酸化反応時にモリブデン含有物を添加することによって反応成績の回復は十分に果たされ、しかもこのモリブデン含有物のアンモ酸化反応時での添加は繰り返し行うことができるため、本発明の触媒の使用に際しこのようなモリブデン含有物の添加を組み合わせ適用することによってさらに長期間の反応使用が可能となった。
【0008】
またモリブデン含有物の添加は、反応の初期に行っても良い。触媒は、組成、調製法等により、触媒表面の組成・構造を最適化して反応に供するのが一般的であるが、必ずしも常にそれが実現出来ているとは限らない。最初にモリブデン含有物を添加して反応すると目的生成物収率が高められることがある。これは、モリブデン含有物の添加補給も含めて触媒表面の組成・構造最適化を行ったことになるものと考えられる。
【0009】
従来の触媒は、前述のようにアクリロニトリル収率も不十分であり、また長期使用によって収率が低下したときにモリブデン含有物を添加しても性能の回復が不十分であったが、本発明により、高いアクリロニトリル収率を長期にわたり維持出来る方法が提供された。
【0010】
すなわち、本発明は、プロピレンのアンモ酸化によりアクリロニトリルを製造するに際し、下記の実験式で表される組成の流動層触媒を用いるアクリロニトリルの製法、並びにモリブデン含有物を添加しながらアンモ酸化反応を行うことを特徴とするアクリロニトリルの製法に関する。
Fea Sbb Moc Bid Ke Ff Gg Hh Qq Rr Tt Ox (SiO2)y
(式中、Fe、Sb、Mo、Bi及びKは、それぞれ鉄、アンチモン、モリブデン、ビスマス、及びカリウムを示し、Fはマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、銀、亜鉛及びカドミウムからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素、Gはクロム、アルミニウム、ガリウム及びインジウムからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素、Hはイットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウムからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素、Qはチタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、タングステン、ゲルマニウム、錫および鉛からなる群から選ばれた少なくとも一種の元素、Rはリチウム、ナトリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素、Tは硼素、リン及びテルルからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素、Oは酸素、Siは珪素を、そして添字a、b、c、d、e、f、g、h、q、r、t、x及びyは原子比を示し、a=10の時、b=5〜60、好ましくは6〜30、より好ましくは6.5〜20、c=5〜50、好ましくは8〜45、より好ましくは10〜40、d=0.15〜5、好ましくは0.2〜3、より好ましくは0.3〜2.5、e=0.1〜5、好ましくは0.2〜3、より好ましくは0.3〜2、f=2〜35、好ましくは3〜30、より好ましくは6〜24、g=0.05〜10、好ましくは0.1〜8、より好ましくは0.5〜4、h=0.05〜10、好ましくは0.1〜8、より好ましくは0.3〜4、h/c>0.02、好ましくは0.025〜1、より好ましくは0.03〜0.5、q=0〜10、好ましくは0〜8、より好ましくは0〜4、r=0〜5、好ましくは0〜4、より好ましくは0〜2、t=0〜5、好ましくは0〜4、より好ましくは0〜2、x=上記各元素が結合して生成する金属酸化物の酸素の数、y=20〜500、好ましくは25〜200、より好ましくは30〜180であり、かつアンチモン酸鉄が結晶相として存在する。)
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をより具体的に説明する。
本発明で用いる流動層触媒は、鉄、アンチモン、モリブデン、ビスマス、カリウム、F成分、G成分、H成分、シリカを必須成分とし、更にアンチモン酸鉄を結晶相として含むことが必須であり、それぞれの成分が所定の範囲内になければ本発明の目的を達成することは出来ない。アンチモン酸鉄は、前述の特開平4-118051号公報、特開平10-231125号公報等に記載されているFeSbO4なる化学式で示される化合物であり、触媒のX線回折により存在を確認することが出来る。アンチモン酸鉄はアクリロニトリル収率向上、触媒物性の適性化に必須である。ビスマスはアクリロニトリル収率が高く安定性の良い触媒を与えるために必須であり、そのための好ましい組成領域があることがわかった。カリウムは少なすぎると副生成物が増大し、アクリロニトリル収率の低下を招く。多すぎると反応速度の低下を来たし、アクリロニトリル収率が低下する。F、G並びにH成分は触媒構造の安定化のために寄与し、添加量が少なすぎると触媒構造的に不安定になり、長期にわたり良好なアクリロニトリル収率を維持するのは困難となるし、添加量が多すぎるとアクリロニトリル収率は低下する。
【0012】
触媒成分としては、更に前記のQ、R及びT成分を加えることが出来る。これらは、それぞれに触媒構造の安定化、酸化還元特性の改善、酸・塩基性の調整等を目的に必要により添加される。Q成分としては、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ、タングステン等が、R成分としては、ナトリウム、ルビジウム、セシウム等が好ましい。T成分はアクリロニトリル選択性向上、副生成物の調整等を目的に必要により少量添加する。
【0013】
本発明の方法は、流動層反応により実施される。従って触媒は流動層反応に適する物性、すなわち適当な嵩密度、粒子強度、耐磨耗性、比表面積、流動性等を併せ持つ必要がある。そのため坦体成分として、シリカを用いる。
【0014】
本発明の触媒の調製方法は、前記の従来技術等に開示されている方法を適宜選択し適用すればよい。
【0015】
アンチモン酸鉄の調製法としては、種々提案されている。例えば、特開平4-118051号公報、特開平10-231125号公報等に記載の方法があり、これらの方法から選択して用いればよい。本発明の触媒の製造においては、例えば特開平10-231125に開示されている方法を用いてあらかじめアンチモン酸鉄を調製した後、他の触媒成分原料と混合することが重要である。このアンチモン酸鉄は、アンチモンと鉄以外の元素を少量含有していてもよい。アンチモン酸鉄の存在は、アクリロニトリル選択性向上、流動層触媒としての物性向上に寄与する。
【0016】
モリブデン成分の原料としては、酸化モリブデン、パラモリブデン酸アンモニウム等が、ビスマス成分の原料としては、酸化ビスマス、硝酸ビスマス、炭酸ビスマス、蓚酸ビスマス等が、鉄成分原料としては、硝酸第一鉄、硝酸第二鉄、蓚酸鉄等が、カリウム成分原料としては、硝酸カリウム、水酸化カリウム等が、F、G及びR成分原料としては、それぞれの酸化物、水酸化物、硝酸塩等が用いられる。H、Q成分原料としては、それぞれの酸化物、水酸化物、硝酸塩、酸素酸またはその塩等が、T成分原料としては、硼素の場合は硼酸、無水硼酸など、燐の場合はオルト燐酸等が、またテルルの場合は金属テルル、二酸化テルル、三酸化テルル、テルル酸等が用いられる。シリカ原料としては、シリカゾル、ヒュームド・シリカ等が用いられるが、シリカゾルを用いるのが便利である。
【0017】
アンチモン酸鉄は他の成分原料と混合してスラリーを調製する。触媒原料を混合し、必要によりスラリーのpHを調整し、加熱処理等を加えて触媒スラリーを調製する。pHが比較的高い3〜8に調整して製造するときには、スラリーのゲル化抑制を目的に特許2747920号公報記載の方法に準じてキレート剤、例えばエチレンジアミン四酢酸、乳酸、クエン酸、酒石酸、グルコン酸等を共存させるのが良い。pHが比較的低い1〜3に調整して製造する場合は必ずしもキレート剤の共存は必要ないが、少量加えることにより良好な結果が得られることがある。
【0018】
この様にして調製したスラリーを噴霧乾燥する。噴霧乾燥装置としては、回転円盤式、ノズル式等一般的なものでよい。条件を調節し、流動層触媒として好ましい粒径の触媒が得られるように行う。乾燥後、200〜500℃で焼成したのち、更に500〜700℃で0.1〜20時間焼成する。焼成雰囲気は、酸素含有ガスが好ましい。空気中で行うのが便利であるが、酸素と窒素、炭酸ガス、水蒸気等とを混合して用いることも出来る。焼成には箱型炉、トンネル炉、回転炉、流動炉等が用いられる。
【0019】
この様にして製造される流動層触媒の粒径は、好ましくは5〜200μm、より好ましくは20〜150μmとするのが良い。なお、ここでいう粒径とは粒子全体の平均粒径ではなく、各々の粒子の粒径のことを表す。モリブデン含有流動層触媒を不飽和ニトリルの製造に用いる際に、前述のようにモリブデン含有物を反応中に添加することによって目的生成物の収率を維持する方法は知られている。しかし、安定な触媒構造を持った触媒に適用するのでなければ、その効果は十分に期待できない。本発明の触媒はこの種のアンモ酸化反応が行われる400℃を越える温度で長期間反応使用しても構造的に安定しているので、モリブデン含有物を添加することによって初期と同等ないしはそれ以上の反応成績を維持しつつ反応を継続することが出来る。このような構造的に安定な触媒といえども、反応条件下で少しずつモリブデン成分が触媒から揮発し、おそらく触媒構造が損傷を受けると思われ、これが決定的にならないうちにモリブデン含有物を添加することが必要である。ここで用いられるモリブデン化合物としては、金属モリブデン、三酸化モリブデン、モリブデン酸、ジモリブデン酸アンモニウム、パラモリブデン酸アンモニウム、オクタモリブデン酸アンモニウム、ドデカモリブデン酸アンモニウム、燐モリブデン酸、あるいはこれらモリブデン含有物を不活性物質または触媒に坦持したもの、好ましくは三酸化モリブデン、パラモリブデン酸アンモニウム、あるいはこれらモリブデン含有物を不活性物質または触媒に坦持したものが挙げられる。モリブデン含有物は、ガス状あるいは液体状としても使用できるが、これら固体のモリブデン含有物を粉状として用いるのが実際的には好ましい。
モリブデン含有物を前記触媒に富化させたモリブデン富化触媒を用いる方法は特に有効である。この方法は、添加したモリブデン含有物中のモリブデンの利用効率が高く、系内へのモリブデン析出などによるトラブル発生が抑制されるなど特に好ましい使用形態である。
【0020】
モリブデン含有物を前記触媒に富化させたモリブデン富化触媒を用いる方法は特に有効である。この方法は、添加したモリブデン含有物中のモリブデンの利用効率が高く、系内のモリブデン析出などによるトラブル発生が抑制されるなど特に好ましい使用形態である。モリブデン触媒の製法は、前述の特公平2-56939号公報あるいは特開平11-33400号公報に記載の方法を適用することが出来る。
【0021】
これらモリブデン含有物は連続的にまたは断続的に時々反応器に加える。添加時期並びに添加量はアンモ酸化反応の推移と操作性との関係から適宜決めればよいが、一時に添加する量は、充填触媒に対して、モリブデンとして0.01〜3%の範囲が好ましく、0.05〜2重量%の範囲とするのがより好ましい。一時に多量に加えても、いたずらに反応系外へ逃散し無駄に消費されてしまう上、反応器内へ沈着堆積したり、熱交換器部へ付着したりして運転上問題を生じたりするので注意が必要である。
【0022】
プロピレンのアンモ酸化は、通常、プロピレン/アンモニア/酸素が1/0.9〜1.3/1.6〜2.5(モル比)の組成範囲の供給ガスを用い、反応温度370〜500℃、反応圧力常圧〜500kPaで行う。見掛け接触時間は0.1〜20秒である。酸素源としては、空気を用いるのが便利であるが、これを水蒸気、窒素、炭酸ガス、飽和炭化水素等で希釈して用いても良いし、酸素で富化して用いても良い。
【0023】
【実施例】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明する。
【0024】
触媒の活性試験
プロピレンのアンモ酸化によるアクリロニトリル合成を行って触媒の活性評価をした。
触媒流動部の内径が25mm、高さ400mmの流動層反応器に触媒を充填し、組成がプロピレン / アンモニア / 空気 / 水蒸気 = 1 / 1.2 / 9.5 / 0.5 (モル比)の混合ガスをガス線速度4.5cm/secで送入した。反応圧力は200kPaとした。
なお、反応時にモリブデン含有物を適宜添加した。モリブデン含有物については、いくつかのモリブデン化合物並びにモリブデン成分を富化した触媒を用いて、充填触媒に対して、モリブデンとして0.1〜0.2重量%を100〜500時間の間隔で加えた。モリブデン含有物は、粉末状のものを反応管の上部より投入した。
【0025】
接触時間(sec) = 見掛け嵩密度基準の触媒容積 (ml) / 反応条件に換算した供給ガス流量 (ml/sec)
アクリロニトリル収率(%) = 生成したアクリロニトリルのモル数 / 供給したプロピレンのモル数×100
【0026】
実施例1
組成が、Fe10 Sb9.2 Mo15 Bi0.6 K0.3 Co2.25 Ni6 Cr1.2 Ce0.6 P0.3 B0.3 Ox(SiO2)55(酸素の原子比xは他の元素の原子価により自然に決まる値である。以下同。)である触媒を以下の様にして調製した。
純水3000gにパラモリブデン酸アンモニウム304.9gを溶解し、ついで85%燐酸4.0g及び無水硼酸1.2gをそれぞれ加える。この液へ3.3%硝酸270gに硝酸ビスマス33.5g、硝酸カリウム3.5g、硝酸コバルト75.4g、硝酸ニッケル200.9g、硝酸クロム55.3g、硝酸セリウム30.0g、クエン酸24.9gを溶解した液を混合した。別に純水270gに硝酸第二鉄76.8gとクエン酸25gを溶解した液を調製し、これに加えた。ついで20%シリカゾル1902.5gを加えた。このスラリーを撹拌しつつ15%アンモニア水を加え、pHを2に調整した。これを98℃で1.5時間加熱処理した。さらに別途調製した20%アンチモン酸鉄スラリー1198.5gを加えた。
【0027】
この様にして調製したスラリーを回転円盤式噴霧乾燥機で、入口温度を330℃、出口温度を160℃として噴霧乾燥した。この乾燥粒子を250℃で2時間、400℃で2時間熱処理し、最終的に670℃で3時間流動焼成した。
なお、ここに用いたアンチモン酸鉄スラリーは、次の様にして調製した。
硝酸(65重量%)1815gと純水1006gとを混合し、これに電解鉄粉218gを少しずつ加える。鉄粉が完全に溶解した後、三酸化アンチモン粉末629gを混合し、撹拌しつつ10%アンモニア水を滴下し、pHを1.8に調製した。このスラリーを撹拌しつつ98℃で3時間加熱した。このスラリーを噴霧乾燥機により入口温度を330℃、出口温度を160℃として乾燥後、250℃で2時間、400℃で2時間焼成した。さらに850℃で3時間 窒素気流中で焼成した。焼成後、粉砕し、純水と混合して20%アンチモン酸鉄スラリーとした。以下の実施例、比較例でもこの様にして調製したアンチモン酸鉄スラリーを用いた。
【0028】
実施例2
組成がFe10 Sb9.2 Mo15 Bi0.6 K0.3 Ni8.25 Cr0.75 Ga0.45 Ce0.6 P0.3 Ox(SiO2)55である触媒を実施例1と同様の方法により調製し、表−1の条件で焼成した。但し、無水硼酸及び硝酸コバルトは添加せず、ガリウム原料として硝酸ガリウムを用いて上記硝酸に溶解して添加した。
【0029】
実施例3
組成がFe10 Sb8.6 Mo20 Bi0.8 K0.4 Ni8 Ca0.6 Zn0.4 Cr2.4 Al0.2 In0.2 La0.2 Ce0.6 Ge0.4 B0.4 Ox(SiO2)70である触媒を実施例1と同様の方法により調製し、表−1の条件で焼成した。但し、燐酸及び硝酸コバルトは添加せず、カルシウム、亜鉛、アルミニウム、ランタン、インジウムの各原料としてそれぞれ硝酸カルシウム、硝酸亜鉛、硝酸アルミニウム、硝酸ランタン、硝酸インジウムを用いて上記硝酸に溶解して、ゲルマニウム原料として酸化ゲルマニウムを用いてパラモリブデン酸アンモニウムの次に、それぞれ添加した。
【0030】
実施例4
組成がFe10 Sb8.0 Mo25 Bi1.25 K0.75 Ni12.5 Mg2.5 Cr1 Ce1 Pr0.25 Ox(SiO2)100である触媒を実施例1と同様の方法により調製し、表−1の条件で焼成した。但し、燐酸、無水硼酸及び硝酸コバルトは添加せず、マグネシウム、プラセオジムの原料としてそれぞれ硝酸マグネシウム、硝酸プラセオジムを用いて上記硝酸に溶解して添加した。
【0031】
実施例5
組成がFe10 Sb6.9 Mo25 Bi1.25 K0.5 Ni12.5 Cr1.75 Ce1.25 Rb0.25 P0.25 B0.25 Ox(SiO2)90である触媒を以下の様にして調製した。
純水3000gにパラモリブデン酸アンモニウム352.8gを溶解し、ついで85%燐酸2.3g及び無水硼酸0.7gを加える。この液と3.3%硝酸270gに硝酸ビスマス48.5g、硝酸カリウム4.0g、硝酸ニッケル290.5g、硝酸クロム56.0g、硝酸セリウム43.4g、硝酸ルビジウム2.9g、クエン酸25gを溶解した液とを混合した。ついで20%シリカゾル2161.1gを加えて、撹拌しつつ15%アンモニア水を滴下しpHを7.7に調整した。これを98℃で1.5時間加熱処理した。純水270gに硝酸第二鉄121.1gとクエン酸25gを溶解した液を調製し、これに加え、さらに、別途調製した20%アンチモン酸鉄スラリー623.5gを加えた。
【0032】
この様にして調製したスラリーを回転円盤式噴霧乾燥機で、入口温度を330℃、出口温度を160℃として噴霧乾燥した。この乾燥粒子を250℃で2時間、400℃で2時間加熱処理し、最終的に680℃で3時間流動焼成した。
【0033】
実施例6
組成が、Fe10 Sb7.7 Mo30 Bi1.2 K0.9 Ni16.5 Cr1.2 Ce2.4 W1.5P0.6 Ox(SiO2)110である触媒を以下の様にして調製した。
純水3000gにパラタングステン酸アンモニウム25.5gを溶解し、ついでパラモリブデン酸アンモニウム344.8gを混合溶解し、さらに85%燐酸4.5gを加えた。この液へ3.3%硝酸270 gに硝酸ビスマス37.9g、硝酸カリウム5.9 g、硝酸ニッケル312.4g、硝酸クロム31.3g、硝酸セリウム67.8g、クエン酸25gを溶解した液を混合した。ついで20%シリカゾル2151.7gを混合した。このスラリーを撹拌しつつ15%アンモニア水を滴下し、pH5に調整した。これを環流下98℃で1.5時間加熱処理した。純水270gに硝酸第二鉄78.9gとクエン酸25gを溶解して調製した液をこれに加え、さらに別途調製した20%アンチモン酸鉄スラリー567.5gを加えた。
【0034】
この様にして調製したスラリーを回転円盤式噴霧乾燥機で、入口温度を330℃、出口温度を160℃として噴霧乾燥した。この乾燥粒子を250℃で2時間、400℃で2時間熱処理し、最終的に690℃で3時間流動焼成した。
【0035】
実施例7
組成がFe10 Sb6.5 Mo30 Bi1.2 K0.6 Mg3 Ni10.5 Mn1.5 Cr1.2 Ce1.2 Nb0.3 Ox(SiO2)150である触媒を実施例6と同様の方法により調製し、表−1の条件で焼成した。但し、パラタングステン酸アンモニウム及び燐酸は添加せず、マンガン、マグネシウムの原料として硝酸マンガン、硝酸マグネシウムを用いて上記硝酸に溶解して、ニオブ原料として蓚酸水素ニオブを用いてパラモリブデン酸アンモニウムの次に、それぞれ添加した。また、Te原料としてはテルル酸を用い、水に溶かして硝酸第二鉄とクエン酸の溶液に加えた。
【0036】
実施例8
組成がFe10 Sb7.4 Mo30 Bi1.5 K0.6 Co3 Ni13.5 Cr2.4 Ce2.1 Cs0.3 P0.3 Ox(SiO2)120である触媒を実施例6と同様の方法により調製し、表−1の条件で焼成した。但し、パラタングステン酸アンモニウムは添加せず、セシウム、コバルトの原料として硝酸セシウム、硝酸コバルトを用いえ上記硝酸に溶解して添加した。
【0037】
実施例9
組成がFe10 Sb7.2 Mo35 Bi1.4 K1.05 Ni21 Cr2.45 Ce1.4 Nd0.35 Zr0.7 P0.7 Ox (SiO2)125である触媒を実施例6と同様の方法により調製し、表−1の条件で焼成した。但し、ネオジムの原料として硝酸ネオジム、ジルコニウムの原料としてオキシ硝酸ジルコニウムを用いて上記硝酸に溶解して添加した。
【0038】
実施例10
組成がFe10 Sb7.5 Mo40 Bi2 K1 Ni24 Cr2.8 Ce1.6 Sm0.4 V0.4 Te0.8 Ox(SiO2)140である触媒を実施例6と同様の方法により調製し、表−1の条件で焼成した。但し、パラタングステン酸アンモニウム及び燐酸は添加せず、サマリウムの原料として硝酸サマリウムを用いて上記硝酸に溶解して、バナジウムの原料としてメタバナジン酸アンモニウムをもちいてパラモリブデン酸アンモニウムの次に、それぞれ添加した。
【0039】
比較例1
組成がFe10 Sb9.2 Mo15 Bi0.6 K0.3 Ni8.25 P0.3 Ox(SiO2)55である触媒を実施例1と同様の方法により調製し、表−1の条件で焼成した。但し、無水硼酸、硝酸コバルト、硝酸クロム及び硝酸セリウムは添加しなかった。
【0040】
比較例2
組成がFe10 Sb9.2 Mo15 Bi0.6 K0.3 Ni8.25 La0.3 Ce0.6 P0.3 Ox(SiO2)55である触媒を実施例1と同様の方法により調製し、表−1の条件で焼成した。但し、ランタンの原料として硝酸ランタンを用いて上記硝酸に溶解して添加した。
【0041】
比較例3
組成がFe10 Sb7.4 Mo30 Bi1.5 K0.6 Co3 Ni13.5 Cr2.4 P0.3 Ox(SiO2)110である触媒を実施例6と同様の方法により調製し、表−1の条件で焼成した。但し、パラタングステン酸アンモニウム及び硝酸セリウムは添加せず、コバルト原料として硝酸コバルトを用いて上記硝酸に溶解して添加した。
【0042】
比較例4
組成がFe10 Sb7.4 Mo30 Bi1.5 K0.6 Co3 Ni13.5 Cr2.4 Ce0.3 P0.3 Ox(SiO2)110である触媒を実施例6と同様の方法により調製し、表−1の条件で焼成した。但し、パラタングステン酸アンモニウムは添加せず、コバルトの原料として硝酸コバルトを用いて上記硝酸に溶解して添加した。
【0043】
なお、実施例7〜10及び比較例3〜4に用いたモリブデン富化触媒は、それぞれの実施例、比較例で得られた触媒をベースとして、該触媒にパラモリブデン酸アンモニウム水溶液を含浸後、乾燥、焼成して調製したものである。
【0044】
これら実施例並びに比較例の触媒を用い、上記の反応条件下、プロピレンのアンモ酸化反応をおこなった。
結果を下表に示した。
【0045】
【表1】
【0046】
【発明の効果】
本発明のアクリロニトリルの製法は、高いアクリロニトリル収率を与えると共に、触媒構造が安定なものであるため、アンモ酸化反応の経時安定性が向上し、モリブデン成分を補給添加する事により長期にわたり触媒性能維持が可能である。
Claims (3)
- プロピレンのアンモ酸化によりアクリロニトリルを製造するに際し、下記の実験式で表される組成の流動層触媒を用いるアクリロニトリルの製法。
Fea Sbb Moc Bid Ke Ff Gg Hh Qq Rr Tt Ox (SiO2)y
(式中、Fe、Sb、Mo、Bi及びKはそれぞれ鉄、アンチモン、モリブデン、ビスマス及びカリウムを示し、Fはマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、銀、亜鉛及びカドミウムからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素、Gはクロム、アルミニウム、ガリウム及びインジウムからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素、Hはイットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウムからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素、Qはチタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、タングステン、ゲルマニウム、錫及び鉛からなる群から選ばれた少なくとも一種の元素、Rはリチウム、ナトリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素、Tは硼素、燐及びテルルからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素、Oは酸素、Siは珪素を、そして添字a、b、c、d、e、f、g、h、q、r、t、x及びyは原子比を示し、a=10のとき、b=5〜60、c=5〜50、d=0.15〜5、e=0.1〜5、f=2〜35、g=0.05〜10、h=0.05〜10、h/c>0.02、q=0〜10、r=0〜5、t=0〜5、x=上記各成分が結合して生成する金属酸化物の酸素の数、y=20〜500であり、かつアンチモン酸鉄が結晶相として存在する。) - モリブデン含有物を添加しながらアンモ酸化反応を行うことを特徴とする請求項1に記載のアクリロニトリルの製法。
- 添加するモリブデン含有物が、モリブデン富化触媒であることを特徴とする請求項2に記載のアクリロニトリルの製法。
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