JP3873016B2 - 衛星通信システム、送信地球局及び受信地球局 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、衛星通信システム、送信地球局及び受信地球局に係り、さらに詳しくは、非静止衛星を介して地球局間でデータ伝送を行う衛星通信システムにおける衛星の切り替え方式に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の衛星通信は、赤道上の静止衛星を用いたものであり、地球局から見た衛星は常に静止している。このため、衛星故障等の非常時でない限り、通信に使用する衛星を切り替える必要性はない。しかしながら、近年種々提案され、一部実用化されている非静止型の衛星通信システムでは、地球局に対し相対的に移動する複数の衛星を用いて通信を行っている。したがって、地球局から見た場合、通信に使用する衛星の切り替えを行う必要がある。
【0003】
代表的な非静止衛星には、低軌道衛星システム(LEO:Low Earth Orbit)、楕円軌道衛星システム(HEO:Highly Elliptical Orbit)などがある。例えば、前者の例としてはイリジウムシステムがあり、後者の例としては準天頂衛星システムがある。
【0004】
ここでは、デジタル信号を衛星を介して地球局間で送受信する非静止衛星通信システムにおいて、衛星の切り替えを行う場合について考える。また、衛星通信において衛星にアクセスする方式には、周波数多重分割多元接続方式(FDMA:Frequency Division Multiple Access)、時分割多元接続方式(TDMA:Time Division Multiple Access)、符号分割多元接続方式(CDMA:Code Division Multiple Access)方式などがあるが、ここでは、衛星にアクセスする方式としてFDMA方式を採用する場合について考える。
【0005】
FDMA方式は、衛星の持つ周波数帯域を分割して各地球局に割り当てる方式であり、各地球局は割り当てられた周波数帯域内で信号を送出し、受信側では受信信号がどの割り当て周波数帯域内にあるかによって送信局を識別し、その信号のなかから自局向けのチャネルを取り出す方式であり、アクセス手順が簡単であり、また地球局設備の構成が簡易で低コスト化できるなどのメリットがある。
【0006】
図13は、従来の衛星通信システムの概略構成を示したブロック図である。この衛星通信システムは、FDMA方式で衛星にアクセスする非静止衛星システムであり、このような衛星通信システムにおける衛星切り替えの直前の様子が示されている。
【0007】
この衛星通信システムは、送信地球局1と、複数の通信衛星2A及び2Bと、受信地球局3により構成される。送信地球局1からの送信波は、いずれかの通信衛星2A,2Bを介して受信地球局3で受信することができる。地球局1,3のアンテナビーム内に通信衛星2Aがある場合、通信衛星2Aを介して通信が行われるが、通信衛星2A、2Bは非静止衛星であるため、地球局1,3から見た通信衛星2Aの方位は常に変化している。従って、通信衛星2Aが地球局1,3のアンテナビーム外に移動する前に、次の通信衛星2Bへ切り替える必要がある。図13には、この様な衛星切り替えの直前の状況が示されており、地球局1,3は、通信衛星2A、2Bをともに利用可能な状態にある。
【0008】
通信衛星2Aによる通信時には、送信地球局1のアンテナ15Aから通信衛星2Aに対し周波数f1の電波が送出され、通信衛星2Aのアンテナ22Aで受信される。この受信波は通信衛星2Aにおいて周波数f1’の電波に変換された後にアンテナ22Aから送出され、受信地球局3のアンテナ31Aで受信される。
【0009】
送信地球局1,受信地球局3間の通信を通信衛星2Aから通信衛星2Bへ切り替える場合、切り替えに伴って瞬断が発生する。この瞬断時間をできるだけ短くするためには、切り替え時のある期間、通信衛星2Aに対する送信波と通信衛星2Bに対する送信波を同時に出力する必要がある。一般に、2つの通信衛星2A,2Bは送信地球局1の同一のアンテナビーム内に入らないため、送信地球局1は、2つのアンテナ15A及び15Bを有している。同様にして、受信地球局3も、2つのアンテナ31A及び31Bを有している。
【0010】
送信地球局1は、通信の切替前に、切替後の通信衛星2Bに対してアンテナ15Bから電波を送出する。この送信波は、周波数f1とは異なる周波数f2に周波数f1の送信波と同じデータを載せた信号である。周波数f2の送信波は、通信衛星2Bのアンテナ22Bで受信され、周波数f2’の電波に変換された後にアンテナ22Bから送出され、受信地球局3のアンテナ31Bで受信される。
【0011】
この様にして、2つの通信衛星2A及び2Bを介して、送信地球局1から受信地球局3へ同じデータを送信している状態において、通信衛星の切り替えを行えば、瞬断時間を短くすることができる。このような通信経路の切り替えは、一般にソフトハンドオーバーと呼ばれている。
【0012】
図14は、図13の送信地球局1の構成を示したブロック図である。送信地球局は、変調器12と、2つの送信機13A及び13Bと、2つの送信アンテナ15A及び15Bにより構成される。送信データ入力端子11は、送信デジタルデータが入力される端子である。変調器12は、送信デジタル信号に対しQPSK,BPSK等の変調を行い、IF(Intermediate Frequency)帯の変調波を生成し、同一の変調波を送信機13A及び13Bへ出力する。
【0013】
送信周波数入力端子14A,14Bは、変調波のRF(Radio Frequency)帯における周波数(送信周波数)を指定する設定信号が入力される端子である。送信機13Aでは、送信周波数設定信号に基づき周波数f1のRF信号が生成され、高周波増幅された後、送信アンテナ15Aから通信衛星2Aに向けて送出される。同様にして、送信機13Bでは、送信周波数入力端子14Bの入力信号に基づき周波数f2のRF信号が生成され、高周波増幅された後、送信アンテナ15Bから通信衛星2Bに向けて送出される。
【0014】
図15は、図13の通信衛星2A,2Bの構成を示したブロック図である。通信衛星2Aは、送受信アンテナ22Aと、周波数変換器23Aと、ローカル発振器24Aにより構成される。送信地球局1から送信された周波数f1の電波は、送受信アンテナ22Aで受信され、周波数変換器23Aで周波数f1’に変換される。この周波数変換は、ローカル発振器24Aの発振周波数に基づいて行われ、周波数変換後の電波は、送受信アンテナ22Aから受信地球局3に向けて送信される。
【0015】
全く同様にして、通信衛星2Bは、送受信アンテナ22Bと、周波数変換器23Bと、ローカル発振器24Bにより構成される。送信地球局1から送信された周波数f2の電波は、送受信アンテナ22Bで受信され、周波数変換器23Bで周波数f2’に変換される。この周波数変換は、ローカル発振器24Bの発振周波数に基づいて行われ、周波数変換後の電波は、送受信アンテナ22Bから受信地球局3に向けて送信される。
【0016】
図16は、図13の受信地球局3の構成を示したブロック図である。受信地球局3は、2つの受信アンテナ31A及び31Bと、2つの受信機32A及び32Bと、2つの復調機34A及び34Bと、2つのクロック抽出手段35A及び35Bと、切替器36からなる。つまり、2系統の受信系と、これらの受信系を切り替える切替器36からなる。
【0017】
通信衛星2A,2Bからの電波は、それぞれ受信アンテナ31A,31Bで受信され、受信機32A,32Bへ入力される。受信機32A、32Bは、それぞれの受信波を低雑音増幅した後、IF帯への周波数変換を行う。このとき、受信機32A,32Bでの変換後の周波数(IF周波数)が同一となるように、受信周波数入力端子33A,33Bには周波数設定信号が入力される。
【0018】
復調器34A,34Bは、それぞれ受信機32A,32Bから出力されるIF信号を元のデジタルデータに復調する。このとき、クロック抽出手段35A,35Bによって受信信号からクロック信号が抽出される。クロック信号は、受信データの変化点に基づいて求められ、復調器34A,34Bでは抽出されたクロック信号に基づき復調が行われている。
【0019】
切替器36は、各復調器34A,34Bから出力されるデジタルデータ系列のいずれか一方を受信データ出力端子37へ出力するスイッチング手段である。すなわち、通信衛星2A及び通信衛星2Bのいずれかが切替器36により選択される。切替器36の切り替え動作を両方のデジタルデータ系列が受信されている期間中に行うことによって、瞬断期間を短くすることができる。
【0020】
通信衛星2Aから通信衛星2Bへ切り替える場合であれば、通信衛星2A及び2Bの両方から受信可能な期間中に、切替器36を通信衛星2A側から通信衛星2B側へ切り替える。この切り替えが完了した後、送信地球局1は通信衛星2Aへの送信を停止し、その後は通信衛星2Bのみを用いて送信地球局1から受信地球局3への信号伝送が行われる。
【0021】
【発明が解決しようとする課題】
送信地球局1から受信地球局3までの信号伝搬経路長は、通信衛星2A,通信衛星2Bごとに異なる。このため、復調器34A及び復調器34Bから出力される2系統の受信デジタルデータは、同じデジタルデータ系列であるが、2つのデジタルデータ系列間には所定の遅延時間差が生じている。
【0022】
上述したとおり、非静止衛星を用いてFDMA方式でアクセスする従来の衛星通信システムでは、衛星を切り替える際、異なる通信経路を経由して受信され、遅延時間差を有する2つのデジタル系列の切り替えを行っている。従って、切り替え前と切り替え後で、受信デジタルデータ系列にデータの抜け又は重複が生ずることになる。データの抜けが生じた場合はデータの瞬断とフレーム同期はずれを招き、データの重複が生じた場合は、フレーム同期はずれを招く。つまり、いずれの場合にも受信データが不連続となり、デジタルデータ通信には適さないという問題点があった。また、通信衛星から受信地球局に対して、常に2波の周波数が必要であり、周波数の利用効率が悪く、また、受信地球局に2台の復調器34A,34Bが必要であるという問題があった。
【0023】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、非静止衛星を用いたFDMA方式による衛星通信システムにおいて、衛星切り替え時に受信データの瞬断又はフレーム同期はずれを防止することを目的とする。すなわち、通信衛星の切り替えにより受信データの瞬断又はフレーム同期はずれが生じない衛星通信システム、当該システムに適用可能な送信地球局及び受信地球局を提供することを目的とする。また、周波数利用効率の高い衛星通信システムを提供することを目的とする。さらに、受信地球局を簡易な構成により実現し、安価に提供することを目的とする。
【0024】
【課題を解決するための手段】
本発明による衛星通信システムは、楕円軌道を周回する第1の通信衛星から第2の通信衛星へソフトハンドオーバーにより切り替えて、送信地球局から受信地球局へFDMA方式による無線通信を行うシステムである。各通信衛星は、互いに発振周波数の異なるローカル発振器と、ローカル発振器からの周波数信号に基づいて、受信周波数を送信周波数に変換する周波数変換器とを備えている。送信地球局は、各通信衛星のローカル発振器の発振周波数に基づいて、第1及び第2の通信衛星の送信周波数を一致させるように、第1及び第2の通信衛星に対し周波数の異なる送信信号を生成する2系統の送信機を備えている。
【0025】
この様な構成により、FDMA方式を採用した衛星通信システムにおいて、通信衛星をソフトハンドオーバーにより切り替える際、送信地球局から切替前後の通信衛星へ送信される送信周波数を異ならせるとともに、切替前後の通信衛星から受信地球局へ送信される送信周波数をほぼ同一とすることができる。このため、周波数の利用効率を向上させることができるとともに、受信地球局側において切替器によって通信衛星を切り替える必要がなくなる。
【0026】
また、本発明による衛星通信システムは、受信地球局が、合成された第1及び第2の通信衛星からの送信信号について、送信信号間の遅延時間差を抑圧して復調するマルチパス抑圧復調手段を備えて構成される。この様な構成により、各通信衛星を介する通信経路ごとの遅延時間差による影響を抑圧することにより、復調データの誤りを抑制することができる。
【0027】
また、本発明による衛星通信システムは、送信地球局が、第1及び第2の通信衛星に対しパイロット信号を送信し、第1及び第2の通信衛星における周波数変換後に受信されたパイロット信号に基づいて、送信機による送信周波数を制御する。この様な構成により、受信パイロット信号の周波数に基づいて、各通信衛星における送信波の周波数偏差を検出することができ、第1及び第2の通信衛星の送信周波数をより正確に一致させることができる。
【0028】
また、本発明による衛星通信システムは、軌道計算により求められた第1及び第2の通信衛星によるドップラ周波数偏差に基づいて、送信機の送信周波数を制御する。通信衛星によるドップラ周波数偏差は、通信衛星の軌道計算に基づいて求めることができるため、この様な構成により、ドップラ周波数偏差を考慮して、第1及び第2の通信衛星の送信周波数をより正確に一致させることができる。
【0029】
また、本発明による衛星通信システムは、送信地球局が、軌道計算に基づいて、受信地球局における遅延時間差がマルチパス抑圧復調手段により抑圧可能な最大遅延時間差以下となるように、第2の通信衛星への送信開始及び第1の通信衛星への送信停止を制御する。この様な構成により、通信衛星の切り替え時に、受信地球局における遅延時間差が、マルチパス抑圧復調手段で抑圧できる最大遅延時間差を越えないようにすることができる。
【0030】
また、本発明による衛星通信システムは、送信地球局が、受信地球局における遅延時間差がマルチパス抑圧復調手段により抑圧可能な最大遅延時間差以下となるように、第1及び第2の通信衛星の一方に対する送信波を遅延させる。この様な構成により、通信経路長差にかかわらず、受信地球局における遅延時間差が、マルチパス抑圧復調手段で抑圧できる最大遅延時間差を越えないようにすることができる。
【0031】
また、本発明による衛星通信システムは、送信地球局が、周期的にトレーニングシーケンスが挿入された送信信号を生成するとともに、第2の通信衛星への送信開始時及び第1の通信衛星への送信停止時に、トレーニングシーケンスの挿入周期よりも長い変化時間幅で送信レベルを変化させる。この様な構成により、通信衛星の切り替え時に、受信地球局においてマルチパス抑圧復調手段の抑圧能力が低下するのを抑制することができる。
【0032】
【発明の実施の形態】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1による衛星通信システムの概略構成例を示した図であり、当該システムにおける衛星切り替えの直前の様子が示されている。この衛星通信システムは、FDMA方式で衛星にアクセスする非静止衛星システムであり、送信地球局1と、複数の通信衛星2A及び2Bと、受信地球局4により構成される。
【0033】
通信衛星2A,2Bは、送信地球局1から受信した周波数の異なるの2つの送信波を同一の周波数に変換して受信地球局4へ送信している。受信地球局4では、これらの受信波を合成し、マルチパスによる影響を抑圧しながら復調している。このため、従来の受信地球局3のように切替器36による復調データの選択によって通信衛星2A,2Bを切り替える必要がなく、復調データの瞬断やフレーム同期はずれが生ずることがない。
【0034】
通信衛星2A,2B内では、周波数変換器23A,23Bが、送信地球局1からの受信波をローカル発振器24A,24Bの出力信号とミキシングして周波数変換を行っている。このため、送信波の周波数f1,f2の差をローカル発振器24A,24Bの発振周波数の差に一致させることができれば、通信衛星2A,2Bにおいて、これらの受信波を同一の周波数に変換することができると考えられる。
【0035】
ただし、ローカル発振器24A,24Bは、通信衛星2A,2Bごとに独立であり、これらの発振周波数を完全に制御することはできない。また、送信地球局1に対する各通信衛星2A,2Bの相対速度の差に起因して、各受信波に含まれるドップラ周波数偏位移にも差が生じる。
【0036】
このため、ローカル発振器24A,24Bの安定度や、通信衛星2A,2Bごとのドップラ周波数偏差によって、受信地球局4で受信される2つの通信衛星2A,2Bからの送信波の周波数を完全に一致させることはできない。ここでは、通信衛星2Aにおける受信周波数f1が送信周波数f3に変換され、通信衛星2Aにおける受信周波数f2が、f3とほぼ同一の送信周波数f3’に変換されるものとして説明する。
【0037】
図2は、図1の受信地球局4の一構成例を示したブロック図である。受信地球局4は、2つの受信アンテナ31A及び31Bと、2つの受信機32A及び32Bと、合成手段40と、マルチパス抑圧復調手段41により構成される。
【0038】
受信地球局4は、衛星切り替え時における通信衛星2Aと通信衛星2Bが離れているために、同一アンテナのビーム内に2つの通信衛星が入らない場合を考慮して、2系統の受信アンテナ31A,31B及び受信機32A,32Bを有し、通信衛星2A及び2Bからの各送信波を受信している。合成手段40は、受信機32A及び受信機32Bから出力されるIF信号を合成し、マルチパス抑圧復調手段41へ出力している。
【0039】
マルチパス抑圧復調手段41は、マルチパスによる影響を抑圧しながら、当該合成信号を復調している。2系統の受信信号が、互いに周波数が僅かに異なり、あるいは伝搬遅延時間差を有する場合、合成信号において、2つの信号同士が打ち消し合うビート干渉の問題や、受信波中の送信信号成分が複数シンボルにまたがる符号間干渉の問題が発生する。マルチパス抑圧復調手段41は、既知のマルチパス抑圧方法と同様の方法、例えば適応等化器を用いる方法により、この様なビート干渉や符号間干渉を抑圧して復調を行っている。こうして得られた復調データが受信デジタルデータとして受信データ出力端子37から出力される。
【0040】
図3は、マルチパス抑圧復調手段41内の適応等化器の要部の一構成例を示した図である。この適応等化器は、タップ付き遅延線路100と、適応制御部104により構成される。タップ付き遅延線路100は、合成信号が入力されるシリアル接続された多数の遅延素子101と、遅延素子101の前後から出力される遅延時間の異なる入力信号にタップ係数a,a,a,…を乗ずる乗算手段102と、各乗算手段102の出力信号の和を求める加算手段103からなるトランスバーサルフィルタとして構成される。
【0041】
適応制御部104は、タップ付き遅延線路100の出力信号に基づいて、遅延時間差を抑圧するように各遅延信号に対するタップ係数a〜aを決定する。タップ係数a〜aの決定は、送信信号中のトレーニングシーケンスに基づいて行われる。トレーニングシーケンスとは、送信信号中に周期的に挿入された所定のパターン信号であり、送信データ入力端子11からの送信データ中に含まれているパターンを利用することができる。また、送信地球局1内の変調器12の前段にトレーニングシーケンス挿入手段を設けて、特別なパターンを周期的に挿入してもよい。
【0042】
適応制御部104は、受信データ中のトレーニングシーケンスが既知のパターンに一致するようにタップ係数を自動調整する。このため、2つの受信波の伝搬遅延時間差が各遅延素子100の遅延時間以上であれば、その影響を抑制することができる。なお、各遅延時間100の遅延時間は、通常、送信デジタルデータの1ビット周期に相当する。
【0043】
本実施の形態による衛星通信システムでは、送信地球局1から送信波が、通信衛星2A及び2Bにおいてほぼ同一の周波数に変換され、受信地球局4へ送信される。受信地球局では、ほぼ同一の周波数の2つの受信波を合成し、マルチパスによる影響を抑制しつつ復調している。このため、従来の衛星通信システムのように切替器による受信データの切り替えを行う必要がなく、衛星切り替え時に瞬断やフレーム同期はずれが生ずることがない。また、従来の衛星通信システムに比べて、通信衛星及び受信地球局間での周波数の利用効率を向上させることができる。
【0044】
実施の形態2.
図4は、本発明の実施の形態2による衛星通信システムの概略構成例を示した図である。この衛星通信システムは、送信地球局1と、2つの通信衛星2A及び2Bと、受信地球局5により構成される。図1の衛星通信システム(実施の形態1)と比較すれば、受信地球局5が1つの受信アンテナ31Aのみを備える点で異なっている。
【0045】
図5は、図4の受信地球局5の一構成例を示した図である。この受信地球局5は、受信アンテナ31Aと、受信機32Aと、マルチパス抑圧復調手段41により構成される。受信アンテナ31Aは、通信衛星2Aから送出される周波数f3の送信波と、通信衛星2Bから送出される周波数f3’の送信波をともに受信する。アンテナ31Aにより受信された受信信号は、受信機32Aで低周波増幅及び周波数変換され、マルチパス抑圧復調手段41でマルチパスによる影響を抑制しつつ復調される。
【0046】
衛星の切り替え時において、2つの通信衛星2A及び2Bが同一アンテナのビーム内に入る場合には、受信地球局5に1組のアンテナおよび受信機のみを設け、これらを用いて両通信衛星2A,2Bからの送信波を受信することが考えられる。例えば、受信アンテナ31Aが開口径が小さい場合にはビーム幅が広くなるため、楕円軌道衛星システム(HEO)などで、衛星の軌道を適当に選べば、1つの受信アンテナ31Aにより両通信衛星2A,2Bからの送信波が受信可能となる。
【0047】
本実施の形態による衛星通信システムでは、送信地球局1から送信された周波数の異なる送信波が、通信衛星2A及び2Bにおいてほぼ同一の周波数に変換され、受信地球局5へ送信される。受信地球局5では、1系統の受信アンテナ31A及び受信機32Aにより2つの送信波を受信している。このため、実施の形態1による受信地球局4と比較すれば、受信アンテナ31B、受信機32B及び合成手段40が不要となり、受信地球局の構成を簡潔にすることができる。すなわち、周波数利用効率を向上させるとともに、システムのコストダウンを図ることができる。
【0048】
実施の形態3.
上記実施の形態1,2では、受信地球局4,5において受信される通信衛星2A及び通信衛星2Bからの送信波の周波数差(f3とf3’の差)が大きい場合、マルチパス抑圧復調手段41においてマルチパスによる影響を十分に抑圧することができず、復調データの誤りが多くなってしまう。このため、本実施の形態では、送信地球局からの送信周波数を自動調整して、通信衛星2A及び2Bからの送信周波数を一致させる場合の例について説明する。
【0049】
図6は、本発明の実施の形態3による衛星通信システムの概略構成例を示した図であり、当該システムにおける衛星切り替えの直前の様子が示されている。この衛星通信システムは、FDMA方式で衛星にアクセスする非静止衛星システムであり、送信地球局6と、複数の通信衛星2A及び2Bと、受信地球局5により構成される。
【0050】
送信地球局6は、各通信衛星2A,2Bから受信地球局5への送信周波数がf3となるように送信波の周波数自動制御(AFC:Automatic frequency Control)を行っている。すなわち、送信地球局6は、パイロット信号PAを通信衛星2Aへ送信するとともに、周波数変換後のパイロット信号PAを通信衛星2Aから受信し、受信パイロット信号PAに基づいて送信周波数f1の微調整を行う。同様にして、パイロット信号PBを通信衛星2Bへ送信するとともに、周波数変換後のパイロット信号PBを通信衛星2Bから受信し、受信パイロット信号PBに基づいて送信周波数f2の微調整を行う。
【0051】
図7は、図6の送信地球局6の一構成例を示した図である。この送信地球局は、図14の従来の送信地球局1に、パイロット送信機61A及び61Bと、合成器62A及び62Bと、パイロット受信機63A及び63Bと、周波数偏差検出手段64A及び64Bと、周波数補正手段65A及び65Bを備えて構成される。
【0052】
パイロット送信機61Aは、周波数がf1とは異なるパイロット信号PAを生成している。このパイロット信号PAは、合成器62Aにおいて送信波と混合され、アンテナ15Aから通信衛星2Aへ送出される。通信衛星2Aにおいて受信され、周波数変換されたパイロット信号は、再び、送信地球局6のアンテナ15Aで受信され、パイロット受信機63Aで復調される。
【0053】
周波数偏差検出手段64Aは、この受信パイロット信号PAの周波数偏差に基づいて、通信衛星2Aのローカル発振器24Aの周波数偏差を検出している。通信衛星2Aの運動によるドップラ周波数偏差を小さいとして無視すれば、周波数変換後の受信パイロット信号PAは、ローカル発振器24Aと同じ周波数偏差を有し、受信パイロット信号PAの周波数に基づいて、ローカル発振器24Aの周波数偏差を検出することができる。
【0054】
周波数補正手段65Aは、周波数偏差検出手段64Aで検出された周波数偏差に基づいて、当該周波数偏差を補償するように、送信機13Aによる変調波の周波数f1を補正する。すなわち、送信周波数入力端子14Aから送信機13Aへ入力される送信周波数設定信号を補正する。
【0055】
全く同様にして、周波数偏差検出手段64Bは、通信衛星2Bから受信したパイロット信号PBに基づいて、ローカル発振器24Bの周波数偏差を検出し、この周波数偏差を補償するように、周波数補正手段65Bが送信機13Bによる変調波の周波数f2を補正している。
【0056】
この様にして、送信地球局6と各通信衛星2A,2Bとの間でパイロット信号を送受信し、受信パイロット信号の周波数偏差に基づいて、送信地球局6からの各変調信号の周波数自動制御を行えば、ローカル発振器24A及び24Bの周波数偏差を補償することができる。従って、ローカル発振器24A,24Bの周波数偏差に起因する通信衛星2A,2Bの送信周波数f3,f3’の差を低減することができる。
【0057】
本実施の形態による衛星通信システムでは、送信地球局6と各通信衛星2A,2Bとの間でパイロット信号を送受信し、受信パイロット信号の周波数偏差に基づいて、送信地球局6からの送信周波数を制御している。この様な周波数自動制御により、ローカル発振器24A,24Bの周波数偏差を補償すれば、ローカル発振器24A,24Bの周波数偏差に起因する通信衛星2A,2Bからの送信波の周波数差を低減することができる。
【0058】
実施の形態4.
実施の形態3では、ドップラ周波数偏差が小さく無視できる場合の例について説明したが、本実施の形態では、ドップラ周波数偏差が無視できない場合について説明する。
【0059】
一般に、送信地球局と受信地球局の位置が近ければ、通信衛星2A,2Bから送信地球局へのベクトルと、通信衛星2A,2Bから受信地球局へのベクトルとがほぼ同じになり、パイロット信号に含まれるドップラ周波数偏差と、変調信号に含まれるドップラ周波数偏差がほぼ同等になる。従って、この様な場合には、実施の形態3に示したパイロット信号に基づく送信波の周波数自動制御によってドップラ偏差も補償することができる。
【0060】
しかしながら、送信地球局と受信地球局が離れている場合は、通信衛星2A,2Bから送信地球局6へのベクトルと、通信衛星2A,2Bから受信地球局5へのベクトルとが異なるため、ドップラ周波数偏差を補償することができない。
【0061】
図8は、送信地球局6の他の構成例を示した図である。この送信地球局6は、図7の送信地球局6(実施の形態3)の周波数補正手段65A及び65Bが、ドップラ周波数偏差に基づいて送信周波数設定信号を補正している。ドップラ周波数偏差は送信地球局6及び受信地球局5に対する通信衛星2A,2Bの相対速度に基づいてを求めることができる。
【0062】
ドップラ周波数偏差は、通信衛星2A,2Bの軌道情報と、送信地球局6及び受信地球局5の位置情報に基づいて、図示しない軌道演算装置により求められ、ドップラ周波数偏差入力端子66A,66Bから入力される。すなわち、通信衛星2Aに関するドップラ周波数偏差が入力端子66Aから入力され、周波数補正手段65Aにより、当該ドップラ周波数偏差を補償するように、送信周波数設定信号が補正される。同様にして、通信衛星2Bに関するドップラ周波数偏差が入力端子66Bから入力され、周波数補正手段65Bにより、当該周波数偏差を補償するように、送信周波数設定信号が補正される。
【0063】
ここでは、周波数補正手段65A,65Bが、パイロット信号の周波数偏差及びドップラ周波数偏差に基づいて送信周波数f1,f2を補正し、送信波の周波数自動制御を行っている。このため、2つの通信衛星2A,2Bから受信地球局5へ送信される周波数f3、f3’を一致させることができる。
【0064】
本実施の形態による衛星通信システムでは、ドップラ周波数偏差が入力され、当該ドップラ周波数偏差に基づいて、送信地球局6からの送信周波数を制御している。この様な周波数自動制御により、ドップラ周波数偏差を補償すれば、ドップラ周波数偏差に起因する通信衛星2A,2Bからの送信波の周波数差を低減することができる。
【0065】
実施の形態5.
実施の形態1,2では、送信地球局から2つの通信衛星2A,2Bを介して受信地球局4,5へ至る2つの通信経路長の遅延時間差を受信地球局のマルチパス抑圧復調手段によって抑圧する場合の衛星通信システムの例について説明した。本実施の形態では、さらに、送信地球局において、切替後の通信衛星2Bへの電波送信の開始タイミング、切替前の通信衛星2Aへの電波送信の停止タイミングを制御し、受信地球局5において抑圧される遅延時間差、特にその最大値を制御する場合について説明する。
【0066】
図9は本発明の実施の形態5による衛星通信システムの概略構成例を示した図であり、通信衛星2Aから通信衛星2Bへ切り替える直前の様子が示されている。この衛星通信システムは、送信地球局7と、2つの通信衛星2A及び2Bと、受信地球局5により構成され、図6の衛星通信システム(実施の形態3)と比較すれば、送信地球局7の構成が異なっている。
【0067】
図10は、図9の送信地球局7の一構成例を示した図である。この送信地球局7は、変調器12と、送信機13A及び13Bと、送信ON/OFF制御部71A及び71Bと、送信アンテナ15A及び15Bにより構成される。図14の従来の送信地球局1と比較すれば、送信ON/OFF制御部71A及び71Bを備える点で異なる。
【0068】
送信ON/OFF制御部71Aは、送信ON/OFF信号入力端子72Aから入力される送信ON/OFF信号に基づいて、送信機13Aから送信アンテナ15AへRF信号を伝達し(ON)、あるいは遮断する(OFF)。すなわち、送信アンテナ15Aからの電波送信をON/OFF制御している。同様にして、送信ON/OFF制御部71Bは、送信ON/OFF信号入力端子72Bから入力される送信ON/OFF信号に基づいて、アンテナ15Bからの電波送信をON/OFF制御している。
【0069】
一般に、受信地球局のマルチパス抑圧復調手段41は、そのハードウエア構成によって決まる抑圧可能な遅延時間差の上限があり、これを越える遅延時間差が生じた場合には、受信デジタルデータの誤りが増大する。例えば、図3に示した適応等化器を用いたマルチパス抑圧復調手段の場合、タップ付き遅延器の最大遅延時間を越える遅延時間差を抑制することができない。
【0070】
一方、衛星の切り替えは、通常、2つの衛星通信2A,2Bが近づいた時点で行われるが、その前後において2つの通信衛星2A及び2Bに対し電波送信が同時に行われている。このとき、受信地球局7における遅延時間差が、抑圧可能な最大時間差を越えた場合には、受信デジタルデータの誤りが増大するおそれがある。
【0071】
そこで、受信地球局における遅延時間差がマルチパス抑圧復調手段41において抑圧可能な最大遅延時間差を越えないように、送信地球局7から2つの通信衛星2A,2Bへ電波送信を行う期間を制御すれば、遅延時間差が過大となるのを防止し、このような受信デジタルデータの誤り発生を抑制することができる。
【0072】
送信ON/OFF制御部71A、71Bの動作について、通信衛星2Aから通信衛星2Bへの切り替え時を例に説明する。初期状態では、通信衛星2Aに対してのみ電波が送出されている。すなわち、送信ON/OFF制御部71AがON、送信ON/OFF制御部71BがOFFとなっている。次に、通信衛星2Bへの切り替えが必要となった場合、図示しない軌道演算装置において、通信衛星2A及び2Bによる遅延時間差が軌道計算により求められる。
【0073】
この軌道計算に基づいて、通信衛星2A,2Bによる遅延時間差が、マルチパス抑圧復調手段41の最大遅延時間差に一致した時点で、通信衛星2Bに対する電波送信が開始される。つまり、送信ON/OFF制御部71BがONされる。
【0074】
その後、両通信衛星2A,2Bへの電波送信中に、通信衛星2A,2Bが近づいて遅延時間差が小さくなった後、再び遅延時間差が増大する。そして、通信衛星2A,2Bによる遅延時間差が、マルチパス抑圧復調手段41の最大遅延時間差に一致した時点で、通信衛星2Aに対する電波送信を停止する。つまり、送信ON/OFF制御部71AがOFFされる。
【0075】
本実施の形態による衛星通信システムでは、通信衛星2Aから通信衛星2Bへ切り替える際、2つの通信衛星を介した遅延時間差が、受信地球局5のマルチパス抑圧復調手段41による抑圧可能な最大遅延時間差に一致した時点で、切替後の通信衛星2Bへの電波送信を開始する。また、その後に遅延時間差が減少した後、再び遅延時間差が、マルチパス抑圧復調手段による抑圧可能な最大遅延時間差に一致した時点で、切替前の通信衛星2Aへの電波送信を開始する。
【0076】
このため、2つの通信衛星へ同時に電波送信を行う際、2つの通信経路における遅延時間差が、マルチパス抑制手段の抑圧可能な最大遅延時間差を超えるのを防止することができる。従って、衛星切替の前後において、受信デジタルデータの誤りが増大するのを防止することができる。
【0077】
特に、遅延時間差が、マルチパス抑圧復調手段41の最大遅延時間差に一致した時点で切替後の通信衛星2Bへの送信を開始することにより、受信デジタルデータの誤りを防止可能な最も早い時点において、切替後の通信衛星2Bへの電波送信を開始することができる。
【0078】
また、その後に、遅延時間差が最大遅延時間差に一致した時点で切替前の通信衛星2Aへの送信を停止することにより、受信デジタルデータの誤りを防止可能な最も遅い時点において、切替前の通信衛星2Aへの電波送信を開始することができる。
【0079】
なお、本実施の形態では、2つの通信経路の遅延時間差が、マルチパス抑圧復調手段の最大遅延時間差に一致する場合に、切替後の通信衛星2Bへの電波送信を開始する場合の例について説明したが、本発明はこのような場合に限定されない。すなわち、少なくとも2つの通信経路の遅延時間差が、マルチパス抑圧復調手段の最大遅延時間差以下である場合、つまり、最初に最大遅延時間差に一致した後に、切替後の通信衛星2Bへの電波送信を開始すれば、受信デジタルデータの誤りが増大するのを抑制することができる。
【0080】
また、本実施の形態では、2つの通信経路の遅延時間差が、マルチパス抑圧復調手段の最大遅延時間差に一致する場合に、切替前の通信衛星2Aへの電波送信を停止する場合の例について説明したが、本発明はこのような場合に限定されない。すなわち、少なくとも2つの通信経路の遅延時間差が、マルチパス抑圧復調手段の最大遅延時間差以下である場合、つまり、2回目に最大遅延時間差と一致する前に、切替前の通信衛星2Aへの電波送信を停止すれば、受信デジタルデータの誤りが増大するのを抑制することができる。
【0081】
実施の形態6.
上記実施の形態5では、通信衛星への電波送信の開始時期、停止時期を制御し、受信地球局における通信経路長差による遅延時間差の最大値を送信地球局において制御する衛星通信システムの例について説明した。しかしながら、当該遅延時間差が、マルチパス抑圧復調手段41によりマルチパスの抑圧可能な範囲内、つまり、遅延素子の遅延時間以上で、最大遅延時間差以下にならない場合もあり得る。このため、本実施の形態では、送信地球局において一方の送信波を遅延させ、受信地球局における遅延時間差を調整する衛星通信システムについて説明する。
【0082】
図11は、本発明の実施の形態6による衛星通信システムの要部の一構成例を示した図であり、図9の通信衛星システムに適用される送信地球局7の他の構成例が示されている。この送信地球局7は、図10の送信地球局7に、2つの変調器12A及び12Bを備え、さらに遅延時間補正手段73及び遅延時間予測手段74が設けられている。
【0083】
軌道予測値入力端子75から遅延時間予測手段74へ通信衛星2A,2Bの軌道予測値が入力される。この軌道予測値は、図示しない軌道演算装置において軌道計算を行って求められる通信衛星2A,2Bの位置に関する予測情報である。遅延時間予測手段74は、通信衛星2A,2Bの軌道予測値に基づいて、通信衛星2Aに対する送信波の遅延時間を求める。
【0084】
送信波の遅延時間は、送信ON/OFF制御部71A及び71BがともにONとなる期間中に、2つの通信経路長差による遅延時間差が、受信地球局においてマルチパス抑圧可能な範囲内、すなわち、遅延素子の遅延時間以上で、最大遅延時間差以下となるように決定される。遅延時間補正手段73は、予測された遅延時間に基づいて、変調器12Aへ入力される送信デジタルデータを遅延させて変調器12Bへ入力する。
【0085】
本実施の形態によれば、送信地球局において、受信地球局における遅延時間差を予め予測し、切替後の通信衛星2Aへの送信データを遅延させることにより、受信地球局での遅延時間差をマルチパス抑圧の可能な時間差としている。従って、衛星切り替えの前後において、受信デジタルデータの誤りが増大するのを防止することができる。
【0086】
実施の形態7.
上記実施の形態5では、衛星切り替え時に通信衛星2A,2Bへの電波送信をON/OFF制御し、受信地球局における通信経路長差による遅延時間差の最大値を送信地球局において制御する衛星通信システムについて説明した。ところが、マルチパス抑圧復調手段によるマルチパスの抑圧能力は、送信出力を急激にON又はOFFすることにより低下する場合がある。このため、本実施の形態では、このような衛星通信システムの送信地球局において電波送信のON/OFF制御を行う際、穏やかにON又はOFF制御を行う場合について説明する。
【0087】
図12は、本発明の実施の形態7による衛星通信システムの要部の一構成例を示した図であり、図9の通信衛星システムに適用される送信地球局7の他の構成例が示されている。この送信地球局7は、図10の送信地球局7のON/OFF制御部71A,71Bに代えて、送信レベル可変手段76A,76Bを備えている。
【0088】
送信レベル可変手段76A,76Bは、送信ON/OFF信号入力端子72A,72Bから入力される送信ON/OFF信号に基づいて、電力レベルの急激な変動を避けてゆっくりと送信レベルを変化させ、送信信号を穏やかにON又はOFF制御する。
【0089】
受信地球局4,5のマルチパス抑圧復調手段41として、上述した通り、適応等化器等を用いることが考えられるが、適応等化器は、受信データ中に挿入されたトレーニングシーケンスを利用して、マルチパスの状況を適応的に学習して受信データ中のマルチパス干渉の影響を除去している。従って、マルチパス干渉波(受信信号)のレベル変動期間が、トレーニングシーケンスの挿入周期よりも速い場合には、上記適応的な学習を行うことができず、受信データ中の誤りが多くなる。また、マルチパス干渉波の周波数偏差についても同様であり、トレーニングシーケンスの挿入周期に比べ、十分に小さな周波数偏差でないと、適応的な学習ができない。
【0090】
このため、送信レベル可変手段76A,76Bは、送信レベルを変化させる際、送信ON/OFF期間、つまり、送信レベルの変化時間幅をトレーニングシーケンスの挿入周期よりも長くしている。この様にすれば、送信波のON/OFFに起因して、マルチパス抑圧復調手段41によるマルチパス抑圧能力が低下するのを抑制することができる。
【0091】
通信衛星2Aから通信衛星2Bへ切り替える場合であれば、通信衛星2Bへの送信レベルを穏やかに上昇させて電波の送信を開始した後、通信衛星2Aへの送信レベルを穏やかに低下させて電波の送信を停止させる。
【0092】
本実施の形態によれば、送信地球局において電波送信のON/OFF制御を行う際、穏やかにON又はOFF制御を行っている。このため、送信出力を急激にON又はOFFすることにより、受信地球局におけるマルチパス抑圧能力を劣化させることがないので、衛星切替時に受信デジタルデータの誤りが増大するのを抑制することができる。特に、トレーニングシーケンスの周期よりも長い時間幅で送信レベルを変化させることにより、受信デジタルデータの誤りが増大するのを抑制することができる。
【0093】
【発明の効果】
本発明によれば、楕円軌道を周回する通信衛星を介して、送信地球局から受信地球局へFDMA方式による無線通信を行う衛星通信システムにおいて、第1の通信衛星から第2の通信衛星へソフトハンドオーバーにより切り替える際、第1及び第2の通信衛星におけるローカル発振器の発信周波数に基づいて、送信地球局から通信衛星への送信周波数を決定し、第1及び第2の通信衛星からの送信周波数を一致させている。このため、受信地球局において、受信信号の切り替えを行うことなく通信衛星の切り替えを行うことができ、通信衛星の切り替えに伴って生ずる瞬断やフレーム同期はずれを抑制することができる。また、周波数利用効率を向上させることができる。
【0094】
また、本発明によれば、受信地球局において、第1及び第2の通信衛星からの送信信号について、送信信号間の遅延時間差を抑圧して復調している。このため、マルチパスによる影響を抑圧し、衛星切り替え時に受信データの誤りが増大するものを抑制することができる。
【0095】
また、本発明によれば、送信地球局が、第1及び第2の通信衛星に対しパイロット信号を送信するとともに、周波数変換後のパイロット信号を受信し、受信パイロット信号に基づいて送信地球局からの送信周波数を制御している。このため、各通信衛星から送信される送信周波数をより正確に一致させることができる。
【0096】
また、本発明によれば、軌道計算により求められたドップラ周波数偏差に基づいて、送信地球局からの送信周波数を制御している。このため、各通信衛星から送信される送信周波数をより正確に一致させることができる。
【0097】
また、本発明によれば、受信地球局に2系統の受信系を設ける必要がないため、受信地球局の構成を簡略化することができ、コストダウンを図ることができる。
【0098】
また、本発明によれば、送信地球局が、受信地球局において抑圧可能な最大遅延時間差以下となるように切替後の通信衛星に対する送信波の送出時及び切替前の通信衛星に対する送信停止時を制御している。このため、受信地球局において、遅延時間差を効果的に抑圧することができる。
【0099】
また、本発明によれば、送信地球局が、受信地球局において抑圧可能な最大遅延時間差以下となるように、切替前後の通信衛星に対する送信波の一方を遅延させて送出している。このため、受信地球局において、遅延時間差を効果的に抑圧することができる。
【0100】
また、本発明によれば、送信地球局が、第2の通信衛星への送信開始時及び第1の通信衛星への送信停止時に、送信信号へのトレーニングシーケンスの挿入周期よりも長い変化時間幅で送信レベルを変化させている。このため、通信衛星の切り替え時に、受信地球局において遅延時間差を抑圧することができ、受信デジタルデータの誤りが増大するのを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施の形態1による衛星通信システムの概略構成例を示した図である。
【図2】 送信地球局4の一構成例を示したブロック図である。
【図3】 マルチパス抑圧復調手段41内の適応等化器の要部の一構成例を示した図である。
【図4】 本発明の実施の形態2による衛星通信システムの概略構成例を示した図である。
【図5】 図4の受信地球局5の一構成例を示した図である。
【図6】 本発明の実施の形態3による衛星通信システムの概略構成例を示した図である。
【図7】 図6の送信地球局6の一構成例を示した図である。
【図8】 本発明の実施の形態4による送信地球局6の一構成例を示した図である。
【図9】 本発明の実施の形態5による衛星通信システムの概略構成例を示した図である。
【図10】 図9の送信地球局7の一構成例を示した図である。
【図11】 本発明の実施の形態6による衛星通信システムの要部の一構成例を示した図である。
【図12】 本発明の実施の形態7による衛星通信システムの要部の一構成例を示した図である。
【図13】 従来の衛星通信システムの概略構成を示したブロック図である。
【図14】 図13の送信地球局1の構成を示したブロック図である。
【図15】 図13の通信衛星2A,2Bの構成を示したブロック図である。
【図16】 図13の受信地球局3の構成を示したブロック図である。
【符号の説明】
1 送信地球局、2A,2B 通信衛星、3〜5 受信地球局、
6,7 送信地球局、11 送信データ入力端子、
12,12A,12B 変調器、13A,13B 送信機、
14B,14B 送信周波数入力端子、15A,15B 送信アンテナ、
22A,22B 送受信アンテナ、23A,23B 周波数変換器、
24A,24B ローカル発振器、14A,14B 送信周波数入力端子、
31A,31B 受信アンテナ、32A,32B 受信機、
34A,34B 復調器、35A,35B クロック抽出手段、36 切替器、
37 受信データ出力端子、40 合成手段、41 マルチパス抑圧復調手段、
41 マルチパス抑圧復調手段、56 時間マーカー遅延手段、
61A,61B パイロット送信機、62A,62B 合成器、
63A,63B パイロット受信機、64A,64B 周波数偏差検出手段、
65A,65B 周波数補正手段、
66A,66B ドップラ周波数偏差入力端子、
71A,71B ON/OFF制御部、
72A,72B 送信ON/OFF信号入力端子、73 遅延時間補正手段
74 遅延時間予測手段、75 軌道予測値入力端子

Claims (17)

  1. 楕円軌道を周回する第1の通信衛星から第2の通信衛星へソフトハンドオーバーにより切り替えて、送信地球局から受信地球局へFDMA方式による無線通信を行う衛星通信システムにおいて、
    各通信衛星が、互いに発振周波数の異なるローカル発振器と、ローカル発振器からの周波数信号に基づいて、受信周波数を送信周波数に変換する周波数変換器とを備え、
    送信地球局が、各通信衛星のローカル発振器の発振周波数に基づいて、第1及び第2の通信衛星の送信周波数を一致させるように、第1及び第2の通信衛星に対し周波数の異なる送信信号を生成する2系統の送信機を備えたことを特徴とする衛星通信システム。
  2. 受信地球局が、合成された第1及び第2の通信衛星からの送信信号について、送信信号間の遅延時間差を抑圧して復調するマルチパス抑圧復調手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の衛星通信システム。
  3. 上記送信地球局が、第1及び第2の通信衛星に対しパイロット信号を送信し、第1及び第2の通信衛星における周波数変換後に受信されたパイロット信号に基づいて、送信機による送信周波数を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の衛星通信システム。
  4. 上記送信地球局が、軌道計算により求められた第1及び第2の通信衛星によるドップラ周波数偏差に基づいて、送信機の送信周波数を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の衛星通信システム。
  5. 上記送信地球局は、受信地球局における遅延時間差がマルチパス抑圧復調手段により抑圧可能な最大遅延時間差以下となるように、軌道計算に基づいて、第2の通信衛星への送
    信開始及び第1の通信衛星への送信停止を制御することを特徴とする請求項2に記載の衛星通信システム。
  6. 上記送信地球局は、受信地球局における遅延時間差がマルチパス抑圧復調手段により抑圧可能な最大遅延時間差以下となるように、第1及び第2の通信衛星の一方に対する送信波を遅延させることを特徴とする請求項2に記載の衛星通信システム。
  7. 上記送信地球局は、周期的にトレーニングシーケンスが挿入された送信信号を生成するとともに、第2の通信衛星への送信開始時及び第1の通信衛星への送信停止時に、トレーニングシーケンスの挿入周期よりも長い変化時間幅で送信レベルを変化させ、
    マルチパス抑圧復調手段がトレーニングシーケンスに基づいて、送信信号間の遅延時間差を抑圧することを特徴とする請求項2に記載の衛星通信システム。
  8. 楕円軌道を周回する2以上の通信衛星をソフトハンドオーバーにより切り替えて、受信地球局に対する無線送信を行う送信地球局において、
    各通信衛星のローカル発振器の発振周波数に基づいて、第1及び第2の通信衛星から受信地球局に送信される周波数を一致させるように、第1及び第2の通信衛星に対し周波数の異なる送信信号を生成する2系統の送信機を備えたことを特徴とする送信地球局。
  9. 通信衛星に対しパイロット信号を送信するパイロット送信機と、通信衛星において周波数変換されたパイロット信号を受信するパイロット受信機と、受信パイロット信号に基づいて、通信衛星からの送信波の周波数偏差を検出する周波数偏差検出手段と、検出された周波数偏差に基づいて、送信機の送信周波数を制御する周波数補正手段を備えたことを特徴とする請求項8に記載の送信地球局。
  10. 上記周波数補正手段は、軌道計算により求められたドップラ周波数偏差に基づいて、送信機の送信周波数を制御することを特徴とする請求項8に記載の送信地球局。
  11. 第1及び第2の通信衛星に対する送信波の送出及び停止を制御する送信ON/OFF制御部を備え、
    受信地球局における遅延時間差がマルチパス抑圧復調手段により抑圧可能な最大遅延時間差以下となった後に第2の通信衛星への送信を開始し、最大遅延時間差を越える前に第1の通信衛星への送信を停止することを特徴とする請求項8に記載の送信地球局。
  12. 上記送信地球局は、軌道計算により受信地球局における遅延時間差を予測する遅延時間予測手段と、予測された遅延時間差に基づいて、第2の通信衛星に対する送信波を遅延させる遅延時間補正手段を備えたことを特徴とする請求項8に記載の送信地球局。
  13. 第1及び第2の通信衛星に対する送信波の電力レベルを制御する送信レベル可変手段を備え、第2の通信衛星への送信開始時及び第1の通信衛星への送信停止時に、送信信号中のトレーニングシーケンスの挿入周期よりも長い変化時間幅で送信レベルを変化させることを特徴とする請求項8に記載の送信地球局。
  14. 互いに発振周波数の異なるローカル発振器、及び、ローカル発振器からの周波数信号に基づいて受信周波数を送信周波数に変換する周波数変換器を有する第1及び第2の通信衛星と、各通信衛星のローカル発振器の発振周波数に基づいて第1及び第2の通信衛星の送信周波数を一致させるように第1及び第2の通信衛星に対し周波数の異なる送信信号を生成する2系統の送信機を有する送信地球局と、受信地球局とからなり、楕円軌道を周回する第1の通信衛星から第2の通信衛星へソフトハンドオーバーにより切り替えて送信地球局から受信地球局へFDMA方式による無線通信を行う衛星通信システムで使用される受
    信地球局において、
    送信地球局から異なる周波数により送信され、第1及び第2の通信衛星において同一の周波数に変換された送信波を受信するアンテナと、第1及び第2の通信衛星からの送信信号間の遅延時間差を抑圧して復調するマルチパス抑圧復調手段を備えたことを特徴とする受信地球局。
  15. 上記アンテナが、空間で合成された第1及び第2の通信衛星からの送信波を受信し、
    上記マルチパス抑圧復調手段が、合成信号に含まれる第1及び第2の通信衛星からの送信信号間の遅延時間差を抑圧し、合成信号を復調することを特徴とする請求項14に記載の受信地球局。
  16. 上記アンテナが、第1の通信衛星からの送信波を受信する第1のアンテナと、第2の通信衛星からの送信波を受信する第2のアンテナとからなり、
    上記マルチパス抑圧復調手段が、第1及び第2のアンテナで受信され合成された合成信号に含まれる第1及び第2の通信衛星からの送信信号間の遅延時間差を抑圧し、合成信号を復調することを特徴とする請求項14に記載の受信地球局。
  17. 上記マルチパス抑圧復調手段は、適応等化器からなることを特徴とする請求項14に記載の受信地球局。
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