JP3872610B2 - 炭酸カルシウムの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は硫酸塩法またはソーダ法によるパルプ製造工程の苛性化工程において製紙用填料及び、製紙用塗工顔料として有用な性能を与えるアラゴナイト系イガグリ状炭酸カルシウムを製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
印刷あるいは筆記用に使用される紙には、通常、白色度、不透明度、平滑性、筆記性、手触り、印刷適性等の改良を目的として填料が内添される。この抄紙方法として、填料にタルク、クレー、酸化チタン等を使用し、pH4.5付近で紙を抄く、いわゆる酸性抄紙と、pH7〜8.5の中性〜弱アルカリ性域で紙を抄く、いわゆる中性抄紙がある。中性抄紙では、輸入品で高価なタルク、クレーに変わって、国産の炭酸カルシウムを填料として使用することが可能となる。近年、紙の保存性等の問題から中性抄紙によって得られる中性紙が着目されるようになり、またこのほかにも紙質、コスト、環境対策等の面でもメリットが多いことから、中性抄紙への移行が進んできており、今後ともその普及が拡大する情勢にある。
【0003】
安価で軽量な中性紙への要求が高まってくるなかで、填料としての炭酸カルシウムの位置づけは非常に重要である。この中性抄紙で填料として用いられる炭酸カルシウムには、天然石灰石を乾式あるいは湿式で機械粉砕して得られる重質炭酸カルシウムと、化学的方法によって得られる沈降性炭酸カルシウム(合成炭酸カルシウム)がある。
【0004】
ところが、天然石灰石をボールミル等の粉砕機を使用して得られた重質炭酸カルシウムは、内添填料として使用した場合、抄紙の際に激しくプラスチックワイヤを磨耗させてしまう。さらに、この填料を使用して、通常の上質紙、塗工紙を抄造製造した場合、嵩、白色度、不透明度等において不十分である。
【0005】
一方、化学的方法によって得られる沈降性炭酸カルシウム(合成炭酸カルシウム)は、反応系が比較的簡単(水、消石灰、炭酸ガス)なこともあり、製紙工場のオンサイトにて実際に製造される例もいくつか見られる。
【0006】
しかしながら、この方法は、炭酸カルシウムが唯一の産物であることから、非常に製造コストが高く、ユーザーの要望する低コスト化にはそぐわず、安価な紙には使用できないか、あるいはその使用量も大きく制限される。
【0007】
そこで考えられるのが、クラフトパルプ製造工程の蒸解薬品の回収・再生を行う苛性化工程で副生する炭酸カルシウムを製紙用原料として使用する方法である。
【0008】
しかし、従来ここで得られる炭酸カルシウムは形状コントロールが難しいため、サイコロ状や六角面体などの種々雑多な形状を有し、粒子径も大きく、何れも不定形あるいは塊状で、従来の重質炭酸カルシウムに近いものであるため、この填料を使用して通常の上質紙、塗工紙を製造した場合、嵩、白色度、不透明度等においては不十分であった。また、近年、抄紙機が大型化し、抄紙速度もより高速化する中にあって、プラスチックワイヤの磨耗性とウェットエンドでの歩留まり性にも大きな問題を抱えていた。
【0009】
これに対し最近、特開平10−226974号公報では、生石灰の消和反応と苛性化反応の条件を特定することで上記問題を解決した製紙用に有用な炭酸カルシウムの製造方法が開示されている。しかし、この製造方法により得られる炭酸カルシウムは、抄紙時のワイヤ歩留まり、ワイヤ磨耗、さらに得られる紙の不透明度が十分に良好でなかった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
以上のような状況に鑑み、抄紙時には、ウェットエンドでのワイヤ歩留まりが良く、ワイヤ磨耗性に優れ、またこれを紙の製造に用いた場合には、さらに不透明度が高く、印刷品質等の優れた上質紙や塗工紙を提供するために、苛性化工程を利用して、製紙用に有用な安価なアラゴナイト系イガグリ状炭酸カルシウムを製造する改良方法の提供を本発明の課題とした。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、硫酸塩法又はソーダ法によるパルプ製造工程の苛性化工程を利用して、生成時の生石灰と水のモル比が特定範囲で、かつ特定量の炭酸カルシウムを含有する消石灰をpH5.5〜13.5の液でスラリー化させることによって得られる消石灰乳に、炭酸ナトリウムを苛性化の初期に添加し、その後、硫酸塩法又はソーダ法によるパルプ製造工程の苛性化工程から出る緑液を連続的に添加し、その添加速度及び反応温度を制御することによって解決できることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の第1段工程であるスラリー化において使用する消石灰は、消石灰生成時の生石灰と水のモル比が、生石灰:水=1:1〜1:10の消石灰を使用する。水の量が生石灰:水=1:1より少ない場合には、生石灰が全量消石灰とならず、第2段工程の反応が不均一となり、生成する炭酸カルシウムのアラゴナイト結晶含有率が低下し、不定形あるいは塊状粒子が増加し、ワイヤ摩耗性に劣ると共に、良好な紙質が得られない。水の量が生石灰:水=1:10を超えても生成する炭酸カルシウムのアラゴナイト結晶含有率が低下し、不定形あるいは塊状粒子が増加し、ワイヤ磨耗性に劣ると共に、良好な紙質が得られない。
【0013】
消石灰中の炭酸カルシウム含量については、消石灰の重量を基準として0.05〜10重量%のものを使用する。10重量%を超えれば、生成する炭酸カルシウムのアラゴナイト結晶含有率が低下し、不定形あるいは塊状粒子が増加し、ワイヤ磨耗性に劣ると共に、良好な紙質が得られない。また一方、0.05重量%未満のものを得るためには、原料生石灰の焼成に要するエネルギーが極度に増加したり、あるいは焼成装置に特別な工夫を必要とするなどがあり、不経済となる。
【0014】
ここで、消石灰の生成において使用する生石灰については、由来は特に限定されないが、炭酸カルシウムを主成分とする石灰石、及び硫酸塩法またはソーダ法によるパルプ製造の苛性化工程において炭酸ナトリウムを水酸化ナトリウムに転化する際に生成する炭酸カルシウムを焼成したものが好ましい。
【0015】
消石灰のスラリー化に用いる液としては、pH5.5〜13.5を有するものを使用する。この液には、苛性化工程で補充される水、あるいは緑液や白液中の沈殿物(ドレッグス、炭酸カルシウムスラッジ)を洗浄した上澄液である弱液が使用できる。特に弱液を使用する場合、pH13.5を超えると、NaOHやNa2CO3濃度が高くなるため生成する炭酸カルシウムのアラゴナイト結晶含有率が低下し、不定形あるいは塊状粒子が増加し、ワイヤ磨耗性が劣ると共に、良好な紙質が得られない。一方、苛性化工程で補充される水を使用する場合は、一般的な工業用水の水質レベルのpH5.5以上であれば特に問題ない。また、消石灰のスラリー化に水あるいは弱液を使用した場合、ここでの使用に相当する、苛性化工程で補充される水量あるいはスメルト溶解用弱液の量を減少させることで、苛性化工程内の水バランスを調整できる。このことより、苛性化工程の操業上重要な問題となる白液濃度の低下を伴うこともなく苛性化反応を行うことができる。
【0016】
スラリー化時の消石灰濃度は、10〜60重量%、好ましくは15〜55重量%で行う。60重量%を超えると液粘度が高すぎて現実的に攪拌が困難となり、一方10重量%未満では、生成する炭酸カルシウムのアラゴナイト結晶含有率が低下し、不定形あるいは塊状粒子が増加し、ワイヤ磨耗性に劣ると共に、良好な紙質が得られない。
【0017】
スラリー化時における消石灰と液との混合には、一般的な攪拌羽根式、ポンプ式、押し出し機類、捏和機類、混練機類の中から、混合時の液あるいはスラリーの粘度にあわせて適宜選定して使用すれば良い(昭和63年3月18日丸善株式会社発行、化学工学便覧参照)。
【0018】
スラリー化時の温度は、後で添加する緑液の温度により適宜設定する。スラリー化時の時間は、均一混合できる時間が取れれば良く、濃度、温度、攪拌力等により適宜設定する。
【0019】
本発明の第2段工程である初期の苛性化反応における炭酸ナトリウムは、一般的な市販の工業用の無水炭酸ナトリウムをそのままあるいは濃厚液で使用する。添加の方法は消石灰乳に対する炭酸ナトリウムの添加速度を0.002〜0.5g/min/g(生石灰換算値)、好ましくは0.005〜0.4g/min/g(生石灰換算値)で行う。0.002g/min/g(生石灰換算値)より小さい添加速度では、生産性が劣り現実的でなく、また一方0.5g/min/g(生石灰換算値)より大きい添加速度では、生成する炭酸カルシウムのアラゴナイト結晶含有率が低下し、不定形あるいは塊状粒子が増加し、ワイヤ磨耗性に劣ると共に、良好な紙質が得られない。
【0020】
炭酸ナトリウムによる初期苛性化反応の比率は、第2段工程終了時の全苛性化比率に対し、0.3〜50%、好ましくは5〜30%で行なう。0.3%より低い場合は、使用する消石灰の品質範囲が狭くなり、ある条件下では、生成する炭酸カルシウムのアラゴナイト結晶含有率が低下し、不定形あるいは塊状粒子が増加し、ワイヤ磨耗性が劣ると共に、良好な紙質が得られない。また一方50%より高い場合は、その後の緑液使用量が減少するため、苛性化工程のバランスを崩してしまう。
【0021】
初期苛性化反応温度については、20〜80℃、好ましくは25〜70℃で行う。80℃より高い場合には、生成する炭酸カルシウムのアラゴナイト結晶含有率が低下し、不定形あるいは塊状粒子が増加し、ワイヤ磨耗性に劣ると共に、良好な紙質が得られない。また、一方20℃より低い場合にも、生成する炭酸カルシウムのアラゴナイト結晶含有率が低下し、不定形あるいは塊状粒子が増加し、ワイヤ磨耗性に劣ると共に、良好な紙質が得られない。さらに、冷却のための装置の工夫およびそれに伴う経費がかさみ不経済である。
【0022】
初期苛性化反応時の攪拌には、一般的な攪拌羽根式、ポンプ式、押し出し機類、捏和機類、混練機類の中から、第1段工程で調整された消石灰乳と炭酸ナトリウム粉末が均一に混合できるものを適宜選定して使用すれば良い(昭和63年3月18日丸善株式会社発行、化学工学便覧参照)。
【0023】
後期の苛性化反応に用いる緑液は、一般的な硫酸塩法又はソーダ法の苛性化工程から発生するものを使用でき、その濃度はトータルアルカリで80〜160g/L{その内、Na2CO3が65〜130g/L(Na2O換算、以下同じ)}、好ましくはトータルアルカリ100〜150g/L(その内、Na2CO3が85〜130g/L)である。
【0024】
前記の初期苛性化反応を終了した液と緑液の混合方法は、消石灰乳に対する緑液の添加速度を0.02〜0.5cc(緑液)/min/g(第1段工程で生成した消石灰の生石灰換算値)、好ましくは0.05〜0.4cc(緑液)/min/g(第1段工程で生成した消石灰の生石灰換算値)で行う。0.02より小さい添加速度では、生産性が劣り現実的でなく、また一方0.5より大きい添加速度では、生成する炭酸カルシウムのアラゴナイト結晶含有率が低下し、不定形あるいは塊状粒子が増加し、ワイヤ磨耗性に劣ると共に、良好な紙質が得られない。
緑液による苛性化の反応温度については、反応温度が20〜105℃、好ましくは25〜95℃で行う。105℃より高い場合には、大気圧下での沸騰点を越えるため、加圧型の苛性化装置等を必要とするため不経済である。また、一方20℃より低い場合には、生成する炭酸カルシウムのアラゴナイト結晶含有率が低下し、不定形あるいは塊状粒子が増加し、ワイヤ磨耗性に劣ると共に、良好な紙質が得られない。さらに、冷却のための装置の工夫およびそれに伴う経費がかさみ不経済である。
【0025】
緑液による苛性化反応時の攪拌には、一般的な攪拌羽根式、ポンプ式、押し出し機類、捏和機類、混練機類の中から、消石灰乳と緑液が均一に混合できるものを適宜選定して使用すれば良い(昭和63年3月18日丸善株式会社発行、化学工学便覧参照)。
【0026】
以上のような条件下において、短径が0.1〜1.5μmで、長径が0.3〜6.0μmの棒状あるいは針状の一次粒子がランダムに凝集した、平均粒子径が2.5〜10.0μmで、アラゴナイト結晶を50〜85%含有するアラゴナイト系のイガグリ状炭酸カルシウムが調製可能となる。
【0027】
本発明によって得られるアラゴナイト系イガグリ状炭酸カルシウムは、従来苛性化工程で得られた炭酸カルシウムに比べて、ワイヤ磨耗性、歩留まり性に優れ、これを内添することで上質紙、塗工紙の不透明度等に優れた特徴を与える。
【0028】
本発明では、苛性化の初期に無水炭酸ナトリウムまたはその濃厚液を添加することで、初期の段階から緑液を添加する方法と異なり、初期の反応液濃度を低下させることなく反応を進められるため、均一でしかも高い確率でアラゴナイト結晶の核が生成できるため、ワイヤ摩耗性、ワイヤ歩留まり及び不透明度などの点で、従来よりも優れたアラゴナイト系イガグリ状炭酸カルシウムが得られたと考えられる。
【0029】
【実施例】
以下に本発明を実施例および比較例をあげてより詳細に説明するが、当然ながら、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
[試験法]
▲1▼アルカリの測定:TAPPI624hm−85あるいはこれに準じて測定した。▲2▼消石灰中の炭酸カルシウム含量:SSC5100 TG/DTA22システム(セイコー電子工業株式会社)使用。
▲3▼生成炭酸カルシウムの平均粒子径:生成物を水洗濾過し、水で希釈後、レーザー回折式粒度分布計(シーラス社製モデル715)で平均粒子径を測定した。短径、長径は走査型電子顕微鏡(日本電子(株) 製 JSM-5300)で実測した。
▲4▼形態観察:生成物を水洗濾過し、乾燥後走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製JSM-5300)で形態観察した。
▲5▼結晶系:Rigaku製 X線回折RAD−2Cにより測定した。
▲6▼アラゴナイト結晶含有率(%):硝酸カルシウムと尿素よりアラゴナイト結晶を製造{Gypsum&Lime No.245(P234参照、Rigaku製 X線回折RAD−2Cの測定ではカルサイトピークなし}し、試薬のカルサイト結晶含有率99.9%との混合比率を変えて、X線回折RAD−2Cで測定する。この時のX線回折ピークの2θ=26.2°(アラゴナイト結晶)と2θ=29.4°(カルサイト結晶)の強度から次の計算式{26.2°の強度÷(26.2°の強度+29.4°の強度)}より強度比を求めて、混合割合と強度比の検量線を作成した。この検量線を使用し、アラゴナイト含有率を求めた。
[実施例1]
1Lの4ツ口フラスコ容器(以下の実施例・比較例についても同じ容器使用)に、生成時の生石灰と水のモル比が、生石灰:水=1:8.0であり消石灰の重量を基準として1.6重量%の炭酸カルシウムを含有する消石灰74gと、pH6.8の苛性化工程で補充される水を用い、消石灰濃度が20重量%になる割合で混合、スラリー化させて消石灰乳をつくり、炭酸ナトリウム粉末(純度99%)を
添加速度0.04g/min/g(消石灰の生石灰換算値)、温度50℃で10分間添加し、その後、緑液(組成:Na2CO3=110g/L、Na2S=34g/L、NaOH=6g/L。いずれもNa2O換算値で、以下の実施例・比較例について同じ)を添加速度0.22cc/min/g(生成当初の消石灰の生石灰換算値)、添加時間50分、温度50℃、攪拌速度250rpm(KYOEI社POWER STIRRER TYPE PS-2N使用、以下の実施例・比較例について同じ攪拌機使用)の条件で苛性化反応を行わせた。反応生成物の平均粒子径測定および形態観察を行った結果、平均長径3.0μm、平均短径0.2μmの一次粒子から構成される、平均粒子径が5.5μmのアラゴナイト系イガグリ状炭酸カルシウムが認められた。実験条件および結果を表1−1に示す。
【0030】
[実施例2]
生成時の生石灰と水のモル比が、生石灰:水=1:1.8であり、かつ消石灰の重量を基準として3.0重量%の炭酸カルシウムを含有する消石灰74gと、実施例1と同じ補充水、緑液および装置を用い、消生石灰濃度が30重量%になる割合で混合、スラリー化させて消石灰乳をつくり、実施例1と同じ炭酸ナトリウム粉末を用い、添加速度0.04g/min/g(消石灰の生石灰換算値)、温度45℃で5分間添加し、その後、実施例1と同じ緑液を用い、添加速度0.22cc/min/g(生成当初の消石灰の生石灰換算値)、添加時間55分、温度45℃、攪拌速度250rpmの条件で苛性化反応を行わせた。反応生成物の平均粒子径測定および形態観察を行った結果、平均長径4.0μm、平均短径0.2μmの一次粒子から構成される、平均粒子径が6.0μmのアラゴナイト系イガグリ状炭酸カルシウムが認められた。実験条件および結果を表1−1に示す。[実施例3]
生成時の生石灰と水のモル比が、生石灰:水=1:3.0であり、かつ消石灰の重量を基準として8.0重量%の炭酸カルシウムを含有する消石灰74gと、pH13.1の弱液を用い、消石灰濃度が40重量%になる割合で混合、スラリー化させて消石灰乳をつくり、炭酸ナトリウム粉末(純度90%)添加速度0.04g/min/g(消石灰の生石灰換算値)、温度40℃で10分間添加し、実施例1と同じ緑液を添加速度0.11cc/min/g(生成当初の消石灰の生石灰換算値)、添加時間100分、温度40℃、攪拌速度300rpmの条件で苛性化反応を行わせた。反応生成物の平均粒子径測定および形態観察を行った結果、平均長径3.5μm、平均短径0.2μmの一次粒子から構成される、平均粒子径が5.5μmのアラゴナイト系イガグリ状炭酸カルシウムが認められた。実験条件および結果を表1−1に示す。
[実施例4]
緑液添加時の反応温度を90℃にした以外は、実施例2と同様に実験を行った。反応生成物の平均粒子径測定および形態観察を行った結果、平均長径4.0μm、平均短径0.3μmの一次粒子から構成される、平均粒子径が7.0μmのアラゴナイト系イガグリ状炭酸カルシウムが認められた。実験条件および結果を表1−1に示す。
[比較例1]
炭酸カルシウム含有率3.0重量%の生石灰50gと、pH13.1の弱液を用い、生石灰濃度が30重量%になる割合で混合、消和させて石灰乳をつくり、実施例1と同じ緑液を添加速度0.11cc/min/g(生石灰)、添加時間120分、温度85℃、攪拌速度1000rpmの条件で苛性化反応を行わせた。反応生成物は、平均長径3.8μm、平均短径0.3μmであるアラゴナイト系針状炭酸カルシウムであることが認められた。実験条件および結果を表2−1に示す。
[比較例2]
炭酸カルシウム含有率7.0重量%のキルン焼成生石灰を使用した以外は、比較例1と同様に実験を行った。反応生成物は、平均長径8.0μm、平均短径0.4μmであるアラゴナイト系針状炭酸カルシウムであることが認められた。実験条件および結果を表2−1に示す。
[比較例3]
消石灰のスラリー化に用いる液のpHを13.9にした以外は、実施例1と同様に実験を行った。この時の反応生成物は、平均粒子径が8.2μmであり、その構成一次粒子が不定形あるいは塊状の炭酸カルシウムであることが認められた。実験条件および結果を表2−1に示す。
[比較例4]
消石灰スラリー化時の消石灰濃度を5重量%にした以外は、実施例1と同様に実験を行った。この時の反応生成物は、平均粒子径が9.5μmであり、その構成一次粒子が不定形の炭酸カルシウムであることが認められた。実験条件および結果を表2−1に示す。
[比較例5]
苛性化反応時の緑液添加速度を、0.88cc/min/g(消石灰の生石灰換算値)、添加時間15分にした以外は、実施例1と同様に実験を行った。この時の反応生成物は、平均粒子径が8.5μmであり、その構成一次粒子が不定形あるいは塊状の炭酸カルシウムであることが認められた。実験条件および結果を表2−1に示す。
[比較例6]
消石灰中の炭酸カルシウム含有率を15重量%にした以外は、実施例1と同様に実験を行った。この時の反応生成物は、平均粒子径が10.4μmであり、その構成一次粒子が不定形あるいは塊状の炭酸カルシウムであることが認められた。実験条件および結果を表2−1に示す。
[比較例7]
生成時の生石灰と水のモル比を、生石灰:水=1:15.0にした以外は、実施例1と同様に実験を行った。この時の反応生成物は、平均粒子径が8.4μmであり、その構成一次粒子が不定形あるいは塊状の炭酸カルシウムであることが認められた。実験条件および結果を表2−1に示す。
[比較例8]
苛性化反応時の温度を15℃にした以外は、実施例1と同様に実験を行った。この時の反応生成物は、平均粒子径が8.7μmであり、その構成一次粒子が不定形あるいは塊状の炭酸カルシウムであることが認められた。実験条件および結果を表2−1に示す。
【0031】
[比較例9]
炭酸ナトリウム粉末添加速度を、0.8g/min/g(消石灰の生石灰換算値)で0.5分間添加した以外は、実施例1と同様に実験を行った。この時の反応生成物は、平均粒子径が8.9μmであり、その構成一次粒子が不定形あるいは塊状の炭酸カルシウムであることが認められた。実験条件および結果を表2−1に示す。
[応用例1]
カナダ標準濾水度(以下C.S.F.と略記する)が300mlの晒し化学パルプの単独スラリーに、対パルプ当たり内添サイズ剤(アルキルケテンダイマー)0.02%、硫酸バンド0.5%、カチオン変性デンプン0.3%、実施例1〜4と比較例1〜9で得たそれぞれの炭酸カルシウムを15%(各種苛性化軽カルは、サンドグラインダーで3μmに粉砕したものを用いた)、並びに200ppmの歩留まり向上剤(ポリアクリルアミド、アニオン性分子量400万〜5OO万)を内添し調製したスラリーをテストマシンで抄紙した。この様にして得られた紙の坪量、密度、不透明度の測定は20℃、65%RHで1昼夜調湿した後、JISに準じて行った。また填料の歩留りおよびワイヤ摩耗試験を実施した。試験方法を以下に、また得られた結果を表1−2及び表2−2に示す。
【0032】
【表1−1】
【0033】
【表1−2】
【0034】
【表2−1】
【0035】
【表2−2】
【0036】
[試験法]
(1)ワイヤ摩耗測定法
・試験器:日本フィルコン式磨耗試験装置
・ワイヤ:日本フィルコンCOS−60ポリエステルワイヤ
・スラリー濃度:2重量%
・荷重:1250g
・磨耗時間:90分
・磨耗量:磨耗試験前後のワイヤ重量減量(mg)
・各種苛性化軽カルは、サンドグラインダーで3μmに粉砕したもの
を用いた(2)歩留まり測定法
・使用パルプ:C.S.F.300mlに叩解したパルプ
・紙料濃度:0.5重量%(パルプ/填料=60/40)
・各種苛性化軽カルは、サンドグラインダーで3μmに粉砕したものを用いた
・薬品添加順序:パルプ→硫酸バンド(1%)→カチオン化デンプン(0.2%)→填料→コロイダルシリカ(0.02%)
( )内は対パルプ添加量で重量%
・測定装置:ブリットジャーテスター使用
・測定条件:薬品添加時シェア 700rpm
測定時シェア 1500rpm
使用ワイヤ 200メッシュ
紙料のファーストパスリテンションを測定
[ 応用例2]
応用例1で作製したそれぞれの紙に、サイズプレスで酸化デンプンを乾燥後の重量が2g/m2になるように表面サイズプレスし乾燥した。その後ソフトカレンダー処理(南千住製作所製、60℃、50kg/cm一定で処理)した。塗工液組成として、平均粒子径が0.6μmの重質炭酸カルシウム(商品名:ハイドロカーボ90、白石カルシウム(株)製)60重量%、平均粒子径0.5μmのカオリン(商品名:ウルトラホワイト90、エンゲルハード(株)製)40重量%に対し、接着剤としてリン酸エステル化デンプン4重量%、スチレン・ブタジエン系ラテックス10重量%および分散剤0.3重量%とを含有した濃度64%の塗工液を、テストブレードコータで、片面当り10g/m2を両面に塗工、乾燥させた。得られたものについての品質評価方法を以下に、また得られた結果を表3及び表4に示す。
【0037】
【表3】
【0038】
【表4】
【0039】
[品質評価方法]
(1)白紙光沢度:JIS P−8142に従い測定
(2)平滑度:JAPAN TappiNo.5 王研式平滑度試験機で測定
(3)不透明度:JIS P−8138に従い測定
(4)腰:JIS P−8143に従いクラークこわさ試験器で測定
(5)印刷後光沢:RI印刷機(明製作所製)を用い、サカタインクス製
ダイヤトーンGSL紅を使用し、インキ量0.35cc一定で印刷し、
JIS P−8142に従い角度75度で測定
【0040】
【発明の効果】
実施例1〜4に示す如く、本発明による炭酸カルシウムはアラゴナイト系イガグリ状炭酸カルシウムであった。
【0041】
また応用例1の紙質試験の結果、本発明によるアラゴナイト系イガグリ状炭酸カルシウムは不透明度が高く、填料の歩留り性およびプラスチックワイヤ摩耗性も優れていた。
【0042】
応用例2の本発明のイガグリ状炭酸カルシウム内添紙から作られた塗工紙は、従来の炭酸カルシウム内添紙に比べ不透明度、印刷品質等の点で優れた結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で得られたアラゴナイト系イガグリ状炭酸カルシウムの結晶粒子構造を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例1で得られた生成物についてのX線回折の結果を示す図である。
【図3】実施例2で得られたアラゴナイト系イガグリ状炭酸カルシウムの結晶粒子構造を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例3で得られたアラゴナイト系イガグリ状炭酸カルシウムの結晶粒子構造を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】実施例4で得られたアラゴナイト系イガグリ状炭酸カルシウムの結晶粒子構造を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図6】比較例1で得られたアラゴナイト系針状炭酸カルシウムの結晶粒子構造を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図7】比較例1で得られた生成物についてのX線回折の結果を示す図である。
【図8】比較例3で得られた不定形あるいは塊状炭酸カルシウムの結晶粒子構造を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図9】比較例3で得られた生成物についてのX線回折の結果を示す図である。
Claims (4)
- 硫酸塩法またはソーダ法によるパルプ製造工程の苛性化工程において炭酸カルシウムを製造する方法であって、消石灰生成時の生石灰と水のモル比が、生石灰:水=1:1〜1:10であり、かつ消石灰の重量を基準として0.05〜10重量%の炭酸カルシウムを含有する前記消石灰に対して、前記消石灰の濃度が10〜60重量%になるようにpH5.5〜13.5を有する液を添加し、攪拌あるいは捏和しながらスラリー化させて消石灰乳及び/又は消石灰泥を生成する第1段工程、
ついで該消石灰乳及び/又は消石灰泥に対して、炭酸ナトリウムを0.002〜0.5g/min/g(消石灰の生石灰換算値)の添加速度で所定量逐次添加し、反応温度20〜80℃にて初期苛性化反応を行なわせ、その後、前記苛性化工程で発生し、白液を製造するに必要な緑液を該消石灰乳及び/又は消石灰泥に対して0.02〜0.5cc(緑液)/min/g(消石灰の生石灰換算値)の添加速度で所定量逐次添加し、反応温度20〜105℃にて苛性化反応を行う第2段工程よりなる、製紙用に有用なアラゴナイト系イガグリ状炭酸カルシウムの製造方法。 - 前記pH5.5〜13.5を有する液が、苛性化工程で発生する弱液である請求項1記載のアラゴナイト系イガグリ状炭酸カルシウムの製造方法。
- 第2段工程終了時の全苛性化比率に対する前記炭酸ナトリウムによる初期苛性化反応の比率が5〜50%である請求項1または2記載のアラゴナイト系イガグリ状炭酸カルシウムの製造方法。
- 第1段工程に用いる消石灰の生成時において使用する生石灰が、炭酸カルシウムを主成分とする石灰石、及び/又は硫酸塩法またはソーダ法によるパルプ製造の苛性化工程において炭酸ナトリウムを水酸化ナトリウムに転化する際に生成する炭酸カルシウムを焼成したものである請求項1記載のアラゴナイト系イガグリ状炭酸カルシウムの製造方法。
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