JP3869136B2 - 調湿材料の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、水酸化物又は酸化物系調湿材料の製造方法に関し、特に水酸化アルミニウムゲルの熱処理により、脱水反応で生じた数nmサイズの微細孔を有することを特徴とする調湿材料の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来の日本の家屋では、木材や土壁等の建築材料が用いられていた。これらの材料はそれ自身が調湿性能を有しているが、建築方法自体も高温多湿時の避暑を考慮した気密性の低いものであった。しかし、最近の建築物は調湿性の劣る新建材が多用され、さらに高断熱化・高気密化の促進により、内部結露の発生及びそれに伴う壁面の濡れやシミの発生、カビやダニなどの繁殖などの問題が生じている。このような問題を解決するために、乾燥剤等の使用や、除湿器、エアコン等の空調設備の利用が一般的に行われている。
【0003】
しかし、従来用いられている生石灰、塩化カルシウム、シリカゲルといった乾燥剤は、いずれも吸湿力が強く、除湿能力を制御しにくい。また、一度飽和点に達すると吸湿能力が大幅に低下する欠点を有しており、吸湿有効期間が短く、調湿機能を長期間に渡って維持することが困難である。さらに、一度吸収した水分を分離し吸湿機能を回復させることが容易ではないため、繰り返し再利用することが困難である。一方、除湿器、エアコン等の空調設備の運転による除湿は、エネルギー消費やそれに伴う環境負荷の面及び経済性の面から好ましいものではない。
【0004】
このような問題点を改善するため、建材自体に調湿機能を持たせ、空調設備や電力などを必要とせずに室内の湿度調整を行い、防露性、防黴性を得ることができる調湿建材の開発が行われている。従来、調湿建材としては珪酸カルシウム系建材(特開平5−293367号公報)、珪藻土系建材(特開平4−354514号公報)、ゼオライト系建材(特開平3−93662号公報)等の開発が行われている。
【0005】
また、界面活性剤あるいは長鎖アルキル基を有する有機物を鋳型として合成される多孔質材料の組成物が、アルミノ珪酸塩及び繊維金属元素よりなる群から選ばれる1種または2種以上からなる調湿材料(特開平9−294931号公報)が既に開発されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上述の如く、調湿建材、調湿材料としては既に各種のものが開発されているが、次のような問題点を残している。
すなわち、珪酸カルシウム系調湿建材は、短期間では優れた調湿性、防露性を有しているが、梅雨時のように長期間高湿状態が続いた場合には建材の吸湿量が飽和し、調湿性、防露性を失ってしまう。一方、珪藻土系調湿建材では、調湿能力が珪藻土固有の物性に依存するため、工業原料としての安定性に難点がある。ゼオライトの吸湿性は優れているが、放湿性には劣るため、調湿建材への応用には必ずしも適していない。また、界面活性剤あるいは長鎖アルキル基を有する有機物を鋳型として合成されるアルミノ珪酸塩及び遷移金属元素よりなる群から選ばれる1種又は2種以上からなる多孔質材料組成物の調湿材料は、細孔構造制御による湿度応答性には優れているが、コスト的な面から、実用化には難点が多い。
【0007】
従って、本発明の目的は、湿度制御を行う上で、従来のようにエネルギー消費を必要とせず、毛管凝縮現象を利用し、相対湿度変化に応じて空気中の水蒸気を自律的に吸収・放出することで湿度変化に伴う結露や乾燥を軽減し、人が快適に過ごせる環境湿度を自律的に維持する材料を、安価に製造する方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために、本発明によれば、アルミニウム塩水溶液の水素イオン濃度を調整することにより水酸化アルミニウムを析出させ、水酸化アルミニウムゲルを得る工程、及び得られた水酸化アルミニウムゲルを乾燥後、熱処理することにより多孔質化した水酸化物又は酸化物とする工程からなることを特徴とする調湿材料の製造方法が提供される。
水酸化アルミニウムゲルとしては、種々の方法で調製したものを用いることができるが、好適には、アルミニウム塩水溶液の水素イオン濃度を調整することにより水酸化アルミニウムを析出させ、さらにこれを100℃未満の温水浴中で処理することにより均一に分散させた水酸化アルミニウムゲルを有利に用いることができる。
このような方法により、細孔半径10nm未満のメソポア細孔における毛管凝縮現象で生じる、水蒸気の吸着・脱着時のヒステリシスを利用して、自律的湿度調整機能を発揮する材料を比較的簡単にかつ低コストで製造することができる。
【0009】
【発明の実施の形態】
本出願人は、先に、水酸化アルミニウム(ギブサイトAl23・3H2O)粉末、好ましくは平均粒径が50μm以下の水酸化アルミニウム粉末を減圧雰囲気下で熱処理することを特徴とするアルミナ系調湿材料の製造方法を開発し、既に特許出願している。
この方法によれば、良好な吸・放湿特性を有するアルミナ粉末が得られる。しかしながら、この方法は、減圧雰囲気下という特殊な加熱環境を必要とする点、あるいはさらに水酸化アルミニウム原料の粉砕等の粒度調整を必要とする点が、生産コストを引き上げる要因となり、工業化に際しての難点となる。
【0010】
これに対して、本発明の方法によれば、水酸化アルミニウムゲルを出発原料とすることで、水酸化アルミニウム粉末を出発原料とする場合のように、減圧環境下での熱処理や原料の粉砕・粒度調整といった工程を必要とせず、含水酸化物又は酸化物系調湿材料を比較的簡単に製造することができる。
従って、本発明によれば、毛管凝縮現象を利用し、相対湿度変化に応じて空気中の水蒸気を吸収・放出する多孔質構造体が安価に提供される。
【0011】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明の方法で原料として用いるアルミニウム塩水溶液としては、塩化アルミニウム水溶液、硝酸アルミニウム水溶液等があり、水素イオン濃度を調整することで水酸化アルミニウムが析出するものであればよい。水素イオン濃度の調整剤は、錯イオン形成等により水酸化アルミニウム析出を妨害するものでなければよい。好ましくは、副生物が熱処理時に容易に除去されるものがよい。さらに具体的には、上記塩化物水溶液の場合、アンモニア水溶液が好適なものとして例示される。このアルミニウム塩水溶液に適当な水素イオン濃度の調整剤を添加して水酸化アルミニウムが析出する水素イオン濃度に調整した後、適宜の方法、例えば100℃未満の温水浴中で攪拌する等の処理を行い、水酸化アルミニウムが均一に分散したゲルを調製する。このゲルを適宜な方法、例えば約100℃の恒温槽内で乾燥させた後、所定の温度で適切な時間保持することにより、脱水反応を起こさせ、多孔質水酸化物あるいは多孔質酸化物化させる。加熱条件としては、構造水の脱離だけでなく、副生成物が熱分解して除去される温度以上であり、かつ、形成された細孔構造が消失する温度以下で加熱する。副生成物が熱分解により除去できれば、構造水が完全に脱離していなくてもよい。熱処理後、適宜な方法、例えば乳鉢等を用いての機械的解砕と篩い分け等により粒度を調整し、多孔質材料を得る。
【0012】
【実施例】
以下、実施例及び比較例を示して本発明についてより具体的に説明するが、本発明が下記実施例に限定されるものでないことはもとよりである。
【0013】
実施例1
塩化アルミニウム0.1モルを蒸留水300mlに溶解した後、25wt%アンモニア水41.4gを加え、アルミニウムの水酸化物を析出させた。その後、90℃の温水浴中で3時間処理して熟成させ、水酸化アルミニウムをゲル化させた。ゲルを100℃の恒温槽内で一昼夜保持して乾燥させた後、電気炉にて350℃又は400℃で4時間保持して熱処理し、試料を得た。これをアルミナ乳鉢にて解砕し、70メッシュの篩いを通過したものを測定試料として、以下の測定に供した。
得られた試料の同定は粉末X線回折測定により行った。細孔分布は窒素吸着法を用いて測定した。また、吸・放湿特性は、吸着平衡自動測定装置を用い、測定系内の温度を一定(25℃)にして、水蒸気圧を変化させて平衡状態に達したときの試料重量の変化から吸着量を求める方法(重量法)により測定した。水蒸気吸着量は、絶乾状態の試料重量に対する吸着水重量の割合を示す。
【0014】
実施例1で得られた試料(350℃熱処理)の粉末X線回折パターンを図1に示す。図1の回折パターンは、試料がγ−AlOOHとγ−Al23であることを示している。また、実施例1で得られた試料(350℃熱処理)の細孔分布を図2に示す。得られた試料の細孔分布は、細孔半径約2nmにピークトップを示している。さらに、実施例1で得られた試料(350℃熱処理)の吸・放湿特性(吸着等温線)を図3に示す。得られた試料の吸着等温線は相対湿度約55%で急激に立ち上がり、脱着等温線から相対湿度約75%において吸着していた水蒸気の放湿が急速に進行していることが明らかである。
【0015】
また、実施例1で得られた試料(400℃熱処理)の粉末X線回折パターンを図4に示す。図4の回折パターンは、試料がγ−Al23であることを示している。また、実施例1で得られた試料(400℃熱処理)の細孔分布を図5に示す。得られた試料の細孔分布は、細孔半径約2nmにピークトップを示している。さらに、実施例1で得られた試料(400℃熱処理)の吸・放湿特性(吸着等温線)を図6に示す。得られた試料の吸着等温線は相対湿度約55%で急激に立ち上がり、脱着等温線から相対湿度約75%において吸着していた水蒸気の放湿が急速に進行していることが明らかである。
【0016】
実施例2
硝酸アルミニウム0.1モルを蒸留水300mlに溶解した後、25wt%アンモニア水41.8gを加え、アルミニウムの水酸化物を析出させた。その後、90℃の温水浴中で3時間処理して熟成させ、水酸化アルミニウムをゲル化させた。ゲルを100℃の恒温槽内で一昼夜保持して乾燥させた後、電気炉にて350℃で4時間保持して熱処理し、試料を得た。これをアルミナ乳鉢にて解砕し、70メッシュの篩いを通過したものを測定試料として、以下の測定に供した。
得られた試料の同定は粉末X線回折測定により行った。細孔分布は窒素吸着法を用いて測定した。また、吸・放湿特性は、吸着平衡自動測定装置を用い、測定系内の温度を一定(25℃)にして、水蒸気圧を変化させて平衡状態に達したときの試料重量の変化から吸着量を求める方法(重量法)により測定した。水蒸気吸着量は、絶乾状態の試料重量に対する吸着水重量の割合を示す。
【0017】
実施例2で得られた試料の粉末X線回折パターンを図7に示す。図7の回折パターンは、試料がγ−AlOOHとγ−Al23であることを示している。また、実施例2で得られた試料の細孔分布を図8に示す。得られた試料の細孔分布は、細孔半径約2nmにピークトップを示している。さらに、実施例2で得られた試料の吸・放湿特性(吸着等温線)を図9に示す。得られた試料の吸着等温線は相対湿度約50%で急激に立ち上がり、脱着等温線から相対湿度約65%において吸着していた水蒸気の放湿が急速に進行していることが明らかである。
【0018】
【発明の効果】
以上のように、本発明の方法によれば、例えば相対湿度約50〜70%の所望の湿度条件下において水蒸気の吸収・放出を自動的に行える調湿材料を比較的簡単に、かつ、低コストで製造することができる。
本発明による調湿材料は、以上のような優れた水分吸着・脱着性能を有するため、湿度を自律的に維持する機能性材料であり、外的環境に応じて水蒸気を吸・放出することで長期間の繰り返し利用が可能であり、耐久性の高い調湿材として住宅分野等での応用に好適な材料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例1で調製された材料(350℃熱処理)の粉末X線回折パターンを示すグラフである。
【図2】本発明の実施例1で調製された材料(350℃熱処理)の細孔分布を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例1で調製された材料(350℃熱処理)の水蒸気の吸着・脱着等温線を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例1で調製された材料(400℃熱処理)の粉末X線回折パターンを示すグラフである。
【図5】本発明の実施例1で調製された材料(400℃熱処理)の細孔分布を示すグラフである。
【図6】本発明の実施例1で調製された材料(400℃熱処理)の水蒸気の吸着・脱着等温線を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例2で調製された材料の粉末X線回折パターンを示すグラフである。
【図8】本発明の実施例2で調製された材料の細孔分布を示すグラフである。
【図9】本発明の実施例2で調製された材料の水蒸気の吸着・脱着等温線を示すグラフである。

Claims (2)

  1. アルミニウム塩水溶液の水素イオン濃度を調整することにより水酸化アルミニウムを析出させ、水酸化アルミニウムゲルを得る工程、及び得られた水酸化アルミニウムゲルを乾燥後、熱処理することにより多孔質化した水酸化物又は酸化物とする工程からなることを特徴とする調湿材料の製造方法。
  2. 細孔半径10nm未満のメソポア細孔における毛管凝縮現象で生じる、水蒸気の吸着・脱着時のヒステリシスを利用して、自律的湿度調整機能を発揮する材料を製造する請求項1に記載の製造方法。
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