JP3861316B2 - ブレーキ制御アクチュエータ - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、運転者のブレーキペダル操作に追従してブレーキ圧力を制御する、いわゆるブレーキバイワイヤ制御に使用するブレーキ制御アクチュエータに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、ブレーキペダルに連なるブレーキマスタシリンダとホイールに制動力を加えるホイールシリンダとの間のブレーキ液通路に設けられ、車両の運転状態に応じてブレーキ液通路をカット弁により遮断し、ブレーキペダルの操作状態に応じて、封入されたブレーキ液をピストンにより圧縮してブレーキ圧力を制御するブレーキ制御アクチュエータがある。
そして、ブレーキ液を圧縮するピストンと一体にボールねじを形成したものとして、例えば特開平6ー270781号公報に記載のものがある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
特開平6ー270781号のものは、ピストンの初期位置で縮められたばねを備えた可動スプリングシートに当たる構成であるため、衝撃吸収が可能である。ところが、故障によってカット弁を開放し、マスタシリンダの圧力を直接ピストンに作用させた場合に生じるピストンの後退を防止するには、ばねの初期荷重をピストンに加わる最高圧力相当の荷重で与えなければならない。この荷重は、非常に大きくなるため、ばねの長さ、径を大きくしなければならない。したがって、装置が大型化するという問題があった。
【0004】
本発明は、上記の問題点を解決するために提案されたもので、ブレーキ制御アクチュエータを小型化するとともに、信頼性の向上を図ることを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本発明に係るブレーキ制御アクチュエータは、内部に収容したピストンの一側に形成されたブレーキ液空間を、車両のブレーキマスタシリンダとホイールシリンダとの間のカット弁が設けられたブレーキ液通路のカット弁とホイールシリンダの間に連通させた制御シリンダと、ピストンと別体に形成され、ピストンに当接してピストンを前進させ、ブレーキ液を圧縮可能のピストン駆動手段と、制御シリンダに設けられ、ピストン駆動手段が後退したとき、ピストンのみが当接してその初期位置を定めるピストン位置規制手段と、ピストン駆動手段に連結された駆動モータとを備え、制御手段により駆動モータを作動させ、ブレーキ操作を行うとき、ピストンがブレーキ液を圧縮するようにピストン駆動手段を前進させ、ブレーキ操作を行なわないとき、ピストンがピストン位置規制手段により設定される初期位置に後退するようにピストン駆動手段を後退させるものとした。
【0006】
加えて、ピストン駆動手段の初期位置を設定する位置規制手段が設けられ、ピストン駆動手段は、カット弁が開かれているとき、初期荷重が駆動モータを回転させる最小トルク相当の力を僅かに上回る値に設定された第1のばねにより、初期位置に保持されることが好ましい。
また、上記のピストンは、カット弁が開かれているとき、初期荷重が前記ピストンと制御シリンダとの間に生じる摩擦力を僅かに上回る値に設定された第2のばねにより、初期位置に保持されることが好ましい。
また、上記の制御手段は、カット弁が開かれているとき、駆動モータに、ピストン駆動手段を後退させるようにコギングトルク相当の電流を、常時または間欠的に付加することが好ましい。
また、上記の制御手段は、ピストンがピストン位置規制手段に当接したことを検出して駆動モータの両端をショートさせる急停止信号を出力することが好ましい。
【0007】
また、上記のピストン位置規制手段が、前記制御シリンダ内部の底壁に、ピストン駆動手段の位置規制手段が、制御シリンダ底壁の下端面に形成されるとともに、ピストン駆動手段が、ピストンに当接するフランジを備え、フランジの下端面を第1のばねにより可動スプリングシートを介して支持させ、可動スプリングシートが制御シリンダの下端面に当接しかつフランジが可動スプリングシートに支持されたピストン駆動手段の初期位置において、フランジがピストン位置規制手段と制御シリンダの下端面の間に位置したときのフランジの厚さ寸法が、ピストン位置規制手段とピストン駆動手段の位置規制手段との間の間隔寸法以下に形成されていることが好ましい。
また、上記のピストン駆動手段は、ピストンの移動軸心と同軸心のピストン駆動軸を備え、該ピストン駆動軸にローラをその軸心と直角方向の軸により取り付け、該ピストン駆動軸のローラ部分を断面四角形状の案内溝に収容することが好ましい。
【0008】
【作用】
本発明に係るブレーキ制御アクチュエータは、ブレーキ操作を行うとき、制御手段によりカット弁を作動させてブレーキマスタシリンダとホイールシリンダとの間のブレーキ液通路を遮断するとともに、駆動モータを作動させ、ピストン駆動手段により制御シリンダ内のピストンを駆動してブレーキ圧を制御する。また、ブレーキ操作を停止するときは、制御手段により駆動モータを作動させ、ピストン駆動手段により制御シリンダ内に収容されたピストンをピストン位置規制手段に当接する初期位置まで後退させる。これにより、ピストンのストロークを従来に比較して短縮でき、ピストンがピストン位置規制手段に当接したときの衝撃が低下される。
また、ピストンとピストン駆動手段が別体に形成されているので、ピストンによりブレーキ液が制御シリンダ内に封入され、ピストン駆動手段が取り外されても、ブレーキ液が漏れることが防止される。
【0009】
加えて、初期荷重が駆動モータを回転させる最小トルク相当の力を僅かに上回る値に設定された第1のばねにより、ピストン駆動手段が初期位置に保持されると、車両の振動などによるピストン駆動手段の初期位置のずれが防止される。
また、上記のピストンが、ピストンと制御シリンダとの間に生じる摩擦力を僅かに上回る値に設定された第2のばねにより、初期位置に保持されると、ピストン駆動手段の作動時に第2のばねが負荷となることがない。
また、上記の制御手段は、カット弁が開かれているとき、駆動モータに、ピストン駆動手段を後退させるようにコギングトルク相当の電流を、常時または間欠的に付加すると、不作動時、ピストン駆動手段が常に初期位置に保持される。
また、上記の制御手段が、ピストンがピストン位置規制手段に当接したことを検出して駆動モータに急停止信号を出力すると、ピストン駆動手段が後退したときの衝撃を第1のばねのみで受けることがなくなり、ピストンが短いストロークで停止されるとともに、ピストン駆動手段に加わる衝撃が緩和される。
【0010】
また、上記のピストン位置規制手段が、前記制御シリンダ内部の底壁に、ピストン駆動手段の位置規制手段が、制御シリンダ底壁の下端面に形成され、ピストンに当接するフランジをピストン駆動手段に設け、第1のばねにより可動スプリングシートを介してフランジの下端面を支持させ、可動スプリングシートが制御シリンダの下端面に当接しかつフランジが可動スプリングシートに支持されたピストン駆動手段の初期位置において、フランジがピストン位置規制手段と制御シリンダの下端面の間に位置したときのフランジの厚さ寸法が、ピストン位置規制手段とピストン駆動手段の位置規制手段との間の間隔寸法以下に形成されていると、その両寸法の精度管理を行なうだけで、応答性に優れた最適状態に設定される。
また、上記のピストン駆動手段が、ピストンの移動軸心と同軸心のピストン駆動軸を備え、該ピストン駆動軸にローラをその軸心と直角方向の軸により取り付け、該駆動軸を断面四角形状の案内溝に収容すると、ピストン駆動軸の回り止めが小型に形成される。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係るブレーキ制御アクチュエータの一実施例について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は構成を示す図、図2は制御シリンダ部分の拡大図であり、それぞれ初期状態、および作動状態が示されている。運転者がブレーキ操作を行なうブレーキ操作部100のマスタシリンダ102と、ホイールディスク104に制動力を与えるホイールシリンダ103との間にブレーキ制御アクチュエータ110が設けられ、それぞれ液圧配管105、106により接続されている。
【0012】
ここで、マスタシリンダ102とブレーキ制御アクチュエータ110との間にカット弁107が設けられ、ブレーキ操作部100のブレーキペダル101が操作されたとき、カット弁107が作動してブレーキ液通路が遮断されるようになっている。また、カット弁107のブレーキ操作部100側およびブレーキ制御アクチュエータ110側にそれぞれ第1の圧力センサ108および第2の圧力センサ109が設けられ、第1の圧力センサ108がマスタシリンダ102の発生圧力を、第2の圧力センサ109がホイールシリンダ103の圧力を検出している。そして、第1の圧力センサ108により検出したマスタシリンダ102の発生圧力に応じて、後述する制御回路150によりブレーキ制御アクチュエータ110を作動させてブレーキ圧を制御するようになっている。
【0013】
ここで、フェイルセーフのため、マスタシリンダ102には、プライマリとセカンダリの2系統の液圧配管が接続されていて、プライマリの液圧配管は前2輪、セカンダリの液圧配管は後2輪に接続されている。ただし、プライマリの液圧配管を右前輪と左後輪、セカンダリの液圧配管を左前輪と右後輪とに接続する場合もある。本実施例においては、1輪についてのみ示されている。
【0014】
ブレーキ制御アクチュエータ110は、上部にマニホールド111を備えている。マニホールド111は、カット弁107に通じるポート111a、およびホイールシリンダ103に通じるポート111bが形成され、そのポート111a、111b間がブレーキ液通路111cになっている。そして、マニホールド111と一体的にシリンダ112が設けられ、ブレーキ液通路111cとシリンダ室113が連通されている。また、シリンダ室113内にピストン114が収容され、カット弁107により遮断されたホイールシリンダ103側のブレーキ液の容積を変化させる。
【0015】
シリンダ112は、シリンダ室113の下部に内向き鍔状のピストンストッパ115が形成され、内側を貫通穴115aとしている。ピストン114は、その上面に凸状のばねガイド114aを備えるとともに、側面にシリンダ壁112aに対するシール部材116が設けられている。そして、ピストン114とマニホールド111との間に、第2のばねとしての戻しばね117が挿入され、ピストン114は、通常、戻しばね117により位置規制手段としてのピストンストッパ115に当接する初期位置に保持されている。ここで、戻しばね117の初期荷重は、シリンダ壁112aとシール部材116との間に発生する摩擦力よりやや大きい値、例えば摩擦力が30Nであるとき、戻しばね117の初期荷重を50Nに設定される。
【0016】
ピストン114の下部に、ピストン駆動手段として、ピストン114と別体のピストン駆動軸120を設け、貫通穴115aを通してピストン114を昇降させてブレーキ液圧を制御している。また、ピストン駆動軸120は、上部にピストン114の下面に当接するフランジ121、下部にボールねじ122が設けられ、中間部に4個のベアリングローラ123が、ピストン駆動軸120の軸心と直角方向の軸ピン123aにより取り付けられている。ここで、フランジ121の厚さ寸法Aは、ピストンストッパ115の厚さ寸法Bよりやや小さく設定されている。
そして、ピストン駆動軸120は、フランジ121の下側軸部がガイドケース125に設けたリニアブッシュ126に案内される。また、図3に示すように、ガイドケース125に形成された四角形状の案内溝127にベアリングローラ123が収容され、ピストン駆動軸120が上下動自在に形成されるとともに、その回動が規制されている。このガイドケース125は、基台130に取り付けられている。
【0017】
また、ピストン駆動軸120のフランジ121とガイドケース125との間に、ガイドケース125に被るように逆カップ状の可動スプリングシート131と、可動スプリングシート131をフランジ121の下面に当接させ、ピストン駆動軸120を常時上方に付勢する第1のばねとしてのバックアップスプリング132とが挿入されている。バックアップスプリング132は、可動スプリングシート131の下部に形成した鍔部131aとガイドケース125の下端鍔部125aとの間に挿入されている。そして、シリンダ112の下面112bが位置規制手段として使用され、ピストン駆動軸120が上方に移動してピストン114を駆動している状態のときは、可動スプリングシート131がシリンダ112の下面112bに当接している。
【0018】
バックアップスプリング132は、可動スプリングシート131がシリンダ112の下面112bに当接しているとき、初期荷重を発生するように設定される。この初期荷重は、駆動モータ135のコギングトルクTcのピーク値を軸方向推力に換算した値に対してやや上回る値に設定される。ここで、コギングトルクTcとは、モータコアが磁石に引きつけられるために発生するトルクと静摩擦トルクとの総和である。具体的に数値を使用して説明すると、例えば、コギングトルクTcを0.05Nm、ギヤ比Kgを10、ボールねじ122のリードLbを10mmとすると、換算した推力Fc(N)は、
Fc=Tc×Kg×2π/(Lb/1000)=314.16(N)
となるので、初期荷重は350(N)程度に設定すればよいことになる。
【0019】
ボールねじ122は、ピストン駆動軸120の下部に雄ねじ部122aが形成され、その雄ねじ部122aに対するボールねじナット122bが取り付けられている。そして、ボールねじナット122bにカラー133を介してギヤ134が一体的に固定されている。
一方、駆動モータ135はピストン駆動軸120の側方に設けられ、その出力軸136に設けたピニオン137と上記ギヤ134とが、軸138で基台130に支持された中間のギヤ139、ピニオン140を介して連結されている。
さらに、カラー133の上部に鍔部133aが形成され、基台130に形成された内向き鍔部130aとの間にボールベアリング141が挿入され、ピストン駆動軸120の下部が基台130に回転自在に支持されている。
【0020】
そして、マニホールド111と基台130とは、制御シリンダ112、可動スプリングシート131、バックアップスプリング132などを覆うようにケース145で固定されている。また、基台130の下部に設けられたボールねじ122、ギヤ134、139、ピニオン137、140などがカバー146で覆われている。
【0021】
次に、制御回路150について、図4の構成を示すブロック図により説明する。
制御回路150は、電源に接続される端子160a、160bを備え、4個のパワー素子で156aで構成されたモータ駆動回路156が、端子160a、160bを介して電源に接続されている。また、パワー素子156aは端子165a、165bを介して駆動モータ135に接続されて電圧の供給を制御する。
【0022】
モータ電流演算回路151は、端子161a、161bを介して第1の圧力センサ108に、また、端子162a、162bを介して第2の圧力センサ109に接続されている。モータ電流演算回路151には、パルスDuty計算回路154、ロジック回路155が順次接続されている。そして、ロジック回路155が、モータ駆動回路156の4個のパワー素子156aに接続されている。
また、駆動モータ135の電流検出回路152がモータ駆動回路156との間に設けられ、電流検出回路156に信号処理回路153が接続され、信号処理回路153とパルスDuty計算回路154が接続されている。
【0023】
また、ピストン下端判断回路157が、端子161a、161bを介して第1の圧力センサ108に、また、端子162a、162bを介して第2の圧力センサ109に接続されるとともに、ロジック回路155に接続されている。
また、電磁カット弁開閉回路158が、端子161a、161bを介して第1の圧力センサ108に、端子163を介して図に省略したブレーキペダルスイッチに、また、端子164a、164bを介して電磁カット弁107に接続されている。さらに、電磁カット弁開閉回路158には故障検出回路159が接続されている。
【0024】
まず、各回路151〜159について、その機能を説明する。
電磁カット弁開閉回路158は、マスタシリンダ102の圧力に基づいて、ホイールシリンダ103によるブレーキ圧力を上昇させるか否かを判断する。そして、ブレーキペダル101が操作されてマスタシリンダ102の圧力が上昇したとき、電磁カット弁107に電流を加えてブレーキ液通路を遮断する。ブレーキ圧力を上昇させる場合としては、運転者がブレーキをかけようとしてブレーキペダル101を踏み込んだとき、または、前記のようにアンチスキッドやトラクション制御コントローラから指令が与えられたときなどである。また、故障検出回路159から故障信号が与えられた場合は、電磁カット弁107を開いた状態に保持する。
【0025】
モータ電流演算回路151には、第1の圧力センサ108で検出されたマスタシリンダ102の圧力信号Pmが、また、第2の圧力センサ109で検出されたホイールシリンダ103の圧力信号Pwが入力される。そして、駆動モータ135に与えるべき電流目標値VIrを計算する。
ここでは、簡素化するために比例制御とし、制御ゲインをKcとして、電流目標値
VIr=Kc(PmーPw)
の計算が行なわれるものとする。制御ゲインKcは通常100などの大きな値とするので、最終的にはマスタシリンダ102とホイールシリンダ103の圧力差(PmーPw)が小さくなるように制御され、マスタシリンダ102の圧力信号Pmとホイールシリンダ103の圧力信号Pwはほぼ一致する。
【0026】
なお、電流目標値VIrの計算方法は、この他にPID補償による方法など多様に考えられるが、計算は、すべてマスタシリンダ102の圧力信号Pmとホイールシリンダ103の圧力信号Pwとを一致させることが目的である。
また、マスタシリンダ102の圧力信号Pmの代わりに、アンチスキッドコントローラから与えられるマスタシリンダ以下の圧力、または、トラクション制御コントローラから与えられるマスタシリンダ以上の圧力を使用することができ、それぞれ与えられた圧力に一致するようにホイールシリンダ103の圧力Pwが制御される。
【0027】
電流検出回路152は駆動モータ135に流れる電流を検出し、信号処理回路153は電流検出回路152により検出した電流を検出値して電流信号VIaに変換する。実施例では、小さな抵抗を駆動モータ135と直列に接続し、抵抗の両端の電圧の差を増幅して電流信号としているが図には省略されている。なお、抵抗の代わりに、ホール素子などを使用することもある。
【0028】
モータ電流演算回路151で算出した電流目標値VIrおよび信号処理回路153で算出した電流信号VIaが入力されたパルスDuty計算回路154は、電流目標値VIrと実際に流れている電流信号VIaとを比較し、パワー素子をON、OFFする時間比率(Duty)を決める。制御計算はやはり簡単化するために比例制御とし、出力電流
Vd=Kci(VIr−VIa)
とする。ここで、出てきたVdを回路内部で作成した基準三角波Vsと比較し、Vd>Vsの間はパワー素子ON
Vd≦Vsの間はパワー素子OFF
信号をロジック回路155に出力する。このことで電流目標値VIrが電流信号VIaに比べて大きいときはパワー素子156aのON時間が長くなり、最終的には電流目標値VIrと電流信号VIaが一致するように制御される。
【0029】
パルスDuty計算回路154からの入力により、ロジック回路155は、パワー素子156aのいずれの2個をONするかを判断し、与えられた時間だけ駆動信号を送ってONさせる。
【0030】
モータ駆動回路156の4個のパワー素子156aは、通常、対角位置の2個がON、OFFされるようにロジック回路155から信号が与えられるため、モータ135には正逆両方向の電流を流すことができる。また、パワー素子156aのON時間をパルスDuty計算回路154の出力電流の大小により決定しているため、前記のように電流目標値VIrと実電流VIaが一致するように制御する。さらに、4個のパワー素子156aのうち、図中下側の2個のみをONすればモータ135の両端がショートされ、回転中のモータ135を急激に停止させるような急停止動作信号を出力する。
【0031】
一方、ピストン下端判断回路157は、ピストン114が下降してピストンストッパ115に当たったか否かを判断する。この判断は、電磁カット弁開閉回路158から電磁カット弁107を閉じる信号を出力した時点でのホイールシリンダ103のブレーキ液圧力を記憶し、制御中のホイールシリンダ103の圧力がその圧力に下がったか否かで行なう。ホイールシリンダ103の圧力が電磁カット弁開閉回路158から電磁カット弁107を閉じる信号を出力した時点での圧力に下がったときに、ピストン114がピストンストッパ115に当たったと判断し、ロジック回路155に急停止動作信号を一定時間、例えば0.1sec出力する。さらに、マスタシリンダ102の圧力信号Pmも0のときは、ピストン114の後退動作信号をロジック回路155に出力する。すなわち、その後退動作信号の出力は、駆動モータ135がコギングトルクを発生する電流、例えば駆動モータ135のトルク定数が0.025Nm/A、コギングトルクが0.05Nmであるときは2Aが、所定の周期、時間、例えば5sec周期で0.5sec間程度行なわれる。
【0032】
また、故障検出回路159は、マスタシリンダ102の圧力、ホイールシリンダ103の圧力、モータ135の電流などが入力されて所定の制御ができているか否かを判断する。所定の制御ができていない場合、あるいは所定の制御ができない虞れがある場合は故障と判断し、電磁カット弁開閉回路158に故障信号を出力する。
【0033】
上記の構成により、ブレーキペダル101が踏まれると、その操作が制御回路150のカット弁開閉回路158に入力され、カット弁開閉回路158の指令により電磁カット弁107が閉じられる。次いで、マスタシリンダ102によるブレーキ液圧力の上昇が第1の圧力センサ108で検出され、モータ電流演算回路151に入力される。そして、モータ電流演算回路151から、パルスDuty計算回路154、ロジック回路155を介してモータ駆動回路156に駆動信号が出力され、モータ駆動回路156から駆動モータ135に、ホイールシリンダ103の圧力がマスタシリンダ102に追従するように電流を送る。これにより、駆動モータ135は、ピストン114を上昇させる方向に回転し、ピニオン137、ギヤ139を介してボールねじナット122bが回転されてピストン駆動軸120が上昇される。
【0034】
ピストン駆動軸120の上昇によりピストン114が下方から押し上げられ、ブレーキ液が圧縮される。このピストン114の上昇に伴なってホイールシリンダ103の圧力が上昇すると、この圧力が第2の圧力センサ109により検出され、モータ電流演算回路151に入力される。そして、モータ電流演算回路151により新たな電流目標値VIrが計算され、最終的にマスタシリンダ102の圧力とホイールシリンダ103の圧力が一致するように制御される。
【0035】
ブレーキ操作が終了し、運転者がブレーキペダル101から足を放すと、マスタシリンダ102の圧力が急激に0になり、駆動モータ135にピストン114を下降させる電流が付与されてピストン駆動軸120が急激が後退される。同時に、ブレーキ液圧力および戻しばね117の作用によりピストン114も急激に下降され、ピストンストッパ115に当接するまで後退して停止する。このとき、ホイールシリンダ103の圧力は0となる。
【0036】
一方、ピストン駆動軸120は、ギヤ134、137、ピニヨン137、140を介して駆動モータ135と接続されているので、駆動モータ135に付与する電流を0としても、駆動モータ135自身の回転エネルギにより下降し続け、可動スプリングシート131を押し下げる。これに伴なって、バックアップスプリング132も押し縮められるため、バックアップスプリング132からピストン駆動軸120に、「初期荷重+ストローク×ばね定数」で求められる上向きの力が作用する。これにより、駆動モータ135の回転エネルギがバックアップスプリング132により弾性エネルギとなって吸収され、ピストン駆動軸120は衝撃的に停止されることがない。
さらに、ピストン114がピストンストッパ115に当接し、ホイールシリンダ103の圧力が0になったことを第2の圧力センサ109により検出したとき、駆動モータ135に急停止動作電流を付加する。これにより、電流0指示とは異なり、駆動モータ135の回転エネルギの一部がモータ内部で熱エネルギに変換されるので、ピストン駆動軸120は、より短いストロークで衝撃なく停止させることができる。
【0037】
さらに、運転者がブレーキペダル101を放し続けると、縮められたバックアップスプリング132の反発力によりピストン駆動軸120に初期位置に戻すような力が作用する。このとき、駆動モータ135には前記のようにコギングトルク相当の電流が付与される。この電流はバックアップスプリング132を圧縮する方向に付与されるが、バックアップスプリング132の初期荷重がこの電流で発生するトルク以上であるため、バックアップスプリング132は徐々に伸び、駆動モータ135は付与された電流の方向と反対の方向に回転されて初期位置に戻される。ここで、例えば振動などで駆動モータ135が所定以上に逆方向に回転されてピストン114を押し上げた場合でも、5secに1回付与される電流で駆動モータ135は確実に初期位置に戻されるため、初期位置の設定がずれることはない。
【0038】
また、この初期位置において、例えば、可動スプリングシート131およびピストン114の初期位置設定の精度が悪いと、ピストン駆動軸120が初期位置にあるのに、ピストン114が初期位置から浮いていたり、両者とも初期位置に戻るがフランジ121の上面とピストン114の下面との間に大きな隙間ができる虞れがある。
【0039】
前者において、故障が発生してマスタシリンダ102の圧力が直接ホイールシリンダ103に伝達されるようになった場合、ピストン114がブレーキ液圧力によってピストンストッパ115に当接するまで押し戻される。このピストン114の後退に従って、ピストン駆動軸120も可動スプリングシート131を介してバックアップスプリング132に抗して後退する。これにより、ブレーキペダル101のストロークが大きく増加するため、運転者に大きな不安感を与える虞れがある。
また、後者においては、通常制御時、ピストン駆動軸120が上昇を初めてから、フランジ121がピストン114の下面に当接し、ピストン114を押し上げてブレーキ液の圧力が上昇するまでの時間が大きい。この場合も、運転者に不安感を与える虞れがある。
【0040】
ところが、本実施例では、可動スプリングシート131の初期位置設定を制御シリンダ112の下面112bに当接させることによって行なっているため、ピストン駆動軸120の初期位置の精度は、図2に示すように、ピストンストッパ115の厚さBにより決定される。
さらに、ピストン114とピストン駆動軸120との距離精度は、フランジ121の厚さAおよびピストンストッパ115の厚さBによって決定されるため、その厚さ寸法A、Bの精度管理を行なうことにより、遅れ時間を極小にした最適な設定が可能である。
【0041】
以上説明したように、ピストン114とピストン114を駆動するピストン駆動軸120とを分離し、制御シリンダ112の下部にピストンストッパ115を形成したから、ピストン114の初期位置はピストンストッパ115により設定されるため、ピストン114およびピストン駆動軸120のストロークを小さくでき、装置を小型化することができる。
【0042】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係るブレーキ制御アクチュエータは、車両のブレーキマスタシリンダとホイールシリンダとの間のブレーキ液通路に制御シリンダを連通させ、ホイールシリンダの圧力を制御するピストンをピストン駆動手段と別体に形成し、制御シリンダにピストン位置規制手段を設けたものとしたから、ピストンの初期位置における荷重はそのピストン位置規制手段が受けることになるため、従来のようにピストンに作用する全ての荷重を受けるような大きなばねが不用となり、装置を小型化することができる。
【0043】
加えて、ピストン駆動手段の初期位置を設定する位置規制手段が設けられ、カット弁が開かれているとき、初期荷重が駆動モータを回転させる最小トルク相当の力を僅かに上回る値に設定された第1のばねにより、ピストン駆動手段が初期位置に保持されると、車両の振動などによるピストン駆動手段の初期位置のずれが防止され、ピストンを常に初期位置に保持することができるとともに、ピストン駆動手段が第1のばねにより徐々に停止されるので、衝撃が加わることがなく、破損の虞れがない。。
また、カット弁が開かれているとき、ピストンと制御シリンダとの間に生じる摩擦力を僅かに上回る値に設定された第2のばねにより、ピストンが初期位置に保持されると、ピストン駆動手段の作動時に第2のばねが負荷となることがなく、また、ピストンの初期位置が容易に設定できる。
【0044】
また、カット弁が開かれているとき、制御回路が駆動モータに対して、ピストン駆動手段を後退させるように、その駆動モータが有するコギングトルク相当の電流を、常時または間欠的に付加すると、車両の振動などで駆動モータが回転しピストンを駆動するようなことが発生しても、ピストンを常に初期位置に保持することができる。
また、上記の制御手段が、ピストンがピストン位置規制手段に当接したことを検出して駆動モータに急停止信号を出力すると、ピストン駆動手段が後退したときの衝撃を第1のばねのみで受けることがなくなるため、短いストロークで停止ができるとともに、第1のばねの負荷を減少することができて耐久性を向上させることができる。
【0045】
また、上記のピストン位置規制手段を前記制御シリンダ内部の底壁に、ピストン駆動手段の位置規制手段を制御シリンダ底壁の下端面に形成し、ピストンに当接するフランジをピストン駆動手段に設け、フランジの下端面を第1のばねにより可動スプリングシートを介して支持させ、フランジがピストン位置規制手段と制御シリンダの下端面の間に位置したとき、そのフランジの厚さ寸法がピストン位置規制手段とピストン駆動手段の位置規制手段との間の間隔寸法以下に形成されることにより、その両寸法の精度管理を行なうだけで、ピストンとピストン駆動手段との間に隙間がある場合に発生する応答遅れを防止できる。また、従来のピストン駆動手段がピストンを駆動しているときに発生するストローク不足による最大能力の低下、故障時にピストンがストッパまで後退しても、十分効果的に制動力が得られる。
また、上記のピストン駆動手段としてのピストン駆動軸に、ローラをピストン駆動軸の軸心と直角方向の軸により取り付け、該ピストン駆動軸のローラ部分を断面四角形状の案内溝に収容することにより、駆動軸の回り止めが簡単な構造で小型に形成することができるとともに、摩擦力を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例の構成を示す図である。
【図2】実施例のシリンダ部分の拡大図である。
【図3】実施例のピストン駆動軸部分の拡大横断面図である。
【図4】実施例の制御回路の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
100 ブレーキ操作部
101 ブレーキペダル
102 マスタシリンダ
103 ホイールシリンダ
105、106 液圧配管
107 カット弁
108 第1の圧力センサ
109 第2の圧力センサ
110 ブレーキ制御アクチュエータ
111 マニホールド
112 制御シリンダ
113 シリンダ室
114 ピストン
115 ピストンストッパ
116 シール部材
117 戻しばね
120 ピストン駆動軸
121 フランジ
122 ボールねじ
123 ボールベアリング
125 ガイドケース
127 案内溝
131 可動スプリングシート
132 バックアップスプリング
135 駆動モータ
150 制御回路

Claims (7)

  1. 内部に収容したピストンの一側に形成されたブレーキ液空間を、車両のブレーキマスタシリンダとホイールシリンダとの間のカット弁が設けられたブレーキ液通路のカット弁とホイールシリンダの間に連通させた制御シリンダと、
    前記ピストンと別体に形成され、ピストンに当接してピストンを前進させ、ブレーキ液を圧縮可能のピストン駆動手段と、
    前記制御シリンダに設けられ、前記ピストン駆動手段が後退したとき、前記ピストンのみが当接してその初期位置を定めるピストン位置規制手段と、
    前記ピストン駆動手段に連結された駆動モータと、
    ブレーキ操作を行うとき、前記ピストン駆動手段を前進させ、ブレーキ操作を停止するとき、前記ピストン駆動手段を後退させるように駆動モータを制御する制御手段とを具備したことを特徴とするブレーキ制御アクチュエータ。
  2. さらに、前記ピストン駆動手段の初期位置を設定する位置規制手段が設けられ、前記ピストン駆動手段は、前記カット弁が開かれているとき、初期荷重が駆動モータを回転させる最小トルク相当の力を僅かに上回る値に設定された第1のばねにより、前記初期位置に保持されることを特徴とする請求項1記載のブレーキ制御アクチュエータ。
  3. 前記ピストンは、前記カット弁が開かれているとき、初期荷重が前記ピストンと制御シリンダとの間に生じる摩擦力を僅かに上回る値に設定された第2のばねにより、当該ピストンの前記初期位置に保持されることを特徴とする請求項1または2記載のブレーキ制御アクチュエータ。
  4. 前記制御手段は、カット弁が開かれているとき、駆動モータに、ピストン駆動手段を後退させるようにコギングトルク相当の電流を、常時または間欠的に付加することを特徴とする請求項1、2または3記載のブレーキ制御アクチュエータ。
  5. 前記制御手段は、前記ピストンが前記ピストン位置規制手段に当接したことを検出し、前記駆動モータの両端をショートさせる急停止信号を出力することを特徴とする請求項1、2、3または4記載のブレーキ制御アクチュエータ。
  6. 前記ピストン位置規制手段は、前記制御シリンダ内部の底壁に形成され、
    前記ピストン駆動手段は、前記ピストンに当接するフランジを備え、
    前記第1のばねは、可動スプリングシートを介して前記フランジの下端面を支持可能とされ、
    前記ピストン駆動手段の位置規制手段は、前記制御シリンダ底壁の下端面に形成され、前記可動スプリングシートが前記制御シリンダの下端面に当接しかつ前記フランジが前記可動スプリングシートに支持された状態を前記ピストン駆動手段の初期位置とし、
    該初期位置において前記フランジは前記ピストン位置規制手段と前記制御シリンダの下端面の間に位置して、前記フランジの厚さ寸法が、前記ピストン位置規制手段と前記ピストン駆動手段の位置規制手段との間の間隔寸法以下に形成されていることを特徴とする請求項1、2、3、4または5記載のブレーキ制御アクチュエータ。
  7. 前記ピストン駆動手段は、前記ピストンの移動軸心と同軸心のピストン駆動軸を備え、該ピストン駆動軸にローラをその軸心と直角方向の軸により取り付け、該ピストン駆動軸のローラ部分を断面四角形状の案内溝に収容したことを特徴とする請求項1、2、3、4、5または6記載のブレーキ制御アクチュエータ。
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