JP3860446B2 - 鋼の連続鋳造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、連続鋳造に用いるモールドパウダーと該パウダーを用いた鋼の連続鋳造法に関し、特に、現状の鋼の連続鋳造における操業安定性や製品品質を維持しつつ、モールドパウダー内に含まれるフッ素の系外への溶出を抑制し、連続鋳造設備(ガイドロール、軸受け、ロールスタンド、冷却用スプレーなど)の腐食を防止すると共に、環境汚染や公害問題をも配慮した連続鋳造用モールドパウダーと連続鋳造法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
鋼の連続鋳造用モールドパウダーの主な使用目的としては、▲1▼鋳型内溶鋼表面の酸化防止、▲2▼鋳型内溶鋼表面の保温、▲3▼鋳型内溶鋼表面に浮上してくる非金属介在物の捕捉・除去、▲4▼鋳型壁面と鋳片間の潤滑性向上による鋳片表面の確保、などが挙げられる。
【0003】
これらの目的のためモールドパウダーには、鋳造に用いる溶鋼の成分や鋳造温度などの諸条件に合致した適切な被覆性、浄化性、粘性、流動性などが要求される。
【0004】
現在実用化されているモールドパウダーには、原材料として合成ケイ酸カルシウムを用いたセミプリメルトタイプや、炭素分を除いたモールドパウダーを予め溶解して適切な粒度に粉砕し、これに炭素分を添加する完全溶融型のプリメルトタイプがあり、こうした種々のタイプのモールドパウダーが、一般のスラブ連鋳からブルーム、ビレット、ラウンド連鋳あるいは薄スラブ連鋳などに広く利用されている。
【0005】
実操業においては、こうした様々な要求に対する特性を満たすモールドパウダーが種々提案され、それなりの功績を上げている。しかし通常のモールドパウダーには、潤滑性向上や低融点化を目的として3〜15質量%程度のフッ素がフッ化物として含まれており、以下のような問題を起こすことが指摘されている。
【0006】
即ち、これらのフッ化物を含むモールドパウダーは、鋳型内で1500℃以上の高温の溶鋼に接して適切な速度で溶融し、鋳型内溶鋼の表面を正常化した後、鋳型振動に合わせて鋳片表面に付着しながら鋳型内を通過し、2次冷却により大部分が鋳片から剥離する。この時、モールドパウダー内のフッ化物が連続鋳造の2次冷却水と反応し、フッ化水素となって冷却水のpHを著しく低下させ、冷却帯付近のロールや支持部材、スプレーノズルやその配管などの金属製構造物、あるいはコンクリートを腐食させ、上記設備の耐用年数を著しく短縮させている。
【0007】
そのため、モールドパウダーから溶出するフッ化水素の低減による連続鋳造設備の腐食防止は大きな解決課題となっている。
【0008】
こうした解決課題の下で、フッ素の溶出抑制を目的として、フッ素を含有しないモールドパウダー(フッ素レスパウダー)の開発が進められている。例えばフッ素レスパウダーについては、特開昭58−125349号、特開平5−208250号、特開2000‐169136号などが提案されている。
【0009】
しかしフッ素レスパウダーには、潤滑性や流動性の不足に起因してスラブの表面品質を劣化させる、あるいは連続鋳造条件が安定しない、等の問題がある。またモールドパウダーに用いるフッ素含有原料は、ホタル石(CaF2)をはじめとして、NaF、Na3A1F6など多岐に亘り、且つモールドパウダーの基礎原料(例えば、合成ケイ酸カルシウム)にもフッ素が含まれているため、フッ素を含有しないモールドパウダーそのものの設計が困難である。例えば特開平2−27063号公報には、モールドパウダーの原料として合成ケイ酸カルシウムが開示されているが、該合成ケイ酸カルシウムには1〜10質量%程度のFが含まれており、この合成ケイ酸カルシウムを基材原料として使用する限り、フッ素レスのモールドパウダーを得ることはできない。
【0010】
一方、フッ素未含有の基材原料としては、例えばポルトランドセメントやワラストナイトなどが知られている。しかしポルトランドセメントは、Fe2O3含有量が多く且つS含量も多いので、溶鋼汚染を引き起こす恐れがある。これに対しワラストナイトは、Fe2O3やSの含有量は低いものの、天然原料であるため成分のばらつきが大きく、安定した組成と品質のモールドパウダーが得られ難い。しかも、原材料の選定などの面で従来品比べて製造コストが高くなるといった問題も指摘されている。
【0011】
その他にも特開昭58−125349号、特開昭50−86423号、特開平5−269560号、特公昭56‐29733号、特開昭51−67227号、特開昭51−132113号等の公報に開示の技術が提案されているが、いずれも鋳片品質の低下、Fe2O3やSによる溶鋼汚染や連続鋳造の操業安定性などに問題を残しており、現在のところフッ素溶出抑制との両立は実現されていない。
【0012】
この様にフッ素レスパウダーの実用化はかなり立ち遅れており、現在でも一定濃度のフッ化物を添加したパウダーが主流となっているのが実情である。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記のような事情に着目してなされたものであって、その目的は、従来のモールドパウダーと同程度のフッ素含量を許容することで、鋳造安定性やスラブの表面品質を現状レベルに保持しつつ、連続鋳造設備の腐食や環境問題の要因となるフッ素の溶出を可及的に抑制することのできる技術を確立することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決することのできた本発明に係る連続鋳造法とは、フッ素含量が2〜15質量%である鋼の連続鋳造用モールドパウダーであって、該パウダーを下記の方法で処理することによって得られる当該パウダー中に含まれるカスピダイン(3CaO・2SiO2・CaF2)の平均結晶粒面積が250μm2以上であるところに特徴を有している。
【0015】
なお上記平均結晶粒面積とは、モールドパウダーを1100℃以上の温度で完全に溶融させた後、水蒸気を除いた大気雰囲気下で冷却速度5.0℃/秒で常温まで冷却したものの任意の切断面(少なくとも200μm×200μm以上の範囲)を光学顕微鏡もしくは電子顕微鏡で観察することによって全てのカスピダイン結晶粒の面積を測定し、それらの平均値として算出される面積を意味する。
【0016】
本発明の前記モールドパウダーにおいては、塩基度(CaO/SiO2)が1.0〜1.7であり、且つ該塩基度とフッ素含量の関係が下記式(1)の関係、より好ましくは下記式(2)の関係を満たすものは、前記カスピダイン平均結晶粒面積を満たすものとして推奨される。
0.17×(mass%F)≧(CaO/SiO2)≧0.10×(mass%F)……(1)
0.16×(mass%F)≧(CaO/SiO2)≧0.14×(mass%F)……(2)
【0017】
また本発明の上記モールドパウダーにおいては、更に他の成分としてMgOを0.5質量%以上、3質量%以下、より好ましくは1.0質量%以上、2.5質量%以下の範囲で含有させると、カスピダイン結晶粒を一層大きくすることができ、前記カスピダイン平均結晶粒面積の増大によりフッ素溶出量を一段と少なく抑えることができるので好ましい。
【0018】
そして本発明の連続鋳造法は、上記要件を満たすモールドパウダーを使用し、当該パウダーの鋳型から2次冷却帯での冷却速度を1〜5℃/秒に制御しつつ連続鋳造を行い、或いは、当該モールドパウダーの消費量を0.3〜0.7kg/トンに制御しつつ鋼の連続鋳造を行うところに特徴を有しており、こうした条件を採用することで、鋳造時におけるフッ素の溶出をより確実に低減することが可能となる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明によってもたらされる作用効果について詳しく説明する。
【0020】
まず図1は、フッ素含量が5〜10質量%である市販の連続鋳造用モールドパウダーを飽和水蒸気雰囲気中で加熱したときの、フッ素の溶出量と温度との関係を調べた結果を示したグラフであり、この図1からも明らかなように、モールドパウダーからのフッ素の溶出は温度700℃を超えると顕著になることを確認できる。
【0021】
従ってモールドパウダーからのフッ素の溶出は、モールドパウダーがメニスカス上で溶融した後、鋳型内から2次冷却帯で700℃以下に冷却されるまでの温度域で起こるものと考えられる。よって、この間の溶出を小さくすればフッ素溶出量は低減し、2次冷却水のpH低下等を防止できるはずである。
【0022】
また本発明者らの知見では、フッ素の溶出量(溶出速度)は、塩基度(CaO/SiO2)やSiO2濃度にはそれほど影響されず、温度と水蒸気の影響を強く受けることを確認しており、鋼の連続鋳造の2次冷却帯は非常に高温・多湿雰囲気であるため、フッ素の溶出に関しては非常に不利な条件であるといえる。
【0023】
従って、フッ素を含むモールドパウダーを連続鋳造用として実用化する際のフッ素の溶出を防止するには、上記高温・多湿雰囲気下でのフッ素の溶出を可及的に低減し得るようにモールドパウダーを改質することが有効と考えられる。よって本発明ではこうした方向に沿って研究を進めた。
【0024】
鋼の連続鋳造用モールドパウダーが、鋳型内から2次冷却帯までの間で一般的な速度で冷却されると、結晶相(カスピダイン;3CaO・2SiO2・CaF2)と非結晶相の2相を析出するが、フッ素はカスピダイン結晶相に10〜15質量%程度含まれており、残りは非結晶相中に存在する。非結晶相に含まれるフッ素濃度はモールドパウダーの成分によっても異なるが、大抵の場合は15質量%程度以下である。
【0025】
また、カスピダイン中のフッ素は安定であり、高温の水蒸気と接触しても溶出反応速度は比較的遅いのに対し、非結晶相中のフッ素は非常に不安定であり、高温水蒸気の存在下ではフッ化水素として比較的容易に溶出する。
【0026】
但し本発明者らの知見によると、カスピダインは、高温水蒸気に長時間曝されると結晶界面から非結晶相に分解すると同時にフッ素を溶出する。そしてカスピダインの分解(フッ素の溶出)は、非結晶相がカスピダイン結晶粒を侵食するように進行することも確認している。よって、カスピダインの粒径を粗大化させ結晶粒界を極力小さくすれば、反応界面の減少によりフッ素の溶出速度を低減し得るのではないかと考えた。
【0027】
その結果、同程度のフッ素を含むモールドパウダーであっても、フッ素成分以外の組成と鋳造条件(鋳型型内での冷却速度やパウダー消費量など)を最適化し、前記高温条件下に形成されるカスピダイン結晶粒径を適切な大きさに制御すれば、連鋳設備の腐食や環境汚染の原因となる溶出フッ素量を抑えることができ、2次冷却水のpH低下を防止し得ることを知り、上記本発明に想到したものである。
【0028】
特に、前記方法で規定される条件(即ち、連続鋳造時における鋳型内から2次冷却帯を通過するまでの高温域を想定した条件)によって形成されるカスピダイン平均結晶粒面積が250μm2以上のモールドパウダーを使用し、該パウダーを用いた時の鋳造条件として、鋳型から2次冷却帯を通過するまでの冷却速度を1〜5℃/秒の緩冷却条件に設定すれば、この間にモールドパウダー中に生成するカスピダインの結晶粒径は粗大化し、平均結晶粒面積が250μm2以上で且つ比較的粒径の揃ったものとなり、フッ素溶出量を可及的に抑えることが可能となる。
【0029】
ちなみに図2は、下記成分組成のモールドパウダーを用いて連続鋳造を行う際に、鋳型内から2次冷却帯での冷却速度を種々変更したときのカスピダインイ平均結晶粒面積に与える影響を調べた結果を示したものである。但し、用いたモールドパウダーの組成やカスピダイン平均結晶粒面積、並びに鋳造条件は下記の通りとした。
モールドパウダー:
成分組成(質量%):CaO;41%,SiO2;30%,Al2O3;3%,MgO;2%,Na2CO3;9%,
F;10%,CaO/SiO2=1.37
カスピダイン平均結晶粒面積:300μm2
連続鋳造条件:
使用鋼種;炭素鋼(0.1〜0.2%C)
鋳造速度;1.7m/min
パウダー投入量;0.45kg/トン
【0030】
図2からも明らかなように、同じカスピダイン平均結晶粒面積のモールドパウダーを使用した場合でも、鋳型内から第2冷却帯での冷却速度によっては、鋳造時のパウダー内に生成するカスピダイン平均結晶粒面積は著しく変わる。そして、上記冷却速度が5℃/sec付近を境界として、冷却速度がそれを超えると、鋳造時のカスピダイン結晶は微細化し、実際のカスピダイン結晶粒面積は小さくなるのに対し、冷却速度を5℃/sec以下に制御すると、鋳造時のカスピダイン結晶は粗大化し、原料パウダーで定めるカスピダイン結晶粒面積は実際の同面積よりよ大きくなっている。よって、鋳造時における実際のカスピダイン結晶粒面積を極力大きくしてフッ素溶出量を抑えるには、鋳造時の前記冷却速度を5℃/sec以下に抑えることが好ましい。但し、冷却速度を極端に遅くすることは、ブレークアウトなどを起こす大きな原因になるので、遅くするにしても1℃/secまでに止めるべきである。操業性とフッ素溶出量低減を考慮してより好ましい冷却速度は2℃/sec以上、4℃/sec以下である。
【0031】
同様に、連続鋳造時に使用する前記パウダーの量をできるだけ多く、具体的には0.3kg/トン以上、より好ましくは0.4kg/トン以上とすれば、パウダー量の増大によって冷却速度を遅くすることができ、こうした手段も、カスピダイ結晶粒の粗大化を増進してフッ素溶出抑制効果を高めることができる。
【0032】
ちなみに図3は、下記成分組成のモールドパウダーを用いて連続鋳造を行う際に、モールドパウダーの供給量を種々変更したときのカスピダイン平均結晶粒面積に与える影響を調べた結果を示したものである。但し、用いたモールドパウダーの組成やカスピダイン平均結晶粒面積、並びに鋳造条件は下記の通りとした。
モールドパウダー:
成分組成(質量%):CaO;32%,SiO2;34%,Al2O3;2%,MgO;6%,Na2CO3;7%,
F;9.8%,CaO/SiO2=0.95
カスピダイン平均結晶粒面積:250μm2
連続鋳造条件:
使用鋼種;炭素鋼(0.1〜0.2%C)
鋳造速度;1.7m/min
パウダー投入量;0.3〜0.7kg/トン
【0033】
図3からも明らかなように、同じカスピダイン平均結晶粒面積のモールドパウダーを使用した場合でも、パウダー供給量(即ち、消費量)によっては、鋳造時のパウダー内に生成するカスピダイン平均結晶粒面積は著しく変わる。そして、パウダー供給量が0.3kg/トン未満では、鋳造工程で原料パウダーに相当するカスビダイン結晶粒面積が保証されず、相対的に該結晶粒面積が小さくなってフッ素溶出量抑制効果が低減するのに対し、パウダー供給量を0.3kg/トン以上にすると、鋳造工程でも原料パウダーに相当する以上のカスビダイン結晶粒面積が保証され、本発明で意図する十分なフッ素溶出量抑制効果を確保できることが分かる。但し、パウダー供給量を過度に増大することは経済的に無駄であるばかりでなく、操業安定性にも悪影響を及ぼす原因にもなりかねないので、その上限は0.7kg/トンレベル程度に止めることが望ましい。
【0034】
なお、前述した好ましい鋳造条件、即ち、冷却速度1〜5℃/秒、パウダー使用量0.3〜0.7kg/トンを組み含わせて実施すれば、実際の連続鋳造時のカスピダイン結晶粒面積をより確実に増大することができ、フッ素溶出抑制効果を一段と高めることができるので好ましい。
【0035】
カスピダイン結晶粒の粗大化に有効なその他の要素として、パウダーの塩基度を1.0〜1.7、より好ましくは1.3〜1.6に調整すると共にフッ素濃度を9〜10質量%程度に制御すること、或いは、MgO等の元素を添加することなどが有効であることを確認しており、パウダー組成(特性)そのものを変化させずにフッ素の溶出を低減することが可能である。
【0036】
ちなみに図4は、種々のモールドパウダーの塩基度とカスピダイン平均結晶粒面積の関係を小型実験炉で検証した結果を示したグラフである。このグラフからも明らかなように、CaO,SiO2以外の組成の影響で粒面積にはかなりのばらつきが見られるが、パウダーの塩基度が1.0〜1.7、より好ましくは1.4〜1.6の範囲で結晶粒面積は最大になることが分かる。
【0037】
また図5は、モールドパウダーの塩基度(CaO/SiO2)とフッ素含量が前記カスピダイン平均結晶粒面積に与える影響を調べた結果を示したグラフであり、この図からも明らかなように、モールドパウダー中の塩基度(CaO/SiO2)とフッ素含量(mass%F)の関係が前記(1)式、より好ましくは前記(2)式の関係を満たすように調整すれば、鋳造時に生成するカスピダインの結晶粒面積をより効果的に粗大化することができ、フッ素溶出量の低減に有効であることが分かる。
【0038】
また図6は、基本組成が質量%でCaO;35%、SiO2;32%、F;7.5%、CaO/SiO2;1.0のパウダーに対し、MgO含量を0.5〜6質量%の範囲で変えたときのカスビダイン平均結晶粒面積に与える影響を調べた結果を示したグラフである。この図6からも明らかなように、パウダー中に0.5質量%以上、3質量%以下、より好ましくは1.0質量%以上、2.5質量%以下のMgOを含有させると、カスピダイン平均結晶粒面積をより効果的に大きくできることが分かる。
【0039】
尚本発明でフッ素含量を2〜15質量%の範囲に定めたのは、フッ素含量が2質量%未満では、フッ化物(代表的には蛍石)の配合によるパウダーの融点および溶融粘度低減効果が不十分で、パウダー使用による鋳片表面の正常化効果が有効に発揮され難くなり、またこうしたフッ化物配合の効果は約15質量%で飽和し、それ以上に増やしても表面正常化効果はそれ以上に改善されず、むしろフッ化物溶出量の増大を招き易くなるからである。フッ化物含量のより好ましい範囲は5質量%以上、13質量%以下である。
【0040】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に包含される。
【0041】
実施例
フッ素濃度を9質量%一定とし、微量成分を添加することによりカスピダイン結晶粒径を変化させたモールドフラックス(A〜E)を使用し、フッ素溶出実験を行った。表1に供試パウダー(A〜E)の組成と特性を示す。
【0042】
【表1】
【0043】
溶出試験には図7に示す装置を使用した。図中、1は加熱管、2はヒーター、3は供試パウダー、4はフッ素量定量器用いて行った。即ち、外面側にヒーター2を配置した加熱管1内に供試パウダー(粒径:100μm以下、装入量:0.2g)を装入しておき、該加熱管を所定の温度に加熱してから、これに飽和水蒸気供給管5から飽和水蒸気を供給する。そして、加熱管1から排出されるガス(フッ化水素含有ガス)をフッ素定量器4に導いて吸収液6に吸収させ、フッ素イオン滴定によってフッ素溶出量の定量を行う。反応温度は500〜1350℃まで種々変化させ、反応時間は30分間とした。
【0044】
結果は図8に示す通りであり、800〜1100℃において、パウダー中のフッ素濃度は一定であるにも拘わらず、フッ素溶出率は大きく異なっている。そしてこの結果から、フッ素溶出率は供試パウダーのカスピダイン平均結晶粒面積と高い相関性を有しており、特に、該平均結晶粒面積が250μm2以上であるものはフッ素溶出量が著しく抑えられることを確認できる。
【0045】
また図9は、実際の連鋳設備を使用し、上記パウダーA〜Eを用いた鋳造試験結果を示している。この実験では表2に示す鋳造条件を採用し、各供試パウダーを使用したときに湯面から約5m下の鋳型内で採取した2次冷却水のpHを調べた。
【0046】
【表2】
【0047】
図9からも明らかなように、カスピダイン平均結晶粒面積が微細な供試パウダーA,B,Cを用いた時の2次冷却水のpHは4以下の酸性を示しているのに対し、同平均結晶粒面積が粗大な供試パウダーD,Eを用いた時の2次冷却水のpHは6〜7とほぼ中性であり、連鋳設備の腐食防止に有効であることが分かる。
【0048】
【発明の効果】
本発明は以上のように構成されており、連続鋳造用のモールドパウダーとして、前記方法によって求められるカスピダイン平均結晶粒面積が250μm2以上のものを使用することにより、相当量のフッ化物を含むモールドパウダーであっても連鋳時のフッ素溶出量を最小限に抑えることができる。従ってこのモールドパウダーを使用することにより、腐食性の高いフッ化水素に起因する連続鋳造設備の腐食を最小限に抑えると共に、環境汚染や公害問題を未然に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】市販の数種の連続鋳造用モールドパウダーからのフッ素溶出挙動(温度の影響)を示すグラフである。
【図2】連続鋳造時における鋳型から2次冷却帯における冷却速度を変えたときのフッ素溶出量との関係を示すグラフである。
【図3】連続鋳造時におけるモールドパウダーの使用量(消費量)とフッ素溶出量との関係を示すグラフである。
【図4】モールドパウダーの塩基度とカスピダイン粒径の関係を示すグラフである。
【図5】モールドパウダーの塩基度(CaO/SiO2)とフッ素含量がカスピダイン平均結晶粒面積に与える影響を調べた結果を示したグラフである。
【図6】モールドパウダー中のMgO含量がカスビダイン平均結晶粒面積に与える影響を示すグラフである。
【図7】フッ素溶出実験に用いた装置の模式図である。
【図8】実験で用いたモールドパウダーのフッ素溶出特性(温度の影響)を示したグラフである。
【図9】実際の連鋳設備を使用し、平均結晶粒面積の異なるモールドパウダーを用いた鋳造試験を行ったときの、2次冷却水のpHを調べた結果を示すグラフである。
【符号の説明】
1 加熱管
2 ヒーター
3 供試パウダー
4 フッ素イオン定量器
5 飽和水蒸気供給管
6 吸収液
Claims (2)
- フッ素含量が2〜15質量%である鋼の連続鋳造用モールドパウダーであって、該パウダーを下記の方法で処理することによって得られる当該パウダー中に含まれるカスピダイン(3CaO・2SiO 2 ・CaF 2 )の平均結晶粒面積が250μm 2 以上であり、
塩基度(CaO/SiO 2 )が1.3〜1.6で、且つ該塩基度とフッ素含量の関係が下記式(1)の関係を満たし、
更に0.5〜3質量%のMgOを含むフッ素溶出量の少ない鋼の連続鋳造用モールドパウダーを使用し、当該パウダーの鋳型から2次冷却帯での冷却速度を1〜5℃/秒に制御しつつ連続鋳造を行うことを特徴とする鋼の連続鋳造法。
上記平均結晶粒面積とは、モールドパウダーを1100℃以上の温度で完全に溶融させた後、水蒸気を除いた大気雰囲気下で冷却速度5.0℃/秒で常温まで冷却したものの任意の切断面(少なくとも200μm×200μm以上の範囲)を光学顕微鏡もしくは電子顕微鏡で観察することによって全てのカスピダイン結晶粒の面積を測定し、それらの平均値として算出される面積をいう。
0.17 ×( mass %F)≧(CaO/SiO 2 )≧ 0.10 ×( mass %F) ……(1) - 前記モールドパウダーの消費量を0.3〜0.7kg/トンに制御しつつ鋼の連続鋳造を行う請求項1に記載の鋼の連続鋳造法。
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