JP3858968B2 - トリス(トリメチルシリル)シリルエチルエステルの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、エキシマレーザー光を用いたリソグラフィに用いられる二層フォトレジストのポリマーの原料として有用なメタクリル酸2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エチル及びアクリル酸2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エチルの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
従来、メタクリル酸2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エチルの製造方法として、対応するアルコール化合物、即ち2−トリス(トリメチルシリル)シリルエタノールの塩化メタクリロイルとの反応によるエステル化法が知られている(Sooriyakumaranら,SPIE,Vol.3333,p.219、及びAllenら,米国特許第5,985,524号)。
【0003】
しかしながら、この公知文献の酸塩化物とアルコールから製造する方法は、通常、溶媒中で塩基を当量以上用いて行われ、また、原料の酸塩化物は水分と容易に反応するため取扱いが難しく、更には抽出・濃縮などの後処理操作も必然的に必要とされ、工業的に実施するには問題が多い。
【0004】
また、2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エタノールは、ケイ素金属試薬トリス(トリメチルシリル)シリルリチウムと沸点の低いエチレンオキシド(沸点10.7℃)の反応により合成されている(Brookら,Organometallics,1984,3,p.1317)が、この製造工程も取扱いの難しい化合物を使用するため、工業的には実施に困難を伴う。
【0005】
一方、トリス(トリメチルシリル)シランと酢酸ビニルとの反応による酢酸2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エチルの合成例が報告されている(Koppingら,J.Org.Chem.,1992,57,p.3994)。この酢酸2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エチルを加水分解又は還元することにより、2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エタノールを合成することも考えられる。更に、水素化アルミニウムリチウムによる還元による例が知られている(Allenら,米国特許第5,985,524号)。しかしながら、この方法は、アルコールの製造、更に上述のエステル化反応の二工程となり、より困難が増大する。
【0006】
また、この中間体の2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エタノールは、融点約150℃程度の結晶であり、蒸留精製が不可能で、再結晶精製はロスが大きく、工業的には実施し難いという難点もある。
【0007】
本発明は、上記問題を解決したもので、酢酸2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エチルを原料とし、工業的スケールでも容易に実施可能な安全かつ高収率なメタクリル酸2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エチル及びアクリル酸2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エチルの製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段及び発明の実施の形態】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、触媒の存在下、酢酸2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エチルとアルコールを反応させ、2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エタノールを得、次いでメタクリル酸エステル又はアクリル酸エステルと反応させることにより、容易にメタクリル酸2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エチル又はアクリル酸2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エチルを製造することが可能であることを知見し、本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明は、触媒の存在下、酢酸2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エチルとアルコールを反応させ、2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エタノールを得、次いでメタクリル酸エステル又はアクリル酸エステルと反応させ、メタクリル酸2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エチル又はアクリル酸2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エチルを得ることを特徴とするメタクリル酸2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エチル又はアクリル酸2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エチルの製造方法を提供する。
【0010】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明の第一段階は、触媒の存在下、原料の酢酸2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エチルとアルコールを反応させ、エステル交換により2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エタノールを得る工程である。ここで用いられるアルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノールなどが挙げられる。
【0011】
反応は無溶媒で行うことができ、余計な濃縮・溶媒回収などの操作を必要としないので好ましい。しかし、溶媒を補助的に使用することも可能であり、この場合、溶媒として、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメンなどの炭化水素類、テトラヒドロフラン、ジ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテルなどのエーテル類を用いることができる。
【0012】
触媒としては、塩酸、硫酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などの酸類、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt−ブトキシド、4−ジメチルアミノピリジンなどの塩基類、青酸ナトリウム、青酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸錫、酢酸アルミニウム、アセト酢酸アルミニウム、アルミナなどの塩類、三塩化アルミニウム、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、四塩化錫、四臭化錫、二塩化ジブチル錫、二臭化ジブチル錫、ジブチル錫ジメトキシド、ジブチル錫オキシド、四塩化チタン、四臭化チタン、チタン(IV)メトキシド、チタン(IV)エトキシド、チタン(IV)イソプロポキシド、酸化チタン(IV)などのルイス酸類を挙げることができ、これらは単独で又は混合して用いられる。これらのうち、三塩化アルミニウム、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、四塩化錫、四臭化錫、二塩化ジブチル錫、二臭化ジブチル錫、ジブチル錫ジメトキシド、ジブチル錫オキシド、四塩化チタン、四臭化チタン、チタン(IV)メトキシド、チタン(IV)エトキシド、チタン(IV)イソプロポキシド、酸化チタン(IV)などのルイス酸類が反応の進行が早く、収率もよく好ましい。触媒は触媒量が用いられ、通常、原料の酢酸2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エチルに対し0.1〜50mol%の量を添加するが、特に0.1〜5mol%が収率・コストの点で望ましい。
【0013】
反応は、通常、加熱下に行われ、エステル交換反応により生じる低沸点の酢酸エステル、即ち酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルなどを除去しながら行うとよい。
【0014】
こうして生成した2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エタノールは、再結晶により精製することも可能である。しかしながら、本発明の第一段階の反応混合物中の2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エタノールは、十分な純度を有しており、溶媒・触媒との混合物のまま、次の第二段階に進むことができる。
【0015】
反応の第二段階は、触媒の存在下、第一段階で生成した2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エタノールとメタクリル酸エステル又はアクリル酸エステルとを反応させ、エステル交換によりメタクリル酸2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エチル又はアクリル酸2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エチルを得る工程である。用いられるメタクリル酸エステル又はアクリル酸エステルとして、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチルなどが挙げられる。これらのうち、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルが価格や反応の進行の容易さから好ましい。
【0016】
反応は無溶媒で行うことができ、余計な濃縮・溶媒回収などの操作を必要としないので好ましい。しかし、溶媒を補助的に使用することも可能であり、この場合、溶媒として、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメンなどの炭化水素類、テトラヒドロフラン、ジ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテルなどのエーテル類を用いることができる。溶媒を用いる場合には、第一段階で用いた溶媒をそのまま用いるのが経済的である。
【0017】
触媒としては、塩酸、硫酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などの酸類、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt−ブトキシド、4−ジメチルアミノピリジンなどの塩基類、青酸ナトリウム、青酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸錫、酢酸アルミニウム、アセト酢酸アルミニウム、アルミナなどの塩類、三塩化アルミニウム、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、四塩化錫、四臭化錫、二塩化ジブチル錫、二臭化ジブチル錫、ジブチル錫ジメトキシド、ジブチル錫オキシド、四塩化チタン、四臭化チタン、チタン(IV)メトキシド、チタン(IV)エトキシド、チタン(IV)イソプロポキシド、酸化チタン(IV)などのルイス酸類を挙げることができ、これらは単独で又は混合して用いられる。これらのうち、三塩化アルミニウム、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、四塩化錫、四臭化錫、二塩化ジブチル錫、二臭化ジブチル錫、ジブチル錫ジメトキシド、ジブチル錫オキシド、四塩化チタン、四臭化チタン、チタン(IV)メトキシド、チタン(IV)エトキシド、チタン(IV)イソプロポキシド、酸化チタン(IV)などのルイス酸類が反応の進行が早く、収率もよく好ましい。触媒は触媒量が用いられ、通常、2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エタノールに対して0.1〜50mol%の量を添加するが、特に0.1〜5mol%が収率・コストの点で望ましい。触媒は、第二段階で新たに添加することも可能であるが、第一段階で用いた触媒をそのまま用いるのが経済的である。
【0018】
反応は、通常、加熱下に行われ、エステル交換反応により生じる低沸点のアルコール、即ちメタノール、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノールなどを除去しながら行うとよい。
【0019】
上述のように、反応の第一段階での精製操作を必要とせず、かつ第一段階と第二段階で共通の触媒、更に溶媒を用いる場合には溶媒も共通のものを用いることができるので、一つの反応装置で一連の変換反応が可能で、いわゆるワンポット反応(one pot reaction)で実施でき、工業的には大変大きな利点である。
【0020】
得られた反応混合物から通常の蒸留操作により、目的物であるメタクリル酸2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エチル又はアクリル酸2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エチルを高純度かつ高収率で単離できる。
【0021】
【実施例】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0022】
メタクリル酸2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エチルの製造
〔実施例1〕
蒸留ヘッドを取り付けた反応器に酢酸2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エチル335gとチタン(IV)イソプロポキシド2.84gを加え、混合物を70℃に加熱しながら撹拌した。ここへメタノール100mlを2時間かけて滴下し、その間に生じる酢酸メチルを系外へ留去した。2時間加熱撹拌還流した後、過剰のメタノールを留去した。残渣にメタクリル酸メチル105gを加え、還流しながら生じるメタノールを留去した。更に2時間撹拌を続けた後、そのまま混合物を減圧蒸留して、目的物のメタクリル酸2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エチル336g(収率93%)を得た。
【0023】
〔実施例2〕
実施例1のメタクリル酸メチルの代わりにメタクリル酸エチルを用いて、実施例1と同様な方法により、87%収率で目的物のメタクリル酸2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エチルを得た。
【0024】
〔実施例3〕
実施例1のチタン(IV)イソプロポキシドの代わりに三臭化ホウ素を用いて、実施例1と同様な方法により、79%収率で目的物のメタクリル酸2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エチルを得た。
【0025】
〔実施例4〕
実施例1のチタン(IV)イソプロポキシドの代わりにアルミニウムイソプロポキシドを用いて、実施例1と同様な方法により、94%収率で目的物のメタクリル酸2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エチルを得た。
【0026】
〔実施例5〕
実施例1のチタン(IV)イソプロポキシドの代わりにジブチル錫オキシドを用いて、実施例1と同様な方法により、96%収率で目的物のメタクリル酸2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エチルを得た。
【0027】
〔比較例1〕
酢酸2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エチル33.5g、15%水酸化ナトリウム水溶液270ml、メタノール200mlの混合物を室温で4時間撹拌した。混合物を飽和食塩水にあけ、n−ヘキサンで抽出した。n−ヘキサン溶液を洗浄・乾燥・濃縮して、粗生成物17.6g(粗収率60%)を得た。このものをガスクロマトグラフィで分析すると、2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エタノール81.4%に対し、副生物ビス(トリメチルシリル)(2−ヒドロキシエチル)シラン[HOCH2CH2Si(H)(Si(CH3)3)2]、ビス(トリメチルシリル)(2−ヒドロキシエチル)シラノール[HOCH2CH2Si(OH)(Si(CH3)3)2]、1,1−ビス(トリメチルシリル)−1−(2−ヒドロキシエチル)−3,3,3−トリメチルジシロキサン[HOCH2CH2Si(Si(CH3)3)2(OSi(CH3)3)]の3化合物の合計が12.7%であった。
【0028】
このものに塩化メチレン120ml、トリエチルアミン8gを混合したものを5℃で撹拌した。これに塩化メタクリロイル6.3gを滴下し、12時間室温で撹拌した後、氷水にあけ、酢酸エチルで抽出した。酢酸エチル溶液を洗浄・乾燥・濃縮して得られた残渣を減圧蒸留して、目的物のメタクリル酸2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エチル15.8g(二工程通算収率44%)を得た。
【0029】
〔比較例2〕
水素化アルミニウムリチウム(LiAlH4)3.8gをテトラヒドロフラン100mlに溶かした溶液をアルゴン雰囲気下、5℃で撹拌した。これに酢酸2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エチル33.5gを滴下した。5℃で1時間撹拌した後、氷冷しながら水3.8ml、15%水酸化ナトリウム水溶液3.8ml、水11.4mlをこの順序で加え、室温で1時間撹拌した。生じた沈澱を濾別し、テトラヒドロフラン溶液を乾燥・濃縮して、2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エタノール24.8gを得た。この粗生成物を溶媒に溶かしてガスクロマトグラフィで分析すると、2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エタノール98.2%であった。このものを比較例1と同様な方法でトリエチルアミンを塩基として塩化メタクリロイルでエステル化し、抽出した後、減圧蒸留で精製して、目的物のメタクリル酸2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エチル29.5g(二工程通算収率82%)を得た。
【0030】
アクリル酸2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エチルの製造
〔実施例6〕
実施例1のメタクリル酸メチルの代わりにアクリル酸メチルを用いて、実施例1と同様な方法により、92%収率で目的物のアクリル酸2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エチルを得た。
【0031】
【発明の効果】
本発明によれば、酢酸2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エチルを原料として、メタクリル酸2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エチル及びアクリル酸2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エチルを収率よく工業的スケールにおいて製造し得る。
Claims (3)
- 触媒の存在下、酢酸2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エチルとアルコールを反応させ、2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エタノールを得、次いでメタクリル酸エステル又はアクリル酸エステルと反応させ、メタクリル酸2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エチル又はアクリル酸2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エチルを得ることを特徴とするメタクリル酸2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エチル又はアクリル酸2−[トリス(トリメチルシリル)シリル]エチルの製造方法。
- 使用する触媒がルイス酸であることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
- 使用する触媒がAl,B,Sn又はTiを含むルイス酸であることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
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