JP3858963B2 - 燃料電池の制御装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、固体高分子型燃料電池システムにおいて、水詰まりを未然に防止する技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
燃料電池は以下のような化学反応を用いて、化学エネルギを直接電気エネルギに変換する発電装置である。
【0003】
2→2H++2e- ………(1)
1/2O2+2H++2e-→H2O ………(2)
2+1/2O2→H2O ………(3)
(1)式は陰極における反応、(2)式は陽極における反応、電池全体としては(3)式で表される反応となる。
【0004】
燃料電池を構成する基本単位としての単セルは、例えば、図5のように構成されている。
【0005】
単セル10は電解質である固体高分子膜13と、アノード14、カソード15とセパレータ12からとから構成されている。
【0006】
固体高分子膜13は湿潤状態で良好な導電性を示す電解質膜であり、アノード14及びカソード15はガス拡散電極であり、固体高分子膜13を挟み込んでMEA(Membrane Electrode Assembly=膜−電極接合体)11を構成する。
【0007】
そして、燃料ガスおよび酸化剤ガスの流路16、17がMEA11の側面に形成されたセパレータ12、12で画成され、これらセパレータ12、12が、さらにMEA11を挟み込んで単セル10を構成する。
【0008】
この単セル10が所定数積層されて、燃料電池スタック1を構成する。
【0009】
固体高分子膜13は、導電性を維持するために常時適切な湿潤状態に保たれる必要があり、燃料電池に供給されるガスは予め加湿されて水蒸気を含んでいることが一般的である。
【0010】
加えて、上式の反応により水が生成されるため、運転条件等によっては供給ガス中の水蒸気や生成水が凝縮することがある。
【0011】
ガス拡散電極で構成されたアノード14やカソード15に凝縮水が発生すると、電極内でガスの拡散が阻害され、ガスの供給を受けられない部位が生じ、発電性能が低下する。
【0012】
また、単セル10内の燃料ガス流路16、酸化剤ガス流路17等において凝縮水が発生すると、これらガス流路が塞がれて水詰まりとなり、ガスの供給が受けられない部位が生じるとともに、圧力損失となって、ガスの供給量が減り発電性能をより低下させる。
【0013】
そこで、従来は、水蒸気の凝縮が発生した際の不都合を防止するために、一時的に供給ガスの流量を増加させて、凝縮水を吹き飛ばしたり、水詰まりを検知すると、ストイキ(負荷に応じた燃料ガス量と酸化剤ガス量の理論値の比)を大きく増加させたり、水詰まりが解消されるまで出力を低下させるものなど、いくつか提案されている。
【0014】
例えば、特開平11−67260号公報では、複数のスタックと連通したガス流路の途中に分配制御手段を備え、各スタックへのガス分配の割合を変化させることを可能とし、各スタックに対し周期的にガス流量を増加する期間を発生させ、一時的に通常の運転に必要なガス流量よりも大きく増加するガスの流れを利用して凝縮水を吹き飛ばす構成となっている。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来例のように、供給ガスの分配を変える場合では、複数のスタックを使用したシステム、もしくは一つのスタックでも、各単セルへのガス供給が複数の供給マニホールド(ガス流路)によって構成されている場合にしか成立しない。
【0016】
そして、分配制御手段を稼動させるため、通常の運転に必要な量よりも、常に多めのガス流量を供給する必要があり、水の凝縮による流路水詰まり等の不都合が生じていなくとも、ガス供給手段に無駄なエネルギを消費させ、燃料電池システムの効率を低下させてしまうと言う問題があった。
【0017】
また、ガス流路に分配制御手段が存在することで、ガス流路そのものに圧力損失が生じるため、ガスの供給手段の負荷が増し、燃料電池システム効率を低下させる。
【0018】
さらには、分配制御手段が存在することによる圧力損失により、ガス供給の応答性も落ちるため、出力電力の応答性も低下するという問題があった。
【0019】
そこで本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、運転性の低下を防ぎながらも、反応に寄与せずに排出されて無駄になるガスを最低限にとどめて、凝縮水による流路の水詰まりを防止することを目的とする。
【0020】
【課題を解決するための手段】
第1の発明は、複数の固体高分子型燃料電池単位セルを積層し、燃料ガスを流通する燃料ガス流路と、酸化剤ガスを流通する酸化剤ガス流路を有する燃料電池スタックと、前記燃料電池スタックに燃料ガスを供給する燃料供給装置と、前記燃料電池スタックに酸化剤ガスを供給する酸化剤供給装置と、前記燃料電池スタックの出力を負荷または二次電池へ供給するとともに、二次電池から負荷へ供給可能な電力制御手段と、前記負荷に応じて要求出力を決定し、この要求出力となるように前記燃料供給装置と酸化剤供給装置及び電力制御手段を制御する制御手段とを備えた燃料電池の制御装置において、
前記燃料電池スタックの運転状態を検出する運転状態検出手段と、この運転状態に基づいて燃料電池スタックに水詰まりが発生することを判断または推定する判定手段とを備えて、前記制御手段は、この判定手段が水詰まりが発生することを判定している間、燃料電池スタックから負荷への出力を、前記要求出力を最大値として、前記燃料ガス流路または前記酸化剤ガス流路の少なくとも一方に脈動を発生させるためパルス状かつ断続的に変化させるとともに、要求出力に対する不足分を前記二次電池で補う。
【0021】
また、第2の発明は、前記第1の発明において、前記運転状態検出手段は、燃料電池スタックの温度と負荷状態を検出し、前記判定手段は、燃料電池スタックの温度が水詰まりが生じ易い低温領域のとき、または、燃料電池スタックの負荷状態が水詰まりが生じ易い低負荷領域のときに水詰まりの発生を判定する。
【0022】
また、第3の発明は、前記第1または第2の発明において、前記制御手段は、前記判定手段が水詰まりの発生を判定している間、燃料電池スタックから負荷への出力を、前記要求出力の80%から100%の間でパルス状に変化させる。
【0023】
また、第4の発明は、前記第3の発明において、前記制御手段は、前記判定手段が水詰まりの発生を判定している間、予め設定した時間間隔毎に、燃料電池スタックから負荷への出力をパルス状に変化させる。
【0024】
また、第5の発明は、複数の固体高分子型燃料電池単位セルを積層し、燃料ガスを流通する燃料ガス流路と、酸化剤ガスを流通する酸化剤ガス流路を有する燃料電池スタックと、
前記燃料電池スタックに燃料ガスを供給する燃料供給装置と、前記燃料電池スタックに酸化剤ガスを供給する酸化剤供給装置と、前記燃料電池スタックの出力を負荷またはキャパシタへ供給するとともに、キャパシタから負荷へ供給可能な電力制御手段と、前記負荷に応じて要求出力を決定し、この要求出力となるように前記燃料供給装置と酸化剤供給装置及び電力制御手段を制御する制御手段とを備えた燃料電池の制御装置において、
前記燃料電池スタックの運転状態を検出する運転状態検出手段と、この運転状態に基づいて燃料電池スタックに水詰まりが発生することを判断または推定する判定手段とを備えて、前記制御手段は、この判定手段が水詰まりが発生することを判定している間、燃料電池スタックから負荷への出力を、前記要求出力を最大値として、前記燃料ガス流路または前記酸化剤ガス流路の少なくとも一方に脈動を発生させるためパルス状かつ断続的に変化させるとともに、要求出力に対する不足分を前記キャパシタで補う。
【0025】
【発明の効果】
従って、第1の発明は、燃料電池スタックに水詰まりが発生しやすい運転状態の間は、断続的に燃料電池スタックに対する要求出力が、燃料ガス流路または酸化剤ガス流路の少なくとも一方に脈動を発生させるようパルス状に変化するため、燃料電池スタック内のガス流路において相対的にストイキを増加させるとともに、意図的にガス流路に脈動を発生させて、これらガス流路内の水を排出し、単セルが水詰まりによって電圧降下を引き起こすのを未然に防ぐことができ、かつ、要求出力の不足分を二次電池で補うため、運転性の低下を防止できる。
【0026】
前記従来例等では、水詰まりが発生した単セルの電圧が低下することを利用して、他のセルとの電圧差が所定の値(例えば、単セル電圧の平均値の70%)以下になったことを検知すると、凝縮水を排出するための運転を行うのが一般的であるのに対し、本発明においては、単セル電圧は燃料電池スタックの保護のためにのみ使用され(単セル電圧が所定の電圧以下になることを防止する)、単セル電圧以外の前記各センサからの値により、燃料電池スタックが低温であったり、低負荷で運転される等の水詰まりが発生しやすい運転状態に入ったことを判定し、水詰まりによる電圧低下が発生する前、つまり燃料電池スタックの発電効率が低下する前に凝縮水の排出運転を行うことが可能となる。
【0027】
また、第2の発明は、燃料電池スタックが低温であったり、低負荷で運転される等の水詰まりが発生しやすい運転状態に入ったことを判定し、水詰まりによる電圧低下が発生する前、つまり燃料電池スタックの発電効率が低下する前に凝縮水の排出運転を行うことが可能となる。
【0028】
前記従来例等では、水詰まりが発生した単セルの電圧が低下することを利用して、他のセルとの電圧差が所定の値(例えば、単セル電圧の平均値の70%)以下になったことを検知すると、凝縮水を排出するための運転を行うのが一般的であるのに対し、本発明においては、単セル電圧は燃料電池スタックの保護のためにのみ使用され(単セル電圧が所定の電圧以下になることを防止する)、単セル電圧以外の温度や負荷状態により水詰まりの発生を判定または推定することで、単セル電圧の降下を未然に防ぐことが可能となる。
【0029】
また、第3の発明は、水詰まりの発生を判定している間は、燃料電池スタックから負荷への出力を、要求出力の80%から100%の間でパルス状に変化させることで、燃料電池スタック内のガス流路において相対的にストイキを増加させるとともに、意図的にガス流路に脈動を発生させて、これらガス流路内の水を排出し、単セルが水詰まりによって電圧降下を引き起こすのを未然に防ぐことができ、燃料電池スタックの出力をパルス状に変化させることで、反応に寄与せず無駄に排出されてしまう燃料ガスを低減することができる。
【0030】
また、第4の発明は、水排出運転中では、常時出力を低下させるのではなく、燃料電池スタックの出力を、予め設定した時間間隔毎に、パルス状に変化させることにより、要求出力の不足分を補助する二次電池の容量が増大するのを防ぎ、車両の回生エネルギの回収、急加速時の補助等の要件から二次電池の容量を決められるため、水排出のためだけによる重量増加等の効率低下を避けられる。
【0031】
また、第5の発明は、燃料電池スタックに水詰まりが発生しやすい運転状態の間は、断続的に燃料電池スタックに対する要求出力が、燃料ガス流路または酸化剤ガス流路の少なくとも一方に脈動を発生させるようパルス状に変化するため、燃料電池スタック内のガス流路において相対的にストイキを増加させるとともに、意図的にガス流路に脈動を発生させて、これらガス流路内の水を排出し、単セルが水詰まりによって電圧降下を引き起こすのを未然に防ぐことができ、かつ、要求出力の不足分をキャパシタで補うため、運転性の低下を防止できる。
【0032】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0033】
図1は、本発明を燃料電池車両に適用した一例を示し、燃料電池スタック1は、上記図5に示した単セル10を複数結合したものである。
【0034】
燃料供給装置2から燃料電池スタック1へ供給された燃料ガスは、図5に示した燃料ガス流路16に送られ、また、酸化剤供給装置3から燃料電池スタック1へ供給された酸化剤ガスは、同じく図5の酸化剤ガス流路17へ送られて、燃料電池スタック1は、送られてきた燃料ガス、酸化剤ガスに応じて発電を行う。
【0035】
燃料電池スタック1で発電された電力は、DC/DCコンバータやインバータなどで構成されるパワー制御ユニット4(電力制御手段)を介して負荷6(例えば、モータ)を駆動したり、二次電池5の充電を行う。また二次電池5は、負荷6と燃料電池スタック1の出力に応じて放電することで、燃料電池スタック1の出力が不足する場合には、これを補う。
【0036】
また、燃料電池スタック1は、ラジエータ8及び冷媒循環ポンプ9からなる冷却装置を備える。
【0037】
コントロールユニット7は、マイクロコンピュータなどを主体に構成されており、負荷6等の要求出力(必要電力)に応じて燃料電池スタック1へ供給するガス流量を決定して、燃料供給装置2、酸化剤供給装置3を制御するとともに、燃料電池スタック1の出力と二次電池5の充電量(電圧)に応じてパワー制御ユニット4の制御を行い、燃料電池スタック1の運転状態が最適となるように制御する。
【0038】
このため、燃料電池スタック1には、温度を検出する温度センサ21と、各単セル10の電圧とスタックの総電圧を検出する電圧センサ22が配設され、これらセンサの出力がコントロールユニット7に入力される。なお、温度センサ21は、燃料電池スタック1を冷却する冷媒の出口温度などを、燃料電池スタック1の温度として代用してもよい。
【0039】
また、燃料供給装置2から供給される燃料ガスの流量を検出する流量センサ23と、燃料ガスの圧力を検出する圧力センサ25が配設されるとともに、酸化剤供給装置3から供給される酸化剤ガスの流量を検出する流量センサ24と、酸化剤ガスの圧力を検出する圧力センサ26が配設され、これらセンサの出力がコントロールユニット7に入力される。
【0040】
さらに、二次電池5には電池容量を検出するため、電圧センサ27が配設され、コントロールユニット7は、電圧センサ27の検出値から二次電池5の容量(充電量)を演算する。
【0041】
ここで、コントロールユニット7は、上記各センサの検出値を燃料電池スタック1の状態量として読み込み、通常の燃料電池スタック1の運転制御に加えて、燃料電池スタック1に水詰まりが生じないように、凝縮水を排出する制御を行う。
【0042】
この水排出制御について、図2、図3のフローチャートを参照しながら説明する。
【0043】
まず、ステップS1では、上記図1の各センサからの検出値を状態量として読み込み、ステップS2において、燃料電池スタック1の運転状態が、単セル10のガス流路16、17内に水詰まりが発生しやすい状態であるか否かより、水排出運転を行うか否かを判定する。
【0044】
燃料電池スタック1の運転状態が、水詰まりを生じやすい状態であれば水排出運転を行うため、ステップS3に進む一方、そうでない場合には通常の運転を行うためステップS5に進む。
【0045】
ここで、水排出運転は、単セル10のガス流路16、17内に水詰まりの発生が予想される場合に行われ、例えば、燃料電池スタック1が低温のときや、低負荷でガス流量が少ないときなどであり、燃料電池スタック1がこのような運転状態になったときには、単セル10のガス流路に水詰まりが発生するのを防止するため、凝縮水を排出しておくのである。
【0046】
このステップS2の判定の一例は、図3のサブルーチンのようになる。
【0047】
すなわち、温度センサ21が検出した燃料電池スタック1の温度が、60°C未満の低温時には、単セル10のガス流路に水詰まりが発生する恐れがあるため、水排出運転を行う(ステップS11、S15)。
【0048】
また、圧力センサ25または26が検出した燃料ガスまたは酸化剤ガスの圧力が所定値Pe未満のときには、同じく水詰まりが発生する恐れがあるため、水排出運転を行う(ステップS12、S15)。
【0049】
尚、ここで、上記所定値Peは、燃料ガスまたは酸化剤ガスの圧力のセレクトロー(いずれか一方のうち、より低圧側)の値を判定するためのしきい値である。
【0050】
また、燃料電池スタック1の出力が定格の20%未満のときには、同じく水詰まりが発生する恐れがあるため、水排出運転を行う(ステップS13、S15)。
【0051】
さらに、流量センサ23または24が検出した燃料ガスまたは酸化剤ガスの流量が定格の20%未満のときには、同じく水詰まりが発生する恐れがあるため、水排出運転を行う(ステップS14、S15)。
【0052】
一方、上記ステップS11〜S14のいずれでもないとき、すなわち、燃料電池スタック1の温度が60°C以上かつ、ガス圧力が所定値Pe以上かつ、燃料電池スタック1の出力が定格の20%以上かつ、ガス流量が定格の20%以上の場合には、ステップS16へ進んで通常の運転を行う。
【0053】
以上のように、水排出運転の可否を判定し、図3のフローチャートでステップS15の水排出運転が判定されたときには、図2のステップS3へ進む一方、図3のフローチャートでステップS16の通常運転が判定されたときには、図2のステップS5に進む。
【0054】
図2のステップS3では、電圧センサ27の検出値より二次電池5の容量が負荷6を駆動するのに十分であるか否かを判定し、十分であればステップS4へ進む一方、不十分な場合にはステップS6に進む。
【0055】
二次電池5の容量が十分であると判定されたステップS4では、パワー制御ユニット4への出力指令値を、次式に基づいてパルス状に変化させる。
【0056】
パルス周波数=要求出力×Kp ………(4)
ただし、Kpは定数。
【0057】
パルス振幅=要求出力×20% ………(5)
とし、これら(4)、(5)式で求めたパルス周波数、振幅で、予め設定した運転時間Tibの間だけ、燃料電池スタック1の出力を変化させるようにパワー制御ユニット4へ指令する。出力が大きいほど周波数も大きくなる。
【0058】
同時に、上記(5)式より、要求出力(=負荷)に対して不足する出力(ここでは20%)を、二次電池5の出力で補うようにパワー制御ユニット4に指令する。
【0059】
そして、所定時間Tibの間、燃料電池スタック1の出力をパルス状に変化させるとともに、不足する出力を二次電池5で補いながら運転を行った後には、ステップS5に進んで、通常の運転状態へ復帰する。なお、通常の運転状態では、燃料電池スタック1の出力が、要求出力に一致するように、パワー制御ユニット4と燃料供給装置2応じ及び酸化剤供給装置3へ指令する。
【0060】
一方、上記ステップS3の判定で、二次電池5の容量が不足している場合に進むステップS6では、予め設定した運転時間Tibの間だけ、負荷に応じた燃料ガス量と酸化剤ガス量を、理論値に対して、例えば、1.25倍などの所定値に応じて増大させるように燃料供給装置2及び酸化剤供給装置3に指令を送出し、この増大させた燃料ガスと酸化剤ガスの流量で、凝縮水を排出する。
【0061】
以上の制御を所定の周期で繰り返すことにより、燃料電池スタック1が水詰まりを発生しやすい運転状態であると判断(または推定)すると、水詰まりが実際に発生する前に水排出運転を実施するのである。
【0062】
すなわち、燃料電池スタック1の温度が低温(例えば60°C未満)となったり、燃料電池スタック1の負荷が低負荷(例えば、定格出力の20%未満)の場合や、燃料ガスや酸化剤ガスの圧力または流量が所定値未満になると、コントロールユニット7は、燃料電池スタック1が水詰まりを発生しやすい運転状態にあると判定し、通常運転から水排出運転に切り換える。
【0063】
水排出運転では、図4に示すように、二次電池5の容量が燃料電池スタック1の出力を補間可能であれば、燃料電池スタック1に対する出力要求値を、80〜100%の間でパルス出力を所定時間Tibの間、断続的に変化させる。このとき、要求出力に対する不足分(20%)は二次電池5から供給され、車両として運転性が損なわれることはない。
【0064】
そして、所定時間Tibを経過すると、所定時間Tiwの間だけ通常の運転を行う。
【0065】
燃料電池スタック1に水詰まりが発生しやすい運転状態の間は、所定の周期(Tib+Tiw)ごとに、所定時間Tibずつ燃料電池スタック1に対する出力要求値を、80〜100%の間でパルス状に変化させ、相対的にストイキを増加させるとともに、意図的にガス流路16、17に脈動を発生させて、これらガス流路16、17内の水を排出し、単セル10が水詰まりによって電圧降下を引き起こすのを未然に防ぐことができる。
【0066】
そして、燃料電池スタック1が水詰まりしやすい運転状態から脱すると、通常の運転状態に復帰するのである。
【0067】
したがって、前記従来例等では、水詰まりが発生した単セル10の電圧が低下することを利用して、他のセルとの電圧差が所定の値(例えば、単セル電圧の平均値の70%)以下になったことを検知すると、凝縮水を排出するための運転を行うのが一般的である。
【0068】
これに対して、本発明においては、セル電圧監視手段(電圧センサ22)は燃料電池スタック1の保護のためにのみ使用され(単セル電圧が所定の電圧以下になることを防止する)、コントロールユニット7は、単セル電圧以外の前記各センサからの値により、燃料電池スタック1が低温であったり、低負荷で運転される等の水詰まりが発生しやすい運転状態に入ったことを検知し、水詰まりによる電圧低下が発生する前、つまり燃料電池スタック1の発電効率が低下する前に凝縮水の排出運転を行う。
【0069】
そして、水排出運転では、燃料電池スタック1の出力を周期的にパルス状に変化させ、そのパルス出力の周波数は要求出力に所定の係数Kpを乗じた値とし、要求出力が大きいほど周波数も大きくなり、パルス出力の振幅は要求出力の20%となって、要求出力が大きいときほど振幅も大きくなって、水詰まりを解消、あるいは防止するために追加の装置等を付加することなく、水詰まりを確実に防止出来るという効果がある。
【0070】
また、燃料電池スタック1に、水詰まりによる不具合が発生してから対処するのではなく、不具合が発生する前に原因となる凝縮水を排出可能なため、燃料電池システムとして効率が低下する運転状態が低減されるという効果がある。
【0071】
さらに、水詰まりによる不具合の発生をセル電圧の局所的な低下で判断するのではないため、セル電圧の低下が起きた場合には、他の原因であることが明確なため、制御に原因の分離をするロジックを組む必要がなく、誤判断が避けられ、コントロールユニット7の演算負荷も低減出来るという効果がある。
【0072】
また、燃料電池スタック1の出力をパルス状に変化させるようにしたので、無駄に排出されてしまう燃料ガスを低減することができ、凝縮水の排出のためにガス流量を必要以上に増加させることがないため、燃料供給装置2および酸化剤供給装置3を大型化させる等のコスト高、効率低下となる要因を排除できるという効果がある。
【0073】
そして、水排出運転中では、常時出力を低下させるのではなく、燃料電池スタック1の出力を、断続的にパルス状に変化させることにより、要求出力の不足分を補助する二次電池5の容量が過大になるのを防いで、車両の回生エネルギの回収、急加速時の補助等の要件から二次電池5の容量を決められるため、水排出のためだけによる重量増加等の効率低下を避けられるという効果がある。
【0074】
さらに、水排出運転がパルス出力によるため、単セル10内のガス流路16、17に脈動が生じ、これも凝縮水の排出の一助となるという効果がある。
【0075】
なお、二次電池5の代わりにキャパシタを使用した場合でも上記と同様の作用、効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態を示す燃料電池車両の概略構成図。
【図2】コントロールユニットで行われる水排出運転のフローチャート。
【図3】同じく、水排出運転の要否を決定するサブルーチンのフローチャート。
【図4】作用を示すグラフで、燃料電池スタックに対する要求出力及び負荷に応じた全体の要求出力吸気と時間の関係を示す。
【図5】単セルの概略断面図である。
【符号の説明】
1 燃料電池スタック
2 燃料供給装置
3 酸化剤供給装置
4 パワー制御ユニット
5 二次電池
6 負荷
7 コントロールユニット
8 ラジエータ
9 冷媒循環用ポンプ
10 単セル
11 MEA
12 セパレータ
13 固体高分子膜
14 アノード
15 カソード
16 燃料ガス流路
17 酸化剤ガス流路
21 スタック温度センサ
22 スタック電圧センサ
23、24 ガス流量センサ
25、26 ガス圧力センサ
27 二次電池電圧センサ

Claims (5)

  1. 複数の固体高分子型燃料電池単位セルを積層し、燃料ガスを流通する燃料ガス流路と、酸化剤ガスを流通する酸化剤ガス流路を有する燃料電池スタックと、
    前記燃料電池スタックに燃料ガスを供給する燃料供給装置と、
    前記燃料電池スタックに酸化剤ガスを供給する酸化剤供給装置と、
    前記燃料電池スタックの出力を負荷または二次電池へ供給するとともに、二次電池から負荷へ供給可能な電力制御手段と、
    前記負荷に応じて要求出力を決定し、この要求出力となるように前記燃料供給装置と酸化剤供給装置及び電力制御手段を制御する制御手段とを備えた燃料電池の制御装置において、
    前記燃料電池スタックの運転状態を検出する運転状態検出手段と、
    この運転状態に基づいて燃料電池スタックに水詰まりが発生することを判断または推定する判定手段とを備えて、
    前記制御手段は、この判定手段が水詰まりが発生することを判定している間、燃料電池スタックから負荷への出力を、前記要求出力を最大値として、前記燃料ガス流路または前記酸化剤ガス流路の少なくとも一方に脈動を発生させるためパルス状かつ断続的に変化させるとともに、要求出力に対する不足分を前記二次電池で補うことを特徴とする燃料電池の制御装置。
  2. 前記運転状態検出手段は、燃料電池スタックの温度と負荷状態を検出し、前記判定手段は、燃料電池スタックの温度が水詰まりが生じ易い低温領域のとき、または、燃料電池スタックの負荷状態が水詰まりが生じ易い低負荷領域のときに水詰まりの発生を判定することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池の制御装置。
  3. 前記制御手段は、前記判定手段が水詰まりの発生を判定している間、燃料電池スタックから負荷への出力を、前記要求出力の80%から100%の間でパルス状に変化させることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池の制御装置。
  4. 前記制御手段は、前記判定手段が水詰まりの発生を判定している間、予め設定した時間間隔毎に、燃料電池スタックから負荷への出力をパルス状に変化させることを特徴とする請求項3に記載の燃料電池の制御装置。
  5. 複数の固体高分子型燃料電池単位セルを積層し、燃料ガスを流通する燃料ガス流路と、酸化剤ガスを流通する酸化剤ガス流路を有する燃料電池スタックと、
    前記燃料電池スタックに燃料ガスを供給する燃料供給装置と、
    前記燃料電池スタックに酸化剤ガスを供給する酸化剤供給装置と、
    前記燃料電池スタックの出力を負荷またはキャパシタへ供給するとともに、キャパシタから負荷へ供給可能な電力制御手段と、
    前記負荷に応じて要求出力を決定し、この要求出力となるように前記燃料供給装置と酸化剤供給装置及び電力制御手段を制御する制御手段とを備えた燃料電池の制御装置において、
    前記燃料電池スタックの運転状態を検出する運転状態検出手段と、
    この運転状態に基づいて燃料電池スタックに水詰まりが発生することを判断または推定する判定手段とを備えて、
    前記制御手段は、この判定手段が水詰まりが発生することを判定している間、燃料電池スタックから負荷への出力を、前記要求出力を最大値として、前記燃料ガス流路または前記酸化剤ガス流路の少なくとも一方に脈動を発生させるためパルス状かつ断続的に変化させるとともに、要求出力に対する不足分を前記キャパシタで補うことを特徴とする燃料電池の制御装置。
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