JP3858415B2 - パネル型スピーカ装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、スピーカ装置に関し、さらに詳しくは再生入力信号に基づいてドライバユニットから加えられる振動によりパネル状の振動体に部分的な曲げ動作を生じさせて再生出力を放音するようにしたパネル型スピーカ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
スピーカ装置としては、一般にコーン型ダイナミックスピーカやホーン型ダイナミックスピーカ等が知られいる。例えばコーン型ダイナミックスピーカは、円錐形状を呈して形成された振動板と、この振動板を駆動するドライバユニットと、振動板の外周縁部を支持するフレームと、これら各部材を収納したキャビネット等の部材によって構成される。ドライバユニットは、ボイスコイルと、ポールと、プレートと、マグネットと、ダンパー及びセンタキャップ等の部材によって構成されている。
【0003】
振動板は、軽量で内部損失が大きい素材によって上述した円錐形を基本形状に形成され、その中心部にドライバユニットが配置される。振動板は、一般に内周部から外周部に向かって次第にその厚みが薄くされるるとともに、その外周縁部が全周に亘って矢紙を介してフレームに支持されている。フレームは、振動板とドライバとを結合するとともに、振動板の保護作用も奏する。フレームには、振動板に対してその振動動作による反作用の影響を及ぼさないように、一般に切欠き窓が形成されている。矢紙は、振動板の外周縁部の押さえと、この振動板が振動動作した際にキャビネットの取付部と接触しないように作用する。
【0004】
一方、ホーン型ダイナミックスピーカは、ボイスコイルによって駆動される振動板の振動音をホーンによって拡大して放出するようにしたものであり、ホーンを有する以外の基本的な構成については上述したコーン型ダイナミックスピーカと同等とされる。すなわち、ホーン型ダイナミックスピーカにおいても、マグネットと、その先端部に一体に組み付けられたポールと、ポールの周囲を取り囲むヨークと、ポールと対向する開口部を有してヨークに組み付けられたプレートとによってドライバユニットを構成し、このドライバユニットによって振動板が振動動作される。
【0005】
振動板は、アルミニウム等の軽金属や合成樹脂等によって球面形状を呈して形成されている。振動板は、開口部を閉塞することによってポールと対向するようにしてその外周縁部がプレートに結合されている。振動板は、上述したコーン型ダイナミックスピーカの振動板よりも小さくかつ振動系の共振が再生帯域のほぼ中央領域でよいために機械的剛性が大きい。したがって、振動板は、ダンパーを介すること無くプレートに結合されるとともに、その周辺部をドライバユニットによって振動動作される。換言すれば、ホーン型ダイナミックスピーカにおいても、その振動板が、コーン型ダイナミックスピーカの振動板と同様に外周縁部を固定されて支持されている。
【0006】
ところで、スピーカ装置においては、ボックス等を必要とせず薄型であり、自由な位置に設置することができるいわゆるパネル型スピーカ装置の実現について多くの試みが図られてきた。しかしながら、これら多くの試みは、いずれも技術上の限界や音響性能の限界等によって理想的なパネル型スピーカ装置を実現するまでには至っていない。これらの試みは、その多くが上述したコーン型ダイナミックスピーカやホーン型ダイナミックスピーカを基本としたものであった。
【0007】
薄型スピーカ装置としては、例えばパネル状の振動板を固定極に対して微小な間隔を以って対向配置してなるコンデンサ型スピーカが知られている。コンデンサ型スピーカは、一般に振動板に金属薄膜が成膜形成されるとともにこの振動板と固定極との間に数100ボルトの直流偏倚電圧が印加されてなる。振動板は、固定極に再生信号が入力されると、この固定極との間の磁気的吸引力の変化によって振動する。また、コンデンサ型スピーカとしては、振動板を挟んで固定極を配置することによって、全帯域用に対応するようにしたプッシュプル型スピーカも提供されている。
【0008】
コンデンサ型スピーカは、上述したように放音部に数100ボルトの電圧を印加する必要があることから、いかなる場所にでも自由に設置することが困難であるとともに、温度や湿度条件の変化による安定性が低いといった問題点を有している。また、コンデンサ型スピーカは、入力電圧が直流偏倚電圧に規定されることによって、入力電圧に対して得られる最大無歪み出力音圧レベルが上述したダイナミックスピーカ装置に比較して小さいといった問題もある。さらに、コンデンサ型スピーカは、全帯域で安定した周波数特性を確保するためには振動板が大型化するといったように種々の問題点を有している。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
スピーカ装置は、一般に再生入力信号が供給されるとドライバユニットによって振動板がピストンのように動作して出力再生が行われると考えられている。したがって、パネル型スピーカ装置においても、振動板を電磁駆動方式や静電駆動方式により上述した従来型のスピーカ装置の振動板と同様に動作する高精度の平面ダイヤフラムを製作する試みがなされていた。例えば静電駆動方式の振動板においては、所定のテンションを以って外周部が支持されており、ドライバユニットからの駆動力が与えられるとその駆動位置から波動が同心円状に連続して発生する。かかる振動板は、大きな単一位相の振動板として動作することによって、音の集中と制御が不可能な振動とを生じる大面積ピストン動作に起因する種々の問題を解決しなければならない。
【0010】
一方、パネル型スピーカ装置として、曲げ波動理論に基づいてドライバユニットにより振動板を駆動するようにした新規なパネル構造を有するスピーカ装置が提案されている。この新規なパネル型スピーカ装置は、機械的剛性が比較的大きな堅いパネル構造によって振動板が構成されており、ドライバユニットから駆動力が与えられるとこの振動板の表面全体に複雑な振動モードが生成される。振動モードは、振動板の動作周波数の範囲に均一に分布された最も複雑で密集した波形の構造となる。新規なパネル型スピーカ装置は、有限サイズの振動板に関する曲げ波動の物理的特性と、波動の速度対周波数特性と、駆動点インピーダンス特性との解析により特徴付けられる。
【0011】
新規なパネル型スピーカ装置は、想定される用途に応じてパラメータが最適化された曲げ剛性の振動板が用いられ、一致周波数の下方周波数帯域までの動作が可能とされる。新規なパネル型スピーカ装置は、一般に振動板から最大密度の曲げモードを確保するために、この振動板の中心点付近がドライバユニットによって駆動される。振動板は、有限要素解析によって均一なモード密度を与える特定の縦横比が数学的なモデリングツールによって実証されている。また、新規なパネル型スピーカ装置は、フーリェ型の分析によって、最良のモードの均一性を実現する振動板に対する駆動力の供給位置が求められる。そして、新規なパネル型スピーカ装置においては、フーリェ型分析の拡張によって高周波数帯域において多少の損失が生じるものの、より大きな面積の振動板を駆動することも可能とされる。振動板は、波動関数のゼロ周波数限界をとることにより、より一般的な静的梁の曲げ方程式に近似した曲げ剛性の式によって表現される。
【0012】
新規なパネル型スピーカ装置は、振動板の曲げ動作を規定する要因、すなわち面密度、曲げ剛性、幾何学的寸法(外形寸法)、表面積、駆動点の位置、及びドライブユニットのパラメータ、コアのシェアモジュール、内部損失、或いは振動板の支持方法のパラメータが最適に設定されることによって製作される。一般的なスピーカ装置においては、ダイポールと称される後方の音が前方の音と逆相を呈することから、中周波数帯域から低周波数帯域の音響エネルギーの打ち消しを防ぐ大きなバッフル板やエンクロジャを必要とする。一方、新規なパネル型スピーカ装置においては、バイポーラと称される後方の音の輻射が前方の音と加算されることから、効率の改善が図られるとともにバッフル板やエンクロージャを不要とし小型で薄型化が図られる。
【0013】
新規なパネル型スピーカ装置は、単一素子のトランスデューサで駆動される1枚の振動板によってフルレンジの出力再生が可能とされる。新規なパネル型スピーカ装置は、振動板の適切な材質の選択とトランスデューサに適合した構成とによって、従来のスピーカ装置と同等のフラットな周波数特性を得ることが可能とされる。
【0014】
新規なパネル型スピーカ装置は、感度と電気的負荷とが従来のスピーカ装置と同等とされることにより既存のアンプとの互換性が図られるばかりでなく動電型ドライバユニットや圧電型ドライバユニットの適用が可能とされ、非常に広い音場の放射パターン並びに双指向性の放射パターンが得られる。新規なパネル型スピーカ装置は、機械的エネルギから音響的エネルギへの変換効率がほぼ100%であるとともに周波数に独立した無指向性放射の特性、すなわち各周波数に関してサウンドパワーの大きな均一性を保有している。新規なパネル型スピーカ装置は、距離の条件によるサウンドパワーの減衰が小さいといった特徴を有するとともに、その新規な構成によりその他種々の特徴を有している。
【0015】
上述したように新規なパネル型スピーカ装置においては、低周波数域での共振周波数が低くなって周波数応答特性の大幅な向上が図られるが、高周波数帯域では低周波数域ほど大きな周波数応答特性の改善が得られずに一様なフラットな特性が得られないといった特徴がある。
【0016】
本発明は、上述したドライバユニットにより再生入力信号に基づいて振動板を駆動して出力再生を行う曲げ波動理論に基づく新規なパネル型スピーカ装置を基本構成として、低周波数帯域から高周波数帯域までの幅広い周波数応答特性を得るパネル型スピーカ装置を提供することを目的に提案されたものである。
【0017】
【課題を解決するための手段】
上述したような目的を達成するために提案される本発明に係るパネル型スピーカ装置は、剛性を有するパネル状に形成されるとともに外周部位がほぼ非拘束状態で支持されたパネル状の振動体と、上記振動体に取り付けられ、この振動体の加振動源を構成する少なくとも一方及び他方のドライバユニットとを備える。上記一方のドライバユニットには、一端部にボイスコイルを巻回し、他端部に筒状部材を設けたコイルボビンが設けられ、上記他方のドライバユニットには、一端部にボイスコイルを巻回し、他端部に先端部に向かって漸次細くなる錘台状部材を設けたコイルボビンが設けられ、上記筒状部材と錘台状部材の各々の先端が上記振動体に取り付けられてなり、上記振動体は、上記ドライバユニットからの再生入力信号に基づく振動が加えられることにより部分的な曲げ動作が発生して再生出力を放音することを特徴とする。
【0019】
以上のように構成された本発明にかかるパネル型スピーカ装置によれば、再生入力信号に基づいてドライバユニットにより振動体に部分的な曲げ動作を生じさせて再生出力の放音が行われる。パネル型スピーカ装置は、外周部が非拘束状態とされて自由振動を行うことから低周波数帯域において良好な音質の再生出力を共鳴箱や音響管を不要として充分な音量で放音する。パネル型スピーカ装置は、振動板に対してドライバユニットにより複数箇所から振動を加えることから、各加振動部に基づく周波数応答特性の特徴によって見かけ上多数の音源を有する状態が生成される。したがって、パネル型スピーカ装置は、低周波数帯域から高周波数帯域までより広い周波数帯域において周波数応答特性の改善が図られるとともに高周波帯域における広い指向特性が確保される。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。本発明の実施の形態として図に示したパネル型スピーカ装置1は、一方の主面を放音面2aとして矩形パネル状に形成された振動板2と、この振動板2の他方主面2bに詳細を後述するようにして接合固定された第1のドライバユニット3及び第2のドライバユニット4と、これらドライバユニット3、4を支持した支持ブラケット5及びスタンド部材6とから構成される。
【0021】
振動板2は、スチレン樹脂によって外形寸法がほぼB4サイズ(縦25.7mm×横36.4mm)、厚みが3mmの平坦なパネル状に成形されてなる。振動板2は、後述するように第1のドライバユニット3及び第2のドライバユニット4によって駆動される。振動板2は、従来のスピーカ装置の振動板とは異にしてその外周部2cがフレーム等の部材によって固定された状態で支持されない、非拘束状態とされた堅いパネル状部材として構成される。振動板2は、上述したように一方主面が放音面2aとされるとともに他方主面が被駆動面2bとして構成されている。勿論、振動板2については、上述した矩形形状が好ましいが、例えば円形や楕円形であってもよい。
【0022】
振動板2には、図1及び図2に示すように、その被駆動面2bに上下方向に離間して支持ブラケット5に支持された第1のドライバユニット3及び第2のドライバユニット4とが接合固定されている。これら第1のドライバユニット3及び第2のドライバユニット4には、それぞれ従来のダイナミック型スピーカに備えられるダイナミックドライバユニットが用いられている。
【0023】
第1のドライバユニット3は、図3に示すように、ボイスコイル7と、再生入力信号に基づいてこのボイスコイル7を駆動する磁気回路8及び図示しない入力部から再生入力信号の供給を受ける配線等から構成されている。ボイスコイル7は、ボビン9と、このボビン9の外周部に捲き線を施して構成したコイル部10とからなる。
【0024】
磁気回路8は、センタポール11と、マグネット12と、プレート13と、補助リング14と、ダンパ15及び第1のアダプタ部材16等の部材によって構成されている。センタポール11は、コア部11aと、このコア部11aと一体に形成された大径のフランジ部11bとからなる。マグネット12は、センタポール11のコア部11aの外径よりもやや大径の中心孔12aを有するリング状に形成されている。マグネット12は、コア部11aを中心孔12aに貫通させてフランジ部11bに積層された状態でセンタポール11に組み合わされる。
【0025】
プレート13も、センタポール11のコア部11aの外径よりもやや大径の中心孔13aを有するリング状に形成され、そのマグネット12に中心軸を一致させて積層状態で組み合わされる。プレート13は、マグネット12と組み合わされた状態においてその中心孔13aにセンタポール11のコア部11aを臨ませる。プレート13には、その外周部に補助リング14が嵌合されている。
【0026】
第1のドライバユニット3は、センタポール11のコア部11aとマグネット12の中心孔12a及びプレート13の中心孔13aとの間に構成される筒状の磁気空間部にコイル部10が位置されるようにしてボイスコイル7と磁気回路部8とが組み合わされる。第1のドライバユニット3は、ボイスコイル7のボビン9と磁気回路部8の補助リング14とをダンパ15によって連結することによって、ボイスコイル7が磁気回路部8に対して軸方向に移動自在に支持される。
【0027】
第1のアダプタ部材16は、ボビン9の内径とほぼ等しい外径を有するリング状に形成され、その一端側をボビン9の開口部に接合されている。第1のドライバユニット3は、第1のアダプタ部材16がその他端側を振動板2の被駆動面2bに接合されることによって振動板2と組み合わされる。換言すれば、第1のドライバユニット3は、第1のアダプタ部材16を介して振動板2と組み合わされることにより、その接合部位18がリング状を呈している。また、第1のドライバユニット3は、センタポール11のフランジ部11bの底面に設けたねじ孔11cにねじ込まれる止めねじ17を介して支持ブラケット5に固定されている。第1のドライバユニット3は、最大径となる補助リング14の外径寸法が約35mm、センタポール11の底面と第1のアダプタ部材16の先端との厚みが約20mmであり、パネル型スピーカ装置1を小型かつ薄型に構成する。
【0028】
以上のように構成された第1のドライバユニット3は、図示しない再生入力信号回路部から再生入力信号(音声電流)がボイスコイル7に供給されると、このボイスコイル7と磁気回路部8との間に発生する磁気力によって振動板2を駆動する。振動板2は、第1のアダプタ部材16との接合部位18を駆動点として、第1のドライバユニット3から主面と直交する方向の駆動力を受けて部分的な曲げ動作が生じ、再生出力の放音を行う。
【0029】
第2のドライバユニット4は、第2のアダプタ部材19を除いた他の部材が上述した第1のドライバユニット3の構成各部材と同等であり、同一符号を付すことによってその詳細な説明を省略する。第2のアダプタ部材19は、図4に示すように、円盤状の基部19aがボビン9の内径とほぼ等しい外径を有するとともに、先端部19b側を次第に細径とした略円錐形に形成されてなる。第2のアダプタ部材19は、基部19aをボビン9の開口部に接合されるとともに、先端部19bが振動板2の被駆動面2bに接合されることによって振動板2と組み合わされる。
【0030】
上述したように、第1のドライバユニット3は、第1のアダプタ部材16を介して振動板2に組み合わされることから、図2に示すようにその接合部位18が所定の内径を有するリング状を呈して構成される。一方、第2のドライバユニット4は、上述したように第2のアダプタ部材19を介して振動板2に組み合わされることから、同図に示すようにその接合部位20が略点或いは所定の面積を有して構成される。なお、第2のドライバユニット4は、上述した第1のドライバユニット3の下方部に位置して、センタポール11のフランジ部11aの底面に設けたねじ孔11cにねじ込まれる止めねじ17を介して支持ブラケット5に固定される。
【0031】
以上のように構成された第2のドライバユニット4は、図示しない再生入力信号回路部から再生入力信号(音声電流)がボイスコイル7に供給されると、このボイスコイル7と磁気回路部8との間に発生する磁気力によって振動板2を駆動する。振動板2は、第2のアダプタ部材19との接合部位20を駆動点として、第2のドライバユニット4から主面と直交する方向の駆動力を受けて部分的な曲げ動作が生じ、再生出力の放音を行う。
【0032】
支持ブラケット5は、ヒンジ機構6aを介して首振り自在にスタンド部材6に支持されている。パネル型スピーカ装置1は、スタンド部材6に対する支持ブラケット5の固定角度を調節することによって、振動板2の放音面2aの上下方向の角度調整が自在とされる。なお、パネル型スピーカ装置1は、支持ブラケット5をスタンド部材6に対して例えば自在継手機構を介して支持することにより、振動板2の角度を上下方向ばかりでなく左右方向にも調整自在とされる。
【0033】
以上のように構成されたパネル型スピーカ装置1には、図示しない再生入力信号回路部から再生入力信号が第1のドライバユニット3及び第2のドライバユニット4にそれぞれ供給される。図5は、パネル型スピーカ装置1の第1のドライバユニット3及び第2のドライバユニット4に対してそれぞれ周波数f0の再生入力信号を独立に供給して単独で駆動した場合の出力音圧レベルを測定した結果を示す周波数応答特性図である。同図において、横軸が供給する再生入力信号の周波数f0(Hz)、縦軸が測定された周波数応答特性値(出力音圧10dB)であり、線aが第1のドライバユニット3を駆動した場合の周波数応答特性値、線bが第2のドライバユニット4を駆動した場合の周波数応答特性値である。
【0034】
パネル型スピーカ装置1は、図5から明らかなように、1000Hz以下の低周波数帯域の再生入力信号に対しては第1のドライバユニット3を単独で駆動した場合と比較して、第2のドライバユニット4を単独で駆動した場合のほうがその応答特性がやや低い値となる。一方、パネル型スピーカ装置1は、同図から明らかなように、1000Hz以上の中高周波数帯域の再生入力信号に対しては第1のドライバユニット3を単独で駆動した場合と比較して、第2のドライバユニット4を単独で駆動した場合のほうがその応答特性がやや大きな値となる。
【0035】
第1のドライバユニット3は、上述したように振動板2に対して接合部位18がリング状を呈することから、振動板2にその全体を振動させる振動動作と接合部位18に囲まれた内部領域を振動させる分割振動動作とを生じさせる。接合部位18の内部領域の分割振動動作は、振動板2の放音面2aから高周波数帯域の成分を多く出力させることから、上述したように高周波数帯域の再生入力信号に対してより大きな応答特性を得る。一方、第2のドライバユニット4は、振動板2に対して接合部位20を駆動源として全体を振動させることから、高周波数帯域の再生入力信号が供給された場合に接合部位20の外側に大きな振動を伝達し難く第1のドライバユニット3を駆動した場合に比較してその応答特性がやや劣化する。
【0036】
パネル型スピーカ装置1は、上述した特性を有する第1のドライバユニット3と第2のドライバユニット4とを備えてこれらを同時に駆動することにより、低周波数帯域の再生入力信号に対する応答特性が第2のドライバユニット4の特性によって補完されるとともに高周波数帯域の再生入力信号に対する応答特性が第1のドライバユニット3によって補完されるように構成される。図6は、パネル型スピーカ装置1の第1のドライバユニット3及び第2のドライバユニット4に対してそれぞれ周波数f0の再生入力信号を供給して同時に駆動した場合の出力音圧レベルを測定した結果を示す周波数応答特性図である。同図において、横軸は供給する再生入力信号の周波数f0(Hz)であり、縦軸は測定された周波数応答特性値(出力音圧レベル10dB)である。また、同図において、線cは振動板2の放音面2aに対して正面位置の周波数応答特性値であり、線dは振動板2の放音面2aに対して30°位置の周波数応答特性値であり、線eは振動板2の放音面2aに対して60°位置の周波数応答特性値である。
【0037】
パネル型スピーカ装置1は、同図から明らかなように、低周波数帯域から高周波数帯域に亘る広い周波数帯域の再生入力信号に対して高感度の再生を可能としている。すなわち、パネル型スピーカ装置1は、第1のドライバユニット3及び第2のドライバユニット4とによって振動板2を駆動することから、供給される再生入力信号の周波数が高くなるにしたがって上述した振動板2における分割振動動作が細かくかつ複雑となっていくために見かけ上多数の音源が存在する状態を呈し、上述した特性が得られる。
【0038】
パネル型スピーカ装置1は、第1のドライバユニット3と第2のドライバユニット4とによって振動板2を駆動してそれぞれ独立の曲げ動作を生じさせる。パネル型スピーカ装置1は、第1のドライバユニット3及び第2のドライバユニット4とが互いにその特性を補完することにより、高周波数帯域で共振状態となる周波数帯域や振幅が調整され、低中音域の特性とつなぎ合わせることで高周波数帯域における周波数応答特性を高周波数帯域まで広くとることが可能とされる。パネル型スピーカ装置1は、第1のドライバユニット3と第2のドライバユニット4とを意図的に節位置を振動板2に対する加振動位置としない限り各周波数帯で節位置を駆動することは無い。したがって、パネル型スピーカ装置1は、第1のドライバユニット3と第2のドライバユニット4とが各周波数帯において相互に節位置での振動板2の駆動を補完することによって、その周波数応答特性に鋭いピークやディップの発生が抑制される。
【0039】
パネル型スピーカ装置1においては、従来のコーン型スピーカ装置が高周波数帯域になるほどその指向性が狭くなるのに対して、この高周波数帯域での指向性の改善が図られている。パネル型スピーカ装置1は、上述したように従来のスピーカ装置のように共鳴箱や音響管等を不要とすることから、小型で薄型のスピーカ装置を構成する。また、パネル型スピーカ装置1は、振動板2の放音面2aが平坦なパネル状であることから、その外形形状或いは表面デザインを比較的自由に展開することが可能であり、例えばこの放音面2aに絵を書いたり、写真や絵を挟んだり適宜の図形を投影するといった応用が可能となる。
【0040】
パネル型スピーカ装置1は、振動板2が大きな振動面積を有することから、同一仕様のドライバユニット3を有する従来のスピーカ装置と比較して、より大きな低音出力を可能とする。また、パネル型スピーカ装置1は、従来のスピーカ装置のように振動板2の外周部2cを支持するための矢紙やフレーム等の支持部材を不要とすることから、部品点数も少なく組立工程が合理化されてコストの低減も図られる。パネル型スピーカ装置1は、第1のドライバユニット3と第2のドライバユニット4とによって振動板2を駆動することから、この振動板2の大きさとその材料特性に応じた固有の再生出力が薄められていわゆるくせの無い音質の再生出力を放音する。
【0041】
パネル型スピーカ装置1は、第1のドライバユニット3と第2のドライバユニット4とによって振動板2を駆動することから、機械的強度の向上とともに再生出力の音質向上が図られる。すなわち、パネル型スピーカ装置1は、振動板2もそれ自体質量を有しているために、これを駆動する第1のドライバユニット3の接合部位18及び第2のドライバユニット4の接合部位20に対して機械的負荷がかかる。パネル型スピーカ装置1は、2箇所の接合部位18、20を有することによって振動板2の質量による荷重をそれぞれに配分してその軽減が図られることから、機械的強度や耐久性の向上が図られる。また、パネル型スピーカ装置1は、接合部位にかかる大きな荷重により振動板2の振動形態が線形運動から外れて再生挙動や音質に影響を生じるといった不都合が低減される。
【0042】
また、パネル型スピーカ装置1においては、ドライバユニット3、4を適宜に配置することによって、特定方向に関する特定周波数の振動モードを抑制され、音質の安定化とその向上が図られるようになる。また、パネル型スピーカ装置1は、ドライバユニット3、4を適宜に配置することによって、特定方向に関する特定周波数の振動モードを助長するように構成することも可能とされる。
【0043】
パネル型スピーカ装置1は、振動板2に例えばテープ状とされた鉛材等の振動を吸収しやすい材質によって形成された質量成分材を設けるようにしてもよい。質量成分材は、振動板2に対してその放音面2aの外周部2cに全周に亘って貼着されてなる。パネル型スピーカ装置1は、上述したように振動板2がその外周部2cを非拘束状態とされることにより低周波数帯域でも外周部2cにおいて振動が生じ易くなるようにして低周波数帯域での安定した再生出力を得ることができるように構成されている。パネル型スピーカ装置1は、この外周部2cに質量成分材を設けて低周波数帯域での振動モードの発生周波数を下げることで、再生有効帯域の拡張が図られる。
【0044】
パネル型スピーカ装置1は、振動板2に対して各ドライバユニット3、4を、例えば振動板2を成形する際にインサート成形法によって一体化されてなる材質を異にした取付板を介して取り付けるようにしてもよい。パネル型スピーカ装置1は、材質を異にし取付板の作用によってドライバユニット3、4により駆動される際に振動板2の高周波数帯域の共振周波数がそれぞれずれた状態となる。パネル型スピーカ装置1は、これによってドライバユニット3、4の共振点が相互に補完されることで高周波数帯域での周波数特性の改善が図られるようになる。また、パネル型スピーカ装置1は、各取付板を適宜調整することによって不要な高周波数帯域でのピーク調整が図られるようになる。
【0045】
パネル型スピーカ装置1は、ドライバユニット3、4に対して再生入力信号の入力のオン/オフの切換操作とともに入力オン状態で再生入力信号の位相の切換操作を行い、さらにドライバユニット3、4に対してそれぞれ入力される再生入力信号のレベル調整を行ってその感度を個々に調整するようにするうようにしてもよい。パネル型スピーカ装置1は、これによって必要とされる位相成分を有する再生入力信号がドライバユニット3、4に供給され、これらドライバユニット3、4が独立に動作されて振動板2を駆動して再生出力を放音する。パネル型スピーカ装置1は、特別な回路素子や切換装置等を不要とするとともに使用者による極めて簡単な操作によって、音場や音質等を適宜変えた再生音を得ることが可能となる。
【0046】
パネル型スピーカ装置1は、バンドパスフィルタによって再生入力信号を2つの周波数帯域に分割するとともに位相調整を行ってこれを合成した後に各ドライバユニット3、4に供給して振動板2を駆動するようにしてもよい。パネル型スピーカ装置1は、例えば低周波数帯域では各ドライバユニット3、4に全て同相成分の再生入力信号を入力するとともに、中高周波数帯域では逆相成分の再生入力信号を入力するように構成される。パネル型スピーカ装置1は、振動板2に質量成分材を貼着した場合と同様に低周波数帯域でのピークが生成されて応答特性の向上、すなわち感度の向上が図られるようになる。
【0047】
パネル型スピーカ装置1は、例えばインパルス応答の逆フィルタ作用を奏するフィルタによってディップ部分や過度のピークを発生させる特定の周波数帯域を分離する等の信号処理を施された再生入力信号を各ドライバユニット3、4に供給するように構成してもよい。パネル型スピーカ装置1は、これによって再生周波数特性の平坦化が図られた再生出力が放音されるようになり、或いは特定の周波数帯域のみを強調させた再生出力が放音されるようになる。なお、パネル型スピーカ装置1には、適宜のデジタルフィルタやアナログフィルタが用いられ、再生入力信号に対して特定の周波数帯域の分離処理ばかりでなく振幅や位相等の適宜の信号処理を行うようにしてもよい。
【0048】
また、パネル型スピーカ装置1は、フィルタに適当な遅れ成分の係数を付与して構成するようにしてもよい。パネル型スピーカ装置1は、かかる構成によって振動板2から放音される再生出力の音波波面が制御されてその主軸を正面から適宜ずらすことが可能となることから拡声化が図られる。さらに、パネル型スピーカ装置1は、フィルタに適宜の振幅成分を付与して構成するようにしてもよい。パネル型スピーカ装置1は、かかる構成によってスピーカアレィと同様に指向性を付与することが可能となり、放音部が1枚の振動板2によって構成されるにもかかわらず、複数の入力音源に対しても指向性の制御が可能なスピーカ装置システムを構成することが可能となる。
【0049】
パネル型スピーカ装置1は、振動板2に幾何学的に対称位置に配置されたドライバユニット3、4に互いに逆相の再生入力信号を供給して駆動することによって、ある特定の周波数帯域において振動板2の材質にかかわらずこれらドライバユニット3、4の等間隔位置で振動の節を強制的に生成することが可能となる。したがって、パネル型スピーカ装置1では、かかる現象を巧みに利用することにより上述した各音域の感度調整、再生周波数特性の改善或いは音場や音質の調整等が可能となる。勿論、パネル型スピーカ装置1は、再生入力信号の信号処理をドライバユニット3、4に対して適宜のフィルタを適宜に組合せることによって行うようにしてもよい。
【0050】
上述したパネル型スピーカ装置1においては、2個のドライバユニット3、4を備え、再生入力信号に基づいて振動板2を駆動して再生出力を放音するように構成したが、本発明はかかる構成に限定されるものではない。振動板2の大きさによってはさらに多数個のドライバユニットによってこれを駆動するように構成してもよいことは勿論である。また、パネル型スピーカ装置1は、環状の接合部位18を有するドライバユニット3と、所定の面積の接合部位20を有するドライバユニット4とを備えたが、例えば1個のドライバユニットによって振動板2を駆動するようにし、接合部位が中心部とその外周部との2点で構成されるようにしてもよい。
【0051】
また、パネル型スピーカ装置1は、上述したように従来のダイナミック型スピーカ装置に備えられるダイナミックドライバユニットとほぼ同等に構成されたドライバユニットを備えたが、本発明はかかるドライバユニットに限定されるものではないことは勿論である。ドライバユニットは、再生入力信号が供給されることによって振動板に曲げ動作を生じさせるものであればよく、例えば従来の圧電型スピーカ装置に備えられる圧電型ドライバユニットを用いてもよい。
【0052】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように、本発明にかかるパネル型スピーカ装置によれば、剛性を有するパネル状に形成された振動板をその外周部位がほぼ非拘束状態で支持するとともに、この振動体に対してリング状の接合部位と所定の面積の接合部位とを以ってドライバユニットが取り付けられ、再生入力信号に基づいてドライバユニットにより振動体に部分的な曲げ動作を生じさせて再生出力の放音が行われるように構成したことにより、各加振動部に基づく周波数応答特性の特徴により見かけ上多数の音源を有する状態が生成され、低周波数帯域から高周波数帯域までより広い周波数帯域において周波数応答特性の改善が図られるとともに高周波帯域における広い指向特性が確保されるた小型かつ薄型で良好な音質の再生出力を放音するスピーカ装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態として示すパネル型スピーカ装置の側面図である。
【図2】同パネル型スピーカ装置の正面図である。
【図3】同パネル型スピーカ装置に備えられる第1のドライバユニットの構成を説明する要部縦断面図である。
【図4】同パネル型スピーカ装置に備えられる第2のドライバユニットの構成を説明する要部縦断面図である。
【図5】同パネル型スピーカ装置において、第1のドライバユニット及び第2のドライバユニットをそれぞれ単独で駆動した状態での周波数応答特性図である。
【図6】同パネル型スピーカ装置の周波数応答特性図である。
【符号の説明】
1 パネル型スピーカ装置、2 振動板、2a 放音面、2b 被駆動面、2c 外周部、3 第1のドライバユニット、4 第2のドライバユニット、5 支持ブラケット、6 スタンド部材、7 ボイスコイル、8 磁気回路、9 ボビン、10 コイル部、11 センタポール、12 マグネット、13 プレート、14 補助リング、15 ダンパ、16 第1のアダプタ部材、18 リング状の接合部位、19 第2のアダプタ部材、20 接合部位
Claims (1)
- 剛性を有するパネル状に形成されるとともに外周部位がほぼ非拘束状態で支持されたパネル状の振動体と、
上記振動体に取り付けられ、この振動体の加振動源を構成する少なくとも一方及び他方のドライバユニットとを備え、
上記一方のドライバユニットには、一端部にボイスコイルを巻回し、他端部に筒状部材を設けたコイルボビンが設けられ、
上記他方のドライバユニットには、一端部にボイスコイルを巻回し、他端部に先端部に向かって漸次細くなる錘台状部材を設けたコイルボビンが設けられ、
上記筒状部材と錘台状部材の各々の先端が上記振動体に取り付けられてなり、
上記振動体は、上記ドライバユニットからの再生入力信号に基づく振動が加えられることにより部分的な曲げ動作が発生して再生出力を放音することを特徴とするパネル型スピーカ装置。
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