JP3856946B2 - 厚膜ペースト、厚膜ペースト用無機粉末組成物、セラミック配線基板及びその製造方法、並びに半導体装置 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、半導体部品等を搭載するセラミック配線基板の表面や内部に導体、絶縁体、誘電体及び抵抗体を形成するのに用いられる厚膜ペーストに関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、セラミック配線基板の表面層や内部層を構成する導体、絶縁体、誘電体、及び抵抗体は、厚膜ペーストを焼成することにより形成される。ここで用いられる厚膜ペーストは、通常、無機粉末、有機バインダ、溶剤及び分散剤等を混練し、所定の粘度に調整して得られる。この厚膜ペーストは、焼成して導体、絶縁体等を形成する無機粉末以外に、有機材料を含んでいる。この有機材料は、焼成時の熱処理により酸化されて二酸化炭素などの形で除去される。このとき、この二酸化炭素などが焼結体内部に閉じ込められると、これがボイドとなって厚膜焼成体中に残存することになる。
【0003】
例えば、図2に示すように、セラミック配線基板の表面導体膜5の直下に形成されたガラスセラミックス6部分に、焼成によりボイド7が生じた場合、更に表面導体膜5の表面に多層の配線層及び絶縁層10を積層し、この基板を熱処理すると、ボイド7の部分にフクレ8が生じる。また、ボイド7の部分に配線9が形成されると、図3に示すように、この配線9の断線の原因となる場合もある。
【0004】
このように、焼結体に含まれるボイドは、(1)電気的特性の劣化、(2)密着強度の劣化、(3)耐湿特性、耐高温特性等の物理的及び化学的信頼性の劣化といった種々の問題の原因となる。そこで、このボイドの発生を回避するため、種々の技術が提案されている。
【0005】
例えば、特開平8−306229号公報では、ガラス粉末若しくはセラミック粉末を主成分とし、不活性ガス雰囲気中で焼成されるオーバーグレーズペーストのような厚膜ペーストに、亜ヒ酸若しくは酸化アンチモンのようなガラス清澄剤を含有させることが提案されている。このガラス清澄剤を用いることにより、不活性ガス雰囲気のような炭素を酸化して除去することが困難な雰囲気でも、残留炭素を十分に低減できるため、発生するボイドを低減することができ、各種厚膜特性を向上することができる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、このガラス清澄剤を用いる技術は、ガラス粉末若しくはセラミック粉末が主成分の厚膜ペーストにしか有効ではなく、導体を形成するための導電性粉末を主成分とする厚膜ペーストに適用することはできない。
【0007】
厚膜ペーストにより導体を形成する技術としては、特許第2533284号公報に、導電性材料(金、銀又はニッケル)と、その導電性材料の粒子が成長するのを抑制するための添加物とを含み、成長抑制のための添加物が過飽和になっている混合物を溶融噴霧して導電性粒子を形成することが記載されている。この方法によれば、導電性材料に溶け込めなかった余分な粒子成長抑制添加物が粒界に存在し、導電性粒子の粒成長を抑制するため、微細かつ一様な導体粉末が得られる。したがって、これを用いて調製した厚膜ペーストにより金属導体を形成し、セラミック多層基板を作製すれば、導体粉末の粒径のばらつきなどに起因するバイア部のボイドやクラックの発生を低減することができる。
【0008】
しかし、ボイドの発生原因は、導体粉末の粒径のばらつきには限られず、この方法では、ボイドの発生を十分に減らすことができなかった。
【0009】
そこで、本発明は、表面層や内部層を構成する導体、絶縁体、誘電体及び抵抗体部、並びに、それらの近傍のセラミック部にボイドのないセラミック配線基板及びその製造方法と、それに用いられる厚膜ペースト及びその製造方法と、上記セラミック配線基板を用いた半導体装置とを提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明者らは、上述した粒子成長抑制添加物を用いて導電性粉末を調製する場合の、ボイドの発生原因を鋭意検討した結果、この従来技術において導体金属の粒成長抑制剤として添加されているクロムが、ボイドの発生の原因となっていることを見出した。
【0011】
厚膜ペーストに含まれる有機バインダ、溶剤及び分散剤等の有機物は、無機粉末をペースト化するために必要なものであるが、各種厚膜特性劣化抑止の観点から、焼成後は完全に除去されることが望ましい。これらの有機物は、焼成工程における加熱により、雰囲気中の微量の酸素により酸化されて気体として排出される。無機粉末組成物の粒度分布が正規分布に近い通常の分布であれば、
有機物の酸化により発生した気体を少しずつ排出する閉気孔をわずかに残しながら焼結するため、有機物起因の炭素の残留量は低く押さえられる。通常の焼成温度(800℃以上)では、炭素残留量は、各種厚膜特性の劣化の原因とならない数十重量ppm程度にまで減少するのが普通である。
【0012】
ところが、クロムは、弱酸化性雰囲気(導体金属を酸化せずに有機バインダを酸化除去させるための雰囲気)でも容易に酸化してしまう。この結果、生じるクロムの酸化物は、800℃以上の温度では、炭素の酸化反応において触媒として作用する。このため、クロム酸化物が存在すると、焼成の完了直前に、焼成体中にわずかに残った残留炭素が酸化されてしまうため、焼成体中に二酸化炭素の大きなボイドが発生する原因となる。
【0013】
本発明者らは、更に検討した結果、このような酸化物が炭素の酸化触媒として機能する元素には、上述のクロムのほかに、鉄、コバルト、ニッケルなどがあり、これら4種の元素の含有量がペースト全体に対していずれも100重量ppm以下である厚膜ペーストを用いることで、ボイド及びクラックのない焼成体を得ることができるという新たな知見に至った。
【0014】
そこで、本発明では、少なくとも、無機粉末と、有機バインダとを含み、鉄、クロム、コバルト及びニッケルの含有量が、ペースト全体に対していずれも100重量ppm以下である厚膜ペーストが提供される。
【0015】
本発明は、無機粉末としてセラミック原料組成物を含む、セラミック焼結体を形成するための絶縁性ペーストにも、無機粉末として導体粉末を含む、導体を形成するための導電性ペーストにも、適用可能である。抵抗体ペーストや、誘電体ペーストに本発明を適用してもよい。なお、無機粉末としては、球状又は液滴状の、平均粒径5μm以上の粒子を用いることが望ましい。
【0016】
また、本発明の厚膜ペーストは、溶剤及び分散剤等の添加物を適宜含ませることができる。本発明の厚膜ペーストに用いることのできる有機バインダ、溶剤及び分散剤等としては、セラミック配線基板の製造に通常用いられるものを適宜組み合わせて用いることができ、特に限定されるものではない。なお、各成分の含有量は、無機粉末と有機バインダと溶剤との総量を100重量部とするとき、良好な脱バインダ性及び作業性を確保するという観点から、無機粉末50〜95重量部、有機バインダ0.5〜5重量部、溶剤4.5〜45重量部とすることが望ましい。また、分散剤を用いる場合、その含有量は、無機粉末と有機バインダと溶剤との総量を100重量部とするとき、0.1〜1.0重量部とすることが望ましい。
【0017】
更に、本発明では、本発明の厚膜ペーストを製造するための方法として、少なくとも、無機粉末と、有機バインダとを混練する工程を有する厚膜ペーストの製造方法であって、混練工程において、鉄、クロム、コバルト及びニッケルの含有量が、得られる厚膜ペースト全量に対していずれも100重量ppm以下である上記無機粉末を用いる厚膜ペースト製造方法が提供される。
【0018】
この本発明の厚膜ペースト製造方法において混練工程で用いられる無機粉末は、あらかじめ鉄、クロム、コバルト及びニッケルの含有量が、得られる厚膜ペースト全量に対していずれも100重量ppm以下になっているものを用いてもよく、また、これらの元素を除去する工程を混練工程の前に設けてもよい。これらの元素を除去する方法としては、例えば、磁石により吸引して除去するなどが挙げられる。
【0019】
また、本発明では、配線導体、絶縁体、誘電体及び抵抗体の少なくともいずれかとして、上述の本発明の厚膜ペーストを焼成して得られた焼結体を備えるセラミック配線基板と、この本発明のセラミック配線基板に半導体素子が搭載されている半導体装置とが提供されるが提供される。なお、本発明のセラミック配線基板は、複数枚の絶縁層及び配線層が積層されているセラミック多層配線基板であってもよい。
【0020】
更に、本発明では、上述した本発明の厚膜ペーストを焼成して、配線導体、絶縁体、誘電体及び抵抗体の少なくともいずれかを形成する焼成工程を有するセラミック配線基板の製造方法が提供される。
【0021】
なお、本発明のセラミック配線基板の製造方法は、上述の焼成工程にくわえて、更に、通常のセラミック配線基板の製造方法において用いられる工程を備えることができる。本発明のセラミック配線基板製造方法の例を、図1に示す。この例では、厚膜ペースト(絶縁性ペースト)を用いてグリーンシート2を形成し、これに層間接続のための貫通孔11を形成した後、厚膜ペースト(導電性ペースト)を用いて、このグリーンシートの表面に内部配線導体12及び表面導体層13をスクリーン印刷する(図1(a))。次に、得られた印刷済みのシート3複数枚を位置合わせして積層し、熱圧着した後(図1(b))、弱酸化雰囲気(銅が酸化せず、バインダ等の有機材料が酸化除去される雰囲気)中で加熱(例えば900℃、5時間)して脱バインダ及び焼成する(図1(c))。以上の工程により、セラミック多層配線基板4(図1(d))が得られる。なお、印刷済みのシート3を積層することなくそのまま焼成して、単層のセラミック配線基板を得てもよい。また、印刷済みのシート3表面に、更に厚膜ペーストを用いて絶縁層及び/又は配線層を積層するようにしてもよい。本発明の厚膜ペーストは、含有する無機粉末の種類や他の添加物等の組成に応じて、グリーンシート、絶縁層、配線層のいずれの形成に適用してもよい。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの形態に限定されるものではない。なお、以下の各実施例では、導電性ペースト及び絶縁ガラスペーストにおいて本発明を実施したが、抵抗体ペースト、誘電体ペーストなどの各種厚膜ペーストにおいて本発明を実施しても同様の効果が得られることを確認している。
【0023】
<実施例1〜4、比較例1〜4>
(1)導電性ペーストの調製
それぞれクロム、鉄、コバルト及びニッケルの含有量の異なる、溶融噴霧して調製した平均粒径5μmの銅粉末と、エチルセルロース10重量%及びα−テレピネオール90重量%からなるビヒクルとを、9:1(体積比)の割合でらいかい機を用いて混合した後、得られた混合物に1重量部のアミン系分散助剤を加え、3本ロール混練機を用いて混練した。次に、混練しつつ少量のα−テレピネオールを加えて粘度を調整し、8種類の銅ペーストを得た。得られたペーストにおける各元素の含有量を、表1に示す。
【0024】
【表1】
【0025】
(2)多層配線基板の作製
図1(a)に示すように、得られた銅ペーストを用い、層間接続用貫通孔11を備えるガラスセラミック・グリーンシート2に内部配線導体12及び表面導体層13をスクリーン印刷した後、図1(b)に示すように、印刷済みのシート3複数枚を位置合わせして積層し、熱圧着した。次に、図1(c)に示すように、得られたグリーンシート積層体を、弱酸化雰囲気(銅が酸化せず、エチルセルロースが酸化除去される雰囲気)で900℃に5時間加熱して脱バインダ及び焼成し、得られたセラミック多層配線基板4の配線断線件数、表面導体膜接着強度、表面導体膜をめっきした後の外観、及び、更に熱処理した後の、表面導体のフクレの状況を表2に示す。
【0026】
【表2】
【0027】
(3)実施例の効果
実施例1〜4では、鉄、クロム、コバルト及びニッケルの含有量がいずれも100重量ppm以下である銅ペーストを使用してセラミック配線基板を作製した。得られた基板は、導体部及びそれらの近傍のセラミック部にボイドが発生しないため、配線断線がなくで、表面導体膜の接着強度が20kg/m以上あり、表面導体膜をめっきにより形成した後の変色、及び、熱処理後の表面導体フクレも見られなかった。
【0028】
一方、比較例1〜4では、鉄、クロム、コバルト、ニッケルの含有量の少なくともいずれかが100重量ppm以上である銅ペーストを使用してセラミック配線基板を作製した。得られた基板は、導体部及びそれらの近傍のセラミック部にボイドが発生したため、配線断線が多発し、表面導体膜の接着強度も15kg/m以下と小さく、表面導体膜をめっきにより形成した後の変色、及び、熱処理後の表面導体フクレが発生した。
【0029】
<実施例5〜8、比較例5〜8>
(1)絶縁性ペースト
まず、それぞれクロム、鉄、コバルト及びニッケルの含有量の異なるガラスセラミック原料粉末組成物を、8種類用意した。ここでは、ガラスセラミック原料粉末組成物として、平均粒径3μmのホウケイ酸ガラス粉末80重量%と、平均粒径2μmのアルミナ粉末20重量%とからなる粉末組成物を用いた。
【0030】
このガラスセラミック原料粉末組成物と、エチルセルロース10重量%及びα−テレピネオール90重量%からなるビヒクルとを、9:1(体積比)の割合でらいかい機を用いて混合した後、得られた混合物に1重量部のアミン系分散助剤を加え、3本ロール混練機を用いて混練した。次に、混練しつつ少量のα−テレピネオールを加えて粘度を調整し、8種類のガラスペーストを得た。得られたペーストにおける各元素の含有量を、表3に示す。
【0031】
【表3】
【0032】
(2)多層配線基板の作製
実施例1の銅ペーストを用い、実施例1と同様にしてガラスセラミック・グリーンシートに内部配線導体及び表面導体層をスクリーン印刷した後、この表面に、一部の表面導体13を覆うように、上述のガラスペーストを用いて絶縁層を印刷した。次に、この導体及び絶縁層を印刷したシート複数枚を位置合わせして積層し、実施例1と同様にして脱バインダ及び焼成し、セラミック多層配線基板を得た。得られたセラミック多層配線基板の、ガラス層表面ボイド数、及び、ガラス層表面のフクレの状況を表4に示す。
【0033】
【表4】
【0034】
(3)実施例の効果
実施例5〜8では、鉄、クロム、コバルト及びニッケルの含有量がいずれも100重量ppm以下であるガラスペーストを使用してセラミック配線基板を作製した。得られた基板は、絶縁層部及びそれらの近傍のセラミック部にボイドが発生しないため、ガラス層表面のボイドやガラス層表面のフクレは見られなかった。
【0035】
一方、比較例5〜8では、鉄、クロム、コバルト、ニッケルの含有量の少なくともいずれかが100重量ppm以上であるガラスペーストを使用してセラミック配線基板を作製した。得られた基板は、絶縁層部及びそれらの近傍のセラミック部にボイドが発生したため、ガラス層表面のボイドやガラス層表面のフクレが見られた。
【0036】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明によれば、表面層や内部層を構成する導体、絶縁体、誘電体及び抵抗体部、並びに、それらの近傍のセラミック部にボイドのない、信頼性の高いセラミック配線基板及び半導体装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のセラミック配線基板の製造方法を示したものである。
【図2】 従来のセラミック配線基板において発生していた表面導体のフクレを示す説明図である。
【図3】 従来のセラミック配線基板において発生していたボイドによる配線の断線を示す説明図である。
【符号の説明】
1…銅ペースト、2…ガラスセラミック・グリーンシート、3…配線印刷済みシート、4…セラミック配線基板、5…表面導体膜、6…ガラスセラミックス、7…ボイド、8…フクレ、9…導体配線、11…層間接続用貫通孔、12…内部配線導体(バイア)、13…表面導体層。
Claims (10)
- 少なくとも、無機粉末と、有機バインダとを含み、鉄、クロム、コバルト及びニッケルの含有量が、いずれもペースト全量の100重量ppm以下であることを特徴とする厚膜ペースト。
- 上記無機粉末は、セラミック原料組成物であることを特徴とする請求項1記載の厚膜ペースト。
- 上記無機粉末は、導体粉末であることを特徴とする請求項1記載の厚膜ペースト。
- 少なくとも、無機粉末と、有機バインダとを混練する工程を有する厚膜ペーストの製造方法であって、
上記混練工程において、鉄、クロム、コバルト及びニッケルの含有量が、得られる厚膜ペースト全量に対していずれも100重量ppm以下である上記無機粉末を用いることを特徴とする厚膜ペーストの製造方法。 - 上記混練工程の前に、
無機粉末から、鉄、クロム、コバルト及びニッケルの少なくともいずれかを除去して、鉄、クロム、コバルト及びニッケルの含有量を、得られる厚膜ペースト全量に対していずれも100重量ppm以下とする除去工程を、更に含むことを特徴とする厚膜ペーストの製造方法。 - 請求項2記載の厚膜ペーストを焼成して、絶縁体、誘電体及び抵抗体の少なくともいずれかを形成する工程を有することを特徴とするセラミック配線基板の製造方法。
- 請求項3記載の厚膜ペーストを焼成して、配線導体を形成する工程を有することを特徴とするセラミック配線基板の製造方法。
- 絶縁体、誘電体及び抵抗体の少なくともいずれかとして、請求項2記載の厚膜ペーストの焼結体を備えることを特徴とするセラミック配線基板。
- 配線導体として、請求項3記載の厚膜ペーストの焼結体を備えることを特徴とするセラミック配線基板。
- 請求項8又は9記載のセラミック配線基板と、
上記セラミック配線基板に搭載された半導体素子とを備えることを特徴とする半導体装置。
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