JP3856539B2 - 酸化窒素の製造方法及び窒素酸化触媒 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、窒素と酸素との反応による酸化窒素の製造方法、及びこの製造方法に使用できる窒素酸化触媒に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
フラーレンは、C60分子(図5参照)やC70分子(図6参照)等からなる球状炭素分子の総称で、1985年に炭素のレーザーアブレーションによるクラスタービームの質量分析スペクトル中に発見された(Kroto,H.W.; Heath,J.R.; O'Brien,S.C.; Curl,R.F.; Smalley,R.E. Nature 1985, 318,162. 参照)。
【0003】
ダイヤモンド、グラファイトに次ぐ第3の結晶炭素として球状炭素化合物であるフラーレンの存在が明らかにされ、マクロ量の合成法が確立されたのは1990年になってからである(Kratschmer,W.; Fostiropoulos,K.; Huffman,D.R. Chem.Phys.Lett. 1990, 170,167.及び Kratschmer,W.; Lamb,L.D.; Fostiropoulos,K.;Huffman,D.R. Nature 1990, 347,354.参照)。
【0004】
1990年に炭素電極のアーク放電法によるフラーレン(C60)の製造方法が発見されて以来、フラーレンは炭素系半導体材料等として注目されてきた。フラーレン分子は真空下或いは減圧下において容易に気化できることから、蒸着薄膜を形成し易い素材である。
【0005】
フラーレンは、炭素のみからなる一連の球状炭素化合物であり、炭素60個からなるC60及びそれ以上の偶数個の炭素からなるいわゆる Higher Fullerenesの総称であり、12個の5員環と20個又はそれ以上の6員環を含んでいる。即ち、60個、70個、76個、78個、80個、82個又は84個等(炭素原子数は幾何学的に球状構造を形成し得る数から選択される。)の炭素原子が球状に結合してクラスター(分子集合体)を構成してなる球状炭素Cn であって、それぞれ、C60、C70、C76、C78、C80、C82、C84等のように表される。
【0006】
例えばC60は、正二十面体の頂点をすべて切り落として正五角形を出した“切頭二十面体”と呼ばれる多面体構造を有し、図5に示すように、この多面体の60個の頂点をすべて炭素原子Cで置換したクラスターであり、公式サッカーボール型の分子構造を有する。同様に、図6に示すC70、またC76、C84等は、いわばラグビーボール型の分子構造を有する。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、一酸化窒素(NO)や二酸化窒素(NO2 )などの酸化窒素は、硝酸や窒素肥料等の製造に用いられており、極めて重要な中間原料である。
【0008】
従来から、酸素分子によって窒素分子を酸化する酸化窒素の直接的合成法が広く探索されているが、この反応は吸熱反応であり、また、窒素分子は常温では不活性なので、アーク放電下や温度1000度以上の高温環境下でしか酸化窒素を生成させることができなかった。
【0009】
このため、例えば、工業的規模での一酸化窒素の製造は、大部分がアンモニアの酸化によって行われているが、原料であるアンモニアを製造するために大きなエネルギーが必要であって、生産性に優れた製造方法とは言い難い方法である。また、アンモニアの製造には、高温、高圧の環境や、水素の供給が必要であり、その設備は必然的に大規模になっている。
【0010】
このように、一酸化窒素の構成成分が窒素原子と酸素原子であるにも関わらず、一酸化窒素を簡単に製造する方法は存在していない。
【0011】
また、一般的に、酸化窒素の製造において、酸素分子による酸化反応を利用する触媒として白金族元素などの希少金属触媒が考えられるが、これらの金属触媒は高価であり、資源的にも問題がある。
【0012】
本発明は、上述した従来の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、窒素原子の酸化反応によって、経済的にかつ簡便に酸化窒素(特に二酸化窒素)を得る、酸化窒素の製造方法、及びこの製造方法の実施に使用できる窒素酸化触媒を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上述した課題を解決するべく鋭意検討を重ねた結果、太陽光等からの光エネルギーによって励起されたフラーレン分子が酸素分子(又は酸素原子)を励起し、励起された酸素分子(又は酸素原子)が窒素分子(又は窒素原子)と反応して、光化学反応的に酸化窒素を生成することを見出した。
【0014】
すなわち、本発明は、酸素原子供給物質と窒素原子供給物質とを含む反応系に、Cn (但し、nは幾何学的に球状化合物を形成し得る整数である。)で表されるフラーレン分子及び/又はその重合体を含む触媒の存在下、光エネルギーを作用させ、これによって光化学的に酸化窒素を生成させる、酸化窒素の製造方法(以下、本発明の製造方法と称する。)に係るものである。
【0015】
本発明の製造方法によれば、酸素分子等の酸素原子供給物質と、窒素分子等の窒素原子供給物質とを含む反応系に、Cn (但し、nは上記と同様である)で表されるフラーレン分子(例えば、C60やC70など)及び/又はその重合体を含む触媒の存在下、太陽光等の光エネルギーを作用させ、これによって光化学的に(即ち、光エネルギーを利用して)酸化窒素(例えば、NO、NO2 、N2 O、N2 O5 、NO3 等)を生成させるので、経済的にかつ簡便に酸化窒素を製造することができる。
【0016】
また、本発明の製造方法は、特に、前記酸化窒素として二酸化窒素(NO2 )を容易に合成することができ、二酸化窒素を原料とする化合物、例えば、硝酸や化学肥料等を経済的に製造できることになり、産業的にも非常に有用な製造方法である。また、大規模な装置や光エネルギー以外のエネルギーを用いなくても、二酸化窒素さらには硝酸等を、必要とする場所で必要な量を合成することができる。
【0017】
ここで、上記「酸素原子供給物質」とは、前記反応系に酸素原子を供給できる物質であって、酸素分子が特に好ましいが、例えばオゾン等も使用できる。また、上記「窒素原子供給物質」とは、前記反応系に窒素原子を供給できる物質であって特に窒素分子が好ましいが、例えばアンモニア等も使用できる。
【0018】
また、本発明は、本発明の製造方法の実施に用いることができる触媒として、Cn (但し、nは幾何学的に球状化合物を形成し得る整数である。)で表されるフラーレン分子及び/又はその重合体を含む触媒からなる窒素酸化触媒(以下、本発明の触媒と称する。)を提供するものである。
【0019】
本発明の触媒は、本発明の製造方法を実施するに際し、窒素原子の酸化反応(即ち、窒素酸化反応)を光エネルギーの作用によって経済的にかつ簡便に行うことができ、また、この触媒は主として炭素原子で構成されているので、資源的にも問題はない。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明の製造方法及び本発明の触媒(以下、本発明と称することがある。)においては、前記酸素原子供給物質を酸素分子(O2 )とし、前記窒素原子供給物質を窒素分子(N2 )とすることが好ましい。
【0021】
特に、前記酸素分子及び前記窒素分子の供給源として空気(特に乾燥空気)を使用することができる。
【0022】
すなわち、本発明の目的生成物である酸化窒素は、窒素原子と酸素原子とから構成されており、これらの原子を構成する酸素分子及び窒素分子は空気の主成分として無尽蔵に存在している。従って、本発明によれば、資源的な問題なく、また、前記酸化窒素を必要とする場所で、必要な量の酸化窒素(特に二酸化窒素)を製造することができる。
【0023】
また、本発明においては、前記酸化窒素として二酸化窒素(NO2 )を得ることができる。
【0024】
本発明においては、励起された励起酸素分子は窒素分子と反応して一酸化窒素となり、更に酸素による酸化によって二酸化窒素へと導くことができる。なお、前記反応系の前記酸素原子供給物質の供給量と前記窒素原子供給物質の供給量とを適宜調節することによって、他の酸化窒素(例えば、NO、N2 O5 、NO3 等)を得ることもできる。
【0025】
また、本発明においては、前記触媒を基体上に配することが望ましい。すなわち、前記フラーレン分子及び/又はその重合体からなる前記触媒は実質的に基体上に配して使用することが望ましく、例えば、ガラス、シリコン、金属箔、多孔質材料、ガラス繊維等の基体上に配することができる。
【0026】
前記触媒を前記基体上に配する方法としては、詳しくは後述するが、例えば、アーク放電法によるフラーレン分子を含む煤(フラーレンスーツ)を前記基体上に配すことができ、その他、蒸着法、プラズマ重合法、光重合法、塗布法又は噴霧法によって、フラーレン分子又はその重合体からなる薄膜として前記基体上に配することもできる。
【0027】
また、本発明においては、前記フラーレン分子を主としてC60分子及び/又はC70分子とすることができる。すなわち、前記触媒として用いるフラーレン分子は、C60(図5参照)の単体やC70(図6参照)の単体であってもよい。
【0028】
また、本発明の製造方法においては、前記光エネルギーを太陽光エネルギーと同等とすることが望ましい。すなわち、前記光エネルギーの強度は太陽光の強度と同程度であることが望ましい。但し、太陽光の強度以下でもよい。
【0029】
さらに、本発明の製造方法においては、少なくとも一部に光透過部が設けられている容器内に、前記触媒を配し、酸素原子供給ガスと窒素原子供給ガスとを装入することができる。なお、前記酸素原子供給ガスと前記窒素原子供給ガスとしては、空気(特に乾燥空気)を用いることが望ましい。
【0030】
図1に、本発明の製造方法に使用できる酸化窒素の製造装置の一例を示す。
【0031】
この装置は、例えば、アクリル樹脂製の容器4と石英ガラス製の蓋9とからなる箱型の装置であり、その壁面にはガス導入口7とガス排出口8とが設けられている。但し、ガス導入口7及びガス排出口8には図示省略したバルブが設けられており、容器4内に装入する原料ガスを密封又は連続的に流動可能に構成されている。
【0032】
また、容器4の底部には、例えばシリコンからなる基板2上に本発明の触媒1が設けられており、紫外線等が透過可能な蓋9を通して光ビーム3が触媒1に作用するように構成されている。
【0033】
ここで、前記容器及び前記蓋の材質は上記したものに限定されるものではなく、例えば、光吸収性又は光反射性の樹脂や金属、硝子、セラミックス等で前記容器を形成し、前記蓋を光透過性の材料で形成してこの蓋部から光エネルギーを前記触媒に作用させるように構成することができる。すなわち、前記容器の少なくとも一部に光透過部を設け、この光透過部を介して前記触媒に光エネルギーを作用させるように構成すればよい。
【0034】
また、前記容器は箱型以外にも、例えば円筒形、球形等様々な形状であってよく、前記基体の形状もこれに限定されるものではない。さらに、前記光ビームは上面からのみ照射してもよいが、例えば、前記容器が全て光透過性の材質で構成されており、前記触媒が基体の表面全てに配されている場合などは、あらゆる方向、角度から前記光ビームを前記触媒に対して作用させてもよい。
【0035】
次に、本発明の製造方法及び本発明の触媒について、更に詳細に説明する。
【0036】
上述したように、フラーレンは、C60(図5参照)やC70(図6参照)等からなる球状炭素分子の総称で、1985年に炭素のレーザーアブレーションによるクラスタービームの質量分析スペクトル中に発見された。
【0037】
実際にフラーレンの合成法が確立されたのは5年後の1990年になってからであり、炭素電極のアーク放電法によるフラーレン(C60)の製造方法が発見されて以来、フラーレンは炭素系半導体材料等として注目されてきた。
【0038】
ここで、図2を参照に、炭素電極(グラファイト電極)のアーク放電法によるフラーレンの製造方法例を説明する。
【0039】
まず、一対の高純度グラファイト(又は炭素)製の対向電極12及び12’からなるカーボンアーク部を有する真空容器10内に基板13を配し、容器10中のガス(特に空気)18を排気口16から図示省略した真空ポンプで排気した後、不活性ガス(例えばヘリウム、アルゴン等)17を導入口15から導入して、容器10の内圧をほぼ真空状態に調節する。
【0040】
次いで、グラファイト製の高純度カーボン棒の端部を対向させ、電源14から所定の電圧及び電流(直流又は交流)を印加し、カーボン棒(対向電極)12及び12’の端部をアーク放電状態にしてこの状態を所定時間維持する。
【0041】
この間にカーボン棒12及び12’は気化し、容器10の内壁面に設けられた基板13上にフラーレンを含む煤状の物質が析出する。容器10の冷却後、煤状の物質が付着した基板13を取り出し、基体上に配されたフラーレンを含む煤状物質を得ることができる。
【0042】
このように、上記アーク放電法では、通常、直流電源に接続された炭素電極或いはグラファイト棒が、ヘリウム等の不活性ガスが満たされているチャンバー中に設置され、この放電に際して気化した炭素原子が再結合する過程でC60やC70などのフラーレンが生成する。
【0043】
ここで得られる物質は、多くはスス(煤)としてチャンバー内壁等に付着する。一般に、この煤はC60やC70等の種々のフラーレンを含んでおり、フラーレンスーツと呼ばれている。これらの煤(以下、フラーレンスーツと称することがある。)は、適切な条件下では、約10%又はそれ以上の前記フラーレンを含むことがある。
【0044】
また、通常、C60やC70などの単体フラーレンは、この煤(フラーレンスーツ)から、トルエンや二硫化炭素などのπ電子系の溶媒で抽出されるが、この抽出液を蒸発させた段階で得られるフラーレンは粗製フラーレンと称されるものであり、C60やC70の他、C76、C78、C80、C82、C84等の Higher Fullerrensと呼ばれる高次フラーレンを含む混合物(以下、粗製フラーレンと称することがある。)である。
【0045】
さらに、この混合物(粗製フラーレン)から、例えば、カラムクロマトグラフィーにより単体C60や単体C70として分離精製が可能である。
【0046】
従って、産業的な利用の容易さの点では、フラーレンを含むフラーレンスーツをそのまま使用する方法や、高次フラーレンまで含んだ混合物フラーレン(粗製フラーレン)をそのまま使用する方法の方が、フラーレンを単離精製後に使用する方法よりも望ましいと言える。
【0047】
特に、各種フラーレンを含むフラーレンスーツは、煤そのものの触媒活性や、その材料の多孔質性から、ガス反応系触媒として有用である。すなわち、フラーレンスーツの段階では、フラーレン分子が多孔質性の担体に担持されている状態であると考えてよい。
【0048】
また、フラーレン分子やフラーレンスーツ、粗製フラーレン、とりわけC60やC70(以下、フラーレン類と称することがある。)等は、真空下或いは減圧下における抵抗加熱等の手法により容易に気化できることから、蒸着薄膜を形成し易い材料である。
【0049】
例えば、図3に示す薄膜形成装置において、図示省略した真空ポンプにより真空状態となされた真空容器20内に、フラーレン材料(例えばC60)を配した容器23を設置し、抵抗加熱用電源24から所定の電圧、電流を印加することによって容器23を加熱することにより、これに対向して配置した基板21上に容易にフラーレン薄膜(C60蒸着薄膜)を形成できる。
【0050】
また、これらのフラーレン類は溶解性の高い分子ではないが、例えば、テトラクロロエタン、トルエン、ジクロロベンゼン、二硫化炭素、或いはメチルナフタレンなどのπ電子系有機溶媒に溶解させることが可能であり、浸漬、塗布、あるいは噴霧(スプレー)等の方法で薄膜を形成、或いは繊維状物質(例えば石英グラスウール、スチールウール等)や多孔質支持体(例えば、多孔質シリコン、シリカゲル、活性炭等)に保持(又は吸着)させることも容易である。
【0051】
ところで、アーク放電法で最も大量に得ることができるC60やC70等のフラーレン分子は、双極子モーメントがゼロであることから、その分子間にはファン・デル・ワールス力しか働かず、得られる蒸着薄膜は脆弱である。このフラーレン蒸着薄膜の脆弱さは、フラーレンを用いた電子デバイスを作製する上では、このデバイスの安定性等の面で問題になることがある。
【0052】
さらに、フラーレン蒸着薄膜は、フラーレン分子間への酸素分子の拡散進入により常磁性中心を発現させ、その薄膜特性の安定性の点で問題がある(但し、本発明の触媒としてフラーレン蒸着薄膜を使用する場合は、薄膜の強度、安定性等はほとんど要求されず、十分に使用可能である)。
【0053】
このような問題に対処する一手法として、本発明者は、プラズマ重合法によるフラーレン重合薄膜の製造方法を提唱した。この方法で得られるフラーレン重合体薄膜は、フラーレンの電子励起状態を経て重合したフラーレン重合体薄膜である(Takahashi, N. ; Dock, H. ; Matsuzawa, N. ; Ata, M.: J.Appl.Phys. 1993, 74, 5790 参照)。
【0054】
次に、プラズマ重合法によるフラーレン重合体薄膜の製造プロセス例を図3を参照に説明する。なお、このプロセスで得られるフラーレン重合体の一例を図8に示す。このフラーレン重合体はC60分子の2量体の誘導体でありC116 で表されるフラーレンである。
【0055】
プラズマ重合の実際の製造プロセスでは、例えば、真空容器20内を0.5〜1Pa程度のアルゴン雰囲気とし、容器(モリブデンボート)23の抵抗加熱によってこの容器内に配したフラーレンを気化させ、この気化物に対し、対向配置される電極22及び22’に高周波電源25から高周波電圧を印加することによって高周波プラズマを照射して、フラーレン重合体薄膜(例えば、図8に示したフラーレン重合体からなる薄膜)を得ることができる。なお、高周波プラズマ以外にも、マイクロ波やDCプラズマ等を照射することにより、フラーレン重合体薄膜(フラーレン重合薄膜)を得ることもできる。
【0056】
この際、フラーレン重合体薄膜が設けられる基体の温度は、300℃以下で重合体薄膜を成膜できるが、これ以上の基体温度では、基体に対する付着量が低下することがある。
【0057】
但し、このような非平衡プラズマによる薄膜形成の際の基体温度は、特にコントロールしなくても、100W程度のプラズマパワーでは、70℃を越えることはほとんどない。
【0058】
この方法に基づくフラーレン重合薄膜の製造プロセスの利点は、フラーレン分子の気化以前に基体表面をアルゴンプラズマ等でエッチングできることから、薄膜と基体との接合面での密着性が良いこと、広範囲に均一な膜が得られること、プラズマパワーを任意にコントロールできること等が挙げられる。
【0059】
さらに、アルゴン等の単分子原子は、プラズマ中で寿命の長い準安定励起状態となり、この緩和過程でフラーレン分子が励起されることから、フラーレン分子間の重合効率が良いという利点もある。また、フラーレン分子同士の重合体の形成と基体への成膜とを同時に行うことから、蒸着膜への光照射による重合体形成の際に見られるような体積歪みによるクラックの発生もない。
【0060】
すなわち、本発明においては、C60、C70、C76、C78、C80、C82、C84等のフラーレン分子の単体、その混合物、上記高周波プラズマや光照射(光重合法)によるフラーレン分子の単体或いは混合物の重合体、更にはこれらの分子や重合体を含む炭素粉末であるフラーレンスーツや、粗製フラーレンを用いて、蒸着、塗布、浸漬、噴霧等の手法によって、これらのフラーレン類と、例えばシリコン、ガラス、多孔質支持体、多孔質粉末、繊維状支持体等の基体との複合体を形成せしめ、これに太陽光等の光を照射することにより、窒素酸化触媒として機能する材料を提供することができる。
【0061】
次に、本発明の触媒の作用を説明する。但し、ここでは主にC60分子について説明するが、C70等の他のフラーレン分子やフラーレン重合体についても同様である。
【0062】
上述したように、フラーレン(C60)は、ダイヤモンド、グラファイトに次ぐ第3の結晶炭素であると言われている。
【0063】
ダイヤモンドの炭素原子は4本の手(結合鎖)で立体的に繋がった(結合した)構造をしており、また、グラファイトの炭素原子は3本の手で2次元的に繋がった構造を有している。つまり、ダイヤモンドの炭素原子はsp3 、グラファイトの炭素原子はsp2 の原子価状態にある。
【0064】
純粋なダイヤモンドは不導体であり、グラファイトは2次元的に金属であるが、フラーレンはこれらの中間の性質、つまり半導体的導電性を有している。また、フラーレン分子(C60)の持つ曲率はπ電子系とσ電子系とのミキシングの原因となっており、この分子の炭素原子はsp3 とsp2 との中間の原子価状態にある。このことが、フラーレン分子に高い反応性をもたらしている。
【0065】
例えば、一般に、π軌道とσ軌道とが直交する平面共役化合物では、1(π−π* ) −3(π−π* ) 間のスピン遷移は禁制であり、振電相互作用によりσ軌道が混ざる場合に許容となる。
【0066】
C60分子の場合は、p共役系の非平面性により、π軌道とσ軌道とがミキシングすることから、1(π−π* ) −3(π−π* ) 間のスピン−軌道相互作用による項間交差が可能となり、C60分子の高い反応性がもたらされる。C60分子の切頭20面体という高い対称性は、電子励起状態間や振動順位間の遷移に厳しい禁制則をもたらす反面、平面分子では禁制であってスピン多重度の異なる(π−π* )性の状態間の遷移を許容とする。
【0067】
すなわち、本発明は、太陽光などの白色光線による光エネルギーによって励起されたC60が、酸素分子を励起できる点に着目してなされたものである。
【0068】
一般に、酸素分子は、基底状態のスピン多重度が三重項であるが、可視光で励起できる範囲にある励起状態は一重項であるため、この間の遷移は禁制であって実際には酸素分子は可視光によって励起されない。
【0069】
また、C60分子は、可視光により励起一重項状態へと励起されるが、C60分子のπ電子系が平面的でないために、励起一重項から励起三重項への遷移の禁制が破れ、項間交差が容易に起こる。しかし、励起三重項から基底へは禁制であるため、結果としてC60に存在する励起三重項の割合が大きくなる。
【0070】
つまり、C60の励起三重項が酸素分子を励起し、励起された酸素分子は基底状態の酸素分子よりも活性であるために、通常は起きない共役二重結合への付加等の反応が生じる。
【0071】
このようにして生成した励起酸素分子は、窒素分子と反応して一酸化窒素となり、更に、酸素分子によって容易に二酸化窒素へと酸化される。
【0072】
なお、C60分子の二重結合鎖に酸素原子が結合(エポキシ結合)したフラーレンエポキシド(C60O:図7参照)が、酸素雰囲気下においてC60分子への光照射により生成することが知られている。つまり、フラーレンエポキシドが中間体として生成し、これが窒素分子と反応して一酸化窒素を生じせしめるといった可能性も考えられないわけではない。
【0073】
また、一酸化窒素や二酸化窒素等の酸化窒素は、C60分子により酸素分子と窒素原子とに分解されるので、空気中でのC60への光照射によって二酸化窒素の生成と分解とが釣り合った光定常状態に到達する。
【0074】
従って、この光定常状態において、生成した二酸化窒素を例えば水などで抽出すると、新たな光定常状態になるべく更に二酸化窒素が生成する。これを連続的に繰り返すことで、特に空気から、光以外のエネルギー源を利用することなく酸化窒素(特に二酸化窒素)さらには硝酸を製造することができる。
【0075】
また、光エネルギー源としては、室内照明程度の白色光でも十分であるが、酸化窒素の生成速度を考慮すると太陽光程度の強度を有する光(光ビーム)が理想的である。
【0076】
また、本発明では、触媒としてC60の蒸着膜、高周波プラズマ重合膜、C60分子を含有するグラファイト電極のアーク放電で生成した炭素煤(フラーレンスーツ)等を使用することができるが、本発明の触媒はこれらの触媒に限定されるものではなく、例えば、C70、C76、C78、C80、C82、C84等の単体フラーレン、及びその混合物、さらに前記単体フラーレンの重合膜なども触媒として使用可能である。
【0077】
また、前記重合膜の製造方法についても、高周波プラズマによる方法以外に、例えば、直流プラズマ法、マイクロ波プラズマ法、電解重合法などが使用可能である。
【0078】
また、本発明における基体としては、シリコン基板やガラス基板等の平面基板以外にも、例えば、グラスウールやゼオライト等の多孔質物質や繊維状物質に吸着させた触媒を形成することもできる。即ち、前記基体は、触媒と原料ガスとの接触面積が大きく、かつ光ビームを作用し易い形状のものが好ましい。
【0079】
また、原料となる酸素原子及び窒素原子の供給源としては、空気(特に乾燥空気)を使用することが好ましいが、窒素分子と酸素分子との比率は空気の比(窒素約78%:酸素約21%)に限定されるものではなく、例えば、酸素原子をさらに導入することにより、得られる酸化窒素の量を増加させることも勿論可能である。さらに、酸素導入量、窒素導入量のいずれかを増減させることで、生成する二酸化窒素の量(比率)を変化させることも可能である。
【0080】
また、本発明に基づく窒素酸化反応は、触媒表面での反応であって、その膜厚による触媒活性の影響はほとんどないと考えられる。従って、本発明の触媒は、上述したように、フラーレン分子やフラーレン重合体と原料ガスとの接触面積は大きな形態(例えば、多孔質物質やグラスウール等に付着させた形態)が好ましい。
【0081】
さらに、本発明においては、本発明に基づく反応系に、光エネルギーが十分に付与されるような反応装置であることが好ましく、例えば、反応装置(反応容器)を全て光透過性の材料(例えば、ガラス等)で構成し、この反応装置内に複数の光源から光エネルギーを供給してもよく、また、この反応装置の外部に光反射性の材質(例えば、アルミ箔等)を配し、光エネルギーを前記反応装置に集中させるように構成してもよい。
【0082】
なお、本発明の製造方法においては、上述した窒素原子の酸化反応は、常温、常圧で行うことができるが、温度0〜400℃、圧力0〜106 Paの環境下でも窒素酸化反応を行うことができ、さらに、その反応時間は、光エネルギーの強度や触媒の量やその形態等にもよるが、例えば、密封された容器内で十分な量の触媒と光エネルギーとを供給している場合、1分程度又はそれ以下で上記光定常状態に達すると考えられる。
【0083】
また、本発明の製造方法においては、例えば、反応系を密封しこの中で反応を十分に進行させる方式や、連続的に原料を仕込みながら、連続的に生成物を取り出す方式などを採用できる。
【0084】
また、本発明の触媒は、触媒のみ、或いは基体に支持された(特に多孔質性の粒状基体に保有された)状態で、窒素肥料の供給源として用いることも考えられる。
【0085】
すなわち、本発明に基づく、光エネルギーを用いた窒素の直接的酸化は、植物の必須肥料成分である窒素成分の供給を可能とし、例えば、窒素肥料の農場現場における合成を可能とし、この触媒の適量を表土に蒔くことによって窒素肥料を植物に供給して植物の成長を促進すると期待される。
【0086】
【実施例】
以下、本発明を具体的な実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0087】
実施例1
本実施例は、C60含有炭素煤を触媒として用い、この炭素煤をシリコン基板上に蒸着させたものを窒素酸化触媒として用いたものである。以下、その製造方法、並びにその効果を説明する。
【0088】
まず、図2に示した装置を用い、下記の要領でC60含有炭素煤(フラーレンスーツ)を製造した。
【0089】
カーボンアーク部を有するステンレス製の密封容器10内にシリコン基板13を設置し、この容器10内の空気18を図示省略した真空ポンプで排気した後、ヘリウムガス17を導入して圧力を200Torrに調節した。
【0090】
次いで、2本の直径10mmの高純度カーボン棒(グラファイト電極)12及び12’の端部を対向させ、30V、160Aの電流を流し、このカーボン棒12の端部をアーク放電状態にして、30分間この状態を維持した。この間に、前記カーボン棒12は気化し、前記容器の壁面に煤状の炭素を析出させた。
【0091】
次いで、この系を冷却した後、煤状の炭素が付着したシリコン基板13を取り出した。
【0092】
なお、得られたシリコン基板上の煤(フラーレンスーツ)を飛行時間型質量分析法(Time-of-Flight Mass Spectroscopy)に基づいて質量評価した。この測定結果を図4に示す。
【0093】
図4から、この煤中には、主としてC60とC70(存在率はほぼ9:1)とが存在していることが確認された。
【0094】
次に、図1に示した装置を用い、前記煤状の炭素(フラーレンスーツ)が付着したシリコン基板2を図1に示した容器4内に設置し、ガス導入口7からの乾燥空気(原料ガス)5を封入して、酸素分子と窒素分子との反応(窒素酸化反応)を開始させた。
【0095】
なお、この装置の外壁はアクリル製樹脂であって、その上部(上蓋)9は石英ガラス製として紫外線も透過されるように構成されている。また、この容器4の内径は、一辺がほぼ10cmの正方形であり、高さは2cmである。また、容器4の内部に、触媒1としてC60含有炭素煤が付着した1辺がほぼ10cmのシリコン基板13を入れた後、乾燥空気を充填して密封した。
【0096】
そこで、キセノンランプ(出力500W:図示省略)からの光を照射させ、所定の時間が経過した後、反応後の気体を前記装置から採取し、島津製作所株式会社製のガスクロマトグラフィーGC−12Aでその成分を測定した。その測定結果を下記の表1に示す。
【0097】
【0098】
このように、C60含有炭素煤に光を照射することにより、空気中の酸素と窒素とが反応して二酸化窒素(NO2 )が生成すことがわかる。また、二酸化窒素の比率は光の強度にはあまり依存しておらず、光定常状態に達するのは十分に早いと言える。
【0099】
実施例2
本実施例では、窒素酸化触媒として、C60単体をシリコン基板上に蒸着させた触媒を用いた。以下、その製造方法並びにその効果を説明する。
【0100】
まず、実施例1と同様の方法でC60含有炭素煤(フラーレンスーツ)を製造した。次いで、このC60含有炭素煤をトルエン溶液に懸濁させ、不溶成分を濾過して取り除き、C60含有フラーレンのトルエン溶液を得た。
【0101】
これをシリカゲル(和光純薬工業社製 Wakogel C-200)及び活性炭(和光純薬工業社製 Norit "SX-II")を等量混合したカラムに吸着させ、トルエンでC60を分離した。留出液の色がC60の紫色になり始めたら溶液の採取を開始し、この留出液の色がほとんど無色になったときに採取を停止した。
【0102】
得られたC60溶液を減圧下で加熱して蒸発乾固し、溶媒であるトルエンを除去して、固体C60を得た。さらに、これをヘキサンで洗浄、乾燥して粉末状C60を得た。
【0103】
得られた粉末状C60を図3に示した装置に入れ、ターボ分子ポンプ(図示省略)で容器20内を5×10-5Torrに脱気した後、C60を配したモリブデン容器23を抵抗加熱で赤熱させ、C60を昇華させてシリコン基板21上に蒸着させた。得られたC60単体蒸着膜の厚みは、約500nmであった。但し、ここでは、図3の高周波電源25は動作させていない。
【0104】
このようにして得られたC60蒸着膜を有するシリコン基板を、実施例1と同様の反応装置に封入してNO2 を合成した。その結果を下記の表2に示す。
【0105】
【0106】
実施例3
本実施例では、窒素酸化触媒として、C60重合膜をシリコン基板上に堆積させた触媒を用いた。以下、その製造方法並びにその効果を説明する。
【0107】
まず、実施例1と同様の方法でC60含有炭素煤(フラーレンスーツ)を製造し、実施例2と同様の方法でC60を分離精製した。
【0108】
得られたC60を図3に示した装置に入れた。ターボ分子ポンプ(図示省略)で容器20を5×10-5Torrに脱気した後、アルゴンガス28を導入し、容器20内の圧力が0.05Torrになるように流量を調節した。
【0109】
次いで、電極22−22’間に、高周波電源25を動作し、高周波を作用させて高周波プラズマを点灯し、電源出力を80Wになるように設定した。
【0110】
この状態でC60を配したモリブデン容器23を抵抗加熱で赤熱させ、C60を昇華させてプラズマを用いてシリコン基板上に堆積させた。この結果、C60重合膜(C60プラズマ重合膜)が電極上に配置させたシリコン基板21上に生成した。
【0111】
このようにして得られたC60プラズマ重合膜を有するシリコン基板を、実施例1と同様の反応装置に封入してNO2 を合成した。その結果を下記の表3に示す。
【0112】
【0113】
実施例4
本実施例では、窒素酸化触媒として、C60とC70との混合物(粗製フラーレン)の蒸着膜をシリコン基板上に設けた触媒を用いた。
【0114】
ここでは、実施例1と同様の方法でC60及びC70を含有する炭素煤(フラーレンスーツ)を作製し、この煤をトルエンで抽出、乾燥して得られた粗製フラーレンを用い、図3に示した装置でシリコン基板上に蒸着膜を形成した。なお、蒸着膜の膜厚は約500nmであった。但し、ここでは、図3に示した高周波電源25は動作させていない。
【0115】
このようにして得られたC60、C70混合物の蒸着薄膜を有するシリコン基板を、実施例1と同様の反応装置に封入してNO2 を合成した。その結果を下記の表4に示す。
【0116】
【0117】
実施例5
本実施例では、窒素酸化触媒として、C60とC70との混合物(粗製フラーレン)のプラズマ重合膜をシリコン基板上に設けた触媒を用いた。
【0118】
ここでは、実施例2と同様の方法でC60及びC70を含有する炭素煤(フラーレンスーツ)を作製し、この炭素煤をトルエンで抽出、乾燥して得られた粗製フラーレンを用いて、実施例3と同様の方法でシリコン基板上にプラズマ重合膜を形成した。なお、プラズマ重合膜の膜厚は約750nmであった。
【0119】
このようにして得られたC60、C70混合物のプラズマ重合膜を有するシリコン基板を、実施例1と同様の反応装置に封入してNO2 を合成した。その結果を下記の表5に示す。
【0120】
【0121】
実施例6
本実施例では、窒素酸化触媒として、C60とC70との混合物(粗製フラーレン)のプラズマ重合膜を石英グラスウールに設けた触媒を用いた。
【0122】
ここでは、実施例2と同様の方法でC60及びC70を含有する炭素煤(フラーレンスーツ)を作製し、この炭素煤をトルエンで抽出した後、乾燥させて、得られた粗製フラーレンを用いて、実施例3と同様の方法で石英グラスウールにプラズマ重合膜を形成した。
【0123】
このようにして得られたC60、C70混合物のプラズマ重合膜を有する石英グラスウールを、実施例1と同様の反応装置に封入してNO2 を合成した。その結果を下記の表6に示す。
【0124】
【0125】
実施例7
本実施例では、窒素酸化触媒として、粗製フラーレンのジクロルベンゼン溶液を石英グラスウールに噴霧し、粗製フラーレンと石英ガラスウールとの複合体を形成した。
【0126】
ここでは、実施例2と同様の方法でC60及びC70を含有する炭素煤(フラーレンスーツ)を作製し、この炭素煤をトルエンで抽出し、さらに乾燥させて得た粗製フラーレンをジクロルベンゼン溶液に溶解して、これを石英グラスウールに噴霧し、その複合体を形成した。
【0127】
このようにして得られた石英グラスウールと粗製フラーレンとの複合体を、実施例1と同様の反応装置に封入してNO2 を合成した。その結果を下記の表7に示す。
【0128】
【0129】
実施例8
本実施例では、窒素酸化触媒として、粗製フラーレンのジクロルベンゼン溶液を多孔質シリコンに塗布し、粗製フラーレンと多孔質シリコンとの複合体を形成した。
【0130】
ここでは、実施例2と同様の方法でC60及びC70を含有する炭素煤(フラーレンスーツ)を作製し、この炭素煤をトルエンで抽出させた後、乾燥させ、得られた粗製フラーレンをジクロルベンゼン溶液に溶解して、これを多孔質シリコンに塗布し、その複合体を形成した。
【0131】
このようにして得られた多孔質シリコンと粗製フラーレンとの複合体を、実施例1と同様の反応装置に封入してNO2 を合成した。その結果を下記の表8に示す。
【0132】
【0133】
比較例1
本比較例ではシリコン基板のみを用い、これを実施例1と同様の反応装置に封入してNO2 の濃度を評価した。この測定結果を下記の表9に示す。
【0134】
【0135】
比較例2
本比較例では石英ガラスウールのみを用い、これを実施例1と同様の反応装置に封入してNO2 の濃度を評価した。この測定結果を下記の表10に示す。
【0136】
【0137】
比較例3
本比較例では、実施例1と同様の反応装置になにも入れず、光照射のみを行い、NO2 の濃度を評価した。この測定結果を下記の表11に示す。
【0138】
【0139】
以上、実施例1〜8から、本実施例の窒素酸化触媒はいずれも優れた窒素酸化能を有していることが分かる。すなわち、フラーレン及びフラーレン重合体(フラーレンポリマー)は、光エネルギーの作用により容易に活性酸素を生じせしめ、これをもって通常では高温や高圧等の特定条件下でのみ可能な窒素分子の酸化を、通常の条件下(即ち、常温、常圧下)で行うことが可能である。
【0140】
しかも、本実施例の方法では、フラーレンを含んだ煤、いわゆるフラーレンスーツや、粗製フラーレンを以てしても十分にその触媒能を得ることが可能であり、さらに、常温、常圧での反応が可能である。
【0141】
このように、これまでにない強力な酸化作用を有する触媒を、常温、常圧下、太陽光等の光エネルギーを利用することによって得ることができ、本実施例は、産業的にも重要な触媒、及びこれを用いた酸化窒素の製造方法である。
【0142】
さらに、このような光エネルギーを用いた窒素の直接の酸化は、植物の必須肥料成分である窒素成分の供給を可能とし、例えば、少量を表土に蒔くだけで、植物の成長の促進を補助すると期待される。
【0143】
【発明の作用効果】
本発明の製造方法によれば、酸素分子等の酸素原子供給物質と、窒素分子等の窒素原子供給物質とを含む反応系に、Cn (但し、nは上記と同様である)で表されるフラーレン分子及び/又はその重合体を含む触媒の存在下、光エネルギーを作用させ、これによって光化学的に酸化窒素を生成させており、前記光エネルギーによって励起されたフラーレン分子及び/又はその重合体が酸素分子(又は酸素原子)を励起し、励起された酸素分子(又は酸素原子)が窒素分子(又は窒素原子)と反応(即ち窒素酸化反応)し、光化学的に酸化窒素を生成するので、窒素原子の直接的な酸化が可能であり、経済的にかつ簡便に酸化窒素を製造することができる。
【0144】
また、本発明の触媒は、本発明の製造方法の実施に用いることができる触媒であり、主として炭素原子で構成されているので、資源的にも豊富であって、上記光化学的な窒素酸化触媒として有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の製造方法に使用可能な酸化窒素の製造装置の概略斜視図である。
【図2】本発明の触媒を製造する際に使用可能なアーク放電法に基づくフラーレンスーツ(フラーレンを含む煤)の製造装置の概略断面図である。
【図3】同、触媒の製造に使用可能な薄膜(蒸着薄膜又は重合薄膜)形成装置の概略断面図である。
【図4】本実施例におけるフラーレンスーツの飛行時間型質量分析法に基づく質量分析結果を示すグラフである。
【図5】C60分子の構造を示す図である。
【図6】C70分子の構造を示す図である。
【図7】C60O分子の構造を示す図である。
【図8】C116 分子の構造を示す図である。
【符号の説明】
1…触媒、2、13、21…基体(基板)、3…光ビーム、4…容器、
5…原料ガス、6…生成ガス、7…ガス導入口、8…ガス排出口、
9…蓋、10、20…真空容器、
12、12’…グラファイト電極(対向電極)、14…電源、
15、26…導入口、16、27…排出口、17、28…不活性ガス、
18、29…ガス、22、23’…電極、24…抵抗加熱用電源、
25…高周波電源
Claims (17)
- 酸素原子供給物質と窒素原子供給物質とを含む反応系に、Cn (但し、nは幾何学的に球状化合物を形成し得る整数である。)で表されるフラーレン分子及び/又はその重合体を含む触媒の存在下、光エネルギーを作用させ、これによって光化学的に酸化窒素を生成させる、酸化窒素の製造方法。
- 前記酸素原子供給物質を酸素分子とし、前記窒素原子供給物質を窒素分子とする、請求項1に記載した酸化窒素の製造方法。
- 前記酸素分子及び前記窒素分子の供給源として空気を使用する、請求項2に記載した酸化窒素の製造方法。
- 前記酸化窒素として二酸化窒素を得る、請求項1に記載した酸化窒素の製造方法。
- 前記触媒を基体上に配する、請求項1に記載した酸化窒素の製造方法。
- 前記触媒を、アーク放電法によるフラーレン分子を含む煤、或いは、蒸着法、プラズマ重合法、光重合法、塗布法又は噴霧法によるフラーレン分子又はその重合体からなる薄膜として前記基体上に配する、請求項5に記載した酸化窒素の製造方法。
- 前記フラーレン分子を主としてC60分子及び/又はC70分子とする、請求項1に記載した酸化窒素の製造方法。
- 前記光エネルギーを太陽光と同等とする、請求項1に記載した酸化窒素の製造方法。
- 少なくとも一部に光透過部が設けられている容器内に、前記触媒を配し、酸素原子供給ガスと窒素原子供給ガスとを装入する、請求項1に記載した酸化窒素の製造方法。
- Cn (但し、nは幾何学的に球状化合物を形成し得る整数である。)で表されるフラーレン分子及び/又はその重合体を含む触媒からなる窒素酸化触媒。
- 酸素原子供給源と窒素原子供給源とを含む反応系において、前記触媒が光エネルギーの作用下で酸化窒素を光化学的に生成させる触媒である、請求項10に記載した窒素酸化触媒。
- 前記酸素原子供給物質を酸素分子とし、前記窒素原子供給物質を窒素分子とする、請求項11に記載した窒素酸化触媒。
- 前記酸素分子及び前記窒素分子の供給源として空気を使用する、請求項12に記載した窒素酸化触媒。
- 前記酸化窒素として二酸化窒素を得る、請求項11に記載した窒素酸化触媒。
- 前記触媒を基体上に配する、請求項10に記載した窒素酸化触媒。
- 前記触媒を、アーク放電法によるフラーレン分子を含む煤、或いは、蒸着法、プラズマ重合法、光重合法、塗布法又は噴霧法によるフラーレン分子又はその重合体からなる薄膜として前記基体上に配する、請求項15に記載した窒素酸化触媒。
- 前記フラーレン分子を主としてC60分子及び/又はC70分子とする、請求項10に記載した窒素酸化触媒。
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