JP3856482B2 - ボール非循環型ボールねじ - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、各種送り装置の送りねじとして使用されるボールねじ、特にボール非循環型ボールねじに関する。
【0002】
【従来の技術】
ボール非循環型ボールねじとしては、リテーナ付ボールねじと遊星摩擦車式ボールねじが知られている(日刊工業新聞社発行、ねじ便覧編集委員会編:「ねじ便覧」初版(昭41.5.20),p.330参照)。
【0003】
リテーナ付ボールねじは、外周面に螺旋状ボール転動溝が形成されたねじ軸と、内周面に前記螺旋状ボール転動溝に対応する螺旋状ボール転動溝が形成されたナットとを複数のボールを介して螺合させ、且つ該ボールを円筒形のリテーナで前記螺旋状ボール転動溝内に一定間隔に保持させて成るものである(例えば、特公昭38−26818号、特公昭60−53217号、或いは実開平5−8104号公報など)。
【0004】
図9乃至図10を参照して従来の一例を簡単に説明する。ねじ軸60の外周面には螺旋状ボール転動溝62が設けられ、同じくナット64の内周面にはボール転動溝62に対応する螺旋状ボール転動溝66が設けられている。両ボール転動溝62,66間に介装されたボール68は、ナット64にねじ軸60を挿通したときにできる隙間70内に遊挿し得る厚みを有する円筒形リテーナ72に穿設されたボール孔74に挿入され、両ボール転動溝62,64間で転動する。
この例では、円筒形リテーナ72の長さはナット64の長さより所定の長さだけ短く形成されており、ナット64とリテーナ72の両端に所定間隔の離間部をもたせている。このため、ねじ軸60が回転するとナット64は前記離間部の和の2倍だけ最大往復運動をする。
【0005】
次に遊星摩擦車式ボールねじについて説明する。遊星摩擦車式ボールねじは、外周面に多条の螺旋状ボール転動溝が形成されたねじ軸と、内周面に玉軸受の外輪に似た円形溝が形成されたナットとを、1回路にねじ軸のボール転動溝の条数だけの個数のボールを介装して螺合させたものである(例えば、特公昭44−15206号、特開平1−242866号、或いは特開平4−95647号公報など)。
【0006】
図11を参照して従来の一例を簡単に説明する。ねじ軸80には2条の螺旋状ボール転動溝82が形成されている。符号84はラジアル玉軸受を示し、このラジアル玉軸受84は、ボール86(ボール個数は2)、ボール86を保持するリテーナ88、及び外輪90から成る。符号92は外筒を示している。この外筒92には、前記玉軸受84が2個配設されると共に、これら玉軸受84,84の間に外輪カラー94と板ばね96が配設されている。そして、外筒92に螺入されたナット98を締め付けて外輪90を軸方向に押圧することにより、ボール86はボール転動溝82と外輪90の円形溝とにアンギュラコンタクトして予圧が付与される。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
リテーナ付ボールねじは、前記のようにナットの移動ストロークが制限されて短いという欠点を有すると共に、リテーナの加工が困難であった。また、ねじ軸の外周面とナットの内周面との隙間にリテーナを遊挿する関係から、ねじ軸及びナットの螺旋状ボール転動溝の深さを深くできなかった。このため、ボールが両ボール転動溝とアンギュラコンタクトする接触角αを大きくできず、軸方向荷重に対する剛性が小さかった(図12参照)。
【0008】
前記の遊星摩擦車式ボールねじも、ボールを保持するリテーナのスペースに制約されて、ねじ軸のボール転動溝及び/又は外輪の円形溝の深さを深くできず、同様に軸方向荷重に対する剛性が小さかった。また、予圧を付与する機構上、部品点数が多くなると共に、外筒の径が大きくなるという欠点があった。
なお、リテーナを省いて軸方向荷重に対する剛性を前例より大きくした遊星摩擦車式ボールねじも提案されているが(特開平4−95647号公報参照)、上記の部品点数が多く外筒の径が大きくなるという欠点は解消されていない。
【0009】
本発明は、従来技術の有する上記の問題点に鑑みてなされたもので、ナットの移動ストロークに制限がなく、構造が簡素で部品点数が少なく、外筒も必要とせず、しかも軸方向荷重に対する剛性が大きいボール非循環型ボールねじを提供することを目的としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、外周面に多条の螺旋状ボール転動溝が形成されたねじ軸と、内周面中央に環状凸部を具え且つ該環状凸部の軸方向両側に前記螺旋状ボール転動溝に対向するように形成された略々4分の1円弧の環状ボール転動溝を具えたナットと、前記螺旋状ボール転動溝と前記環状ボール転動溝との間に介挿されたボールとを有してなるボール非循環型ボールねじであって、前記ボールが前記螺旋状ボール転動溝及び前記環状ボール転動溝と複列外向きにアンギュラコンタクトするとともに、前記環状ボール転動溝の軸方向外側に位置する前記ナットの開口端部内に、前記ボールを転動自在に保持し且つ該ボールと共に前記ねじ軸に対して公転する板リング状の保持器が嵌着されているボール非循環型ボールねじによって、前記課題を解決した。
【0011】
【作用】
本発明のボールねじでは、板リング状の保持器が環状ボール転動溝の軸方向外側に位置するナットの開口端部内に嵌着されている。ねじ軸の螺旋状ボール転動溝とナットの環状ボール転動溝との間に回挿されたボールは、このボールと共にねじ軸に対して公転する保持器によって転動自在に保持される。この構成によって、ねじ軸の外周面とナット内周面との隙間を小さくすることができ、その結果、ねじ軸の螺旋状ボール転動溝及び/又はナットの環状ボール転動溝の深さを深くすることができる。このため、ボールが両ボール転動溝とアンギュラコンタクトする接触角を大きくでき、軸方向荷重に対する剛性が増大する。
【0012】
ボールに予圧を付与することにより、ボールねじのラジアル方向及び軸方向のガタを無くすことができる。また、比較的大きな軸方向荷重が作用する場合や、モーメント荷重が作用する場合に好適である。
【0013】
【実施例】
図1乃至図2を参照して本発明のボール非循環型ボールねじの第1実施例を説明する。ボールねじ10は、ねじ軸12、ナット14、及びボール16を有して成る。
【0014】
ねじ軸12の外周面には、その深さがボール16の半径より僅かに浅い2条の螺旋状ボール転動溝18が刻設されている。また、ボール転動溝18の形状は、玉軸受に準じてボール16の径の0.52〜0.58倍程度の曲率半径をもつ単一円弧、すなわち、サーキュラアーク溝である。無論、サーキュラアーク溝に限定されるわけでなく、2円弧を組み合わせたゴシックアーク溝を用いることもできる。
【0015】
ナット14の内周面中央には、ねじ軸12の外径よりやや大きい内径を有する環状凸部20が設けられている。環状凸部20の軸方向両側には、環状のボール転動溝22が刻設されている。ボール転動溝22の形状は、ねじ軸12のボール転動溝18と同じ曲率半径をもつサーキュラアーク溝を言わば半分切除した、略々4分の1円弧になっている。
環状ボール転動溝22の軸方向外側に位置するナット14の開口端部(符号を付さず。)内には、係止溝24が刻設されている。そして、この開口端部内にボール16と共にねじ軸12に対して公転する薄板リング状の保持器30を嵌入した後、係止溝24に止め輪26を係入させて保持器30を固定する。また、ナット14の外周には、ナット14をハウジング等(図示せず)に固定するためのキー溝28が形成されている。
【0016】
ここで、図3を参照してサーキュラアーク溝を用いた場合のねじ軸12の螺旋状ボール転動溝18、及びナット14の環状ボール転動溝22の構成について説明する。
ボール16の直径をDa、ボール転動溝18の曲率半径をRs、ボール転動溝22の曲率半径をRn、ボール16が両ボール転動溝18,22とアンギュラコンタクトする接触角をα(標準は45°)とする。前記のように本実施例では、Rs=Rn=faDa(faは係数:0.52〜0.58程度)に設定している。
ボール16のピッチサークルDp上に左右のボール16,16の中心がある。左右のボール16,16が両ボール転動溝18,22に接触角αで複列外向きのアンギュラコンタクトするように、左右それぞれに、接触角線上に接触点からRs,Rnの距離に両ボール転動溝18,22の曲率中心Os,Onをとる。なお、このようなボールの接触角の関係は、JIS用語の「複列外向きアンギュラ玉軸受」(すなわち、転動体荷重の作用線の交点が、ピッチ円の外側にある複列アンギュラコンタクト玉軸受」)の場合と基本的に同じである。
左右のOs,Os間の距離Ps、及び左右のOn,On間の距離Pnが決定される。このPsがボール転動溝18,18のピッチになり、Pnがボール転動溝22,22のピッチとなる。左右のボール16,16が両ボール転動溝18,22に接触角αで外向きにアンギュラコンタクトするためには、Pn>Psの関係が必要である。
ゴシックアーク溝の場合も同様に考えればよいので、その場合の説明は省略する。
【0017】
ボール16は,環状ボール転動溝22,22の1回路に2個ずつ合計4個が、両ボール転動溝18,22間に介装された後、保持器30によって転動自在に保持される。
ボールねじに所定の軸方向すきま量を付与したい場合には、設計寸法より小さい径のボール16を介装する。この場合には、軸方向荷重が付勢される側のボール16が、両ボール転動溝18,22と接触角25°〜65°の範囲でアンギュラコンタクトする。
ボールねじに予圧を付与したい場合には、予圧量に応じて設計寸法と同じか、それより大きい径のボール16を介装する。この場合、ボールねじは、設計値前後の接触角を有する複列外向きのアンギュラコンタクト構造になる。
【0018】
この図3及び図4、並びに図5に、保持器の他の実施例が示されている。図3及び図4に示される板リング状の保持器32には、4個の凹所34が等配形成されている。ボール16はこれらの凹所34内に当接保持され、保持器32はボール16と共にねじ軸12に対して公転する。
また、凹所34の数はねじ軸のボール転動溝の条数によって異なり、2条ねじの場合は2個、3条ねじの場合は3個になることは無論である。この例は4条ねじの場合を示しているが、図1に示される2条ねじにも適用できる。
なお、保持器32に凹所34を設けることにより、前記の第1実施例の保持器30に比べてボール16の保持が確実なものとなることは言うまでもない。
【0019】
図5に示される保持器36は、図4の保持器32の凹所34に舌片38を設けたものであり、ボール16の保持をより確実にする。
【0020】
図6は本発明のボールねじの第2実施例を示している。本実施例のボールねじ40は、止め輪42と保持器44との間にスラストベアリング46を有する。保持器44は図3及び図4に示されたものと同じで、ボール16と共にねじ軸48及びナット50に対して公転する。このように、スラストベアリング46を止め輪42と保持器44との間に挟着することにより、保持器44は前記の実施例に比べてより円滑に公転することができる。
なお、スラストベアリング46は、市販のスラストニードルベアリング、スラストローラベアリング、又はスラストボールベアリングである。
スラストベアリング46を挟着できるだけのスペースがない場合には、止め輪42と保持器44の間の止め輪側に環状板を嵌挿し、この環状板上に刻設した溝に、保持器の軸方向外面に当接転動するボール又はローラ等の転動体を嵌入させてもよい(図示せず)。
【0021】
図7は本発明のボールねじの第3実施例を示している。本実施例のボールねじ52は、左列の2個のボール54と右列の2個のボール56の位相を90°ずらせたものである。2条ねじの場合、このような構成を採用することにより、ナット58の軸方向長さを短縮することができると共に、ラジアル方向及び軸方向荷重を支承することができる。
【0022】
図8は第4実施例を示している。本実施例のボールねじ10’は、図1に示されるナット14を2つ連結したもので、より大きい軸方向荷重に対して好適である。無論、図7に示される第3実施例のナット58を2つ連結してもよい。
【0023】
保持器の材質は、鉄、銅のような金属或いは合成樹脂である。そして、ボールが当接する表面に潤滑性のある素材をコーティングしておくことが望ましい。
【0024】
上記の実施例は2条ねじの場合を示したが、本発明のボールねじはこれらの実施例に限定されないことは言うまでもない。また、ボール転動溝の形状も、サーキュラアーク溝又はゴシックアーク溝に限定されない。
【0025】
【発明の効果】
請求項1のボールねじは以上の如き構成であるから、ねじ軸の外周面とナット内周面との隙間を小さくすることができ、その結果、ねじ軸の螺旋状ボール転動溝及び/又はナットの環状ボール転動溝の深さを従来のボール非循環型ボールねじのものより深くすることができる。従って、ボールが両ボール転動溝とアンギュラコンタクトする接触角を大きくすることができ、軸方向荷重に対する剛性が大きくなる。
【0026】
また、適切なボール径を選択することにより、ボールねじに所定の軸方向すきま又は予圧量を付与することができるので、従来の遊星摩擦車式ボールねじのような外筒や予圧付与機構を必要としない。従って、ナットの構造は、加工が容易な簡素なものとなり、部品点数も少なくなる。保持器も、従来のリテーナ付ボールねじのものより加工が容易である。
【0027】
そして、請求項2のボールねじでは、ボールに予圧を付与することにより、ボールねじのラジアル方向及び軸方向のガタを無くすことができる。また、比較的大きな軸方向荷重やモーメント荷重が作用する場合に好適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のボールねじの第1実施例を示す軸方向断面図である。
【図2】図1のナットを一部破断した斜視図である。
【図3】他の実施例の保持器を具えたボールねじの一部拡大軸方向断面図であるとともに、ボール転動溝の設計説明図である。
【図4】図3の保持器の斜視図である。
【図5】さらに他の実施例の保持器の正面図である。
【図6】本発明のボールねじの第2実施例を示す一部拡大軸方向断面図である。
【図7】本発明のボールねじの第3実施例を示す軸方向断面図である。
【図8】本発明のボールねじの第4実施例を示す軸方向断面図である。
【図9】従来のリテーナ付ボールねじの軸方向断面図である。
【図10】図9のリテーナの一部破断正面図である。
【図11】従来の遊星摩擦車式ボールねじの軸方向断面図である。
【図12】図9を一部拡大した、ボールの接触状態を示す説明図である。
【符号の説明】
10,10’,40,52 ボールねじ
12,48 ねじ軸
14,50,58 ナット
16,54,56 ボール
18 螺旋状ボール転動溝
20 環状凸部
22 環状ボール転動溝
24 係止溝
26,42 止め輪
30,32,36,44 保持器
Claims (2)
- 外周面に多条の螺旋状ボール転動溝が形成されたねじ軸と、内周面中央に環状凸部を具え且つ該環状凸部の軸方向両側に前記螺旋状ボール転動溝に対向するように形成された略々4分の1円弧の環状ボール転動溝を具えたナットと、前記螺旋状ボール転動溝と前記環状ボール転動溝との間に介挿されたボールとを有してなるボール非循環型ボールねじであって、
前記ボールが前記螺旋状ボール転動溝及び前記環状ボール転動溝と複列外向きにアンギュラコンタクトするとともに、
前記環状ボール転動溝の軸方向外側に位置する前記ナットの開口端部内に、前記ボールを転動自在に保持し且つ該ボールと共に前記ねじ軸に対して公転する板リング状の保持器が嵌着されていることを特徴とする、
ボール非循環型ボールねじ。 - 前記ボールに予圧が付与されている、請求項1のボール非循環型ボールねじ。
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JP24731693A JP3856482B2 (ja) | 1993-09-09 | 1993-09-09 | ボール非循環型ボールねじ |
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- 1993-09-09 JP JP24731693A patent/JP3856482B2/ja not_active Expired - Lifetime
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Publication number | Publication date |
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