JP3855335B2 - 直接通電式電解エッチング装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、鋼帯など金属ストリップの連続電解エッチング装置に関し、さらには、片面に電気絶縁性インクでエッチングレジストを印刷した金属ストリップの電解エッチングにおけるアークポット疵の発生が防止可能で、副反応に伴うエッチング安定性における問題および難処理副生成物発生の問題のない電解エッチング装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、鋼帯など金属ストリップに電気絶縁性インクでエッチングレジストを印刷した後、電解エッチングにより、金属ストリップ表面にエッチングパターンを形成することにより、金属ストリップの特性を改善する技術が開示されている(特公平8−6140号公報)。
【0003】
一方、本技術を工業的に行うに際しては、▲1▼製品のエッチング状態の安定性、▲2▼電解エッチングにおける制御の容易性および▲3▼設備投資、運転経費の面での経済性に優れた電解エッチング方法が要求されていた。
電解エッチングには、▲1▼バッチ方式または連続方式と▲2▼間接通電方式または直接通電方式との組み合わせがあり、さらには電極の配置方法を含めると種々の方式が検討されている。
【0004】
しかし、間接通電方式においては、短絡電流が流れ、正確なエッチング量の制御を行うことが困難であり、直接通電方式においては、▲1▼金属ストリップの片面に電気絶縁性インクによりパターン印刷を行う場合、印刷面側からは通電不能という問題、▲2▼電解エッチング時に金属ストリップと通電ロール表面との局部接触によりアークスポット疵(ストリップ表面欠陥)が多発する問題、および▲3▼電解液中での副反応に伴うエッチング安定性における問題および難処理副生成物発生の問題があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、片面に電気絶縁性インクによりエッチングレジストが印刷された鋼帯など金属ストリップの電解エッチング装置に関し、特には、前記した従来技術の問題点を解決し、アークスポット疵の発生が防止可能で、副反応に伴うエッチング安定性における問題および難処理副生成物発生の問題のない、制御の容易な鋼帯など金属ストリップの電解エッチング装置の提供を目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
第1の発明は、片面に電気絶縁性インクによりエッチングレジストが印刷された金属ストリップの電解エッチング装置であって、電解エッチング槽7と、陽極であるコンダクタロール4と、当該コンダクタロール4と金属ストリップを介在して相接するように配設されたバックアップロール8と、電解エッチング槽7の電解液に浸漬された陰極3と、金属ストリップを電解液に浸漬するための浸漬用ロール9とを有し、金属ストリップのエッチングレジスト印刷面が下向きに通板され、当該金属ストリップのエッチングレジスト印刷面側と相対向して陰極3が上向きに、かつ当該エッチングレジスト印刷面と陰極間の距離が5〜40mmとなるように配設され、コンダクタロール4が金属ストリップのエッチングレジスト非印刷面に、バックアップロール8が金属ストリップの印刷面にそれぞれ当接されるように配設されたことを特徴とする直接通電式電解エッチング装置である。
【0007】
第2の発明は、前記第1の発明において、コンダクタロール4が電解エッチング槽7の電解液中に浸漬されない構成とした直接通電式電解エッチング装置である。
第3の発明は、前記第1の発明または第2の発明において、金属ストリップをバックアップロール8に巻き掛けし、コンダクタロール4および/またはバックアップロール8を金属ストリップに対して押圧する構成とした直接通電式電解エッチング装置である。
【0008】
なお、本第3の発明における金属ストリップをバックアップロール8に巻き掛けする巻き掛け角度としては、バックアップロール入側巻き掛け角度θ1 、バックアップロール出側巻き掛け角度θ2 のいずれもが、下記式を満足することが好ましい。
θ1 、θ2 ≧2度
第4の発明は、前記第1の発明〜第3の発明のいずれかにおいて、前記金属ストリップが鉄または鉄合金の帯状体であり、前記陰極3の材質として、鉄または鉄合金を用いる直接通電式電解エッチング装置である。
【0009】
第5の発明は、前記第1の発明〜第3の発明のいずれかにおいて、前記金属ストリップが鉄または鉄合金の帯状体であり、前記陰極3の材質として、ステンレス鋼を用いる直接通電式電解エッチング装置である。
なお、前記した第1の発明〜第5の発明における金属ストリップを電解液に浸漬するための浸漬用ロール9は、その機能を有するロールであればよく、その具体的構成は限定されるものではない。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を、第1の発明〜第5の発明の順に、さらに詳細に説明する。
〔第1の発明:〕
第1の発明は、片面に電気絶縁性インクによりエッチングレジストが印刷された金属ストリップの電解エッチング装置であって、電解エッチング槽と、陽極であるコンダクタロールと、当該コンダクタロールと金属ストリップを介在して相接するように配設されたバックアップロールと、電解エッチング槽の電解液に浸漬された陰極と、金属ストリップを電解液に浸漬するための浸漬用ロールとを有し、[1] 金属ストリップのエッチングレジスト印刷面が下向きに通板され、[2] 金属ストリップのエッチングレジスト印刷面側と相対向して陰極が上向きに、かつエッチングレジスト印刷面と陰極間の距離が5〜40mmとなるように配設され、[3] コンダクタロールが金属ストリップのエッチングレジスト非印刷面に、バックアップロールが金属ストリップの印刷面にそれぞれ当接されるように配設された直接通電式電解エッチング装置である。
【0011】
図1(a) に、本発明に係わる水平セル式の直接通電式電解エッチング装置を側面図により示し、図1(b) に、図1(a) のA部部分拡大図を示す。
図1(a) 、(b) において、1は金属ストリップ、2は金属ストリップのエッチングレジスト印刷面、3は陰極、4は陽極であるコンダクタロール、5は整流電源、6は電解液、7は電解エッチング槽(電解エッチングセル)、8はバックアップロール、9は金属ストリップ1を電解液6に浸漬するための浸漬用ロール(シンクロール)を示し、dはエッチングレジスト印刷面2と陰極3間の距離、fS は金属ストリップの通板方向を示す。
【0012】
図1に示されるように、金属ストリップ1には下面側に電気絶縁性インクによりエッチングレジストが印刷されている。
電解エッチング槽7は、エッチングレジスト印刷面2側と相対向する位置に陰極3が上向きに、かつエッチングレジスト印刷面2と陰極3間の距離dが5〜40mmとなるように配設されている。
【0013】
また、金属ストリップ1のエッチングレジスト印刷面2にバックアップロール8が当接され、非印刷面側すなわち金属ストリップ1の上面側に陽極であるコンダクタロール4が当接され、バックアップロール8とコンダクタロール4が金属ストリップ1を介在して相接する構成となっている。
陽極4と陰極3は整流電源5に接続され、金属ストリップ1への直接通電により、電解エッチングが施される。
【0014】
また、コンダクタロール4は、電解エッチング槽7の電解液の外側に配設され、短絡電流の発生が防止される。
以上、図1においては電解エッチング槽7として水平セルを示したが、本発明においては、電解エッチング槽7としてラジアルセルを用いてもよい。
図2(a) に、本発明に係わるラジアルセル式の直接通電式電解エッチング装置を側面図により示し、図2(b) に、図2(a) のB部部分拡大図を示す。
【0015】
図2(a) 、(b) において、10はメインロール(巻き付けロール)、11a は前段シールロール、11b は後段シールロール、12は給液ヘッダ、13は排液ヘッダ、O1 はメインロール10の中心軸を示し、その他の符号は図1(a) 、(b) と同様の内容を示す。
なお、図2(a) 、(b) におけるメインロール10は、金属ストリップ1の搬送とともに、本発明における浸漬用ロールの機能も有する。
【0016】
図2に示す直接通電式電解エッチング装置においては、金属ストリップ1はメインロール10に巻き付けられ、金属ストリップ1には下面側に電気絶縁性インクによりエッチングレジストが印刷されている。
電解エッチング槽7は、金属ストリップのエッチングレジスト印刷面2側と相対向する位置に陰極3が上向きに、かつ金属ストリップのエッチングレジスト印刷面2と陰極3間の距離dが5〜40mmとなるように配設されている。
【0017】
また、金属ストリップ1のエッチングレジスト印刷面にバックアップロール8が当接され、非印刷面側すなわち金属ストリップ1の上面側に陽極であるコンダクタロール4が当接され、バックアップロール8とコンダクタロール4が金属ストリップ1を介在して相接する構成となっている。
陽極4と陰極3は整流電源5に接続され、金属ストリップへの直接通電により、電解エッチングが施される。
【0018】
また、前段シールロール11a 、後段シールロール11b および陰極3で囲繞された領域に給液ヘッダ12により電解液6が供給され排液ヘッダ13から排出される。
図2に示されるように、コンダクタロール4はシールロール11a 、11b でシールされた領域(電解液充填領域)の外側に配設され、短絡電流の発生が防止される。
【0019】
以下、前記第1の発明の各構成要件について説明する。
(直接通電方式の採用:)
電解エッチングを行うに際しては、金属ストリップ(以下ストリップとも記す)への通電方式として、先ず、間接通電方式と直接通電方式が考えられる。
図3および図4に、鋼帯のレジスト印刷面の電解エッチングを間接通電で行う場合の電気化学反応を模式図により示す。
【0020】
図3は、鋼帯1aを介して陽極20および陰極21を相対向して配設した場合の電気化学反応を、電解エッチング槽の側面図(a) および断面図(b) により示す。
また、図4は、鋼帯のエッチングレジスト印刷面側に陽極20および陰極21を配設した場合の電気化学反応を、電解エッチング槽の側面図により示す。
電流は、陽極20より鋼帯1aの非印刷面を通り、鋼帯のエッチングレジスト印刷面2を経由して陰極21へ到達する。
【0021】
この時、陽極20を鉛などの可溶性材料で製作した場合、陽極20自身がエッチングされてしまい、陽極20が急速に消耗する。
また、陽極20をPt系の不溶性材料で製作した場合、陽極20では陰イオンの酸化反応が起こり、電解液組成にもよるが、Cl2 やO2が発生する。
また、鋼帯1aの非印刷面では還元反応が生じることによりH2が発生する。
【0022】
しかし、エッチングに必要な反応は、鋼帯1aから鋼帯のエッチングレジスト印刷面2を通じて電流が流れる際に生じるFe→Fe2+の反応だけであり、上記した副反応は全て不要かつ無駄な反応である。
これらの不要な副反応で消費されるエネルギーは、電解エッチングにおける電力原単位の増加を招き、さらには、発生したCl2 やO2を処理するための装置などが必要となる。
【0023】
また、陽極20の材質には相当の注意が必要で、陽極20がエッチング(溶解)されると、電解液の組成が経時的に変化し、電解特性の変化または陰極21表面へのメッキによる陰極21自体の電気伝導度の変化が生じ、電解エッチングの制御の外乱となる。
また、上記問題を解決するために、陽極20として例えばPt系の不溶性陽極を用いた場合、必然的に設備コストの増大を招く。
【0024】
また、間接通電の場合、図3および図4に示すように短絡電流AS が発生し、短絡電流AS の発生は、エッチング量を電流量で制御するに際しての外乱となり、正確なエッチング量制御を行うことが困難となる。
以上述べたことから、電解エッチングを工業的に安定的かつ経済的に行うために、本発明においては、鋼帯1aなど金属ストリップ〜陰極21の電流経路のみを形成するために直接通電方式を採用した。
【0025】
(印刷面、陰極、バックアップロール、コンダクタロール各々相互の配置および印刷面と陰極間の距離の設定:)
次に、印刷面、陰極、バックアップロール、コンダクタロール各々相互の配置および印刷面と陰極間の距離の設定について、その設定理由を述べる。
▲1▼エッチングレジスト印刷面と陰極相互の配置:
印刷面のエッチングを効率良く行うためには、非印刷面側へ廻り込む漏洩電流を可能な限り防止することが重要であり、そのためには、エッチングレジスト印刷面に相対向して陰極を配設することが重要な要件となる。
【0026】
このため、本発明においては、図1または図2に示すように、金属ストリップのエッチングレジスト印刷面2に相対向して陰極3を配設し、さらに電力使用量の削減および金属ストリップ1と陰極3の接触による金属ストリップ表面のスパーク疵の発生の防止を達成するために金属ストリップのエッチングレジスト印刷面2と陰極3間の距離を5〜40mmに設定した。
【0027】
▲2▼陰極の配置:
図5に、直接通電式電解エッチング法における鋼帯−陰極間の主要電気化学反応の模式図を電解エッチング槽の側面図により示す。
図5において、1aは鋼帯、fe は電流の通電経路、fS1は鋼帯の通板方向を示し、その他の符号は図1と同様の内容を示す。
【0028】
陽極である鋼帯1aにおいては、鉄が電子を奪われてFe2+イオンとなり、電解液6中へ溶け出す一方、陰極3においては、水素イオン(H+ )が還元されてH2ガスが発生する。
この場合、電池や電気分解と同様にH2ガスは導電性がないため、電解エッチングが正常に安定して進行するためには、本反応で発生したH2ガスを速やかに排除することが重要である。
【0029】
このため、鋼帯−陰極間の電解液6を一定以上の流速で流し、発生したH2ガスを排除する方法が用いられるが、このためには電解液を流すためのポンプの消費エネルギー(電力)が問題となる。
すなわち、直接通電式電解エッチングを工業的に経済性に優れた方法で行うためには、電解エッチング槽が、発生したH2ガスが速やかに金属ストリップ近傍の電解液中から離脱する構造を有することが重要である。
【0030】
このため、本発明においては、陰極を上向きに配置する構成とした。
また、本構成と前記した▲1▼の条件に基づき、本発明においては、金属ストリップのエッチングレジスト面を下向きに通板する装置構成とした。
▲3▼コンダクタロール、バックアップロール相互の配置:
金属ストリップ1への通電を印刷面から行うのはかなり困難で、液体金属など特殊な電極が必要となり、設備費用の大幅な増加を招くため、ストリップの非印刷面側からの陽極通電が工業生産上好ましい。
【0031】
また、陽極を圧下通電とする場合、ストリップを連続的に処理することが工業生産上、製品品質の安定化および経済性の面から必要であり、このため、陽極としてロール(コンダクタロール)を用いることにより本問題が解決可能となる。
以上の理由から、金属ストリップの下面であるエッチングレジスト印刷面にバックアップロールを、非印刷面にコンダクタロールをそれぞれ当接する構成とした。
【0032】
以上述べたように、第1の発明においては、発生したH2ガスの速やかな離脱、電力使用量の削減および設備費用の削減を達成するために、前記した構成要件を採用した。
〔第2の発明:〕
第2の発明は、前記第1の発明において、コンダクタロールが電解エッチング槽の電解液中に浸漬されない構成とした直接通電式電解エッチング装置である。
【0033】
図6に、金属ストリップのメッキを行う水平セル式のメッキセルを電解エッチングに適用した場合の直接通電式電解エッチング装置を側面図により示す。
図6において、11はシールロール、12は給液ヘッダ、13は排液ヘッダを示し、その他の符号は図1と同様の内容を示す。
電流は、コンダクタロール4から金属ストリップ1に流れ、エッチングレジストが印刷された金属ストリップ1の非印刷面より電解液6を通って陰極3へ流れる。
【0034】
この時、非印刷面→印刷面のレジスト非印刷部→電解液6を電流が流れる際の電気化学的反応により、金属ストリップ1がエッチングされるのであるから、当該経路を流れる電流を制御することが、エッチング強度を制御することになる。
すなわち、製品品質の安定のためには、上記経路を流れる電流を正しくコントロールすることが重要である。
【0035】
しかし、図6に示した電解セルの場合、コンダクタロール4が電解液6に直接浸漬されている。
このため、図7に示すように、正規の電流の通電経路fe 、すなわちコンダクタロール4→金属ストリップの非印刷面→金属ストリップの印刷面のレジスト非印刷部→電解液6→陰極3の通電と同時に、コンダクタロール4の金属ストリップとの非接触部(コンダクタロール4の電解液に接している部分)→電解液6→陰極3の経路で短絡電流AS が発生する。
【0036】
一方、一般的にストリップ表面の電流を直接測定することは困難であり、エッチングにおける電解量は電源装置の通電電流で制御する。
その際に、このような短絡電流が流れると、短絡電流は、エッチング強度すなわち電解量の正確な管理および制御の大きな外乱要因となるため、短絡電流を極力防止することが工業的に安定した電解エッチングを行うために重要な要件となる。
【0037】
さらに、短絡電流が発生した場合、本来ストリップ表面で生じるべき電気化学的反応が、コンダクタロール4の表面で発生し、コンダクタロール4の表面を損傷する問題が生じる。
本第2の発明は、上記した問題点を解決するために、コンダクタロール4を電解エッチング槽7の電解液6中に浸漬させないことで短絡電流AS の発生を防止したものである。
【0038】
〔第3の発明:〕
第3の発明は、前記第1の発明または第2の発明において、金属ストリップをバックアップロールに巻き掛けし、コンダクタロールおよび/またはバックアップロールを金属ストリップに対して押圧する構成とした直接通電式電解エッチング装置である。
【0039】
図8にアークスポット疵発生の機構をフローチャートにより示す。
アークスポット疵は、前記した図1において、陽極であるコンダクタロール4と金属ストリップ1の間の通電領域の変化によるアーク発生によるものと考えられる。
このため、本現象を防止するためには、コンダクタロール4と金属ストリップ1の間の通電領域の安定化が重要であり、▲1▼通電領域内におけるコンダクタロールからの局部的な金属ストリップの浮き上がりの防止、▲2▼コンダクタロールのストリップ噛込み部、噛離れ部の位置の変動防止の両者を行うことが必要である。
【0040】
このため、本第3の発明においては、前記した構成を採用すると共に、金属ストリップ1をバックアップロール8に巻き掛ける構成とした。
図9(a) に、本第3の発明に係わる直接通電式電解エッチング装置を側面図により示し、図9(b) に図9(a) のC部部分拡大図を示す。
図9(b) において、P1はバックアップロール8入側における金属ストリップ1のバックアップロール8に対する接線とバックアップロール8との接点、P2はバックアップロール8出側における金属ストリップ1のバックアップロール8に対する接線とバックアップロール8との接点、P0はバックアップロール8とコンダクタロール4とのストリップを介在した接点、O2はバックアップロール8の中心軸、θ1 は直線P1−O2および直線P0−O2で形成される角度(:バックアップロール入側巻き掛け角度と記す)、θ2 は直線P2−O2および直線P0−O2で形成される角度(:バックアップロール出側巻き掛け角度と記す)を示し、その他の符号は、図1における符号と同一の内容を示す。
【0041】
本第3の発明においては、図9に示すように、バックアップロール8に金属ストリップ1を巻き掛けるように金属ストリップ1のパスが構成されている。
さらに、バックアップロール8に巻き掛けられた金属ストリップ1に非印刷面側よりコンダクタロール4を押し付けて通電を行う。
バックアップロール8に巻き掛けられた金属ストリップ1に非印刷面側よりコンダクタロール4を押し付ける方法としては、金属ストリップ1をバックアップロール8に巻き掛けし、コンダクタロールおよび/またはバックアップロールを金属ストリップに対して押圧する方法が用いられる。
【0042】
金属ストリップ1の急峻度λが2%あるとした場合、ストリップの伸び差Δεは、Δε=2.47λ2 ≒0.99×10-3であり、バックアップロール8の径がφ600mm の場合、このストリップの伸び差によるストリップのロール面からの浮き上がり量は、(1/2) D・Δε=0.30mmとなる。
この場合、コンダクタロール4は、0.30mmの浮き上がりを押し潰す圧下力を有していれば安定した通電が可能となる。
【0043】
これに対して、図10に示すように、水平パスでコンダクタロール4の圧下を行うと、2%の急峻度により、ストリップの噛込部、噛離れ部の位置が不安定となり、アークスポットを発生する。
また、図11(a) 、(b) に示すようにコンダクタロール4に金属ストリップ1を巻き掛けると、この巻き掛けによるストリップ浮き上がり量の低減をストリップの張力で補償することとなり、そのために必要な張力σは下記式で導かれる値となり、非常に高張力の条件下でのエッチングとなり、設備強度およびストリップ張力発生装置に大きなものが要求され設備費が増大するという問題点が生じる。
【0044】
σ=EΔε=21000 ×0.99×10-3=20.8kg/mm2
本第3の発明における巻き掛け角度としては、バックアップロール入側巻き掛け角度θ1 、バックアップロール出側巻き掛け角度θ2 のいずれもが、下記式を満足することが好ましい。
θ1 、θ2 ≧2度
θ1 、θ2 が上記式を満足しない場合は、アークスポット疵の低減効果が少なくなり、好ましくない。
【0045】
本第3の発明によれば、後記の実施例に示されるように、電解エッチングにおけるアークスポット疵の発生が極めて効果的に防止可能となり、またエッチングレジスト印刷面の電解エッチングを均一に行うことが可能となった。
〔第4の発明および第5の発明:〕
次に、本発明の直接通電式電解エッチング装置における陰極について述べる。
【0046】
すなわち、第4の発明は、前記第1の発明〜第3の発明のいずれかにおいて、前記金属ストリップが鉄または鉄合金の帯状体であり、前記陰極として、鉄または鉄合金を用いる直接通電式電解エッチング装置である。
また、第5の発明は、前記第1の発明〜第3の発明のいずれかにおいて、前記金属ストリップが鉄または鉄合金の帯状体であり、前記陰極として、ステンレス鋼を用いる直接通電式電解エッチング装置である。
【0047】
直接通電式電解エッチングにおいては、通常、電解液として食塩水(NaCl水溶液)が用いられる。
この場合の鋼帯−陰極間の主要な電気化学反応を図12に模式図により示す。
陰極3における反応(C) としては、電子受容反応により、(1) 水素発生、(2)Fe 析出、(3)Na 析出の3反応が考えられる。
【0048】
また、原子のイオン化列により、陰極3における反応(C) においては、(1) →(3) の順で優先的に反応が生じると考えられ、陰極の材質は、電気伝導性と耐腐食性のみ考慮して選択すれば良いと考えられていた。
しかし、陰極における水素発生反応においては、陰極の材質によって水素過電圧と呼ばれる差電圧が発生し、この水素過電圧が大きいと水素発生が困難となり、その代わりに金属析出などの副反応が生じる。
【0049】
一方、金属ストリップを陰極とする電気メッキにおいて陽極として用いられる鉛は、耐食性、安定性に優れるが、直接通電式電解エッチングにおいて陰極として用いる場合は、水素過電圧が大きく、Na析出反応を誘発し、析出したNaと鉛が反応して電解液中に鉛コロイドが発生し、電解液中に含鉛スラッジが発生するという問題が生じる。
【0050】
また、電気分解で多用される白金(Pt)は、水素過電圧は小さく、耐食性、安定性にも優れるが、工業的に用いるには非常に高価であり設備費用など経済性に問題があった。
本第4の発明においては、上記した問題点を解決するために、陰極の材質として、鉄または鉄合金を用いることにより、水素過電圧による副反応に伴う上記した弊害の防止と耐食性、安定性および設備費用の低減化を達成した。
【0051】
すなわち、陰極の材質を鉄または鉄合金としたことにより、鉛電極を用いた場合に比べはるかに水素過電圧が小さくなった。
この結果、主反応である図12の(C)(1)の反応〔:H+ +e- →H2 ↑〕が優先的に進行し、副反応である図12の(C)(2)、(3) の反応〔Fe2++2e- →Fe、Na+ +e- →Na〕の影響を殆ど受けることがなく、前記した鉛コロイドが発生するという問題がない。
【0052】
また、副反応であるが次優先反応である(C)(2)の反応〔Fe2++2e- →Fe〕に対しては、陰極の材質を鉄または鉄合金とすることにより、Feの析出は陰極の電気伝導度に殆ど影響を与えず、その結果通電量の経時的変化が殆ど生ぜず、安定した制御が達成可能となった。
また、耐食性の問題に関しては、電解エッチングにおける陰極反応が元来還元析出反応であり、操業中であれば問題が生じることはない。
【0053】
一方、設備の休止に伴う電解停止時の陰極表面の残液による腐食の問題が発生する。
これに対して、第5の発明によれば、鉄合金の中でも特に耐食性の高いステンレス鋼を陰極の材質として用いることにより、腐食発生およびそれに伴う設備の休止後の再稼働時のエッチング電圧増加などのトラブルの防止が可能となった。
【0054】
以上、本発明について述べたが、本発明によれば、片面にエッチングレジストが印刷された金属ストリップの電解エッチングにおいて、アークポット疵の発生が防止可能で、副反応に伴うエッチング安定性における問題および難処理副生成物発生の問題のない、制御の容易な電解エッチング装置を提供することが可能となった。
【0055】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
前記した図9または図2に示す水平セル式またはラジアルセル式の電解エッチング装置を用いて、下記条件下で、鋼帯の下面である片面にエッチングレジストが印刷された鋼帯の直接通電による電解エッチングを行った。
【0056】
〔鋼帯およびエッチングレジストの厚み:〕
鋼帯板厚;0.22mm
エッチングレジストの厚み;1μm
エッチングレジストのインク;エポキシ系樹脂を主成分とするインク
〔電解エッチングの条件:〕
(電解液:)
組成;300g-NaCl/l 、液温;50℃
(通電方式:)
電気量300C/dm2の電解電流一定とした直接通電方式
(エッチングレジスト印刷面と陰極間の距離d:)
d=1〜50mm
(陰極材質:)
鉄またはステンレス鋼または鉛
(巻き掛け角度:)
水平セル式の電解エッチング装置;
バックアップロール入側巻き掛け角度θ1 =40度かつバックアップロール出側巻き掛け角度θ2 =40度(本発明例1〜3、比較例1〜3)
または、
バックアップロール入側巻き掛け角度θ1 =1.6 度かつバックアップロール出側巻き掛け角度θ2 =1.0 度(比較例4)
ラジアルセル式の電解エッチング装置;
バックアップロール入側巻き掛け角度θ1 =3度かつバックアップロール出側巻き掛け角度θ2 =75度(本発明例4〜6、比較例5〜7)
または、
バックアップロール入側巻き掛け角度θ1 =0.2 度かつバックアップロール出側巻き掛け角度θ2 =0.7 度(比較例8)
電解エッチング後、アークスポット疵の発生状況の調査、鋼帯表面性状および電解液の観察を行った。
【0057】
表1に水平セル式の電解エッチング装置における試験結果を、表2にラジアルセル式の電解エッチング装置における試験結果を、試験条件、電解エッチングの電力原単位と併せて示す。
表1および表2に示されるように、本発明によれば、片面にエッチングレジストが印刷された金属ストリップの電解エッチングにおいて、アークスポット疵の発生が防止可能となり、副反応による問題も生ぜず、低電力原単位で電解エッチングが可能となった。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
【発明の効果】
本発明方法によれば、片面にエッチングレジストが印刷された金属ストリップの電解エッチングにおいて、アークスポット疵の発生が防止可能となり、副反応による問題も生ぜず、低電力原単位で電解エッチングが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係わる直接通電式電解エッチング装置の側面図(a) およびA部部分拡大図(b) である。
【図2】本発明に係わる直接通電式電解エッチング装置の側面図(a) およびB部部分拡大図(b) である。
【図3】電解エッチングを間接通電で行う場合の電気化学反応を模式的に示す電解エッチング槽の側面図(a) および断面図(b) である。
【図4】電解エッチングを間接通電で行う場合の電気化学反応を模式的に示す電解エッチング槽の側面図である。
【図5】直接通電式電解エッチング法における鋼帯−陰極間の主要電気化学反応を模式的に示す電解エッチング槽の側面図である。
【図6】メッキセルを電解エッチングに適用した場合の直接通電式電解エッチング装置を示す側面図である。
【図7】短絡電流の発生状況を示す直接通電式電解エッチング装置の側面図である。
【図8】アークスポット疵発生の機構を示すフローチャートである。
【図9】本発明に係わる直接通電式電解エッチング装置の側面図(a) およびC部部分拡大図(b) である。
【図10】金属ストリップのパスを示す側面図である。
【図11】金属ストリップのパスを示す側面図(a) 、(b) である。
【図12】直接通電式電解エッチング法における鋼帯−陰極間の主要電気化学反応を模式的に示す電解エッチング槽の側面図である。
【符号の説明】
1 金属ストリップ
1a 鋼帯
2 エッチングレジスト印刷面
3、21 陰極
4 コンダクタロール(陽極)
5 整流電源
6 電解液
7 電解エッチング槽(電解エッチングセル)
8 バックアップロール
9 浸漬用ロール(シンクロール)
10 メインロール(巻き付けロール)
11 シールロール
11a 前段シールロール
11b 後段シールロール
12 給液ヘッダ
13 排液ヘッダ
20 陽極
30 デフレクタロール
AS 短絡電流
d エッチングレジスト印刷面と陰極間の距離
fe 電流の通電経路
fS 金属ストリップの通板方向
fS1 鋼帯の通板方向
θ1 バックアップロール入側巻き掛け角度
θ2 バックアップロール出側巻き掛け角度
Claims (5)
- 片面に電気絶縁性インクによりエッチングレジストが印刷された金属ストリップの電解エッチング装置であって、電解エッチング槽(7) と、陽極であるコンダクタロール(4) と、当該コンダクタロール(4) と金属ストリップを介在して相接するように配設されたバックアップロール(8) と、電解エッチング槽(7) の電解液に浸漬された陰極(3) と、金属ストリップを電解液に浸漬するための浸漬用ロール(9) とを有し、金属ストリップのエッチングレジスト印刷面が下向きに通板され、当該金属ストリップのエッチングレジスト印刷面側と相対向して陰極(3) が上向きに、かつ当該エッチングレジスト印刷面と陰極間の距離dが5〜40mmとなるように配設され、コンダクタロール(4) が金属ストリップのエッチングレジスト非印刷面に、バックアップロール(8) が金属ストリップの印刷面にそれぞれ当接されるように配設されたことを特徴とする直接通電式電解エッチング装置。
- コンダクタロール(4) が電解エッチング槽(7) の電解液中に浸漬されない構成とした請求項1記載の直接通電式電解エッチング装置。
- 金属ストリップをバックアップロール(8) に巻き掛けし、コンダクタロール(4) および/またはバックアップロール(8) を金属ストリップに対して押圧する構成とした請求項1〜2いずれかに記載の直接通電式電解エッチング装置。
- 前記金属ストリップが鉄または鉄合金の帯状体であり、前記陰極(3) の材質として、鉄または鉄合金を用いる請求項1〜3いずれかに記載の直接通電式電解エッチング装置。
- 前記金属ストリップが鉄または鉄合金の帯状体であり、前記陰極(3) の材質として、ステンレス鋼を用いる請求項1〜3いずれかに記載の直接通電式電解エッチング装置。
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