JP3844164B2 - 板ガラスの製造方法および製造装置 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、フロート法による板ガラスの製造方法および装置に関する。
【0002】
従来、フロート法によるガラス板の製造は、一般に次のように行われている。溶融金属(例えば錫)の満たされた浴槽内に、溶融ガラスを連続的に流し入れる。溶融ガラスは、高温域と称される領域で進行方向に沿って流れながら一定の幅になるまで次第に幅を広げられ、または狭められ、この領域に続く成形域において所望の厚さ、幅に調整されて進行し、帯状のガラスリボンとされる。
高温域において、溶融ガラス流の幅の広がりは通常リストリクタータイルと呼ばれる制御部材により制御されており、高温域における溶融ガラス流が安定に進行し、成形域に円滑に導かれるようになっている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、リストリクタータイルと接触している溶融ガラスのエッジ部では、相対速度が0となるため、溶融ガラスのエッジ部での流量が流れの中央部に比べて少なくなる。また、それにより溶融ガラスのリストリクタータイルと接触するエッジ部では、その中央部に比べ顕熱が少なくなるため温度が低下し、エッジ部の粘度が中央部よりも高くなりやすく、これも流量がガラス流の中央で多く端部で少なくなる原因となる。その結果、幅方向の板厚偏差を均一にするためには、その後の成形過程で矯正せざるをえないという欠点がある。また、これはエッジ近傍での失透の原因ともなり、ひいては歩留まりの低下をもたらす。また、溶融ガラスがリストリクタータイルと接触しているために、接触状態の不安定や溶融ガラスがリストリクタータイルから離れる際の不安定により、溶融ガラス流の幅方向の揺動が生じやすいという欠点もある。
そこで、本発明の課題は、上記の欠点を解決し、リストリクタータイルを設置しなくとも、高温域において溶融ガラス流を所望するように制御された状態で次第に幅を調整しながら進行させることができるガラス板の製造方法および製造装置を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、鋭意検討した結果、下記の製造方法により上記課題を解決できることを見出した。
本発明は、溶融金属を収容する浴槽内に溶融ガラスを流し入れ、溶融金属浴上の高温域において一定の幅となるようにして、続く成形域において溶融ガラス流を目標厚さのリボン状に導く工程を有する板ガラスの製造方法において、
前記高温域における溶融ガラス流のエッジ近傍における溶融金属レベルが該ガラス流の中央部における溶融金属レベルより低くなるように、該エッジ近傍において溶融金属の流れを下方向に制御して、前記溶融ガラス流が幅方向に狭まろうとする力を補償することにより、該エッジを所定の位置に保持し、前記成形域において、トップロールにより、リボン状溶融ガラス流のエッジを所定の位置に保持することを特徴とする板ガラスの製造方法を提供するものである。
また、本発明は、上記の方法を実施するための製造装置として、浴槽に満たされた溶融金属浴面上に溶融ガラスを流し入れて、溶融ガラス流を目標厚さのリボン状に導くフロート法による板ガラス製造装置において、
流し入れられた溶融ガラス流が一定の幅になるようにする高温域において、該溶融ガラス流の所望エッジに沿って、溶融金属を下方向に吸引する吸引手段が設けられ、続く成形域において、溶融ガラス流のエッジを所定の位置に保持するためのトップロールが設けられていることを特徴とする製造装置を提供するものである。
【0005】
【発明の実施の形態】
本発明の特徴は、前記のとおり、前記高温域の溶融ガラス流のエッジ近傍の溶融金属レベルを中央のものと異ならせる、具体的に中央におけるレベルよりも低くすることにより、溶融ガラス流が内向きに狭まろうとする力を補償して、溶融ガラス流のエッジを所定位置に保持することである。
図1はフロート法による板ガラス製造装置の水平断面図であり、高温域における溶融ガラス流の両エッジが本発明の方法により所定位置に保持されている例を示す。以下、この例に即して、高温域X(ソーダライムガラスでは、通常、1100〜930℃である)において溶融ガラス流が幅方向に狭まろうとしている場合を説明する。
【0006】
溶融ガラス流が幅方向に縮まろうとしている場合
図2は、図1におけるA−A’断面図、即ち、溶融金属浴槽1に満たされた溶融金属浴2上を流れる溶融ガラス流3の幅方向の部分断面図である。図2において、溶融金属浴2内にその浴面4に対してほぼ垂直な方向であって浴槽の底に向かう溶融金属の流れ5aを生じさせると、溶融ガラス流のエッジ部3aの下面に負圧が生じる。この負圧により、エッジ部3aの溶融金属浴面レベル4が、中央部の浴面レべル4bに比べてやや低くなり、くぼみを形成する。低くなったところには溶融ガラスが流入するので、エッジ部3aの厚さが中央部3bより厚くなる。この厚み偏差が引力(矢印7)となって、表面張力に基づいて、溶融ガラス流が幅方向に縮まろうとする力(矢印6)を補償する。その結果、溶融ガラス流のエッジはこの位置に保持される。
このようにして、溶融ガラス流のエッジ近傍における溶融金属浴面レベルを中央部におけるそれよりも低くする制御は、例えば平衡厚さより薄いガラスを製造する場合や溶融ガラス引き出し量が多い場合で、溶融ガラス流の幅方向の引力が優勢であるときに必要になる。
【0007】
前記溶融金属の流れ5aは、例えばエッジ部3a直下から鉛直方向に下に延びる樋(導管)を設け、適当な駆動手段で溶融金属を下方向に流して形成する。流路を通る溶融金属の流れの方向および流量を調整することにより、エッジ近傍における浴面レベルの高低とその程度を制御することができ、ひいては溶融ガラス流が幅方向に狭まろうとする力6を補償する大きさの引力7を生み出させることができる。
【0008】
より具体的には、前記流路は、例えば図2に示されるような樋10により形成される。樋の材質としては、溶融金属との反応性の低いもの、または反応性のないものであればよく、例えばアルミナ、シリマナイト、粘度質などの煉瓦ならびにカーボンが挙げられる。駆動手段として後述のリニアモータを用いて樋10に磁界を作用させる場合には、樋の材質は非磁性体であることを要するので、カーボンまたは煉瓦が好適である。
【0009】
樋10の中を流れる溶融金属の方向および流量を調整する駆動手段には、例えば電動ポンプおよびリニアモータが挙げられ、これらの中では溶融金属を非接触で直接駆動でき、かつ、流量制御が容易である点でリニアモータが好ましい。ここで、リニアモータは、櫛歯状の一次鉄心にコイルを形成し、このコイルに三相交流電圧を印加し、コイルを順次磁化することにより、一定の方向に移動する磁界を発生するものであり、例えばリニアインダクションモータおよび電磁ポンプとして実用化されている。例えば、リニアモータを用いて50Hz、7.5 mTの交流磁界を樋に作用させると、溶融金属のレベル差を約4mm設けることができる。本発明において、溶融金属のレべル差は、通常、1〜10mmの範囲でよく、錫などの溶融金属の駆動に要するエネルギーを節約する点で、好ましくは1〜8mmである。
【0010】
本発明では、さらに溶融ガラス流のエッジ部3a近傍に静磁界を印加することが好ましい。エッジ保持部近傍の溶融金属の流れをなるべく止めることにより、溶融金属浴面の形状を安定させ、より安定なエッジ保持が可能となる。この磁界の大きさは、通常、0〜150 mTでよく、好ましくは50 mT以上である。
【0011】
本発明の製造方法を実施するに当たっては、さらに高温域に後続する成形域(図1においてYの領域:ソーダライムガラスの場合、900〜800℃)においても、帯状ガラス流のエッジ近傍における溶融金属レベルを該ガラス流の中央部における溶融金属レベルと上述した方法により異ならせて、即ち低めて、帯状の溶融ガラス流が幅方向に狭まろうとする力を補償することにより、該エッジを所定の位置に保持することができる。
この実施態様によれば、成形域で従来必要とされたトップロールを使用せずに、帯状ガラスのエッジを所定位置に保持することができ、所望の厚さ、板幅の板ガラスを得ることができる。
【0012】
【実施例】
以下に、本発明のガラス板の製造方法を具体的に説明する。
〔実施例1〕
実施例1を、図1〜図2に示した板ガラス製造装置を使用して、板ガラスの製造を行った。さらに詳しく説明すると、樋10の材質は、カーボンである。樋10の開口11は、溶融ガラス流のエッジ部3aのほぼ直下に、溶融ガラスを槽内に流入していないときの浴面レベルから10mmの位置にある。一般に3〜25mm、特に5〜25mmの位置が好ましい。また、樋10の開口の幅は25mmである。一般に3〜50mm、特に10〜50mmの範囲が好ましい。樋10の鉛直部10aは下方に延び、浴槽の底で溶融ガラス流の進行方向に垂直に浴槽縁部側に屈曲し水平部10bが伸びて開口しており、開口部は溶融金属の流出入が円滑に行われる位置で、かつ、溶融ガラス流のエッジ部に沿って配置されている。
樋10の浴槽底面の下には、樋10の水平部10b内にある溶融金属に対して駆動力が作用するような位置にリニアモータ12が配置される。リニアモータ12により、樋10内部の溶融金属がエッジ部直下から浴槽縁部に向かって流れるように、溶融金属を付勢することができる。
【0013】
平衡厚さより薄いガラス板の製造の場合には、鉛直部の開口11から溶融金属が吸い込まれるような溶融金属の流れ5aを生じさせる。エッジ部3aの溶融金属浴面レベル4aが中央部の浴面レべル4bに比べてやや低くなり、エッジ部3aの板厚が中央部より厚くなる。この厚み偏差が溶融ガラス流の幅方向に引力を生じさせ、溶融ガラス流のエッジは保持される。
その後、溶融ガラス流は、安定した状態で成形域に送られ、トップロールで板厚、幅が調整された後、板厚の変化しなくなる温度まで冷却され、下流の徐冷域へ送られる。
【0014】
成形域では、通常のトップロールにより板厚および板幅が調節される。
【0015】
〔実施例2〕
図3は、板ガラス製造装置の水平断面図であり、高温域Xには図1〜2の場合と同様の樋10が溶融ガラス流のエッジ部の直下、溶融金属層中に設けられ、さらに成形域Yの帯状ガラス流エッジ部の直下にも、その近傍の溶融金属の流路となる樋13が設けられている。樋13の構造は、図2に示したものと同様である。樋13と樋10とは独立していてもよく、一体的であってもよい。
【0016】
平衡厚さよりも薄いガラス板を製造する場合、または帯状ガラス引き出し量が多い場合には、樋13の鉛直部開口から溶融金属が吸い込まれ、エッジ部直下の溶融金属レベルを中央部より低くする。そしてそのような制御により、帯状ガラス流が幅方向に狭まろうとする力を補償することで、所望の板厚に成形することができる。
その後、成形された溶融ガラス流は、厚みが変化しなくなる温度まで冷却され、下流の徐冷域へ移行される。
【0017】
【発明の効果】
本発明のガラス板の製造方法および製造装置によれば、高温域の溶融ガラス流が幅方向に狭まろうとする力を補償して、溶融ガラス流エッジを保持しながら、溶融ガラス流を誘導することができるので、従来のリストリクタータイルを設置する必要がなくなる。その結果、リストリクタータイルにより引き起こされる問題、例えばガラスリボンの幅方向の揺動、ガラスリボンの板厚偏差および失透の問題を解消することができる。また、フロートバスのガラス供給口から成形域までの距離を短くすることも可能となる。
さらに、本発明で用いられているエッジ保持方法を成形域にも適用した場合には、トップロールの必要もなくなる。その結果、トップロールに起因する問題、例えばディストーション(微細うねり)、トップロール係合部の不採板および作業性を改善することができる。
これらの効果は、ガラス引き出し量が少ないときに顕著である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の板ガラス製造装置の水平断面図である。
【図2】図1の装置におけるA−A’断面図である。
【図3】実施例2で用いた板ガラス製造装置の水平断面図である。
【符号の説明】
2:溶融金属浴
3:溶融ガラス流
3a:溶融ガラス流のエッジ部
10:樋
X:高温域
Y:成形域
Claims (6)
- 溶融金属を収容する浴槽内に溶融ガラスを流し入れ、溶融金属浴上の高温域において一定の幅となるようにして、続く成形域において溶融ガラス流を目標厚さのリボン状に導く工程を有する板ガラスの製造方法において、前記高温域における溶融ガラス流のエッジ近傍における溶融金属レベルが該ガラス流の中央部における溶融金属レベルより低くなるように、該エッジ近傍において溶融金属の流れを下方向に制御して、前記溶融ガラス流が幅方向に狭まろうとする力を補償することにより、該エッジを所定の位置に保持し、前記成形域において、トップロールにより、リボン状溶融ガラス流のエッジを所定の位置に保持することを特徴とする板ガラスの製造方法。
- 前記溶融ガラス流のエッジ近傍における溶融金属の下方向の流れが、溶融金属浴の浴面に対して垂直な方向であって前記浴槽の底に向う流れである、請求項1 に記載の製造方法。
- 浴槽に満たされた溶融金属浴面上に溶融ガラスを流し入れて、溶融ガラス流を目標厚さのリボン状に導くフロート法による板ガラス製造装置において、
流し入れられた溶融ガラス流が一定の幅となるようにする高温域において、該溶融ガラス流の所望エッジに沿って、溶融金属を下方向に吸引する吸引手段が設けられ、続く成形域において、溶融ガラス流のエッジを所定の位置に保持するためのトップロールが設けられていることを特徴とする製造装置。 - 前記吸引手段が、溶融金属浴面に対して垂直な方向であって前記浴槽の底に向う方向に溶融金属を吸引する、請求項3に記載の製造装置。
- 前記吸引手段が、溶融ガラス流のエッジ近傍を一端として下方に延びる溶融金属の流路となる樋と、該流路を通る溶融金属の流れの方向と流量を調整する駆動手段とを備える、請求項3または4に記載の製造装置。
- 前記駆動手段がリニアモータである、請求項5に記載の製造装置。
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