JP3843826B2 - オイルポンプ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車の自動変速機などに作動油を供給するオイルポンプに関する。
【0002】
【従来の技術】
この種のオイルポンプには、図6および図7に示すように、ドライブギヤ30とこれに噛合する内歯のドリブンギヤ31をポンプボデー1に形成した円形の収容凹部2内に収容してポンプカバー3により液密に覆い、ポンプボデー1およびポンプカバー3の各内面には、互いに噛合する両ギヤ30,31の歯の間の容積が次第に増大する吸入領域と対応する位置に1対の吸入側凹溝4a,4bを開口し、また両ギヤ30,31の歯の間の容積が次第に減少する吐出領域と対応する位置に1対の吐出側凹溝6a,6bを開口したものがある。そして図示の例では、各吸入側凹溝4a,4bは何れも吸入通路5に連通される吸入ポートとし、ポンプボデー1側の吐出側凹溝6aは吐出通路7に連通される吐出ポートとし、ポンプカバー3側の吐出側凹溝6bは、ポンプカバー3内に形成する流体通路を避けるために、吐出通路7に連通されない浅い凹溝としている。またドライブギヤ30は、軸受ブッシュ9を介してポンプボデー1の中心孔に支持された入力軸8の先端に支持し、ドライブギヤ30の内面から突出した1対のキー30aを入力軸8の先端に形成したキー溝8aに係合して回転駆動するようにしている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
このようなオイルポンプは、各ポンプボデー1およびポンプカバー3の内面に形成する各吸入側凹溝4a,4bの開口部の形状および面積を互いに同一とし、また各吐出側凹溝6a,6bの開口部の形状および面積も互いに同一として、各ギヤ30,31の両側に対向して配置される各吸入側凹溝4a,4bおよび各吐出側凹溝6a,6b内の作動油の圧力により各ギヤ30,31に加わる力を釣り合わせて各ギヤ30,31を軸線方向の一方に押すスラスト力が0になるようにしている。しかしながら、各吸入側凹溝4a,4bおよび各吐出側凹溝6a,6b内の作動油の流れは、作動油を導入する各吸入通路5の非対称性、吐出通路7の連通の有無などにより両ギヤ30,31の両側において同一とはならず、このため両側の各吸入側凹溝4a,4bおよび各吐出側凹溝6a,6b内の作動油が各ギヤ30,31に及ぼす圧力も異なるので、各ギヤ30,31は片側に寄せられ、また傾斜される。
【0004】
上述した構造の従来技術では、ポンプボデー1側の吐出通路7が連通された吐出側凹溝(吐出ポート)6a内の作動油には大きな流れがあって各ギヤ30,31との相対速度が小さく、一方ポンプカバー3側の吐出通路7が連通されていない吐出側凹溝6b内の作動油はよどんで各ギヤ30,31との相対速度が大きいなどの理由により、各ギヤ30,31は吐出側凹溝6bの付近でポンプカバー3側に引き寄せられて傾斜される。特に吐出側凹溝6bの後部は両ギヤ30,31の歯の間の容積が小さくなり、作動油の逃げ場が少ないためよどみが大きくなるので、各ギヤ30,31は吐出側凹溝6bの後部でポンプカバー3側に強く引き寄せられて傾斜される。このためこの付近では両ギヤ30,31がポンプカバー3の内面に当接され、摩擦抵抗が大きくなってエネルギの損失を生じ、また摩耗を生じるという問題がある。特に軽量化のためにポンプカバー3を軽合金(例えばアルミニウム)のダイカスト製品などとした場合は、吐出側凹溝6bの後部と吸入通路5の間の部分の摩耗が大きくなる。このため吐出側凹溝6b内の作動油がこの摩耗部を通って吸入通路5側に漏れるので、オイルポンプの吐出性能が低下するという問題を生じる。本発明はこのような各問題を解決することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
このために本発明によるオイルポンプは、ポンプボデーとこのポンプボデーに結合固定されたポンプカバーよりなり、吸入通路、ギヤ室および吐出通路が形成されたハウジングと、このハウジングのギヤ室にそれぞれ回転可能にかつ互いに噛合して配設された1対のギヤからなるポンプギヤを有し、1対のギヤのそれぞれの両側面がハウジングのギヤ室の両内側面に摺動するようにして回転することで吸入通路から作動油を吸入し、この作動油を吐出通路から吐出するオイルポンプにおいて、ポンプボデーおよびポンプカバーのそれぞれに設けられて少なくとも何れか一方が吐出通路に連通する吐出側凹溝と、ポンプボデーおよびポンプカバーのそれぞれに設けられて少なくとも何れか一方が吸入通路に連通する吸入側凹溝とを有し、吐出通路または吸入通路に連通されていない吐出側凹溝または吸入側凹溝には、各ギヤの回転方向に対して後部にスロープ面を設けたことを特徴とするものである。
【0006】
前項の発明のスロープ面は後端部に向かって深さが減少する形状とすることが好ましい。
【0009】
また前2項の発明によるオイルポンプは、ポンプボデーには吐出通路に連通する第1の吐出側凹溝を設け、ポンプカバーには第1の吐出側凹溝と対向する位置に吐出通路に連通されない第2の吐出側凹溝を設け、第2の吐出側凹溝にはその底面に連なる後端部にスロープ面を設けることが好ましい。
【0010】
本発明によるオイルポンプは、ハウジングの少なくとも一部を鋳鉄よりも軟質の材料により形成し、スロープ面は軟質の材料により形成された部分に設けることが好ましい。
【0011】
前項の発明における軟質の材料はアルミニウムとすることが好ましい。
【0012】
また本発明によるオイルポンプは、ポンプボデーとポンプカバーは材質が互いに異なるものとし、スロープ面はポンプボデーとポンプカバーのうち材質が軟質である方の部材に設けることが好ましい。
【0013】
前項の発明によるオイルポンプは、ポンプボデーの材質は鋳鉄とし、ポンプカバーの材質はアルミニウムとし、スロープ面はポンプカバーに設けることが好ましい。
【0014】
本発明によるオイルポンプのスロープ面は、予め形成された吐出側凹溝または吸入側凹溝の後部を充填材料により充填することにより形成してもよい。あるいは予め形成された吐出側凹溝または吸入側凹溝の後部を切削することにより形成してもよい。
【0015】
【発明の実施の形態】
先ず図1〜図3に示す第1の実施の形態の説明をする。この第1の実施の形態によるオイルポンプは自動車の自動変速機に作動油を供給するもので、主としてドライブギヤ30と、これと噛合する内歯のドリブンギヤ31と、この両ギヤ30,31を回転自在に収容するハウジングHよりなるもので、ハウジングHは互いに接合されたポンプボデー10とポンプカバー15により形成されている。
【0016】
主として図1に示すように、鋳鉄よりなるポンプボデー10の平坦な一側面には、両ギヤ30,31を回転自在に収納する円形で浅い一定の深さの収容凹部11が形成され、収容凹部11の内底面には収容凹部11の中心に対し、両ギヤ30,31の間の偏心量と同じ量だけ偏心して、ポンプボデー10を貫通する中心孔12が形成されている。アルミニウムよりなるポンプカバー15は平坦な一側面により収容凹部11を液密に覆うようにポンプボデー10にボルト止めされ、ポンプボデー10の収容凹部11およびこれを覆うポンプカバー15により両ギヤ30,31を収納するギヤ室が形成されている。ポンプボデー10の中心孔12と同軸的にポンプカバー15に形成された中心孔16に圧入固定された管状のステータ軸17は中心孔12との間に隙間をおいてポンプボデー10内を通り抜けており、このステータ軸17と中心孔12の間に差し込まれる管状の入力軸35は、中心孔12の内面に固定した軸受ブッシュ13により回転自在に支持され、入力軸35とポンプボデー10の間はオイルシール36によりシールされている。
【0017】
外歯のドライブギヤ30と、これより歯数が1歯大きい内歯のドリブンギヤ31は同一の厚さで、互いに噛合するトロコイド歯形の歯を有しており、それらの両側面とポンプボデー10およびポンプカバー15により形成されるギヤ室の両内側面は作動油が実質的に洩れない程度の小さい隙間をおいて相対的に摺動回転自在である。ドライブギヤ30はその内周面を入力軸35先端部の外周面に嵌合させることにより支持され、内周面から突出する1対のキー30aが入力軸35の先端に形成したキー溝35aに係合されて回転駆動されるようになっている。ドリブンギヤ31は外周面が収容凹部11の内周面に回転自在に嵌合支持されている。
【0018】
主として図2に示すように、ギヤ室内に配設された両ギヤ30,31の間には、両ギヤ30,31のピッチ線の接触位置から両ギヤ30,31の回転方向で180度にわたり両ギヤ30,31の互いに噛合する歯の間の容積が回転に伴い次第に増大する吸入領域が形成され、またピッチ線の接触位置から回転方向と逆向きに180度にわたり互いに噛合する歯の間の容積が回転に伴い次第に減少する吐出領域が形成されている。ポンプボデー10の収容凹部11とこれを覆うポンプカバー15により形成されるギヤ室の両内側面には、図1および図2に示すように、吸入領域と対応する相当な部分に沿って開口部の形状および面積が同一の1対の吸入ポート(吸入側凹溝)20a,20bが互いに対向して形成されており、各吸入ポート20a,20bの内側縁と外側縁はそれぞれ各ギヤ30,31の歯底円と一致している。また各吸入ポート20a,20bにはポンプボデー10とポンプカバー15内に形成されてリザーバ(図示省略)からの作動油を導入する吸入通路21が連通されている。
【0019】
またギヤ室の両内側面には、図2および図3に示すように、吐出領域と対応する相当な部分に沿って開口部の形状および面積がほゞ同一の吐出ポート(第1の吐出側凹溝)25aおよび吐出側凹溝(第2の吐出側凹溝)25bが互いに対向して形成されている。吐出ポート25aと吐出側凹溝25bの内側縁と外側縁はそれぞれ各ギヤ30,31の歯底円と一致している。吐出ポート25aにはポンプボデー10とポンプカバー15内に形成されて作動油を供給先に供給する吐出通路26が連通されている。しかし第2の吐出側凹溝25bは、ポンプカバー15内に形成する流体通路(図示省略)を避けるために吐出ポート25aより浅くし、吐出通路26には連通されていない。この第2の吐出側凹溝25bの底面には、図2および図3に示すように、両ギヤ30,31の回転方向の端部となる後部に、後端に向かって深さが次第に減少するスロープ面28が形成されている。
【0020】
オイルポンプの作動時には、入力軸35の先端に支持されたドライブギヤ30は、図2の二点鎖線矢印に示すように時計回転方向に回転され、ドリブンギヤ31も同方向に回転される。これによりリザーバ内の作動油は吸入通路21を通り両側の吸入ポート20a,20bから両ギヤ30,31の間の吸入領域内に吸入され、吐出領域から吐出ポート25a内に吐出され、吐出通路26を通って供給先に供給される。この際、ポンプボデー10側の吐出通路26が連通された吐出ポート25a内の作動油には大きな流れがあって各ギヤ30,31との相対速度が小さく、一方ポンプカバー15側の吐出通路26が連通されていない第2の吐出側凹溝25b内の作動油はよどみ、特に両ギヤ30,31の回転方向で後端側となる部分は大きくよどんで各ギヤ30,31との相対速度が大きくなるなどの理由により、吐出側凹溝25b内、特にその後部内の作動油の圧力は吐出ポート25a内の作動油の圧力より小さくなる。これにより両ギヤ30,31は、吐出ポート25aの後部付近においてポンプカバー15側に引き寄せられて傾斜され、その側面がポンプカバー15の内面に当接されようとする。
【0021】
しかしこの第2の吐出側凹溝25bの後部の底面には後端に向かって深さが次第に減少するスロープ面28が形成されているので、ポンプボデー10およびポンプカバー15に対し回転する両ギヤ30,31に粘性により付着した吐出側凹溝25b内の作動油はスロープ面28に沿って滑らかに後方に移動され、吐出側凹溝25bの後端からポンプカバー15と両ギヤ30,31の側面の間に引き込まれて油膜を形成する。これにより両ギヤ30,31の側面は、吐出ポート25a内と第2の吐出側凹溝25b内の圧力差による押圧力に抗してポンプカバー15の内面から浮上されて直接当接することはなくなり、ポンプカバー15とギヤ30,31の側面の間は引き込まれた作動油により潤滑されるので、摩擦抵抗が大きくなってエネルギの損失を生じたり、摩耗を生じたりすることはなくなる。なおこの実施の形態のように軽量化のためにアルミニウムのポンプカバー15を使用した場合には、アルミニウムは鋳鉄より軟質であるので鋳鉄に比して摩耗しやすい。しかしこの実施の形態では、上述のように両ギヤ30,31はポンプカバー15の内面から浮上されて直接当接することがないので、吐出側凹溝25bの後端と吸入ポート20bの間となるポンプカバー15の内面が摩耗して吐出側凹溝25b内の作動油が吸入通路21側に洩れるという内部漏れが生じてオイルポンプの吐出性能が低下することもなくなる。なお、スロープ面28の面積および傾斜角度は、吐出側凹溝25bの後部において、各ギヤ30,31がポンプカバー15の内面から充分に浮上してポンプカバー15との間の摩擦抵抗が充分に減少するような値に設定すればよい。
【0022】
次に図4および図5に示す第2の実施の形態の説明をする。この第2の実施の形態も、第1の実施の形態と同様、主としてドライブギヤ30と、これと噛合する内歯のドリブンギヤ31と、この両ギヤ30,31を回転自在に収容するギヤ室を形成するハウジングHよりなり、ハウジングHをポンプボデー10とポンプカバー15により形成したものであるが、ドライブギヤ30,ドリブンギヤ31およびこれに直接関連する部分の構造が第1の実施の形態と異なっている。
【0023】
主として図4に示すように、ポンプボデー10の平坦な一側面に形成した両ギヤ30,31を収納する収容凹部11は第1の実施の形態と同様で、同様に偏心して中心孔12が形成されているが、後述する三日月形の仕切り14が収容凹部11の内底面から突出して形成されている点が異なっている。ポンプボデー10を液密に覆うポンプカバー15は、内面が仕切り14の頂面に当接され、中心孔12と同軸的に中心孔16が形成されている。
【0024】
ドライブギヤ30とドリブンギヤ31は互いに噛合するインボリュート歯形の歯を有しており、ドリブンギヤ31の歯数はドライブギヤ30の歯数より2歯以上大である。ドライブギヤ30は一体的に形成した入力軸35を介してポンプボデー10およびポンプカバー15の各中心孔12,16により回転自在に支持されている。各ギヤ30,31の歯先は、図5に示すように、三日月形の仕切り14の内周面および外周面と僅かな隙間をおいて摺動可能である。
【0025】
図5に示すように、ギヤ室内に配設された両ギヤ30,31の間には、両ギヤ30,31のピッチ線の接触位置から仕切り14の一方の先端の間に両ギヤ30,31の互いに噛合する歯の間の容積が回転に伴い次第に増大する吸入領域が形成され、またピッチ線の接触位置から仕切り14の他方の先端の間には両ギヤ30,31の互いに噛合する歯の間の容積が回転に伴い次第に減少する吐出領域が形成されている。第1の実施の形態と同様、ポンプボデー10の収容凹部11とこれを覆うポンプカバー15により形成されるギヤ室の両内側面には、吸入領域と対応する相当な部分に沿って、開口部の形状および面積が同一の吸入ポート20a,20bが互いに対向して形成され、各吸入ポート20a,20bには吸入通路21が連通されている。
【0026】
またギヤ室の両内側面には、図4および図5に示すように、吐出領域と対応する相当な部分に沿って、開口部の形状および面積がほゞ同一の吐出ポート25a(第1の吐出側凹溝)および第2の吐出側凹溝25bが互いに対向して形成されている。吐出ポート25aにはポンプボデー10とポンプカバー15内に形成されて作動油を供給先に供給する吐出通路26が連通されている。しかし第2の吐出側凹溝25bは、第1の実施の形態と同様、吐出ポート25aより浅くし、吐出通路26には連通されていない。図5に示すようにこの吐出側凹溝25bの後部に形成されたスロープ面28は、第1の実施の形態と同様の後端に向かって深さが次第に減少する形状である。上述した以外の第2の実施の形態の構成は第1の実施の形態と同じである。
【0027】
なおこの第2の実施の形態では、ドライブギヤ30は一体的に設けた入力軸35をポンプボデー10とポンプカバー15の中心孔12,16により支持しているので、ドリブンギヤ31のように傾斜するおそれはなく、また軸線方向の移動も入力軸35により拘束されている。従って軸線方向に移動したり傾斜するおそれがあるのはドリブンギヤ31だけである。
【0028】
入力軸35の先端に支持されたドライブギヤ30が、図5の二点鎖線矢印に示すように時計回転方向に回転されれば、ドリブンギヤ31も同方向に回転され、作動油は吸入通路21を通り両側の吸入ポート20a,20bから両ギヤ30,31の間の吸入領域内に吸入され、吐出領域から吐出ポート25a内に吐出され、吐出通路26を通って供給先に供給される。この際、第1の実施の形態で述べたのと同様な理由により、第2の吐出側凹溝25b内後部の作動油の圧力は吐出ポート25a内の作動油の圧力より小さくなり、ドリブンギヤ31は、吐出ポート25aの後部付近においてポンプカバー15側に引き寄せられて傾斜され、その側面がポンプカバー15の内面に当接されようとする。
【0029】
しかしこの吐出側凹溝25bの後部の底面には後端に向かって深さが次第に減少するスロープ面28が形成されているので、第1の実施の形態の場合と同じ理由により、吐出側凹溝25bの後端からポンプカバー15とドリブンギヤ31の側面の間に作動油が引き込まれて油膜を形成する。これによりドリブンギヤ31の側面はポンプカバー15の内面から浮上されて直接当接することはなくなり、ポンプカバー15とドリブンギヤ31の側面の間は引き込まれた作動油により潤滑されるので、摩擦抵抗が大きくなってエネルギの損失を生じたり、摩耗を生じたりすることはなくなる。軽量化のためにアルミニウムのポンプカバー15とした場合でも、第1の実施の形態の場合と同様、摩耗により吐出側凹溝25b内の作動油が吸入通路21側に洩れるという内部漏れが生じてオイルポンプの吐出性能が低下することもなくなる。
【0030】
上述した2つの実施の形態により説明したように、吐出通路26が連通された吐出ポート25aと吐出通路26が連通されない第2の吐出側凹溝25bの場合には、吐出側凹溝25b内の作動油の圧力が吐出ポート25a内の作動油の圧力より小さくなるので、そのままでは各ギヤ30,31(第2の実施の形態の場合はドリブンギヤ31のみ)は吐出側凹溝25b側に引き寄せられあるいは傾斜され、上述した各実施の形態はそのような場合につき説明した。しかしながら、各吸入ポート20a,20bの開口部の形状を同一としそれぞれに吸入通路21を連通した場合でも、対向する各吸入ポート20a,20b内を通る作動油の流れは、それぞれに作動油を導入する各吸入通路21の非対称性などにより両ギヤ30,31の両側において完全に同一とはならず、また各吸入ポート20a,20bの一方のみに吸入通路21を連通し、他方は吸入通路21を連通しない吐出側凹溝とした場合にも両ギヤ30,31の両側において完全に同一とはならない。
【0031】
このような場合は各吸入ポート20a,20b内の作動油が各ギヤ30,31に及ぼす圧力も異なるので、各ギヤ30,31(第2の実施の形態の場合はドリブンギヤ31のみ)は片側に押し付けられあるいは傾斜され、場合によってはその程度が無視できなくなることがある。本発明はそのような場合にも適用でき、ポンプボデー10の収容凹部11とポンプカバー15の内面に対向して設けた1対の吸入ポート20a,20bのうち内部の圧力が小さい方の後部に上述した各実施の形態と同様のスロープ面(例えば図2の符号22参照)を設け、これによりそのような吸入ポート20aまたは20b内の作動油を各ギヤ30,31(第2の実施の形態の場合はドリブンギヤ31のみ)と押し付けられる方のポンプボデー10の収容凹部11またはポンプカバー15の内面の間に引き込んで、各ギヤ30,31(同前)をそのような内面から浮上させるようにすればよい。前述した各実施の形態において吐出側凹溝25bを吐出通路26が連通される吐出ポートとした場合でも事情は同様である。
【0032】
また上述した各実施の形態では、各スロープ面22,28は、ポンプボデー10またはポンプカバー15の製造の際に、各吸入側凹溝20a,20bまたは吐出側凹溝25a,25bと同時に形成するものとして説明したが、ポンプボデー10またはポンプカバー15の成形の際にはスロープ面のない吸入側凹溝または吐出側凹溝を成形し、その後に吸入側凹溝または吐出側凹溝の後部を熱硬化製樹脂などよるなる充填材料により充填することによりスロープ面22,28を形成するようにしてもよい。あるいは充填材料により充填する代わりに吸入側凹溝または吐出側凹溝の後部を切削加工してスロープ面22,28を形成するようにしてもよい。
【0033】
【発明の効果】
上述のように、本発明によれば、吐出通路または吸入通路に連通されていない吐出側凹溝または吸入側凹溝(吸入通路または吐出通路がギヤ室の各ギヤと摺動する内側面に開口する開口部)には、各ギヤの回転方向に対して後部にスロープ面を設けたので、ハウジングに対し回転する各ギヤに粘性により付着した吸入側または吐出側凹溝内の作動油はスロープに沿って後方に移動され、吸入側または吐出側凹溝の後端からギヤ室の内側面とギヤの側面の間に引き込まれてそれらの間に油膜を形成する。これによりギヤの側面はポンプボデーまたはポンプカバーの内面から浮上されて直接当接することはなくなり、ギヤ室の内側面とギヤの側面の間は引き込まれた作動油により潤滑されるので、摩擦抵抗が大きくなってエネルギの損失を生じたり、摩耗を生じたりすることはなくなる。また軽量化のためにハウジングまたはその少なくとも一部を軽合金化した場合でも、それぞれの内面が摩耗して吐出側凹溝内の作動油が吸入側凹溝内に洩れるという内部漏れによりオイルポンプの吐出性能が低下することもなくなる。また、ポンプボデーとポンプカバーに形成した各吸入側凹溝または各吐出側凹溝内の圧力にアンバランスが生じれば各ギヤは圧力が低い方の凹溝側に引き寄せられ、通常は吸入通路または吐出通路に連通されていない方の凹溝側に引き寄せられる。しかしながら本発明では、吐出通路または吸入通路に連通されていない吐出側凹溝または吸入側凹溝にスロープ面を設けており、ギヤの側面とこれが引き寄せられる方のポンプボデーまたはポンプカバーの内側面との間に作動油が引き込まれて油膜を形成するので、上述したエネルギの損失を生じたり、摩耗を生じたりすることがなくなるという各効果は一層大となる。
【0034】
スロープ面を後端部に向かって深さが減少する形状とすれば、作動油がギヤ室の内側面とギヤの側面の間に引き込まれて油膜を形成する作用は確実に行われる。
【0037】
また吐出側凹溝内の圧力は吸入側凹溝内の圧力に比して高いので、ポンプボデーには吐出通路に連通する第1の吐出側凹溝を設け、ポンプカバーには第1の吐出側凹溝と対向する位置に吐出通路に連通されない第2の吐出側凹溝を設け、第2の吐出側凹溝にはその底面に連なる後端部にスロープ面を設けたものによれば、前述した各効果は特に顕著となる。
【0038】
ハウジングの少なくとも一部を鋳鉄よりも軟質の材料により形成し、スロープ面はこの軟質の材料により形成された部分に設けたものによれば、作動油はスロープ面によりそのような軟質の材料により形成されたギヤ室の内側面とギヤの側面の間に引き込まれて油膜を形成するので、ギヤ室の内側面に摩耗を生じてオイルポンプの吐出性能が低下することはない。この軟質の材料をアルミニウムとしたものによれば、摩耗によるオイルポンプの吐出性能の低下をまねくことなくオイルポンプの重量を減少させることができる。
【0039】
またポンプボデーとポンプカバーは材質が互いに異なるものとし、スロープ面はポンプボデーとポンプカバーのうち材質が軟質である方の部材に設けたものによれば、作動油はスロープ面により材質が軟質である方の部材の内面とギヤの側面の間に引き込まれて油膜を形成するので、その部材の内面に摩耗を生じてオイルポンプの吐出性能が低下することはない。
【0040】
ポンプボデーの材質は鋳鉄とし、ポンプカバーの材質はアルミニウムとし、スロープ面はポンプカバーに設けたものによれば、作動油はスロープ面により材質がアルミニウムである方の部材の内面とギヤの側面の間に引き込まれて油膜を形成するので、その部材の内面に摩耗を生じてオイルポンプの吐出性能が低下することはない。
【0041】
予め形成された吐出側凹溝または吸入側凹溝の後部を充填材料により充填することにより、あるいは切削することによりスロープ面を形成したものによれば、スロープ面が設けられていない吐出側凹溝または吸入側凹溝がすでに形成されたハウジングに対し、後加工により本発明を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明によるオイルポンプの第1の実施形態の中央部の断面図である。
【図2】 図1の2−2線に沿ったポンプカバーの正面図である。
【図3】 図2の3−3断面図である。
【図4】 本発明によるオイルポンプの第2の実施形態の中央部の断面図である。
【図5】 図4の5−5線に沿ったポンプカバーの中央部の正面図である。
【図6】 従来技術によるオイルポンプの一例の中央部の断面図である。
【図7】 図6の7−7線に沿ったポンプカバーの中央部の正面図である。
【符号の説明】
10…ポンプボデー、15…ポンプカバー、20a,20b…吸入側凹溝(吸入ポート)、21…吸入通路、22…スロープ面、25a…吐出側凹溝(吐出ポート)、25b…吐出側凹溝、26…吐出通路、28…スロープ面、30,31…ギヤ、H…ハウジング。
Claims (9)
- ポンプボデーとこのポンプボデーに結合固定されたポンプカバーよりなり、吸入通路、ギヤ室および吐出通路が形成されたハウジングと、
このハウジングのギヤ室にそれぞれ回転可能にかつ互いに噛合して配設された1対のギヤからなるポンプギヤを有し、
前記1対のギヤのそれぞれの両側面が前記ハウジングのギヤ室の両内側面に摺動するようにして回転することで前記吸入通路から作動油を吸入し、この作動油を前記吐出通路から吐出するオイルポンプにおいて、
前記ポンプボデーおよびポンプカバーのそれぞれに設けられて少なくとも何れか一方が前記吐出通路に連通する吐出側凹溝と、
前記ポンプボデーおよびポンプカバーのそれぞれに設けられて少なくとも何れか一方が前記吸入通路に連通する吸入側凹溝とを有し、
前記吐出通路または吸入通路に連通されていない前記吐出側凹溝または吸入側凹溝には、前記各ギヤの回転方向に対して後部にスロープ面を設けたことを特徴とするオイルポンプ。 - 請求項1に記載のオイルポンプにおいて、前記スロープ面は後端部に向かって深さが減少する形状であることを特徴とするオイルポンプ。
- 請求項1または請求項2に記載のオイルポンプにおいて、
前記ポンプボデーには前記吐出通路に連通する第1の前記吐出側凹溝を設け、
前記ポンプカバーには前記第1の吐出側凹溝と対向する位置に前記吐出通路に連通されない第2の前記吐出側凹溝を設け、
前記第2の吐出側凹溝にはその底面に連なる後端部に前記スロープ面を設けたことを特徴とするオイルポンプ。 - 請求項1〜請求項3の何れか1項に記載のオイルポンプにおいて、前記ハウジングの少なくとも一部を鋳鉄よりも軟質の材料により形成し、前記スロープ面は前記軟質の材料により形成された部分に設けたことを特徴とするオイルポンプ。
- 請求項4に記載のオイルポンプにおいて、前記軟質の材料はアルミニウムであることを特徴とするオイルポンプ。
- 請求項1または請求項2に記載のオイルポンプにおいて、
前記ポンプボデーとポンプカバーは材質が互いに異なるものとし、
前記スロープ面は、前記ポンプボデーとポンプカバーのうち材質が軟質である方の部材に設けたことを特徴とするオイルポンプ。 - 請求項6に記載のオイルポンプにおいて、
前記ポンプボデーの材質は鋳鉄とし、
前記ポンプカバーの材質はアルミニウムとし、
前記スロープ面は前記ポンプカバーに設けたことを特徴とするオイルポンプ。 - 請求項1〜請求項7の何れか1項に記載のオイルポンプにおいて、前記スロープ面は予め形成された前記吐出側凹溝または吸入側凹溝の後部を充填材料により充填することにより形成したことを特徴とするオイルポンプ。
- 請求項1〜請求項7の何れか1項に記載のオイルポンプにおいて、前記スロープ面は予め形成された前記吐出側凹溝または吸入側凹溝の後部を切削することにより形成したことを特徴とするオイルポンプ。
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