JP3841415B2 - エンクローズ溶接用冶具 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、異形鉄筋等の棒状被溶接材をエンクローズ溶接する際に使用するのに好適なエンクローズ溶接用冶具に関する。
【0002】
【従来の技術】
異形鉄筋等の棒状被溶接材をエンクローズ溶接する際には、冶具が使用されるのが一般的である。エンクローズ溶接用冶具の一従来例を図10に示す。
【0003】
かかるエンクローズ溶接用冶具90は、対向配置された一対の棒状被溶接材(A,B)の突合せ端部(A1,B1)を所定部分で囲む裏当て金91と、当該裏当て金91と協働して両棒状被溶接材(A,B)の突合せ端部(A1,B1)を囲繞しかつ溶接ワイヤ98を挿入するための開口部93aが形成されたシールドカバー93と、このシールドカバー93内に不活性ガスを供給する不活性ガス供給手段94とを備えている(特許文献1参照)。
【0004】
なお、図10において、96は溶接トーチ,97はコンタクトチップである。裏当て金91の両端部には、クランパ(95A,95B)が設けられている。このクランパ(95A,95B)によって、両棒状被溶接材(A,B)はそれぞれの突合せ端部(A1,B1)が所定の開先間隙Gを保って対向するように位置決め保持される。
【0005】
ここで、裏当て金91は、溶融金属が溶接部から流れ出ないように溶融池を囲うための部材であり、比較的安価で加工しやすくしかも溶融金属が付着しないところから銅製とされている。この裏当て金91は、一体物とされており、両棒状被溶接材(A,B)の突合せ端部(A1,B1)を上記所定位置に位置ずれなく確実に保持できるように、図10中左右方向に相当程度長く形成されている。また、裏当て金91の上記開先間隙Gに臨む部分は、アーク等によって損傷を受けるので、当該部分に溝を形成し、当該溝に裏当て材92が装着されている。裏当て材92としては、紙又は布を主体とした帯状のもの、セラミック製のもの、鉄製のものなどがある。
【0006】
両棒状被溶接材(A,B)を突き合わせ溶接するには、シールドカバー93内への不活性ガス(炭酸ガス等)の供給を開始した後、上記シールドカバー93の開口部93aを介して上記開先間隙Gに挿入した溶接ワイヤ98の先端と棒状被溶接材(A又はB)の端面角部との間にアークを発生させ、アークにより形成した溶接金属を開先間隙G内に盛り付ける。溶接作業中、溶接部(溶接金属,熱影響部)は不活性ガスによってシールされるので、酸化等が阻止されるといわれている。
【0007】
【特許文献1】
実開昭63−170095号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記エンクローズ溶接用冶具90は、次のような問題点を有している。
【0009】
(1)裏当て材92の交換および後片付けが面倒である。また、交換回数が多いため、交換コストが嵩む。
【0010】
紙製又は布製の裏当て材は、溶接するごとに燃えて灰となってしまうため、灰を除去してから新しいものに交換する必要があり、作業能率が低下する原因となる。また、セラミック製の裏当て材は、脆いため1,2回の溶接で周囲が欠けたりクラックが発生しやすい。そのため、頻繁に砕片の片付けや交換をする必要があり、これまた作業能率が低下する原因となる。また、セラミックには吸湿性があるため、溶接時に水蒸気を発生させ溶接部の欠陥を招きやすい。また、鉄製の裏当て材は、両棒状被溶接材(A,B)の溶接部にくっついてしまうため、溶接部の外観検査を行いにくくなる。
【0011】
ここで、上記不都合を解消するために、裏当て材を不使用とすることが考えられる。しかし、裏当て材を使用しない場合には、上記開先間隙Gに臨む裏当て金91の部分がアーク等によって損傷を受けることになる。裏当て金91の上記部分が過度に損傷した後も使い続けると、溶接ビードが良好に形成されなくなるので、新しい裏当て金と交換することになるが、裏当て金は銅製で長大な一体物とされているので、交換コストが嵩張ることになる。
【0012】
(2)不活性ガスによるシールが不十分で溶接品質が低下することがある。
【0013】
単に不活性ガスをシールドカバー内に供給するのでは、不活性ガスが行き渡らない部分が生じてしまい、外気の侵入を許すことになる。ここで、外気を侵入させにくくする一方策として、シールドカバーの開口部を小さくすることが考えられる。しかし、これでは、溶接箇所が視認しにくくなるとともに、溶接ワイヤの操作もしずらくなってしまうことになる。また、棒状被溶接材が異形鉄筋のように横断面形状が円形でない場合には、当該被溶接材と裏当て金91やシールドカバー93との間に大きな隙間が生じやすく、外気の侵入を阻止しにくい。また、単にシールドカバー93内への不活性ガス供給量を増やすのでは、当該ガスがシールドカバ93ーの一つの開口部分(例えば、シールドカバー93の開口部93a)から外部へ流出する量も大きくなり当該カバー93の他の開口部分(例えば、棒状被溶接材と裏当て金91との間の隙間)から外気をカバー93内へ呼び込みやすい。
【0014】
本発明の目的は、上記事情に鑑み、溶接作業能率の向上および消耗品コストの低減を図り、両棒状被溶接材の突合せ溶接部を確実にガスシールすることができるエンクローズ溶接用冶具を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、対向配置された一対の棒状被溶接材の突合せ端部を所定部分で囲む裏当て金と、当該裏当て金と協働して両棒状被溶接材の突合せ端部を囲繞しかつ溶接ワイヤ挿入用の開口部が形成されたシールドカバーと、このシールドカバー内に不活性ガスを供給する不活性ガス供給手段と、を備えたエンクローズ溶接用冶具において、前記裏当て金が、それぞれ独立して着脱可能とされかつ取付位置を相互に交換可能な複数の裏当て金構成要素から構成され、前記不活性ガス供給手段が、前記シールドカバーの開口部近傍に第1のガスカーテンを形成するための不活性ガス流を生成する第1の不活性ガス供給部と、前記両棒状被溶接材の突合せ端部から当該被溶接材の軸線に沿って所定距離離れた位置で前記シールドカバーと前記裏当て金との間に当該被溶接材軸線と直交する方向に第2のガスカーテンを形成するための不活性ガス流を生成する第2の不活性ガス供給部とから構成された、ことを特徴とするものである。
【0016】
上記請求項1の発明では、上記開先間隙に臨む裏当て金構成要素がアーク等によって過度に損傷を受けた場合には、当該裏当て金構成要素と隣の損傷を受けていない裏当て金構成要素とを取外して入れ替える。これにより、また溶接ビードを良好に形成できるようになる。なお、位置交換された損傷裏当て金構成要素は、損傷しているものの、棒状被溶接材を支障なく支持できるので、使用するのに問題はない。
【0017】
ここで、裏当て金構成要素は、従来の一体物の裏当て金に比べて材料費が掛からず製造費も安くできる。また、裏当て金を例えば3つの裏当て金構成要素で形成すれば、2回の位置交換で総べてを有効利用できる。また、裏当て材を使用しないので、溶接作業能率の向上を図ることができる。また、裏当て金構成要素の交換は、上記したように隣同士を取り外して入れ替えるだけであるので、迅速に行えるとともに、替え用の裏当て金構成要素を別に用意しなくて済み便利である。したがって、裏当て材を使用しかつ裏当て金が一体物であった従来例に比べて、溶接作業能率の向上および消耗品コストの低減を図ることができる。
【0018】
次に、外気がシールドカバー内に侵入する箇所として、シールドカバーの開口部、棒状被溶接材と裏当て金との間の隙間および棒状被溶接材と裏当て金との間の隙間があるが、当該開口部からの外気侵入は第1の不活性ガス供給部によって形成される第1のガスカーテンによって確実に阻止され、上記各隙間からの外気侵入は第2の不活性ガス供給部によって形成される第2のガスカーテンによって阻止される。なお、上記した各ガスカーテンは局所的に形成されるので、第1および第2の不活性ガス供給部の不活性ガス使用量は少なくて済む。そのため、不活性ガスのシールドカバー外部への流出量は少なく、この点からも外気のシールドカバー内への侵入は効果的に阻止される。その結果、両棒状被溶接材の突合せ溶接部を確実にガスシールすることができる。
【0019】
請求項2の発明は、前記各裏当て金構成要素が、同一形態とされかつ取り付け方法も同一とされたものである。
【0020】
上記請求項2の発明の場合、請求項1の発明の場合と同様な作用・効果を奏し得る他、すべての裏当て金構成要素が同一形態とされているので、一段と製造しやすくなるとともに、保管管理および作業管理も一段と容易となる。また、取り付け方法も同一であるので、施工現場で一段と迅速に交換作業を行える。
【0021】
請求項3の発明は、前記不活性ガス供給手段が、前記第1の不活性ガス供給部および前記第2の不活性ガス供給部に加えて、前記両棒状被溶接材の突合せ端部間の開先間隙へ向かう不活性ガス流を発生させて当該開先間隙をガスシールする第3の不活性ガス供給部を備えた構成とされたものである。
【0022】
上記請求項3の発明の場合、請求項1又は2の発明の場合と同様な作用・効果を奏し得る他、両棒状被溶接材の突合せ溶接部を一段と確実にガスシールできる。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0024】
本発明に係るエンクローズ溶接用冶具1は、図1〜図5に示すように、ベース板2と、一対の棒状被溶接材(A,B)をそれぞれの突合せ端部(A1,B1)が所定の開先間隙Gを保持して対向するように位置決め保持するクランパ(3A,3B)と、当該両棒状被溶接材(A,B)の突合せ端部(A1,B1)を所定部分で囲む裏当て金10と、当該裏当て金10と協働して両棒状被溶接材(A,B)の突合せ端部(A1,B1)を囲繞しかつ溶接ワイヤを挿入するための開口部23が形成されたシールドカバー20と、不活性ガス供給手段40と、を備えており、上記不活性ガス供給手段40が、シールドカバー20の開口部23近傍に第1のガスカーテンC1を形成するための不活性ガス流を生成する第1の不活性ガス供給部41と、両棒状被溶接材(A,B)の突合せ端部(A1,B1)から所定距離離れた部位で第2のガスカーテンC2を形成するための不活性ガス流を生成する第2の不活性ガス供給部51とから構成されている。なお、本エンクローズ溶接用冶具1は、水平筋・鉛直筋のいずれにも適用可能であるが、この実施形態では、水平筋に適用される。また、図1および図2は、シールドカバー20を取り外した状態を示す図である。
【0025】
以下、本エンクローズ溶接用冶具1を詳細に説明する。
【0026】
まず、ベース板2は、図1および図4に示すように、鋼鉄製で短冊板状に形成されている。このベース板2の長手方向両端部には、それぞれクランパ(3A,3B)が設けられている。各クランパ(3A,3B)は、棒状被溶接材〔この実施形態では、異形鉄筋(A,B)〕をクランプするもので、鉄筋受け部4と、ナット部材5に螺合したボルト部材6とから形成されている。
【0027】
鉄筋受け部4は、ボルト部材6と協働して異形鉄筋(A,B)を所定の溶接位置に位置決め保持するための部材で、図4に示すように、その一端部は異形鉄筋(A,B)を確実に保持できるように直角に折り曲げられている。ナット部材5は、鉄筋受け部4の他端部に設けられており、そのねじ穴5aにはボルト部材6が回転自在に螺合している。ボルト部材6を正方向に回転すれば先端の押圧部7が鉄筋受け部4の一端部へ向けて移動し、逆方向へ回転すれば押圧部7が鉄筋受け部4から離れる方向へ移動するものとされている。
【0028】
したがって、異形鉄筋(A,B)を鉄筋受け部4の一端部内面と当接させ、その状態でボルト部材6を正方向へ回転して、図4および図9に示すように、押圧部7で当該鉄筋(A,B)を鉄筋受け部4へ強く押し付けるようにすれば、当該鉄筋(A,B)を確実に位置決め保持できる。
【0029】
次に、裏当て金10は、分割構造とされており、図1に示すように、ベース板2の中央部に両クランパ(3A,3B)に挟まれるようにして設けられている。詳しくは、裏当て金10は、3つの裏当て金構成要素(11A,11B,11C)から形成されている。これら裏当て金構成要素(11A,11B,11C)は、同一形態とされかつ取り付け方法も同一とされている。なお、各裏当て金構成要素(11A,11B,11C)は、互いの間に隙間が生じないように密着してベース板2に取り付けられている。
【0030】
各裏当て金構成要素(11A,11B,11C)は、図6(A),(B)に示すように、全体がブロック形状とされており、その上面12の中央部には異形鉄筋(A,B)の半径よりも若干大きい半径を有する半円形状の凹み部13が形成されている。また、各裏当て金構成要素(11A,11B,11C)の底面には、2つのねじ穴14が形成されている。各裏当て金構成要素(11A,11B,11C)のねじ穴14に対応して、ベース板2の中央部には、合計6個の通し穴2aが開けられている。
【0031】
したがって、各裏当て金構成要素(11A,11B,11C)を各ねじ穴14が上記通し穴2aと整合するようにベース板2上に載置し、その状態でボルト(図示省略)を通し穴2aを介して上記ねじ穴14と螺合させて締め付ければ、当該各裏当て金構成要素(11A,11B,11C)はベース板2に装着される。
【0032】
次に、シールドカバー20は、図7(A),(B)に示すように、縦断面コの字形状のフード部21と、一対の横ブロック部31とを含み、裏当て金10と協働して両異形鉄筋(A,B)の突合せ端部(A1,B1)を覆うように形成されている。フード部21の上面部22には、溶接ワイヤ通し用の長方形状の開口部23が形成されている。なお、シールドカバー20は、図4中2点鎖線で示すように、必要な場合にはボルト20bによって裏当て金10と係止される。
【0033】
各横ブロック部31は、基端面32がフード部21の上面部22にボルト29を介して固定されている。そして、各横ブロック部31の外側面33は、図8(B)に示すように、平面形状とされている。また、各横ブロック部31の内側面34は、段差を有しており、基端面32寄りの部分(同図中、上部分35)が先端面寄りの部分(同図中、下部分36)よりも内側へ張り出している。段差の境界部分は下向きの傾斜面37とされている。また、各横ブロック31の先端面38の中央部分には、同図(A)に示すように、異形鉄筋(A,B)の半径よりも若干大きい半径を有する半円形状の凹み部39が形成されており、当該先端面38の平面部分38aは裏当て金構成要素(図5中、11A,11C)の上面12の平面部分と当接している。
【0034】
次に、不活性ガス供給手段40を構成する第1の不活性ガス供給部41は、図3,図7および図8に示すように、不活性ガスの吹出口である複数個の吹出穴42と、各吹出穴42へ不活性ガスを供給するガス通し経路43と、不活性ガスが圧縮収容されたガスボンベ46とから形成されている。この実施形態では、不活性ガスとして炭酸ガスを使用している。
【0035】
上記各吹出穴42は、図7および図8に示すように、シールドカバー20の各横ブロック部31の内側面上部分35に所定間隔離れて形成されている。ガス通し経路43は、ガスボンベ46内の炭酸ガスを各吹出穴42ヘ供給するための経路で、上記各横ブロック部31に形成されたガス供給穴44と、このガス供給穴44とガスボンベ46とを接続するガスホース45とから形成されている。各吹出穴42はガス供給穴44と連通している。したがって、ガスボンベ46から炭酸ガスがガス通し経路43を介して、対向する両横ブロック31の各吹出穴42へ供給されると、当該各吹出穴42から炭酸ガスが水平方向に吹き出され、図3に示すように、第1のガスカーテンC1が形成される。
【0036】
また、不活性ガス供給手段40を構成する第2の不活性ガス供給部51は、不活性ガスの吹出口である複数個の吹出穴(52a,52b,52a)と、各吹出穴(52a,52b,52a)へ炭酸ガスを供給するガス通し経路43と、ガスボンベ46とから形成されている。
【0037】
上記各吹出穴(52a,52b,52a)は、図7および図8に示すように、シールドカバー20の各横ブロック部31の先端面38部分に形成されている。より詳しくは、吹出穴(52a,52a)は、各横ブロック部31の先端面平面部分38aの斜め面38bに形成されている。また、吹出穴52bは、各横ブロック31の先端面38の凹み部39の中央部分に形成されている。各吹出穴(52a,52b,52a)はガス供給穴44と連通している。したがって、ガスボンベ46から炭酸ガスがガス通し経路43を介して、各吹出穴(52a,52b,52a)へ供給されると、当該各吹出穴(52a,52a)から炭酸ガスが異形鉄筋(A,B)の軸線と直交する方向に吹き出され、第2のガスカーテンC2が形成される。
【0038】
特に、この実施形態では、一段と確実に突合せ溶接部となる開先間隙Gをガスシールするために、不活性ガス供給手段40は、上記した第1および第2の不活性ガス供給部(41,51)に加えて、両異形鉄筋(A,B)の突合せ端部(A1,B1)間の開先間隙Gを直接的にガスシールする第3の不活性ガス供給部61を備えた構成とされている。
【0039】
第3の不活性ガス供給部61は、図7および図8に示すように、不活性ガスの吹出口である複数個の吹出穴62と、各吹出穴62へ不活性ガスを供給するガス通し経路43と、ガスボンベ46とから形成されている。
【0040】
上記各吹出穴62は、シールドカバー20の各横ブロック部31の内側面34の傾斜面37部分に所定間隔離れて形成されている。各吹出穴62はガス供給穴44と連通している。したがって、ガスボンベ46から炭酸ガスがガス通し経路43を介して、各吹出穴62へ供給されると、当該各吹出穴62から炭酸ガスが吹き出され、図3に示すように、異形鉄筋(A,B)の突合せ端部(A1,B1)間の開先間隙Gへ向かう不活性ガス流(S)が発生する。
【0041】
次に、この実施形態の作用について説明する。
【0042】
2つの異形鉄筋(A,B)を突合せ溶接するには、まず本エンクローズ溶接用冶具1のクランパ(3A,3B)を用いて、図9に示すように、当該両鉄筋(A,B)を突き合せ端部(A1,B1)が所定の開先間隙Gを介して対向するように位置決め保持する。
【0043】
両異形鉄筋(A,B)の位置決め保持が完了したところで、第1,第2,第3不活性ガス供給部(41,51,61)を作動させ、シールドカバー20の開口部23を介して上記開先間隙Gに挿入した溶接ワイヤ(図示省略)の先端と異形鉄筋(A又はB)の端面角部との間にアークを発生させ、アークにより形成した溶接金属を開先間隙G内に盛り付ける。
【0044】
上記溶接作業中、シールドカバー20の開口部23からの外気侵入は第1の不活性ガス供給部41によって形成される第1のガスカーテンC1によって確実に阻止される。また、異形鉄筋(A,B)と裏当て金構成要素(図3では11A,11C)および異形鉄筋(A,B)とシールドカバー20の両横ブロック31との間の各隙間からの外気侵入は第2の不活性ガス供給部51によって形成される第2のガスカーテンC2によって阻止される。さらに、第3の不活性ガス供給部61によって、両鉄筋(A,B)の突合せ端部(A1,B1)間の開先間隙Gへ向かう不活性ガス流(S)が発生されて、当該開先間隙Gがガスシールされる。
【0045】
ここで、上記した各ガスカーテン(C1,C2)は局所的に形成されるので、第1および第2の不活性ガス供給部(41,51)の炭酸ガス使用量は少なくて済む。また、第3の不活性ガス供給部61からのガス流(S)は補助的なものであるため、その炭酸ガス使用量は少なくて済む。そのため、不活性ガスのシールドカバー20外部への流出量は少なく、この点からも外気のシールドカバー20内への侵入は効果的に阻止される。その結果、両異形鉄筋(A,B)の突合せ溶接部を確実にガスシールすることができる。
【0046】
上記開先間隙Gに臨む裏当て金構成要素11Bがアーク等によって過度に損傷を受けた場合には、図1および図2に示すように、当該裏当て金構成要素11Bと隣の損傷を受けていない裏当て金構成要素11Aとを取り外して入れ替える。これにより、また溶接ビードを良好に形成できるようになる。なお、位置交換された損傷裏当て金構成要素11Bは、損傷して凹み部13が凸凹になっているものの、異形鉄筋(A,B)を支障なく支持できるので、使用するのに問題はない。
【0047】
ここで、裏当て金構成要素(11A,11B,11C)は、従来の一体物の裏当て金(図10中、91)に比べて材料費が掛からず製造費も安くできる。また、裏当て金を例えば本実施形態のように3つの裏当て金構成要素で形成すれば、2回の位置交換で総べてを有効利用できる。また、裏当て材(図10中、92)を使用しないので、溶接作業能率の向上を図ることができる。また、裏当て金構成要素(11A,11B,11C)の交換は、上記したように隣同士を入れ替えるだけであるので、迅速に行えるとともに、替え用の裏当て金構成要素を別に用意しなくて済み便利である。したがって、裏当て材を使用しかつ裏当て金が一体物であった従来例(図10)に比べて、溶接作業能率の向上および消耗品コストの低減を図ることができる。
【0048】
また、この実施形態では、各裏当て金構成要素(11A,11B,11C)が、同一形態とされかつ取り付け方法も同一とされているので、一段と製造しやすくなるとともに、保管管理および作業管理も一段と容易となる。また、取り付け方法も同一であるので、施工現場で一段と迅速に交換作業を行える。
【0049】
なお、上記実施形態においては、裏当て金10を3つの裏当て金構成要素(11A,11B,11C)から構成したが、個数はこれに限定されるものではなく、2つでも4つ以上でもよい。また、第1,第2,第3の不活性ガス供給部(41,51,61)の吹出口を複数の吹出穴(42,52,62a,62b)から形成したが、これに限定されるものではなく、例えば吹出口をスリットから形成してもよい。
【0050】
また、不活性ガスとして炭酸ガスを使用したが、他の不活性ガス(例えば、アルゴンガス)を使用してもよい。
【0051】
【発明の効果】
請求項1の発明によれば、裏当て金が相互に交換可能な複数の裏当て金構成要素から構成され、不活性ガス供給手段が、第1のガスカーテンを形成する第1の不活性ガス供給部と、第2のガスカーテンを形成する第2の不活性ガス供給部とから構成されているので、裏当て材を使用しかつ裏当て金が一体物であった従来例に比べて、溶接作業能率の向上および消耗品コストの低減を図ることができる。また、両棒状被溶接材の突合せ溶接部を確実にガスシールすることができる。
【0052】
請求項2の発明によれば、各裏当て金構成要素が同一形態とされかつ取り付け方法も同一とされているので、請求項1の発明の場合と同様な効果を奏し得る他、一段と製造しやすくなるとともに、保管管理および作業管理も一段と容易となる。また、施工現場で一段と迅速に交換作業を行える。
【0053】
請求項3の発明によれば、不活性ガス供給手段が、第1および第2の不活性ガス供給部に加えて、両棒状被溶接材の開先間隙へ向かう不活性ガス流を発生させる第3の不活性ガス供給部を備えた構成とされているので、請求項1又は2の発明の場合と同様な効果を奏し得る他、両棒状被溶接材の突合せ溶接部を一段と確実にガスシールできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態を説明するための図である。
【図2】裏当て金構成要素を位置交換した状態を示す図である。
【図3】第1,第2,第3の不活性ガス供給部によって形成されたガスカーテンおよび不活性ガス流を説明するための図である。
【図4】全体構成を説明するための正面図である。
【図5】全体構成を説明するための平面図である。
【図6】裏当て金構成要素を説明するための図である。
【図7】シールドカバーおよび第1,第2,第3の不活性ガス供給部を説明するための図である。
【図8】シールドカバーの横ブロックを説明するための図である。
【図9】異形鉄筋の位置決め保持を説明するための図である。
【図10】従来のエンクローズ溶接用冶具を説明するための図である。
【符号の説明】
1 エンクローズ溶接用冶具
2 ベース板
3A,3B クランパ
4 鉄筋受け部
5 ナット部材
6 ボルト部材
7 押圧部
10 裏当て金
11A,11B,11C 裏当て金構成要素
12 上面
13 凹み部
14 ねじ穴
20 シールドカバー
21 フード部
22 上面部
23 開口部
31 横ブロック部
32 基端面
33 外側面
34 内側面
35 上部分
36 下部分
37 傾斜面
38 先端面
39 凹み部
40 不活性ガス供給手段
41 第1の不活性ガス供給部
42 吹出穴
43 ガス通し経路
44 ガス供給穴
45 ガスホース
46 ガスボンベ
51 第2の不活性ガス供給部
52a,52b 吹出穴
61 第3の不活性ガス供給部
62 吹出穴

Claims (3)

  1. 対向配置された一対の棒状被溶接材の突合せ端部を所定部分で囲む裏当て金と、当該裏当て金と協働して両棒状被溶接材の突合せ端部を囲繞しかつ溶接ワイヤ挿入用の開口部が形成されたシールドカバーと、このシールドカバー内に不活性ガスを供給する不活性ガス供給手段と、を備えたエンクローズ溶接用冶具において、
    前記裏当て金が、それぞれ独立して着脱可能とされかつ取付位置を相互に交換可能な複数の裏当て金構成要素から構成され、
    前記不活性ガス供給手段が、前記シールドカバーの開口部近傍に第1のガスカーテンを形成するための不活性ガス流を生成する第1の不活性ガス供給部と、前記両棒状被溶接材の突合せ端部から当該被溶接材の軸線に沿って所定距離離れた位置で前記シールドカバーと前記裏当て金との間に当該被溶接材軸線と直交する方向に第2のガスカーテンを形成するための不活性ガス流を生成する第2の不活性ガス供給部とから構成された、ことを特徴とするエンクローズ溶接用冶具。
  2. 前記各裏当て金構成要素が同一形態とされかつ取り付け方法も同一とされた請求項1記載のエンクローズ溶接用冶具。
  3. 前記不活性ガス供給手段が、前記第1の不活性ガス供給部および前記第2の不活性ガス供給部に加えて、前記両棒状被溶接材の突合せ端部間の開先間隙へ向かう不活性ガス流を発生させる第3の不活性ガス供給部を備えた構成とされた請求項1又は2記載のエンクローズ溶接用冶具。
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