JP3838749B2 - 軟磁性樹脂組成物 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、合成樹脂と軟磁性材料とを含有する軟磁性樹脂組成物に関し、さらに詳しくは、高い透磁率を有すると共に、電気抵抗と飽和磁束密度が高水準でバランスした軟磁性樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
酸化第二鉄と二価の金属酸化物との化合物(MO・Fe23)は、高透磁率を示す軟磁性材料であり、一般に軟質(ソフト)フェライトと呼ばれている。軟質フェライトは、酸化物系軟磁性材料の中でも、粉末冶金の手法により製造することができ、硬くて軽量であるという特徴を有している。この軟質フェライトの中でも、Ni−Zn系フェライト及びMg−Zn系フェライトは、高い電気絶縁性を示すため、その燒結体は、偏向ヨーク、高周波トランス、磁気ヘッドなどの材料として使用されている。
【0003】
近年、軟質フェライトは、軽量で電気抵抗が高いという特徴を活かして、その粉末を合成樹脂中に分散した軟磁性複合材料(軟磁性樹脂組成物)が、チョークコイル、ロータリートランス、ラインフィルター、電磁波遮蔽材料(EMIシールド材料)などとして、新たな用途展開が図られている。軟磁性樹脂組成物は、合成樹脂の分野で一般に適用されている各種成形法、例えば、射出成形、押出成形、圧縮成形などにより、所望の形状の成形体に成形することができる。
しかしながら、酸化物系軟磁性材料である軟質フェライトの粉末を分散させた軟磁性樹脂組成物を用いると、電気抵抗(電気絶縁性)の高い成形体を得ることができるものの、酸化物系軟磁性材料の飽和磁束密度が充分に高くないため、成形体を上記の如き用途に適用する場合、動作可能な電流を低く抑えるか、あるいは動作可能な磁場を低く抑える必要があった。
【0004】
一方、金属または合金からなる金属系軟磁性材料は、一般に飽和磁束密度が高いという特徴を持つ反面、酸化物系軟磁性材料に較べて電気抵抗がかなり低いという問題があった。例えば、ケイ素鋼板は、トランスコアとして広く使用されているが、電気抵抗が低いため、そのままでは使用できず、その薄板の間に絶縁板を挟んだ状態で使用されている。カルボニル鉄粉末は、圧粉磁芯として高周波用インダクタに使用されているが、電気抵抗が低いため、高い電圧が印加される部品には適さないという問題があった。Fe−Si−B合金は、主としてリボン状にして使用されているが、電気抵抗が低いため、絶縁ケースに入れる必要があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、合成樹脂と軟磁性材料とを含有する軟磁性樹脂組成物であっ、高い透磁率を有すると共に、電気抵抗と飽和磁束密度が高水準でバランスした軟磁性樹脂組成物を提供することにある。
本発明者らは、前記従来技術の問題点を克服するために鋭意研究した結果、合成樹脂と軟磁性材料とを含有する軟磁性樹脂組成物において、該軟磁性材料として、Ni−Zn系フェライト及びMg−Zn系フェライトからなる群より選ばれる少なくとも一種の酸化物系磁性体粉末(A)と、表面に電気絶縁層を形成した金属系磁性体粉末(B)とを組み合わせて使用することにより、透磁率を高水準で保持しつつ、耐電圧(電気抵抗)と飽和磁束密度とが共に高い軟磁性樹脂組成物の得られることを見いだした。また、本発明の軟磁性樹脂組成物は、シリコーンオイルなどの低弾性率化剤を配合すると、耐電圧を特に高水準にすることができる。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、合成樹脂と軟磁性材料とを含有する軟磁性樹脂組成物において、
(1)該軟磁性材料が、
a)平均粒径が10μm以上1mm以下で、空隙率が5%以下である、Ni−Zn系フェライト及びMg−Zn系フェライトからなる群より選ばれる少なくとも一種の酸化物系磁性体粉末(A)10〜90重量%、並びに、
b)平均粒径が1μm以上1mm以下で、表面に電気絶縁層を形成した金属系磁性体粉末(B)90〜10重量%
を含有するものであり、
(2)合成樹脂100重量部に対する軟磁性材料(A+B)の配合割合が100〜2000重量部の範囲内であり、かつ、
(3)合成樹脂と軟磁性材料(A+B)との合計量100重量部に対して、低弾性率化剤を0.1〜10重量部の配合割合で含有す
ことを特徴とする軟磁性樹脂組成物が提供される。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明では、軟質磁性材料として、酸化物系磁性体粉末(A)と金属系磁性体粉末(B)とを組み合わせて使用する。酸化物系磁性体粉末としては、特定の軟質フェライトを選択して使用し、金属系磁性体粉末としては、その表面に電気絶縁層を形成したものを使用する。
酸化物系磁性体粉末(A)
軟質フェライトは、酸化第二鉄(Fe23)と二価の金属酸化物(MO)との化合物(MO・Fe23)であり、二価の金属酸化物の種類により、Mn−Zn系、Mg−Zn系、Ni−Zn系、Cu−Zn系、Cu−Zn−Mg系、Cu−Ni−Zn系などの各種フェライトに分類される。本発明では、多数の軟質フェライトの中から、Ni−Zn系フェライト及びMg−Zn系フェライトを選択して使用する。Ni−Zn系フェライト及びMg−Zn系フェライトは、それぞれ単独で、あるいは両者を組み合わせて使用することができる。
【0008】
Ni−Zn系フェライトとは、一般式(NiO)x(ZnO)y・Fe23で表される組成を持つものをいうが、Niの一部をCu、Mg、Co、Mn等の他の二価金属で置換したものであってもよい。Ni−Zn系フェライトは、本来の特性を損なわない範囲内で、各種添加剤を加えたものでもよい。ヘマタイトの析出を抑えるため、酸化鉄の含有量を調整したNi−Zn系フェライトが、本発明では特に好ましい。
Mg−Zn系フェライトとは、一般式(MgO)x(ZnO)y・Fe23で表される組成を持つものをいうが、Mgの一部をNi、Cu、Co、Mn等の他の二価金属で置換したものであってもよい。Mg−Zn系フェライトは、本来の特性を損なわない範囲内で、各種添加剤を加えたものでもよい。ヘマタイトの析出を抑えるため、酸化鉄の含有量を調整したMg−Zn系フェライトが、本発明では特に好ましい。
【0009】
本発明で使用するNi−Zn系フェライト及びMg−Zn系フェライトは、公知の方法により得ることができる。これらの軟質フェライトの主な原料は、例えば、Fe23、NiO、ZnO、MgOなどの金属酸化物または金属炭酸塩などである。軟質フェライトの製造方法としては、乾式法、共沈法、噴霧熱分解法などが代表的なものである。乾式法では、金属酸化物または金属炭酸塩などの原料を所定の配合比となるように計算して機械的に混合し、焼成後、粉砕する。乾式法では、原料混合物を仮焼成し、微粒子に粉砕した後、顆粒状に造粒し、さらに本焼成した後、再度粉砕して軟質フェライト粉末とすることが好ましい。
【0010】
共沈法では、金属塩の水溶液に強アルカリを加えて水酸化物を沈殿させ、これを酸化して微粒子のフェライト粉末を得る。フェライト粉末は、造粒した後、焼成し、次いで粉砕する。噴霧熱分解法では、金属塩の水溶液を熱分解して微粒子状の酸化物を得る。この酸化物粉末は、造粒した後、焼成し、次いで粉砕する。これらの方法において、焼成した軟質フェライトは、例えば、ハンマーミル、ロッドミル、ボールミル等によって粉砕し、目的の粒径を有する軟質フェライト粉末、すなわち酸化物系磁性体粉末(A)とする。
【0011】
本発明では、酸化物系磁性体粉末(A)として、空隙率が5%以下の軟質フェライト粉末を使用する。軟質フェライト粉末の空隙率を小さくすることにより、軟磁性樹脂組成物の耐電圧をさらに向上させることができる。空隙率は、好ましくは3%以下、より好ましくは2%以下である。磁性体粉末の空隙率の測定法は、実施例において詳述する。空隙率の小さな軟質フェライト粉末を得る方法としては、例えば、1200℃を超える高温で焼成する方法、固相反応を促進させる添加剤を使用する方法などが挙げられる。このような添加剤としては、酸化銅などの銅化合物が好ましい。
【0012】
本発明で使用する酸化物系磁性体粉末(A)は、平均粒径が10μm以上1mm以下である。酸化物系磁性体粉末(A)の平均粒径が小さすぎると、軟磁性樹脂組成物の電気抵抗が低下する傾向を示す。酸化物系磁性体粉末(A)の平均粒径が大きすぎると、軟磁性樹脂組成物を成形する際、金型や成形機などが摩耗し易くなる。酸化物系磁性体粉末(A)の平均粒径は、好ましくは15〜750μm、より好ましくは20〜100μm程度である。
【0013】
金属系磁性体粉末(B)
本発明で使用する表面に電気絶縁層を形成した金属系磁性体粉末(B)は、粉末状の金属系軟磁性材料の表面に電気絶縁層を形成したものである。金属系軟磁性材料としては、純鉄系及び鉄基合金系軟磁性材料(磁性体粉末)が好ましい。純鉄系軟磁性材料としては、メタル粉、窒化鉄粉などが挙げられる。鉄基合金系軟磁性材料としては、Fe−Si−Al合金(センダスト)粉末、スーパーセンダスト粉末、Ni−Fe合金(パーマロイ)粉末、Co−Fe合金粉末、カルボニル鉄粉末、Fe−Si−B系合金粉末などが挙げられる。これらの中でも、磁性体粉末製造の際の生産性の点から、カルボニル鉄粉末、センダスト粉末、及びFe−Si−B系合金粉末が特に好ましい。
粉末状の金属系軟磁性材料は、そのままでは電気抵抗が低すぎるため、酸化物系磁性体粉末(A)と併用しても、充分に高い電気絶縁性を有する軟磁性樹脂組成物を得ることが困難である。そこで、本発明では、粉末状の金属系軟磁性材料の表面に電気絶縁層を形成する。
【0014】
電気絶縁層を形成する方法としては、例えば、(1)粉末状の金属系軟磁性材料を減圧下または不活性ガス雰囲気下に置き、極微量の酸素を供給して、加熱することにより、その表面に金属酸化物膜を形成する方法、(2)粉末状の金属系軟磁性材料に少量のシランカップリング剤を添加・混合して、その表面にシランカップリング剤の層を形成し、次いで、減圧下で加熱してシランカップリング剤を分解することにより、ケイ素酸化物膜を形成する方法などが挙げられる。シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシランなどが挙げられる。シランカップリング剤は、粉末状の金属系軟磁性材料100重量部に対して、通常、0.1〜5重量部の範囲内で使用する。粉末状の金属系軟磁性材料の表面に金属酸化物膜を形成した後、さらにその上にケイ素酸化物膜を形成してもよい。なお、単なるシランカップリング剤による表面処理を行う方法、あるいは染料層を表面に形成する方法では、充分な耐電圧を得ることが困難である。
表面に電気絶縁層を形成した金属系磁性体粉末(B)は、平均粒径が1μm以上1mm以下である。金属系磁性体粉末(B)の平均粒径が小さすぎると、得られる軟磁性樹脂組成物の電気抵抗が低くなる傾向を示す。金属系磁性体粉末(B)の平均粒径が大きすぎると、合成樹脂と該金属系磁性体粉末が分離する傾向を示す。
【0015】
合成樹脂
本発明で使用する合成樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマーなどのポリオレフィン;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6/66、ナイロン46、ナイロン12などのポリアミド;ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドケトン、ポリフェニレンスルフィドスルホンなどのポリアリーレンスルフィド;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、全芳香族ポリエステルなどのポリエステル;ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドなどのポリイミド系樹脂;ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体などのポリスチレン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩素化ポリエチレンなどの塩素含有ビニル系樹脂;ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチルなどのポリ(メタ)アクリル酸エステル;ポリアクリロニトリル、ポリメタクリロニトリルなどのアクリロニトリル系樹脂;テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、テロラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素樹脂;ポリジメチルシロキサンなどのシリコーン樹脂;ポリフェニレンオキシド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなどの各種エンジニアリングプラスチックス;ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、ポリブチレン、ポリイソブチレン、ポリメチルペンテン、ブタジエン樹脂、ポリエチレンオキシド、オキシベンゾイルポリエステル、ポリパラキシレン樹脂などの各種熱可塑性樹脂;エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂;エチレンプロピレンゴム、ポリブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴムなどのエラストマー;スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体などの熱可塑性エラストマー;及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。これらの中でも、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、及びエポキシ樹脂は、成形性の点からみて特に好ましい。
【0016】
軟磁性樹脂組成物
本発明の軟磁性樹脂組成物は、合成樹脂に、軟磁性材料として、Ni−Zn系フェライト及びMg−Zn系フェライトからなる群より選ばれる少なくとも一種の酸化物系磁性体粉末(A)、並びに、表面に電気絶縁層を形成した金属系磁性体粉末(B)を分散させたものである。合成樹脂100重量部に対する軟磁性材料(A+B)の配合割合は、通常100〜2000重量部、好ましくは200〜1500重量部、より好ましくは250〜1000重量部である。軟磁性材料の配合割合が小さすぎると、充分な透磁性や飽和磁束密度を持つ軟磁性樹脂組成物を得ることが困難である。軟磁性材料の配合割合が大きすぎると、樹脂組成物の流動性が低下して成形が困難になる。
【0017】
軟磁性材料は、酸化物系磁性体粉末(A)10〜90重量%と金属系磁性体粉末(B)90〜10重量%とからなる組成を有する。酸化物系磁性体粉末(A)の割合が小さすぎると耐電圧が不充分となり、大きすぎると飽和磁束密度が小さくなる。酸化物系磁性体粉末(A)の割合は、好ましくは20〜80重量%、さらに好ましくは25〜75重量%である。金属系磁性体粉末(B)の割合は、好ましくは80〜20重量%、さらに好ましくは75〜25重量%である。両者をこれらの範囲内で併用することにより、適度の透磁率を有すると共に、耐電圧と飽和磁束密度とが高水準でバランスした軟磁性樹脂組成物を得ることができる。軟磁性樹脂組成物は、前記各成分を均一に混練することにより得ることができる。
【0018】
本発明では、前記各成分に加えて、低弾性率化剤を添加する。低弾性率化剤を添加すると、得られる軟磁性樹脂組成物の耐電圧を安定的に高水準とすることができる。合成樹脂と各磁性体粉末とを混練する際に、金属系磁性体粉末(B)の表面に形成した電気絶縁層が破壊されると、得られる軟磁性樹脂組成物の耐電圧が低下する。また、電気抵抗の高い磁性体粉末を配合した樹脂組成物を成形すると、成形体中の残留応力によると推定される電気抵抗の低下がみられる。低弾性率化剤を添加すると、金属系磁性体粉末(B)の電気絶縁層の破壊が抑制され、残留応力も小さくなるため、耐電圧を安定的に高水準とすることができるものと推定される。
【0019】
低弾性率化剤としては、シリコーンオイルが好ましい。シリコーンオイルの中でも、エポキシ変成シリコーンオイルが軟磁性樹脂組成物の耐電圧を高くする点で特に好ましい。低弾性率化剤は、合成樹脂と軟磁性材料(A+B)との合計量100重量部に対して、通常0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部の割合で使用される。低弾性率化剤の配合割合が小さすぎると効果が充分ではなく、大きすぎると機械的物性や磁気特性が低下するおそれが生じる。
本発明の軟磁性樹脂組成物には、機械的特性、耐熱性などを改善するために、繊維状充填材、板状充填材、球状充填材などの各種充填材を含有させることができる。また、本発明の軟磁性樹脂組成物には、必要に応じて、難燃化剤、酸化防止剤、着色剤などの各種添加剤を配合することができる。
【0020】
本発明の軟磁性樹脂組成物は、各成分を均一に混練することにより製造することができる。例えば、磁性体粉末と合成樹脂の各所定量をヘンシェルミキサーなどの混合機により混合し、溶融混練することにより、樹脂組成物を製造することができる。本発明の軟磁性樹脂組成物は、射出成形、押出成形、圧縮成形などの各種成形方法により、所望の形状の成形体に成形することができる。得られた成形体は、優れた透磁性を有することに加えて、耐電圧及び飽和磁束密度が共に高い。したがって、本発明の軟磁性樹脂組成物は、例えば、コイル、トランス、ラインフィルター、電磁波遮断材などの広範な用途に適用することができる。
【0021】
【実施例】
以下に実施例及び比較例を示して、本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。各種物性の測定方法は、次のとおりである。
(1)耐電圧の測定方法
厚さ0.8mmの板状成形品の両側に円盤型電極を接触させ、菊水電子工業社製の耐圧試験機TOS5050を使用し、測定温度23℃において、カットオフ(cut off)電流を1mAとし、60秒間印加可能な最大の交流電圧を求めた。
(2)飽和磁束密度及び透磁率の測定方法
JIS C−2561に準拠して測定した。
(3)磁性体粉末の空隙率の測定方法
厚さ0.8mmの板状成形品を、磁性体粉末の断面が見えるまで研磨した後、日本電子社製の走査電子顕微鏡JSM−630Fを使用し、磁性体粉末の断面を観察した。10個の磁性体粉末内部の空隙率を、日本電子社製の画像処理装置JED−2100を使用し、面積を基準として算出した。
【0022】
[実施例1]
MgO(10.9重量%)、ZnO(14.8重量%)、CuO(1.2重量%)、MnO(3.2重量%)、CaO(0.16重量%)、SiO2(0.07重量%)、NiO(0.06重量%)、Bi23(0.3重量%)、PbO(0.01重量%)、及びFe23(69.3重量%)からなる混合物を約1000℃で仮焼成し、次いで粉砕した後、常法に従ってスプレードライヤを用いて造粒した。得られた顆粒状物を1350℃で約3時間焼成し、Mg−Zn系フェライトの燒結体を得た。この燒結体をハンマーミルで粉砕し、平均粒径47μmの粉末を得た。得られた粉末の比重は4.6g/ccであった。
一方、市販の球状カルボニル鉄粉末(BASF社製、EN)を真空乾燥機に入れ、一旦減圧した後、アルゴンガスを充填した。次いで、極く微量の空気を導入した後、100℃まで加熱して、カルボニル鉄粉末の表面に金属酸化物膜を形成した。このようにして得られた磁性体粉末100重量部に対して、2重量部のシランカップリング剤(ビニルトリメトキシシラン)を添加し、ヘンシルミキサーで攪拌して、表面にシランカップリング剤の層を形成した。さらに、磁性体粉末を真空容器へ移し、減圧下で450℃まで加熱しシランカップリング剤を分解して、表面にケイ素酸化物膜を形成した。このようにして、表面に電気絶縁層を形成したカルボニル鉄粉末を得た。
【0023】
前記で得られたMg−Zn系フェライト粉末8.5kg、表面に電気絶縁層を形成したカルボニル鉄粉末8.5kg、及びポリフェニレンスルフィド(呉羽化学工業社製;310℃、剪断速度1000秒-1における溶融粘度が約20Pa・s)3.0kgを秤量し、20Lヘンシルミキサーで混合した。次いで、エポキシ変性シリコーンオイル400gを添加した。得られた混合物を280〜330℃の温度に設定した2軸押出機へ供給して、溶融混練を行い、ペレット状組成物を得た。
このようにして得られたペレット状組成物を射出成型機(日本製鋼所社製JW−75E)へ供給し、シリンダー温度280〜310℃、射出圧力約1000kgf/cm2、金型温度約160℃にて、10mm×130mm×0.8mmの板状成形品を得た。得られた成形品の耐電圧を測定したところ4000Vであった。Mg−Zn系フェライト粉末の空隙率を求めたところ、1%であった。
また、前記で得られたペレット状組成物を射出成型機(日精樹脂社製PS−10E)へ供給し、シリンダー温度280〜310℃、射出圧力約1000kgf/cm2、金型温度約160℃にて、円柱状サンプル(直径20mm、高さ7mm)及びトロイダルコアを成形した。円柱状サンプルを使用し、飽和磁束密度を測定したところ、5140ガウスであった。得られたトロイダルコアを用いて透磁率を測定したところ、13であった。以上の結果を表1に示す。
【0024】
[実施例2]
実施例1において、Mg−Zn系フェライト粉末8.5kgを5.0kgに、表面に電気絶縁層を形成したカルボニル鉄粉末8.5kgを12.0kgに、それぞれ変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果を表1に示す。
【0025】
[実施例3]
実施例1において、Mg−Zn系フェライト粉末8.5kgを12.0kgに、表面に電気絶縁層を形成したカルボニル鉄粉末8.5kgを5.0kgに、それぞれ変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果を表1に示す。
【0026】
[比較例1]
実施例1において、磁性体粉末として、表面に電気絶縁層を形成したカルボニル鉄粉末を使用することなく、Mg−Zn系フェライト粉末17.0kgを用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果を表1に示す。
【0027】
[比較例2]
実施例1において、磁性体粉末として、Mg−Zn系フェライト粉末を使用することなく、表面に電気絶縁層を形成したカルボニル鉄粉末17.0kgを用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果を表1に示す。
【0028】
[比較例3]
実施例1において、表面に電気絶縁層を形成したカルボニル鉄粉末に代えて、表面絶縁処理を行っていない球状カルボニル鉄粉末(BASF社製、EN)を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果を表1に示す。
【0029】
[実施例4]
NiO(6.7重量%)、ZnO(20.2重量%)、CuO(6.6重量%)、MnO(0.2重量%)、及びFe23(66.3重量%)からなる混合物を約1000℃で仮焼成し、次いで粉砕した後、常法に従ってスプレードライヤを用いて造粒した。得られた顆粒状物を1300℃で約2時間焼成し、Ni−Zn系フェライトの燒結体を得た。この燒結体をハンマーミルで粉砕し、平均粒径50μmの粉末を得た。得られた粉末の比重は、5.2g/ccであった。
一方、市販の球状カルボニル鉄粉末(BASF社製、EN)を真空乾燥機に入れ、一旦減圧した後、アルゴンガスを充填した。次いで、極く微量の空気を導入した後、100℃まで加熱して、カルボニル鉄粉末の表面に金属酸化物膜を形成した。このようにして得られた磁性体粉末100重量部に対して、2重量部のシランカップリング剤(ビニルトリメトキシシラン)を添加し、ヘンシルミキサーで攪拌して、表面にシランカップリング剤の層を形成した。さらに、磁性体粉末を真空容器へ移し、減圧下で450℃まで加熱してシランカップリング剤を分解し、表面にケイ素酸化物膜を形成した。このようにして、表面に電気絶縁層を形成したカルボニル鉄粉末を得た。
このようにして得られたNi−Zn系フェライト粉末8.5kg、表面に電気絶縁層を形成したカルボニル鉄粉末8.5kg、及びポリフェニレンスルフィド(呉羽化学工業社製;310℃、剪断速度1000秒-1における溶融粘度約20Pa・s)3.0kgを秤量し、以下実施例1と同様の操作を行った。フェライト粉末中の空隙率は、3%であった。その結果を表1に示す。
【0030】
[実施例5]
実施例4において、Ni−Zn系フェライト粉末8.5kgを7.5kgに、表面に電気絶縁層を形成したカルボニル鉄粉末8.5kgを7.5kgに、そしてポリフェニレンスルフィド3.0kgを5.0kgに、それぞれ変更したこと以外は、実施例4と同様の操作を行った。その結果を表1に示す。
【0031】
【表1】
Figure 0003838749
【0032】
(脚注)
(*1)表面に電気絶縁層を形成したカルボニル鉄粉末
(*2)表面絶縁処理を行っていないカルボニル鉄粉末
(*3)エポキシ変性シリコーンオイル;その重量部は、(樹脂+磁性体粉末)100重量部に対する値である。
【0033】
参考例1
実施例1において、ペレット状組成物を調製するに際し、エポキシ変性シリコーンオイルを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果、飽和磁束密度は5152ガウスと高く、透磁率は13であったが、耐電圧は1500V程度であった。
【0034】
【発明の効果】
本発明によれば、高い透磁率を有すると共に、電気抵抗と飽和磁束密度が高水準でバランスした軟磁性樹脂組成物が提供される。したがって、本発明の軟磁性樹脂組成物は、例えば、コイル、トランス、ラインフィルター等の高い耐電圧と高い飽和磁束密度が要求される成形体に適用することができる。これらの成形体は、従来使用が制限されていた条件下での使用が可能である。

Claims (6)

  1. 合成樹脂と軟磁性材料とを含有する軟磁性樹脂組成物において、
    (1)該軟磁性材料が、
    a)平均粒径が10μm以上1mm以下で、空隙率が5%以下である、Ni−Zn系フェライト及びMg−Zn系フェライトからなる群より選ばれる少なくとも一種の酸化物系磁性体粉末(A)10〜90重量%、並びに、
    b)平均粒径が1μm以上1mm以下で、表面に電気絶縁層を形成した金属系磁性体粉末(B)90〜10重量%
    を含有するものであり、
    (2)合成樹脂100重量部に対する軟磁性材料(A+B)の配合割合が100〜2000重量部の範囲内であり、かつ、
    (3)合成樹脂と軟磁性材料(A+B)との合計量100重量部に対して、低弾性率化剤を0.1〜10重量部の配合割合で含有す
    ことを特徴とする軟磁性樹脂組成物。
  2. 金属系磁性体粉末(B)が、純鉄系または鉄基合金系の磁性体粉末の表面に電気絶縁層を形成したものである請求項1記載の軟磁性樹脂組成物。
  3. 金属系磁性体粉末(B)が、その表面に、電気絶縁層として金属酸化物膜及びケイ素酸化物膜からなる群より選ばれる少なくとも一種の酸化物膜が形成されたものである請求項1または2記載の軟磁性樹脂組成物。
  4. 弾性率化剤が、シリコーンオイルである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の軟磁性樹脂組成物。
  5. シリコーンオイルが、エポキシ変成シリコーンオイルである請求項4記載の軟磁性樹脂組成物。
  6. 合成樹脂が、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリアリーレンスルフィド、及びエポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種である請求項1乃至5のいずれか1項に記載の軟磁性樹脂組成物。
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