JP3837495B2 - 光イメージングシステム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、光イメージングシステムに関し、より詳細には、高い空間分解能での走査型光学顕微鏡観察が可能な光イメージングシステムに関する。
【0002】
【従来の技術】
走査型光学顕微鏡は、検体試料の形態や大きさを観察・計測するための汎用的な装置として古くから用いられており、特に、半導体試料や生物試料といった高い分解能やコントラストでの観察が求められる場合には、空間分解能200nm程度の共焦点レーザ走査型顕微鏡が広く用いられている。
【0003】
図7は、従来の共焦点レーザ走査型顕微鏡システムの構成例を説明するための図で、この共焦点レーザ走査型顕微鏡システムは、一般的な走査型光学顕微鏡に用いられる構成の光学系700とデータ処理系720とから構成され、試料ステージ701上に観察試料702を載置し、光源であるレーザ707から射出された光をレンズ708、709で集光した後にピンホール710で所望のスポット径とし、レンズ711により平行ビームを形成した後にハーフミラー713で下側に光路変換させ、対物レンズ703により収束して観察試料702上に光照射する。
【0004】
この光照射により観察試料702から発せられる蛍光等は、対物レンズ703、ハーフミラー713、及び、レンズ704によって集光され、ピンホール705を通過した後に光検出器である光電子増倍管706により光強度が検出される。なお、この光学系700は試料ステージ701をXY平面内で移動可能とするための図示しない駆動機構を備えており、試料ステージ701のXY面内での駆動を行ないながら観察を実行することで2次元マッピングデータを得ることが可能となる。
【0005】
光電子増倍管706によって検出された光強度データは、コンピュータを備えるデータ処理系720に送られて各観察点毎の蛍光強度値(gx,y)として逐次記録され、所定の観察領域の2次元マッピングに対応する観測データ行列Rgが形成される。そして、全ての観察点での蛍光強度値のデータ取りこみが終了した時点で観測蛍光強度を表示画面上に表示させ、観測データ行列Rgを表示画像データ行列Riとして画像を形成することで観察試料702の2次元像を再生させている。
【0006】
なお、試料ステージ701をXY面内で移動させることにより2次元マッピングを得る上述の方法に変えて、照射光の光路中にスポット光走査装置712を設けることとし、このスポット光走査装置712の駆動をデータ処理系720から送信される観測点信号と同期させることにより観察試料702上の光照射点を変化させて2次元マッピングを得ることとしてもよい。
【0007】
また、例えば特開2001−91847号公報では、輪帯マスクによる回折による分解能の低下を回避することで輪帯状照明による超解像効果を確実に発揮させることが可能な顕微鏡の発明も開示されている。
【0008】
更に、近年のバイオテクノロジ研究のための高分解能光学顕微鏡開発への要請等に応えるためとして、観察試料の四方から光を照射するようにしてメッシュ状の定在照射光(satnding wave illumination)を観察試料上に形成し、試料から得られる蛍光イメージを画像処理することにより100nmの分解能を実現したHELM(harmonic excitation light microscopy)がFrohnらによって報告されている(PNAS,7232−7236,Vol.97,No.13(2000))。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の構成の共焦点レーザ走査型顕微鏡では、光が照射された試料領域から発せられる信号光の積分強度のみを観察試料からの情報として捉えて画像処理を実行しているために、その空間分解能は試料上に照射される光のスポットサイズによって決定されることとなり、顕微鏡としての空間分解能の向上には自ずと限界があるという問題があった。
【0010】
また、上述のHELMは、メッシュ状の定在照射光を形成するために特殊で複雑な光学系を採用しており、顕微鏡本体が高価となることに加えて僅かな振動や試料(及び試料ホルダ)のドリフトが空間分解能に大きく影響を与えることとなる結果、汎用的な使用の際には簡便性・安定性の点で不充分であるという問題もあった。
【0011】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、高い空間分解能の走査型光学顕微鏡観察が簡便かつ安定して実行可能な、具体的には50nmレベルの空間分解能を備える光イメージングシステムを提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、このような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、光源から射出された光をスポット光にして観察試料に照射し、該観察試料から発する信号光をスポットではなく2次元の広がりを持つ信号として受光する光学系と、該信号光を観察試料画像として再生するデータ処理系とで構成された光イメージングシステムであって、前記光学系は、試料へのスポット光の照射位置を観測試料の平面内で移動させる光照射位置設定手段と、前記スポット光の照射に対して得られる2次元の広がりを持つ信号光の2次元光強度分布を観測画像データとして、スポット光の照射位置の移動に対応して取得する2次元光検出手段とを備え、前記データ処理系は、前記2次元光検出手段により取得した信号光の観測画像データを前記観察試料に照射したスポット光の照射位置に対応させて記憶する記憶手段と、前記記憶手段に記憶させたスポット光の照射位置毎の2次元光強度分布の観測画像データに基づいて、2次元平面内で照射位置を移動させたスポット光の照射位置の全ての観測画像に対して当該観測画像の各画像に対して点像分布関数を種関数とする逆演算を行って各光照射位置毎の回復画像の回復画像データとし、当該回復画像データに含まれる各回復画像を2次元光強度分布とみなし、該2次元光強度分布を前記スポット光の照射位置の移動に対応して位置をずらしながら重ねて平均化し全観察領域の2次元光強度分布の表示画像データを算出する演算手段と、前記演算手段により構成された試料中の全観察領域の2次元光強度分布を回復画像として表示する表示手段とを備えることを特徴とする。
【0013】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の光イメージングシステムにおいて、前記演算手段は、前記2次元光検出手段で得たスポット光照射位置毎の2次元光強度分布を構成する観測画像データに点像分布関数によるウイナーインバースフィルタを掛けることで信号光強度を補正して2次元光強度分布を再構成することを特徴とする。
【0014】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の光イメージングシステムにおいて、前記2次元光検出手段の画素間隔は、該光学系により定まる点像分布関数の遮断空間周波数よりも小さく設定されていることを特徴とする。
【0015】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の光イメージングシステムにおいて、前記光学系の光路中に輪帯絞りを備えることを特徴とする。
【0016】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4いずれかに記載の光イメージングシステムにおいて、前記光学系は共焦点光学系であって、前記2次元光検出手段が観察試料の実像面と共役な位置に設けられていることを特徴とする。
【0017】
更に、請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の光イメージングシステムにおいて、前記光学系はパルスレーザを光源として備え、観察試料に含まれる蛍光分子の2光子励起が可能であることを特徴とする。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下に、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0023】
(システム構成)
図1は、本発明の光イメージングシステムの構成を説明するための図で、この光イメージングシステムは、一般的な走査型光学顕微鏡に用いられる構成の光学系100とデータ処理系120とから構成され、試料ステージ101上に観察試料102を載置し、光源であるレーザ106から射出された光をレンズ107、108で集光した後にピンホール109で所望のスポット径とし、レンズ110により平行ビームを形成した後にハーフミラー112で下側に光路変換させ、対物レンズ103により収束して観察試料102上に光照射する。なお、用いる光源としては特に制約はないが、通常のレーザ光源の他、数百フェムト秒以下のパルス幅のレーザや、高圧水銀灯やキセノンアークランプ等の各種の高輝度光源であってもよい。
【0024】
この光照射により観察試料102から発せられる蛍光等は、対物レンズ103、ハーフミラー112、及び、レンズ104によって集光されてCCD等の2次元光検出器105により光強度の2次元的分布が検出される。すなわち、図7で示した従来の共焦点レーザ走査型顕微鏡では、観察試料からの光信号のうちの光強度のみを光検出器(光電子増倍管706)でモニタしているのに対して、本発明の光イメージングシステムでは、2次元光検出器105により、観察試料上の光スポットサイズに対応する空間的広がりをもったXY平面内での光強度分布がモニタされることとなる。なお、2次元光検出器105としては、CCDの他、フォトダイオードアレイや2次元光電子増倍管等であってもよい。また、後述する理由により、本発明の光イメージングシステムの光学系では、2次元光検出器105の光入射口側にはピンホールを設けずに観察試料102からの空間的広がりを有する信号光の全てを2次元光検出器105に入射させる構成としている。
【0025】
光学系100は試料ステージ101をXY平面内で移動可能とするための図示しない駆動機構を備えており、試料ステージ101のXY面内での駆動を行ないながら観察を実行することで2次元マッピングデータを得ることが可能となる。なお、試料ステージ101をXY面内で移動させることにより2次元マッピングを得る上述の方法に変えて、照射光の光路中にスポット光走査装置111を設けることとし、このスポット光走査装置111の駆動をデータ処理系120から送信される観測点信号と同期させることにより観察試料102上の光照射点を変化させて2次元マッピングを得ることとしてもよい。
【0026】
このようなスポット光の走査方法としては、ピエゾ素子を駆動機構として用いたステージを利用したり、照射光の光路に挿入したガルバノミラーを駆動させたり、或いは、光路中に配置させたミラーをピエゾ素子により駆動させる等の種々の方法が利用可能である。更に、必要に応じて、図1中のレンズ107とレンズ108の間等の適当な光路位置に輪帯絞りを設けることで空間分解能の最適化を図ることも可能である。
【0027】
このようにして2次元光検出器105によって検出された光強度の空間分布データは、コンピュータを備えるデータ処理系120に送られて、各観察点毎の蛍光強度分布gx,y (s,t)として逐次記録され、所定の観察領域の2次元マッピングに対応する観測画像データ行列Rgが形成される。ここで、蛍光強度分布gx,y (s,t)は、観測点の座標(x,y)におけるビームスポットに対応する2次元光検出器105で検出された観察領域の面内の座標(s,t)の光強度を意味する。全ての観測点での蛍光強度分布データの取りこみが終了した時点で、後述するように、データ解析を実行し、デコンボリューション後の回復画像データ行列Rf に基づいて、試料全体の回復画像を再構成して表示画像データ行列Riを算出して観察試料102の2次元像を再生させる。
【0028】
図1では、反射型の光学系として構成した光イメージングシステムについて説明したが、図2に示すように、透過型の光イメージングシステムとして構成してもよい。なお、図2中の光学系の各構成要素には、図1において説明した構成要素と同じ符号を付している。
【0029】
(光イメージングの原理)
図3は、本発明の光イメージングシステムで採用する光イメージングの原理を説明するための図で、図3(a)は、照射光スポット領域に2つの物体が距離d1〜d3だけ離れて存在する場合にこれらの物体の各々から得られる光信号強度の空間的分布を説明するための図であり、図3(b)は、このようにして生じる光信号を検出して画像として再構成するプロセスを説明するための図である。
【0030】
図3(a)に示す様に、光照射を受けた物体から得られる信号強度は、空間的に広がりをもつ物体の中心に相当する位置に極大をもち両端にかけて振動しながら漸近的に減少し、本来は物体が存在しないはずの領域にも信号強度を有する「すそ」の部分が存在する。そして、2つの物体間隔を図3(a1)〜図3(a3)のようにd1、d2、d3と徐々に狭くしてゆくと、これらの光強度の中心間距離は物体間隔に伴って減少すると共に、上述の光信号の「すそ」の部分の重なりが生じ、この重なり部分では物体間隔に依存してその程度が変化する干渉が生じる。
【0031】
従来の共焦点型走査光学顕微鏡では、1つの照射光スポットに対応させて得られる1つの光強度情報のみを検出していたため、本来は観察物体が存在しないはずの領域に対応する上述の「すそ」領域の光強度も物体からの光信号として検知されることとなり、これにより顕微鏡像の輪郭の「ぼけ」が生じると共に、顕微鏡の空間分解能を向上させるために重要な情報を含んでいるはずの光信号の「すそ」の重なり部分の干渉の程度は何ら解析の対象とされていなかった。
【0032】
本発明の光イメージングシステムでは、光信号の「すそ」の重なり部分の干渉の程度を解析の対象として取り扱うこととし、そのため、本発明の光イメージングシステムの光学系では、図1で説明したように、2次元光検出器の光入射口側にはピンホールを設けずに観察試料からの空間的広がりを有する信号光の全てを2次元光検出器に入射させる構成とされ、その光信号の解析は以下の手順で進められる。
【0033】
すなわち、試料に光照射がなされると(図3(b1))、試料から得られる光学顕微鏡の観測画像g(x,y)は、ノイズが無視できる条件下では、点像分布関数h(x,y)とよばれる装置関数が真の試料画像f(x,y)に畳み込み積分(コンボリューション)されたものとして与えられ、観測画像g(x,y)は(式1)で与えられる(図3(b2))。
【0034】
【数1】
【0035】
従って、点像分布関数h(x,y)を種関数として観測画像g(x,y)に対して逆演算(デコンボリューション)を行なう(図3(b3))ことにより真の試料画像f(x,y)を推定する(図3(b4))ことができ、空間分解能(解像度)を向上させることが可能である。ここで、境界条件が不明確であるとデコンボリューション演算の実行により誤差を生じさせる結果となるため、本発明の光イメージングシステムでは、境界条件の明確化のためにスポット光を照明光として試料の限られた範囲を照射することとしている。
【0036】
(データ処理の具体的内容)
以下に、本発明の光イメージングシステムにおける光イメージのデータ処理方法について説明する。
【0037】
(1.観測画像データの取り込み)
レーザ光が空間的広がりをもつビームスポットとして観察試料に照射されると、光照射位置(x,y)における観察試料からの蛍光や反射光又は透過光(光学系の構成により異なる)が、画素数σ・τ(横 σ画素、縦 τ画素)の2次元光検出器で検出されて画像データgx,y(s,t)(但し、1≦s≦σ、1≦t≦τ)として記録される。これに続いて、スポット光の照射位置をx方向に一定の微小距離だけ移動させて次の観測画像データgx+1,y(s,t)を記録する。ここで、ステップサイズ(試料送り)を、スポットサイズと同等以下(数分の1程度)の微小距離とすることにより解像度が向上する。
【0038】
この手順をN回(但し、N=(横方向ξ回)×(縦方向ψ回))繰り返して実行することで目的とする観察試料の全面を走査し、(式2)で表記される観測画像データ行列Rg(ξ・ψの行列)を得る。
【0039】
【数2】
【0040】
(但し、1≦x≦ξ、1≦y≦ψ、1≦s≦σ、1≦t≦τ)
このようにして得られる観測画像データ行列Rgに対してコンピュータを用いた画像処理を実行する。
【0041】
(2.回復画像データ行列の算出)
観測画像データ行列Rgに含まれる各画像データgx,y(s,t)に対して、点像分布関数を種関数としたデコンボリューションを実行し、真値が回復された回復画像データfx,y(s,t)を算出し、(式3)に示す観測画像データ行列Rgに対応する回復画像データ行列Rfを求める。
【0042】
【数3】
【0043】
(但し、1≦x≦ξ、1≦y≦ψ、1≦s≦σ、1≦t≦τ)
この方法によれば、画像データgx,y(s,t)から回復画像データfx,y(s,t)をデコンボリューション演算で算出する際にスポット光の照射範囲を境界条件として正確に与えることができるために誤差の少ない演算が可能となる。ここで、上述のデコンボリューションはフーリエ面又は実像面のいずれかで実行し、そのアルゴリズムの例としては、観測画像データg(x,y)をフーリエ変換G(u,v)しこれを点像分布関数h(x,y)のフーリエ変換H(u,v)で割ることで逆変換する方法、ウイナーインバースフィルタW(u,v)を用いる方法、ハリスの方法、及び、非線形最適化法等が挙げられる。
【0044】
これらのデコンボリューションアルゴリズムのうち、観測画像データg(x,y)をフーリエ変換G(u,v)しこれを点像分布関数h(x,y)のフーリエ変換H(u,v)で割ることで逆変換する方法では、畳み込み定理によりF(u,v)(=G(u,v)/H(u,v))を求め、このF(u,v)を逆フーリエ変換することで、回復画像データf(x,y)を求める。この方法では、H(u,v)がゼロに近い値をとるときには、F(u,v)が非常に大きな値となるため、G(u,v)がノイズを含む場合にはそのノイズが増幅されて満足な回復画像データf(x,y)を得ることが難しいという難点がある。
【0045】
ウイナーインバースフィルタW(u,v)を用いる方法では、フィルタ関数は(式4)で与えられる。
【0046】
【数4】
【0047】
ここで、Ht(u,v)はH(u,v)の転置行列、cは信号と雑音のパワースペクトル比である。
【0048】
そして、このW(u,v)を基に、F(u,v)=G(u,v)・W(u,v)によりF(u,v)を求め、このF(u,v)を逆フーリエ変換することで回復画像データf(x,y)を求める。
【0049】
本発明の光イメージングシステムの光学系では、試料にスポット光を照射するために観測される画像の範囲がスポット光の照射領域内に限定される。従って、ハリスの超過像法における物体の広がりに対する制約条件が満足され、ハリスの方法によるデコンボリューションが可能である。ハリスの超解像法は、観測画像を計測系の遮断周波数より細かくサンプリングし、シンク関数で内挿した後に逆行列計算を行なって帯域を広げ、この処理により光学系によって劣化した高周波成分が回復可能となって分解能が向上する。
【0050】
非線形最適化法を用いるデコンボリューションでは、真の輝度値と点像分布関数を畳み込んだ値と測定値の二乗誤差が最小となるように真の輝度値を反復しながら修正する。一般的に、画像の輝度情報は負値となることがないため、これを制約条件として最急降下法あるいは共役勾配法などの最適化手法を用いて真の輝度値を求める。この方法によれば、ノイズによる解の発散が生じないため最も適切な輝度値を求めることができるという大きなメリットがある。
【0051】
(3.回復画像の再構成)
このようにして得られた回復画像データ行列Rfに含まれる各回復画像データfx,y(s,t)を用いて、(式5)で表記される試料全体の回復画像Riを再構成する。
【0052】
【数5】
【0053】
(但し、1≦m≦μ、1≦n≦ν、im,nは回復画像Riの座標(m,n)に対応する2次元光検出器の画素の輝度値)
回復画像データ行列Rfから試料の全体の回復画像Riを再構成する方法としては、例えば、回復画像データ行列Rfに含まれる各回復画像データfx,y(s,t)の中央の値を用いる方法と、回復画像データfx,y(s,t)をx方向とy方向の走査ステップに相当する画素数(Δσ、Δτ)ずつずらして重ねて平均化することで試料全体の回復画像Riを得る方法が挙げられる。
【0054】
このうち、回復画像データ行列Rfに含まれる各回復画像データfx,y(s,t)の中央の値を用いる方法によれば、先ず、回復画像データ行列Rfにおいて、ξ=μ、ψ=ν、x=m、y=nとおき、回復画像データ行列Rfに含まれる各回復画像データfm,n(s,t)の中央部の画素の輝度値を(式6)のようにim,nとして与える。
【0055】
【数6】
【0056】
このim,nを用いて(式7)のように試料全体の回復画像Riを得る。
【0057】
【数7】
【0058】
一方、回復画像データfx,y(s,t)をx方向とy方向の走査ステップに相当する画素数(Δσ、Δτ)ずつずらして重ねて平均化することで試料全体の回復画像Riを得る方法によれば、試料全体の回復画像Riは(式8)で定義される。
【0059】
【数8】
【0060】
(但し、1≦m≦μ、1≦n≦ν、im,nは試料全体の回復画像Riの座標(m,n)に位置する画素の輝度値)
ここで、試料全体の回復画像Riの画素数(μ(横方向)、ν(縦方向))は、各々、μ=Δσ・(ξ−1)+σ、及び、ν=Δτ・(ψ−1)+τで与えられる。但し、Δσは横方向の1回の走査ステップに相当する画素数、ξは横方向の走査回数、σは各回復画像データfx,y(s,t)の横方向の画素数、Δτは縦方向の1回の走査ステップに相当する画素数、ψは縦方向の走査回数、そして、τは各回復画像データfx,y(s,t)の縦方向の画素数)である。
【0061】
以下に、回復画像Riの座標(m,n)に対応する2次元光検出器の画素の輝度値であるim,nを求めるための具体的な演算手順を、σ/Δσ=Ns及びτ/Δτ=Ntが整数で、かつ、Δσ及びΔτも共に整数(但し、σ及びτは各回復画像データfx,y(s,t)の横及び縦の画素数)の場合を例にして説明する。
【0062】
先ず、図1に示したように、走査時のステップサイズに相当する画素数(横方向Δσ、縦方向Δτ)ずつずらしながら回復画像を重ねて並べる。このとき、回復画像データfx,y(s,t)を基準にして横方向にNs枚重ねる場合には、例えばfx,y(s,t)の他のNs枚の画像との平均値は(式9)のようになり、
【0063】
【数9】
【0064】
これと同様の方法で、縦方向についてもNt枚の画像を走査ステップサイズずつずらして重ねた場合の平均を考慮に入れると、全体としては(式10)が得られる。
【0065】
【数10】
【0066】
このようにして、試料全体の回復画像Riの各座標における輝度値は(式11)で与えられ、
【0067】
【数11】
【0068】
Ns≦m≦μ−Ns、かつ、Nt≦n≦ν−Ntでは、
【0069】
【数12】
【0070】
(但し、roundup(a/b)は a/bの商を切り上げで求め、mod(a/b)はa/bの剰余を求めることを意味する)となる。
【0071】
更に、(式12)をエッジ部分も含めた全ての画像の領域(1≦m≦μ、かつ、1≦n≦ν)で成り立つように拡張すると、(式13)が得られる。
【0072】
【数13】
【0073】
(但し、min(a,b,c)はa,b,cのうちの最小値を求め、1≦s<μ、1≦t≦ν、1≦x≦ξかつ1≦y≦ψ以外ではfx,y(s,t)=0である)
【0074】
(実施例)
以下に、本発明の光イメージングシステムの実施例について説明する。
【0075】
(実施例1)
図4〜6は、本発明の光イメージングシステムを用いて得られる観測画像の様子を説明するためにコンピュータシミュレーションを用いて得られた図で、図4は、試料画像から観測画像が得られるまでの各演算過程における画像を説明するための図であり、図5は、試料画像、観測画像、及び、復元画像の各々を比較するための図であり、図6は、観測画像と復元画像の分解能の比較を説明するための図である。
【0076】
図4には、試料画像(a)、試料画像を乗算して得られる画像(b)、点像分布関数(PSF)の畳み込み演算を行なって得られる画像(c)、及び、畳み込み画像を加算して得られる観測画像(d)と、スポット光強度分布像(e)、点像分布関数(PSF)(f)、及び、ノイズ成分の像(g)が示されており、併せて、これらの各々の画像から得られる信号強度のラインプロファイルも示されている。
【0077】
図4(a)の試料画像は、観察している試料の本来の画像であり、ここでは、2つの方形の点が所定の距離だけ離隔されて配置されている。この試料画像にスポット光の強度分布(図4(e))を掛けることで試料からの蛍光(又は散乱光)強度分布である図4(b)が得られる。
【0078】
これに、図4(f)に示すPSFで畳み込み演算を実行して図4(c)の畳み込み画像が得られる。この畳み込み画像から分るように、PSFを畳み込むことにより観察試料である点の周囲にボケが生じ、本来分離しているはずの2つの点の一部が重なり会う。更に、観測画像(図4(d))では、ノイズ成分が重畳されるために画像全体が鈍ることとなる。
【0079】
図5には、試料画像(図5(a))、観測画像(図5(b))、及び、復元画像(図5(c))と、これらの画像に対応する信号強度のラインプロファイルが示されている。なお、この復元画像は、共役勾配法を用いて復元された画像である。図5(b)に示すように、観測画像では、ノイズ成分を多く含む鈍い像となっていることに加え、本来分離している2つの方形の点の像が融合しているのに対して、復元画像では、これらの点が完全に分離され、試料画像に極めて近い像として再現されており、その信号強度分布も本来の分布に近いものとなっている。
【0080】
図6は、観測試料である2点間の間隔を変化させた場合の、観測画像と復元画像の分解能の比較を実行した結果を説明するための図で、この比較は、図6(a)に示すように、各点に対応する位置での信号強度(輝度)Pと、2点間の中心に対応する位置の信号強度(輝度)Vとの比(試料像再現比率=V/P)を求めている。従って、復元画像において完全に試料画像が復元されていれば、観察試料が存在しない位置での輝度Vはゼロとなり、試料像再現比率もゼロとなる。このようにして定義される試料像再現比率を、ノイズが0.1%(図6(b))、1.0%(図6(c))、10.%(図6(d))の各々の条件下でシミュレーションを実行している。
【0081】
この結果から分るように、何れのノイズ条件においても試料間隔が100nmの場合に試料像再現比率がゼロとなっており、この間隔以上の試料間隔であれば完全に試料画像の復元が可能となる。また、復元画像から、2つの点が分離して認識可能な限界である分解能は、0.8以下の試料像再現比率を与える試料間隔で定義され、約40nmの分解能であると結論される。これに対して、観測画像の分解能は、約90nmと判断されるから、2倍以上の分解能の向上が実現されていることとなる。
【0082】
実際の計測では、上述したシミュレーション結果にあたる画像が各試料走査ごとに得られることとなるが、試料走査ステップを充分に精細に設定してこれら画像の積算を行なうことでノイズの低減を図ることが可能であり、空間分解能は更に向上することとなる。
【0083】
(実施例2)
以下に、2光子励起の共焦点顕微鏡をベースとする本発明の光イメージングシステムでの光イメージのデータ処理手順について説明する。
【0084】
光源として100フェムト秒程度のパルス幅をもつ赤外パルスレーザを使用し、レーザ光を倍率100の対物レンズで直径200nm程度のスポット光として集光して試料上に照射した。
【0085】
この光照射により観察試料中の蛍光分子が励起されて蛍光が生じ、これを倍率10倍のコレクタレンズを介して、単一画素サイズが6.7μm×6.7μmの正方画素からなる2次元光検出器(冷却CCD)で検出した。このような光学系では、CCD上での蛍光のスポットサイズは直径200μm程度となり、CCD上での光スポットは約30画素×30画素の範囲に投影されることとなる。このため、64画素×64画素の範囲の蛍光輝度を16ビット精度で記録した。
【0086】
ここで、スポット光により励起された蛍光分子の蛍光画像行列gx,y(s,t)を(式14)のように定義する。
【0087】
【数14】
【0088】
但し、行列の各要素は各画素の輝度値を意味しており、s及びtは蛍光画像内の画素の座標を意味し、0≦s≦64、0≦t≦64である。また、x及びyはスポット光の照射位置の座標を意味する。
【0089】
冷却CCDで記録した蛍光画像行列gx,y(s,t)は、コンピュータを介してハードディスクに保存した。2次元マッピングのために、50nmのステップサイズで試料上のスポット光を順次移動させて約5μm四方の範囲をスキャンした。その結果、取りこみ画像としては100枚×100枚(計1万枚)をハードディスクに記録し、これらの画像を基に観測画像データー行列Rgを(式15)のように求める。
【0090】
【数15】
【0091】
但し、0≦x≦100、0≦y≦100で、(x,y)はスポット光の試料上での照射位置の座標である。
このようにして求めた観測画像データ行列Rgの各要素(蛍光画像行列gx,y(s,t))の1つ1つに対して非線形最適化法によるデコンボリューション演算を実行して回復画像データfx,y(s,t)を算出し、回復画像データ行列Rfを(式16)のように算出する。
【0092】
【数16】
【0093】
最後に、この回復画像データ行列Rfを元に試料全体の回復画像Riを算出する。具体的には、回復画像データ行列の各要素である回復画像データfx,y(s,t)をステップサイズに相当する画素数だけずらして平均を求めることで試料の回復画像Riを再構成した。なお、この場合の理論上の最小ステップサイズは2次元光検出器の画素の大きさと光学的拡大倍率とで決まり、本実施例の場合には6.7nm程度となる。
【0094】
(実施例3)
以下に、透過型の共焦点顕微鏡をベースとする本発明の光イメージングシステムでの光イメージのデータ処理手順について説明する。
【0095】
光源から射出された光を、ピンホール及びコンデンサレンズを介して直径200nm程度の光スポットとして集光し試料上に照射した。この光スポットに対応する試料からの透過光を対物レンズ及びコレクタレンズを介して画素サイズ6μmの正方画素を備えるCCD上に投影した。なお、CCD上でのスポットサイズは約200μmであり、これは約34画素×34画素に相当する。このため、64×64画素の範囲を(式17)のような観測画像行列gx,y(s,t)として記録した。
【0096】
【数17】
【0097】
但し、行列の各要素は各画素の輝度値を意味し、この場合は透過光の強度値である。また、s及びtは画素の座標を意味し(0≦s≦64、0≦t≦64)、(x,y)は試料上のスポット光照射位置の座標を意味する。
【0098】
CCDから読み出された観測画像行列gx,y(s,t)は専用CPUへと送られて、観測画像から回復画像を算出するためのデコンボルーション演算と、算出された回復画像を基にした試料全体の回復画像Riの座標(x,y)における輝度値Ix,yの算出が実行される。なお、Ix,yは、回復画像データfx,y(s,t)の中央部の値を用いてIx,y=fx,y(32,32)で算出し、このIx,yの値をハードディスク上に記録し、光スポットのスキャニングを実行させた。
【0099】
試料上のスポット光のスキャンは、x及びy方向に1〜5nmの精度で駆動させることが可能なピエゾコントローラを備える試料ステージを用い、ステップサイズ10nmで5μm四方の領域をスキャンした。従って、x方向500点×y方向500点(計250000点)での観測画像が得られ、これを基に回復画像の輝度値を求めて試料全体の回復画像Riを再構成した。なお、本実施例でヤコビ法による画像再構成を行った場合の理論的な空間分解能は50nm程度となる。
【0100】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、光照射位置設定手段により、試料へのスポット光の照射位置を観測試料の平面内で移動させ、2次元光検出手段により、前記スポット光の照射に対して得られる2次元の広がりを持つ信号光の2次元光強度分布を観測画像データとして、スポット光の照射位置の移動に対応して取得し、前記2次元光検出手段により取得した信号光の観測画像データを前記観察試料に照射したスポット光の照射位置に対応させて記憶し、前記記憶手段に記憶させたスポット光の照射位置毎の2次元光強度分布の観測画像データに基づいて、2次元平面内で照射位置を移動させたスポット光の照射位置の全ての観測画像に対して当該観測画像の各画像に対して点像分布関数を種関数とする逆演算を行って各光照射位置毎の回復画像の回復画像データとし、当該回復画像データに含まれる各回復画像を2次元光強度分布とみなし、該2次元光強度分布を前記スポット光の照射位置の移動に対応して位置をずらしながら重ねて平均化し全観察領域の2次元光強度分布の表示画像データを算出したので、高空間分解能の走査型光学顕微鏡観察が簡便かつ安定して実行可能な、50nmレベルの空間分解能を備える光イメージングシステムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の反射型の光イメージングシステムの構成を説明するための図である。
【図2】本発明の透過型の光イメージングシステムの構成を説明するための図である。
【図3】本発明の光イメージングシステムで採用する光イメージングの原理を説明するための図で、(a)は照射光スポット領域に2つの物体が距離d1〜d3だけ離れて存在する場合にこれらの物体の各々から得られる光信号強度の空間的分布を説明するための図であり、(b)は光信号を検出して画像として再構成するプロセスを説明するための図である。
【図4】試料画像から観測画像が得られるまでの各演算過程における画像を説明するための図である。
【図5】試料画像、観測画像、及び、復元画像の各々を比較するための図である。
【図6】観測画像と復元画像の分解能の比較を説明するための図である。
【図7】従来の共焦点レーザ走査型顕微鏡システムの構成例を説明するための図である。
【符号の説明】
100 光学系
101 試料ステージ
102 観察試料
103 対物レンズ
104、107、108、110 レンズ
105 2次元光検出器
106 レーザ
109 ピンホール
111 スポット光走査装置
112 ハーフミラー
120 データ処理系
Claims (6)
- 光源から射出された光をスポット光にして観察試料に照射し、該観察試料から発する信号光をスポットではなく2次元の広がりを持つ信号として受光する光学系と、該信号光を観察試料画像として再生するデータ処理系とで構成された光イメージングシステムであって、
前記光学系は、
試料へのスポット光の照射位置を観測試料の平面内で移動させる光照射位置設定手段と、
前記スポット光の照射に対して得られる2次元の広がりを持つ信号光の2次元光強度分布を観測画像データとして、スポット光の照射位置の移動に対応して取得する2次元光検出手段と
を備え、
前記データ処理系は、
前記2次元光検出手段により取得した信号光の観測画像データを前記観察試料に照射したスポット光の照射位置に対応させて記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に記憶させたスポット光の照射位置毎の2次元光強度分布の観測画像データに基づいて、2次元平面内で照射位置を移動させたスポット光の照射位置の全ての観測画像に対して当該観測画像の各画像に対して点像分布関数を種関数とする逆演算を行って各光照射位置毎の回復画像の回復画像データとし、当該回復画像データに含まれる各回復画像を2次元光強度分布とみなし、該2次元光強度分布を前記スポット光の照射位置の移動に対応して位置をずらしながら重ねて平均化し全観察領域の2次元光強度分布の表示画像データを算出する演算手段と、
前記演算手段により構成された試料中の全観察領域の2次元光強度分布を回復画像として表示する表示手段と
を備えることを特徴とする光イメージングシステム。 - 前記演算手段は、前記2次元光検出手段で得たスポット光照射位置毎の2次元光強度分布を構成する各観測画像データに点像分布関数によるウイナーインバースフィルタを掛けることで信号光強度を補正して2次元光強度分布を再構成する
ことを特徴とする請求項1に記載の光イメージングシステム。 - 前記2次元光検出手段の画素間隔は、該光学系により定まる点像分布関数の遮断空間周波数よりも小さく設定されている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の光イメージングシステム。 - 前記光学系の光路中に輪帯絞りを備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の光イメージングシステム。
- 前記光学系は共焦点光学系であって、前記2次元光検出手段が観察試料の実像面と共役な位置に設けられていることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の光イメージングシステム。
- 前記光学系はパルスレーザを光源として備え、観察試料に含まれる蛍光分子の2光子励起が可能であることを特徴とする請求項5に記載の光イメージングシステム。
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