JP3836072B2 - 水の浄化方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、河川水・湖沼水・地下水・雨水・食品加工水・池水・堀水などからなる原水や産業廃水や下水等の水の浄化方法に関し、更に詳細には、例えば上水道処理場などにおいて被処理水に金属系凝集剤を添加して汚濁物質を凝集分離させる場合に、金属系凝集剤に主として起因する上澄み水中の残留金属イオン濃度を極力低減させることにより、健康に害が無く環境に優しい清澄な水を製造する水の浄化方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、浄化処理の対象となる飲料用原水や廃水・下水などの被処理水には、生物化学的酸素要求量(BOD、Biochemical Oxygen Demand)を生じる原因物質のBOD成分や、化学的酸素要求量(COD、Chemical Oxygen Demand)を生じる原因物質のCOD成分や、浮遊物質(SS、Suspended Solids)などが含有されており、これらの懸濁物質やその他の汚濁物質を水から除去することが水の浄化方法の目的である。
【0003】
現在、日本を初め、世界的な河川の水質悪化に伴い、例えば上水道の原水処理に対して、従来から行われている固形物を除くためのスクリーニングによる1次処理、ろ過、殺菌だけでは対処できなくなっている。そこで、原水に溶存している各種成分を除去するために、2次処理として生物処理を行ったり、微生物で分解できない成分に対しては高次処理が必要になっている。
【0004】
特に、塩素消毒の副作用として、トリハロメタンやハロ酢酸などの塩素消毒副生成物が出現し、またクリプトスポリジウムなどの耐塩素病原性原虫による水系感染症などが出現している現状にある。その他、微生物が植物を分解してできるフミン質などの高分子有機化合物は通常の浄化処理では除去が困難である。
【0005】
前述したBOD成分・COD成分・SS成分を除去し、しかも難分解性物質や病原性原虫を処理するために、オゾン処理、活性炭処理、高度凝集処理が行われている。オゾン処理では、空気に電圧を印加してオゾンを発生させ、このオゾンの強い酸化力でフミン質などの難分解性物質を分解している。また、活性炭処理では、各種物質を活性炭の吸着力で捕捉している。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
凝集処理では、水に含まれる微細な懸濁物質を凝集剤により凝集沈殿させる方法が使用されている。凝集剤としては、硫酸アルミニウム(硫酸バンドとも云う)・塩基性塩化アルミニウム・塩化アルミニウムなどのアルミニウム化合物、塩基性硫酸第二鉄・塩化第二鉄・塩化第一鉄などの鉄化合物がよく使用されている。
【0007】
アルミニウム化合物や鉄化合物は水に溶解してイオン化し、アルミニウムイオンや鉄イオンのような金属イオンが生成される。これらの金属イオンはカチオンであるから、負に帯電した懸濁物質と結合してその電荷を電気的に中和し、中性化した懸濁物質は相互に凝集してフロック化し、これらのフロックが大きくなると沈殿して、上澄み水と分離する。
【0008】
しかし、この金属系凝集剤の通常添加量では水質により凝集効率が悪くなることがあり、上澄み水の純度を上げるために、金属系凝集剤の添加量を増やしたり、複数の金属系凝集剤を複合的に添加する処理が行われている。
【0009】
この金属系凝集剤の添加でも不十分な場合には、アニオン系高分子凝集剤を添加する方法も考えられる。この高分子凝集剤を添加すると、架橋による2次凝集が起こり、一段と大きなフロックを形成して、透明度の高い上澄み水を得ることが可能になる。しかし、高分子凝集剤の一部には毒性があることが知られており、日本では上水道処理に使用することは禁止されている。
【0010】
従って、金属系凝集剤による凝集処理が重要となる。しかし、金属系凝集剤を使用すると、次のような困難な課題が発生する。金属系凝集剤に起因する金属イオンは、その全てが懸濁物質の凝集沈殿に利用されず、一部の金属イオンは上澄み水の中にどうしても残留してしまう。金属系凝集剤の添加量が増大するに従って、上澄み水に残留する金属イオンの濃度も増加する。
【0011】
残留した金属イオンは上水道に流通し、消費者が水道水を飲用すると、必然的に金属イオンが消費者の体内に蓄積されるという結果を生じる。不必要な金属イオンの体内吸収は消費者に健康被害を生じる可能性もある。
【0012】
上水道の金属系凝集剤として硫酸バンド(硫酸アルミニウム)が多用されている。このことは、アルミニウムイオンが水道水に残留し、アルミニウムイオンの体内蓄積を引き起こす。また、アルミニウムイオンが環境中の生物に吸収される事態も生じる。
【0013】
アルミニウムイオンの発生原因はアルミニウム系凝集剤だけではない。欧米では、酸性雨により土中のアルミニウムが溶解し、このアルミニウムイオンが河川・湖沼・地下に流れ込み、河川水・湖沼水・地下水におけるアルミニウムイオン濃度が急激に上昇する事態となっている。
【0014】
このようなアルミニウムイオンが生物の体内に蓄積され、食物連鎖を通して最終的に人体に蓄積される危険性がある。特に、アルミニウムイオンはアルツハイマー病の引き金になるという学説が近年主張されるようになった。このように、アルミニウムイオンに限らず、特に飲料水中の金属イオン濃度の上昇が深刻な問題となりつつある。
【0015】
従って、本発明は、水を浄化するために金属系凝集剤を使用する場合に、上澄み水の中に残留する金属イオンの濃度を低減できる水の浄化方法を提供することを目的とする。また、この金属イオンの除去と同時に、水中に含まれているBOD成分やCOD成分のようなコロイダル物質や微細なSS成分も沈殿除去できる水の浄化方法を提供することを目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記課題を解決するために為されたものであり、第1の発明は、金属系凝集剤を水に投入して汚濁物質を凝集分離する水の浄化方法において、水中における金属系凝集剤の濃度をM(mg/l)としたとき、その水にポリアミノ酸又はポリアミノ酸塩の放射線架橋体を投入し、その放射線架橋体濃度mを0<m≦M/2(mg/l)になるように調節して、被処理水中に残留する金属イオンの溶存濃度を低減させる水の浄化方法である。ポリアミノ酸又はポリアミノ酸塩の放射線架橋体及び金属系凝集剤は水中の懸濁物質(COD成分、BOD成分、SS成分など)を高効率に凝集沈殿させ、しかもポリアミノ酸又はポリアミノ酸塩の放射線架橋体は金属系凝集剤に主として起因する過剰な金属イオンを吸着して捕獲する新規な性質を有している。この新規な性質は本発明者によって初めて発見されたものであり、しかもポリアミノ酸又はポリアミノ酸塩は食品であるから安全性が極めて高いことが特徴である。また、この金属イオンの捕獲性能は、金属系凝集剤濃度をMとしたときに、放射線架橋体濃度mが0<m<M/2の範囲において効率よく発現するという臨界特性を有し、この臨界特性も本発明者によって見出されたものである。この範囲内において、金属系凝集剤と放射線架橋体を併用することによって、両凝集剤により懸濁物質を効率的に凝集沈殿させるだけでなく、上澄み液中に残留する金属イオンの濃度を低減させることが可能になる。この方法では、金属系凝集剤の添加濃度Mに制限がないから、飲料用原水などを浄化する場合には添加濃度Mを小さく適切に調節し、産業用廃水や下水などを対象とする場合には添加濃度を大きく調節して、水中の懸濁成分を確実に凝集沈殿させると同時に、しかも上澄み水に残留する金属イオン濃度を確実に低減させて、生物や環境の保全に貢献することができる。
【0017】
第2の発明は、金属系凝集剤を水に投入して汚濁物質を凝集分離する水の浄化方法において、金属系凝集剤の濃度Mが0<M≦40(mg/l)であるとき、その水にポリアミノ酸又はポリアミノ酸塩の放射線架橋体を投入し、その放射線架橋体濃度mを0<m≦M/2(mg/l)になるように調節して、被処理水中に残留する金属イオンの溶存濃度を低減させる水の浄化方法である。この発明は、第1の発明における金属系凝集剤の濃度Mを安全性の観点から0<M≦40(mg/l)の範囲に制限することにより、河川水・湖沼水・地下水などの飲料用原水の浄化方法に適用することができる。人の口に入る飲料用原水では、上澄み水の中に残留する金属イオンをほぼゼロにすることが要請され、ポリアミノ酸又はポリアミノ酸塩の放射線架橋体を併用することにより、金属イオン濃度をほぼゼロまで低減させることに成功したものである。しかも第1の発明が奏する前述した作用効果を同時に有することは云うまでも無い。
【0018】
第3の発明は、放射線架橋体の濃度mが0<m≦M/4(mg/l)になるように調節される水の浄化方法である。ポリアミノ酸又はポリアミノ酸塩の放射線架橋体は金属系凝集剤よりも高価であるから、放射線架橋体の添加量は極力少ない方が経済的である。本発明は、放射線架橋体の金属イオン捕獲性能が、放射線架橋体の濃度をmとして0<m≦M/4(mg/l)の範囲においても効率よく発現するという新規な知見に基づいて為されている。この結果、放射線架橋体の添加量を金属系凝集剤の添加量の1/4以下に低減でき、水の浄化コストの低減に寄与することができる。
【0019】
第4の発明は、ポリアミノ酸がγ―ポリグルタミン酸であり、ポリアミノ酸塩がγ―ポリグルタミン酸塩である水の浄化方法である。γ―ポリグルタミン酸やγ―ポリグルタミン酸塩は納豆の糸引き成分であり、それ自体食品であるから、飲料用などの水の浄化剤として使用されても極めて安全であり、しかもその凝集活性は極めて高いから、安全且つ高効率な水の浄化処理を行うことができる。
【0020】
第5の発明は、γ―ポリグルタミン酸又はγ―ポリグルタミン酸塩の放射線架橋体が、分子量が1000万以上の放射線架橋体を主成分とする水の浄化方法である。γ―ポリグルタミン酸が水に不溶であるのに対して、γ―ポリグルタミン酸又はγ―ポリグルタミン酸塩の放射線架橋体は水溶性を有している。この放射線架橋体の水溶性により、水に投入すると短時間に全体に溶解して凝集効果と金属イオン捕獲効果を短時間に奏し、浄化処理には最適の材料を提供できる。
【0021】
第6の発明は、γ―ポリグルタミン酸又はγ―ポリグルタミン酸塩が、γ―ポリグルタミン酸生産菌により生産されたγ―ポリグルタミン酸又はγ―ポリグルタミン酸塩である水の浄化方法である。菌産生のγ―ポリグルタミン酸又はγ―ポリグルタミン酸塩は化学合成品と異なり極めて安全性が高いから、通常の原水や排水に適用できるだけでなく、その中でも特に、人の口に入る飲食用原水の浄化剤として安心して使用できる利点がある。
【0022】
第7の発明は、γ―ポリグルタミン酸又はγ―ポリグルタミン酸塩の放射線架橋体が、γ―ポリグルタミン酸生産菌を培養して得られる培養物に放射線照射を施した放射線架橋体である水の浄化方法である。培養物そのものを用いるから、培養物からγ―ポリグルタミン酸又はγ―ポリグルタミン酸塩を単離する操作が不要となり、培養物中のγ―ポリグルタミン酸又はγ―ポリグルタミン酸塩を直ちに放射線架橋体に変換できる。この放射線架橋された培養物を凝集剤として利用できるから、凝集剤の生産価格の低減化に寄与できる。特に、液体培地で培養して得られる培養液の場合には、この培養液を凝集剤原液として活用できるので、凝集剤の添加時に水溶液調整などの手間が省け取扱が簡単になる。
【0023】
【発明の実施の形態】
本発明者は既に特開2002−210307において、γ―ポリグルタミン酸又はγ―ポリグルタミン酸塩の放射線架橋体が優れた凝集活性を有することを発表し、この放射線架橋体を用いて食品加工・発酵工業・上水道処理・産業廃水・下水などの水処理分野で実際の凝集試験を重ねてきた。γ―ポリグルタミン酸又はγ―ポリグルタミン酸塩がそれ自体で食品であり、人の口に入っても無害であるため、極めて安全な凝集剤であることが実証されている。
【0024】
本発明者の研究によれば、この凝集性能はγ―ポリグルタミン酸又はγ―ポリグルタミン酸塩の放射線架橋体に限られるものではなく、ポリアミノ酸又はポリアミノ酸塩の放射線架橋体に共通の性質であることが分かってきた。つまり、グルタミン酸はアミノ酸の一種に過ぎず、広範囲のポリアミノ酸やポリアミノ酸塩が放射線架橋によって強力且つ最高度の安全性を有した凝集剤になることが明らかになった。
【0025】
更なる研究によって、本発明者は、ポリアミノ酸又はポリアミノ酸塩の放射線架橋体が、水中に存在する多種多様な金属イオンを強力に吸着する新規な性質を有することを発見するに至った。つまり、ポリアミノ酸又はポリアミノ酸塩の放射線架橋体は、水中の微細な懸濁物質だけでなく、水中に広く分散する金属イオンをも吸着する性質を有している。
【0026】
前述した特開2002−210307において、γ―ポリグルタミン酸又はγ―ポリグルタミン酸塩の放射線架橋体にアルミニウム、カルシウム、鉄、マグネシウムから選ばれた一種以上の金属イオンを添加すると、懸濁物質に対する凝集性能が向上することが述べられている。
【0027】
この記載は、放射線架橋体と金属系凝集剤を併用することによって、放射線架橋体の凝集性能と金属系凝集剤の凝集性能を同時的に発揮させようとする意図である。放射線架橋体は高価であるから、放射線架橋体を単独で使用すると採算が合わない。そこで、比較的安価な金属系凝集剤を併用することによって、採算ラインに乗せようと意図したものである。
【0028】
しかし、この併用研究の中で、水中への金属イオンの残留が極めて少量になっている事実を本発明者は新たに発見したのである。金属系凝集剤を単独で用いると、凝集性能が高いにも拘わらず、水中に金属イオンが高濃度で残留するという重大な欠陥が従来から指摘されていた。
【0029】
ところが、前記放射線架橋体を金属系凝集剤に併用すると、両者の凝集性能が単にプラスされるだけでなく、放射線架橋体が水中の過剰な金属イオンを吸着して、凝集後における水中の金属イオン濃度が急減するという極めて新規な効果が発見されたのである。
【0030】
次に、本発明者は、放射線架橋体による金属イオン吸着性能の量的研究を開始した。換言すれば、水中における金属系凝集剤濃度M(mg/l)と放射線架橋体濃度m(mg/l)と水中に残留する金属イオン濃度C(mg/l)との相関関係を測定することによってこの量的研究は遂行される。
【0031】
その結果、金属系凝集剤濃度をM(mg/l)に設定したときに、金属イオン濃度C(mg/l)を飲料用原水や産業廃水・下水などの各種の水に対し要請される所要量以下にするには、放射線架橋体濃度m(mg/l)はm≦M/2の条件を満たせばよいことが判明した。即ち、放射線架橋体濃度mは金属系凝集剤濃度Mの1/2以下であれば、残留金属イオン濃度を所要量以下に低減できることが分かったのである。
【0032】
放射線架橋体が高価であることから、放射線架橋体濃度mを更に低減できるかどうかを実験したところ、前記した各種の水に対してm≦M/4の領域でも残留金属イオン濃度を所定水準以下に低減できることが分かった。即ち、放射線架橋体濃度mを金属系凝集剤濃度Mの1/4以下にまで減少しても、懸濁物質の凝集沈殿能力と同時に残留金属イオン濃度Cを所要量以下に低減できることが確認されたのである。
【0033】
従来の金属系凝集剤の凝集性能から考えると、金属系凝集剤を単独で用いる場合には、その添加量を増大することによって凝集効果の増大が得られるが、その反動として残留金属イオンの増大がもたらされる。しかし、人の口に入る飲料用原水の浄化方法では、金属系凝集剤は極力少ない方が良いに決まっている。そこで、金属系凝集剤濃度をどこまで低減できるかについて検討を行った。
【0034】
本発明では、放射線架橋体を併用することによって、金属系凝集剤の添加量の低減効果が発現するはずである。この研究を通して、飲料用原水や食品加工分野の水処理では、金属系凝集剤濃度Mの上限値は40(mg/l)であることが確認された。つまり、人の口に入る水処理においては、金属系凝集剤濃度Mは0<M≦40(mg/l)の範囲に限定できることが明らかになった。
【0035】
従って、飲料用原水などの浄化方法では、金属系凝集剤濃度Mが0<M≦40(mg/l)の範囲に限定され、併用される放射線架橋体濃度mは0<m≦M/2の範囲に制限できることが本発明者の研究により明らかにされた。更に、放射線架橋体の添加量を一層に低減させる観点から、放射線架橋体濃度mは0<m≦M/4の範囲にまで限定できることが確認された。
【0036】
つまり、飲料用原水などの浄化方法では、最大添加量で述べると、金属系凝集剤濃度Mを40(mg/l)としたとき、放射線架橋体濃度mは0<m≦20(mg/l)でよく、更には0<m≦10(mg/l)の範囲内で使用しても、残留金属イオン濃度Cを所要量以下に抑えることが可能になる。
【0037】
中間領域の添加量で説明すると、金属系凝集剤濃度Mを20(mg/l)としたときは、放射線架橋体濃度mは0<m≦10(mg/l)でよく、更には0<m≦5(mg/l)の範囲内で使用しても、残留金属イオン濃度Cを所要量以下に抑えることが可能になる。このように、本発明は、金属系凝集剤濃度Mと放射線架橋体濃度mの相互関係を数量的に規定する処理式を与えたことを内容としている。
【0038】
前述した特開2002−210307の実施例3において、陽イオンをγ―ポリグルタミン酸放射線架橋体に併用した凝集試験が開示されている。この例では、塩化アルミニウム濃度Mは1.3(mg/l)であるのに対し、γ―ポリグルタミン酸放射線架橋体濃度mは1.5(mg/l)である。この研究段階では、放射線架橋体濃度mの方が塩化アルミニウム濃度Mより大きくなっており、本発明により明らかにされた量的関係は満足されていない。この凝集剤の併用研究を進行する中で、本発明の量的関係が明らかにされ、本発明により初めて提案されたものである。
【0039】
本発明で使用できるアミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、ノルバリン、ロイシン、ノルロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、ジョードチロシン、スリナミン、トレオニン、セリン、プロリン、ヒドロキシプロリン、トリプトファン、チロキシン、メチオニン、シスチン、システイン、α―アミノ酪酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、ヒドロキシリジン、アルギニン、ヒスチジンなどである。これらのアミノ酸からなるポリアミノ酸又はポリアミノ酸塩が本発明に利用される。
【0040】
一般に、アミノ酸の構造式はNH2(COOH)―CH−Rで表される。ポリアミノ酸には同一アミノ酸が鎖状に重合したホモポリマーと複数種のアミノ酸が鎖状に重合したヘテロポリマーが存在する。ポリアミノ酸の中にある水素原子Hや酸素原子Oは水と水素結合するため、ポリアミノ酸は表面に水を吸着する保湿性を有する。
【0041】
この鎖状分子であるポリアミノ酸を放射線照射すると、例えば、ポリアミノ酸の中にあるCH2が脱水素反応によりCH−となり、2本のポリアミノ酸のCH−同士がCH−HCと結合して架橋体を形成する。多数のポリアミノ酸同士が放射線で架橋すると網目構造になり、この網目構造の内部に袋状の空間が多数形成される。脱水素反応以外の経路でも架橋反応が生じることはある。
【0042】
放射線による架橋はポリアミノ酸を加熱する事無く架橋できるので、アミノ酸本来の性質を残したままポリアミノ酸放射線架橋体を形成できる利点を有する。放射線架橋反応は低温架橋反応であり、加熱による架橋反応と異なる点が特徴である。加熱によりポリアミノ酸は熱変成を受けるが、本発明の放射線架橋では熱変成を受けない点に特徴を有する。
【0043】
前述したように、ポリアミノ酸放射線架橋体は多数の袋状空間を内部に有するため、この袋状空間に水分子を吸収保存する能力を有し、この作用によりポリアミノ酸よりも大きな保水性能を発現できる。この保水性能が、懸濁物質を吸収して凝集させる凝集性能であると考えられる。
【0044】
このポリアミノ酸放射線架橋体が金属イオン吸着性能を有する点については次のように考えられる。前述したように、ポリアミノ酸は水素や酸素を有しており、水素結合によって水中の水分を表面に吸着する性質がある。水中では、金属イオンの周囲に多数の水分子が水和している。この水和水がポリアミノ酸の表面に水素結合により吸着されるため、金属イオンを選択的に吸着するものと本発明者は現在考えている。
【0045】
また、ポリアミノ酸放射線架橋体の内部にある多数の袋状空間にも金属イオンが吸収されると考えられる。つまり、ポリアミノ酸放射線架橋体の表面と内部に金属イオンが懸濁物質と一緒に選択的に吸着されると考えられる。しかし、この金属イオン吸着性能のミクロメカニズムについてはまだ不明な点が多くあり、今後の研究に待たなければならない。
【0046】
次に、以上の特徴をより具体化するために、ポリアミノ酸の一例としてγ―ポリグルタミン酸について考察する。γ―ポリグルタミン酸は(−OOC−CH2−CH2−CH(COOH)NH―)nで表される鎖状分子で、添字nが重合度を与える。出発原料となるγ―ポリグルタミン酸は分子量の大きなもの、特に数十万〜数百万の分子量を有するものが好適であり、これらの分子量は前記重合度nによって決まる。
【0047】
このγ―ポリグルタミン酸に放射線を照射すると、脱水素反応によりCH2がCH−となり、2本のγ―ポリグルタミン酸の直鎖がCH−HCを介して連結し、[(−OOC−CH2−CH2−CH(COOH)NH―)n]2のように架橋すると考えられる。この架橋度が更に大きくなると、 [(−OOC−CH2−CH2−CH(COOH)NH―)n]mのような分子量の大きな放射線架橋体が生成される。ここで、mは架橋度を示し、架橋連結されるγ―ポリグルタミン酸の直鎖の本数を与える。
【0048】
架橋度mを更に大きくすることによって、γ―ポリグルタミン酸放射線架橋体の分子量を1000万以上にする。γ―ポリグルタミン酸はポリペプチド鎖であるから、−CH−HC−の連結により内部に多数の大きな空間が形成された網目構造となる。前述したように、この多数の内部空間に汚濁水を吸収して、汚濁物質を内部蓄積すると考えられている。しかも、その表面や内部空間に金属イオンを強力に吸着する性能を有している。
【0049】
本発明に係るポリアミノ酸は、種々の製造方法により生産されたものが用いられる。製法としては、例えば微生物による培養方法、化学合成法などがある。微生物により生産されたポリアミノ酸は天然物質であり、安全性の観点から推奨される。ポリアミノ酸の中でも、γ―ポリグルタミン酸が特に有力である。
【0050】
γ―ポリグルタミン酸の微生物培養法では、バチルス属のバチルス・スブチリス、バチルス・アントラシス、バチルス・メガテリウム、バチルス・ナットウ等の菌が利用できるが、特にバチルス・スブチリスのF−2−01株が生産量において好適である。この菌株は分子量が数十万〜数100万のγ―ポリグルタミン酸を産生し、その分子量が比較的大きいから、放射線によって効率よく架橋体を製造できる。
【0051】
微生物が産生するγ―ポリグルタミン酸は、古くより納豆の粘物質の主成分として食されているように、人畜無害な天然物であり、しかも食品であるという大きな特徴を有する。つまり、このγ―ポリグルタミン酸は凝集性能と金属イオン吸着性能を有するだけでなく、誤って食べてしまっても害が全く無く、逆に栄養分になるという点で優れている。
【0052】
前記微生物が産生するγ―ポリグルタミン酸は、枝分れのない直鎖状のγ―ペプチドで、L−グルタミン酸とD−グルタミン酸の共重合体、即ちヘテロポリマーである。このヘテロポリマー構造のγ―ポリグルタミン酸がポリアミノ酸の一例として使用される。
【0053】
微生物産生のγ―ポリグルタミン酸は、所要の養分を混入した液体培地に微生物を植種し、所要温度で所要時間培養して、培養液からγ―ポリグルタミン酸を単離して得られる。液体培地以外に固形培地を利用しても良い。本発明においては、γ―ポリグルタミン酸単体のみならず、培養液自体、また培養液から沈殿させて得られたγ―ポリグルタミン酸を含む培養物でも構わない。この培養物にはγ―ポリグルタミン酸と同時にγ―ポリグルタミン酸塩も生成されている。
【0054】
化学合成されるγ―ポリグルタミン酸には、L−グルタミン酸のホモポリマー、D−グルタミン酸のホモポリマー、これら両ホモポリマーの混合物など種々の構造のポリマーが生成される。これらの化学合成されたγ―ポリグルタミン酸もポリアミノ酸の一例として使用できる。つまり、ポリアミノ酸は化学合成品でもよいし、微生物合成品でも使用できる。水の凝集剤としては、安全性の観点から微生物合成品が推奨される。
【0055】
また、本発明で用いられるポリアミノ酸塩は、ポリアミノ酸と塩基性化合物の中和反応により塩として生成される。ポリアミノ酸と塩基性化合物を水などの溶媒に室温で溶解させ、加熱しながら攪拌すると効率的に生成される。塩基性化合物としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等、アンモニア、アミンなどの有機性の塩基性化合物がある。
【0056】
ポリアミノ酸と塩基性化合物の反応条件において、加熱温度は5〜100℃が望ましい。5℃以下では反応が遅くなり、100℃を超えると溶媒の一種である水が沸騰し反応が安定しない場合がある。また、pHは弱酸性〜弱塩基性の範囲が好ましく、特にpHは5〜10の範囲が好ましい。また、ポリアミノ酸と塩基性化合物の分量は過不足のない化学量論的反応量が適当である。
【0057】
本発明で用いられるポリアミノ酸又はポリアミノ酸塩は、分子量が数十万〜数百万に分布しているものが適当であり、微生物産生の場合には、その分子量は比較的大きく、上記範囲内に分布するものが多い。化学合成の場合でも、数十万以上に重合させたものが適当である。
【0058】
本発明では、このポリアミノ酸又はポリアミノ酸塩を放射線で架橋させて分子量が1000万以上の架橋体を生成する。1000万以上になると、放射線架橋体に無数の袋状空間が形成され、懸濁物質吸収性能と金属イオン吸着性能が実用に耐える程度に高くなる。
【0059】
ポリアミノ酸又はポリアミノ酸塩の単体を放射線照射するだけでなく、培養液・培養物・固形培地などを放射線照射して、ポリアミノ酸又はポリアミノ酸塩の放射線架橋体の単体や放射線架橋体の混入物を得ることができる。いずれも本発明に係る放射線架橋体として使用できる。特に、培養液に放射線照射した場合には、放射線架橋体含有液が生成され、被処理液に添加する場合に、取扱方法や濃度調整が容易である。
【0060】
架橋用の放射線としては、α線、β線、γ線、X線、電子線、中性子線、中間子線、イオン線などが利用できる。この中でも、操作性の良好さからγ線、X線、電子線が好適である。X線はX線管球又は非管球式の両者が利用でき、近年普及している電子リングから放射される放射光も利用できる。電子線はビームエネルギーに応じて公知の電子線照射装置が利用できる。
【0061】
γ線は放射線源を利用できる点で優れている。γ線源としてはコバルト60、ストロンチウム90、ジルコニウム95、セシウム137、セリウム141、ルテニウム177等があるが、半減期やエネルギーの観点からコバルト60やセシウム137が好適である。
【0062】
本発明では、ポリアミノ酸又はポリアミノ酸塩を放射線架橋することによって、分子量が1000万以上のポリアミノ酸又はポリアミノ酸塩の放射線架橋体を生成する。分子量を1000万以上に架橋すると、放射線架橋体の凝集特性が急増する。
【0063】
ポリアミノ酸を分子量1000万以上に架橋するには、ポリアミノ酸原料に吸収線量で1〜500kGyの放射線照射が必要で、1kGy以下では架橋がなかなか進行せず、また500kGyを超えると架橋が進行し過ぎるため、架橋体の網目構造によって形成される内部空間が小さくなり、逆に凝集活性が低下するようになる。架橋性及び凝集活性の観点から、吸収線量としては5〜100kGyが更に好適である。上記の事項は、γ―ポリグルタミン酸やγ―ポリグルタミン酸塩でも共通である。
【0064】
例えば、γ―ポリグルタミン酸及びγ―ポリグルタミン酸塩それ自体はアルコールやアセトンなどの有機溶媒に溶解しない性質を有している。また、γ―ポリグルタミン酸塩は水に溶解するが、γ―ポリグルタミン酸は水に溶解しない性質を有する。ところが、これに放射線架橋を施すと、放射線架橋体の表面が水や、含水アルコール・含水アセトンなどの含水有機溶媒に対して親和性を有するように改質される。この表面改質の特質はγ―ポリグルタミン酸以外のポリアミノ酸系にも見られる。
【0065】
従って、放射線架橋体となることによって、γ―ポリグルタミン酸及びγ―ポリグルタミン酸塩の両者が、水や含水有機溶媒に親和性を持つようになり、具体的には被処理水に溶解するようになる。この性質は他のポリアミノ酸にも見られるから、γ―ポリグルタミン酸を含むポリアミノ酸放射線架橋体を本発明に使用するものである。
【0066】
本発明において放射線架橋体と併用される金属系凝集剤は、金属無機凝集剤や金属有機凝集剤から構成される。無機凝集剤としては、塩基性塩化アルミニウム・硫酸アルミニウム・塩化アルミニウムなどのアルミニウム化合物、塩基性硫酸第二鉄・塩化第二鉄・塩化第一鉄などの鉄化合物など公知の水処理剤が利用される。また、金属有機凝集剤としては凝集性能を有する公知の金属有機化合物が利用される。
【0067】
本発明により浄化する対象物は水一般である。この水には、河川水・湖沼水・地下水・雨水などの飲料用原水、食品加工や発酵工業などにおいて使用される食品排水、池や堀や噴水などの観賞用水、プールなどの水泳用水、都市下水や家庭排水、産業廃水などが含まれる。
【0068】
本発明では、ポリアミノ酸又はポリアミノ酸塩からなる放射線架橋体と金属系凝集剤を併用して、水中に残留する金属イオンを急減させるから、飲料用原水に処理された場合には金属イオンの殆ど無い清澄な飲料水が提供できる。従って、本発明方法は上水道水や飲料用原水の浄化方法として最適である。
【0069】
例えば、上水道水処理に本発明を適用する場合について説明する。現在行われている通常処理では、河川などから原水を取水し、原水→沈砂池→凝集沈殿池→中間塩素処理池→急速砂ろ過池→塩素注入池→配水池の各工程を経て、浄化された水道水が各家庭・事業所に給水されている。
【0070】
また、高度処理では、原水→沈砂池→凝集沈殿池→中オゾン接触池→急速砂ろ過池→後オゾン接触池→活性炭吸着池→塩素接触池→配水池の各工程を経て、浄化された水道水が各家庭・事業所に給水されている。
【0071】
前記通常処理や高度処理において、本発明の浄化方法が適用される工程は凝集沈殿池の工程である。この凝集沈殿池では、硫酸バンド(硫酸アルミニウム)を投入して原水中の微細な懸濁物質(BOD成分、COD成分、SS成分など)を強制的に凝集沈殿させている。
【0072】
従来の通常処理では、硫酸バンドによって懸濁物質は沈殿処理されているが、過剰なアルミニウムイオンや難分解性物質が上澄み水の中にどうしても残留し、各工程を経てもアルミニウムイオンや難分解性物質が除去しきれず、水道水として家庭や事業所に給水されていた。また、従来の高度処理でも多少の難分解性物質は分解吸着処理できていたが、アルミニウムイオンや分解吸着できなかった難分解性物質は残留する傾向にあった。
【0073】
本発明方法では、硫酸バンドと同時に例えばγ―ポリグルタミン酸又はγ―ポリグルタミン酸塩の放射線架橋体を飲料用原水に投入する。硫酸バンド濃度Mを0<M≦40(mg/l)の範囲で調整し、放射線架橋体濃度mを0<m≦M/2(又は0<m≦M/4)の範囲に調整する。この結果、両凝集剤の相乗作用によって微細な懸濁物質(COD成分、BOD成分、SS成分)を沈殿させるだけでなく、難分解性物質も凝集処理することが可能になった。更に、従来処理では困難であったアルミニウムイオンも殆ど吸着沈殿させることができるようになった。
【0074】
本発明方法では、取水された原水に元々含まれていた金属イオンも同時に吸着沈殿されるから、飲料用原水の中に存在する不要な金属イオンをほぼ除去することができ、一般家庭や事業所に金属イオンが殆ど含有されていない清澄な水道水を供給することができる。
【0075】
また、本発明方法では、硫酸バンドと同時に例えばγ―ポリグルタミン酸又はγ―ポリグルタミン酸塩の放射線架橋体を下水に投入する。下水や産業廃水の場合には、投入される金属系凝集剤は多量でもよい。従って、硫酸バンド濃度Mを0<M≦100(mg/l)の範囲で調整し、放射線架橋体濃度mを0<m≦M/2(又は0<m≦M/4)の範囲に調整する。この結果、両凝集剤の相乗作用によって微細な懸濁物質(COD成分、BOD成分、SS成分)を沈殿させるだけでなく、難分解性物質も凝集処理することが可能になった。更に、従来処理では困難であったアルミニウムイオンも殆ど吸着沈殿させることができるようになった。
【0076】
この本発明方法では、下水や産業廃水に元々含まれていた金属イオンも同時に吸着沈殿されるから、下水や産業廃水の中に存在する不要な金属イオンをほぼ除去することができ、下水や産業用水として流通する水の中から金属イオンをほぼ一掃して、環境に優しい水作りに貢献できる。
【0077】
【実施例】
[実施例1:硫酸アルミニウムと放射線架橋体(PG21):河川水]
実施例1では、淀川の長柄堰上流水を被処理水とした。この被処理水は、CODが3、pHは6.91、アンモニア態窒素は0.4であった。この被処理水に対し、硫酸アルミニウム12〜18水和物(硫酸アルミニウムと称する)とポリグルタミン酸放射線架橋体(以下ではPG21と称する)を凝集剤として投入した。
【0078】
被処理水試料200mlに硫酸アルミニウムとPG21を所定濃度で添加し、60分間静置した後、溶液をガラスフィルターでろ過し、溶存アルミニウム濃度を簡易水質分析製品であるパックテスト(共立理化学研究所製、測定限界0.05mg/l)を用いて測定した。また、比較するために、硫酸アルミニウムだけを凝集剤として添加して、同様のパックテストを用いて溶存アルミニウム濃度を測定した。結果は図1に示されている。
【0079】
硫酸アルミニウム濃度Mは、5、10、20、30、40(mg/l)の5段階に調整され、PG21濃度mは全ての場合に対して5(mg/l)に調整された。ブランクテストとして、硫酸アルミニウムもPG21も添加しない場合、即ちM=0(mg/l)、m=0(mg/l)の場合も試験された。NDはNo Detectedの略で、溶存アルミニウム濃度がこのパックテストでは検出されなかったことを示している。
【0080】
PG21が硫酸アルミニウムと共に添加された場合には、溶存アルミニウム濃度はM=5(mg/l)を除いて検出されなかった。このことはPG21が添加された場合には、アルミニウムイオンがPG21に吸着されて沈殿することを意味している。
【0081】
硫酸アルミニウム濃度Mが5(mg/l)では、凝集効果が小さく、小さなフロックが形成されても沈降は生じなかった。このため、アルミニウムイオンが0.05(mg/l)だけ溶存したものと推定される。
【0082】
他方、硫酸アルミニウムだけが添加された場合には、硫酸アルミニウム濃度Mが増加するにつれて溶存アルミニウム濃度Cも増加しており、無視し得ない量のアルミニウムイオンが水中に溶存状態で残留することが分かった。
【0083】
PG21がm=5(mg/l)の微量だけ添加されることによって、残留アルミニウムイオンの50%以上が除去されることも分かった。従って、硫酸アルミニウムと共にPG21を添加することによって、アルミニウムイオンを吸着沈殿できることが実証された。
【0084】
[実施例2:PACと放射線架橋体(PG21):河川水]
実施例2では、淀川の長柄堰より200m上流にて採取された河川水を被処理水とした。この被処理水は、CODが3、pHは7.46、アンモニア態窒素は0.4であった。この被処理水に対し、主成分がポリ塩化アルミニウムの市販水処理用凝集剤PAC(以下、PACと称する)とポリグルタミン酸放射線架橋体(PG21)を凝集剤として投入した。
【0085】
被処理水試料200mlにPACとPG21を所定濃度で添加し、60分間静置した後、上澄み水の溶存アルミニウム濃度をパックテストを用いて測定した。また、比較するために、PACだけを凝集剤として添加して、同様のパックテストを用いて溶存アルミニウム濃度を測定した。結果は図2に示されている。
【0086】
PAC濃度Mは、5、10、20、30(mg/l)の4段階に調整され、PG21濃度mはPAC濃度Mの1/2及び1/4に調整された。但し、M=30(mg/l)に対してはm=10(=M/3)及び5(=M/6)に調整された。ブランクテストとして、PACもPG21も添加しない場合、即ちM=0(mg/l)、m=0(mg/l)の場合も試験された。NDはNo Detectedの略で、溶存アルミニウム濃度がこのパックテストでは検出されなかったことを示している。
【0087】
PG21が硫酸アルミニウムと共に添加された場合には、溶存アルミニウム濃度はM=30(mg/l)を除いて検出されなかった。このことはPG21が添加された場合には、アルミニウムイオンがPG21に吸着されて沈殿することを意味している。
【0088】
PAC濃度Mが30(mg/l)では、PG21濃度mが5(mg/l)でも10(mg/l)でも溶存アルミニウム濃度Cは0.3(mg/l)だけ検出された。このことから、PACは実施例1の硫酸アルミニウムより残留しやすい傾向があるが、PG21を併用することによって、その残留性が抑制されると考えられる。
【0089】
他方、PACだけが添加された場合には、PAC濃度Mが増加するにつれて溶存アルミニウム濃度Cも増加しており、無視し得ない量のアルミニウムイオンが水中に溶存状態で残留することが分かった。また、このことから、PG21を併用すると、M=30(mg/l)の場合でも溶存アルミニウム濃度Cは1/3〜1/4に減少することが分かった。
【0090】
以上から、PACを使用して水処理を行っても、PAC濃度MがM≦20(mg/l)であれば、PG21濃度mをm≦M/4の範囲で添加するだけで、残留アルミニウムイオンを殆ど除去できることが実証された。
【0091】
[実施例3:ポリ硫酸第二鉄と放射線架橋体(PG21):河川水]
実施例3では、淀川の長柄堰より200m上流にて採取された河川水を被処理水とした。この被処理水は、CODが3、pHは7.46、アンモニア態窒素は0.4であった。この被処理水に対し、ポリ硫酸第二鉄とポリグルタミン酸放射線架橋体(PG21)を凝集剤として投入した。
【0092】
被処理水試料200mlにポリ硫酸第二鉄とPG21を所定濃度で添加し、60分間静置した後、上澄み水の溶存鉄濃度をパックテストを用いて測定した。また、比較するために、ポリ硫酸第二鉄だけを凝集剤として添加して、同様のパックテストを用いて溶存鉄濃度を測定した。結果は図3に示されている。
【0093】
ポリ硫酸第二鉄濃度Mは、5、10、20、30(mg/l)の4段階に調整された。PG21濃度mはM/2(M=5)、M/2とM/4(M=10)、M/4とM/8(M=20)、M/3とM/6とM/12(M=30)に調整された。ブランクテストとして、ポリ硫酸第二鉄もPG21も添加しない場合、即ちM=0(mg/l)、m=0(mg/l)の場合も試験された。NDはNo Detectedの略で、溶存鉄濃度がこのパックテストでは検出されなかったことを示している。
【0094】
PG21が硫酸アルミニウムと共に添加された場合には、溶存アルミニウム濃度はM=30(mg/l)を除いて検出されなかった。このことはPG21が添加された場合には、アルミニウムイオンがPG21に吸着されて沈殿することを意味している。
【0095】
ポリ硫酸第二鉄濃度MがM≧10(mg/l)では、PG21を添加しても溶存鉄濃度Cが検出された。このことから、ポリ硫酸第二鉄は実施例2のPACより残留しやすい傾向にあると云える。即ち、金属イオンの溶存力はポリ硫酸第二鉄>PAC>硫酸アルミニウムの順になり、PG21と併用される金属系凝集剤として硫酸アルミニウムが推奨される。
【0096】
他方、ポリ硫酸第二鉄だけが添加された場合には、ポリ硫酸第二鉄濃度Mが増加するにつれて溶存鉄濃度Cも増加しており、無視し得ない量の鉄イオンが水中に溶存状態で残留することが分かった。また、このことから、PG21を併用すると、溶存鉄イオンの60〜70%が除去できることが分かった。
【0097】
以上から、ポリ硫酸第二鉄を使用して水処理を行っても、ポリ硫酸第二鉄濃度MがM≦5(mg/l)であれば、PG21濃度mをm≦M/2の範囲で添加するだけで、残留鉄イオンを殆ど除去できることが実証された。
【0098】
[実施例4:PACと放射線架橋体(PG21):下水]
実施例4では、都市下水200mlにPACとPG21を所定濃度で添加し、60分間静置した後、上澄み水の溶存アルミニウム濃度をパックテストを用いて測定した。また、比較するために、PACだけを凝集剤として添加して、同様のパックテストを用いて溶存アルミニウム濃度を測定した。各濃度における汚物除去率も測定され、結果は図4に示されている。
【0099】
PAC濃度Mは、10、30、50、100(mg/l)の4段階に調整され、PG21濃度mは5、10(mg/l)に設定された。このとき、PG21濃度mはPAC濃度Mの1/1、1/2、1/3、1/5、及び1/10に対応している。ブランクテストとして、PACもPG21も添加しない場合が試験された。NDはNo Detectedの略で、溶存アルミニウム濃度がこのパックテストでは検出されなかったことを示している。
【0100】
下水中の汚物を除去するためには、PAC濃度をかなり高濃度に調節する必要があるが、この実施例4でもPAC濃度Mが10及び30(mg/l)では汚物除去率はゼロであった。しかし、PAC濃度Mを50から100(mg/l)に増加させると、汚物除去率は20%から80%になることが分かった。
【0101】
汚物除去率がゼロの場合には、下水中のアルミニウムイオン濃度Cは0.1又は0.5(mg/l)になることが検出されたが、Mが50及び100(mg/l)ではアルミニウムイオンは検出されなかった。従って、凝集沈殿が生じると、アルミニウムイオンも同時に吸着されて沈殿することが分かった。
【0102】
PG21を添加しない場合、即ちPACのみを下水試料に添加して凝集沈殿の試験を行った。PAC濃度Mを50及び100(mg/l)に調節した場合でも、アルミニウムイオン濃度Cは2及び3(mg/l)と高濃度に残留することが検出された。しかも汚物除去率もM=100(mg/l)で10%になるだけで、大量の汚物が沈殿しないまま懸濁することが分かった。
【0103】
以上の結果から、PG21は汚物に対する凝集沈殿作用を強力に有しており、しかもアルミニウムイオンを吸着して汚物と一緒に効率的に凝集沈殿させる作用を有することが実証された。
【0104】
[実施例5:PACと放射線架橋体(PG21):産業廃水]
実施例5では、産業廃水200mlにPACとPG21を所定濃度で添加し、60分間静置した後、上澄み水の溶存アルミニウム濃度をパックテストを用いて測定した。また、比較するために、PACだけを凝集剤として添加して、同様のパックテストを用いて溶存アルミニウム濃度を測定した。各濃度における汚物除去率も測定され、結果は図5に示されている。
【0105】
PAC濃度Mは、50、100(mg/l)の2段階に調整され、PG21濃度mは10(mg/l)に設定された。このとき、PG21濃度mはPAC濃度Mの1/5及び1/10に対応している。ブランクテストとして、PACもPG21も添加しない場合が試験された。NDはNo Detectedの略で、溶存アルミニウム濃度がこのパックテストでは検出されなかったことを示している。
【0106】
産業廃水中の汚物を除去するためには、PAC濃度をかなり高濃度に調節する必要があり、この点は下水と同様である。この実施例5でも、PAC濃度Mを50から100(mg/l)に増加させると、汚物除去率は20%から80%に上昇するが分かった。
【0107】
また、Mが50及び100(mg/l)ではアルミニウムイオンは検出されなかった。つまり、凝集沈殿が生じると、アルミニウムイオンも同時に吸着されて沈殿することが分かり、下水と同様の作用効果を示すことが実証された。
【0108】
PG21を添加しない場合、即ちPACのみを産業廃水試料に添加して凝集沈殿の試験を行った。PAC濃度Mを50及び100(mg/l)に調節した場合でも、アルミニウムイオン濃度Cは2及び3(mg/l)と高濃度に残留することが分かった。しかも汚物除去率もM=100(mg/l)で10%になるだけで、大量の汚物が沈殿しないまま懸濁することが分かった。
【0109】
以上の結果から、産業廃水に対しても、PG21は汚物に対する凝集沈殿作用を強力に有しており、しかもアルミニウムイオンを吸着して汚物と一緒に凝集沈殿させる作用を有することが実証された。
【0110】
以上では、被処理水として飲料用原水、下水及び産業廃水を用いて浄化方法を説明したが、本発明により浄化できる対象物は水一般である。つまり、この発明は、河川水・湖沼水・地下水・雨水などの飲料用原水、食品加工や発酵工業などにおいて使用される食品排水、池や堀や噴水などの観賞用水、プールなどの水泳用水、都市下水や産業廃水、家庭用排水などの広範囲の水を浄化することができる。
【0111】
本発明は上記実施形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲における種々の変形例や設計変更もその技術的範囲内に包含されるものであることは云うまでもない。
【0112】
【発明の効果】
第1の発明によれば、ポリアミノ酸又はポリアミノ酸塩の放射線架橋体、並びに金属系凝集剤は水中の懸濁物質(COD成分、BOD成分、SS成分など)を高効率に凝集沈殿させることができ、しかもポリアミノ酸又はポリアミノ酸塩の放射線架橋体は金属系凝集剤に主として起因する金属イオンを選択的に吸着捕獲するから水中に残留する金属イオンを急減させることができる。ポリアミノ酸又はポリアミノ酸塩は食品であるから安全性が極めて高く、しかも金属イオンが残留しないから高安全性の水を提供でき、一般の水処理に適用できるだけでなく、飲料用原水や食品排水などの浄化処理に最も適した浄化方法を提供できる。また、この金属イオンの捕獲性能は、金属系凝集剤濃度をMとしたときに、放射線架橋体濃度mが0<m<M/2の範囲において効率よく発現するという新規な臨界特性を有し、この結果高価な放射線架橋体の添加量が安価な金属系凝集剤の半分以下で済むため、経済的な水処理方法を提供できる。
【0113】
第2の発明によれば、第1の発明における金属系凝集剤の濃度Mを安全性の観点から0<M≦40(mg/l)の範囲に制限することにより、河川水・湖沼水・地下水などの飲料用原水の浄化方法に適用することができる。人の口に入る飲料用原水では、上澄み水の中に残留する金属イオンをほぼゼロにすることが要請され、ポリアミノ酸又はポリアミノ酸塩の放射線架橋体を併用することにより、金属イオン濃度をほぼゼロまで低減させることに成功したものである。しかも第1の発明が奏する前述した作用効果を同時に有することは云うまでも無い。更に、金属系凝集剤と放射線架橋体の併用により、金属系凝集剤濃度Mも0<M≦40(mg/l)の比較的狭い範囲に制限できるから、凝集剤の総添加量を低減することができ、浄化コストの削減に貢献できる。
【0114】
第3の発明によれば、放射線架橋体の濃度mを0<m≦M/4(mg/l)の範囲に制限しても、懸濁物質の強制凝集と金属イオンの残留防止を実現できるから、第1及び第2の発明と比較して更に経済的な水処理方法を提供できる。
【0115】
第4の発明によれば、それ自体が食品であるγ―ポリグルタミン酸やγ―ポリグルタミン酸塩の放射線架橋体を水の浄化剤として使用するから、極めて安全性の高い水処理方法を提供できる。
【0116】
第5の発明によれば、分子量が1000万以上のγ―ポリグルタミン酸又はγ―ポリグルタミン酸塩の放射線架橋体を用いるから、水溶性が極めて高いと同時に、無数の袋状空間を内蔵して吸着凝集性能が極めて高い水の浄化方法を実現できる。従って、凝集効果と金属イオン捕獲効果を短時間に奏し、浄化処理に最適の方法である。
【0117】
第6の発明によれば、菌産生のγ―ポリグルタミン酸又はγ―ポリグルタミン酸塩は化学合成品と異なり極めて安全性が高いから、一般の水処理に適用できるだけでなく、人の口に入る飲食用原水の浄化方法として安心して使用できる利点がある。
【0118】
第7の発明によれば、培養物を放射線架橋した凝集剤を使用するから、γ―ポリグルタミン酸の低価格化を実現でき、結果的に水処理コストの低減を実現できる。また、液体培地で培養して得られる培養液の場合には、この培養液を凝集剤原液として活用できるので、凝集剤の添加時に水溶液調整などの手間が省け取扱が簡単になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】硫酸アルミニウムと放射線架橋体(PG21)により河川水を浄化する場合に、アルミニウムイオンの除去効果を示している。
【図2】ポリ塩化アルミニウム(PAC)と放射線架橋体(PG21)により河川水を浄化する場合に、アルミニウムイオンの除去効果を示している。
【図3】ポリ硫酸第二鉄と放射線架橋体(PG21)により河川水を浄化する場合に、鉄イオンの除去効果を示している。
【図4】ポリ塩化アルミニウム(PAC)と放射線架橋体(PG21)により下水を浄化する場合に、アルミニウムイオンの除去効果と汚物除去率を示している。
【図5】ポリ塩化アルミニウム(PAC)と放射線架橋体(PG21)により産業廃水を浄化する場合に、アルミニウムイオンの除去効果と汚物除去率を示している。
Claims (7)
- 金属系凝集剤を水に投入して汚濁物質を凝集分離する水の浄化方法において、水中における金属系凝集剤の濃度をM(mg/l)としたとき、その水にポリアミノ酸又はポリアミノ酸塩の放射線架橋体を投入し、その放射線架橋体濃度mを0<m≦M/2(mg/l)になるように調節して、水中の残留金属イオン濃度を低減させることを特徴とする水の浄化方法。
- 金属系凝集剤を水に投入して汚濁物質を凝集分離する水の浄化方法において、金属系凝集剤の濃度Mが0<M≦40(mg/l)であるとき、その水にポリアミノ酸又はポリアミノ酸塩の放射線架橋体を投入し、その放射線架橋体濃度mを0<m≦M/2(mg/l)になるように調節して、水中の残留金属イオン濃度を低減させることを特徴とする水の浄化方法。
- 前記放射線架橋体の濃度mが0<m≦M/4(mg/l)になるように調節される請求項1又は2に記載の水の浄化方法。
- 前記ポリアミノ酸がγ―ポリグルタミン酸であり、前記ポリアミノ酸塩がγ―ポリグルタミン酸塩である請求項1、2又は3に記載の水の浄化方法。
- 前記γ―ポリグルタミン酸又はγ―ポリグルタミン酸塩の放射線架橋体は、分子量が1000万以上の放射線架橋体を主成分とする請求項4に記載の水の浄化方法。
- 前記γ―ポリグルタミン酸又はγ―ポリグルタミン酸塩は、γ―ポリグルタミン酸生産菌により生産されたγ―ポリグルタミン酸又はγ―ポリグルタミン酸塩である請求項4に記載の水の浄化方法。
- 前記γ―ポリグルタミン酸又はγ―ポリグルタミン酸塩の放射線架橋体は、γ―ポリグルタミン酸生産菌を培養して得られる培養物に放射線照射を施した放射線架橋体である請求項4に記載の水の浄化方法。
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