JP3831336B2 - ダイオキシン汚染水浄化方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、河川水・湖沼水・地下水・雨水などの水道用原水や産業排水・下水等の排水の浄化方法に関し、更に詳細には、ダイオキシン類を含有した汚染水からダイオキシン類を除去して安全な水にまで浄化するダイオキシン汚染水浄化方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
浄化処理の対象となる飲料用原水や排水・下水などの被処理水には、BOD成分・COD成分・SS成分が含まれるだけでなく、猛毒性を有するダイオキシン類なども含有されていることが近年分かってきている。しかしながら、従来の水の浄化処理においては、上記BOD成分・COD成分・SS成分を除去することに注力されており、ダイオキシン類の浄化方法は後手に回っているのが現状である。
【0003】
ダイオキシン類は廃棄物の焼却処理において生成され、注目を浴びるに至った猛毒性を有する化学物質である。日本では廃棄物はまず焼却され、その焼却残渣が埋立処理されている。廃棄物の中に塩素系の有機物やプラスチックスが含まれていると、焼却によってダイオキシン類が中間物質として生成され、このダイオキシン類が焼却残渣の中に混入することになる。
【0004】
このダイオキシン類は青酸カリよりも毒性が強く、人口物質としては最も強い毒性を有する物質であると云われている。ダイオキシン類の中でも2,3,7,8-TCDDは高濃度暴露では発ガン性を有し、そのメカニズムはガン化を促進するプロモーション作用であると言われている。
【0005】
また、ダイオキシン類は、動物実験では、口蓋裂や水腎症などの奇形を誘発し、多量の暴露では、生殖機能・甲状腺機能・免疫機能への影響があると云われている。動物に対する影響は当然に人に対しても同様の影響があることを暗示させる。これらの研究から、ダイオキシン類が環境中に存在することは極めて危険であり、ダイオキシン類を土中・水中・大気中から分離除去することが極めて重要であると云わなければならない。
【0006】
しかしながら、焼却残渣が埋立処分されると、その中に含まれていたダイオキシン類が雨水に溶解して処分場から漏水し、海・地下水・河川に流入して環境汚染を引き起こす。このダイオキシンが食物連鎖を通して濃縮され、魚介類などの食品や水道水を通して人体に蓄積される可能性も否定できない。
【0007】
焼却により発生するダイオキシン類は溶融炉などの高温焼却によってほぼ除去できることが分かったが、水中に流出したダイオキシン類は分離して分解する以外に方法が無い。そこで、ダイオキシン汚染水からダイオキシン類を分離する技術として、凝集剤による沈殿処理、活性炭による吸着処理、また膜分離処理が実施されている。
【0008】
また、分解処理方法として、紫外線やオゾンを使用した分解処理法、脱塩素化と促進酸化法の組合せ処理法、糸状菌・白色腐朽菌などによる微生物分解法などが開発されつつある。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これらの従来技術には次のような弱点がある。まず、通常行われている凝集剤による凝集沈澱処理では、微粒子の沈降速度が遅いため、汚染水のダイオキシン類を30%程度しか除去できないと云われている。また、活性炭による吸着処理では、高価な活性炭が大量に必要になるため処理価格が高騰するだけでなく、ダイオキシン類の吸着力に限界があることが指摘されている。膜分離では、少量の汚染水を処理することができるものの、河川水のように大量の汚染水を浄化処理する能力には限界がある。
【0010】
更に、紫外線やオゾンを使用した分解処理法では、紫外線処理装置やオゾン処理装置が必要になり、膨大な設備投資が必要になる。また、脱塩素化と促進酸化法の組合せ処理法では、全体の装置構成が大規模且つ複雑になるため大幅な設備投資が必要になり、結果的に処理コストが高騰する。これらの処理方法は大規模施設では実現可能であるが、小規模施設では資金面の制約で実現できない。
【0011】
また、近年注目を浴びている糸状菌・白色腐朽菌などによる微生物分解法は、化学物質を使わないため安全性が高いという利点がある。しかし、微生物処理であるために処理速度が比較的遅く、また微生物処理特有の設備を備えなければならない。しかも、微生物の培養作業は専門性が高いため人的コストも高騰し、最終的に処理コストが上昇するという問題がある。
【0012】
従って、本発明は、通常の凝集処理設備を用いて、COD成分・BOD成分・SS成分を除去しながら、同時にダイオキシン類を低コストで効率的に分離除去できるダイオキシン汚染水浄化方法を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記課題を解消するためになされたものであり、第1の発明は、ダイオキシン類を含有した汚染水に金属系凝集剤とポリアミノ酸又はポリアミノ酸塩の放射線架橋体を添加してダイオキシン類を凝集沈殿させ、汚染水中のダイオキシン濃度を低下させるダイオキシン汚染水浄化方法である。放射線架橋体は単独でも水中に溶解するが、水中で金属イオンと共存状態にあるときには溶解度が急激に低下する新規な性質を有していることを本発明者等は発見した。更に、本発明者等は、金属イオンとの共存状態で、放射線架橋体が凝集沈殿する際に、水中に溶解しているダイオキシン類が放射線架橋体に吸着されて強制的に同時沈殿する性質を新たに発見して本発明を完成するに至ったのである。金属系凝集剤と放射線架橋体を汚染水に共存させるだけでよいから、通常の凝集処理設備によりダイオキシン除去処理が可能であり、特別の装置や設備が不要のため低コストでダイオキシン処理が実現できる。また、汚染水中に存在するCOD成分やBOD成分やSS成分なども金属系凝集剤と放射線架橋体によって凝集沈殿させることができるから、ダイオキシン類の除去と同時に通常の浄水処理も実現できる画期的な浄化処理方法を提供できる。
【0014】
第2の発明は、放射線架橋体を水中濃度が3ppmを超えるように添加するダイオキシン汚染水浄化方法である。放射線架橋体は単独では水中に約500ppmまで溶解するが、金属イオンと共存するときには溶解度は約3ppmにまで低減することを本発明者等は新たに発見したのである。従って、ダイオキシン汚染水に約3ppmを超えて放射線架橋体を溶解させ、これに金属系凝集剤を介して金属イオンを添加すると、約3ppmを超えている過剰分量に相当する放射線架橋体が凝集沈殿を始め、この放射線架橋体の凝集沈殿によってダイオキシン類を強制沈殿させるものである。本発明は約3ppmという溶解度の臨界値を発見することによって達成されたものであり、比較的高価な放射線架橋体を約3ppmを超える程度に添加するだけでよいから、低コストでダイオキシンの除去処理が可能になる。
【0015】
第3の発明は、金属系凝集剤の水中濃度を1〜3ppm以上に調整するダイオキシン汚染水浄化方法である。放射線架橋体によりダイオキシン類を選択的に凝集沈殿させる効果は、共存させる金属系凝集剤濃度が1〜3ppm以上で発現する。この範囲内でのバラツキは汚染水の汚染濃度に影響されるものである。放射線架橋体を、この程度の濃度の金属系凝集剤と共存させるだけでダイオキシン類を凝集沈殿できるから、ダイオキシン除去処理を低コストで行うことが可能となる。
【0016】
第4の発明は、ポリアミノ酸がγ―ポリグルタミン酸であり、ポリアミノ酸塩がγ―ポリグルタミン酸塩であるダイオキシン汚染水浄化方法である。γ―ポリグルタミン酸やγ―ポリグルタミン酸塩は納豆の糸引き成分であり、それ自体食品であるから、飲料用原水などの浄化剤として使用されても極めて安全であり、しかもその凝集活性は極めて高いから、安全且つ高効率にダイオキシン汚染水の浄化処理を行うことができる。
【0017】
第5の発明は、γ―ポリグルタミン酸又はγ―ポリグルタミン酸塩の放射線架橋体が、分子量が1000万以上の放射線架橋体を主成分とするダイオキシン汚染水浄化方法である。γ―ポリグルタミン酸が水に難溶であるのに対して、γ―ポリグルタミン酸又はγ―ポリグルタミン酸塩の放射線架橋体は水溶性を有している。この放射線架橋体の水溶性により、ダイオキシン汚染水に投入すると短時間に全体に溶解してダイオキシンを効果的に吸着して凝集沈殿させることができ、ダイオキシン捕獲効果を短時間に奏し、ダイオキシン除去処理には最適の材料を提供できる。
【0018】
第6の発明は、γ―ポリグルタミン酸又はγ―ポリグルタミン酸塩が、γ―ポリグルタミン酸生産菌により生産されたγ―ポリグルタミン酸又はγ―ポリグルタミン酸塩であるダイオキシン汚染水浄化方法である。菌産生のγ―ポリグルタミン酸又はγ―ポリグルタミン酸塩は化学合成品と異なり極めて安全性が高いから、通常の原水や排水に適用できるだけでなく、その中でも特に、人の口に入る飲食用原水の浄化剤として安心して使用できる利点がある。
【0019】
第7の発明は、γ―ポリグルタミン酸又はγ―ポリグルタミン酸塩の放射線架橋体が、γ―ポリグルタミン酸生産菌を培養して得られる培養物に放射線照射を施した放射線架橋体であるダイオキシン汚染水浄化方法である。培養物そのものを用いるから、培養物からγ―ポリグルタミン酸又はγ―ポリグルタミン酸塩を単離する操作が不要となり、培養物中のγ―ポリグルタミン酸又はγ―ポリグルタミン酸塩を直ちに放射線架橋体に変換できる。この放射線架橋された培養物を凝集剤として利用できるから、凝集剤の生産価格の低減に寄与できる。特に、液体培地で培養して得られる培養液の場合には、この培養液を凝集剤原液として活用できるので、凝集剤の添加時に水溶液調整などの手間が省け取扱が簡単になる利点がある。
【0020】
第8の発明は、ダイオキシン類を含有した汚染水に金属系凝集剤とポリアミノ酸又はポリアミノ酸塩の放射線架橋体を添加してダイオキシン類を凝集沈殿させ、ダイオキシンを含んで凝集沈殿した放射線架橋体をダイオキシン分解微生物に栄養源として与え、このダイオキシン分解微生物によりダイオキシン類を分解させて無害化するダイオキシン分解方法である。ポリアミノ酸又はポリアミノ酸塩の放射線架橋体は栄養源であるから、ダイオキシン類を吸着して沈殿した放射線架橋体をダイオキシン分解微生物に与えれば、放射線架橋体を栄養源にして微生物は増殖活動し、その増殖活動の中でダイオキシン類が分解されて無毒化されるのである。従って、ダイオキシン分解微生物の繁殖槽を用意し、回収した廃棄物を栄養源とするから、極めて安価にダイオキシン類を分解することができる。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明者は既に特開2002−210307において、γ―ポリグルタミン酸又はγ―ポリグルタミン酸塩の放射線架橋体が優れた凝集活性を有することを発表し、この放射線架橋体を用いて食品加工・発酵工業・上水道処理・産業廃水・下水などの水処理分野で実際の凝集試験を重ねてきた。γ―ポリグルタミン酸又はγ―ポリグルタミン酸塩がそれ自体で食品であり、人の口に入っても無害であるため、極めて安全な凝集剤であることを実証してきている。
【0022】
本発明者の研究によれば、この凝集性能はγ―ポリグルタミン酸又はγ―ポリグルタミン酸塩の放射線架橋体に限られるものではなく、ポリアミノ酸又はポリアミノ酸塩の放射線架橋体に共通の性質であることが分かってきた。つまり、グルタミン酸はアミノ酸の一種に過ぎず、広範囲のポリアミノ酸やポリアミノ酸塩が放射線架橋によって強力且つ最高度の安全性を有した凝集剤になることが明らかになった。
【0023】
更なる研究によって、本発明者等は、ポリアミノ酸又はポリアミノ酸塩の放射線架橋体を金属系凝集剤と併用すると、水中に微量に存在するダイオキシン類を強力に吸着して凝集沈殿させる性質を発見するに至った。
【0024】
まず、ダイオキシン類について説明する。ダイオキシン類はゴミ焼却炉の中で塩素系有機化合物から生成されることが分かって問題となった。現在ではダイオキシン類を生成しない高温焼却炉が採用されつつあり、従来から存在している焼却炉は廃棄されつつある。この問題を契機として、ダイオキシン類に対する規正法として、ダイオキシン類対策特別措置法が1999年に公布され、現在に至っている。
【0025】
この法律により、ダイオキシン類とは、ポリ塩化ジベンゾ−パラ−ジオキシン(以後PCDDと云う)、ポリ塩化ジベンゾフラン(以後PCDFと云う)及びコプラナーポリ塩化ビフェニール(以後コプラナーPCBと云う)から構成されると定義されている。この明細書では、ダイオキシン類のことをダイオキシンとも呼んでいる。
【0026】
PCDDは2個のベンゼン環が2個のOを介して結合した化合物で、ベンゼン環にHとClが付加することによって75種類のPCDD化合物群(PCDDsと云う)が存在する。また、PCDFは2個のベンゼン環が1個のOを介して結合した化合物で、ベンゼン環にHとClが付加することによって135種類のPCDF化合物群(PCDFsと云う)が存在することが知られている。
【0027】
コプラナーPCBは2個のベンゼン環が直接結合した化合物で、ダイオキシン類と同様の毒性を示すダイオキシン類似化号物である。ベンゼン環にHとClが付加することにより十数種類のPCB化合物群(PCBsと云う)が存在する。以上のPCDDs、PCDFs及びPCBsの中で毒性があると見られている物質は29種類である。
【0028】
PCDDの中で2、3、7、8の位置に塩素が付加した2,3,7,8−TCDDが最も毒性が強いダイオキシンとして知られて、この毒性を1として他のダイオキシン類化合物の毒性等価係数(TEFと云う)を定めている。
【0029】
本発明のように水のダイオキシン濃度を分析する場合には、サンプル中に含有される各種のダイオキシンの濃度を測定し、この濃度に前記毒性等価係数を掛けて全て足し合わせた値を算出し、これを毒性当量(TEQと云う)と称する。法令では基準値は全て毒性当量で規定されている。
【0030】
この法律の第7条において水質のダイオキシン汚濁基準が定められ、環境庁告示による環境基準により、公共用水域及び地下水については、年平均値で1pg−TEQ/l以下と定められている。つまり、サンプル水1リットル当たり毒性当量で1pg以下であることが条件である。従って、水道水では1pg−TEQ/l以下が基準となる。
【0031】
また、この法律の第8条により、ダイオキシン類の水質排出基準が規定されており、技術水準を勘案しながら、特定施設の種類及び構造に応じて環境省令で定められている。環境省令では、10pg−TEQ/l以下となっている。つまり、サンプル水1リットル当たり毒性当量で10pg以下であることが排出条件である。、従って、工場などの施設では10pg−TEQ/l以下が排水の排出基準となる。
【0032】
前述したダイオキシン類に関する水質基準(1pg−TEQ/l以下)と排水基準(10pg−TEQ/l以下)をクリアすることが水浄化方法に要請されている。
【0033】
本発明者等は、ポリアミノ酸又はポリアミノ酸塩の放射線架橋体を新規な凝集剤として研究を開始し、種々の技術的成果を蓄積してきた。人が毎日飲用する水道水におけるダイオキシン汚染は極めて重大な問題であり、本発明者等もポリアミノ酸又はポリアミノ酸塩の放射線架橋体を用いてダイオキシン汚染水の浄化方法を仔細に検討してきた。
【0034】
その中で、ポリアミノ酸又はポリアミノ酸塩の放射線架橋体を金属系凝集剤と同時使用(併用)したときに、汚染水中のダイオキシン濃度が急激に低下する新規な現象を、本発明者等は発見するに至ったのである。
【0035】
勿論、放射線架橋体は単独でも水中に溶解するが、水中で金属イオンと共存状態にあるときに放射線架橋体の溶解度が急激に低下する新規な性質を有していることを本発明者等は発見した。換言すれば、金属イオンとの共存状態で、放射線架橋体が凝集沈殿する際に、水中に溶解しているダイオキシン類が放射線架橋体の表面や内部空間に吸着されて強制的に同時沈殿する性質が今回新たに発見されたのである。
【0036】
金属イオンが存在しない汚染水には、放射線架橋体の相当量が水中に安定して溶解している。この状態で金属系凝集剤を投入すると、汚染水の無数の個所で放射線架橋体が析出を始める。
【0037】
後述するように放射線架橋体は無数の内部空間を有しているから、析出する際に、COD成分・BOD成分・SS成分と共に、ダイオキシン類もこの無数の内部空間に捕獲されて析出する。
【0038】
特に、ダイオキシン類は単体で汚染水に存在しているよりも、SS成分の中に組み込まれて存在する方が多いと考えられる。従って、SS成分が内部空間に捕獲されると、ダイオキシン類も必然的に内部空間に捕獲されると考える方が適切かもしれない。しかしながら、分子レベルにおける汚染物質の混在状況は現在のところ不明であり、上記状況も推測に過ぎないことを付記しておく。
【0039】
このように、金属系凝集剤と放射線架橋体によって汚染水中に存在するCOD成分やBOD成分やSS成分なども凝集沈殿させることができるから、ダイオキシン類の除去と同時に通常の浄水処理も実現できる画期的な浄化処理方法が開発されたのである。金属系凝集剤と放射線架橋体を汚染水に共存させるだけでよいから、通常の凝集処理設備によりダイオキシン除去処理が可能であり、特別の装置や設備が不要のため低コストでダイオキシン処理が実現できる。
【0040】
また、本発明者等は、放射線架橋体の添加濃度の詳細について検討した。放射線架橋体は単独では常温の水に約500ppm(又はmg/l)まで溶解するが、金属イオンと共存するときにはその溶解度は約3ppmにまで低減することが新たに発見された。
【0041】
従って、例えば、放射線架橋体を汚染水に10ppm添加し、その後金属系凝集剤を添加すると、過剰な7ppmの放射線架橋体が凝集して沈殿することになる。この7ppmの放射線架橋体が凝集析出するときに、汚染水中のダイオキシン類が放射線架橋体の表面や内部空間に吸着されて、共に沈殿するのである。
【0042】
つまり、常温のダイオキシン汚染水に対しては、放射線架橋体を約3ppm〜約500ppmの濃度で添加し、3ppmを超えた過剰量の放射線架橋体が凝集沈殿する際に、汚染水中のCOD成分・BOD成分・SS成分と一緒に、ダイオキシン類を強制的に凝集沈殿させることができる。放射線架橋体は比較的に高価であるから、その添加濃度については、自在に調整すればよい。
【0043】
このように、本発明は約3ppmという溶解度の臨界値を発見することによって達成されたものであり、比較的高価な放射線架橋体を約3ppmを超える程度に添加するだけでダイオキシン類を凝集沈殿できるから、低コストでダイオキシン処理が可能になる利点がある。しかも、この程度に放射線架橋体を添加するだけで、ダイオキシン類の毒性当量を水質基準である1pg−TEQ/l以下に低減することができる。
【0044】
更に、本発明者等は、金属系凝集剤の添加濃度について検討を行った。金属系凝集剤は比較的に安価であり、しかも水に大量に溶解するから、濃度を気にせずに添加することも可能である。しかし、添加量によるコストの問題と、金属系凝集剤の添加による金属イオンの残留の問題などにより、金属系凝集剤の添加量をできるだけ制限することも要請される。特に、飲料用の原水の浄化方法では、凝集剤の添加量はできるだけ少ない方がよいに決まっている。
【0045】
そこで、放射線架橋体の溶解度を急激に低下させる金属系凝集剤の添加濃度を測定したところ、常温で約1ppmであることが分かった。即ち、金属系凝集剤の濃度を約1ppm以上に設定して、約3ppmを超える放射線架橋体を汚染水に添加することによって、放射線架橋体の凝集によりダイオキシン類を強制沈殿させることが可能になることが分かった。
【0046】
金属系凝集剤の添加濃度の上限は、金属系凝集剤の溶解度以下で、汚染水の水質に応じた適切な濃度である。しかし、金属系凝集剤の溶解度は極めて高く、通常は溶解度相当量までの添加は行われない。常識的な判断からすれば、水道水のような飲料用原水では低濃度であることが要請されるが、水質が悪くなると50ppm程度まで添加する可能性もある。高濁度の工業用汚染水では100ppm〜1000ppmの添加が行われることもある。従って、金属系凝集剤の添加濃度の上限は溶解度相当量であると言うことができる。
【0047】
本発明で使用できるアミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、ノルバリン、ロイシン、ノルロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、ジョードチロシン、スリナミン、トレオニン、セリン、プロリン、ヒドロキシプロリン、トリプトファン、チロキシン、メチオニン、シスチン、システイン、α―アミノ酪酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、ヒドロキシリジン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン、グルタミンなどである。これらは天然アミノ酸と合成アミノ酸を含んでいるが、安全性の観点からは天然アミノ酸が推奨される。これらのアミノ酸からなるポリアミノ酸又はポリアミノ酸塩が本発明に利用される。
【0048】
一般に、アミノ酸の構造式はNH2(COOH)―CH−Rで表される。ポリアミノ酸には同一アミノ酸が鎖状に重合したホモポリマーと複数種のアミノ酸が鎖状に重合したヘテロポリマーが存在する。ポリアミノ酸の中にある水素原子Hや酸素原子Oは水と水素結合するため、ポリアミノ酸は表面に水を吸着する保湿性を有する。
【0049】
この鎖状分子であるポリアミノ酸を放射線照射すると、例えば、ポリアミノ酸の中にあるCH2が脱水素反応によりCH−となり、2本のポリアミノ酸のCH−同士がCH−HCと結合して架橋体を形成する。多数のポリアミノ酸同士が放射線で架橋すると網目構造になり、この網目構造の内部に袋状の空間が多数形成される。脱水素反応以外の経路でも架橋反応が生じることはある。
【0050】
放射線による架橋はポリアミノ酸を加熱する事無く架橋できるので、アミノ酸本来の性質を残したままポリアミノ酸放射線架橋体を形成できる利点を有する。放射線架橋反応は低温架橋反応であり、加熱による架橋反応と異なる点が特徴である。加熱によりポリアミノ酸は熱変成を受けるが、本発明の放射線架橋では熱変成を受けない点に特徴を有する。
【0051】
前述したように、ポリアミノ酸放射線架橋体は多数の袋状空間を内部に有するため、この袋状空間に水分子を吸収保存する能力を有し、この作用によりポリアミノ酸よりも大きな保水性能を発現できる。この保水性能が、懸濁物質を吸収して凝集させる凝集性能であると考えられる。つまり、この保水性能が、水中のCOD成分・BOD成分・SS成分を吸収する能力を与える。
【0052】
このポリアミノ酸放射線架橋体がダイオキシン類を吸着する点については次のように考えられる。前述したように、ポリアミノ酸はH原子やO原子を多数有している。他方ダイオキシン類はベンゼン環から構成されるから、ベンゼン環に付加したH原子とポリアミノ酸のO原子とが水素結合したり、ダイオキシン類のO原子にポリアミノ酸のH原子が水素結合することが可能である。このような水素結合により、無数のダイオキシン類がポリアミノ酸放射線架橋体の表面に吸着すると考えられる。また、ダイオキシン類が水和状態で浮遊している場合には、ポリアミノ酸に水素結合して吸着されると考えることもできる。
【0053】
また、ポリアミノ酸放射線架橋体の内部にある多数の袋状空間にもダイオキシン類が水素結合で吸着されると考えられる。つまり、ポリアミノ酸放射線架橋体の表面と内部にダイオキシン類が懸濁物質と一緒に吸着されると考えられる。しかし、このダイオキシン類吸着性能のミクロメカニズムについてはまだ不明な点が多くあり、今後の研究に待たなければならない。
【0054】
このように、ポリアミノ酸放射線架橋体の表面と内部にダイオキシン類が懸濁物質と一緒に吸着され、金属イオンの添加により放射線架橋体が凝集沈殿すると、放射線架橋体に吸着されているダイオキイン類と懸濁物質も結果的に同時的に強制沈殿することになる。
【0055】
次に、以上の特徴をより具体化するために、ポリアミノ酸の一例としてγ―ポリグルタミン酸について考察する。γ―ポリグルタミン酸は(−OOC−CH2−CH2−CH(COOH)NH―)nで表される鎖状分子で、添字nが重合度を与える。出発原料となるγ―ポリグルタミン酸は分子量の大きなもの、特に数十万〜数百万の分子量を有するものが好適であり、これらの分子量は前記重合度nによって決まる。
【0056】
このγ―ポリグルタミン酸に放射線を照射すると、脱水素反応によりCH2がCH−となり、2本のγ―ポリグルタミン酸の直鎖がCH−HCを介して連結し、[(−OOC−CH2−CH2−CH(COOH)NH―)n]2のように架橋するこの架橋度が更に大きくなると、 [(−OOC−CH2−CH2−CH(COOH)NH―)n]mのような分子量の大きな放射線架橋体が生成される。ここで、mは架橋度を示し、架橋連結されるγ―ポリグルタミン酸の直鎖の本数を与える。
【0057】
架橋度mを更に大きくすることによって、γ―ポリグルタミン酸放射線架橋体の分子量を1000万以上にする。γ―ポリグルタミン酸はポリペプチド鎖であるから、−CH−HC−の連結により内部に多数の大きな空間が形成された網目構造となる。前述したように、この多数の内部空間に汚濁水を吸収して、汚濁物質を内部蓄積すると考えられる。しかも、その表面や内部空間にダイオキシン類を強力に吸着する性能を有している。
【0058】
本発明に係るポリアミノ酸は、種々の製造方法により生産されたものが用いられる。製法としては、例えば微生物による培養方法、化学合成法などがある。微生物により生産されたポリアミノ酸は天然物質であり、安全性の観点から推奨される。ポリアミノ酸の中でも、γ―ポリグルタミン酸が特に有力である。
【0059】
γ―ポリグルタミン酸の微生物培養法では、バチルス属のバチルス・スブチリス、バチルス・アントラシス、バチルス・メガテリウム、バチルス・ナットウ等の菌が利用できるが、特にバチルス・スブチリスのF−2−01株が生産量において好適である。この菌株は分子量が数十万〜数100万のγ―ポリグルタミン酸を産生し、その分子量が比較的大きいから、放射線によって効率よく架橋体を製造できる。
【0060】
微生物が産生するγ―ポリグルタミン酸は、古くより納豆の粘物質の主成分として食されているように、人畜無害な天然物であり、しかも食品であるという大きな特徴を有する。つまり、このγ―ポリグルタミン酸は凝集性能とダイオキシン吸着性能を有するだけでなく、誤って食べてしまっても害が全く無く、逆に栄養分になるという点で優れている。
【0061】
前記微生物が産生するγ―ポリグルタミン酸は、枝分れのない直鎖状のγ―ペプチドで、L−グルタミン酸とD−グルタミン酸の共重合体、即ちヘテロポリマーである。このヘテロポリマー構造のγ―ポリグルタミン酸がポリアミノ酸の一例として使用される。
【0062】
微生物産生のγ―ポリグルタミン酸は、所要の養分を混入した液体培地に微生物を植種し、所要温度で所要時間培養して、培養液からγ―ポリグルタミン酸を単離して得られる。液体培地以外に固形培地を利用しても良い。本発明においては、γ―ポリグルタミン酸単体のみならず、培養液自体、また培養液から沈殿させて得られたγ―ポリグルタミン酸を含む培養物でも構わない。この培養物にはγ―ポリグルタミン酸と同時にγ―ポリグルタミン酸塩も生成されている。
【0063】
化学合成されるγ―ポリグルタミン酸には、L−グルタミン酸のホモポリマー、D−グルタミン酸のホモポリマー、これら両ホモポリマーの混合物など種々の構造のポリマーが生成される。これらの化学合成されたγ―ポリグルタミン酸もポリアミノ酸の一例として使用できる。つまり、ポリアミノ酸は化学合成品でもよいし、微生物合成品でも使用できる。水の凝集剤としては、安全性の観点から微生物合成品が推奨される。
【0064】
また、本発明で用いられるポリアミノ酸塩は、ポリアミノ酸と塩基性化合物の中和反応により塩として生成される。ポリアミノ酸と塩基性化合物を水などの溶媒に室温で溶解させ、加熱しながら攪拌すると効率的に生成される。塩基性化合物としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等、アンモニア、アミンなどの有機性の塩基性化合物がある。
【0065】
ポリアミノ酸と塩基性化合物の反応条件において、加熱温度は5〜100℃が望ましい。5℃以下では反応が遅くなり、100℃を超えると溶媒の一種である水が沸騰し反応が安定しない場合がある。また、pHは弱酸性〜弱塩基性の範囲が好ましく、特にpHは5〜10の範囲が好ましい。また、ポリアミノ酸と塩基性化合物の分量は過不足のない化学量論的反応量が適当である。
【0066】
本発明で用いられるポリアミノ酸又はポリアミノ酸塩は、分子量が数十万〜数百万に分布しているものが適当であり、微生物産生の場合には、その分子量は比較的大きく、上記範囲内に分布するものが多い。化学合成の場合でも、数十万以上に重合させたものが適当である。
【0067】
本発明では、このポリアミノ酸又はポリアミノ酸塩を放射線で架橋させて分子量が1000万以上の架橋体を生成する。1000万以上になると、放射線架橋体に無数の袋状空間が形成され、懸濁物質吸収性能とダイオキシン類吸着性能が実用に耐える程度に高くなる。
【0068】
ポリアミノ酸又はポリアミノ酸塩の単体を放射線照射するだけでなく、培養液・培養物・固形培地などを放射線照射して、ポリアミノ酸又はポリアミノ酸塩の放射線架橋体の単体や放射線架橋体の混入物を得ることができる。いずれも本発明に係る放射線架橋体として使用できる。特に、培養液に放射線照射した場合には、放射線架橋体含有液が生成され、被処理液に添加する場合に、取扱方法や濃度調整が容易である。
【0069】
架橋用の放射線としては、α線、β線、γ線、X線、電子線、中性子線、中間子線、イオン線などが利用できる。この中でも、操作性の良好さからγ線、X線、電子線が好適である。X線はX線管球又は非管球式の両者が利用でき、近年普及している電子リングから放射される放射光も利用できる。電子線はビームエネルギーに応じて公知の電子線照射装置が利用できる。
【0070】
γ線は放射線源を利用できる点で優れている。γ線源としてはコバルト60、ストロンチウム90、ジルコニウム95、セシウム137、セリウム141、ルテニウム177等があるが、半減期やエネルギーの観点からコバルト60やセシウム137が好適である。
【0071】
本発明では、ポリアミノ酸又はポリアミノ酸塩を放射線架橋することによって、分子量が1000万以上のポリアミノ酸又はポリアミノ酸塩の放射線架橋体を生成する。分子量を1000万以上に架橋すると、放射線架橋体の凝集特性及びダイオキシン吸着性能が良好になる。
【0072】
ポリアミノ酸を分子量1000万以上に架橋するには、ポリアミノ酸原料に吸収線量で1〜500kGyの放射線照射が必要で、1kGy以下では架橋がなかなか進行せず、また500kGyを超えると架橋が進行し過ぎるため、架橋体の網目構造によって形成される内部空間が小さくなり、逆に凝集活性が低下するようになる。架橋性及び凝集活性の観点から、吸収線量としては5〜100kGyが更に好適である。上記の事項は、γ―ポリグルタミン酸やγ―ポリグルタミン酸塩でも共通である。
【0073】
例えば、γ―ポリグルタミン酸及びγ―ポリグルタミン酸塩それ自体はアルコールやアセトンなどの有機溶媒に溶解しない性質を有している。また、γ―ポリグルタミン酸塩は水に溶解するが、γ―ポリグルタミン酸は水に溶解しない性質を有する。ところが、これに放射線架橋を施すと、放射線架橋体の表面が水や、含水アルコール・含水アセトンなどの含水有機溶媒に対して親和性を有するように改質される。この表面改質の特質はγ―ポリグルタミン酸以外のポリアミノ酸系にも見られる。
【0074】
従って、放射線架橋体となることによって、γ―ポリグルタミン酸及びγ―ポリグルタミン酸塩の両者が、水や含水有機溶媒に親和性を持つようになり、具体的には被処理水に溶解するようになる。この性質は他のポリアミノ酸にも見られるから、γ―ポリグルタミン酸を含むポリアミノ酸放射線架橋体を本発明に使用するものである。
【0075】
本発明において放射線架橋体と併用される金属系凝集剤は、金属無機凝集剤や金属有機凝集剤から構成される。無機凝集剤としては、塩基性塩化アルミニウム・硫酸アルミニウム・塩化アルミニウムなどのアルミニウム化合物、塩基性硫酸第二鉄・塩化第二鉄・塩化第一鉄などの鉄化合物など公知の水処理剤が利用される。また、金属有機凝集剤としては凝集性能を有する公知の金属有機化合物が利用される。
【0076】
本発明により浄化する対象物は水一般である。この水には、河川水・湖沼水・地下水・雨水などの飲料用原水、食品加工や発酵工業などにおいて使用される食品排水、池や堀や噴水などの観賞用水、プールなどの水泳用水、都市下水や家庭排水、産業廃水などが含まれる。これらの被処理水にダイオキシンが混入しているとき、本発明では、この被処理水をダイオキシン汚染水と呼んでいる。
【0077】
本発明では、ポリアミノ酸又はポリアミノ酸塩からなる放射線架橋体と金属系凝集剤を併用して、水中に含有されるダイオキシン類を急減させるから、特に飲料用原水に処理された場合にはダイオキシン類が殆ど含有されない清澄な飲料水が提供できる。従って、本発明方法は上水道水や飲料用原水の浄化方法として最適である。しかし、ダイオキシン類が含有される全ての水(ダイオキシン汚染水と云う)に適用できることは云うまでもない。
【0078】
例えば、上水道水処理に本発明を適用する場合について説明する。現在行われている通常処理では、河川などから原水を取水し、原水→沈砂池→凝集沈殿池→中間塩素処理池→急速砂ろ過池→塩素注入池→配水池の各工程を経て、浄化された水道水が各家庭・事業所に給水されている。
【0079】
また、高度処理では、原水→沈砂池→凝集沈殿池→中オゾン接触池→急速砂ろ過池→後オゾン接触池→活性炭吸着池→塩素接触池→配水池の各工程を経て、浄化された水道水が各家庭・事業所に給水されている。
【0080】
前記通常処理や高度処理において、本発明の浄化方法が適用される工程は凝集沈殿池の工程である。この凝集沈殿池では、硫酸バンド(硫酸アルミニウム)を投入して原水中の微細な懸濁物質(BOD成分、COD成分、SS成分など)を強制的に凝集沈殿させている。
【0081】
本発明方法では、硫酸バンドと同時に例えばγ―ポリグルタミン酸又はγ―ポリグルタミン酸塩の放射線架橋体を飲料用原水に投入する。硫酸バンド濃度Mを少なくとも1ppm以上添加し、放射線架橋体濃度mを約3ppmを超える濃度まで添加する。この結果、両凝集剤の相乗作用によって微細な懸濁物質(COD成分、BOD成分、SS成分)を沈殿させるだけでなく、ダイオキシン類も凝集処理することが可能になった。
【0082】
つまり、水道水の通常処理では従来困難であったダイオキシン類も除去でき、また高度処理では凝集沈澱段階ででダイオキシン類が除去できるから、オゾン処理や活性炭処理は他の難分解性物質の処理に集中させることができる。
【0083】
また、本発明方法は、下水や工業用排水などのダイオキシン除去処理に使用することもできる。この場合でも、硫酸バンドと同時に例えばγ―ポリグルタミン酸又はγ―ポリグルタミン酸塩の放射線架橋体を被処理水に投入する。下水や産業廃水の場合には、投入される金属系凝集剤は多量でもよい。従って、硫酸バンド濃度を100ppm以上添加する場合もあり、ダイオキシン類を確実に除去するために放射線架橋体を数十ppm添加しても構わない。
【0084】
この結果、両凝集剤の相乗作用によって微細な懸濁物質(COD成分、BOD成分、SS成分)を沈殿させるだけでなく、ダイオキシン類及び他の難分解性物質も凝集処理することが可能になる。
【0085】
この本発明方法により、ダイオキシン類を吸着して凝集沈殿した放射線架橋体は、ダイオキシン類を分解する微生物の栄養源とすることができる。放射線架橋体はアミノ酸から構成されるからそれ自体が微生物の栄養源となり、この放射線架橋体を栄養源としながら微生物はダイオキシン類を分解して無害化することができる。従って、廃棄物となる凝集沈殿した放射線架橋体汚泥を微生物の栄養源として再処理する中で、吸着凝集したダイオキシン類を分解する画期的な方法が提案されるのである。
【0086】
ダイオキシン分解微生物として、糸状菌や白色腐朽菌、その他の微生物が利用される。微生物がダイオキシン類を分解するには、酸化酵素遺伝子が関与していると言われている。生物分解の方法として、接触曝気法や回転円板法などの生物膜方式や、生物学的脱窒素処理が利用される。
【0087】
また、廃棄物として回収した放射線架橋体汚泥を嫌気発酵槽でダイオキシン分解微生物により嫌気発酵させると、ダイオキシン類の分解に加えて、汚泥自体が栄養源となって汚泥の減量化を実現できる。即ち、凝集沈殿して回収した汚泥を貯蔵するのでは無く、栄養源として利用して、汚泥の減量化を実現できる画期的な方法が実現される。
【0088】
【実施例】
[実施例:PACと放射線架橋体(PG21)]
この実施例では、産業廃水を前処理して得られたCODが300の水を原水(ダイオキシン汚染水)として使用した。ダイオキシン類の濃度と毒性当量の測定は2段階に分けて行われた。まず、この原水のダイオキシン類の濃度と毒性当量が測定された。次に、この原水に対し、主成分がポリ塩化アルミニウムの市販水処理用凝集剤PAC(PACと称する)を30ppm添加して攪拌混合し、その後、ポリグルタミン酸放射線架橋体(PG21と称する)を添加して凝集させ、グラスフィルターでろ過した。このろ液(処理水)のダイオキシン類の濃度と毒性当量が測定された。ダイオキシン類の濃度と毒性当量はJIS−K−0312に従って行われたので、その詳細は省略する。
【0089】
測定されたPCDDsは12種類で、2,3,7,8-TetraCDD、TetraCDDs、1,2,3,7,8-PentaCDD,PentaCDDs,1,2,3,4,7,8-HexaCDD,1,2,3,6,7,8-HexaCDD,1,2,3,7,8,9-HexaCDD,HexaCDDs,1,2,3,4,6,7,8-HeptaCDD,HeptaCDDs,1,2,3,4,6,7,8,9-OctaCDD,OctaCDDsである。濃度及び毒性当量はPCDDsとして纏められている。
【0090】
また、測定されたPCDFsは14種類で、2,3,7,8-TetraCDF、TetraCDFs、1,2,3,7,8-Penta-CDF、2,3,4,7,8-PentaCDF、PentaCDFs、1,2,3,4,7,8-HexaCDF、1,2,3,6,7,8-HexaCDF、1,2,3,7,8,9-HexaCDF、2,3,4,6,7,8-HexaCDF、HexaCDFs、1,2,3,4,6,7,8-HeptaCDF、1,2,3,4,7,8,9-HeptaCDF、HeptaCDFs、1,2,3,4,6,7,8,9-OctaCDFである。濃度及び毒性当量はPCDFsとして纏められている。
【0091】
更に、測定されたPCBsは12種類で、3,4,4’,5-TetraCB、3,3’,4,4’-TetraCB、3,3’,4,4’,5-PentaCB、3,3’,4,4’,5,5’-HexaCB、2’,3,4,4’,5-PentaCB、2,3’,4,4’,5-PentaCB、2,3,3’,4,4’-PentaCB、2,3,4,4’,5-PentaCB、2,3’,4,4’,5,5’-HexaCB、2,3,3’,4,4’,5-HexaCB、2,3,3’,4,4’,5’-HexaCB、2,3,3’,4,4’,5,5’-HexaCBである。濃度及び毒性当量はPCBsとして纏められている。
【0092】
表1には、ダイオキシン類の実測濃度(pg/l)が原水及びPG21処理水について示されている。また、表2には、ダイオキシン類の毒性当量(pg−TEQ/l)が原水及びPG21処理水について示されている。表の中で、ND(Not Detected)は検出できなかったことを意味する。
【0093】
【0094】
【0095】
表1から分かるように、PG21をPACと共に原水に対して処理すると、ダイオキシン類の濃度は63(pg/l)から7.7(pg/l)へと約1/8にまで低下する。これに対し、表2から分かるように、毒性当量では1.14(pg−TEQ/l)から0.00065(pg−TEQ/l)まで約1/1800まで急激に低下している。
【0096】
前述したように、環境中における水質基準は、毒性当量において1(pg−TEQ/l)である。原水では1.14(pg−TEQ/l)であるから水質基準をやや超えているが、PG21を処理すると0.00065(pg−TEQ/l)まで低下するから、水質基準を軽くクリアすることが実証された。このように、本発明方法を使用すれば、ダイオキシン処理が簡単に行えることが分かる。
【0097】
[比較例:PAC単独処理]
実施例で用いられたCOD300の原水(ダイオキシン汚染水)に対し、金属系凝集剤であるPACだけを30ppm添加して凝集処理を行った。PG21を併用しないときに、ダイオキシン類がどの程度凝集沈殿できるかどうかを試験して、PAC21使用の効果を証明するものである。凝集処理方法とダイオキシン類分析方法は実施例と全く同様にして行われた。
【0098】
表3には、ダイオキシン類の実測濃度(pg/l)が原水及びPAC処理水について示されている。また、表4には、ダイオキシン類の毒性当量(pg−TEQ/l)が原水及びPAC処理水について示されている。
【0099】
【0100】
【0101】
表3及び表4から分かるように、PAC単独処理では、濃度及び毒性当量ともに原水の約70%程度の値に低減できるだけであることが分かった。本発明者等は各種の金属系凝集剤を単独使用して同様の実験を繰り返したが、金属系凝集剤単独ではダイオキシン類の濃度を50%以下に下げることは困難であるとの結論に達した。毒性当量は0.79(pg−TEQ/l)であるから、水質基準の1(pg−TEQ/l)を僅かにクリアしているが、原水のダイオキシン濃度がかなり高濃度である場合には、水質基準をクリアすることは難しいと思われる。つまり、PAC単独では、産業廃水などの高濃度汚染水に対するダイオキシン浄化処理は困難である。
【0102】
このように、ダイオキシン汚染水に対しPAC単独処理では水質基準を満足させることは困難である。しかし、本発明のように、PACなどの金属系凝集剤にPG21などの放射線架橋体を併用添加すれば、ダイオキシン濃度は約1/10にまで低下し、しかも水質基準の対象となる毒性当量は約1/2000にまで低減できることが可能になることが分かった。
【0103】
以上では、被処理水として飲料用原水、下水及び産業廃水を用いて浄化方法を説明したが、本発明により浄化できる対象物はダイオキシンを含有する水一般である。つまり、この発明は、河川水・湖沼水・地下水・雨水などの飲料用原水、食品加工や発酵工業などにおいて使用される食品排水、池や堀や噴水などの観賞用水、プールなどの水泳用水、都市下水や産業廃水、家庭用排水などの広範囲の水を浄化することができる。
【0104】
本発明は上記実施形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲における種々の変形例や設計変更もその技術的範囲内に包含されるものであることは云うまでもない。
【0105】
【発明の効果】
第1の発明によれば、金属イオンとの共存状態で放射線架橋体が急速に凝集沈殿する際に、水中に溶解しているダイオキシン類を放射線架橋体に吸着して強制的に同時沈殿させることができる。金属系凝集剤と放射線架橋体をダイオキシン汚染水に共存させるだけでよいから、通常の凝集処理設備によりダイオキシン除去処理が可能であり、特別の装置・設備が不要であるから低コストでダイオキシン分離処理が実現できる。また、ダイオキシン類だけでなく、汚染水中に存在するCOD成分やBOD成分やSS成分なども金属系凝集剤と放射線架橋体によって凝集沈殿できるから、ダイオキシン類の除去と同時に通常の浄水処理も可能にした画期的な浄化処理方法を提供できる。
【0106】
第2の発明によれば、ダイオキシン汚染水に約3ppmを超えて放射線架橋体を溶解させ、これに金属系凝集剤を介して金属イオンを添加することにより、約3ppmを超えた過剰分量の放射線架橋体を凝集沈殿させることができ、この放射線架橋体の凝集沈殿によってダイオキシン類を強制沈殿させることができる。この約3ppmという溶解度の臨界値は本発明者等によって発見されたものであり、比較的高価な放射線架橋体を約3ppmを超える程度に微量添加するだけでよいから、ダイオキシンの除去処理を低コストで実施できる利点がある。
【0107】
第3の発明によれば、放射線架橋体を数ppm以上(1〜3ppm以上)の濃度の金属系凝集剤と共存させるだけでダイオキシン類を凝集沈殿できるから、金属系凝集剤を大量添加する必要が無く、ダイオキシン除去処理を低コストで実現できる。放射線架橋体を凝集沈殿させる金属系凝集剤の臨界濃度が1ppm以上であることも、本発明者等によって初めて発見されたものであり、この発明はこの知見に基づいて為された画期的なものである。
【0108】
第4の発明によれば、納豆の糸引き成分でそれ自体食品であるγ―ポリグルタミン酸やγ―ポリグルタミン酸塩を放射線架橋体として使用するから、飲料用原水などの浄化剤として使用されても極めて安全である。しかも、その凝集活性は極めて高いから、安全且つ高効率にダイオキシン汚染水の浄化処理を行うことができる。
【0109】
第5の発明によれば、分子量が1000万以上のγ―ポリグルタミン酸又はγ―ポリグルタミン酸塩の放射線架橋体を使用するから、この高分子の放射線架橋体の水溶性により、ダイオキシン汚染水に投入すると短時間に溶解することができる。一旦溶解すると汚染水全体に分散してダイオキシン類を効果的に吸着して凝集沈殿させることができ、ダイオキシン捕獲効果を短時間に奏し、ダイオキシン除去処理には最適の材料を提供できる。
【0110】
第6の発明によれば、菌産生のγ―ポリグルタミン酸又はγ―ポリグルタミン酸塩を使用するから、化学合成品と異なり極めて安全性が高く、通常の原水や排水に適用できるだけでなく、その中でも特に、人の口に入る飲料用原水の浄化方法として安心して使用できる。
【0111】
第7の発明によれば、培養物そのものを用いるため、培養物からγ―ポリグルタミン酸又はγ―ポリグルタミン酸塩を単離する操作が不要となり、培養物中のγ―ポリグルタミン酸又はγ―ポリグルタミン酸塩を直ちに放射線架橋体に変換できる。この放射線架橋された培養物を凝集剤として利用するから、凝集剤の生産価格の低減に寄与できる。特に、液体培地で培養して得られる培養液の場合には、この培養液を凝集剤原液として活用できるので、凝集剤の添加時に水溶液調整などの手間が省け取扱が簡単になる利点がある。
【0112】
第8の発明によれば、ポリアミノ酸又はポリアミノ酸塩の放射線架橋体は栄養源であるから、ダイオキシン類を吸着して沈殿した放射線架橋体をダイオキシン分解微生物に与えることにより、放射線架橋体を栄養源にして微生物は増殖活動し、その増殖活動の中でダイオキシン類を分解して無毒化することができる。従って、ダイオキシン分解微生物の繁殖槽を用意し、凝集沈殿した汚泥廃棄物を栄養源とするから、極めて安価にダイオキシン類を分解することができる。しかも回収した汚泥は微生物の栄養源として減量するから、ダイオキシン類を含有する汚泥処理が不要になる利点を有する。
Claims (8)
- ダイオキシン類を含有した汚染水に金属系凝集剤とポリアミノ酸又はポリアミノ酸塩の放射線架橋体を添加してダイオキシン類を凝集沈殿させ、汚染水中のダイオキシン濃度を低下させることを特徴とするダイオキシン汚染水浄化方法。
- 前記放射線架橋体を水中濃度が3ppmを超えるように添加する請求項1に記載のダイオキシン汚染水浄化方法。
- 前記金属系凝集剤の水中濃度を、前記放射線架橋体を1〜3ppm以上に調整する請求項1に記載のダイオキシン汚染水浄化方法。
- 前記ポリアミノ酸がγ―ポリグルタミン酸であり、前記ポリアミノ酸塩がγ―ポリグルタミン酸塩である請求項1、2又は3に記載のダイオキシン汚染水浄化方法。
- 前記γ―ポリグルタミン酸又はγ―ポリグルタミン酸塩の放射線架橋体は、分子量が1000万以上の放射線架橋体を主成分とする請求項4に記載のダイオキシン汚染水浄化方法。
- 前記γ―ポリグルタミン酸又はγ―ポリグルタミン酸塩は、γ―ポリグルタミン酸生産菌により生産されたγ―ポリグルタミン酸又はγ―ポリグルタミン酸塩である請求項4に記載のダイオキシン汚染水浄化方法。
- 前記γ―ポリグルタミン酸又はγ―ポリグルタミン酸塩の放射線架橋体は、γ―ポリグルタミン酸生産菌を培養して得られる培養物に放射線照射を施した放射線架橋体である請求項4に記載のダイオキシン汚染水浄化方法。
- ダイオキシン類を含有した汚染水に金属系凝集剤とポリアミノ酸又はポリアミノ酸塩の放射線架橋体を添加してダイオキシン類を凝集沈殿させ、ダイオキシンを含んで凝集沈殿した放射線架橋体をダイオキシン分解微生物に栄養源として与え、このダイオキシン分解微生物によりダイオキシン類を分解させて無害化することを特徴とするダイオキシン分解方法。
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