JP3835958B2 - ヒドロキシニトリルリアーゼを用いた光学活性シアノヒドリンの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、カルボニル化合物とシアン化合物とからヒドロキシニトリルリアーゼを触媒として光学活性シアノヒドリンを合成する反応系において、ヒドロキシニトリルリアーゼ活性を安定化する処理を組み込んだ、光学活性シアノヒドリンの製造方法に関する。
【0002】
【従来技術】
光学活性シアノヒドリンは、光学活性有機合成中間体として有用である。光学活性シアノヒドリンをシアン化水素とカルボニル化合物とから直接合成する手段の一つとして、ヒドロキシニトリルリアーゼと呼ばれる酵素を使う合成方法が種々提唱されている。本酵素には、R-体のシアノヒドリンを生成する活性を有する、R-ヒドロキシニトリルリアーゼと、S-体のシアノヒドリンを生成する活性を有する、S-ヒドロキシニトリルリアーゼとが知られている。前者のR-ヒドロキシニトリルリアーゼとしては、たとえば、バラ科植物、具体的にはアーモンド(Prunus amygdalus)由来のR-ヒドロキシニトリルリアーゼ(EC 4.1.2.10)、アマ(Linum usitatissimum)由来のR-ヒドロキシニトリルリアーゼなどが知られている。後者のS-ヒドロキシニトリルリアーゼとしては、たとえば、トウダイグサ科に属する植物由来である、キャッサバ(Manihot esculenta)由来のS-ヒドロキシニトリルリアーゼ(EC 4.1.2.37)、パラゴムノキ(Hevea brasiliensis)由来のS-ヒドロキシニトリルリアーゼ(EC 4.1.2.39)、またはイネ科植物であるモロコシ(Sorghum bicolor)由来のS-ヒドロキシニトリルリアーゼ(EC 4.1.2.11)などが知られており、これらの酵素をコードする遺伝子配列も知られている。これらの酵素は、当該酵素を含む植物組織からの抽出するか、あるいは当該酵素遺伝子を他の細胞に導入し、得られた遺伝子組換細胞中で当該酵素遺伝子を発現させることにより得ることができる。
【0003】
通常、当該酵素を使う光学活性シアノヒドリンの合成は、当該酵素と基質であるシアン化水素及びカルボニル化合物を必須要素として含む、水系、水―有機溶媒二相系、有機溶媒―微水系、有機溶媒系で実施される。本反応は、生産性を考慮した場合、有機溶媒を含む反応系で実施する方が、生産物濃度を上げられること、反応生成物の分離の点で有利である。反応に用いる有機溶媒としては、水に難溶または不溶な有機溶媒が好ましく使用されている例が多く、特にエーテル系溶媒が使う例が多く報告されている。
【0004】
ところが、本発明者らは、光学活性シアノヒドリンを有機溶媒を含む反応系で合成するにあたり、当該酵素の安定性が乏しく、同じ酵素を繰り返し使用した場合、活性が極端に低下するという現象を見出した。
従って、光学活性シアノヒドリンの工業的に生産するにあたり、有機溶媒を含む反応系における当該酵素の安定性を向上させることが望まれるところである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、本発明は、カルボニル化合物とシアン化合物とからヒドロキシニトリルリアーゼを触媒として光学活性シアノヒドリンを合成する反応系において、ヒドロキシニトリルリアーゼ活性を安定化させることにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、カルボニル化合物とシアン化合物とからヒドロキシニトリルリアーゼを触媒として光学活性シアノヒドリンを合成する反応系において、該反応系内の酸素濃度及び反応溶媒である有機溶媒に安定剤として含まれているハイドロキノンに着目し、これらを反応系から減ずる処理をすることにより、反応系のヒドロキシニトリルリアーゼ活性を安定化することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、カルボニル化合物とシアン化合物とからヒドロキシニトリルリアーゼを触媒として光学活性シアノヒドリンを合成する反応系において、 (i) 該反応系内の酸素濃度を減ずる処理、
(ii) 該反応系内のハイドロキノン及びハイドロキノンより誘導される化合物の濃度を減ずる処理、
のいずれか一方または両方を実施することを特徴とする、光学活性シアノヒドリンの製造方法である。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明方法が適用される反応系は、カルボニル化合物とシアン化合物とからヒドロキシニトリルリアーゼを触媒として光学活性なシアノヒドリンを合成する反応系である。
本発明においては、ヒドロキシニトリルリアーゼ活性の安定化を、上記反応系内の酸素濃度を減ずる処理、該反応系内のハイドロキノン及びハイドロキノンより誘導される化合物を減ずる処理のいずれか、または両方を行うことにより行う。
【0009】
本発明において、反応系内の酸素濃度を減ずる処理は、具体的には、反応溶媒と反応に影響を与えない気体(窒素、アルゴン、ヘリウムなど)とを接触させ、反応溶媒中で溶存酸素を上記気体と置換することにより、溶存酸素濃度を減ずる処理をいう。
【0010】
この反応系内の酸素濃度を減ずる処理は、常法によって行えばよく、例えば、攪拌機能を持つ容器に反応溶媒を入れ、攪拌下、液中に上記の不活性な気体を通気することで行うことができる。具体的には、反応溶媒1L当たり、上記の不活性な気体を毎分1ml〜10Lの通気量で1分〜1時間、好ましくは、反応溶媒1L当たり、毎分10ml〜5Lの通気量で5〜30分間通気処理することで行うことができる。
【0011】
あるいは、上記の不活性な気体の雰囲気下で、反応溶媒を蒸留することでも行うことができる。また、亜硫酸ナトリウム、ハイドロサルファイトなど脱酸素剤を加えることによっても行うことができる。
さらに、反応容器の気相部を不活性な気体で満たすこと、または反応の最中、反応溶液中及び/または反応系の気相部に不活性な気体を上記の通気量で通気しながら反応させることによっても行うことができる。
【0012】
本発明において、反応系内のハイドロキノン及びハイドロキノンより誘導される化合物(ベンゾキノン、キンヒドロン)の濃度を減ずる処理は、反応溶媒を蒸留し、反応溶媒に含まれるハイドロキノン、またはハイドロキノンより誘導される化合物と分離させることにより行う。ハイドロキノン及びハイドロキノンより誘導される化合物の濃度は、40ppm未満、好ましくは1ppm未満に減ずることが好ましい。蒸留は、常圧または減圧下、ハイドロキン及びハイドロキノンより誘導される化合物が残留し、反応溶媒のみが蒸留分離される温度条件で実施すればよい。
【0013】
あるいは、上記処理は、活性炭などの吸着剤を使い、ハイドロキノン及びハイドロキノンより誘導される化合物を吸着除去することによっても行うことができる。吸着は、吸着剤を反応溶媒に投入するか、吸着剤を充填したカラムなどに溶媒を通液するか、あるいはその他の方法で反応溶媒と吸着剤を一定時間接触させることによって実施できる。吸着剤の投入量は、その吸着剤の吸着能力に応じて適宜決定される。
上記反応系において、カルボニル化合物とは、アルデヒドまたはケトンをいい、具体的には、下記式(I) で表される。
【0014】
【化1】
【0015】
上記式(I) において、R1 とR2 は、(i) 水素原子、(ii)置換または非置換の炭素数1〜18の線状または分枝鎖状の飽和アルキル基、または(iii) 置換または非置換の環員が5 〜22の芳香族基である。ただし、R1 とR2 は同時に水素原子を表すことはない。
【0016】
上記(ii)で、R1 とR2 が置換アルキル基の場合、置換基は、1個またはそれ以上のアミノ基、イミノ基、ヒドロキシ基、炭素数1〜8のアルコキシ基、ハロゲン、カルボキシル基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、または N 、O、Sのヘテロ原子で置換されていてもよい炭素数22までの芳香属基である(ここで、置換基が環状置換基の場合は、それ自体が1個またはそれ以上のハロゲン、ヒドロキシ基、炭素数1〜8の線状若しくは分枝鎖状のアルキル基、炭素数2〜8の線状若しくは分枝鎖状のアルケニル基で置換されていてもよい。)。
【0017】
上記(iii) で、芳香族基は、環員の4個までがN、Oおよび/またはSによって置換されているヘテロ芳香族基であってもよい。また、R1 とR2 が置換芳香族基の場合、置換基は、1個またはそれ以上のアミノ基、イミノ基、ヒドロキシ基、炭素数1〜8のアルコキシ基、アリルオキシ基、ハロゲン、カルボキシル基、炭素数22までの線状若しくは分枝鎖状の飽和若しくは不飽和のアルキル基である(ここで、一つの芳香族基が少なくとも2個の置換基により置換されてもよい)。
【0018】
上記のアルデヒドまたはケトンを光学活性なシアノヒドリンに変換するためにはシアン化合物を原料として用いるが、例えばシアン化水素を用いる場合、その供給方法は、液体として供給する方法、気体として供給する方法のいずれをも採用できる。また、シアン化水素だけではなく、シアン化水素の水溶液であるシアン化水素酸(すなわち青酸)も全く同様に用いることができる。さらに、反応系へ添加することによってシアン化物イオン(CN-) を生じる物質であれば用いることができ、例えば、シアン化ナトリウムやシアン化カリウムなどのシアン化水素塩、アセトンシアンヒドリンなどのシアノヒドリン類などが挙げられる。
【0019】
反応に用いる酵素であるヒドロキシニトリルリアーゼは、当該酵素を含む植物組織から常法により抽出して得た酵素、または、当該酵素をコードする遺伝子をクローニングした後、当該遺伝子を組み込んだ遺伝子組換細胞により生産される酵素のいずれをも用いることができ、特に制限はされない。
【0020】
植物組織から抽出した上記酵素としては、バラ科植物由来R−ヒドロキシニトリルリアーゼ、例えばアーモンド (Prunus amygdalus) 、リンゴ(Malus domestica) 、アンズ(Prunus armeniaca)、モモ(Prunus persica)、ウメ(Prunus mume) 由来の酵素;アマ科植物由来のR−ヒドロキシニトリルリアーゼ、例えばアマ (Linum usitatissimum)由来の酵素;イネ科植物由来のS−ヒドロキシニトリルリアーゼ、例えばモロコシ (Sorghum bicolor)由来の酵素;トウダイグサ科植物由来のS−ヒドロキシニトリルリアーゼ、例えばキャッサバ(Manihot esculenta)、パラゴムノキ(Hevea brasiliensis) 由来の酵素;ボロボロノキ植物由来のS−ヒドロキシニトリルリアーゼ、例えばキシメニア(Ximenia americana)の酵素などが例示できる。
【0021】
上記酵素をコードする遺伝子としては、その遺伝子発現によって生産されるタンパク質が、その遺伝子発現によって生産されるタンパク質が、カルボニル化合物とシアン化合物を基質として光学活性シアノヒドリンを生成する活性を有するタンパク質の遺伝情報を含む遺伝子配列のことを意味する。
【0022】
上記酵素遺伝子を組込むことによって形質転換する微生物としては、上記酵素遺伝子を組込むことが出来、かつ、当該酵素遺伝子を発現して酵素を生産することのできるものであれば特に限定されないが、たとえば酵母などの真核微生物、大腸菌などの原核微生物が挙げられる。
【0023】
上記いずれかにより取得した酵素の使用形態としては、単に精製した酵素粉末、水系溶媒に溶解した酵素液、または、当該酵素を適当な固定化担体に固定化して得られる固定化酵素のいずれの形態であってもよい。
本発明方法が適用される上記反応系としては、水−有機溶媒二相系、有機溶媒−微水系、有機溶媒系が挙げられる。
【0024】
水−有機溶媒二相系とは、水または水性緩衝液と、水に難溶または不溶な有機溶媒とを混合することによって形成される系であり、この系に酵素および基質を入れ、特にカルボニル化合物である基質および生成物であるシアノヒドリンを有機溶媒相に分配させることを特徴とする反応系である。
有機溶媒−微水系とは、有機溶媒に水または水性緩衝液を飽和量より過剰に加えることで形成される反応系をいう。
有機溶媒系とは、反応溶媒として有機溶媒のみを用いる反応系である。
【0025】
上記の有機溶媒としては、水に難溶または不溶な有機溶媒であって、酵素反応による光学活性シアノヒドリンの合成反応に影響を与えないものであれば特に制限なく用いることができ、合成反応に用いる原料のアルデヒドまたはケトンの物性、生成物であるシアノヒドリンの物性に応じて適宜選択することができる。具体的には、ハロゲン化されていてもよい脂肪族または芳香族の直鎖状または分枝状または環状の飽和または不飽和炭化水素系溶媒、例えば、ペンタン、ヘキサン、トルエン、キシレン、塩化メチレンなど;ハロゲン化されていてもよい脂肪族または芳香族の直鎖状または分枝状または環状の飽和または不飽和アルコール系溶媒、例えば、イソプルピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、n−アミルアルコールなど;ハロゲン化されていてもよい脂肪族または芳香族の直鎖状または分枝状または環状の飽和または不飽和エーテル系溶媒、例えば、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテルなど;ハロゲン化されていてもよい脂肪族または芳香族の直鎖状または分枝状または環状の飽和または不飽和エステル系溶媒、例えば、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、プロピオン酸メチルなどが挙げられ、これらを単独で用いても、また複数を混合して用いてもよい。
【0026】
また、上記の水性緩衝液とは、pH7 以下の水系緩衝液であって、酵素活性を損なわない範囲のpH、塩類、塩類濃度を採用できる。例えばクエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液などが挙げられる。
反応溶媒中のアルデヒドまたはケトンの濃度は0.01mM〜5Mの範囲が好ましく、アルデヒドまたはケトン1モルに対してシアン化水素または反応系においてシアン化物イオンを生成する物質1 〜20モル、アルデヒドまたはケトンの濃度に対して1unit/mmol以上の酵素活性を示す量の酵素を使用する。
【0027】
なお、酵素活性は、DL-マンデロニトリルを基質として、基質が酵素によって分解されてベンズアルデヒドを生成する際の吸光度変化を249.6nmの波長で測定することによって算出できる。
反応溶媒のpHは、上記有機溶媒を水系緩衝液で飽和させずに用いる場合には調整する必要はないが、水系緩衝液で飽和させて用いる場合には、水系緩衝液のpHを3〜7の範囲、好ましくは3〜6の範囲に調整する。
反応温度は酵素反応によらないラセミシアノヒドリンの副生を抑制するために、酵素活性が発揮される範囲でできる限り低いほうが好ましく、通常0〜40℃、好ましくは0〜30℃とする。
【0028】
【実施例】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
〔実施例1〕 反応系内の酸素濃度を減ずる処理を行った合成反応(1)
キャッサバ(Manihot esculenta)由来のS-ヒドロキシニトリルリアーゼ遺伝子を導入した遺伝子組換酵母により生産したS-ヒドロキシニトリルリアーゼ(1950unit/ml) 25μl、0.15M クエン酸ナトリウム緩衝液 (pH5) 25 μlと粉末セルロース(W200G, 日本製紙製) 50mgを混合し、固定化酵素を調製した。
【0029】
これにジイソプロピルエーテル2.5ml、3-フェノキシベンズアルデヒド99μl、青酸56.6μlを添加し、室温下、攪拌した。一方のジイソプロピルエーテルは添加前に窒素を溶媒1L当たり毎分1Lの窒素を攪拌下、15分間通気することで窒素置換し、他方は空気を通気して空気置換したものを用いた。
【0030】
図1に示すように、窒素置換したジイソプロピルエーテルを用いた場合には、空気置換をしたジイソプロピルエーテルを用いた場合に比べ、合成反応速度が大きいことがわかった。また、各反応系の反応終了時(50時間後) の転換率と生成されたS-3-フェノキシベンズアルデヒドシアノヒドリンの光学純度を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
〔実施例2〕 反応系内の酸素濃度を減ずる処理を行った合成反応(2)
実施例1と同じキャッサバ由来のS-ヒドロキシニトリルリアーゼ(50unit/ml) 1mlとセラミック系固定化担体(Toyonite−200 、東洋電化工業製)0.1gを混合し、酵素を固定化した。これを濾過、乾燥して固定化酵素を調製した。
【0033】
これにジイソプロピルエーテル2.5ml、3-フェノキシベンズアルデヒド99μl、青酸56.6μlを添加し、室温下、攪拌した。一方のジイソプロピルエーテルは、実施例1と同じ条件で、反応前に窒素を通気することで窒素置換処理をしたものを用い、他方は処理を行わなかったものを用いた。
【0034】
図2に示すように、実施例1のセルロース固定と同様に、窒素置換したジイソプロピルエーテルを用いた場合には、窒素置換をしなかったジイソプロピルエーテルを用いた場合に比べ、合成反応速度が大きいことがわかった。また、各反応系における転換率と生成されたS-3-フェノキシベンズアルデヒドシアノヒドリンの光学純度の経時変化を表2に示す。
【0035】
【表2】
【0036】
〔実施例3〕 反応系内のハイドロキノン濃度を減ずる処理を行った合成反応
市販のジイソプロピルエーテルを減圧蒸留して、ハイドロキノン及びハイドロキノン由来の生成物を含まないエーテルを調製した。一方、この溶媒にハイドロキノン、ベンゾキノン、キンヒドロンをそれぞれ100ppmになるように添加した。これらの溶媒をそれぞれ用い、実施例1と同様に固定化酵素を使って反応を行った。各反応系における転換率と生成されたS-3-フェノキシベンズアルデヒドシアノヒドリンの光学純度を表3に示す。
【0037】
【表3】
【0038】
表3に示されるように、ベンゾキノンおよびキンヒドロンを添加した条件では転換率が低下し、光学純度も低下することより、酵素反応が阻害されることが分かった。ハイドロキノンは酸素によって容易にベンゾキノンに酸化され、ベンゾキノンとハイドロキノンが存在することでキンヒドロンを生じることから、反応系にハイドロキノンを含むことは潜在的にベンゾキノン及びキンヒドロンが生じることになるので、ハイドロキノンを含まない溶媒を使う方が好ましいといえる。
【0039】
〔実施例4〕 反応系内の酸素濃度およびハイドロキノン濃度を減ずる処理を行った合成反応
上記各実施例の結果をふまえ、蒸留によってハイドロキノンを除去したのち、窒素を通気して窒素置換したジイソプロピルエーテルを溶媒に用い、S-3−フェノキシベンズアルデヒドシアノヒドリン合成を実施した。
【0040】
実施例2の方法で調製した固定化酵素に、上記処理をしたジイソプロピルエーテル235.8ml、3−フェノキシベンズアルデヒド11.9g、シアン化水素−ジイソプロピルエーテル溶液(37.85g HCN/ 500ml) 64mlを添加し、25℃で攪拌することで反応を行った。
【0041】
反応がほぼ完結した時点で固定化酵素を分離し、上記と同量の溶媒、基質を添加し、くり返し反応を行った。
図3に示すように、4回の繰り返し反応を行っても、反応速度の低下は見られなかった。また、各回の反応終了時の転換率と生成されたS-3-フェノキシベンズアルデヒドシアノヒドリンの光学純度を表4に示す。これより、光学純度の低下も起こらないといえる。
【0042】
【表4】
【0043】
【発明の効果】
本発明方法は、カルボニル化合物とシアン化合物とからヒドロキシニトリルリアーゼを触媒として光学活性シアノヒドリンを合成する反応系において、ヒドロキシニトリルリアーゼ活性が安定化され、繰り返し使用しても活性が低下しないので、光学活性シアノヒドリンの工業的生産に非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1において、窒素置換を行った場合と行わない場合における転換率の変化を示す。
【図2】 実施例2において、窒素置換を行った場合と行わない場合における転換率の変化を示す。
【図3】 各反応回における転換率の変化を示す。
Claims (3)
- カルボニル化合物とシアン化合物とからヒドロキシニトリルリアーゼを触媒として光学活性シアノヒドリンを合成する反応系において、
(i)該反応系内の酸素濃度を反応溶媒中に不活性な気体を通気するか、または、不活性な気体の雰囲気下で反応溶媒を蒸留することによって減ずる処理、
(ii)該反応系内のハイドロキノン及びハイドロキノンより誘導される化合物の濃度を減ずる処理、
のいずれか一方または両方を実施することを特徴とする、光学活性シアノヒドリンの製造方法。 - 反応溶媒1L当たり、不活性な気体を毎分1ml〜10Lの通気量で1分〜1時間通気処理することを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
- 反応の最中、反応溶液中及び/または反応系の気相部に不活性な気体を通気しながら反応させることを特徴とする、請求項1または2に記載の製造方法。
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