JP3834519B2 - 生化学的検査方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、生化学的反応の状態を検査する生化学的検査方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
最近、「ハイブリダイゼーションによる配列決定」(SBH)のために、アレイドハイブリダイゼーション(arrayed hybridization)反応の幾つかの方法が開発されている。これには、例えば膜上に格子状配列された異なるオリゴヌクレオチドプローブとDNA試料のアレイとの段階的なハイブリダイゼーションの方法を用いたSBHがある。
【0003】
また、従来「ジェノセンサー(genosensor)」なる語は、その中で二次元アレイの表面に標的核酸配列と相補配列の認識素子としてのオリゴヌクレオチドを結合する方式を称してきた。さらに、ジェノセンサーの概念には、ハイブリダイゼーションを迅速に検出することができ、各試験部位に微細電子部品が存在する微細加工装置が含まれる。
【0004】
このような二次元アレイに対して、近年以下のような新規なフロースルージェノセンサーが提供されている。そこでは、固形支持材料のウェハーにわたり斑点状に配され密充填された孔またはチャンネル内に、核酸認識素子が固定化されている。支持ウェハーとして有用なマイクロチャンネルまたはナノチャンネルのガラス及び多孔性シリコンの製造には、公知の微細加工技術を利用できる。このフロースルージェノセンサーは、微細加工された光学及び電子工学検出部品、フィルム、荷電結合素子アレイ、カメラシステム及びりん光貯蔵技術を包含する種々の公知の検出方法を利用している。このフロースルー装置については、公知の平面表面設計に比して以下の利点が得られる。
【0005】
(1)表面積が膨大に増大したことにより、検出感度が改善される。
【0006】
(2)ハイブリダイゼーション反応に要する時間が短縮し(平均標的分子が表面に結合したプローブに出くわすのに要する時間が、数時間から数ミリ秒に短縮され)、ハイブリダイゼーションがスピード化され、順反応及び逆反応の両方において誤対合識別ができる。
【0007】
(3)多孔性ウェハーを通して溶液を徐々に流動できるため、希薄な核酸溶液を分析することができる。
【0008】
(4)大気に曝される平面表面上のプローブ溶液の小液滴が迅速に乾燥するのを避けられることにより、各分離領域内の表面に対するプローブ分子の化学結合が促進する。
【0009】
以上の利点を有するこのフロースルー装置を、以後三次元アレイと称する。このような三次元アレイに関する従来技術として、特表平9−504864号公報を引用し、図5を用いてその構成及び作用を簡単に説明する。
【0010】
図5は、三次元アレイをなすテーパ付き試料ウェルアレイを示す図である。図5において、多孔性のガラスウェハー101には、複数のテーパ孔102が配設されており、これら各孔102にテーパ付きウェル103が埋設されている。テーパ付きウェル103は、そこに固定した生体分子の結合領域を構成する0.1−10μm直径のチャンネル104を底部に含む。各チャンネル104は図示のように多くの微小の貫通孔105を有している。このウェルアレイを用い、以下のステップで検出を行なう。
【0011】
(1)3−グリシドキシプロピル−トリメトキシシラン4ml、キシレン12ml、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(フーニッヒ(Hunig)塩基)0.5mlの溶液をウェハーの孔に流入させ、次いで、そのウェハーを80℃の該溶液に5時間浸漬し、次いで、テトラヒドロフランでフラッシュし、80℃にて乾燥することにより、ウェハーをエポキシシラン−誘導体化ガラスとする。
【0012】
(2)5′−または3′−アルキルアミン(化学合成の間に導入した)を有する複数のオリゴヌクレオチドプローブを、水に10μM−50μMにて溶解し、それぞれ多孔性のガラスウェハー101(シリカウェハー)に微量分注する。65℃にて一晩反応させた後、その表面を65℃の水、次いで10mMトリエチルアミンで簡単に流し、表面上の未反応エポキシ基を取り除く。次いで、65℃の水で再度流し、風乾することにより、アミン−誘導化オリゴヌクレオチドをエポキシシラン−誘導体化ガラスに結合させる。
【0013】
(3)増幅の間に産物に[32P]ヌクレオチドを取り込ませるポリメラーゼ連鎖反応によるか、またはガンマ−32P[ATP]+ポリヌクレオチド・キナーゼを用いて増幅産物を5′−標識することによって、標的DNA(分析物)を調製する。取り込まれなかった標識は、セントリコン(Centricon)濾過によって除去する。好ましくは、1のPCR断片を5′−ビオチン標識すれば、ストレプトアビジン・アフィニティークロマトグラフィーによる一本鎖の調製ができる。少なくとも5nM(5fmol/μl)の濃度であって、少なくとも5,000cpm/fmolの特異活性のハイブリダイゼーション緩衝液(50mMトリス−HCl、pH8、2mMEDTA、3.3M塩化テトラメチルアンモニウム)中に標的DNAを溶解する。数百塩基長のPCR断片が、少なくともオクタマー長の表面につなぎ留めたオリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションに適している。
【0014】
(4)標的DNA試料をチップの多孔性領域に流し込み、6℃にて5〜15分間インキュベートし、ハイブリダイゼーションを行なう。次いで、18℃にて同様の時間、多孔性チップを通してハイブリダイゼーション溶液を流動させることによって洗浄する。別法として、塩化テトラメチルアンモニウムの代わりに、1MKCLもしくはNaClまたは5.2Mベタインを含有する緩衝液でハイブリダイゼーションを行なうこともできる。
【0015】
(5)CCDジェノセンサー装置を用いてハイブリダイゼーション強度の検出及び定量を行なう。CCDジェノセンサー装置は、高解像度及び高感度のものを用い、化学ルミネセント、蛍光または放射能標識用として用意される。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
従来では、上述した従来技術に限らず、プローブアレイ要素での生化学的な各反応状態を各々の光強度としてCCDのような同一のエリアセンサーまたはラインセンサーで検出する場合、該エリアセンサーまたはラインセンサーにおいて一般画像と比較して非常に広いダイナミックレンジが要求される。また同様に、検出後に画像処理をする場合には、該画像処理において非常に高い階調分解能(濃度分解能)が要求されるという欠点が有る。
【0017】
本発明の目的は、通常のダイナミックレンジを有するエリアセンサーまたはラインセンサーを用いる場合でも、実用上大きなダイナミックレンジで各プローブアレイ要素に対応する光強度を同時に検出し得る生化学的検査方法を提供することにある。
【0018】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決し目的を達成するために、本発明の生化学的検査方法は以下の如く構成されている。
【0019】
(1)本発明の生化学的検査方法は、第1の生化学的物質の溶液を、表面に該第1の生化学的物質に特異的に反応する第2の生化学的物質が各々保持されている生化学検査用アレイに供給し、発光性分子による標識を用いて前記生化学検査用アレイの各プローブアレイ要素ごとに前記発光性分子の発光強度をアレイ型検出器で検出することにより、前記第1の生化学的物質と該第1の生化学的物質に特異的に反応する第2の生化学的物質との反応状態を前記各プローブアレイ要素ごとに検査する生化学的検査方法であり、前記アレイ型検出器の受光量を変化させながら複数の画像を取得したのち、これらの複数の画像を比較して、各プローブアレイ要素ごとに適正露光条件である画像を選択することにより、前記各プローブアレイ要素の領域内に存在する前記発光性分子が発する発光強度に比例する強度を検出する。
【0020】
(2)本発明の生化学的検査方法は上記(1)に記載の方法であり、かつ前記生化学検査用アレイは、多孔質または繊維質の物質あるいは成形物から成る立体構造の反応担体の表面の異なる位置にプローブの溶液を供給し、該溶液中に含まれるプローブを前記多孔質または繊維質の物質あるいは成形物の内部に保持することにより成る。
【0021】
(3)本発明の生化学的検査方法は上記(2)に記載の方法であり、かつ前記生化学検査用アレイに、光で励起発光する各々異なる発光性分子で標識された複数のサンプルの混合溶液を供給し、前記複数のサンプルと前記プローブとの間で前記各プローブアレイ要素ごとに特異的反応を生じさせ、前記生化学検査用アレイに励起光を照射し前記異なる発光性分子が発する光の強度を選択的に前記アレイ型検出器で検出する。
【0022】
(4)本発明の生化学的検査方法は上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の方法であり、かつ前記アレイ型検出器の受光量を変化させて得られる複数の光強度画像を比較することにより、適正な受光強度範囲を決定する。
【0023】
(5)本発明の生化学的検査方法は上記(4)に記載の方法であり、かつ前記適正な受光強度範囲を前記各プローブアレイ要素ごとに決定する。
【0024】
(6)本発明の生化学的検査方法は上記(5)に記載の方法であり、かつ大なる受光エネルギーから小なる受光エネルギーになるように、受光量を順次変化させながら光エネルギーを検出し、前記各プローブアレイ要素ごとの検出可能な受光エネルギー範囲内の上限付近のエネルギーに対応する既知の受光条件パラメータと前記上限付近のエネルギーとから、前記発光性分子が発する発光強度に比例する強度を決定する。
【0025】
(7)本発明の生化学的検査方法は上記(1)乃至(6)のいずれかに記載の方法であり、かつNDフィルタの切り替えにより受光強度を変化させる。
【0026】
(8)本発明の生化学的検査方法は上記(1)乃至(6)のいずれかに記載の方法であり、かつ液晶フィルタを電気的制御することにより受光強度を変化させる。
【0027】
(9)本発明の生化学的検査方法は上記(3)に記載の方法であり、かつ特定の前記プローブアレイ要素の領域内に存在する複数の異なる蛍光分子が発する複数の波長の蛍光強度、または各励起波長に対応する全前記プローブアレイ要素の領域内に存在する複数の異なる蛍光分子ごとの複数の波長の蛍光強度の総和が等しくなるように各励起波長ごとに励起強度を設定する。
【0028】
(10)本発明の生化学的検査方法は上記(1)乃至(6)のいずれかに記載の方法であり、かつ前記アレイ型検出器の蓄積時間を変えることにより受光強度を変化させる。
【0029】
(11)本発明の生化学的検査方法は上記(4)に記載の方法であり、かつ前記アレイ型検出器が飽和状態になる直前までに得られる蛍光画像から前記生化学検査用アレイのバックグラウンド画像を差し引いた補正画像を処理の対象とする。
【0030】
上記手段を講じた結果、それぞれ以下のような作用を奏する。
【0031】
(1)本発明の生化学的検査方法によれば、受光強度を既知の割合で変化させて得られる複数の発光強度画像に演算処理を施すことによって、実用上大きなダイナミックレンジで各プローブアレイ要素に対応する発光強度を同時に検出することが可能であり、各プローブアレイ要素に対して弱い反応から強い反応に至るまで、その反応状態を正確に検査することができる。
【0032】
(2)本発明の生化学的検査方法によれば、立体構造の反応担体を用いる場合、反応としてのダイナミックレンジが特に広くなるので、上記(1)による作用効果が増大する。
【0033】
(3)本発明の生化学的検査方法によれば、上記(1)による作用効果に加えて、各プローブアレイ要素に保持されるプローブの状態に差が有る場合でも、参照サンプルと被検サンプルの結合状態の比較から、各プローブアレイ要素ごとの被検サンプルとプローブの結合状態を正確に検査することができる。
【0034】
(4)本発明の生化学的検査方法によれば、受光強度と出力信号との関係が線型特性領域内の最大値付近に存在することが保証される。
【0035】
(5)本発明の生化学的検査方法によれば、プローブアレイ要素ごとに受光強度と出力信号との関係が線型特性領域内の最大値付近に存在することが保証される。
【0036】
(6)本発明の生化学的検査方法によれば、各プローブアレイ要素ごとに大なる光強度から小なる光強度までを順次効率的に決定することができる。
【0037】
(7)本発明の生化学的検査方法によれば、簡便に受光強度を変化させることができる。
【0038】
(8)本発明の生化学的検査方法によれば、高速に受光強度を変化させることができる。
【0039】
(9)本発明の生化学的検査方法によれば、実用上大きなダイナミックレンジで各プローブアレイ要素に対応する各波長ごとの光強度を同時に検出することが可能であり、各プローブアレイ要素に対して弱い反応から強い反応に至るまでその反応状態を正確に検査することができる。
【0040】
(10)本発明の生化学的検査方法によれば、簡便に受光強度を変化させることができる。
【0041】
(11)本発明の生化学的検査方法によれば、適切な画像を対象画像とすることができる。
【0042】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の実施の形態に係る生化学的検査方法を実施する顕微鏡装置の構成を示す図である。図1において、励起光源11には、水銀光源等が用いられる。この光源11から出射される励起光の光路上には、シャッター12、レンズ13、二枚の励起フィルタ14を選択的に切り替え可能な励起フィルタユニット140、およびダイクロイックミラー15が配置され、このダイクロイックミラー15の反射光路上には、対物レンズ16および後述する生化学検査用アレイ1が配置されている。また、ダイクロイックミラー15の透過光路上には、複数枚のNDフィルタ17を選択的に切り替え可能なNDフィルタユニット170、結像レンズ18、およびCCDカメラ19が配置されている。CCDカメラ19には画像処理部20が接続され、画像処理部20には表示部21が接続されている。
【0043】
図2は、本実施の形態で使用する生化学検査用アレイ1の概略構成を示す図であり、(a)は上面のフォーマットを示す図、(b)は一部側面図である。生化学検査用アレイ1は、図5に示した三次元アレイからなる。図2の(a)に示すように、生化学検査用アレイ1にはプローブアレイ要素3が二次元に配列されており、4隅にそれぞれ位置検出用アレイ要素2が配置されている。これらプローブアレイ要素3および位置検出用アレイ要素2は、図5に示したようにテーパ付きウェル103からなり、底部に0.1−10μm直径のチャンネル104を有し、さらに各チャンネル104は図2の(b)に示すように多くの微小な貫通孔105を有している。各貫通孔105の壁面には、プローブ31が結合している。
【0044】
すなわち生化学検査用アレイ1では、プローブの結合反応を確実にするために、望ましくは多孔性ガラスウェハー101の表面の異なるテーパ付きウェル103にそれぞれプローブの溶液が供給され、該溶液中に含まれるプローブを多孔性ガラスウェハー101の内部に設けられた各チャンネル104の各貫通孔105で保持するのが良いが、多孔性ガラスウェハー101を設けずに直接各貫通孔105にプローブの溶液を微量分注して保持しても良い。この貫通孔105を含む部材が多孔質または繊維質の物質あるいは成形物から成る立体構造の反応担体として構成される。
【0045】
図3は、本実施の形態による検査手順を示すフローチャートである。以下、図3に従って検査方法およびその作用を説明する。
【0046】
(1)ステップS1:まず検査者は、2色の蛍光分子(または化学発光分子)で標識された2種の生化学的物質の溶液を作成する。この場合検査者は、比較したい2種の生化学的物質の溶液を同一濃度で作成し、一方をFIFC、他方をローダミンで標識する。これらの標識物質は、蛍光波長の異なる物質の組み合わせであれば他の物質でも構わない。その後、作成した2種の生化学的物質の溶液を1:1の割合で混合して撹拌し、生化学的物質の混合溶液とする。混合比率については、2種の生化学的物質の溶液および標識物質の特性に応じて変更しても良い。
【0047】
(2)ステップS2:検査者は、生化学検査用アレイ1に生化学的物質の混合溶液を供給し、各プローブと特異的に反応させる。この場合検査者は、図1に示した蛍光顕微鏡の観察下で、試料面に図2の(a)に示す生化学検査用アレイ1を配置し、その表面に一様に生化学的物質の混合溶液を供給する。これにより、生化学検査用アレイ1上のプローブアレイ要素3内のプローブと混合溶液に含まれる生化学的物質との間に特異的な結合反応が生じる。この結果、各プローブアレイ要素3内で反応の強さに応じた数量の蛍光分子(または化学発光分子)が間接的にプローブ結合することになる。
【0048】
(3)ステップS3:検査者は、生化学検査用アレイ1から未反応の生化学的物質を除去する。この場合検査者は、前述した結合反応後に、生化学検査用アレイ1の各プローブアレイ要素3から未結合の生化学的物質を除去する。一般的には洗浄液を用いて洗浄する方法が採用されるが、反応担体が立体構造である場合には洗浄液を用いずにポンプなどで溶液ごと除去しても良い。但し、洗浄液を用いる方が確実に除去されることは言うまでもない。
【0049】
(4)ステップS4:検査者は観察光路a上のNDフィルタ17を切り替えながら、生化学検査用アレイ1の蛍光画像を色別にCCDカメラ19で撮り込む。この場合、生化学検査用アレイ1を励起光源11で励起照明して、各プローブアレイ要素3内の蛍光分子が発生する蛍光の画像をCCDカメラ19で撮り込む。この際、検査者は励起フィルタユニット140を切り替え操作して所望の蛍光分子の色に対応する励起フィルタ14を照明光路b上に配置し、さらにNDフィルタユニット170を切り替え操作して所望のNDフィルタ17を観察光路a上に配置する。
【0050】
励起光源11からの励起光は、レンズ13、励起フィルタ14を介してダイクロイックミラー15で反射され、対物レンズ16を介して生化学検査用アレイ1の上面全体に照射される。なお、発光性分子が化学発光分子である場合は、以上の励起照明は不要となる。生化学検査用アレイ1から発生した蛍光は、対物レンズ16、ダイクロイックミラー15、NDフィルタ17、および結像レンズ18を介して、CCDカメラ19に入射し、蛍光分子(または化学発光分子)の色別に蛍光画像が撮り込まれる。従ってこの段階で、2色×NDフィルタの枚数分の蛍光画像が得られる。CCDカメラ19で撮り込んだ蛍光画像は、画像処理部20へ送られる。
【0051】
なお上記では、NDフィルタ17を切り替えることで、CCDカメラ19における蛍光の受光量(受光強度)を変化させた。これ以外に、CCDカメラ19におけるCCDの蓄積時間を変えることで、蛍光の受光量を変化させることもできる。
【0052】
この場合、図示しない制御部により、CCDの蓄積時間を例えば(t0、2t0、4t0、…、2n−1t0(n=1,2,…))と一定の比率で順次増加させ、生化学検査用アレイ1の蛍光画像を撮り込む。そして、CCDが飽和状態になる直前までの各蛍光画像を対象画像とし、画像処理部20へ送るようにする。または、同様にCCDの蓄積時間を順次増加させ、生化学検査用アレイ1の蛍光画像とバックグラウンド画像を撮り込む。そして、バックグラウンド画像によりCCDが飽和状態になる直前までの各蛍光画像を対象画像とし、画像処理部20へ送るようにする。
【0053】
なお、CCDの最大蓄積時間を、生化学検査用アレイ1における各アレイ要素の領域の最小発光強度に対応する受光量が後述するアレイ型検出器の出力特性の線形領域内に存在するという条件による定まる、蓄積時間の最大値としてもよい。この場合、CCDの蓄積時間を、最小蓄積時間から最大蓄積時間まで、前述したように一定の比率で順次増加させて得られる複数の画像を、対象画像とする。
【0054】
(5)ステップS5:検査者は観察光路a上のNDフィルタ17を切り替えながら、生化学検査用アレイ1のバックグラウンド画像を蛍光分子(または化学発光分子)の色別にCCDカメラ19で撮り込む。ここで、発光性分子が蛍光分子である場合には、前述した生化学検査用アレイ1の蛍光画像を撮り込んだ直後にシャッター12により励起照明を遮断し、CCDカメラ19でバックグラウンド画像を撮り込む。また、発光性分子が化学発光分子である場合には、生化学検査用アレイ1の直前に置かれたシャッターにより化学発光分子からの光を遮断し、CCDカメラ19でバックグラウンド画像を取り込む。この生化学検査用アレイ1のバックグラウンド画像の数は、蛍光画像の数と同一となる。このバックグラウンド画像は、検出強度に不要な暗電流ノイズおよび迷光ノイズにより構成される。CCDカメラ19で撮り込んだバックグラウンド画像は、画像処理部20へ送られる。
【0055】
(6)ステップS6:画像処理部20は、蛍光画像からバックグラウンド画像を差し引き補正画像とする。一般的に、受光素子の出力には暗電流ノイズや迷光ノイズなどの直流ノイズが含まれる。この直流ノイズを除去するために蛍光画像からバックグラウンド画像を差し引き、これを補正画像と称し以後の処理の対象とする。従って、この段階で2色×NDフィルタの枚数分の補正画像が得られる。なお、蛍光画像およびバックグラウンド画像は、以後不要となる。
【0056】
(7)ステップS7:画像処理部20は、補正画像を回転移動して回転画像とする。図2の(a)に示すように、生化学検査用アレイ1に形成されるアレイ要素は二次元に配列されており、4隅に位置する4個のアレイ要素が位置検出用アレイ要素2として用いられる。それ以外のアレイ要素はプローブアレイ要素3として用いられる。位置検出用アレイ要素2には、望ましくは使用される2色の蛍光波長とは異なる蛍光波長の蛍光物質を用いる方が良い。その目的は、位置検出用アレイ要素2から発生する蛍光がノイズとして作用する可能性を無くすことである。この場合には、位置検出用の励起波長で照明し、位置検出をすることになる。
【0057】
位置検出の方法として、画像処理部20にて補正画像を最大強度の1/2のレベルで二値化し、得られた4個の位置検出用アレイ要素2の二値化スポット像における各図心座標の位置で形成される四辺形が最小偏差で矩形となるように各図心座標を修正してから、この矩形の各辺が座標軸と平行になるように画像中心を回転中心として補正画像を回転移動する。あるいは、4個の位置検出用アレイ要素2の各画像の重心座標を位置座標とし、各位置座標の位置で形成される四辺形が最小偏差で矩形となるように各位置座標を修正してから、この矩形の各辺が座標軸と平行になるように画像中心を回転中心として補正画像を回転移動する。移動後の画像を回転画像と呼ぶ。なお、補正画像は以後不要となる。
【0058】
(8)ステップS8:画像処理部20は、回転画像をプローブアレイ要素3ごとの画像に分割し、それぞれ分割画像とする。この場合、画像処理部20は、回転画像における4個の位置検出用アレイ要素2の二値化スポット像の図心座標とプローブアレイ要素3の配列条件とから分割条件を決定して、この分割条件ですべての回転画像をプローブアレイ要素3ごとの画像に分割し、分割画像とする。従ってこの段階で、2色×NDフィルタの枚数×プローブアレイ要素数分の分割画像が得られる。なお、回転画像は以後不要となる。
【0059】
(9)ステップS9:画像処理部20は、最適なNDフィルタ17に対応する各分割画像を色別および要素別の測定用画像として抽出する。この場合、画像処理部20は、同一色で同一位置のプローブアレイ要素3のNDフィルタ枚数分の分割画像の中から、最大信号強度がダイナミックレンジの範囲内にあり、その中で信号強度が最大である分割画像を1個抽出する。これを測定用画像と呼ぶ。
【0060】
測定用画像は、後述する受光強度比率βi を大から小の順に並ベ、大きい方から順次後述するRk を求め、Rk の変化率が負の条件を満たしたときに、その前のβi に対応する画像として抽出される。この段階で、2色×プローブアレイ要素数の測定用画像が得られる。以後、抽出されない分割画像は不要となる。
【0061】
(10)ステップS10:画像処理部20は、各測定用画像からプローブアレイ要素3ごとのスポット強度を算出する。この場合、画像処理部20は、後述するように測定用画像とNDフィルタ17の透過率とからプローブアレイ要素3ごとの信号強度を算出し、全範囲でこの信号強度を積分してスポット強度とする。
【0062】
図4は、本実施の形態の生化学的検査方法で使われるCCDカメラ19の如きアレイ型検出器(CCD)の出力特性を示す図である。図中で横軸は受光強度P、縦軸は出力信号Sである。この特性は図に示す通り、0≦P≦PE の線型領域(線型特性を有する領域)とP≧PE の非線型領域(非線型特性を有する領域)とで形成され、次の関数で表すことができる。
【0063】
【数1】
ここで、P≧PE の非線型領域では図に示すように、
【数2】
である。
【0064】
今、反応状態に対応して蛍光分子(または化学発光分子)により標識されたm個のプローブアレイ要素を有する生化学検査用アレイ1に存在する蛍光分子(または化学発光分子)から発生する蛍光を上記アレイ型検出器に導き、受光強度(受光量)をn段階変化させて、k(k=1,2,…,m)番目のプローブアレイ要素に存在する蛍光分子(または化学発光分子)の数量に対応する受光強度(受光エネルギー)Pk,i による出力信号Sk,i を検出するものとする。ここで、iは受光強度(受光エネルギー)の変化に対応した番号(i=1,2,…,n)である。このとき出力信号S=Sk,i と受光強度P=Pk,i とは(1)式を満足しているので、
【数3】
となる。ここで受光強度Pk,i は、変化させる前の受光強度Pk を既知の割合である受光強度比率βi で変化させて得られるものとして、
【数4】
とする。
【0065】
(3)式および(4)式により、
【数5】
となる。
【0066】
βi を変化させる方法としては、NDフィルタの切り替え、CCDカメラ19におけるCCDの蓄積時間の制御、液晶フィルタの電気的制御、励起強度の制御などが有る。励起強度の制御では、特定のプローブアレイ要素3の領域内に存在する蛍光分子(または化学発光分子)が発する複数の蛍光強度、または各励起波長に対応する全プローブアレイ要素3の領域内に存在する蛍光強度の複数の総和が等しくなるように、各励起波長ごとに励起強度を設定する。
【0067】
本実施の形態の第1の生化学的検査方法は、(5)式により、プローブアレイ要素ごとにiに対応したn個の方程式が形成されるので、画像処理部20でこれらの方程式を解くことにより、変化させる前の受光強度Pk を求める。この方法によれば、非線型領域を積極的に利用するために、実質的なダイナミックレンジの増加が一段と促進するという特有の効果がある。また、nを増すことによる平均化作用により高精度の検査も可能となる。この場合、望ましくは顕著な低分解能領域(飽和出力にごく近い領域)での検出データは誤差の要因となるので、処理対象から除外するのが良い。なお、プローブアレイ要素ごとの方程式ではなく、画素ごとに方程式を形成し、画素出力から画素入力強度を求め、その後プローブアレイ要素ごとに積分して受光強度Pk を求めることもできる。
【0068】
次に、本実施の形態の第2の生化学検査方法を説明する。
【0069】
線型領域すなわち0≦P≦PE の場合は、(5)式により、
【数6】
であり、Sk,i とβi との比をRk とすれば、(6)式により
【数7】
となり、Rk は一定値となる。
【0070】
一方、非線型領域すなわちPE ≦Pの場合は、(5)式により、
【数8】
となる。従って、このときのSk,i とβi との比Rk は、
【数9】
となる。また、(2)式により、
【数10】
(9)式および(10)式により、
【数11】
となり、Rk は一定値とならず、しかも線型領域の一定値Rk より小さい。本実施の形態における第2の方法ではこの点に注目して、Rk が一定とみなせる範囲に存在する場合に限り線型領域内に在るものと認定し、さらにこの中からβi の最大の検出値を用いて、次式
【数12】
により、変化させる前の受光強度Pk を求める。
【0071】
なお、Pk には測定誤差が含まれるため、Rk にも誤差が生じる。この中で「Rk が一定とみなせる範囲に存在する」ことを判断しなければならないが、βi を大きくしたときのRk の変化率が一定値以上(またはβi を小さくしたときのRk の変化率が一定値以下)のときにRk が一定とみなせば良い。この一定値は、たとえば1%、0%などが採用される。
【0072】
また、画素ごとに画素出力から画素入力強度を求め、この後プローブアレイ要素ごとに積分して受光強度Pk を求めることもできる。この方法によれば、検出値が安定している線型領域を使うため、高精度の検査ができるという特有の効果がある。
【0073】
なお、本発明は上記実施の形態のみに限定されず、要旨を変更しない範囲で適宜変形して実施できる。例えば、適用できる検査用アレイは、上述した例に限らず、三次元的に混合溶液を収容して反応を行なうような多数の液体保持部を密に配置しているアレイ全般に適用でき、特に柱状の空間に液体を収容するタイプに適している。
【0074】
【発明の効果】
本発明によれば、通常のダイナミックレンジを有するエリアセンサーまたはラインセンサーを用いる場合でも、実用上大きなダイナミックレンジで各プローブアレイ要素に対応する光強度を同時に検出し得る生化学的検査方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係る生化学的検査方法を実施する顕微鏡装置の構成を示す図。
【図2】本発明の実施の形態に係る生化学検査用アレイの概略構成を示す図。
【図3】本発明の実施の形態に係る検査手順を示すフローチャート。
【図4】本発明の実施の形態に係る生化学的検査方法で使われるCCDカメラの如きアレイ型検出器の出力特性を示す図。
【図5】従来例に係る三次元アレイをなすテーパ付き試料ウェルアレイを示す図。
【符号の説明】
1…生化学検査用アレイ
2…位置検出用アレイ要素
3…プローブアレイ要素
11…励起光源
12…シャッター
13…レンズ
140…励起フィルタユニット
14…励起フィルタ
15…ダイクロイックミラー
16…対物レンズ
170…NDフィルタユニット
17…NDフィルタ
18…結像レンズ
19…CCDカメラ
20…画像処理部
21…表示部
101…多孔性ガラスウェハー
102…孔
103…テーパ付きウェル
104…チャンネル
105…貫通孔
Claims (11)
- 第1の生化学的物質の溶液を、表面に該第1の生化学的物質に特異的に反応する第2の生化学的物質が各々保持されている生化学検査用アレイに供給し、発光性分子による標識を用いて前記生化学検査用アレイの各プローブアレイ要素ごとに前記発光性分子の発光強度をアレイ型検出器で検出することにより、前記第1の生化学的物質と該第1の生化学的物質に特異的に反応する第2の生化学的物質との反応状態を前記各プローブアレイ要素ごとに検査する生化学的検査方法であり、
前記アレイ型検出器の受光量を変化させながら複数の画像を取得したのち、これらの複数の画像を比較して、各プローブアレイ要素ごとに適正露光条件である画像を選択することにより、前記各プローブアレイ要素の領域内に存在する前記発光性分子が発する発光強度に比例する強度を検出することを特徴とする生化学的検査方法。 - 前記生化学検査用アレイは、多孔質または繊維質の物質あるいは成形物から成る立体構造の反応担体の表面の異なる位置にプローブの溶液を供給し、該溶液中に含まれるプローブを前記多孔質または繊維質の物質あるいは成形物の内部に保持することにより成ることを特徴とする請求項1に記載の生化学的検査方法。
- 前記生化学検査用アレイに、光で励起発光する各々異なる発光性分子で標識された複数のサンプルの混合溶液を供給し、前記複数のサンプルと前記プローブとの間で前記各プローブアレイ要素ごとに特異的反応を生じさせ、前記生化学検査用アレイに励起光を照射し前記異なる発光性分子が発する光の強度を選択的に前記アレイ型検出器で検出することを特徴とする請求項2に記載の生化学的検査方法。
- 前記アレイ型検出器の受光量を変化させて得られる複数の光強度画像を比較することにより、適正な受光強度範囲を決定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の生化学的検査方法。
- 前記適正な受光強度範囲を前記各プローブアレイ要素ごとに決定することを特徴とする請求項4に記載の生化学的検査方法。
- 大なる受光エネルギーから小なる受光エネルギーになるように、受光量を順次変化させながら光エネルギーを検出し、前記各プローブアレイ要素ごとの検出可能な受光エネルギー範囲内の上限付近のエネルギーに対応する既知の受光条件パラメータと前記上限付近のエネルギーとから、前記発光性分子が発する発光強度に比例する強度を決定することを特徴とする請求項5に記載の生化学的検査方法。
- NDフィルタの切り替えにより受光強度を変化させることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の生化学的検査方法。
- 液晶フィルタを電気的制御することにより受光強度を変化させることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の生化学的検査方法。
- 特定の前記プローブアレイ要素の領域内に存在する複数の異なる蛍光分子が発する複数の波長の蛍光強度、または各励起波長に対応する全前記プローブアレイ要素の領域内に存在する複数の異なる蛍光分子ごとの複数の波長の蛍光強度の総和が等しくなるように各励起波長ごとに励起強度を設定することを特徴とする請求項3に記載の生化学的検査方法。
- 前記アレイ型検出器の蓄積時間を変えることにより受光強度を変化させることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の生化学的検査方法。
- 前記アレイ型検出器が飽和状態になる直前までに得られる蛍光画像から前記生化学検査用アレイのバックグラウンド画像を差し引いた補正画像を処理の対象とする請求項4に記載の生化学的検査方法。
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