JP3833069B2 - 低残留応力溶接装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ステンレス鋼及びニッケル基合金の溶接部表面に存在する引張残留応力を圧縮残留応力に転換する方法と装置に係り、特に溶接施工直後に冷却水を噴霧して高温部を急冷することにより、溶接部表面に圧縮残留応力を生成させ、腐食環境で用いられる溶接部位の耐応力腐食割れ性を向上させるのに好適な溶接方法と装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
ステンレス鋼やニッケル基合金では、溶接熱などによって結晶粒界にCr 炭化物が析出し、この結果、結晶粒界の極近傍にCr 欠乏層が形成され、このCr 欠乏層に鋭敏化(腐食に対して感受性が高くなる現象)が発生する。
【0003】
また、溶接部近傍の表面には、一般に高い引張残留応力が存在するので、材料が鋭敏化した状態で、高引張残留応力を受けている厳しい腐食環境下で使用されると応力腐食割れを起こす。すなわち、材料の鋭敏化、高い引張残留応力及び腐食環境の三因子が重畳すると、応力腐食割れの危険性が高まる。
【0004】
ところで、この応力腐食割れの原因となる残留引張応力の低減については、従来から種々の方法が提案されているが、このとき、この残留引張応力の低減を溶接施工と同時に行う方法がある。
【0005】
例えば特開平10−34374号公報では、「ステンレス鋼及びニッケル基超合金に残留圧縮応力を発生させる方法並びに水中溶接による応力腐食割れ補修」と題して、水中プラズマ移行アーク溶接によって残留圧縮応力を発生させる方法について開示している。
【0006】
この公報に開示の技術は、水を溶融池から排除した状態に保つ局部排水装置を使用し、溶接作業を水中で行い、これにより、圧縮残留応力を発生させるものである。
【0007】
また、例えば特開平8−155650号公報では、「オーステナイト系ステンレス鋼の溶接法」と題して、オーステナイト系ステンレス鋼の溶接の際に、短時間に効率良く冷却して、熱ひずみや残留応力の発生をなくし、耐食性、耐久性に優れた品質の良い溶接部を得る技術について開示しているが、この技術は、溶接直後の溶接部の表裏面のうち、少なくとも一方の面に、二酸化炭素の凝結固体粒子を吹き付けて冷却するものである。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
前記従来技術には、以下の問題がある。
まず、水中プラズマ移行アーク溶接によって圧縮残留応力を発生させる従来技術では、炉水で満たされた原子炉圧力容器内部の補修溶接のように、周囲に十分に水が張られている状態での施工となり、このため、例えば原子炉圧力容器で、炉水を抜いてある場合に補修が必要となった場合には適用が困難であるという問題がある。
【0009】
次に、溶接直後の溶接部表裏面のうち少なくとも一方の面に、二酸化炭素の凝結固体粒子を吹き付けて冷却する従来技術では、二酸化炭素の凝結固体を製造又は保存するための設備が必要となり、このため、水による冷却と比較して装置が複雑になり、且つコスト的に不利になるという問題がある。
【0010】
本発明は、応力腐食割れの三因子の中の応力因子を改善により、ステンレス鋼及びニッケル基合金の溶接部及び熱影響部の耐応力腐食割れ性の向上を図るものである。
【0011】
本発明の目的は、溶接部表面の引張残留応力を圧縮応力に転換するのに必要な熱的及び機械的な効率が良く、コストの低廉が充分に図れるようにした低残留応力溶接装置を提供することにある。
【0012】
【課題を解決する手段】
上記目的は、溶接トーチによる溶接施工後に溶接部を冷却して溶接部表面の引張残留応力を低減させるようにした低残留応力溶接装置において、冷却液噴霧用のスプレーノズルを移動機構に設け、前記スプレーノズルから冷却液を溶接部表面に噴霧しながら、前記移動機構を前記溶接トーチの移動に追従して移動させ、溶接を行うようにして達成される。
【0013】
また、上記目的は、溶接トーチによる溶接施工後に溶接部を冷却して溶接部表面の引張残留応力を低減させるようにした低残留応力溶接装置において、溶接トーチが溶接方向の前になり、冷却液噴霧用のスプレーノズルが後になるようにして、これらを移動機構に設置し、前記スプレーノズルから冷却液を溶接部表面に噴霧しながら、前記移動機構を溶接経路に沿って移動させ、前記溶接トーチにより溶接を行うようにしても達成される。
【0014】
このとき、前記移動機構上で、前記スプレーノズルよりも前記溶接トーチに近い位置に設置され、カーテン状の空気の流れを作り、前記スプレーノズルから噴霧される冷却液が溶接トーチの方向へ飛散するのを防止するガスノズルが設けられているようにしてもよい。
【0015】
また、このとき、前記移動機構に遮光ガラスを設け、溶接アークによる熱源を、前記遮光ガラスを介して目視することにより、手動で前記移動機構が前記溶接トーチの移動に追従して移動させるようにしてもよい。
【0016】
同じく、このとき、前記移動機構は、溶接部に沿って設置されたレールにガイドされて移動するようにしてもよく、横向き姿勢で溶接施工するときに、溶接線に併行してガイドレールを設置し、設置したガイドレール上を移動することにより、横向き姿勢で溶接施工中に溶接トーチとカーテン状の空気の流れをつくるためのガスノズルとスプレーノズルとの間隔で一定に保ちながら移動できるようにしてもょい。
【0017】
更に、上記目的は、溶接トーチによる溶接施工後に溶接部を冷却して溶接部表面の引張残留応力を低減させるようにした低残留応力溶接装置において、治具に固定された溶接トーチと、治具に固定され、冷却液を溶接部表面に噴霧するスプレーノズルと、前記スプレーノズルよりも溶接トーチに近い位置に治具により固定され、カーテン状の空気の流れを作り、スプレーノズルから噴霧される冷却液が溶接トーチの方向へ飛散するのを防止するガスノズルと、スプレーノズルから噴霧される冷却液を溜める容器と、冷却液を溜める容器内部を加圧する機構と、スプレーノズルにおくる圧縮空気を供給する機構と、ガスノズルにおくる圧縮空気を供給する機構とからなり、カーテン状の空気の流れを作るガスノズルから空気を噴射し、スプレーノズルから霧状の冷却液を溶接部表面に噴霧しながら、且つ被溶接物を移動させながら溶接するようにしても達成される。
【0018】
換言すれば、本発明に係る低残留応力溶接装置は、ある実施の形態によれば、溶接施工後に溶接部を冷却することにより、溶接部表面の引張残留応力を低減させる低残留応力溶接装置であって、溶接トーチに追従する移動機構と、移動機構上に設置され冷却液を霧状にして溶接部表面に噴霧するスプレーノズルと、移動機構上で前記スプレーノズルよりも溶接トーチに近い位置に設置されカーテン状の空気の流れを作りスプレーノズルから噴霧される霧状の冷却液が溶接トーチの方向へ飛散するのを防止するガスノズルと、スプレーノズルから噴霧される冷却液を溜める容器と、冷却液を溜める容器内部を加圧する機構と、スプレーノズルにおくる圧縮空気を供給する機構と、ガスノズルにおくる圧縮空気を供給する機構とからなり、カーテン状の空気の流れを作るガスノズルから空気を噴射し、かつスプレーノズルから霧状の冷却液を溶接部表面に噴霧しながら溶接トーチに追従して移動する構成とする。
【0019】
また、移動機構は溶接部に沿って予め設置されたガイドレールを動力により運動する移動機構である構成でもよい。
【0020】
また、移動機構は作業者が手動で行い、前記の移動機構を溶接トーチの熱源に目視で追従させるために移動機構上でカーテン状の空気の流れをつくるためのガスノズルのよりも溶接トーチに近い位置に遮光ガラスを設置し、遮光ガラスを介して熱源を目視しながら移動機構に熱源を追従させる構成でもよい。
【0021】
さらに、移動機構の運動は作業者が手動で行い、カーテン状の空気の流れをつくるためのガスノズルの前方にTIG溶接用の溶接トーチを設置して移動機構を移動させることにより溶接トーチとカーテン状の空気の流れをつくるためのガスノズルとスプレーノズルが等間隔で同時に移動できる構成でもよい。
【0022】
また、カーテン状の空気の流れをつくるためのガスノズルの前方に溶接トーチと、溶接ワイヤの供給装置と、移動機構の駆動機構と、駆動機構制御装置とを具備し、溶接トーチとカーテン状の空気の流れをつくるためのガスノズルとスプレーノズルとの間隔を一定に保ちながら移動できる構成でもよい。
【0023】
さらに、横向き姿勢で溶接施工するときに、溶接線に併行してガイドレールを設置し、設置したガイドレール上を移動することにより、横向き姿勢で溶接施工中に溶接トーチとカーテン状の空気の流れをつくるためのガスノズルとスプレーノズルとの間隔で一定に保ちながら移動できる構成でもよい。
【0024】
また、治具に固定された溶接トーチと、治具に固定され冷却液を霧状にして溶接部表面に噴霧するスプレーノズルと、前記スプレーノズルよりも溶接トーチに近い位置に治具により固定されカーテン状の空気の流れを作りスプレーノズルから噴霧される霧状の冷却液が溶接トーチの方向へ飛散するのを防止するガスノズルと、スプレーノズルから噴霧される冷却液を溜める容器と、冷却液を溜める容器内部を加圧する機構と、スプレーノズルにおくる圧縮空気を供給する機構と、ガスノズルにおくる圧縮空気を供給する機構とからなり、カーテン状の空気の流れを作るガスノズルから空気を噴射し、かつスプレーノズルから霧状の冷却液を溶接部表面に噴霧しながら被溶接物を移動させながら溶接する構成でもよい。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明による低残留応力溶接装置について、図示の実施の形態により詳細に説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態で、この実施形態は、手作業で被覆アーク溶接を行うようにした装置で、この図において、まず、1は台車で、車輪を備え、母材(被溶接部材)50のアーク溶接部分に沿って、例えば、図では矢印Bで示す方向に移動できるようになっており、従って、この台車1により移動機構が構成されるようになっている。
【0026】
そして、この台車1には、冷却液を噴霧する(霧状にして噴射させること)ためのスプレーノズル11と、圧縮空気を噴出するガスノズル21とが設置されている。
ここで、まず、スプレーノズル11は、冷却水を噴霧する働きをするもので、このとき噴霧すべき水の量と、水滴径の調整が可能なものが用いられる。
【0027】
そして、このスプレーノズル11には、冷却水ホース12bが接続され、これにより、コンプレッサー10から供給されている圧縮空気により加圧されている水槽14から、加圧された冷却水が、コック13bで流量調整された上で供給されるようになっており、このとき、更に、冷却水を霧状にして噴出するための圧縮空気が、コンプレッサー10から圧縮空気ホース12aを経由して供給されるようになっている。
【0028】
一方、ガスノズル21には、コンプレッサー20から圧縮空気ホース22を介して圧縮空気が供給される。
ここで、このガスノズル21には、図2に示す形態のノズルが使用され、これにより、噴出された圧縮空気がエアカーテンを形成し、スプレーノズル11から噴霧された冷却液を溶接部から隔離する働きが得られるようにしてある。
【0029】
このため、ガスノズル21として、図2に示すように、圧縮空気用ホース22の端部を2枚の平板211で挟み、その両端にノズル開口部の幅を調節するための部材212を取付けたものを使用する。
そして、このとき形成されるエアカーテンの幅は、部材212の寸法により調整し、空気の流速は、コンプレッサー20から供給される圧縮空気の圧力をコック23で変化させることにより、調整する。
【0030】
ここで、上記した冷却水ホース12bと圧縮空気ホース12a、それに圧縮空気ホース22は、何れも母材50の溶接施工領域の全域がカバーできる範囲の長さにとっておくが、このとき、更に台車1には、その最前部に遮光ガラス40を設置しておく。
【0031】
次に、この実施形態による溶接作業について説明する。
まず、作業者は、溶接層を、例えば矢印A方向に、順次多層にわたって溶接してゆく、いわゆる多層溶接を実行するのであるが、このとき、溶接が最終層になる1層前までは通常の多層溶接を行う。そして、最終層の溶接施工時に、図1に示す装置を設置する。
【0032】
そして、ここで最終層の溶接作業を開始する前に、まず、ガスノズル21による圧縮空気の噴出を開始させ、この後でスプレーノズル11による冷却液の噴出を開始させるようにする。これにより、冷却水がアーク発生部位に飛散するのを防止することができる。
【0033】
次に、溶接作業者は、ホルダ30を操作し、母材50と溶接棒31の間に溶接アークを発生させ、溶接棒31を矢印A方向に移動させ、溶接を開始する。
このとき、溶接施工者の他に、台車1を操作する作業者を置き、遮光ガラス40を介して溶接部のアークを目視で監視し、その位置を確認させ、遮光ガラス40の中に見えるアークの輝点の位置が常に一定になるように、アーク位置に追従して、矢印B方向に、台車1を移動させる。
【0034】
これにより、スプレーノズル11から噴霧されている冷却液は、アーク直下の溶融プール(溶融池)から常に一定の距離を保持した位置で、高温にある溶接部に掛けられるようになり、この結果、溶接部の温度が溶接施工後に所定の温度に低下したところで、溶接部が急冷されることになる。
【0035】
ここで、1本の溶接棒31を使い終えて、次の溶接棒31をホルダ30にセットするまでは、台車1は止めておき、再度、溶接が開始された段階で、トーチの移動に追従させて台車1を移動させる。
【0036】
そして、溶接作業が終了したら、溶接終端部まで水スプレーがかかる位置まで台車1を移動させ、溶接終端部を冷却した時点でスプレーノズル11からの冷却水の噴霧とガスノズル21からの空気の噴出を停止させるのである。
【0037】
以上の実施形態に従った作業により、母材50の溶接部表面には、作業終了と同時に、そのままで残留引張応力の低減に有効な圧縮応力が残留し、この結果、残留引張応力の低減に有効な残留応力改善が得られることになる。
【0038】
ここで、重要なことは、溶接部の急却が、溶接部の温度が溶接施工後に所定の温度に低下したところで起こるようにすることで、これにより、始めて残留引張応力の低減に有効な残留圧縮応力の形成が得られるのであるが、これが、上記実施形態によれば、常に確実に得られることになる。
【0039】
ところで、この実施形態では、溶接電極として普通の溶接棒31を用い、これにより被覆アーク溶接を行なった場合について説明ししたが、TIG溶接やMIG溶接であっても何ら問題ない。
図3は、TIG溶接に本発明を適用した場合の一実施形態で、このため、台車1の最前部には、TIG溶接用の溶接トーチ61が設置してある。
【0040】
ここで、このTIG溶接用の溶接トーチ61は、普通のTIG溶接に一般的に用いられるものでよく、アルゴンなどの不活性ガスは、コック65と管路64を介して、不活性ガスボンベ66から供給され、溶接用の電力は、ワイヤ62を介して、溶接電源63から供給されるようになっていて、溶接棒32を用いて溶接が行われるようになっている。
【0041】
そして、この図3の実施形態でも、最終層の1層前までは通常の溶接作業を行い、最終層の溶接施工時に、このTIG溶接用の溶接トーチ61が備えられている台車1を所定の位置に設置し、ガスノズル21から圧縮空気を噴出させ、スプレーノズル11からは冷却液を噴霧しながら台車1を矢印B方向に移動させ、溶接を施工する。
【0042】
従って、この図3の実施形態によっても、作業終了と同時に、母材50の溶接部表面には、そのままで圧縮応力が残留し、この結果、残留応力改善が得られることになる。
しかも、この図3の実施形態では、溶接トーチ61が、ガスノズル21とスプレーノズル11と共に、予め台車1上の所定の位置に設置されているため、溶接トーチ61から常に一定の距離をおいて冷却する動作が、台車1を動かすだけで容易に得られることになる。
【0043】
また、この実施形態では、溶接作業が、台車1の移動と、TIG溶接用トーチ61によるアーク内に溶接棒32を供給する作業だけでよいので、一人の作業者により溶接施工と急冷処理の2種の作業を並行して行うことができる。
【0044】
また、この図3の実施形態の場合、噴霧された冷却水による水滴が溶接トーチ61のアーク内に飛散するのを防止するため使用されている、ガスノズル21からの圧縮空気による方法に代えて、TIG溶接用の溶接トーチ61から噴出される不活性ガス流で代用するように変形して、実施しても良い。
【0045】
この実施形態の場合は、ガスノズル21に付随する機器が全て不要で、設ける必要がないので、溶接装置の構成が簡素化でき、この結果、装置の取扱いと、それによる作業が容易になるという効果が期待できる。
【0046】
次に、本発明の第3の実施形態として、移動機構である台車が、溶接トーチによるアークに自動的に追従して移動するようにした実施形態について、図4により説明する。
この図4に示す実施形態の場合、台車1の車輪に駆動用の電動機2が設けてある。
【0047】
そして、台車1の先に設けてある監視カメラ41と温度センサ43から、コンピュータなどからなる制御装置45に検出信号を取り込み、電動機2を制御することにより、溶接トーチ30の溶接棒31と母材50の間に形成されたアークに追従して、例えば矢印Bで示すように、台車1が移動して行くように構成したもので、その他の構成は、図1の実施形態と同じである。
【0048】
ここで、台車1の最前部に設けてある監視カメラ41はテレビジョンカメラの一種で、距離計測機能を備え、溶接棒31と母材50の間に発生されている輝度が高いアークを検出し、そこからの距離を算出する働きをする。
【0049】
そして、この監視カメラ41により計測された距離データは制御装置45に取り込まれ、移動機構制御部46を介して電動機2が制御され、台車1とアークの間の距離が一定になるように、台車1の移動が制御される。
【0050】
また、このとき、制御装置45は、アークの発生と消滅に応じて、電動機2の駆動と停止が制御されるように設定されている。
【0051】
従って、この実施形態によれば、作業者が矢印A方向にアーク溶接を実行して行くだけで、台車1が常に一定の位置を保ちながら溶接施工箇所に自動的に追従して行くことになり、アーク溶接処理と残留応力改善に必要な急冷処理が、1人の作業者だけで容易に得ることができる。
【0052】
ここで、この図4の実施形態についての以上の説明では、アークからの距離計測機能として、監視カメラ41によるアークの輝度を検出する方法を用いた場合についてだけ説明したが、これに代えて、画像データから温度分布を検出することにより、アークによる溶融プールの位置を検出し、そこから台車1までの距離を算出して電動機2を制御するようにしてもよい。
【0053】
このときの溶融プールの検出は、温度が1400℃以上の領域として判断すれば問題なく、容易に、しかも確実に検出することができる。
また、この図4の実施形態では、台車1の先端に、その直下の温度を測定する温度センサ43が取付けられているが、この温度センサ43は、母材50の表面の温度を測定するものである。
【0054】
そして、制御装置45は、この温度センサ43により検出された温度が予め設定した範囲内であれば、台車1の移動を許可し、それ以外の場合は停止させるように設定してある。また、このとき、電磁弁48により、冷却液の噴霧停止も制御するようにしてもよい。
【0055】
ここで、設定すべき温度範囲について説明すると、一例として、溶接入熱が30kJ/cmとなるように、溶接電流、アーク電圧、溶接速度を設定した場合、温度計測機構により計測された温度が0℃以上200℃未満のとき、温度が低いことを表わすアラームを出すと共に、台車1を停止させ、200℃以上600℃未満では、台車1の移動が許されるようにする。
【0056】
そして、600℃以上では、アークに触れる危険があるため、一時的に台車1を停止させ、その後、温度が200℃以上600℃未満となった段階で再度移動させる制御を行うのである。
【0057】
この実施形態によれば、母材50の表面の冷却を、常に所定の温度範囲から開始させることができ、この結果、残留応力低減処理の施工が効率的に管理でき、温度的な効率の向上を得ることができる。
【0058】
次に、図5は、移動機構である台車をガイドに沿って移動させ、自動溶接を行なうように構成した本発明による第4の実施形態で、図示のように、この場合には、スプレーノズル11とガスノズル21が設置され、電動機2を備えた台車1の上に、TIG溶接用トーチ61と更に溶接ワイヤ供給機構72が設置されている。
【0059】
台車1には、車輪の代りに、レール4によってガイドされるようにした溝車5が設けてあり、この溝車5を電動機2で駆動することにより、台車1の移動が与えられるように構成してあり、この電動機2は駆動機構制御装置3により制御される。
そして、この結果、台車1は、レール4によりガイドされ、母材50の表面と平行に、図では左側から右に向けて、矢印Bで示す方向に移動される。
【0060】
また、TIG溶接用トーチ61は、不活性ガスボンベ66から不活性ガスが供給される点も含めて、図3の実施形態と同じであるが、制御装置70から溶接電源63に供給される制御信号によって動作される点と、溶接ワイヤ供給装置71を備えている点で、異なっている。
【0061】
ここで、この溶接ワイヤ供給装置71は、TIG溶接用トーチ61と共に制御装置70により制御され、予めリール状に巻かれている溶接ワイヤ72が制御装置70からの信号により給送され、この溶接ワイヤ72の先端が、自動的にTIG溶接用トーチ61の電極直下に位置するように制御される。
【0062】
また、この実施形態では、ガスノズル21は、管路継手を介して圧縮空気ホース22に接続されており、スプレーノズル11も、同じく管路継手を介して、圧縮空気ホース12a及び冷却水ホース12bに接続されている。
【0063】
そして、この図5の実施形態では、溶接施工に際して、駆動機構制御装置3に溶接速度を設定し、制御装置70には溶接電流とアーク電圧、溶接ワイヤ供給量を設定する。
【0064】
これにより、電動機2が溝車5を回転させ、所定の速度で台車1が移動され、TIG溶接用トーチ61による溶接動作が開始されるが、このとき、初層から最終層の1層前までは、管路継手を外して溶接施工する。すなわち、このときは、通常の自動溶接機による施工と同じである。
また、このとき、溶接ワイヤ72は、自動的に連続して供給される。
【0065】
そして、最終層の溶接開始時、ガスノズル21に圧縮空気ホース22を、そしてスプレーノズル11には冷却水ホース12bと圧縮空気ホース12aを、それぞれ接続し、ガスノズル21から圧縮空気を噴出させ、スプレーノズル11から冷却水を噴霧しながら自動TIG溶接を施工するのである。
なお、管路継手を外す代りに、コック13a、13b、23を開閉するようにしてもよい。
【0066】
従って、この図5の実施形態によれば、被覆アーク溶接棒による溶接と比較して、アークを停止させる回数を少なくすることができ、溶接線に沿って一定の条件で入熱することができる。
また、このときの冷却処理も一定の条件で冷却することができ、均質に圧縮残留応力を発生させることができる。
【0067】
また、この実施形態では、図6に示すように、ガイド用のレール4を、母材50の溶接線51に沿って、その一方の側に配置することにより、下向き姿勢での溶接のみならず、横向き姿勢でも施工を可能にすることができる。
【0068】
次に、本発明の第5の実施形態について、図7により説明する。
この図7の実施形態は、溶接トーチを固定し母材を動かす方式の溶接装置で、比較的大経の金属配管、例えば鋼管の突合せ接合を対象とした溶接装置に本発明を適用した場合の一実施形態で、このため、図示のように、一方の柱状構造体84に設けられている片持ち梁状の部材(治具)にTIG溶接トーチ61と溶接ワイヤ供給装置71を取付け、ガスノズル21とスプレーノズル11は他方の柱状構造体83に設けられている片持ち梁状の部材(治具)に取付けるようにしたものである。
【0069】
そして、母材となる鋼管80は、左右の柱状構造体83、84の間の左右に設けられている2個のローラ81の上に置かれることにより位置決めされ、円周方向に回動可能に保持されるようになっている。
【0070】
そして、矢印Rで示す方向が鋼管80の回動方向であるとした場合、図示の位置にあるTIG溶接トーチ61と溶接ワイヤ供給機構71に対して、矢印Rで示す回動方向の後になるようにしてガスノズル21を設置し、更に、その後方にスプレーノズル11を設置する。
【0071】
ローラ81には、図示してないが、電動機などによる回動駆動機構が備えられていて、溶接施工時、回動制御装置82による制御のもとで、鋼管80を矢印R方向に所定の速度で回動させるようになっている。ここで、所定の速度とは、そのときに要求されているTIG溶接速度で決まるものである。
【0072】
この実施形態では、鋼管80を回動させながら溶接作業が行われるが、このときの溶接施工に際しても、上記した他の実施形態と同じく、溶接層の初層から最終層の1層前まではガスノズル21とスプレーノズル11を動作させないで溶接を行う。
そして、最終層の溶接施工の段階で、ガスノズル21及びスプレーノズル11を動作させて溶接を行うのである。
【0073】
従って、この図7の実施形態によっても、鋼管80の溶接施工を終了した段階で、最終層側の表面に残留引張応力の低減に有効な残留圧縮応力が形成された状態が得られ、高品質の管路溶接を容易に施工することができる。
【0074】
また、この図7の実施形態の場合、次のようにして溶接を施工するようにしてもよい。
すなわち、初層溶接後、鋼管80の内部に水を満たした状態にして第2層以降の溶接を行い、最終層でガスノズル21から圧縮空気を噴出させ、スプレーノズル11を動作させて溶接部表面を急冷しながら溶接するのである。
【0075】
この実施形態によれば、鋼管80の内面は、初層溶接後で内面が水に接している状態での溶接により圧縮残留応力が発生し、外面は急冷溶接による冷却で圧縮残留応力が発生した状態の配管溶接が得られることになり、この結果、内外両面共に圧縮残留応力が形成され、残留引張応力の低減を得ることができる。
【0076】
【発明の効果】
本発明によれば、溶接施工時、移動機構を移動させるだけで、スプレーノズルから冷却水を霧状にして溶接部表面に噴射し、溶接部表面を急冷することができるので、溶接部表面に容易に圧縮残留応力を生成することができる。
【0077】
また、このとき、エアカーテンノズルから噴出する圧縮空気により、スプレーノズルから噴霧された冷却液が溶融プールに飛散することを防止することもでき、この結果、溶接施工と平行して、同時に引張残留応力の低減処置を実現することができる。
【0078】
更に、本発明よれば、引張残留応力の低減が容易に得られることにより、腐食環境で用いられるステンレス鋼又はニッケル基合金を用いた構造物の溶接部位の耐応力腐食割れ性が向上でき、この結果、構造物に対する予防保全効果を充分に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による低残留応力溶接方法及び低残留応力溶接装置の第1の実施形態を示す説明図である。
【図2】第1の実施形態におけるガスノズルの詳細説明図である。
【図3】本発明による低残留応力溶接方法及び低残留応力溶接装置の第2の実施形態を示す説明図である。
【図4】本発明による低残留応力溶接方法及び低残留応力溶接装置の第3の実施形態を示す説明図である。
【図5】本発明による低残留応力溶接方法及び低残留応力溶接装置の第4の実施形態を示す説明図である。
【図6】本発明の第4の実施形態におけるガイドレールと溝車の説明図である。
【図7】本発明による低残留応力溶接方法及び低残留応力溶接装置の第5の実施形態を示す説明図である。
【符号の説明】
1 台車(移動機構)
2 電動機
3 駆動機構制御装置
4 レール
5 溝車
10 コンプレッサー
11 スプレーノズル
14 水槽
20 コンプレッサー
21 ガスノズル
30 ホルダ
31 溶接棒
40 遮光ガラス
41 監視カメラ
43 温度センサ
50 母材(被溶接部材)
61 TIG溶接用の溶接トーチ
71 溶接ワイヤ供給機構
72 溶接ワイヤ
80 鋼管

Claims (4)

  1. 冷却液噴霧用のスプレーノズルを移動機構に設置し、前記スプレーノズルから冷却液を溶接部表面に噴霧しながら、前記移動機構を溶接経路に沿って移動させ、前記溶接トーチにより溶接を行うことにより、前記溶接トーチによる溶接施工後に溶接部を冷却して溶接部表面の引張残留応力を低減させるようにした低残留応力溶接装置において、
    前記移動機構に遮光ガラスを設け、
    前記溶接トーチによるアークを、前記遮光ガラスを介して目視することにより、手動で前記移動機構が前記溶接トーチの移動に追従して移動させるように構成したことを特徴とする低残留応力溶接装置。
  2. 請求項1に記載の発明において、
    前記移動機構上で、前記スプレーノズルよりも前記溶接トーチに近い位置に設置され、カーテン状の空気の流れを作り、前記スプレーノズルから噴霧される冷却液が前記溶接トーチの方向へ飛散するのを防止するガスノズルが設けられていることを特徴とする低残留応力溶接装置。
  3. 請求項1に記載の発明において、
    前記移動機構は、溶接部に沿って設置されたレールにガイドされて移動することを特徴とする低残留応力溶接装置。
  4. 請求項に記載の発明において、
    前記レールが溶接線に併行して設置され、横向き姿勢で溶接施工するとき、前記移動機構は、横向き姿勢で溶接施工中に溶接トーチとカーテン状の空気の流れをつくるためのガスノズルとスプレーノズルの間隔を一定に保ちながら移動できることを特徴とする低残留応力溶接装置。
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