JP3832792B2 - 生体リズム検査装置及び生体リズム検査方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、生体リズム検査装置及び生体リズム検査方法に関し、更に詳細には、生体リズムから生理機能の低下又は老化を早期に判別する、生体リズム検査装置及び生体リズム検査方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
生理機能の低下又は老化は、従来、医者による診察、問診、知能テスト、運動機能テストに基づく臨床所見や、MRIを用いた脳の画像情報に基づく画像所見により、医師の知識、経験に従って診断されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、これらの方法は、医師の主観や経験によるところが多く、客観的・定量的な診断・判別方法の開発が望まれていた。
また、これらの臨床所見や画像所見は、生理機能の低下又は老化の症状が相当顕著に現れて来たときに始めて適用できる診断方法であり、顕著な症状が現れる前の、いわゆる早期判別のための簡易的・客観的・定量的な方法は、現在のところ、開発されていない。
【0004】
そこで、本発明の目的は、高い確度で早期に生理機能の低下又は老化を判別する検査装置及び検査方法を提供することである。
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様に係る生体リズム検査装置は、随意運動による繰り返しリズム運動の筋肉の動きを非侵襲的に計測する生体リズム検出装置から得られる生体リズム情報を、時系列データ解析し、生体リズムの揺らぎを解析することにより脳神経系生理機能の低下又は老化を早期に判別する情報処理装置を備えたことを特徴とする。
【0006】
また、本発明の第2の態様に係る生体リズム検査装置は、随意運動による繰り返しリズム運動の筋肉の動きを非侵襲的に計測する生体リズム検出部と、
生体リズム検出部から得られた生体リズム情報を記録・保存する情報収集装置と、
情報収集装置に記録された生体リズム情報を時系列データ解析して生体リズムの揺らぎを解析することにより、脳神経系生理機能の低下又は老化を早期に判別する情報処理装置とを備えたことを特徴とする。
【0007】
本発明に係る生体リズム検査装置10は、図1に示すように、繰り返しリズム運動に伴う現象、例えば、力の変化、空間的な身体の位置の変化、身体から発する音、電磁場の変化等を生体リズム情報として非侵襲的に測定する生体リズム検出部12と、生体リズム検出部12から得られた生体リズム情報を記録・保存する情報収集装置14と、情報収集装置14に記録された生体リズム情報をデータ解析して、生理機能の低下又は老化を早期に判別するデータを出力する情報処理装置16と、情報処理装置16で得た解析結果を出力する出力装置18とを備えている。
情報収集装置14は、図2に示すように、入力装置20、入力装置20に接続された中央演算装置22、記憶装置24、及び出力装置26を備えている。
情報処理装置16は、フラクタル解析、周波数解析(FFT)、自己関数解析、非線形解析(カオスアトラクター)、リアプノフ指数等により、情報収集装置に記録された生体リズム情報、例えば筋肉の動きの加速度データをデータ解析する。
【0008】
本発明で、随意運動による繰り返しリズム運動とは、歩行リズム、足踏みのリズム、指のタッピングリズム、拍手のリズム、咀嚼のリズム、貧乏ゆすりのリズム、眼球運動のリズム、まばたきのリズム等を言う。
生体リズム検出器12は、随意運動による繰り返しリズム運動を非侵襲的に計測する計測器であって、例えば小型の加速度センサーを計測器として使用し、随意運動による筋肉の繰り返しリズム運動を検知できる部位に、小型の加速度センサーを固定し、繰り返しリズム運動に伴う加速度を測定する。
加速度信号は、電圧信号に変換され、情報収集装置14の入力装置20に設けられたA/D変換器(図示せず)により、元のデータを再現するに十分なサンプリング周期で記憶装置24に取り込まれる。
【0009】
以下に、順次、フラクタル解析、周波数解析(FFT)、自己関数解析、非線形解析(カオスアトラクター)、及びリアプノフ指数によるデータ解析を説明する。
1) フラクタル解析
随意運動により発生する生体のリズムは、脊髄を含む脳神経回路に存在するCPG(Central Pattern Generator )により制御されていると考えられているが、その周期は常に一定ではなく、生体の状態や周りの環境変化の影響を受け、微妙に変化する。その変化を定量的に解析する手法の一つが、フラクタル解析である。
【0010】
まず、もとのデータを再現するに十分なサンプリング周期でサンプリングされた生体リズムの加速度変化から、生体リズムの周期を抽出する。
加速度変化がピークをもった繰り返し波形ならば、そのピーク間の時間間隔を計算することにより、生体リズムの周期の変化を抽出できる。
【0011】
次に、生体リズムの周期の時系列に対して、フラクタル解析を行う。一般に、生体信号は、ノイズを多く含み、かつ平均値や分散等の統計量が、時間とともに変化する、非定常の信号であるから、先ず、生体信号からノイズとトレンドの除去を行う。
その後、時間軸に対して可変のウインドウを設定し、そのウインドウ内における信号の揺らぎの大きさを計算する。具体的には、次の式(1)により、ノイズ除去を行い、式(2)によりトレンド除去後の揺らぎの計算を実行する。
【数1】
【数2】
【0012】
式1及び式2で、x(i)は生体リズムの周期(間隔)の時系列データ、xavg はその平均値、g(k)は平均ゼロの周期時系列の積算値、gn (k)は時間軸のウインドウ幅をnとしたときの直線トレンド、S(n)はトレンド除去後の揺らぎの大きさをそれぞれ表す。
【0013】
得られた揺らぎ成分S(n)と、ウインドウサイズnのlog-log プロットは、データが長期の相関をもった時系列であれば、傾き0.5〜1.0の直線、ホワイトノイズであれば、傾き0.5の直線、ブラウンノイズであれば、傾き1.5の直線になることが知られている。
人の心拍変動は、いわゆるl/fと呼ばれる揺らぎを示すことが報告されているが、このl/f揺らぎの場合、S(n)とウインドウサイズnのlog-log プロットの傾きは1.0となる。
また、S(n)の絶対値は、トレンドを取り除いた後の、生体リズムの周期のばらつきを表すので、生体制御の性能を表す指標であると言える。
【0014】
2)周波数解析(FFT)
周波数解析(FFT)は、任意の時系列信号の中に、ある周波数の三角関数(正弦波)がどのくらいのパワーを持って存在しているかを定量的に示す解析方法であって、任意の周期関数は、周波数の異なる三角関数の和で表すことができるというフーリエ級数理論に基づいている。
具体的には、周波数スペクトルX(f)は、時系列データx(t)に対して、式(3)に従って、演算処理を行って得られる。
【数3】
【0015】
3)自己相関関数
自己相関関数は、時系列データx(t)に対してある時間“τ”だけずらした波形x(t+τ)が、どのくらい似ているかを定量的に示すもので、時系列の中の周波数成分を推定したり、どのくらい離れた時間まで関連性があるか等の判断に使用される。
自己相関関数R(τ)は、時系列データx(t)に対して、式(4)に従って、演算処理を行って得られる。
【数4】
【0016】
4)非線形解析(カオスアトラクター)
生体のリズムを生成する機構は、多変数の制御システムと考えられるが、その全ての変数の状態を計測することは不可能である。しかし、これら多変数が何らかの関係を保って機能しているとすれば、限られた変数の状態から他の変数の状態を推定することが可能である。
これは、Takens(ターケンス)の埋め込み定理として知られる関係であって、限られた変数の計測値から、遅延時間を利用したサンプリングにより、多変数の状態空間を再現できる。この状態空間の軌跡が、カオスアトラクターと呼ばれ、多変数の制御システムの構造の違いをカオスアトラクターの軌跡の違いとして認識できる。
【0017】
5)リアプノフ指数
一見、ランダムに動いている時系列でも、その生成機構がある決定論に従っていれば、以下の3つの特徴をもつことが知られている。
・アトラクター軌道の不安定性(アトラクターの初期値敏感性)
・(中長期)の予測不能性
・自己相似性
この中で、「アトラクター軌道の不安定性」と「(中長期)の予測不能性」を定量的に表したのが、リアプノフ指数である。リアプノフ指数は、近接した2つのアトラクターが、ある一定時間後にどのくらい距離が離れてしまうかを示す。アトラクターの1つの軌道をyl(t)、もう一つの軌道をy2(t)、リアプノフ指数をλとすると、式(5)の関係があり、リアプノフ指数λが正ならばアトラクター軌道が不安定となり、時系列がカオスである可能性を示す。
【数5】
【0018】
【発明の実施の形態】
以下に、添付図面を参照して、実施形態例に基づいて本発明をより詳細に説明する。
実施形態例1
本実施形態例は、本発明に係る生体リズム検査装置の実施形態の一例である。本実施形態例では、測定対象を歩行リズムとし、先ず、以下のようにして、生体リズムを測定する。
小型のひずみゲージ式加速度センサー(共和電業製、上下・左右の2軸測定、測定範囲は±5G)を被験者の腰背部中央部にベルトで固定し、歩行時の腰背部における加速度を100Hzのサンプリング周期で計測する。歩行は日頃履き慣れた靴を使用し、被験者にとって自然なスピードで10分間歩行し、その間の歩行リズムを測定する。
【0019】
データ解析
1)歩行中に腰背部中央部で計測される加速度波形には、片方の足の踵が地面に接触した瞬間に、体が地面から受ける最大反力のピークが表れるので、そのピークの間隔から歩行間隔の時系列を得る。
この歩行間隔の時系列に対して、フラクタル解析を行い、その結果を揺らぎ成分S(n)とウインドウサイズnのlog-log プロットとして、図3(a)から(f)に示す。図3(a)から(f)は、それぞれ、年齢が20代、30代、40代、50代、60代、及び70代の被験者のデータを示している。図3では、横軸にlog10 (n)を、縦軸に log10 S(n)を取っている。
【0020】
被験者は、42人の健常者と2人の脳神経系生理機能の低下した人で、図3は20代〜70代の各年代別に整理した結果である。図中、脳神経系の生理機能が低下した人は、「*」と「o」で示されている。健常者と脳神経系の生理機能が低下した人では、全スケール(全ウインドウサイズn)にわたって、フラクタル解析の絶対値が、明らかに異なっている。また、40代〜60代では、フラクタル解析の傾向が徐々に脳神経系の生理機能が低下した人に近づきつつある健常者がいることもわかる。
フラクタル解析S(n)の絶対値は、トレンドを取り除いた後の、生体リズムの周期のばらつきを表すので、生体制御の性能や老化を示す指標(健常者<脳神経系の生理機能の低下した人)と見ることができる。
【0021】
2)腰背部中央部で計測された生の加速度データに対して、周波数解析を行った結果を図4(a)及び(b)に示す。図4(a)は健常者の解析結果であり、図4(b)は脳神経系生理機能の低下した人の解析結果である。図4では、横軸にlog f、縦軸にlog Pを取っている。
人間の歩行周期(右足〜左足〜右足〜...)は約0.5秒であるから、2Hzで最大のパワーを示している。
図4(a)及び(b)から判る通り、健常者には高調波のピークが多数表れている一方、脳神経系生理機能の低下した人は約2Hzのピークを示すものの、高調波成分が見られず、4〜6Hzに2つのパワーを持つのみである。
【0022】
3)健常者と脳神経系生理機能の低下した人の生体リズムの加速度データに対する自己相関関数をそれぞれ図5(a)及び(b)に示す。縦軸は、相関係数、横軸は、相関係数を計算する際の時間のずれ(式(4)のτ)をそれぞれ示す。
健常者は長期の相関を示すが、脳神経系生理機能の低下した人はそれが見られない。
4)健常者と脳神経系生理機能の低下した人の生体リズムの加速度データに対するカオスアトラクターをそれぞれ図6(a)及び(b)に示す。このカオスアトラクターは、市販のカオス解析用のソフトウェア(コンピュータコンビニエンス社製、CHORUS)を用いて描いた。埋め込み遅延時間は50ミリ秒に、埋め込み次元は4次元に、視点は縦軸を178度に、横軸を85度に、それぞれ、設定している。
健常者のアトラクターは、中央に空間のある軌跡を示すが、脳神経系生理機能の低下した人のそれは一ヵ所に集中し、明確な軌跡を示していない。
【0023】
5)上記の埋め込み遅延時間が50ミリ秒で、4次元に埋め込んだ時のカオスアトラクターの第1リアプノフ指数は、健常者:0.033、脳神経系生理機能の低下した人:0.212であった。
このことから、フラクタル解析と同様に、カオスアトラクターを生体制御の性能を表す指標(健常者<脳神経系生理機能の低下した人)とすることができる。
【0024】
以上のことから、健常者及び脳神経系生理機能の低下した人から非侵襲的に得たデータをデータ解析して健常者のデータと対比することにより、罹病の蓋然性を客観的に診断できる、脳神経系生理機能の低下した人の診断装置及び方法を実現している。
これにより、専門医以外の医者でも、診断の難しい脳神経系生理機能の低下した人罹病を、高い確度で早期に、しかも非侵襲的かつ客観的に診断できる。
【0025】
実施形態例2
本実施形態例は、本発明に係る生体リズム検査装置の実施形態の別の例である。本実施形態例では、測定対象を指のタッピングリズムとし、先ず、以下のようにして、生体リズムを測定する。
圧電センサーを取り付けた平板を机の上に置き、その平板の上で指のタッピング運動を行い、タッピング運動により発生する電圧を100Hzのサンプリング周期で計測する。
【0026】
データ解析
1)計測した電圧は、タッピングの指を平板に打ちつけた瞬間に、最大ピークを示すので、そのピークの間隔を計算することにより、タッピング間隔の時系列を得る。歩行リズムと同じように、フラクタル解析をした結果を図7に示す。
図7に示すように、脳神経系生理機能の低下した人の方が、全てのウインドウサイズにわたり、健常者よりも大きな値のS(n)を示している。これにより、専門医以外の医者でも、診断の難しい脳神経系生理機能の低下を、高い確度で早期に、しかも非侵襲的かつ客観的に診断できる。
【0027】
【発明の効果】
本発明方法によれば、随意運動による筋肉の繰り返しリズム運動を、繰り返しリズム運動に伴う筋肉の動きを生体リズム情報として測定し、生体リズム情報を記録・保存するステップと、生体リズム情報をデータ解析して、健常データと比較するステップとを備え、生理機能の低下又は老化を早期に判別することができる生体リズム検査方法を実現している。
本発明によれば、随意運動による繰り返しリズム運動の筋肉の動きを非侵襲的に計測する生体リズム検出部と、生体リズム検出部から得られた生体リズム情報を記録・保存する情報収集装置とから生体リズム検査装置を構成することにより、生体リズム検査方法を容易に実施することができる検査装置を実現している。
【図面の簡単な説明】
【図1】生体リズム検査装置の構成を示すブロック図である。
【図2】情報収集装置の構成を示すブロック図である。
【図3】フラクタル解析の結果を示すグラフである。
【図4】図4(a)及び(b)は、それぞれ、健常者及び脳神経系生理機能の低下した人の解析結果である。
【図5】図5(a)及び(b)は、それぞれ、健常者及び脳神経系生理機能の低下した人の生体リズムの加速度データに対する自己相関関数を示すグラフである。
【図6】図6(a)及び(b)は、それぞれ、健常者と脳神経系生理機能の低下した人の生体リズムの加速度データに対するカオスアトラクターを示すグラフである。
【図7】フラクタル解析の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
10 生体リズム検査装置
12 生体リズム検出部
14 情報収集装置
16 情報処理装置
18 出力装置
20 入力装置
22 中央演算装置
24 記憶装置
26 出力装置
Claims (3)
- 随意運動による繰り返しリズム運動の筋肉の動きを非侵襲的に計測する生体リズム検出装置から得られる生体リズム情報を、時系列データ解析し、生体リズムの揺らぎを解析することにより脳神経系生理機能の低下又は老化を早期に判別する情報処理装置を備えたことを特徴とする生体リズム検査装置。
- 随意運動による繰り返しリズム運動の筋肉の動きを非侵襲的に計測する生体リズム検出部と、
生体リズム検出部から得られた生体リズム情報を記録・保存する情報収集装置と、
情報収集装置に記録された生体リズム情報を時系列データ解析して生体リズムの揺らぎを解析することにより、脳神経系生理機能の低下又は老化を早期に判別する情報処理装置とを備えたことを特徴とする生体リズム検査装置。 - 時系列データ解析が、フラクタル解析法、周波数解析(FFT)法、自己関数解析法、非線形解析法(カオスアトラクター)、及び、リアプノフ指数法の少なくとも1つを用いる、請求項1又は2に記載の生体リズム検査装置。
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