JP3830697B2 - 圧延用複合ロールの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱間又は冷間圧延用の複合ロールの製造方法の改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
熱間又は冷間圧延用ロールは、外面側に耐摩耗性、内部側に強靱性が要求されることから、耐摩耗性にすぐれるハイス系鋳鉄材の外層と、強靱性にすぐれる鋳鉄又は鋳鋼材の内層を複合化したロールが従来より使用されている。
この複合ロールは、一般的には、横型遠心力鋳造用金型の中にハイス系鋳鉄材の溶湯を鋳込んで中空の外層を形成した後、引き続いて内層用溶湯を鋳込んで中空状としたり、或いは外層形成後、遠心力鋳造用金型を上型、下型と共に直立設置し、静置鋳造により内層を鋳込んで中実状に作製される。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
この種ハイス系鋳鉄材は、Cr、Mo、W、V等の炭化物形成元素を相当量含んでおり、溶湯の凝固過程で炭化物を晶出する。この晶出炭化物が耐摩耗性の向上に大きく寄与する。
ところで、このハイス系材料を用いて、遠心力鋳造によりロール外層を作製した場合、炭化物は、均一に分布して晶出するのではなく、炭化物量の多い層と少ない層とが交互にほぼ同心円状に形成されることが、外層横断面のミクロ組織観察によって認められる。この炭化物の濃淡層は、一般に、年輪状偏析(バンド状偏析)と称されている。
【0004】
この年輪状偏析は、同じハイス系鋳鉄材でも、横型遠心力鋳造の場合に特に発生し易いことが判っている。この理由は、横型遠心力鋳造の場合、図7に示すように、溶湯に対して、上昇時に重力による減速力、下降時に重力による加速力が働いて、上部での流速は小さく、下部での流速は大きくなるためである。この現象から、遠心力鋳造時における年輪状偏析の発生原因の1つとして、凝固途中の溶湯の回転速度が変化していることが考えられる。
【0005】
ロールの外層に生ずる年輪状偏析は、完全な同心円ではないため、ロールの外層表面には炭化物の多い高硬度領域と炭化物の少ない低硬度領域が存在する。それゆえ、実際の圧延作業において、ロール外表面は、炭化物の多い領域では摩耗が生じ難く、一方炭化物の少ない領域では摩耗を生じ易いことから、ロールの外表面に摩耗差が生じ、それが圧延製品に転写されて、品質に影響を及ぼす。
圧延製品の転写模様を回避するには、ロール表面の研磨をより頻繁に行わねばならず、また、凹凸が大きいほど研磨一回当たりの研磨量も多くなる。従って、ロールの表面研磨1回当たりの圧延量が低下し、またロールの低寿命化を招く。
【0006】
本発明の目的は、遠心力鋳造用金型内の溶湯に直流磁界を作用させて、未凝固溶湯を撹拌しつつ凝固させることにより、年輪状偏析のない均質な圧延用複合ロールを提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明の圧延用複合ロールの製造方法は、重量%にて、少なくとも、Cを1.0〜4.0%、Mo及び/又はWを合計量で1.0〜16.0%含有する鋳鉄材溶湯(20)を、回転する遠心力鋳造用金型(10)に供給し、遠心力鋳造によって外層を作製するステップと、作製された外層の内側に内層を溶着一体化するステップを有する圧延用複合ロールの製造方法において、遠心力鋳造用金型(10)の外周には、金型内を貫通する直流磁界を形成するように一対の磁気コイル(30)(31)が配備されており、外層を作製するステップは、金型内面から15mm内側に離れた位置磁束密度Bの最大値Bmaxが、Bmax≧10mT(ミリテスラ)となるように直流磁界を印加しつつ実施するものである。
【0008】
【作用及び効果】
金型(10)の外周に配備された磁気コイル(30)(31)によって、金型(10)の内部を通過する直流磁界を形成しながら、鋳鉄材溶湯(20)の遠心力鋳造を行なう。
供給された溶湯(20)は、金型内で金型(10)と共に回転し、直流磁界と直交又は交差する。
ところで、溶湯(20)が、印加された磁束を横切る速度、即ち磁束と直交する方向の移動速度は変化する。具体的には、溶湯(20)の移動方向が磁束と直交するときには、磁束を横切る溶湯(20)の速度は最も速く、溶湯(20)の移動方向が磁束と平行になるとき、速度はほぼゼロとなる。
溶湯(20)は、上述のとおり移動速度が変化するから、直流磁界を単位時間当たりに横切る磁束密度が変化して誘導起電力を生じる。発生した誘導起電力によって、溶湯中に誘導電流が流れ、溶湯(20)に電磁力Fが作用する。この電磁力Fは、磁束と直交する向きに作用するから、この電磁力Fによって未凝固溶湯(20)は撹拌される。
未凝固溶湯(20)を撹拌しつつ凝固させることによって、固液共存下における結晶核の成長は妨げられ、デンドライトなどの粗大な組織が生成されることは殆んどない。また、撹拌によって、熱の移動が一方向ではなくなるから、等軸晶組織を得ることができる。従って、外層には年輪状偏析は発生しない。
【0009】
外層に年輪状偏析が生じないから、作製された複合ロールの外層は、円周方向にほぼ均一な硬度を有しており、圧延の際、外層の周面に摩耗差を生ずることはなく、圧延製品の品質が確保される。外層の摩耗が一定であるため、ロール表面の研磨頻度及び研磨量を少なくすることができる。その結果、表面研磨一回当たりの圧延量を多くすることができ、生産効率を向上できる。
【0010】
なお、本発明において、遠心力鋳造金型(10)に印加する直流磁界について、金型内面から15mm内側に離れた位置における磁束密度Bの最大値Bmax≧10mTと規定しているのは、溶湯(20)に十分な撹拌を生じさせるためである。
【0011】
本発明の方法によれば、外層を鋳込む際に、鋳込み温度を下げたり、Gno.を上げなくても、年輪状偏析の改善を図ることができるから、低温鋳込みによる非金属異物混入の危険性を回避でき、また、Gno.増大による金型(10)の低寿命化を抑えることもできる。
【0012】
溶湯(20)が凝固する際に、最初に晶出する炭化物の比重が、溶湯の平均比重に比べて大きいほど、印加した磁界による撹拌力が大きくなるから、本発明により年輪状偏析の発生を抑制する効果は高い。
【0013】
【発明の実施の形態】
外層の遠心力鋳造は、図1に示すように、遠心力鋳造金型(10)と、遠心力鋳造金型(10)を回転可能に支持するローラ(40)(40)、及び磁束を発生する磁気コイル(30)(31)を具えた遠心力鋳造装置(50)によって実施することができる。
なお、以下では、金型(10)を横向きに配置した横型遠心力鋳造装置(50)について説明を行なうが、金型を縦又は斜めに配置した遠心力鋳造装置にも本発明を適用できることは勿論である。
【0014】
遠心力鋳造金型(10)の透磁率μは、小さいことがことが望ましい。金型(10)の透磁率が高いと、印加した磁束によって金型の回転を阻止する方向に電磁ブレーキが作用し、金型を回転するモータや減速機等の負荷が増大したり、金型の発熱、更には金型(10)とローラ(40)(40)との摩擦増大などにより、金型やローラを傷めることもあるためである。望ましい金型(10)の透磁率μは2.0以下であり、より望ましくは1.5以下である。この種材料として、例えばSUS304などのオーステナイト系ステンレス鋼を例示できる。
【0015】
金型(10)は、一対のローラ(40)(40)上に配備される。ローラ(40)(40)は、減速機を介してモータ(図示せず)に連繋されており、モータの駆動によって、ローラ(40)(40)が回転し、金型(10)が回転する。
【0016】
磁気コイル(30)(31)は、直流磁界が金型(10)の内部を貫通して形成されるように、金型(10)に接近して配備される。磁気コイルとして、一方向磁界を発生する一対の磁気コイル(30)(31)を例示することができる。
磁気コイル(30)(31)の大きさは、図1に示すように、金型(10)の内径よりも小さいものを使用したり、図3に示すように、金型(10)の内径とほぼ同じものを使用することができる。
磁気コイル(30)(31)は、図1及び図3に示すように、金型(10)の左右両側へ配置したり、図4に示すように金型(10)の上下へ配置して、磁束が金型(10)の中央を貫通するようにしてもよいし、図5に示すように金型(10)の上方又は下方の左右両側へ配置して、磁束が金型内の一部を通過するようにしてもよい。
【0017】
磁気コイル(30)(31)は、鋳込まれる外層の略全長に亘って、磁束が通過するように配置することが望ましいが、外層の鋳込み長さをLとしたときに、少なくとも0.3L以上の部分に磁束が印加されるようにしておけば、外層の略全長に亘って、未凝固溶湯(20)の撹拌を行なうことができる。なお、複数の磁気コイル対を、外層の長手方向に所定間隔毎に配置するようにしてもよい。
【0018】
磁気コイル(30)(31)には、金型(10)を挟んで、一方の磁気コイル(30)がN極、他方の磁気コイル(31)がS極となるように夫々磁束を発生させる。これにより、図1に示すように、N極側の磁気コイル(30)からS極側の磁気コイル(31)に向かう磁束が、金型内を通過する。
【0019】
磁気コイル(30)(31)により形成される磁束Bは、金型(10)の内面から15mm内側に離れた位置における最大値Bmaxが、10mT≦Bmax≦500mT(ミリテスラ)となるように印加することが望ましい。最大磁束密度Bmaxが、500mTを越えると、金型(10)に及ぼす電磁ブレーキ作用が大きくなり、上述の通り、負荷や摩擦の増大、金型の発熱等を生ずることがある。逆に、最大磁束密度Bmaxが、10mTよりも小さいと、溶湯(20)の撹拌が不十分となるおそれがある。
磁束密度Bの大きさは、金型の回転状態と停止状態とで若干は異なるから、遠心力鋳造時に印加される磁束の密度を正確に測定するには、金型を回転させた状態で測定を行なうことが望ましい。しかしながら、金型が回転している状態では、金型内面位置で磁束の測定を行なうことはできないから、本発明では、磁束の測定位置を金型内面ではななく、金型内面から15mm内側に離れた位置としている。
【0020】
上記構成の遠心力鋳造装置(50)において、磁気コイル(30)(31)間に磁束を形成しつつ、金型(10)を回転させて、金型内に溶湯(20)を流し込む。
流し込まれる溶湯(20)の成分として、重量%にて、少なくとも、Cを1.0〜4.0%、Mo及び/又はWを合計量で1.0〜16.0%含有する鋳鉄材を例示することができる。
C:1.0〜4.0%とするのは、Cの含有量が1.0%に満たないと、Mo、W等の炭化物の晶出量が不足し、耐摩耗性が不十分となるためであり、Cの含有量が4.0%を越えると、炭化物量が過多となり脆くなるためである。
また、MoとWの含有を規定するのは、MoとWが炭化物の晶出と年輪状偏析に最も大きく影響を及ぼす元素だからである。なお、Mo及び/又はWの合計量が1.0%に満たないと、炭化物の晶出量が不足し十分な耐摩耗性が得られず、16.0%を越えると、靱性の劣化を招く。
【0021】
前記材料として、より具体的には、重量%にて、Cを1.0〜4.0%、Siを0.2〜3.0%、Mnを0.2〜2.0%、Crを3.0〜12.0%、Mo又はWの少なくとも一種を合計量で1.0〜16.0%、V又はNbの少なくとも一種を合計量で3.0〜10.0%、Coを5.0%以下、Niを4.0%以下、残部実質的にFeからなるハイス系鋳鉄材を示すことができる。
Siは湯流れ性の確保、あるいは場合によっては黒鉛を晶出させるため、0.2〜3.0%含有させる。
Mnは硬化能を増し、Sによる劣化を防ぐために、0.2〜2.0%含有させる。
Cr、Mo、W及び、V又はNbは、Cと結合して炭化物を晶出し、耐摩耗性の向上を図るために、夫々Cr:3.0〜12.0%、Mo又はWの少なくとも一種を合計量で1.0〜16.0%、V又はNbの少なくとも一種を合計量で3.0〜10.0%含有させる。特に、Nbは極めて硬いM1C1型の炭化物を形成し、耐摩耗性を改善させると共に、基地中に入って基地の強化に寄与する。
Coは基地中に固溶されて基地の強化に寄与するため、5.0%以下含有させる。
Niは基地組織を改良するために4.0%以下含有させる。
上記ハイス系鋳鉄材には、さらに、重量%にて、Al:0.5%以下、Ti:1.0%以下、Zr:1.0%以下、B:0.5%以下、Ta:0.5%以下、N:0.05%以下からなる群より選択される少なくとも一種を必要に応じて含むことができる。
Al、Ti、Zr及びBは、溶湯中で酸化物あるいは窒化物を生成して、溶湯中の酸素含有量、窒素含有量を低下させ、製品の健全性を向上させる。生成した酸化物、あるいは窒化物が結晶核として作用するために微細化に効果があり、耐摩耗性も改善される。これは、ハイス系鋳鉄材の耐摩耗性が、極めて硬いM1C1型炭化物に負うところが大きいためである。このM1C1型炭化物は実質的にはV1C1炭化物、Nb1C1炭化物あるいは(V、Nb)1C1炭化物であるが、溶湯の凝固過程においては固相率の小さい段階で晶出するため、遠心力鋳造すると、晶出したM1C1型炭化物の粒子と溶湯の平均比重との差異によって、粒子に内面向きあるいは外面向きの遠心分離力が働き、偏析を助長する。粘性流体中(この場合はハイス系鋳鉄材溶湯)での粒子の移動速度は粒子の径に比例するから、遠心力鋳造された溶湯中に晶出したM1C1型炭化物の粒子が小さいほど、遠心力による移動は抑えられる。Al、Ti、Zr、Bの酸化物あるいは窒化物は、溶湯中で微細に分散し、M1C1型炭化物晶出の核となるため、M1C1型炭化物を微細・分散化させる効果があり、上記のメカニズムによって遠心力鋳造における偏析を軽減する効果がある。
Taは、V又はNbと同様にCと結合し、M1C1型炭化物を形成し、耐摩耗性に寄与する。
Nは、介在物となり、溶湯の清浄度を低下させ、多量に含有すると鋳造割れ等の虞れがある。
このため、これら元素を、上記範囲内で、夫々必要に応じて含有させることが望ましい。
【0022】
金型内に流し込まれた溶湯(20)は、図1に示すように、金型(10)と一体に回転しつつ、磁気コイル(30)(31)により形成された磁束中を横切る。金型(10)の回転速度をVとしたとき、溶湯(20)が、磁束を横切る速度、即ち磁束と直交する方向の移動速度Vy(溶湯(20)の磁束と平行方向の移動速度をVxとする)は、図1に示すように、溶湯(20)の移動方向が磁束と直交するとき最も速く(Vy=±V)、溶湯(20)の移動方向が磁束と平行になるときほぼゼロ(Vy=0)になる。速度変化する溶湯(20)が磁界を横切ると誘導起電力が発生し、発生した誘導起電力によって、溶湯(20)中に誘導電流が流れ、溶湯(20)には、図2に示すように電磁力Fが作用する。この電磁力Fは、回転方向とは逆向きに作用し、回転中の未凝固溶湯(20)を撹拌する。図3乃至図5に示すように、磁気コイル(30)(31)の配置が異なる場合も同様に、磁束を印加することによって、回転方向とは逆向きの電磁力Fが溶湯(20)に作用する。
未凝固溶湯(20)は、電磁力Fによる撹拌作用によって、凝固遷移層における未凝固溶湯(20)に流れを生じさせ、晶出した炭化物が分散する。従って、年輪状偏析の出現もない。また、固液共存下における結晶核の成長が妨げられ、デンドライトなどの粗大な組織が生成されることもない。また、撹拌によって、熱の移動が一方向ではなくなるから、等軸晶組織を得ることができる。
【0023】
なお、磁気コイル(30)(31)による磁界の印加は、金型(10)への溶湯(20)の供給開始から、溶湯がほぼ完全に凝固するまで続けてもよいが、外層の凝固肉厚が厚くなると、外層の凝固部分が印加した磁束による電磁ブレーキ作用を受け、モータ等に過大な負荷が発生する。また、年輪状偏析は、外層の外周へ向かうほど発生しやすい。外層は、外周側から凝固するから、この部分で十分な撹拌を行なう必要がある。
従って、磁界の印加は、溶湯の供給開始から、外層の使用肉厚のうち凝固した肉厚の比率が50%〜90%となるまで行なうことが望ましく、使用厚さに対する凝固層の厚さの比率が70%〜85%となるまで行なうことがより望ましい。
【0024】
外層を鋳込んだ後、引き続いて内層用溶湯(20)を鋳込んだり、外層形成後、遠心力鋳造用金型(10)を直立設置し、静置鋳造により内層を鋳込むことによって、外層と内層が一体化された複合ロールが作製される。
なお、鋳造された外層は、鋳造欠陥等を取り除いて、圧延に供せられる面を形成するために、一般的に鋳造された外層の外周面から5〜40mmの部分を削り代として機械加工によって取り除く。
【0025】
本発明に用いられる内層材としては、高級鋳鉄、ダクタイル鋳鉄、黒鉛鋼、鋳鉄鋼等の強靱性を有する材料が使用される。
高級鋳鉄の好適な組成例として、C:2.5〜4.0%(重量%、以下同じ)、Si:0.8〜2.5%、Mn:0.2〜1.5%、P:0.2%以下、S:0.2%以下、Ni:3.0%以下、Cr:2.0%以下、Mo:2.0%以下、W、V、Nbを総計で4%以下、残部実質的にFeからなるものを示すことができる。
ダクタイル鋳鉄の好適な組成例として、C:2.5〜4.0%(重量%、以下同じ)、Si:1.3〜3.5%、Mn:0.2〜1.5%、P:0.2%以下、S:0.2%以下、Ni:3.0%以下、Cr:2.0%以下、Mo:2.0%以下、W、V、Nbを総計で4%以下、Mg:0.02〜0.1%、残部実質的にFeからなるものを示すことができる。
黒鉛鋼の好適な組成例として、C:1.0〜2.3%(重量%、以下同じ)、Si:0.5〜3.0%、Mn:0.2〜1.5%、P:0.2%以下、S:0.2%以下、Ni:3.0%以下、Cr:2.0%以下、Mo:2.0%以下、W、V、Nbを総計で4%以下、残部実質的にFeからなるものを示すことができる。
【0026】
なお、本発明の方法では、圧延用複合ロールの内層は必ずしも1層である必要はなく、外層との溶着性を改善するために必要に応じて設けられる中間層についても、本願明細書では広義の内層という概念の中に含まれるものとする。
中間層を設ける場合、中間層はアダマイト材あるいは黒鉛鋼等が用いられることが多い。中間層のアダマイト材の好適な組成として、重量%にてC:1.0〜2.5%、Si:0.2〜3.0%、Mn:0.2〜1.5%、P:0.2%以下、S:0.2%以下、Ni:4.0%以下、Cr:4.0%以下、Mo:4.0%以下、W、V、Nbを総計で12%以下、残部実質的にFeからなるものを示すことができる。中間層の黒鉛鋼の好適な組成として、重量%にて、C:1.0〜2.3%、Si:0.5〜3.0%、Mn:0.2〜1.5%、P:0.2%以下、S:0.2%以下、Ni:4.0%以下、Cr:4.0%以下、Mo:4.0%以下、W、V、Nbを総計で12%以下、残部実質的にFeからなるものを示すことができる。
【0027】
【実施例】
図1に示す磁気コイル(30)(31)を左右に具えた横型遠心力鋳造装置(50)を用いて、種々の条件で外層を作製し、得られた外層の偏析状態の観察を行なった。
遠心力鋳造金型(10)は、鋳込み部分の内径が300mm、長さ200mmのSUS304製のものを使用し、金型(10)の内面には、予め厚さ3.0mmのレジンコーテッドサンド塗型を塗布しておいた。
磁気コイル(30)(31)は、鋳込み長さ全長に亘るように配置し、印加する磁束の大きさは、表1に示すように適宜調整した。なお、表1中、「磁束密度」とは、金型を空転させたときに磁気コイル間を結ぶ線上における金型から内面側15mmの位置での磁束密度Bの最大値Bmaxの測定値である。印加される磁束の大きさは、鋳込み開始から凝固がほぼ完了するまで一定になるようにしている。
金型(10)は、表1に示す重力倍数Gno.(金型の回転数をN(rpm)、金型内径をD(mm)としたとき、Gno.=N2×D/1790000)で回転させた。
鋳込み温度は、約1400℃となるように設定した。なお、夫々の実測値を表1に示している。
溶湯(20)は、夫々表1に示す成分のものを使用し、鋳込み厚さ50mmとなるように鋳込んだ。凝固が完了した後、金型(10)から鋳造材を取り出し、長さ方向に切断し、粒度240のサンドペーパーを用いて研磨した後、硝酸水溶液のエッチング処理を施し、その中央部分の断面におけるマクロ組織で組織の均一性を目視により評価した。なお、偏析の評価は、内側の不純物層を除くために、鋳込み厚さ50mmの内、外周表面から35mmの範囲を対象とした。
【0028】
偏析の評価は、表1に示すように、鋳造時の金型(10)の重力倍数Gno.と印加する磁束密度の最大値Bmaxを変化させて作製した発明例1〜6と、比較のため、印加する磁束密度が0又は10より小さい条件で作製した比較例11〜14について実施した。結果を表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
発明例1〜6を観察したところ、デンドライトの存在は認められず、年輪状偏析も認められなかった。特に、印加される磁束が強いほど、均一な組織となっていることがわかった。
比較例11及び12については、ロール表面に対して1mm以上の粗大なデンドライトが観察され、年輪状偏析の一部である帯状模様も複数観察された。また、比較例13及び14についても、粗大なデンドライトが多数観察され、多数の帯状模様(年輪状偏析の一部)も観察された。
このように、比較例にデンドライトや年輪状偏析が発生したのは、未凝固溶湯(20)が殆んど撹拌作用を受けることなく凝固したためである。比較例12及び14のように、最大磁束密度Bmaxが10mTよりも小さい磁束を印加しても、デンドライトや年輪状偏析の発生を抑制できるほどの撹拌力を得ることができないことがわかる。
一方、発明例は、溶湯(20)を撹拌するのに十分な磁束を印加したことによって、溶湯(20)が撹拌され、デンドライトや年輪状偏析の発生を抑制できたことがわかる。
【0031】
上記実施例の遠心力鋳造の最大磁束密度Bmaxと重力倍数Gno.との関係を図6に示している。図6を参照すると、デンドライトや年輪状偏析の発生を抑制するには、磁束密度Bの最大値Bmaxを10mT以上とすることが望ましいことがわかる。また、より均一な組織の外層を作製するには、最大磁束密度Bmaxを30mT以上とすることが更に望ましい。
ところで、遠心力鋳造においては、金型(10)の重力倍数Gno.が50G(好適に遠心力鋳造を行なうには、金型の重力倍数Gno.は、100G≦Gno.≦250Gの範囲とすることが望ましい)よりも小さいと、溶湯(20)が金型内面に密着せず、遠心力鋳造を行なうことができない。
従って、デンドライトや年輪状偏析の発生を抑制した外層を作製するには、図6より、磁束密度Bの最大値Bmaxと重力倍数Gno.との関係は、Bmax≧100/(Gno.−50)+10の条件を満たすことが望ましく、Bmax≧100/(Gno.−50)+25の条件を満たすことがより望ましい。
【0032】
上記実施例の説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或は範囲を減縮する様に解すべきではない。又、本発明の各部構成は上記実施例に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】金型内の溶湯の移動速度Vを示す説明図である。
【図2】溶湯が磁束から受ける電磁力Fを示す説明図である。
【図3】本発明の異なる実施例を示す説明図である。
【図4】本発明の異なる実施例を示す説明図である。
【図5】本発明の異なる実施例を示す説明図である。
【図6】重力倍数Gno.と磁束密度Bとの関係を示すグラフである。
【図7】従来の横型遠心力鋳造における溶湯の状態を示す説明図である。
【符号の説明】
(10) 金型
(20) 溶湯
(30) 磁気コイル
(31) 磁気コイル
(40) ローラ
(50) 遠心力鋳造装置
Claims (5)
- 重量%にて、少なくとも、Cを1.0〜4.0%、Mo及び/又はWを合計量で1.0〜16.0%含有する鋳鉄材溶湯(20)を、回転する遠心力鋳造用金型(10)に供給し、遠心力鋳造によって外層を作製するステップと、作製された外層の内側に内層を溶着一体化するステップを有する圧延用複合ロールの製造方法において、遠心力鋳造用金型(10)の外周には、金型内を貫通する直流磁界を形成するように一対の磁気コイル(30)(31)が配備されており、外層を作製するステップは、金型内面から15mm内側に離れた位置における磁束密度Bの最大値BmaxがBmax≧10mTとなるように、直流磁界を、作製される外層の鋳込み長さLに対して0 . 3L以上の範囲に印加しつつ行ない、金型内の未凝固溶湯(20)を電磁力作用で撹拌するようにしたことを特徴とする圧延用複合ロールの製造方法。
- 直流磁界は、遠心力鋳造用金型(10)に溶湯(20)を供給した後、外層の使用厚さに対する凝固層の厚さの比率が50%〜90%となるまで印加する請求項1に記載の圧延用複合ロールの製造方法。
- 最大磁束密度Bmaxは、遠心力鋳造用金型(10)を用いて鋳込まれる外層の外周部分における重力倍数をGno.としたとき、Bmax≧100/(Gno.−50)+10となるように印加される請求項1又は請求項2に記載の圧延用複合ロールの製造方法。
- 最大磁束密度Bmaxは、遠心力鋳造用金型(10)を用いて鋳込まれる外層の外周部分における重力倍数をGno.としたとき、Bmax≧100/(Gno.−50)+25となるように印加される請求項1又は請求項2に記載の圧延用複合ロールの製造方法。
- 外層は、重量%にて、Cを1.0〜4.0%、Siを0.2〜3.0%、Mnを0.2〜2.0%、Crを3.0〜12.0%、Mo又はWの少なくとも一種を合計量で1.0〜16.0%、V又はNbの少なくとも一種を合計量で3.0〜10.0%、Coを5.0%以下、Niを4.0%以下、残部実質的にFeからなる請求項1乃至請求項4の何れかに記載の圧延用複合ロールの製造方法。
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