JP3828371B2 - 水性接着剤組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、揮発性有機化合物を含有しない難接着材料用水性接着剤組成物に関する。さらに詳しくは、難接着と称されるポリ塩化ビニル、ポリオレフィン材料からなる各種プラスチック材料、各種金属板に対して常温または低温環境下の接着作業で良好な接着性を示し、使用環境において優れた耐熱性、耐熱クリープ性、低温接着性を備えた水性接着剤に関し、特に本発明の接着剤は、プラスチックオーバーレイ化粧板用水性接着剤として好適な水性接着剤組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
表面に銘木の印刷を施したポリ塩化ビニル、ポリオレフィンなどのプラスチックフィルムと合板、木質繊維板、パーティクルボードなどの木質ボード類、または、珪酸カルシウム板などの無機質ボードとから構成されるプラスチックオーバーレイ化粧板は、住宅産業において、額縁、廻り縁、巾木、ドアなどの各種造作材・住宅部材に広く使用されている。これらの化粧板は、プラスチックフィルムと木質ボード類を、水性接着剤を用いて、連続ラミネート法と呼ばれる接着方法で接着して生産される。これらの各種造作材・住宅部材は、10年、20年と長期間使用されるため、用いられる接着剤は、長期間の使用に耐えうるだけの接着性能と接着品質を具備しなければならない。そのため、常態接着、耐水、耐熱、耐寒などの各接着強度が優れることが最低条件として求められる。さらに、長年にわたって直射日光、降雨などの自然環境変化に耐えうる接着性能も要求される。
ここで注目すべきは、使用される水性接着剤が、水性でありながら必ず揮発性有機化合物(すなわち、Volatile Organic Compounds、以下「VOC」という。)を含有していることである。これらVOCとは有機溶剤、高沸点有機溶剤、可塑剤であるが、これらは意図的に配合される。すなわち、プラスチックオーバーレイ化粧板は、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン材料からなる各種プラスチックシート・フィルム材料、各種金属板を各種ボードに対して、通常は常温以下の自然環境で接着作業される。これら各種プラスチック材料の多くは、表面張力が低いため難接着材料であり、各種金属板の多くは、防錆等の理由でプラスチック材料による塗装、被覆、アルマイト処理などの酸化膜処理が行われているため、難接着と呼ばれている。従って、表面張力が低い疎水性を備えた材料など難接着材料の接着に対して、水性接着剤を用い、さらには、常温以下の自然環境で接着作業されることは極めて困難であった。従って、やむを得ず、水性接着剤に少量の有機溶剤、高沸点有機溶剤、可塑剤を配合して接着性の改善を図らなければならなかった。しかし、これらVOCは、シックハウス症候群などの健康住宅問題から、住宅業界、接着剤業界の大きな課題となっている。
【0003】
全くVOCを含有しない水性接着剤で難接着材料を、常温以下の自然環境で接着作業ができる唯一の技術は、水性粘着剤を用いた場合であるが、粘着剤に用いるポリマーは常温においてレオロジー特性から塑性流動を示すポリマーであるため、使用環境における耐熱性、耐熱クリープ性は甚だ乏しく、住宅材料などに使用される本格的接着剤には到底なりえない。そこで、耐熱性、耐熱クリープ性、耐寒性など使用環境で安心して使用できる水性接着剤は、いかにVOCを削減できるかが業界における当面の課題であった。
【0004】
従来から水性接着剤に配合されてきたトルエン、キシレン、シクロヘキサノンなど危険・有害性の高い有機溶剤の代わりに、比較的危険・有害性の少ない有機溶剤を配合する技術は、特開平11−209722号公報、特願2000−243781を代表として、多くの発明が提案されているが、それらはVOC総量の低減化には寄与しない。
【0005】
以上から、難接着材料の接着、住宅用などに許容される性能水準(耐熱性、耐熱クリープ性、耐水性)、常温以下の接着作業が可能な接着を条件とした水性接着剤において、芳香族有機溶剤を削減する技術は存在するが、根本的解決策であるVOCを皆無(以下、「ノンVOC」という。)にする提案、実用化は全く見当たらないのが現状である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、難接着材料の接着、住宅用などに許容される性能水準(耐熱性、耐熱クリープ性、耐水性)、常温以下の接着作業で特に問題となる低温貼り合わせ接着作業が可能な接着剤において、VOCを本質的に含有しない水性接着剤を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、特許第3048446号の発明に着目した。この発明はエチレン−酢酸ビニル樹脂エマルジョンの存在下で、アクリロニトリルを必須要件としたアクリル系モノマーを重合する技術である。この特許発明においては、その実施例ではVOC成分としてキシレンが5〜10質量%使用されている。従ってこのキシレンを全くゼロにして試験したところ、23℃程度の常温接着作業において、プラスチックフィルムは全く接着しないことが分かった。確かにアクリロニトリルの重合体のように硬質ポリマー材料は、耐熱性の改良効果を与えても、常温以下の接着作業はVOC成分の配合が不可欠で、当時の技術思想においては念頭になかったが故の結果であった。
【0008】
ならば、エチレン−酢酸ビニル樹脂エマルジョン、すなわち、エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョンの種類の検討、その存在下で乳化重合する重合性不飽和単量体の種類、配合するポリウレタンエマルジョンの種類、それぞれの量的割合を総合的に検討すれば、VOCがゼロであっても常温以下の接着作業が可能である領域があると考えた。
【0009】
その結果、エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョンの種類が、トルエン不溶分が70質量%以上、且つ、エチレン含有量が25〜35質量%であるポリビニルアルコール含有エチレン−酢酸ビニル−多官能性モノマー系共重合体エマルジョンであるとき、かつ、乳化重合する重合性不飽和単量体が炭素数6〜10のアクロイル化合物を主成分にしたときに限り得られたポリマーエマルジョンに、アニオン性ポリウレタンエマルジョンを配合したときに限り、VOCを配合することなく、難接着材料の接着、住宅用などに許容される性能水準(耐熱性、耐熱クリープ性、耐水性)の発現、常温以下の接着作業で特に問題となる低温貼り合わせ接着作業が可能な接着剤となりうることを発見した。
さらに、アニオン性ポリウレタンエマルジョンとして、分子内にスルホネート基を有するウレタンポリマーのエマルジョンを用いることでの改善、ヘキサメチレンジイソシアネート系ポリイソシアネートプレポリマーを架橋剤として配合することでの改善を見出し、本発明を完成させた。
【0010】
以下に、本発明の課題を解決するための手段の詳細について説明する。
請求項1の発明では、(A)トルエン不溶分が70質量%以上、且つ、エチレン含有量が25〜35質量%であるポリビニルアルコール含有エチレン−酢酸ビニル−多官能性モノマー系共重合体エマルジョンにおいて、該ポリビニルアルコール含有エチレン−酢酸ビニル−多官能性モノマー系共重合体エマルジョンのポリマー固形分100質量部に対してアルキル炭素数が6〜10のアクロイル化合物である不飽和単量体を20〜70質量%含有する重合性不飽和単量体20〜100質量部を乳化重合することにより、該ポリビニルアルコール含有エチレン−酢酸ビニル−多官能性モノマー系共重合体エマルジョンのポリマー固形分100質量部に対して、該アルキル炭素数が6〜10のアクロイル化合物である不飽和単量体を20〜70質量部の割合で重合せしめてなるポリマーエマルジョンと、(B)アニオン性ポリウレタンエマルジョンからなることを特徴とする水性接着剤組成物である。
【0011】
特にトルエン不溶分が70質量%以上、且つ、エチレン含有量が25〜35質量%であるポリビニルアルコール含有エチレン−酢酸ビニル−多官能性モノマー系共重合体エマルジョンの存在下で、アルキル炭素数が6〜10のアクロイル化合物である不飽和単量体を乳化重合したポリマーエマルジョンが、VOCがゼロであっても、難接着材料の接着を常温以下の接着作業で可能とするための技術秘訣である。さらに、この技術手段は、住宅用などに許容される性能水準(耐熱性、耐熱クリープ性、耐水性)で、実用レベルの性能を与える。
【0012】
請求項2の発明では、(A)において、アルキル炭素数が6〜10のアクロイル化合物がアクリル酸2エチルヘキシル、アクリル酸オクチルから選択した1種以上のアクロイル化合物であることを特徴とする請求項1の手段における水性接着剤組成物である。
【0013】
特に、アルキル炭素数が6〜10のアクロイル化合物がアクリル酸2エチルヘキシル、アクリル酸オクチルから選択した1種以上のアクロイル化合物は、請求項1の手段の好ましい範囲である。
【0014】
請求項3の発明では、(A)において、アルキル炭素数が6〜10のアクロイル化合物を除く重合性不飽和単量体のアルキル炭素数が1〜20の(メタ)アクロイル化合物、スチレン、アクリロニトリル、アルキル炭素数が1〜20のビニル酸エステルから選択した1種以上であることを特徴とする請求項1または請求項2の手段における水性接着剤組成物である。
【0015】
この範囲の重合性不飽和単量体の選択は、アルキル炭素数が6〜10のアクロイル化合物の一部を耐熱性、耐熱クリープ性を改善するときに好ましい範囲である。
【0016】
請求項4の発明では、(B)において、アニオン性ポリウレタンエマルジョンが、分子内にスルホネート基を有するウレタンポリマーのエマルジョンであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項の手段における水性接着剤組成物である。
【0017】
分子内にスルホネート基を有するウレタンポリマーのエマルジョンの選択は、耐熱クリープ性、耐水性、貯蔵安定性の点から好ましい。
【0018】
請求項5の発明では、(A)において、得られたポリマーエマルジョンのポリマー固形分100質量部に対して、(B)アニオン性ポリウレタンエマルジョンを2〜50質量部配合することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項の手段における水性接着剤組成物である。この配合割合が本発明の最大効果を与える。
【0019】
請求項6の発明では、請求項1〜5のいずれか1項の手段における水性接着剤組成物に、そのポリマー固形分100質量部に対して0.1〜10質量部の割合で、ヘキサメチレンジイソシアネート系ポリイソシアネートプレポリマーを架橋剤として配合してなることを特徴とする水性接着剤組成物である。
【0020】
この架橋剤の配合は、住宅用などに許容される性能水準(耐熱性、耐熱クリープ性、耐水性)、特に耐熱クリープ性、耐水性を一層向上させる技術手段である。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明は、(A)トルエン不溶分が70質量%以上、且つ、エチレン含有量が25〜35質量%であるポリビニルアルコール含有エチレン−酢酸ビニル−多官能性モノマー系共重合体エマルジョンにおいて、該ポリビニルアルコール含有エチレン−酢酸ビニル−多官能性モノマー系共重合体エマルジョンのポリマー固形分100質量部に対してアルキル炭素数が6〜10のアクロイル化合物である不飽和単量体を20〜70質量%含有する重合性不飽和単量体20〜100質量部を乳化重合することにより、該ポリビニルアルコール含有エチレン−酢酸ビニル−多官能性モノマー系共重合体エマルジョンのポリマー固形分100質量部に対して、該アルキル炭素数が6〜10のアクロイル化合物である不飽和単量体を20〜70質量部の割合で重合せしめてなるポリマーエマルジョンと、(B)アニオン性ポリウレタンエマルジョンで構成される。
【0022】
上記トルエン不溶分が70質量%以上、且つ、エチレン含有量が25〜35質量%であるポリビニルアルコール含有エチレン−酢酸ビニル−多官能性モノマー系共重合体エマルジョンは、特開平9−194811号公報に示される製造方法を用いて得ることができ、プラスチックフィルム面への接着性確保のために使用される成分である。
【0023】
トルエン不溶分は、優れた耐熱クリープ特性を与える要因となる。トルエン不溶分が70質量%未満では、良好な耐熱クリープ特性が得られず、優れた耐熱クリープ特性を与えるトルエン不溶分の割合は、好ましくは85〜100質量%である。
【0024】
上記ポリビニルアルコール含有エチレン−酢酸ビニル−多官能性モノマー系共重合体エマルジョンのエチレン含有量は、低温雰囲気下においてプラスチックフィルムへの接着力を与える要因であり、エチレン含有量が25質量%未満では低温雰囲気下で充分な接着力が得られず、エチレン含有量が35質量%を超えれば重合設備の耐圧性の問題から製造が困難になる。低温接着性と耐熱クリープ特性を与えるエチレン含有量の好ましい範囲は28〜32質量%である。
【0025】
上記ポリビニルアルコール含有エチレン−酢酸ビニル−多官能性モノマー系共重合体エマルジョンのポリビニルアルコール含有量は、全ポリマーあたり好ましくは1〜10質量%、より好ましくは3〜8質量%の範囲で選択すれば、水性ポリウレタンエマルジョンとの相互作用により、各種プラスチックへの接着性がよくなる。
【0026】
上記ポリビニルアルコール含有エチレン−酢酸ビニル−多官能性モノマー系共重合体エマルジョンの固形分濃度は、40〜70質量%であるが、作業性、機械的安定性、初期接着性などの点から45〜65質量%であるのが好ましい。
【0027】
上記ポリビニルアルコール含有エチレン−酢酸ビニル−多官能性モノマー系共重合体エマルジョンには、必要に応じて、他のモノマーが共重合されてもよい。上記の他のモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸2エチルヘキシル、アクリル酸ブチル、アクリル酸エチルなどのアクリル酸エステル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸エチルなどのメタクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸以外のカルボキシル基含有モノマーの他、スルホン酸、水酸基、エポキシ基、メチロール基、アミノ基、アミド基などの官能基を含有する各種モノマーが使用可能である。
【0028】
トルエン不溶分は、共重合体の被膜2.0gを200mlのトルエンを用いて60℃で24時間抽出した後に、回収される不溶分の質量を測定し、下記の数1の式により求める。
【0029】
【数1】
トルエン不溶分(質量%)=[(残差質量g)/(被膜質量g)]×100
【0030】
多官能性モノマーとは、共重合体の構成成分として2個以上のエチレン性二重結合を供給し得るモノマーで、具体例として、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレートなどが挙げられる。
【0031】
本発明においては、上記トルエン不溶分が70質量%以上、且つ、エチレン含有量が25〜35質量%であるポリビニルアルコール含有エチレン−酢酸ビニル−多官能性モノマー系共重合体エマルジョンの存在下でアルキル炭素数が6〜10のアクロイル化合物を含有する重合性不飽和単量体を重合することに大きな特徴がある。アルキル炭素数が6〜10のアクロイル化合物量が該ポリビニルアルコール含有エチレン−酢酸ビニル−多官能性モノマー系共重合体エマルジョン100質量部(固形分)に対して20質量部未満では低温雰囲気下において充分な接着力が得られず、70質量部を超えると耐熱クリープ特性が低下傾向にある。重合性不飽和単量体量が100質量部を超えると粘度が高くなり製造が困難となる。
【0032】
上記アニオン性ポリウレタンエマルジョンは、プラスチックとの接着性、特に耐熱クリープ特性を発現させるために使用される成分である。上記アニオン性ポリウレタンエマルジョンは、特に限定なく使用できるが、アニオン性ポリウレタンエマルジョンの多くは酸性領域でゲル化してしまう。従って、通常、このような酸性領域でゲル化してしまうアニオン性ポリウレタンエマルジョンを用いる場合には、ポリ(エチレン−酢酸ビニル)共重合体エマルジョンを中和剤で中和した後に酸性領域でゲル化するアニオン性ポリウレタンエマルジョンを混合している。しかしながら、このようにすると、過剰の中和剤が耐熱クリープ性能の低下の原因となりがちとなる。また、中和剤により中和されたポリ(エチレン−酢酸ビニル)共重合体エマルジョンは加水分解により再び酸性領域となり、接着性が低下しがちとなる。このため、接着性能と貯蔵安定性の点からアニオン性ポリウレタンエマルジョンとしては酸性領域で安定性の高いスルホン酸変性したものが好ましい。
【0033】
このスルホン酸変性したポリウレタンエマルジョンとは、ウレタンポリマー分子内にスルホネート基を有し、通常はスルホネート塩となって乳化安定しているエマルジョンをいう。
【0034】
また、上記アニオン性ポリウレタンエマルジョンの固形分濃度としては、20〜60質量%であるが、作業性、機械的安定性などの点から35〜55質量%であるのが好ましい。
【0035】
上記アニオン性ポリウレタンエマルジョンの好ましい具体例としては、例えば、三洋化成(株)製ユープレンUXA−3004、UXA−3005、UX−306、大日本インキ化学工業(株)製ハイドランHW−111、HW−333、HW−311、HW−350、HW−337、AP−20、AP−60LM、AP−80、第一工業製薬(株)製スーパーフレックス107M、110、126、130、150、160、300、361、370、410、460、700、750、820、住友バイエルウレタン(株)製ディスパコールU−42、U−53、U−54、KA−8481、KA−8584などが挙げられる。
【0036】
本発明の水性接着剤における、(A)トルエン不溶分が70質量%以上、且つ、エチレン含有量が25〜35質量%であるポリビニルアルコール含有エチレン−酢酸ビニル−多官能性モノマー系共重合体エマルジョンにおいて、該ポリビニルアルコール含有エチレン−酢酸ビニル−多官能性モノマー系共重合体エマルジョンのポリマー固形分100質量部に対してアルキル炭素数が6〜10のアクロイル化合物である不飽和単量体を20〜70質量%含有する重合性不飽和単量体20〜100質量部を乳化重合することにより、該ポリビニルアルコール含有エチレン−酢酸ビニル−多官能性モノマー系共重合体エマルジョンのポリマー固形分100質量部に対して、該アルキル炭素数が6〜10のアクロイル化合物である不飽和単量体を20〜70質量部の割合で重合せしめてなるポリマーエマルジョンと、(B)アニオン性ポリウレタンエマルジョンの混合割合における好ましい範囲は、(A)成分の固形分100質量部に対して(B)成分2〜50質量部、特に3〜30質量部であるのが好ましい。(B)成分が少なすぎると耐熱クリープ特性が著しく低下し、多すぎると常態接着強さの低下、接着剤使用時の作業性不良、コスト高となる傾向が生じる。
【0037】
本発明の実施にあたっては、標準的には水性加工釜を用いて、アクリル変性ポリビニルアルコール含有エチレン−酢酸ビニル−多官能性モノマー系共重合体エマルジョン並びにアニオン性ポリウレタンエマルジョンとを混合加工する。この場合、増粘剤、pH調製剤、無機系充填材、コーンスターチ、消泡剤、防黴剤を配合することができる。
【0038】
本発明の水性接着剤組成物には、架橋剤として、分子内にカルボン酸基またはスルホン酸基と反応しうる官能基を2個以上有する化合物を使用することができる。架橋剤配合後の可使時間、ロールスプレッダーの洗浄性からヘキサメチレンジイソシアネート系ポリイソシアネートプレポリマーが好ましい。架橋剤は、通常使用直前に添加させ混合される。
上記架橋剤の添加量は、架橋剤の種類によって異なるが、(A)ポリマーエマルジョン固形分100質量部に対して、0.1〜10質量部であるのが好ましい。
本発明の水性接着剤組成物は、連続ラミネーターマシンにて使用され、通常ロールスプレッダーにて合板などの木質ボード類に塗布し、プラスチックフィルムを貼り合わせることで使用される。
【0039】
【実施例】
以下に実施例および比較例を記載して本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
(EVA(1)の製造)
トルエン不溶分が70質量%以上、且つ、エチレン含有量が25〜35質量%であるポリビニルアルコール含有エチレン−酢酸ビニル−多官能性モノマー系共重合体エマルジョンは、エチレン/酢酸ビニルの質量比が30/70、多官能性モノマーとしてトリアリルイソシアヌレートを用いて、その多官能性モノマー/酢酸ビニルの質量比が0.1/100となるように選択して共重合したものであってポリビニルアルコールの含有量が全ポリマーの5質量%となるようにして、加圧重合装置にポリビニルアルコール水溶液を仕込み、設計値に見合うエチレンガスを封入した後に、酢酸ビニルと多官能性の混合溶液を滴下し、加圧下で50〜70℃にて乳化重合することにより得られた。このポリマーのトルエン不溶分は91.8質量%で、その性状は、粘度1800mPa・s/25℃、固形分55.0質量%、pH4.6であった。このポリビニルアルコール含有エチレン−酢酸ビニル−多官能性モノマー系共重合体エマルジョンをEVA(1)とする。
【0041】
(EVA(2)の製造)
多官能性モノマー/酢酸ビニルの質量比を0.07/100にした以外はEVA(1)の製造と同様な方法でポリビニルアルコール含有エチレン−酢酸ビニル−多官能性モノマー系共重合体エマルジョンを得た。このポリマーのトルエン不溶分は75.5質量%で、その性状は、粘度1650mPa・s/25℃、固形分54.9質量%、pH4.5であった。このポリビニルアルコール含有エチレン−酢酸ビニル−多官能性モノマー系共重合体エマルジョンをEVA(2)とする。
【0042】
(EVA(3)の製造)
多官能性モノマー/酢酸ビニルの質量比を0.01/100にした以外はEVA(1)の製造と同様な方法でポリビニルアルコール含有エチレン−酢酸ビニル−多官能性モノマー系共重合体エマルジョンを得た。このポリマーのトルエン不溶分は64.5質量%で、その性状は、粘度1900mPa・s/25℃、固形分55.1質量%、pH4.4であった。このポリビニルアルコール含有エチレン−酢酸ビニル−多官能性モノマー系共重合体エマルジョンをEVA(3)とする。
【0043】
(EVA(4)の製造)
エチレン/酢酸ビニルの質量比を22/78にした以外はEVA(1)の製造と同様な方法でポリビニルアルコール含有エチレン−酢酸ビニル−多官能性モノマー系共重合体エマルジョンを得た。このポリマーのトルエン不溶分は90.5質量%で、その性状は、粘度2100mPa・s/25℃、固形分55.0質量%、pH4.5であった。このポリビニルアルコール含有エチレン−酢酸ビニル−多官能性モノマー系共重合体エマルジョンをEVA(4)とする。
【0044】
(ポリマーエマルジョンの製造)
温度計、攪拌機および還流装置を有する4口フラスコに、ポリビニルアルコール含有エチレン−酢酸ビニル−多官能性モノマー系共重合体エマルジョンとしてEVA(1)、EVA(1)100質量部(固形分)あたりアクリル酸2エチルヘキシルモノマー(以下、「2EHA」という。)20質量部を入れ、内温が70℃になるように調整した後、攪拌しながら過硫酸アンモニウム0.25質量部を添加し、そのまま70℃の温度を2時間維持した後、使用したアクリル系モノマー100質量部あたり45質量部の水を添加し、その後、室温まで冷却してポリマー水分散体を得た。その性状は、粘度15000mPa・s/25℃、固形分54.8質量%、pH4.5であった。このポリマー水分散体を変性EVA(1)とする。
【0045】
(変性EVA(2)〜(9)の製造)
表1に示す配合量のEVA(1)、EVA(2)、EVA(3)、EVA(4)、スミカフレックス401(住友化学工業(株)製、固形分濃度55.0質量%、pH5、以下、「SF401」という。)、2EHA、アクリル酸ブチルエステルモノマー(以下、「BA」という。)、メタクリル酸メチルモノマー(以下、「MMA」という。)を使用した以外は、変性EVA(1)と同様の製法にて変性EVA(2)〜(9)を得た。
【0046】
【表1】
【0047】
(実施例1)
トルエン不溶分が70質量%以上、且つ、エチレン含有量が25〜35質量%であるポリビニルアルコール含有エチレン−酢酸ビニル−多官能性モノマー系共重合体エマルジョンにおいて、該ポリビニルアルコール含有エチレン−酢酸ビニル−多官能性モノマー系共重合体エマルジョンのポリマー固形分100質量部に対してアルキル炭素数が6〜10のアクロイル化合物である不飽和単量体を20〜70質量%含有する重合性不飽和単量体20〜100質量部を乳化重合することにより、該ポリビニルアルコール含有エチレン−酢酸ビニル−多官能性モノマー系共重合体エマルジョンのポリマー固形分100質量部に対して、該アルキル炭素数が6〜10のアクロイル化合物である不飽和単量体を20〜70質量部の割合で重合せしめてなるポリマーエマルジョンとして変性EVA(1)を用い、(A)成分固形分100質量部に対して本発明の(B)スルホン酸変性した、すなわちスルホン酸基を有しポリエステル骨格を持つ芳香族系アニオン性ウレタンエマルジョン(以下、「S基含有PU」という。)(固形分濃度45質量%、pH8.0)を25質量部(固形分)を加えて十分に混合し、水性接着剤組成物を得た。
【0048】
使用直前に得られた水性接着剤組成物に、架橋剤として、ヘキサメチレンジイソシアネート系ポリイソシアネートプレポリマー(以下、「PHDI」という。)(固形分濃度100質量%、NCO含有率22質量%)を1質量部加え、充分混合した。
【0049】
(実施例2〜7、比較例1〜7)
表に示す配合量の変性EVA(1)、変性EVA(2)、変性EVA(3)、変性EVA(4)、変性EVA(5)、変性EVA(6)、変性EVA(7)、変性EVA(8)、変性EVA(9)、変性EVA(10)[以上、成分(A)]、S基含有PU、カルボン酸変性した、すなわちカルボン酸基を有しポリエステル骨格を持つ芳香族系アニオン性ポリウレタンエマルジョン(以下、「C基含有PU」という。)(固形分濃度45質量%、pH8)[以上、成分(B)]を使用した以外は、実施例1と同様に水性接着剤組成物を得た。
【0050】
上記実施例および比較例で得られた水性接着剤組成物について、下記の性能評価を行い、その結果を表2および表3に示した。
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
このように実施例においては、耐熱クリープ性、低温接着性の優れた、VOCがゼロの水性接着剤組成物が得られ、比較例1のようにトルエン不溶分が70質量%以上、且つ、エチレン含有量が25〜35質量%であるポリビニルアルコール含有エチレン−酢酸ビニル−多官能性モノマー系共重合体エマルジョンにおいて、該ポリビニルアルコール含有エチレン−酢酸ビニル−多官能性モノマー系共重合体エマルジョンのポリマー固形分100質量部に対してアルキル炭素数が6〜10のアクロイル化合物である不飽和単量体を20〜70質量%含有する重合性不飽和単量体20〜100質量部を乳化重合することにより、該ポリビニルアルコール含有エチレン−酢酸ビニル−多官能性モノマー系共重合体エマルジョンのポリマー固形分100質量部に対して、該アルキル炭素数が6〜10のアクロイル化合物である不飽和単量体を20〜70質量部の割合で重合せしめてなるポリマーエマルジョンを用いても、アニオン性ポリウレタンエマルジョンを配合しない場合では、低温接着性および耐熱クリープ性が乏しい。
【0054】
比較例2のようにトルエン不溶分が70質量%以上、且つ、エチレン含有量が25〜35質量%であるポリビニルアルコール含有エチレン−酢酸ビニル−多官能性モノマー系共重合体エマルジョンにおいて、該ポリビニルアルコール含有エチレン−酢酸ビニル−多官能性モノマー系共重合体エマルジョン固形分100質量部に対して、20質量部未満のアルキル炭素数が6〜10のアクロイル化合物である不飽和単量体を重合した場合では、低温接着性が乏しい。
【0055】
比較例3のようにトルエン不溶分が70質量%以上、且つ、エチレン含有量が25〜35質量%以上であるポリビニルアルコール含有エチレン−酢酸ビニル−多官能性モノマー系共重合体エマルジョンにおいて、該ポリビニルアルコール含有エチレン−酢酸ビニル−多官能性モノマー系共重合体エマルジョン固形分100質量部に対して、70質量部を超えるアルキル炭素数が6〜10のアクロイル化合物である不飽和単量体を重合した場合には、耐熱クリープ性が乏しい。
【0056】
比較例4および5のようにトルエン不溶分が70質量%未満の場合では、耐熱クリープ性が乏しく、比較例6のようにエチレン含有量が25質量%未満のポリビニルアルコール含有エチレン−酢酸ビニル−多官能性モノマー系共重合体エマルジョンを使用した場合、および、比較例7のように特許第3048446号公報に記載のポリマーエマルジョンでは低温接着性に乏しい結果を得た。
【0057】
(プラスチック化粧板サンプルの作製)
得られた水性接着剤組成物を、3.0mm厚のJAS1類ラワン合板にゴムロールを用いて、110g/m2の塗布量となるよう均一に塗布し、この水性接着剤組成物塗布面に0.2mm厚のポリ塩化ビニル製化粧フィルムを貼り合わせた後、22℃雰囲気下で0.2MPaの圧力で1時間圧締した。解圧後、同温度にて5日間養生して、プラスチック化粧板サンプルを作製した。
【0058】
(常態剥離試験)
得られた化粧板サンプルを25mm(幅)×150mm(長さ)に切断し、22℃雰囲気下で、剥離速度200mm/minにて、180度剥離試験を行った。
【0059】
(耐熱クリープ試験)
得られた化粧板サンプルを25mm(幅)×200mm(長さ)に切断し、ポリ塩化ビニル製化粧フィルム側を端から縦方向に50mm剥離したあと水平に置き、剥離したポリ塩化ビニル製化粧フィルムを垂れ下がったままの状態で70℃恒温器中に1時間放置した後、剥離しているポリ塩化ビニル製化粧フィルムの先端に500gの荷重をかけて24時間後の剥離長さを測定した。この場合、剥離長さが短いほど耐熱クリープ特性が優れていることを示す。
【0060】
(低温接着性試験)
得られた水性接着剤組成物、3.0mm厚のJAS1類ラワン合板、ゴムロールおよび0.2mm厚ポリ塩化ビニル製化粧フィルムを4℃雰囲気下に24時間放置後、同温度にて水性接着剤組成物をラワン合板にゴムロールを用いて110g/m2の塗布量となるよう均一に塗布し、この水性接着剤組成物塗布面に0.2mm厚のポリ塩化ビニル製化粧フィルムを貼り合わせた後、同温度で0.2MPaの圧力で1時間圧締した。解圧後、同温度にて24時間養生したあと、フィルムを手で剥離したときのラワン合板の木破率を測定した。
評価は、◎:木破率100%、○:木破率80〜99%、△:木破率50〜79%、×:木破率50%未満とした。なお、このうち本発明の実用的な範囲は○以上である。
【0061】
【発明の効果】
以上説明したように、各種プラスチックフィルムと木質ボード類や無機質ボード類とを貼り合わせるために使用する接着剤において、本発明は、シックハウス症候群を引き起こすトルエンまたはキシレンなどの芳香族有機溶剤並びにその他の有機溶剤を用いることなく、接着強度が高く、高温特性である耐熱クリープ特性に優れ、さらに低温雰囲気下での接着性にも優れる水性接着剤組成物である。
Claims (6)
- (A)トルエン不溶分が70質量%以上、且つ、エチレン含有量が25〜35質量%であるポリビニルアルコール含有エチレン−酢酸ビニル−多官能性モノマー系共重合体エマルジョンにおいて、該ポリビニルアルコール含有エチレン−酢酸ビニル−多官能性モノマー系共重合体エマルジョンのポリマー固形分100質量部に対してアルキル炭素数が6〜10のアクロイル化合物である不飽和単量体を20〜70質量%含有する重合性不飽和単量体20〜100質量部を乳化重合することにより、該ポリビニルアルコール含有エチレン−酢酸ビニル−多官能性モノマー系共重合体エマルジョンのポリマー固形分100質量部に対して、該アルキル炭素数が6〜10のアクロイル化合物である不飽和単量体を20〜70質量部の割合で重合せしめてなるポリマーエマルジョンと、(B)アニオン性ポリウレタンエマルジョンからなることを特徴とする水性接着剤組成物。
- (A)における、アルキル炭素数が6〜10のアクロイル化合物は、アクリル酸2エチルヘキシル、アクリル酸オクチルから選択した1種以上のアクロイル化合物であることを特徴とする請求項1に記載の水性接着剤組成物。
- (A)における、アルキル炭素数が6〜10のアクロイル化合物を除く重合性不飽和単量体は、アルキル炭素数が1〜20の(メタ)アクロイル化合物、スチレン、アクリロニトリル、アルキル炭素数が1〜20のビニル酸エステルから選択した1種以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の水性接着剤組成物。
- (B)における、アニオン性ポリウレタンエマルジョンは、分子内にスルホネート基を有するウレタンポリマーのエマルジョンであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の水性接着剤組成物。
- (A)において、得られたポリマーエマルジョンのポリマー固形分100質量部に対して、(B)アニオン性ポリウレタンエマルジョンを2〜50質量部配合してなることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の水性接着剤組成物。
- 請求項1〜5のいずれか1項の手段における水性接着剤組成物に、そのポリマー固形分100質量部に対して0.1〜10質量部の割合で、ヘキサメチレンジイソシアネート系ポリイソシアネートプレポリマーを架橋剤として配合してなることを特徴とする水性接着剤組成物。
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