JP3827459B2 - 窒化ケイ素粉末及びその製造方法 - Google Patents

窒化ケイ素粉末及びその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、異方性の少ない高熱伝導率の焼結体を得ることができる窒化ケイ素粉末及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
高熱伝導性の窒化ケイ素焼結体を得るための方法として、特開平9−30866号、特開平9−183666号、特開平9−268069号が開示されている。これらはいずれも特定の焼結助剤を用い、陽イオン不純物を制御し、粒界組成を制御することで、高熱伝導を達成している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記のような方法では焼結体が高熱伝導で、熱伝導性に異方性の少ない焼結体を得ることは困難であった。特に押出成形、テープ成形、スリップキャスト成形法のように配向し易い成形方法を用いた場合特に異方性が生じやすかった。熱伝導率の異方性の少ない焼結体を得るため窒化ケイ素粉末を得ることも困難であった。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、焼結時に1方向に偏った粒成長を生じると得られた焼結体の熱伝導性に偏りが生じるため、成形時に窒化ケイ素粒子が1方向に偏った配向をしないこと、つまり窒化ケイ素粒子の円形度が高いことが重要であることを見いだし、さらにβ化率が高くかつ円形度が高い窒化ケイ素粉末安定して製造する方法を見いだし本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち、本発明は、β化率50%以上、円形度0.80以上、酸素量0.5〜1.8%、比表面積8〜22m /gであることを特徴とする窒化ケイ素粉末である。また、本発明は、蛍石(CaF)を0.5〜5重量%含有する金属シリコン粉を1300℃より低い温度では窒素分圧を500hPa以下で窒化反応をさせ、1300℃以上では500hPa以上で窒化反応をさせることを特徴とする窒化ケイ素の製造方法である。
【0006】
【発明の実施形態】
以下、更に詳しく本発明について説明する。
本発明に於いて高熱伝導率達成の為には原料となる窒化ケイ素粉末のβ化率は重要で、β化率50%以上が必要である。50%より低いとすなわちα窒化ケイ素が多くなると、窒化ケイ素粉末中の固溶酸素が多くなり、焼結後の熱伝導性を阻害し、また焼結時の脱酸素に時間がかかり、高温での処理が必要となるため好ましくない。β化率は好ましくは70%以上であり、更に好ましくは90%以上である。
【0007】
また、焼結時の粒成長方向をランダムにすることが重要であり、そのためには成形時の窒化ケイ素粒子の偏った配向を抑制すること、すなわち平均円形度が0.80以上であることが必要である。0.80より小さいと、成形時に配向性を持つため、粒成長方向に偏りが生じ、その結果熱伝導性にも偏りが起こるため好ましくない。窒化ケイ素粉末の円形度は好ましくは、0.85以上であり、更に好ましくは0.90以上である。
【0008】
窒化ケイ素粉末中の酸素量は、0.5〜1.8%であることが好ましい。0.5%より低いと焼結性が阻害され、1.8%より高いと固溶酸素量が増加するため、熱伝導性が阻害され好ましくない。より好ましくは、0.6〜1.2%であり、更に好ましくは、0.7〜1.0%である。
【0009】
熱伝導を阻害するAl量は少ないほどよい。300ppm以下が好ましく、300ppmより多いと、熱伝導率が低下するので好ましくない。より好ましくは200ppm以下であり、更に好ましくは150ppm以下である。
【0010】
本発明においては、焼結性の面から、窒化ケイ素粉末の比表面積が8〜22m2/gとするのが好ましい。8m2/gより小さいと、焼結性が阻害され、22m2/gよりも大きいと窒化ケイ素粉末の嵩密度が小さくなり、充填性が低く、スラリー化したときの粘度が上昇し好ましくない。より好ましくは、13〜18m2/gであり、更に好ましくは15〜17m2/gである。
【0011】
窒化ケイ素粉末の平均粒子径は0.2〜1.0μmとするのが好ましい。0.3μmより小さいと嵩密度が小さくなり、充填性が低く、スラリー化したときの粘度が上昇し、1.0μmよりも大きいと焼結時に粗大な粒子を形成し、焼結体強度が低下し好ましくない。より好ましくは0.3〜0.7μmで、更に好ましくは0.4〜0.6μmである。
【0012】
次いで、本発明の窒化ケイ素粉末の製造方法について説明する。金属シリコン窒化法を主体として述べるが、本発明は下記以外の製造方法を許容するものである。
【0013】
金属シリコン粉末は、平均粒子径5〜20μmである。特に平均粒子系が5〜15μmで、粒度分布がシャープな金属シリコン粉を用いると微細な窒化ケイ素1次粒子を形成しやすく好ましい。平均粒子径が20μmより大きくなると、粗大な1次・2次粒子や柱状粒子を形成しやすく、成形性および強度の面で不利である。逆に5μmより小さいと微細な金属シリコン粉末が増加し、酸素量が増加するため、固溶酸素量が多く、かつ低β化率の微細なウィスカーを生成し、熱伝導性を阻害する。また、金属シリコン粉末中のAl量は500ppm以下の高純度な金属シリコン粉末が好ましく、特に250ppm以下が好ましく、高熱伝導率化に有利である。
【0014】
また、金属シリコン粉末が窒化する際、窒化した窒化ケイ素粒子同士の焼結を防ぐために、骨材として窒化ケイ素粉末を添加する。骨材となる窒化ケイ素粉末は、低酸素、高比表面積、高純度であることが好ましく、添加量は金属シリコン粉末100重量部に対して5〜30重量部が好ましい。骨材の添加量が5重量部より少ないと、窒化ケイ素粒子同士の焼結が起こりやすく、かつ粗大な柱状粒子を形成するため、粉砕性が悪く、成形時の配向の原因となるため、熱伝導率が低下する。逆に30重量部より多いと酸素量が増加し焼結体の熱伝導率が低下する。
【0015】
金属シリコン粉末と骨材との混合方法は、両者を別々に粉砕してから混合してもよく、また粉砕と混合を同時に行うこともできる。また、いずれの場合においても、粉砕・混合時の不純物の混入、特にメディアの摩耗による不純物の混入と金属シリコンの酸化には充分留意すべきであり、特に高純度を必要とする場合には、窒化ケイ素製のメディアを使用し、非酸化性雰囲気下で粉砕・混合を行うことが好ましい。
【0016】
また、窒化ケイ素粒子の円形度の向上および低酸素化を促進するために蛍石(CaF2)を添加することが必要である。CaF2は金属シリコン粉末の表面にあるSiO2膜と反応して、SiO2膜を除去するため、新生なSi表面から発生するSi(g)が増加し、このSi(g)とN2が気−気反応することで固溶酸素量の少ない窒化ケイ素粉末が生成し、かつ窒化時の粒成長を抑制することで柱状粒子を低減できる。添加量としては、金属シリコン粉末100重量部に対して0.5〜5重量部である。好ましくは0.7〜4重量であり、更に好ましくは0.8〜3重量部である。5重量部より多いと、生成した窒化ケイ素中のCa分が増加するため、後工程での精製が必要となるためコスト面で不利である。0.5重量部以下では窒化反応が不安定となり、また窒化ケイ素中の酸素が増加する。CaF2は金属シリコンと混合しても良いし、容器の底部に必要量のCaF2を置いても良い。
【0017】
更に、本発明においては、金属シリコン粉末が気相反応により円滑に窒化反応をするのに必要な反応空間を確保するために、金属シリコン粉末と骨材窒化ケイ素粉末の集合体は、その緩め嵩密度を1.8g/cm3以下(気孔率で35%以上)の集合体として、反応炉に充填する。これ以外の集合体では、気−固反応が主体となるため、反応が大きな発熱を伴い暴走的に進みやすくなり、金属シリコン粉末原料が溶融したり、生成した窒化ケイ素粉末同士が焼結したりして、不純物の多い、粉砕性のよくない、大きな塊状の窒化ケイ素インゴットが生成し易いので好ましくない。
従って、金属シリコン粉末と骨材窒化ケイ素粉末の集合体は、窒化ケイ素または炭化ケイ素を主成分とする焼結体容器に自然充填(成形なし)することが好ましい。
【0018】
高β化率の窒化ケイ素粉末の製造においては、通常窒素および/またはアンモニア雰囲気中、または不活性ガスや水素ガス等と併用した雰囲気中で、急速昇温による窒化や高反応速度制御によるβ化の促進を行うが、急速昇温では、低温での窒化を抑制仕切れず高β化率を達成することができない。また、高反応速度では、シリコンの溶出や融着を誘発するとともに、粗大な粒子や柱状粒子を生成しやすい。そこで本発明においては、低温での窒化を抑制するため、1,300℃より低い温度領域では不活性ガスによる一部置換を行い、窒素ガス分圧が500hPa以下好ましくは、300hPa以下更に好ましくは150hPaに制御するのが好ましい。1,300℃に達した時点で、反応ガスである窒素ガス分圧を500hPa以上にすることで、高β化率の窒化ケイ素粉末が得られることを見いだした。1,300℃より高い温度まで不活性ガス中で昇温すると、金属シリコンの溶出や融着が顕著になり、1,300℃より低い温度から窒素ガス分圧を高くすると、生成した窒化ケイ素粉末の1次粒子の円形度が低く、また結晶相は低β化率となる。
【0019】
窒化に際しては、特に1300℃以上で完全窒化するまでの最大反応速度を7%/hr以下特に5%/hr以下にして窒化させることが好ましい。これ以上の反応速度になると、粗大な粒子や柱状粒子を形成しやすくなる。そのため、1,300℃からの窒素ガス分圧の上昇に際しては、最大反応速度が7%/hr以下となるように窒素ガスの濃度を制御する必要がある。
【0020】
窒化反応終了後、窒素ガスを流しながら室温まで冷却し、生成したインゴットを取り出す。インゴットは、ジョークラッシャーやロールクラッシャーなどにより粗粉砕される。 本発明の窒化ケイ素粉末は、このような粗粉砕窒化ケイ素粉末を更に微粉砕すること、または微粉砕された粉末を分級することで得ることができる。微粉砕機の様式については、大まかに乾式粉砕と湿式粉砕とに分けられる。乾式粉砕では、ボールミル、振動ミルまたは攪拌粉砕機等の媒体式粉砕機や、ジェットミル等の衝撃式粉砕機で粉砕することが必要となる。粉砕の際には、酸素量の増加に注意する必要があり、非酸化雰囲気下で粉砕することが好ましい。またメディアについては、鉄系ボールを使用する場合、粉砕後脱鉄を行い、また、セラミックス系のボールを使用する際は、Al量の少ないメディアを使用することが好ましい。更に分級においては乾式の気流分級機等を使用することができる。湿式粉砕では、窒化ケイ素粉末の粉砕が進みやすく、その結果、2次粒子がほぼ1次粒子になるまで粉砕されるため有利である。粉砕メディアとしては、セラミック系のボールまたは鉄系のボールを使用することができるが、乾式の場合と同様に、セラミックス系ボールでは、Al量の少ないメディアを使用し、鉄系のボールでは脱鉄やHClによる酸処理が必要となる。さらに酸素量を低減するため、HF処理を行うのが好ましい。
【0021】
【実施例】
実験例1〜6
Al量200ppmの高純度金属シリコン粉末を窒化ケイ素製ボールを用いた振動ミルにより粉砕し、平均粒子径を13μmとした。得られた金属シリコン粉末100重量部に骨材(電気化学工業株式会社製窒化ケイ素粉末:商品名「SN−P21FC」)10重量部、及び表1に示す添加量でCaF2を加え、振動ミルで粉砕・混合し、窒化ケイ素を主成分とする焼結体容器に嵩密度が0.8〜1.0g/cm3となるように自然充填し、バッチ式の反応炉に容器ごと充填し、窒化を行った。
【0022】
炉内の酸素濃度が500ppm以下になるように窒素ガス置換した後、昇温を開始し、窒化反応が開始しない500℃から不活性ガスであるアルゴンガスを導入し800℃までの間に窒素ガス分圧を500hPaとした。その後更に1,300℃になるまでアルゴンガスを導入しながら昇温し、1,300℃に達した時点で反応ガスである窒素ガスとアルゴンガスの混合ガスを導入し、窒素分圧が500hPa以上を維持しながら1,450℃まで昇温した。窒化の際には、最大反応速度が5%/hr以下になるように、窒素ガスとアルゴンガスの混合比を制御しながら窒化反応を行った。
【0023】
このようにして得られた窒化ケイ素インゴットをジョークラッシャーおよびロールクラッシャーにより粗砕した。
【0024】
粗砕した窒化ケイ素粉末を鉄系ボールを粉砕メディアとした湿式アトライターミル(容積5L)を用いて、窒化ケイ素量100重量部に対して水600重量部を添加し、粉砕ボール径3/16インチを用いて、24時間粉砕を行ったのち、スラリーを抜き出した。
【0025】
微粉砕を行ったスラリーに、330重量部のHClを加え1時間拌した後、50重量部のHFを加え更に1時間攪拌した。この際スラリーの温度が50〜80℃の範囲になるように、テフロンコーティングのヒーターにて加温した。その後、スラリーpHが4〜5になるまで水によるデカンテーションを行い、その後更に水による洗浄かつ吸引濾過を行った。
【0026】
次に、濾過した窒化ケイ素の集合体を150℃の乾燥機にて5hの乾燥を行い、乾燥した集合体をウレタン製のロールクラッシャーで粗砕した後、窒化ケイ素製ボールを粉砕メディアとした乾式のボールミルを用いて、解砕を行い、窒化ケイ素粉末を得た。
【0027】
実験例7〜9は、窒素/アルゴンの混合ガスを1100℃から導入し、窒素ガス分圧を1150℃から1000hPa前後を維持して窒化反応させた以外は、実験例1〜6と同様にして行った。実験例10、11は粉砕時間をそれぞれ8時間、48時間とした以外は実験例4と同様にして調整した。
【0028】
次に、得られた窒化ケイ素粉末のβ化率を測定した。β化率は、X線回折装置(理学電機社製Geiger Flex2013型)にて2θ=32゜〜38゜の範囲で測定し、X線回折チャートに記録した後、チャート上の35.2゜(α−窒化けい素[210]面)、34.5#(α−窒化けい素[102]面)、36.0゜(β−窒化けい素[210]面)及び、33.5゜(β−窒化けい素[101]面)の回折線から各々のピーク高さを測定し、次式により算出した。
β化率=(B+B')/(A+A'+B+B')×100 (%)
A…α−窒化けい素[210]面のピーク高さ(mm)→35.2゜
A'…α−窒化けい素[102]面のピーク高さ(mm)→34.5゜
B…β−窒化けい素[210]面のピーク高さ(mm)→36.0゜
B'…β−窒化けい素[101]面のピーク高さ(mm)→33.5゜
【0029】
酸素量は、窒化ケイ素粉末を助燃剤とともにグラファイトルツボに入れ、インパルス炉中で加熱し、生成したCOガスを赤外線吸収法により定量しを算出した。測定には酸素・窒素同時分析装置(HORIBA EMGA−2800)を用い、標準試料に(社)日本セラミックス協会の窒化けい素粉末JCRM R004を使用した。
【0030】
Al量は、窒化ケイ素を加圧酸分解後、ふっ化水素酸によりけい酸を揮発し残留物を酸に溶解させ、この溶液中のAlをICP−AESにより定量することで測定した。
【0031】
比表面積は、窒化ケイ素粉末の表面に吸着ガスと不活性キャリアガスとの混合ガスを吸着させて測定した。装置は湯浅アイオニクス社製カンターソーブを用いた。
【0032】
平均粒子径は、レーザー散乱式粒度測定計(LEDSandNORTHRUP社製マイクロトラックSPA7997型)により測定し求めた。
【0033】
窒化ケイ素粒子の円形度は、フロー式粒子像分析装置(東亞医用電子株式会社製FPIA−1000)にて測定した。また、測定に際しては、測定粒子数が1000個以上になるように、試料濃度を調整した。
【0034】
焼結体は、窒化ケイ素粉末92重量部、Y23粉末8重量部を混合し、得られた混合粉末65重量部に有機バインダー20重量部および水15重量部を加え湿式混合することでスラリー化し、12mmφ丸棒を押出成形した後乾燥し、窒素雰囲気下温度1900℃で8時間焼成することで得た。焼結体を押出方向と平行及び垂直方向に厚さ1mmの試片に切り出し熱伝導率測定試片を得た。熱伝導率については、窒化ケイ素焼結体をレーザーフラッシュ法にて測定した。表1に各実験によって得られた窒化ケイ素粉末の特性とそれぞれの粉末を用いて得られた焼結体の熱伝導率を示す。
表1において平行とは、押し出し方向に垂直に切り出したサンプルを用いて測定したもので、熱伝導の測定方向が押出し方向に平行な方向を測定したことを意味する。
【0035】
【表1】
Figure 0003827459
【0036】
【発明の効果】
本発明の窒化ケイ素粉末を用いれば、高熱伝導率で熱伝導性の異方性の少ない焼結体を得ることができる。また本発明の方法により該粉末を容易に得ることができる。

Claims (2)

  1. β化率50%以上、円形度0.80以上、酸素量0.5〜1.8%、比表面積8〜22m /gであることを特徴とする窒化ケイ素粉末。
  2. 蛍石(CaF)を0.5〜5重量%含有する金属シリコン粉を1300℃より低い温度では窒素分圧を500hPa以下で窒化反応をさせ、1300℃以上では500hPa以上で窒化反応をさせることを特徴とする窒化ケイ素の製造方法。
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